GATE 近未来日本国国防軍 彼の地にて斯く戦えり   作:国防アレキサンダー

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基本読みやすさを重視して一万文字を超えない様にしておりますが、今度からは増えるかもしれません。

2022/12/11
本日、この話を大規模改稿しました。


EP.07 特地突入、門の向こうへ

11月初頭

東京 国会議事堂

 

『当然の事ながら、門の向こうは地図に載っていません』

 

 時の首相、北条 重則。

 銀座事件から三ヶ月後に行われた国会演説にて、彼は力強く自身の考えを訴えかけた。

 

『門の向こうに何があるのか、どんな勢力がいるのか、その全てが謎に包まれています』

 

 事件の被害に遭わず、無傷で残った渋谷や新宿では、スマートフォンやホログラム看板によって彼の演説が流される。多くの国民が関心を持ち、しっかりとその演説を見据えていた。

 

『しかし、今回の事件で多くの武装集団を「逮捕」しました。今日の日本の刑法に則れば、彼らは軍勢ではなく犯罪者、テロリストにすぎません』

 

 一方の銀座では、事件の犠牲者を追悼する慰霊碑が建てられ、遺族が花を携えていた。献花台は既に花束で山積みとなり、事件の遺族は泣き止まなかった。

 

『よって、「門」を破壊しても解決策にはならないのです。また日本国内の何処かに「門」が現れるかもしれないと言う不安を抱えることになります』

 

 東京各所では二つの勢力のデモが発生した。門の向こう側へ報復をするべきだと言う勢力と、交渉し謝罪と賠償を獲得せよと言う勢力だ。

 

『そうならない為にも、我々は門の向こうの勢力を力ずくで交渉のテーブルに着かせなければなりません。例え現地で未知なる危険や、戦闘の可能性があったとしても!』

 

 諸外国も、彼の演説を見守っていた。ある国は利益を掠め取ろうと企み、またある国はその門を羨み嫉妬し、またある国は密かに計画を立てた。

 

『よって日本政府は、特別地域の調査と銀座事件首謀者の逮捕、補償獲得の強制執行の為、国防軍を派遣する事を決定しました!』

 

 これは二つの世界の物語。遥か未来の世界を繋ぐその門は、人々からこう呼ばれた。

 

──"ゲート"と。

 

 これは、その物語のIFである。

 

 

 

 

 

 

 

11月某日

日本国 銀座駐屯地

 

 銀座の周辺は国防陸軍によって陣地化され、門にはそれを覆い隠す様なドームが完成していた。周囲の建物は解体して軍事施設に、道路はフェンスやホログラムによって交通規制が敷かれている。

 世間はその様子を見て、「銀座が駐屯地になった」と比喩して茶化した。しかし茶化しはせども批判する声はない。かつてそこに住んでいた人々は、銀座事件で犠牲になっていたからである。

 その銀座駐屯地に、国防陸軍の兵器たちが集められた。多脚戦車や戦術機に始まり、装甲車や弾薬トラック、そしてその中に乗った兵士たちや戦術人形まで。

 いよいよ、特地突入の日が来たのだ。

 

「指揮官の狭間である!これより門への突入を開始する!突入にあたり、ドローンなどによる斥候は行われているが、未だ門の先の実体は不明である!ほぼ確実に、門を越えた先で戦闘が発生することを覚悟せよ!以上だ!」

 

 お偉い方の演説や激励が終わり、作戦行動の開始が宣言された。兵士たちが配置につき、軽装甲車などに乗り込む。

 さらには30式多脚戦車や32式多脚装甲戦闘車、各種戦術機を乗せた自走整備支援担架などの大型兵器も稼働を開始した。

 そして、門を覆うドームが開いた。先行するのは多脚戦車などの大型無人兵器達。門を抜けた先で即戦闘になる可能性を考慮し、頑丈な無人兵器を盾にするのだ。

 歩兵や戦術人形を乗せた装甲車は、その後から順に続いた。全員新型のエグゾスーツを装着して銃の安全装置を解除しているが、彼らの緊張は最高点だった。

 

「伊丹中尉……」

「ん?」

 

 装甲車の中で、倉田が心配そうな表情で伊丹に聞く。

 

「向こう側って、ケモ耳っ娘、居ますよね?」

「いないわけないだろ?」

 

