FGO世界に転生した一般オリ主くんが生き残るためにリアルガチチャートを組んでRTAを走るお話   作:ペットボトル羊

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 長い。


宝具とは

「──へぇ、カルデア、ねぇ……」

 

 サーヴァント・キャスター、真名をクー・フーリン(本人もそう名乗った)。

 

 ケルト神話の半神半人の英雄。

 人の家の番犬を締め殺してしまい、その仔が育つまで代わりに番犬になると申し出た逸話が有名らしい。

…………すごい思考回路だ。

 まあ、番犬を締め殺したこと自体はキャスター(生前)のせいじゃないと思う……、いや、犬を殺したから……、セーフ……、アウト……いや、アウト。

 アウトだから、キャスター(生前)が番犬を申し出たことは、普通。

 

 よし、理論武装完了。

 

『滑稽な話と思われるかもしれませんが、全て真実です。我々カルデアは御身と共闘してこの特異点を修復することを願っています』

 

 私は、余りに驚いて硬直した。

 

…………誰だこいつ。

 この医者本当にゆるふわ・アーキマンなのか?

 ゆるふわが、あのゆるふわが、襟を正し顔をキリリと引き締め、極めて厳格な感じで交渉している……!

 

『御身にも益がある話と思われ──』

「あー、そういうのやめてくれ軟弱男、…協力することに否はないが……」

 

 キャスターが、うんざりした表情でドクターの言葉を遮り───左手を顎に添え、私たち一人一人の顔をじっくり五秒くらい観察した。

 そして、最後であるタナカくんの顔をみて止まった。

 

「ほぉ」

 

 キャスターは片眉を上げて、声を漏らす。

 そして、ニヤリと笑ってタナカくんに向かって歩みを進めた。

…………何か、気になることでもあったのだろうか。まあ、彼のことは私たちも気になっているし、魔術師の英霊(キャスター)からしたら、とてつもなく不可思議かもしれない。

 

「…………」

 

 両儀式さんが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その眼差しからは、先程までのように母性、慈愛を感じられない。そして、右手の日本刀を正眼に構えた。いつの間にか、左手には鞘が握られている。彼女が、臨戦態勢になっているのは明白だった。

 でも、なんで? 彼女がマシュのフォローをするために、あの刀を化物に振るった姿を目撃したからこそ、不可解だった。あれはただ、綺麗だった。一つの絵画に収まっていても驚かないだろう。そのときの彼女は、自然体だった。あっさり化物を両断しても変わらなかったのだ。

 今はどうだ? キャスターがより距離を詰める度に、圧が強くなり、端正な顔も険しくなっている。

 

「──な、せ、()()()()?」

 

 タナカくんが動揺している。彼にとってもこの状況は予想外なようだ。

 キャスターに視線をズラす。彼は、不敵な笑みを浮かべたまま、止まらない。彼からも圧を感じ始めた。

 どうするんだろう。……いや、どうしたらいいんだろう。一度死にかけたが、未だに何をすればいいか分からない。……仲介でもするべきか? そりゃあ友人間の仲を取り持った経験がないわけじゃないが……。

 

「止まりなさい」

 

 両儀式さんが警告を発した。止まらなかったならどうなるかは、言わなかったけど、反したら絶対に“斬る”という意志を感じる。

 キャスターがようやく二、三メートルくらいでピタリと止まった。けど、笑みも圧も消えていない。

 

「坊主、名前は?」

 

 何だか、初めてキャスターが喋った気がする。数える程度の時間しか経っていないはずなのに。……サーヴァント同士が睨み合っているからだろうか。

 

「…今は」

 

 タナカくんが口を開いた一瞬。

 

 暴風が体に叩きつけられ、思わず目を閉じて尻餅を突きそうになり──。

────隕石同士が激突したような轟音が鳴った。

 

「──ッ」

 

 体が抱きとめられる。抱きとめてくれたのは、恐らくマシュだ。でも、そんなことを確認する余裕はなかった。

──キャスターと、両儀式さんが互いの武器を叩きつけている。つまり、鍔迫り合いになっている。

 キャスターの杖は、明らかに金属に見えないのに、両儀式さんの刀と拮抗していて、両者の間から、金属同士を擦り合わせたような甲高い音と大量の火花が散っていた。

 

「──下がろう、みんな」

 

 さっき動揺していた人物とは思えないほど、()()()()()な声でタナカくんが、呆然としている私たちに下がろうと言った。それは、提案だったけど、彼の眼は有無を言わさない迫力があった。

 私たちは、抵抗しようとは全く思わず彼の言う通り引いた。……十メートル以上離れただろうか、それくらい離れたら、タナカくんが視線はキャスターに釘付けのまま、言葉を発した。

