FGO世界に転生した一般オリ主くんが生き残るためにリアルガチチャートを組んでRTAを走るお話   作:ペットボトル羊

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 アーチャーニキは描写なく負けました。
(サーヴァント)三人に勝てるわけないだろ……!


はじまり

 辺りに、禍々しい魔力が満ちている。

 特異点F──炎上汚染都市は、神代かと見紛う程の魔力濃度で満ちていたが、()()()は殊更に異常だった。

 

 円蔵山地下の大空洞『龍洞』。

 それは、とある世界で行われた()()のシステムを司るモノ。超抜級の魔術炉心。

 

──大聖杯。

 稀代の魔術師(天才)たちが創造した──根源の渦に至るための装置。

 

 ソレの目前に、何物も寄せ付けんと人の形をした“竜”が立っていた。

 

「─────ほう」

 

 本来は、星のように輝いていたであろう金色の髪は褪せ、気高い獅子を想起させた碧眼は、全てを飲み込まんとする昏い“黄金”へと堕ちていた。その病的なまでに白い肌には生気などまるで感じず、装着している漆黒の甲冑と合わさって、正しく悪鬼のようだ。

 

「面白い人間と、サーヴァントがいるな」

 

 竜が、この地──特異点を修復せんと来た漂流者たちを真正面から見据える。

 

「特にそこのサーヴァント──その宝具は面白い」

 

 圧倒的なまでの生命──存在の威が盾の少女──マシュに集中する。

 マシュは、肉体(からだ)を恐怖で震わせながらも──しかし彼女の先輩(マスター)が寄り添うことで、折れることはなかった。

 

「構えるがいい、名も知れぬ娘。その守りが真実かどうか──この剣で確かめてやろう!」

 

 そして、竜が、杖のように大地に突き刺していた──属性が反転した、最強の聖剣を頭上に掲げる。

 

──膨大な魔力が、剣に収束し────(呪い)へ変換された。

 

「マシュ、みんなを守って!」

 

 そのあらゆるものを飲み干すだろう力の奔流の前でも、漂流者──カルデアは退かない、退くわけにはいかない。

 

「──みんな、作戦通りに」

 

「光を呑め──『約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)』────!」

 

 呪いが、振り下ろされた。

 土を抉り、融解させるソレ。

 それを直接目の当たりにしても、少女は己の信念(宝具)を構える。

 

「宝具、展開します…………!」

 

「『疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)』──!」

 

 少女の目の前に展開された巨大な結界が、極光を受け止める。

 彼女の宝具は、竜と相性がいい。恐らく、本来の担い手であれば、受け止めるどころか押し返すことも可能だっただろう。

 

 だが彼女はそうではない。

 

 例え(宝具)が砕けることがなくても、それを支える者が、地を踏み締め耐えることができなければ意味がない。

 故に少女の先輩(マスター)が、彼女を支える。彼女を鼓舞し、奮い立たせるのだ。

 

「──ほう、中々にやる」

 

 竜が、息を漏らす。

 瞬間、爆発的な魔力が()()から生成された。

 それを瞬時に制御し、剣へ向け、呪いを束ねる。

 

「一度だけなら、幸運(まぐれ)があり得る──そら、もう一度だ」

 

 竜は、もう一度呪いを吐き出そうとして────横に、白い女が立っていた。

 

「──ッ! ハアッ!!」

 

 直感のままに、白い女へ呪いを叩きつける。莫大な怨嗟が竜の目の前を灼いた。類を見ない程の広さをほこる龍洞とはいえ、洞窟であることには変わらない。このまま竜の暴威が続けば、天井が崩落し、生き埋めになるだろう。

 だが竜に躊躇いなどない。聖杯を守り通せば、それで構わないのだ。

 

──よって、カルデアは短期決戦に臨まなければならない。

 

 盾の少女の背後にいる魔術師の一人である青年──タナカは、自らのサーヴァントである白い女(セイバー)と竜の激突を観察する。

 

(分かっていたが──“縮地”ってほんと便利だな)

 

 竜の暴威は、白い女を灼くことはなかった。

 女は、先程まで立っていた場所の反対方向──つまり、聖剣を振り抜いた竜の背後に立っていた。

 

「ふ──」

 

 女が、その直死の瞳で、『線』が密集した極点へ、日本刀の切っ先を差し出すが──竜は、反動をものともせず反応した。鋭く上体を反らし、日本刀の切っ先に正確無比に剣の刃を合わせる。