 伊丹は彼の緊張をほぐすべく、ニッと笑って見せた。その間にも戦車部隊は速力を加速させていき、いよいよ門の内部にわずかな光が見えてきた。それを確認し、30式多脚戦車も門の内部で最高時速に達した。

 時速80kmの勢いのまま、彼らは門の向こう側へ出る。

 

『なんの音だ?』

『く、来るぞぉ!!』

 

 帝国兵の一人が叫ぶ。

 案の定、敵は待ち構えていた。門から出てきてすぐに数百体の怪物達が待ち構えており、囲い込んで包囲するつもりだったのだろう。

 だが最初に出てきた30式多脚戦車の威圧感、そしてその巨大さに恐怖した兵士たちの多くは腰が抜け、その場から背を向けて逃げ出した。

 30式多脚戦車は、情け容赦なく彼らに向かって突撃した。巡航モードのままであった為、ほとんど速度を失うことなく突入に成功する。

 その結果、屈強なはずのオークやゴブリンはドーザーの牙に突き刺さる形で次々と轢かれていく。腰を抜かした兵士たちはキャタピュラに引き裂かれ、散り散りに散っていく。

 

『な、なんだあれは!?』

『逃げろ!象の化け物だぁ!!』

 

 見たことのない兵器が怪異達を蹂躙していくのを見て、周りの兵士たちは恐怖して一目散に逃げ出した。

 それらを逃さず制圧するべく、30式多脚戦車は巡航モードから多脚モードに変形。ガトリングガンやRWSを掃射し、周辺の敵を次々と撃ち殺していく。

 命令通りの蹂躙だった。

 こうして、特地における派遣軍の最初の戦闘が幕を開けた。

 

「降車!降車!素早く展開しろ!!」

 

 先頭集団の30式多脚戦車に続き、後続から突破してきた32式歩兵戦闘車から、機械化歩兵部隊が素早く降車。各々の武器を構え、付近への展開を完了させた。

 その間も、30式多脚戦車の猛攻は続いていた。AIコアが判断した適当な目標に対して130mm電磁砲を放ち、朝焼けの丘に砲煙が立ち昇る。

 オークやトロルなどの硬い目標は、主に装甲戦闘車両が叩く。持ち前の主砲や機関砲、ガトリングガンなどを連射し、歩兵の脅威を少なくするべく怪異達を次々と殺していく。

 そして、人間の兵士や戦術人形が攻撃するのは主に人間の兵達であった。彼らは適度な緊張感の中で敵の掃討を続けている。

 エグゾスーツに身を包んだ歩兵で30式多脚戦車の周辺を固め、不意な敵の奇襲などから戦車を守っている。さらに戦術人形なども積極的に前に出し、銃撃で敵を蹴散らしていた。

 

「おらおらー!」

「戦車に近づくなー!」

 

 この戦いに参加した名も無き戦術人形達も、その圧倒的な戦闘力を持ってして敵の掃討を続けている。その火力に押され、敵の包囲陣形が崩れ始めていた。

 こちらは丘上から制圧しているので、その分だけ高所の優位が取れている。剣と剣同士の戦いならいざ知らず、射線が通りやすい高所を取れば残りの帝国兵は掃討されるだけである。

 

「ひぇぇぇぇ……」

 

 伊丹と同じ小隊に配備された倉田も、少し弱音を吐きながらも敵への射撃を続けていた。

 

「倉田クン、だいじょうぶー?」

「大丈夫っすけど、敵が多いっす!!」

 

 隣で轟音を鳴らしながら散弾銃を撒き散らす42式に話しかけられ、倉田は戸惑いながらもしっかりと応えた。それだけの余裕はあるようだ。

 

「新ソ連の目の前にある北海道でも、これだけの火力は初めてか?」

 

 伊丹が倉田に対し、余裕そうな表情で聞く。

 

「こんなの、第2師団の全力演習でも中々ありませんよ!」

「そりゃいい、ケモ耳娘に会えるまでの辛抱だと思えば楽だろ?」

「はい!」

 

 伊丹の冗談を受け、倉田も緊張が解れたのか射撃を再開した。

 

 

 

 

 

 

同時刻

アルヌスの丘 帝国軍本陣

 