 

「マシュ、万が一がある。前に出てくれ」

「…え? あ、はいっ」

 

 マシュが、戸惑いながらも前に出た。それを待っていたのか、

──轟音と共に両儀式さんが力任せにキャスターの杖を弾く。

 

「さすがはセイバー、相手にとって不足はないッ!!」

 

 キャスターが弾かれた勢いを利用して、後ろに跳んだ。彼は、空中で文字のようなものを展開し、叫ぶ。

 

「そおら焼き尽くすぜ!」

 

 現れた巨大な火球たちが、両儀式さんに殺到していく。タナカくんが火の玉を見せてくれたことがあったけど、アレとは比にならない魔力と大きさだった。

 

「───」

 

 彼女は巨大火球を一瞥すらしない。あんなものが直撃したら肉体(にく)どころか骨格(ほね)すら残らないのに、彼女の眼中に全く入っていない。やばい、どうするんだ。両儀式さんは火球に対処する気がないように見える。タナカくんは、彼女が“対魔力A“を持っていると言っていたが、そんなもので防げるのか。

 火球が迫る。両儀式さんはまだ何も反応しない。このままじゃ直撃するのは必至だ。彼女が焼かれる姿が目に浮かぶ。私は、タナカくんに助けを求めるように、

 

「まあ、見ていてください。所長、マシュ、立香」

 

 タナカくんは、微塵も動揺していなくて、それどころか片時も目を離さずにサーヴァント同士の戦闘を観察しているのに、私たちが焦っていることを簡単に見抜き、言った。

 

「──あれが、サーヴァントの戦いだ」

 

 彼の顔は、一欠片も両儀式さんが燃やされる、敗北する可能性を微塵も考えていなかった。彼女を信頼? しているのか、強化の魔術で援護しようともしない。

──サーヴァントの戦い。

 両儀式さんに目を向ける。彼女はまだ行動していない。まだまだ余裕がある、ということなのか。

 そして、火球が彼女の雪のように白い肌を炙るかといった距離で

──ゆらりと、両儀式さんが前方に傾いたかと思った刹那、

 

「──え?」

 

 巨大な火柱が上がる。人一人どころか、私たち全員を覆って余りある勢い。

 あつい。この距離でこの熱気なら、至近距離だと間違いなく黒焦げに──

 

「──っ、両儀式さ──」

 

 彼女の安否を確認しようとして──

──いる。火柱の中に、ではない。それよりももっと先。キャスター──クー・フーリンの背後に、両儀式さんが幽鬼のように立っている。

 

「──ッ! おらァ!!」

 

 背後の彼女に気づいたキャスターが、上体を反らして杖を振るった。彼の杖はいつの間にか焔が纏われていて、彼女を、彼女の刀ごと燃やし尽くそうとして

─────至極、至極あっさりと彼女の日本刀が弧を描きキャスターの杖を逸らした。

 最初の鍔迫り合いのときに感じた力強さとは違い、流水のように流麗な剣技(ソレ)だった。

 

「──ぉ」

 

 さくり、と言えばいいのだろうか。

 キャスターは、強引な反撃(カウンター)を完璧にいなされたので無防備になっていた。そんな彼が、両儀式さんの攻撃を躱せるはずがなく──

 

「え?」

 

──キャスターの心臓──霊核に、辺りの昏い炎を反射して、不気味に輝く刀が刺さっていた。

 

────直死の魔眼。

 両儀式さんが持っている魔眼。それは、対象──視界に入っているものの未来(終わり)を観測する眼。

 タナカくんは言っていた。彼女は、生きているのなら、神さまだって殺してみせると。

────サーヴァントは死人だ。

 でも、タナカくんが言うには、正確には、彼らは死んではいるが消滅したわけではないらしい。

────詳しい原理は後に回されたけど、分かることはある。

 彼ら(サーヴァント)は、死人だけど、今は現世に()()

 ならば、彼女に殺せないはずがなく。

 

「──っ」

 

 なんで。

 タナカくんは、味方だと言ったのに。

 彼を見る──タナカくんの、顔は変わっていない、淡々としていた。両儀式さんが、味方を殺したというのになにも気にしてなさそうにしている。

 

「──ごほっ」

 

 両儀式さんがキャスターに刺した刀を引き抜いて、軽く払った。付着していた血液(いのち)が母なる大地にばら撒かれる。白い着物に白く眩く刀、それと、あかい血。あまりにも不釣り合いなのに──綺麗、だと思った。

 

「──ぐ、ぁ」

 

 キャスターが、刀が引き抜かれた反動で数歩退がる。彼は、自らの心臓が貫かれたことが信じられないようで、唖然とした顔で、小さな傷口に触れている。

 致命傷。もう、助からない。

 そして、彼の瞳孔が大きく開き──仰向けに、倒れた。彼の胸から、澱みなく血液(いのち)が溢れていて──

 