 本来、無理な体勢だったとはいえ、竜は『筋力A』という破格の力を持っている。対して、女は『筋力E』という最低ランクだ。しかし、拮抗するはずがない衝突は、予想に反して辺りに破壊を撒き散らしながらも止まる。

 

「──これは」

 

 竜が、驚愕する。

 

「ごめんなさいね、貴女の聖剣()、私の刀よりも古いみたいだから──ズルさせてもらうわ」

 

 女の刀に可視化できる程の魔力が纏われている。

 即ち────

 

「───嘘だろ!? スキルの任意取得!?」

 

 観察していたタナカが、急激に吸われた魔力による倦怠感を気にせず叫ぶ。そんなことが気にならない程、反則的な技だったからだ。

 

──スキル。

 サーヴァントが有する様々な技能や性質を特殊能力として具現化したもの。

 それは、()()()()増減しないものだ。それこそ、聖杯でも使わない限り不可能だろう。

 

 不可能(それ)を何の予兆も、道具もなく成功させている。

 

(キャスニキとの戦闘で、「両儀式」が彼と並ぶ技の冴えを持っていることはわかっていたが──あんなことも、できたのか……根源接続者何でもありすぎだろ)

 

 タナカが、女の出鱈目さに何度目か分からない呆れを顔に浮かべる。

 

───今の彼は知る由もないが、勿論女──「両儀式」にも制限が存在する。

 今の「両儀式」はサーヴァントだ。

 彼女の()()()()()は、根源に接続していたため──その霊基、存在規格は根源と同等だった。だが、今の霊基はサーヴァントのソレである。つまり、彼女は生前より身体能力は向上したが、存在規模は小さくなった。

 加えて、サーヴァントの鉄則にも縛られるので、「両儀式」は生前──実は死んではいないのだが──よりも相対的に弱体化している。

 具体的には、彼女が「魔法」級の奇跡を起こそうとすると強制退去されるだろう。

 

(オルタと拮抗しているから、今は『筋力A』相当──『魔力放出A』以上を獲得したか)

 

 更に、スキルの任意取得にも制限がある。

 先ほど述べた通り「両儀式」の今の霊基はサーヴァントの規格だ。故に、スキルをポンポン取得すると容量を越え、霊基が崩壊するだろう。

 それと、スキルには普遍的なものと条件付きのもの、そして唯一無二なものがある。基本的に、彼女が取得できるスキルは普遍的なものだけだ。

 

 まあ、これだけ制限があっても「両儀式」の力は破格であるが。

 

(正直、彼女には縮地で逃げながらチクチク嫌がらせしてくれるだけでよかったから──これなら作戦が成功しなくても押し切れそうだな)

 

「計算外だが──やることは変わらない」

 

 タナカは何処からか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 彼は、両手を猫の手のように丸め、指の間でそれを挟む。側から見れば、鉤爪に見えなくもない。

 そして、柄に魔力を込めることで()()()()()()()()

 

「そぉら───」

 

 途端に刃渡り80センチ程度の刃が現れる。その十字架のような剣を、独特な方法で握るその姿は──代行者に、よく似ていた。

 タナカは教わった通りに肉体を操る。

 脱力し、筋肉の緊張を解き──拡散されている力を、一箇所に集めた。

 

「──喰らえッ!」

 

──鉄甲作用、と呼ばれる()()()()に伝わる投擲技術がある。

 それは、一般的な代行者の持つ十字架のような剣──黒鍵の投擲威力を、数十倍に跳ね上げる技術だ。

 埋葬機関第七位「弓」の異名を持つ代行者が好んで使う技だが──タナカのソレは、()()に迫る威力だった。

 

「──チッ」

 

 大砲と遜色のない威力の投擲剣だが──竜の()を傷つけることはできても、貫くことはできない。竜からしたら、それは関心を引くものではない筈だった。

 しかし、竜は女との鍔迫り合いを自ら止め、背後に跳躍することで黒鍵を避ける。その黄金の瞳は細められていて、投擲者に向いていた。

 

「逃がすか──!」

 

 黒鍵が雨のように竜に降り注ぐ。

 竜は、女に意識を割きながらも最小限の動作で黒鍵を躱していく。

 

「──ふむ」

 

───鬱陶しいな。

 