 一方の帝国軍は、門の向こうからの総攻撃が始まったことを察知していた。

 アルノスの丘から数キロの位置にある帝国軍本陣では、古代から中世ヨーロッパのような風味を感じさせる兵隊が待機しており、丘の上の轟音を不安そうに聞いている。

 帝国遠征軍改め、帝国アルノス駐屯軍最高指揮者ドミトス・ファ・レルヌム将軍はその音を聞き、今回の攻撃が何度も繰り返されてきた敵の斥候ではない事を即座に察した。

 

「ついに始まったか……!」

 

 三ヶ月と言う少し長い月日が経っていたが、門の向こうの軍勢はついにこちら側への侵攻を開始したらしい。

 レムヌム将軍は銀座での敗北以来、指揮官を罷免されることはなかった。その幸運を手に、闘志をたぎらせてこの時を待っていた。

 まず門のこちら側に引き上げた多数の兵達を率い、軍団を再編成し、武器や食糧を備蓄させ、長い長いリベンジの時を待っていたのだ。

 

「報告します!ヴァルナド軍団、及びラドゥ軍団が敵尖兵と交戦!門の付近で戦闘が開始されました!」

「見ればわかる。それより戦況はどうか?」

 

 駆け込んできた伝令兵の言葉を受け流しつつ、レムヌム将軍は戦況の状態を聞いた。

 

「はっ、敵は戦象や蠍の怪異を盾に突破を図ろうとしているようで、各軍団が押され始めております!」

「ギンザで見たあのバケモノ共か……よし、こちらもオーク共を繰り出せ。それから竜騎士を離陸させ、空から圧力を加えるのだ!」

「はっ!」

 

 その報告を手に、伝令兵は再び走り出した。それを見送り、レムヌム将軍も戦闘用馬車に乗り込んだ。

 

「我々も行くぞ。所定の手筈通り、こちらは敵を門の向こうに押し返す。煙幕魔法を炊け、包囲殲滅戦だ!」

「はっ」

 

 レムヌム将軍はそう命令すると、ゴダセンをはじめとした従軍魔導士達が動き始めた。精霊魔法を使って風を止め、平原の真ん中で狙われないべく煙幕魔法を焚き始めた。

 そして、レムヌムは敵が出現したアルヌスの丘を見据える。

 

「奴らにアルノスの地は似合わん。お帰り願おうじゃないか」

 

 レムヌム将軍自身も、新調された鎧と兜に着替え、敵を待ち構える。こうして、レムヌム将軍のリベンジマッチが開始された。

 

 

 

 

 

 

同時刻

アルヌスの丘

 

 アルヌスの丘周辺は、戦車部隊と装甲車部隊の圧倒的火力優勢により、ほとんどが制圧されていた。

 丘の上に立つ門、その周辺にオークやトロルなどの死骸が転がる中、30式多脚戦車はその四脚を用いて器用に立ち、その駒を少しずつ帝国軍本隊の方へ進めていた。

 しばらくすると、国防軍の方でも本隊が到着したのか本部管理中隊の36式指揮戦闘車が突入してきた。すでに周辺は制圧されており、邪魔にならないよう指揮戦闘車は門の端の方に移動した。

 

「中将、丘の周辺はすでに制圧済みです」

「このまま戦車部隊を前に進めろ。後続が詰まってる」

 

 36式指揮戦闘車に搭乗している狭間中将の命令を受け、30式多脚戦車の部隊がその駒を丘の中腹あたりに展開させる。

 後続にはまだ戦術機用自走担架などの重装備が残っているため、丘周辺の制圧と部隊の再配置を急がせる。

 

「上空!飛竜種多数接近!」

「自走高射砲を前に出せ」

 

 指揮戦闘車のレーダーが高速でこちらに接近する飛竜を捉えた。狭間中将の対応命令により、自走高射機関砲の車両達が前進し始める。

 32式多脚装甲戦闘車の車体を流用した自走対空砲、32式自走高射機関砲には、36mmガトリング砲が1門とミサイル8発が搭載されている。主に至近距離での高い防空能力を有し、戦車や装甲車を敵の航空戦力から守るのが役割だ。

 今回は飛竜が現れるまでその砲身を地上の敵に向けていたが、命令を受け取るとすぐに上空に目標を変更。上空から接近する竜騎士に向け、六砲身ガトリングを回転させた。

 

「攻撃開始」

 

