FGO世界に転生した一般オリ主くんが生き残るためにリアルガチチャートを組んでRTAを走るお話 作:ペットボトル羊
オリ主くんスペック盛ったんだけど、弱いなぁ……。
「──立てるか?」
目の前に手を差し出されて、ようやく私は尻餅をついていることに気づいた。
「う、うん」
何も考えずに手を握って、体を起こしてもらう。
「タナカさん! 無事だったんですね──あっ、た、タナカさん、凄い傷です!」
駆け寄って来たマシュが、タナカくんを見て驚愕する。
彼の胸の中心──心臓がある位置が大量の血で滲んでいた。
「はやく治療を──所長!」
「うぇ?」
所長は、顔面がぐちゃぐちゃで、へたり込んでいる。美人が台無しだ。
「大丈夫、もう完治している。──それより、これレイポイントに盾を置こうとしていたんだろう?」
「…………………そう、そうよ! マシュ、いつ敵が現れるか分からないから速く設置して!」
所長が、なんとか復帰してマシュを急かした。
彼女の言う通りだ。建物に隠れていたのだ。もしかしたら、地面に隠れている、なんて場合も化物が存在しているから十分あり得る。
彼女が言っていた、召喚サークルはよく分からないが、速く設置した方がいい。
「……だ、そうです。構いませんか、先輩?」
「いいよ、やって」
「……了解しました。それでは始めます」
瞬間、なんか、こう、風景がSFチックな感じになった。
カルデアの自室の前に着いたときも思ったが、魔術も科学も両方使っているらしい。
学園都市かな?
「これは……カルデアにあった召喚実験場と同じ……」
「……」
「……」
マシュが興味深そうにし、所長は顔を顰めているが、黙っている。
タナカくんは白目をむいていた。
な、何かあったのかな?
『シーキュー、シーキュー。もしもーし! よし、通信が戻ったぞ!』
私たちの目の前に映像が投影される。
画質は悪いが、ドクターを知っている人なら彼だと気づけるだろう。
二度目だが、やっぱりすごい。まさか、こんな技術が存在しているとは……一般人である私からしたら、完全にSFの世界だ。
『ふたりともご苦労さま、空間固定に成功した。
これで通信もできるようになったし、補給物資だって』
「はあ!? なんで貴方が仕切っているのロマニ!?
レフは? レフはどこ? レフを出しなさい!」
静観していた所長が、声を張り上げる。
そして、彼女がドクターを問い詰め始めた。
どうやら、レフさんを求めているみたいだ。
いや、骸骨に囲まれたときの彼女の言動から察するに──
「所長」
タナカくんが、所長に声をかけた。
「───何よ!? タナカ! だいたい、貴方も、何でサボったの!?
今日という日がどれだけ偉大な──」
「オレは、サーヴァントに襲われました。」
サーヴァント。
自室にいるときに、タナカくんが私にも分かるように説明してくれた。
『──要は穢土転生だよ。まあ、これよりは人道的だけど』
両者の合意で召喚が成立するからね、とタナカくんは言った。
『……卑劣な術ってこと?』
『……死んだ人を使役するんだから、あながち間違いではないね』
彼は苦笑しながら、私の問いを微妙に肯定した。
『ただし』
ただし。
『サーヴァントは、現代の魔術師ではどう足掻いても敵わない、』
『──最強の、兵器だよ』
「──────…………ぇ?