「──っなんで、タナカくん!」

 

 タナカくんは、サーヴァントが仕出かしたことは、全て私たち(マスター)の責任だと言っていた。

──最強の兵器(サーヴァント)を呼び出したのは、私たちである。死人を、摂理に反した存在を世に降臨させたのだ。ならば、それを御し、暴走しないようにする義務がある。暴走させる、制御できないのなら、初めから呼び出すなという話だ。

 両儀式さんは、キャスターを殺した。タナカくんは何の抗議もしていない。つまり、殺害(これ)はタナカくんの意志ということになる。

 

──信頼には、応えるよ。

 

 嘘だと思いたい。彼は、彼は、怪しいけども、信頼できる、信頼したい人だと思ったのに──!

 

────私は、まだ現実が見えていない。

 だって、殺そうとしたのはキャスターが先だ。殺そうとするということは、殺されても文句は言えなくて。

 もし両儀式さんが前に出てなかったら、確実に死人が出ていた。彼女は、私たちを()から守ってくれたのだ。

────私は、まだこの状況が物語(フィクション)だと思っている。

 現れた化物たち、嫌でも滅びを連想させる炎と残骸、普通に生きていればまず見ることのない大量の血。彼は、此処が戦争以上に危険だと匂わせていたじゃないか。

 

──息が、乱れる。

 私は、どうすれば、何をしたらいいか。

 骸骨のときには感じなかった恐怖が、胸から溢れ出る。あのときは麻痺していたからだろうか──怖い、恐ろしい、帰りたい。今まで一度も感じたことがないほどの恐怖が洪水のように溢れた。

 

──俺は、君の隣に立って君を支えるよ。

 

 あのときと一緒だ。あのときみたいに、彼がまた助けてくれる。そうだ、そうだよ、そうに違いない。

 私は、懇願するように彼を見て──

 

「──あまり、皆を揶揄わないでもらいたい。アイルランドの光の御子よ」

 

──え。なに、それ。

 その言い方は、まるで霊核を貫かれたキャスターが生きているようで──

 

 

「──なんだ、気づいてたのかよ」

 

 

 近くの残骸──瓦礫を押し退けて、無傷のキャスターが現れた。

 

「え、……ゆ、幽霊!?」

 

 オルガマリーが驚愕しているが、私も同じ気持ちだ。サーヴァントは霊体化──透明化できるとタナカくんが言っていたけど、幽霊になれるのか。いや、存在そのものが幽霊みたいなものだけど。

 

──じゃあ、もう一人のキャスターの死体は?

 恐る恐る、死んでいたキャスターに目を向ける。

 

「……あれ?」

 

 もう一人のキャスターは、血も、肌も、髪の毛も色褪せていき──枯れ果てた大木のような色になった。

 

「坊主、よく気づいたな」

「いや、途中までは気づいてはいませんでした。……でも、貴方が身代わりを持っていたことは識っていたのと、余りにもアッサリ負けたからです」

 

……え? 身代わり…………………………………あれか、木遁か、木分身なのか。

 

「ンだよ動揺してた癖に……少しアッサリすぎたか」

「そうです。貴方の逸話を知っている者なら、皆気づきます。……それに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 さっきまで殺し合いをしていたのに、何で普通に話せるんだ。両儀式さんも、いつの間にかタナカくんの側にいる。と、いうか、キャスターの神話を知ってるなら、気づけたんだ……もしかして、心底焦っていたのは私だけなのか──そういえば、声を荒げたのは私だけだった。……私以外気づいていたのか。チラリ、と私はみんなの様子を伺おうとして、

 

「……」

「……」

『……』

 

 みんな目を逸らしていた。気づいていなかったらしい。

 

「それにしても、別嬪が多いねぇ……よっ、色男」

「オレまで揶揄わないで下さい。……それで、どのくらい戦えるのか確認できましたし、共闘してくださいますか?」

 

 アレが、確認? 小手調べだったと。

──純粋に、怖いと思った。

 小手調べで、あの闘い。実際は、十秒くらいしか経っていないけど、何分にも、何時間にも感じた。

 あの熱気。

 あの剣技。

 あの、死。

 騎士王と、戦わなければならないことは分かっていたけど、さっきの戦闘が全力じゃないのなら、いったい。

 

「ああ、構わないぜ──と、嬢ちゃん」

 

 キャスターがマシュに杖を突きつける。マシュは、自分が指名されるとは思っていなかったのか、目を見開いている。

 

「嬢ちゃん──見たらわかるぜ、宝具、使えないだろ?」

 