 自走高射砲から火力が噴き出し、弾丸は真っ直ぐ飛龍に向かう。地上から攻撃を受けるとは思っていなかった飛竜達は、回避する暇もなくやったり飛行していた為、そのまま36mmガトリング機関砲の大口径弾丸を受ける。

 飛竜の右半身が粉々に打ち砕かれ、騎乗する竜騎士までその弾丸の勢いで血飛沫と化す。揚力を失った飛竜は、錐揉み回転するように墜落していく。

 それを見た僚騎は危機を察知したのか、射線を回避しようとするも、AIによる自動照準からは逃れられずまた撃墜される。

 

「効果あり、上空クリア!」

「周辺の掃討を続けろ」

 

 狭間中将は冷静に状況を見据え、的確な指示を続ける。オペレーターもそれに応え、素早くキーボードを操作し思考戦車らに命令を送る。

 

「中将、丘の周囲に煙幕が焚かれています。このままでは、丘全体が煙に包まれ視界が取れなくなります」

「煙幕か、風などはないのか?」

「原因は不明ですが、風は完全に治まっています」

 

 狭間中将は敵が煙幕を焚いてくることを知っていた。理由や原理などは不明だが、風が止んだ状況と合わせ、"魔法"と呼ばれる超常現象を使っているのかもしれない。

 

「よし、なら戦術機部隊の搬入を急がせろ」

「戦術機、ですか?」

「ああ、考えがある」

 

 そう言って狭間中将は、これから出し抜かれるであろう敵に対してニヤリと笑ってみせた。

 

 

 

 

 

 

同時刻

アルヌスの丘 帝国軍本陣

 

 一方の帝国軍では、次々と上がってくる悪い戦況報告に頭を悩ませていた。しかもあまりに敵の突破速度が速く、丘の周辺が敵の手に落ちてしまう。

 レムヌムもその敵に対応しようとしたが、本陣から味方に伝令を伝えるより早く状況が悪くなるので、まるで戦えなかった。

 

「大変です!第二竜騎兵大隊が全滅しました!」

「報告!第五軍団が敵の魔導攻撃を受けています!全滅必須です!」

 

 部下達が叫ぶ報告を聞き、将軍達が怒鳴る。

 

「くそっ、竜騎兵を下がらせろ!今すぐだ!」

「敵の進軍が早すぎる!あの魔導攻撃はなんだ!?」

「落ち着かんかお前ら!それより、煙幕は!?」

 

 レムヌムは狼狽する将軍達を宥め、ゴダセン魔導師総監に煙幕魔法の状況を聞いた。

 

「丘の周辺にはだいぶ浸透しました、これなら敵の魔導攻撃も突破できます!」

「よろしい、丘の左右から騎兵部隊を浸透させろ。敵が混乱しているうちに正面から包囲する!」

 

 レムヌムの命令が伝達されると、騎兵達がその機動力を持ってして一気に丘を駆け上がり、敵を左右から挟み込もうとする。

 それを見て、丘の兵士たちも前進を開始した。レムヌムの思惑通り、敵は煙幕に遮られ視界が取れなくなっているのか、これ以上飛礫は飛んでこなかった。

 

 前線では、歩兵達がジリジリと丘の上を登っている。

 アルヌスの丘はそこまで起伏の激しい地形ではないが、それでも重装備を背負っての丘登りはそれなりにキツかった。

 だが精霊魔法にも限界時間がある中、煙が晴れる前に丘の上に突入していく必要があった為、急いで登っている。

 

「急げぇ!進めぇ!丘の敵を押し返すのだ!!」

 

 兵士たちは銀座での戦闘を経ている兵士がほとんどだが、神聖なアルヌスの丘に敵が攻め込んできた事で逆襲の勢いが付いていた。

 ここで敗北すれば、敵は自分たちの故郷の村々を襲って虐殺の限りを尽くすだろう、と。自分たちがそう言うことをやって来た手前、敵に対してそのような先入観があるのだ。だから、彼らは戦うのである。

 

「げほっ、げほっ、煙たくて敵わないぜ……」

「構うな、前だけ見るんだ、進み続けろ!」

 

 兵長が士気を鼓舞し、兵士たちを奮い立たせて丘の上まで登ろうとする。

 

「あと少しで……!」

 

 あと少しで煙幕地帯を抜け、丘の中腹に入れる。そうなれば投げ槍や弓の間合いに入れ、敵に対して同等に戦えるだろう。

 という、その時だった。

 突如、丘の中腹あたりから甲高い悲鳴のような音が聞こえ、同時に強烈な風が吹き始めた。

 