…………う、うそ、嘘よ!! そう、そもそも、
所長が見るからに狼狽えて、タナカくんに詰め寄って──
──気づいた。
所長の目が見開かれる。
そして、タナカくんの胸にゆっくりと向いた。
大量の血痕。
「オレは、全力で逃げようとしましたが、力及ばず心臓を破壊されました」
タナカくんは、淡々と自分の身に起こったことを告げた。
──それは、私を現実に引き戻すのに十分な衝撃だった。
私は、何て言えばいいか、どんな反応をするべきか分からなくて、みんなを見た。
所長が、マシュが、ドクターが──みんな、絶句している。
「幸い、オレは“蘇生”のルーンを持っていたので、助かりました。
サーヴァント──ああ、クラスはアーチャーですが、オレを仕留めたと思ったのか、追っては来ていません」
「……あ、ぇ、──、や、
“蘇生”のルーンなんて宝具級の神秘、ルーン魔術の大家であるフラガ家ぐらいしか──」
所長があり得ない、と絶叫する。
「これは譲りものです。貴女も、オレの師を知っているでしょう?」
彼は、
…………魔術師って、師匠とかいるんだ。
いや、考えてみれば当たり前である。魔術だって、科学といっしょで、先人が残したものをより良くすることで、発展しているはず。
「………、──、う」
所長は頭を両手で押さえて黙り込んでしまった。
彼女は、カルデアという魔術師が所属する組織のトップだ。それに、骸骨に囲まれたときも、彼女は最初、精密に、冷静に骸骨たちの頭を射抜いている。
──何も訓練していない人が、銃を発砲すると反動で肩が外れる、とかいう話を小耳に挟んだことがある。
この知識が正しいかどうかは知らないが、仮にそうだとすると、所長はあの華奢な体で、私と歳も近いのに銃を正確無比に扱い、化物を十体以上仕留めたことになる。
まあ、途中から泣き出して乱射したけど。
そう考えると、あんなに凄い所長が閉口するタナカくんの師匠って彼女よりも凄いのかな……。
「先輩、凄いなんて
何故ならタナカさんの師匠は冠──」
「その話は、後でいい」
タナカくんが、マシュの言葉を遮る。
その顔には、珍しく焦燥が浮かんでいた。
「取り敢えず、早くサーヴァントを召喚しなければならない」
『…………でも、デミ・サーヴァントであるマシュがいるんだ、だから、』
ドクターが、タナカくんの提案に渋っている。
彼の顔は、
目が覚めたときも言っていたが、“デミ”とはどういう意味なんだろう。
……ただ、サーヴァントが死者を操る魔術なら、碌なものではない気がする。
「──」
マシュにバレないように横目で見る。
彼女は、ふつうに、リラックスしているように見える。
──マシュが盾を振り回していた姿が浮かぶ。
サーヴァントは、過去の英雄、偉人を現代に呼び出した存在みたいなものだと、タナカくんは言っていた。
だけど、マシュは生きているし、それに、なんていうか、英雄/偉人“っぽく”ない。
それは、彼女の技術もそうだけど──彼女の人柄、性格、性質? も、そうだ。
……素人意見だけど、特にタナカくんの提案を渋る理由がない気がする。
今は、戦力は多いに越したことはないくらい、私でも分かる。
「馬鹿言わないでくれ、Dr.ロマン。キリエライトは、
それが解らないとは、“貴方”には、言わせない」
タナカくんが、明らかに怒気を含んだ声で、ドクターの勘違いを指摘した。
「
──そうだな、七、いや、八割機能を失っているだろう? その上で、言っているんだ」
それは、確信を持った問いだった。
『──な』
ドクターの顔どころか、映っている全身が固まっている。
『どうして──』
「──ちょっと、カルデアが八割機能停止しているですって……?」
所長が、再起動した。
「じゃあ、レフは……? いえ、それより、マスター適性者は? コフィンは!?」
彼女が、頭を抱える。そして、目の焦点も合わなくなっていって、
「
「ぇ…?」
タナカくんが、所長の肩を優しく掴んで支え、声をかけた。
「オルガマリー、貴女は、正しく学び、正しく理解してきた。
貴女は正しい価値観を持っていて、命の重さをよく理解している」
「
その言葉は、彼女の今までの
「──ぁ」
「
そう言って、彼女を優しく抱き寄せる。
「──オレと貴女の、仲でしょう?」
そう言った彼の声は、ほんの少し、もしかしたら勘違いかもしれないけど、
「ぁ──、……ぅん」
オルガマリー所長は、恐る恐る、彼の胸に触れ、やがて泣き出した。
その姿は、カルデアの所長でも、アニムスフィア家当主でもなく、
「…………ごめんなさい」
泣き止んだオルガマリーは、申し訳なさそうに私たちに謝った。
この状況で、自分のせいで時間を消費してしまったことを悔いているんだろう。
確かに、誉められたことではないんだろう。
今は常に命が危機にさらされているのだ。
でも
それでも
「大丈夫です、所長」
力強く、安心してほしい、と宣言する。
半分どころか、一欠片しか理解できていないとしても、
彼女が、頑張っていたことが伝わった。
頑張った人は、報われてほしい。
「私も問題はありません」
『そうだよ、気にしなくていいさ』
マシュもドクターも、ただ嬉しそうにしていた。
「……そ、その」
オルガマリーが、タナカくんを不安そうに見た。
「問題ないですよ、結果的には最善でした。あのまま英霊召喚を強行していたら、
想定外の事態が起こってしまう可能性があった」
タナカくんは安心させるように微笑んでいた。
「それに、今のオレたちは即席とはいえ、“チーム”だ。
チームなら、一丸となって目標に向かう」
「誰かが止まったら、みんなで止まって支えますよ」
「……うん」
オルガマリーが、若干頬を赤らめている。
微笑ましい光景だ。
思わず頬が緩んでいます。
『──それで、サーヴァントを召喚するんだよね?』
ドクターが、弛緩した空気を締める。
「はい」
『触媒はどうするんだ?』
「ありません」
きっぱりと、タナカくんは言った。
『……つまり、縁召喚と』
「その通りです」
ドクターの確認に答えたタナカくんは、話し始めた。
「現状、カルデアが事前に用意していた触媒は消滅しています」
『……そうだね』
『
「……ふむ」
一拍置いて、タナカくんはチラリと私を見た。
……?