(だが、どうする。一本一本は大したことがないが、当たれば片時()()()()だろう。その一瞬を、女剣士(セイバー)が逃すとは思えん。かといって、投擲剣を我が剣で薙ぎ払っても、その間隙を突かれるだけだ。()も尽きる様子はない。ならば──)

 

 竜の剣が、呪いを帯びる。

 そして、竜は剣を宙に振るった。

 

「────」

 

 膨大な熱量が拡散され、降り注いでいた黒鍵が全て蒸発する。

 だが、竜は反動で無防備になっていた。

 竜には、魔力放出で無理矢理全身を動かす方法が存在するが──それは、一度観られている。二度は通じない。

 

「──そこね」

 

 女が、()()()()()竜に迫った。

 彼女の瞳が、竜の極点を捉える。そして、彼女の日本刀が鈍く輝きながら竜の極点へ突き出され──

──()()()()()()()()()

 

「──やればできるものだな」

 

──絡繰は簡単だった。

 単純に、魔力放出を全身ではなく、一部だけ放出することで、隠密性を上げたのである。

 お陰で、竜の右腕はズタボロだが──どうせ治るのなら、問題はない。

 

「くっ──」

 

 女が初めて焦燥を浮かべる。

 彼女の刀は、竜の手甲を貫いているが、極点には届いていない。

 つまり──

 

「────捕らえたぞ」

 

 竜の左手が握っている剣が、絶大な呪いを纏った。唯の魔力放出ではなく、真名解放を行うつもりだ。

 本来、竜の剣の真名解放は、両手で握らなければ狙いが定まらないが────この距離(至近距離)なら、関係ない。

 女には、防御スキル、宝具もない。よって、この極光を防げるわけがなく。刀を引き抜こうとするが、竜の渾身の筋力、魔力で阻まれている。

 

 そして、竜が剣を──

 

「──なんてね?」

 

 女が悪戯が成功したような笑みを浮かべている。

 竜の直感が警鐘を鳴らすが、剣はすでに振り抜こうとしている。今更魔力放出したところで止めることはできない。

 竜の体感時間が何倍にも伸ばされる。何故だ。何故笑っている。女には防ぐ手段がないというのに、肉塊どころか、灰すら残さない呪いの前で、微笑んでいる。

 

「──なッ!?」

 

 民を苦しめる暴君の竜が、目を見開き信じられないと愕然とした。

 何故か。

──()()()()()()()()()()()

 中途半端な状態で停止したので、竜の剣の呪いも霧散していく。

 己の意志で止めたわけではない。これは────?

 

「──まさか」

 

 気づく。

 竜の周囲に突き刺さっている黒鍵が光っている。

 竜は、視線だけを、このような()()を仕出かした張本人に向けた。

 

「私は識っている。

 我が智慧を逃れ得る者は一人もいない。

 我が叡智に勝る者は一人もいない。」

 

 

 タナカが、目を閉じて、右掌を竜に向け詠唱する。

 

 

「秘めることなかれ。

 背けることなかれ。

 恐れることなかれ。」

 

 黒鍵の光が増していく。同時に、何かに()()()()感覚を竜は感じた。

 

「ぐ──!」

 

 ある一定の法則(ルール)で突き刺さっている黒鍵一つ一つから、魔法陣が現れ──巨大な魔法陣になる。

 

「誓いを此処に。

 私は歩み続ける。

 私は欺き続ける。

 私は止まることはない。

 “主の御名において汝の真名()を白日の下に晒そう────『()()()()』”」

 

 竜が、あまりの圧力に耐えきれず、膝をつく。

 

(全く動くことができない……!)

 

 このままでは、竜は女に討ち取られる。

 

(まだだ──聖杯からの魔力供給を増やし、霊基を自壊させてでも────)

 

「──っ?」

 

 女が魔法陣の外にいる。

 

──────“何故だ、()()()()()()()()()()()()()()。マシュという少女は守護、前方の女剣士は攻撃。女剣士が止めを刺さなければ、この秘蹟の効果が薄まった刹那、私は容赦なく──”

 

「───全く、」

 

 この広々とした洞窟に、男の声が木霊した。

 

「いいとこ取りになっちまうが────仕方ねェッッ!!」

 

 竜が降り立っている大地から、巨大な火柱が上がる。

 ()を貫通し、内臓、霊核すら灼き尽くさんとするその炎は────!