「っ!なんだこれは!」

「え、煙幕が!!」

 

 その強烈な風により、丘の中腹に焚かれていた煙幕は全て吹き飛ばされ、そして虚空に消えていった。

 こんな強烈な風魔法は、彼らの常識では見たことがなかった。さらに、同じような現象は他の戦線でも起きているようであり、丘の煙幕が全て晴れてしまう。

 煙幕が晴れたのち、兵士たちは恐る恐る前を見上げた。するとそこには、巨大な二足の足が直立し、ナニカが仁王立ちしていた。

 

「あれは……!」

 

 忘れるはずもない。銀座にて散々自分たちを蹴散らして来た、鎧の巨人だった。

 美しい石像の如きその威容に反し、その目は淡い緑色に光り、こちらを見据えていた。その途端、兵士たちは恐怖で固まってしまう。

 

「くそっ!敵の怪異だ!逃げろぉ!!」

 

 兵士の一人が叫ぶその途端、巨人こと戦術機は手に保持した36mm突撃砲を構え、地上への掃討を開始した。

 連続する破裂音が、煙幕が晴れ視界がクリアになった丘の中腹の全てを粉々に打ち砕いていく。弾丸は地上の帝国兵達に降り注ぎ、次々と殺され、蹴散らされていく。

 

「な、ななな、なんなんだこいつはぁ!?」

 

 突然現れた巨人、それらが持つ弩弓の飛礫により味方達が次々と殺され、吹き飛ばされていく。

 一度策が破られれば、帝国兵に組織的抵抗力はなくなり、ほとんど敗走状態となって逃げ出していく。

 

 煙幕が晴れた様子は、帝国軍の本陣からでも確認できていた。巨人が作り出した風が、本陣にまで微風となって届いたのである。

 

「か、風魔法だと……!」

 

 その様子を見ていたレムヌム将軍は、中腹あたりに広がっていた煙幕全てが晴れてしまった状況に驚き、言葉が出なかった。

 

「あの巨人達です!巨人達が風魔法を……!」

「そんなの見ればわかる!だが、怪異が魔法を使うだなどと!」

 

 レムヌム以外の将軍達も、言葉を失って大きく狼狽していた。だが冷静さを取り戻したレムヌム将軍は、すぐさま新しい命令を出す。

 

「くそっ、一旦兵を後退させろ!敵が降りてくるぞ!!」

 

 だが新しい命令を出そうとしたその時、陣地の方で爆発が起こる。

 

「うわっ!?」

「なんだ!?」

 

 それは国防軍が搬入した自走榴弾砲の砲撃であった。やっと射程の長い兵器が搬入された事により、彼らの本陣も狙われることとなる。

 

「敵の魔法は……ここまで届くのか!?」

「何をしてる、後退だ!本陣も後退する!兵も急いで撤収させろ!」

「は、はいっ!!」

 

 レムヌム将軍の撤退命令を合図に、兵士たちに対して伝令が駆け出す。しかしこの魔法攻撃の中、伝令兵は広い戦場を駆け抜けるにはリスクがあった。

 案の定、いくつかの伝令兵は爆発によって吹き飛ばされ、命令が伝達する前に連絡網が途絶えてしまった。その間にも、国防軍の部隊は前進を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

同日同時刻

アルヌスの丘 日本国国防軍

 

 狭間が提唱したのは、戦術機の跳躍ユニットを用いた水平噴射により、煙幕を吹き飛ばすと言う作戦だった。

 

「煙幕晴れました!視界はクリア!」

「よし、戦術機機甲連隊を前衛に部隊を前進させろ。特科による砲撃も開始だ」

 

 その作戦の結果、敵が焚いていた煙幕の多くは吹き飛ばされ、視界がクリアになった。

 それを合図とし、前に出ていた戦術機を先頭に、部隊の前進が開始される。さらに後方には155mm自走榴弾砲の部隊が展開し、敵の本陣に向け砲撃を開始する。

 

「だんちゃーく、今!」

 

 国防軍の伝統の掛け声と共に、敵の本陣に対して砲弾が降り注ぐ。ドローンで観測された目標にそれが命中し、周りの兵士たちがパニックになるのが見て取れた。

 