「──触媒は、その英霊の縁のものであればあるほど、
逸話や伝説通りの強さに近づけます」
……なるほど、どうやらタナカくんは私にも解るように説明してくれるみたいだ。
「そうね」
「そうですね」
オルガマリーもマシュも同意している。
「一見、利点しかないように見えます。ですが、」
「これは、己と相性の悪いサーヴァントが召喚される危険性を孕んでいます。」
……それの何が悪いんだろう。
相性が悪くても、最低限の協力ぐらいできるんじゃないかな。
「それは現代の理屈だ、立香。
オレたちが召喚する存在は、その時代で名を轟かせた英傑、豪傑だ。
そして、時代が違えば、文化、宗教、思想も違う。具体例を言うと、召喚者が気に入らなければ、普通に殺そうとする奴とかを召喚する可能性がある」
貴様は我に相応しくない!
って感じか。
なるほど、と思った。
なら、現代の偉人ならどうなんだろう。
「基本的に、格が上のサーヴァントほど、より古い神秘、つまり強さを持っている。古い=強いなんだ」
そうなんだ。
確かに、召喚する人は強いほうがいいに決まっている。
……なんか、彼の説明は、具体的でわかりやすいけど、まるで、実際にそれを見てきたように感じた。
『なるほど……縁召喚なら、召喚者と相性の良いサーヴァントが選ばれる……この状況なら、それが最適か……』
ドクターが、納得した。
『
彼の言葉には、含みがあったけど───何を含んでいたのかは、分からなかった。
「──いえ、ぶっちゃけ、今考えました」
タナカくんが、“あはは……”と困ったように微笑んだ。
…………おっとぉ?
「タナカ!?」
「タナカさん!?」
『タナカ君!?』
みんな驚いている。私も驚いている。
「……どういうことなの?」
とりあえず、彼の真意を聞いてみることにした。
「そもそも、オレの個人財産で入手できる触媒で召喚できる英霊なんてたかがしれている。
かと言って、オレに与えられている権限程度でカルデアの財産を使うことも当然駄目。
それに、オレには
彼は、淡々と理由を説明した。
妥協案だったのか……。
『……キミの師匠はどうなんだい?』
ドクターは、怪訝な
そうだ。
なんか凄いらしい師匠なら、イケるのでは?
「師匠は
タナカくんは、明らかに疲労した表情を浮かべた。
「「『ああ……』」」
みんな納得している。
……そんなにヤバいんだ。
…………結論、本当は有名な触媒が欲しかったけど、無理だから諦めたと?
「そういうこと」
……そうなんだ……さっきの
「そんなことないさ」
そう言って、タナカくんは続けた。
「さっきのくだりで、縁召喚の方が得だと思っただろ?
それは、オレが縁召喚の長所しか説明していないからだよ」
「当然、縁召喚にも短所はある。
さっき言った通り、相性が良い英霊が召喚されるが、誰が召喚されるかは分からない」
……そうか、現代の偉人が召喚される可能性も十分ある。
「その通り。一長一短ってこと……──短所と長所は表裏一体。短所は長所にもなるし、逆もあり得るってわけさ」
「そうなんですね……!」
マシュが全身で感動を表現している。
いや、確かにおー、ってなったけど、いささか大袈裟なような……。
オルガマリーはどうだろう。
「……」
彼女は、手を顎に添えて何か考えていた。
「ドクター、
……?
『…………うん、ごめん、余計な時間をかけさせて』
「構いませんよ、必要なことです」
『……サーヴァントを、召喚しよう。召喚者はタナカくんだね?』
「──はい」
「さあ、英霊召喚だ」
ちなみに、オリ主くんは所長に一切劣情を抱いていません。