 

()()()()()、貴様っ、生きていたのか………ッ!」

 

 蒼い外套を揺らめかせ、アイルランドの光の御子が現れる。

 

「おいおい、誰が死んだって言ったんだ───? さあ、焼き尽くせ木々の巨人。『灼き尽くす炎の檻(ウィッカー・マン)』ッ!!」

 

 魔力を蓄えていたのか、瞬時に宝具が展開される。

 燃え盛る火炎と共に、無数の枝で構成された巨人が出現した。

 それが帯びる魔力、盾の少女に使ったソレとは比にならない規模だった。いくら竜といえども、直撃したら──終わりだ。

 

「ぐっ、ああああ───ッッ!!」

 

 竜が咆哮を上げ、逃れようとするが──

 

「じゃあな、セイバー。──つまんねぇゲームの終演(終わり)だ」

 

──巨人が、その炎を纏った足で────竜を踏み潰した。

 

 

 

 

 

 

 

 

####

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒い騎士王が、地べたに仰向けに倒れている。

 彼女からは、竜と見紛うほどの、あらゆるものを圧殺するような気配は感じない。

 勝ったのだ。

 

 安心から、力が抜けて土にへたり込もうとする。

 

「おっと」

 

 タナカくんが、私を支えてくれた。

 それによって、彼の顔が視界に映ったけど──彼も、安堵していた。

 

「────フ。知らず、私も力が緩んでいたらしい」

 

 黒い騎士王が、しゃべり始めた。

 どういう意味を持つのかてんで分からなかったけど──一つだけ、言えることがある。

 

 この人絶対負けず嫌いだ。

 

「グランドオーダー──聖杯を巡る戦いは、まだ始まったばかりだという事をな」

 

 黒い騎士王が、意味深な言葉を残して退去しようとしている。

………グランドオーダー? 聞いたことがない。取り敢えず、危険もなくなったので隣のタナカくんにどういう意味か尋ねようとして──

 

「──そこの、魔術師(人間)

 

 黒い騎士王の冷たい眼差しが───タナカくんを射抜く。

 

()()()()()()()()()()()()()──導き手よ」

「──っ?」

 

 タナカくんが困惑している。彼は、黒い騎士王に始めて会ったときも、“面白い人間”だと言われていたけど──導き手?

 

「それは、どういう──」

 

 彼は、黒い騎士王の真意を知るために、問いただそうとして────彼女は消えていった。

………何だろう。言いたいことだけ言って消えていった感じだ。

 

「何だアイツ、言いたいことだけ言って退去しやがった──お? 強制帰還か」

 

 私と同じことを考えていたキャスターも、光に包まれ始めた。

 強制帰還。文字通りの意味ならば、彼は『座』とやらに帰ってしまうのだろうか。

 

「──はぁ、共闘、感謝します。クー・フーリンさん」

 

 タナカくんが落ち着かせるように息を吐いて──キャスターに向き直り、感謝を述べた。

 

「おう、構わないぜ。──というか坊主、あんなの使えたら言えよ」

 

 キャスターは、彼の感謝を受け取った後、微妙に不満そうにしていた。

 

 確かに。

 タナカくんが提案した作戦は、あんなかっこいい魔術を使うことを組み込んでいなかったのに。というか、あの十字架っぽい剣の威力おかしくない? 余裕で地面に刺さってたんだけど。

 

「そうよ、タナカ! というかどうして教会の秘蹟を……! あぁ……バレたら絶対やばいぃ、何て言い訳したら………!」

『そうだよタナカ君! 聖堂教会と魔術協会の仲の悪さは知ってるだろ!?』

 

 オルガマリーとドクターが目に見えて慌てている。

 

……え?

 なんかすごくやばいらしい。

 

「すみません、緊急事態だったんで──それと、あの結界モドキは実戦投入したことがなかったんですよ。不確定すぎるので作戦の要にはしたくなかったんです」

 

────タナカくんの考えた作戦は単純だった。

・マシュが騎士王から私たちを守る。

・両儀式さんが騎士王と戦う。倒せるなら倒してもいい。

・キャスターは、隠れて機をうかがって、大きな隙ができた時に最大威力を叩き込む。

 

 この三つだ。

 私たち人間は出来ることをやるというアバウトさだった。

 何でこんなに適当なんだろう。両儀式さんを召喚した後に言っていたように、確実に勝てるように綿密な策でも考えるのかと思っていたのに。

 

「十割勝てるようにするには余程の力の差や、入念な準備がいるからね……、まぁ、この話はおいおい」

 

 タナカくんは、私の疑問を一旦隅に置いて──キャスターを見た。

 

「それで、オレの提案を受けてくださいますか?」

 

──提案。

 タナカくんは、この戦いの前に、キャスターにある提案を持ちかけていた。

 

────クー・フーリンさん。

 

────あ? どした、坊主。

 

────この特異点を修復したら、カルデアで戦いませんか?