「恨むなよ……」

 

 狭間はボソリと、周りに聞こえないような音量で一言だけ言った。

 圧倒的火力によって捩じ伏せられる敵を見ながら、敵に対する同情は存在しない。彼らは銀座で好き勝手暴れ、民間人を虐殺した敵である。今更敗走しても、同情などカケラもなかった。

 

 一方の前線でも、兵士たちが敵の掃討を完了させつつあった。伊丹と42式も戦車の影に身を隠しながら、砲撃によって空いた穴などに隠れる敵を撃ち殺していた。

 ふと横を見ると、倉田が遮蔽物のない場所で立ちながら射撃をしているのが確認された。身を晒していて危なっかしいので、急いで声をかける。

 

「倉田、カブトムシ(30式多脚戦車)を盾にしろ!こっちに来い!!」

「は、はい!」

 

 戦車の影に身を隠す伊丹に倣い、倉田は急いで駆け出し伊丹のいる30式多脚戦車の車体後部に隠れた。

 

「おかえりー、ここは安全でしょー?」

「あ、ありがとうございます……」

 

 多脚戦車の陰から42式が縦を繰り出し、敵からの矢や投げ槍などを警戒して立っている。

 

「よし、戦車を援護しながら前進する。全員、伏兵に注意しろ!」

「はいっ!」

 

 緊張から少し上擦った倉田の声を聞きながら、伊丹は30式多脚戦車の脚部を盾に少しずつ前進を再開した。

 30式多脚戦車の方も、AIが周囲に歩兵がいることを理解しているのか、盾になるように姿勢を低くしながら少しずつ歩いている。その歩行に巻き込まれないよう注意を払いつつ、伊丹と倉田は戦車を援護する。

 二人が周辺に注意を払う中、目線から外れた岩の影から、突然に巨大な火球が放物線を描いて飛んできた。

 

「っ!伏せろ!!」

 

 伊丹はその方向に銃を向けるが少し遅く、伊丹達は伏せることでそれを防ごうとする。

 幸いにも火球は30式多脚戦車を狙っていたのか、ほとんどの火の粉は戦車の固い装甲板に防がれ、周囲にはほとんどダメージを与えなかった。

 

「全員、だいじょうぶー?」

「42式、その岩を丸ごと吹き飛ばせ!」

「りょーかい!」

 

 42式が復唱を受けると、彼女は手持ちの自動散弾銃を構えてフルオート射撃を開始した。多数の散弾により、岩が段々と崩れて粉々に小さくなっていく。

 そして、その向こう側にいる敵兵が耐えられなったのか、二人の人間が両手を上げて飛び出して来た。一人は歩兵で、もう一人はローブを被っている。

 

『殺さないでくれ!頼む!』

『俺たちは武器を持ってない!!』

 

 伊丹が降伏させようと言葉を発しようとしたその時、隣の戦車に隠れていた別の兵士がその敵に対して発砲した。

 

「お、おい!」

 

 伊丹が止めるのも間も無く、二人の敵は弾丸に撃ち抜かれ、仰向けのもの言わぬ死体となった。

 

「アイツら、なんて言ってたんだ?」

「"ママ、ご飯の前に手を洗ったよ!"ってさ」

「ハッ、違げえねぇ」

 

 その様子を伊丹は止めることができず、仕方なく冷めた目で見るしかなかった。

 

「い、伊丹隊長……」

「言うな。軍隊には少なからず、ああいう奴らがいる」

 

 42式も冷ややかな目で見ていたが、彼女も口を出すことはなかった。

 彼らのワッペンを見れば、その所属部隊が首都第1師団であることが見て取れたからだ。復讐に燃える軍人は、どんな場所でもいくつか居るだろう、と。




・32式多脚装甲戦闘車
 4対8本の脚部で機動する装甲戦闘車両。愛称で"クワガタムシ"とも言われ、長い前腕部が特徴。
 乗員は歩兵8人、武装は連装36mm機関砲砲塔一基。車体はコンポーネント化されており、外部装備を追加して装甲強化外骨格を搭載したⅡ型、105mm砲を搭載した機動戦闘車、120mm迫撃砲を搭載した自走迫撃砲、36mmガトリングを搭載した自走高射機関砲など、バリエーションが非常に豊富。
 本作オリジナルの装甲車。

オリ戦術人形達の挿絵は欲しい?

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