 

 確かこんな感じの会話だった。

 キャスターは、目の前の問題(こと)が終わってから答えると言っていたから、彼の返答次第では、カルデアで共に戦ってくれる。

 

──やっぱり、まだ先があるんだ。

 散々匂わせていたけど、特異点を解決したら終わりじゃないらしい。少し不安だけど、マシュと、オルガマリーと、ドクターと、カルデアの人たちと──タナカくんと一緒なら、なんとかなりそうだ。

 

「あー……、悪ぃな、坊主」

 

 キャスターが、頭を掻きながら申し訳なさそうに提案を蹴った。

 

「そうですか…………、やはり、大神が関係していて?」

 

 タナカくんが少し、いやけっこうショック受けてる。というか、大神ってなに?

 

「やっぱ知ってたか。ま、オレから言えることはない」

 

 キャスターがカラカラと笑いながら、タナカくんの背をバシバシ叩く。

 彼は、微妙に痛そうにしていたが、困ったように笑うだけで何も言わない。なんか凄く通じ合っている。

 

 やがて、満足したのかキャスターがタナカくんから離れて、私を見た。

 

「盾の嬢ちゃんのマスター──立香、才能あるぜ」

 

 才能?

 私の何処に才能があるのだろうか。さっきの戦いも、作戦を立案したり、投擲をしたりすることもできなかったのに。……これ全部タナカくんだ。私とオルガマリー、マシュの背後に隠れてただけなんだけど。いや、オルガマリーはマシュを強化していたけどさ。

 

「運命を掴む天運と、それを前にした決断力が優れている。そういう奴に、星の加護が与えられるのさ」

 

……天運?

 私は、運がいいと言いたいのだろうか。

 

「それでいい」

 

 言いたいことが終わったのか、キャスターが再びタナカくんを見る。

 

「それに比べたら──()()()()()、坊主」

 

 さっきまでの快活な雰囲気は鳴りを潜め、見定めるようにキャスターがタナカくんを見詰めている。

 タナカくんの顔は強張っているが、何も言わない。

 

「運命を操って、天運を掴んだように見せるか──何処まで続くか、見物だな?」

「──」

「──またな、坊主(導き手)

 

 キャスターは、手をヒラヒラと振りながら、退去した。

 

「「「「『………』」」」」

 

 みんな黙っている。

 何を言えばいいか分からない。というか、キャスターもタナカくんのことを導き手って呼んだ。

 

『しょ、所長! と、取り敢えずあの水晶体を回収しませんか!?』

 

 ドクターが、明らかに無理をしながらオルガマリーを促した。

 黒い騎士王が消えたそばにあった謎の物体を、回収するらしい。

 

「………そ、そうね。この特異点の原因はどう見てもアレのようだし──」

 

「いや、まさか君たちがここまでやるとはね。計画の想定外にして、私の寛容さの許容外だ」

 

 ぱちぱちと乾いた拍手が洞窟に木霊した。

 

「タナカタロウ。奇妙だが、脅威ではないと善意で見逃してあげた私の失態だよ」

 

 レフさんが、水晶体のそばに立っている。

 何でこんなところに──という考えは浮かばなかった。

 だって、これは。

 

「マスター、下がって……下がってください!」

 

 マシュと、両儀式さんが前に出る。

 

「全く、「 」()まで出てくるとは。いったいどういう風の吹き回しだ?」

 

 人間じゃないのは明白だ。でも、これは、まさか。サーヴァントよりも……!

 

「レフ……ああ、レフ、レフ、生きていたのねレフ!」

 

 オルガマリーが、気づいていないのか一心不乱にレフに呼びかける。

 

「良かった、あなたがいなくなったらわたし、この先どうやってカルデアを守ればいいか分からなかった!」

 

 そして、縋るようにレフへ向かって走り出した。

 

「しょ、」

「所長……! いけません、その男は……!」

 

 私がオルガマリーを呼び止める前に、マシュが絞り出すような声で彼女を止めようとした。

 でも、止まらない。その顔は安心で溢れていて、今更ながら──オルガマリーが、抱えきれないほどの()()を抱えていたことに気づいた。

 

「やあオルガ。元気そうでなによりだ。君もたいへんだったようだね」

 

 レフが、オルガマリーを労わる。でも、やっぱり、どこか乾いていた。

 

「ええ、ええ、そうなのレフ! 管制室は爆発するし、この街は廃墟そのものだし、カルデアには帰れないし!」

 

 オルガマリーが、そして()()()()()危ない。

 

「おまけにマスターも二人だけで、一人は一般人で、一人は怪しいし! 予想外の事ばかりで頭がどうにかなりそうだった! でもいいの、あなたがいればなんとかなるわよね?」

 

 動かなければならないけれど、動けない。

 

「だって今までそうだったもの。今回だってわたしを助けてくれるんでしょう?」

「ああ。もちろんだとも。本当に予想外のことばかりで頭にくる」

 

 そう言ってレフは、その細い目を見開き

 

「その中でもっとも予想外なのが君だよ、オルガ。爆弾は君の足下に設置したのに、まさか生きているなんて」

 

─────は?

 今、何て

 

「──────、え? ……レ、レフ? あの、それ、どういう、意味?」

「いや、生きている、というのは違うな。君はもう死んでいる。肉体はとっくにね」

 

 レフ、が。興味深そうに、オルガマリーを、観察している。

 でも、それは、下等生物に向けているようなソレだった。

 

「わかるかな。君は肉体を喪ったことではじめて、あれほど切望したレイシフト適性を手に入れたんだ」

 

 レフは、にこり、と微笑んで────幼子に言い聞かせるように、ゆっくり喋った。

 レイシフトは、概要だけ説明されたから、分かる。

 じゃあ、オルガマリーはカルデアに戻ったら、

 

「え……え? 消滅って、わたしが……? ちょっと待ってよ……カルデアに、戻れない?」

「そうだとも。だがそれではあまりにも哀れだ」

 

 レフが、水晶体を掴み、掲げた。

 レフの横の()が裂け、カルデアスが顕れる。

 

「な……なによあれ。カルデアスが真っ赤になっている……? う、嘘よね、レフ?」

「本物だよ。君のために時空を繋げてあげたんだ。聖杯があればこんな事もできるからね」

 

 聖杯。

 あの水晶体は、聖杯。

 

「さあ、よく見たまえアニムスフィアの末裔。あれがお前たちの愚行の末路だ」

 

 そうだ。

 私は見たはずだ。カルデアスが赫く染まっていたのを。

 つまり、

 

「人類の生存を示す青色は一片もない。あるのは燃え盛る赤色(せきしょく)だけ」

 

 滅び。

 

「良かったねぇマリー? 今回もまた、君の至らなさが悲劇を呼び起こしたワケだ!」

 

 人類の、滅び。

 

「ふざ──ふざけないで!」

 

「わたしの責任じゃない、わたしは失敗していない、わたしは死んでなんかいない……!」

 

 オルガマリーは、押し潰されそうになりながらも、所長(責任者)の職務を全うしようとしているすごい人だと思った。

 

「アンタ、どこの誰なのよ!? わたしのカルデアスに何をしたっていうのよぉ……!」

 

 ()()()

 

「アレは君の、ではない。全く────最期まで耳障りな小娘だったなぁ、君は」

 

 彼女は、もう──とっくに潰れていたのに

 

「このまま殺すのは簡単だが、それでは芸がない。最後に君の望みを叶えてあげよう」

 

 オルガマリーが宙に浮く。

 

()()()()とやらに触れるといい。なに、私からの慈悲だと思ってくれたまえ」

 

 彼女が、やめて、と喚きながら暴れる。

 

「人間が触れれば分子レベルで分解される地獄の具現だ。遠慮なく、生きたまま無限の死を味わいたまえ」

 

「いや──いや、いや、助けて、誰か助けて! わた、わたし、こんなところで()()()()()()!」

 

 徐々に、彼女がカルデアスに近づいていく。

 

「だってまだ褒められていない……! 誰も、わたしを認めてくれていないじゃない……!」

 

 動け。

 

「どうして!? どうしてこんなコトばっかりなの!?」

 

 動け。

 

「誰もわたしを評価してくれなかった! みんなわたしを嫌っていた!」

 

 動け。

 

「やだ、やめて、いやいやいやいやいやいやいや……! だってまだ何もしていない!」

 

 また、何もできないのか?

 

「生まれてからずっと、ただの一度も、誰にも認めてもらえなかったのに──!」

 

────今のオレたちは即席とはいえ、()()()だ。

 

 そうだ。

 

 私たちはチームだ。

 

 彼は何と言っていた?

 

────誰かが止まったら、みんなで止まって支えますよ。

 

 そうだよ。

 

 誰かが止まったなら。

 

 誰かに危険が迫っているなら!

 

「──」

 

 右手の甲を見る。

 

 令呪。

 

 危なくなったら使えと言われた、三回きりの絶対命令権。

 

 マシュ(サーヴァント)と意志を合わせれば、奇跡も起こせるソレ。

 

 今使わなかったら、いつ使う?

 

──これで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────駄目だッッ!! 立香ッッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────ぅ、ぁ?」

 

 

 

 私の、肩が、万力のような力で掴まれている。

 

 

 

 いたい

 

 

 

 と思う余裕がなかった。

 

 

 

()()()()()()…………ッ!!」

 

 

 

 彼は、怒っていて、切羽詰まっていて、そして

 

 

 

 

 今にも吐き出しそうな表情(かお)をしていた。

 

 

 

────私にとって、

 

 

 彼は道標のようだった。

 

 

 いろんな答え(せいかい)を持っていて、

 

 

 みんなを納得させていた。

 

 

 その彼が

 

 

「ぇ、ぁ…………」

 

 

 オルガマリーを、みる。

 

 

 彼女はもう、カルデアスに飲み込まれる直前で

 

 

「──ぁ」

 

 

 振り返って

 

 

 ()()()()()()

 

 

「─────、  」

 

 

 ()()()()()()()()()()

 

 

「ほう、邪魔が入るのかと思ったんだがな。賢明だと褒めてやろう」

 

 レフが感心した声を漏らす。

 

 皮肉だった。

 

「改めて自己紹介をしようか。私はレフ・ライノール・フラウロス」

 

「貴様たち人類を処理するために遣わされた、2015年担当者だ」

 

「────それにしても、やはり、私を、我々を知っていたな? タナカ」

 

 レフが、不快そうに目を細める。

 

()()()()()()()

 

「無様だな」

 

 そして、興味を失った。

 

「おっと。この特異点もそろそろ限界か」

 

「……セイバーめ、大人しく従っていれば生き残らせてやったものを」

 

「聖杯を与えられながらこの時代を維持しようなどと、余計な手間を取らせてくれた」

 

「では、さらばだロマニ。そしてマシュ、タナカ──と、誰だったかな?」

 

 レフが、風景と一体化していって──完全に消失した。

 

 途端に、揺れる。

 洞窟が、ではない。

 もっと根本的なもの。

 

「このままでは……! ドクター、レイシフトを!」

 

『もう実行している……!!』

 

 地面まで崩れ始めた。

…………どうしよう、どうすればいいのかな。

 

「マスター、タナカさん、両儀式さん、一塊になって……!」

 

 

 みんな、マシュに集まっていく。

 

 

「タナカさん、はやく……!」

 

 

 隣にいた彼がまだ来ていない。

 

 

「──っ、タナカくん!」

 

 

 私は、振り返って

 

 

「────」

 

 

 彼は、()()()()()()()()()()()

 

 

『よし、間に合った!』

 

 

 ドクターの安堵の声が聞こえて、意識が反転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ・真名裁決──再現魔術の一種。オリ主の絶対に負けない最大唯一無二のアドバンテージを、もっと何かに使えないか悩んだ末に生まれた。魔術基盤が強固なので、使いこなせれば強い。発動条件は、黒鍵を利用した魔法陣と詠唱の二つと敵の真名を知っていること。相手が真名を知られていないと思っていたり、悪いことしていると効果が高まる。人理焼却から人類を救おうとしているカルデアと敵対するということは、人類の滅亡に加担するということなので、とんでもない効果を発揮する。主の威を借るオリ主。

 ・鉄甲作用──書いている通り。オリ主が時計塔の嫌がらせで死徒退治に行ったとき……? みんなも月姫Rをやろう。


 次回は幕間。
       

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