 それは、問いという形式(かたち)だったが、確実に確信を持っていた。

 

──マシュの宝具。

 彼女は、自分が宝具を使えない、欠陥サーヴァントと言っていた。

 宝具が使えないサーヴァントは存在しない。彼女はそのことを非常に気にしていて、タナカくんや、両儀式さんに教えを乞いに行っていた。

 

────頑張れば、いけるわ。

 両儀式さんは、宝具は、自身と変わらない、感覚で発動させるものだと言った。

 

────そうだな……進めば分かる。

 タナカくんは、少し迷っていたが、はぐらかしていた。

 

 マシュは、二人に聞いて、なんとかここまで頑張っていたけど、まだ宝具が使えない。

 

「オレが──使えるようにしてやる」

「──どうやって?」

 

 私は、思わず口を挟んでいた。ただ、なんとなく、聞いた方がいい気がしたから。

 

「そりゃあ、決まってんだろ──古今東西、戦士が強くなってきた方法は一つ──模擬戦(修行)だ」

 

 

 

 

 

 

 

####

 

 

 

 

 

 

 

 取り敢えず、不安になった私は、一旦作戦会議と言って、キャスターに待ってもらうことにした。

 

「……先輩、私は、クー・フーリンさんの修行を受けようと思っています」

 

 マシュが、不安そうにしながらも、強い意志が秘められた瞳で私を射抜いた。

 

「…………敵が、()()()()()()()()()、……指導を受けた方がいいでしょうね」

 

 オルガマリーが、悩みながらも受けるべきだと言った。

 

『ボクも、そう思う』

 

 ドクターも、受けようと言っている。

 

……でも、なんというか、私はマシュに修行をさせたくなかった。

 

 そっと、キャスターを見る。

 彼は、瓦礫に腰掛けていて欠伸をしていた。暇そうにしているが、さっきまで、分身とはいえ闘っていたのだ。

──キャスターの、獰猛な笑みが浮かんだ。あのとき、分身だったけど、間違いなく、両儀式さんとタナカくんを喰らう気でいた。

 怖い。

 マシュが、私を先輩と慕ってくれる子が、傷つくのを見るのは。

 

………私は、マシュを──

 

「──立香」

 

 静観していたタナカくんが、私に声をかける。

 

()()()()()()()()()()、でも、それは裏返すと、マシュを信頼していないことになる」

 

──それは。

 マシュが、未熟ながらも、私を、私たちを守ることに、責任いや、やりがいが一番近いだろうか──()()を感じていることは伝わっていた。彼女は、自分の役割を見つけていて、“そう”在りたいと思っている。

 

「──マシュ」

「──はい、先輩」

 

 例え、マシュがそれに自覚がないとしても、彼女の先輩(マスター)である私は、なんとなくだけどわかっている。

──未だに、怖い。

 キャスターの模擬戦は、私も参加しなければならない。つまり、あの火球が、杖が、襲ってくるのだ。怖くないわけがない。

──私は現実(恐怖)を知った。

 完璧に理解したかどうかは微妙だけど、それでも、一欠片は進んだはず。

 経験(学んだ)のなら、同じ間違いはおかしたくない。

 

「────信じてる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──いいか、宝具ってのは英霊の本能だ。なまじ理性があると出にくいんだよ」

 

 キャスターが杖を構えて、喋る。

 偉大なる先人(英雄)の言葉。それを、胸に刻む。

 

「って訳で、嬢ちゃんには精も根も使い果たしてもらうぜ」

 

 彼からの圧、殺気が放たれる。

 やっぱり、怖い。

──でも、マシュの方が、もっと怖い。

 私は彼女の背後に隠れて立っているだけだ。ほとんど、マシュが受け止めている。彼女は、小さく震えている。それでも、弱音を吐いていない。

 

 ならば、先輩(マスター)である私が弱音を吐くわけにはいかない───!

 

「マシュ、私を守って──!」

「了解しました──先輩を、守りますッ!」

 

 キャスターが、分身が使っていたものよりも、数段落ちる火球を幾つも放つ。

 

「手加減はしてやるぜ──そら、燃えなァ!」

 

 全て、私を狙っている。

 正面から迫る火球、横合いから迫る火球、マシュを飛び越えて迫る火球。さすがに全部同時というわけではなかったけど、それでも多い。

 

「ぐ、ああああ──っ!」

 

──それを全て、マシュは防いでいく。

 自らを奮い立たせるために、叫んでいる。怖くても、苦しくても、心細くても──!

 

「ほぉ」

 

 火球を一つ、受け止める。

 でも、受け止めるだけでは駄目だ。複数火球はあるんだ。最小限の動きで、最大の効果を発揮させなければいけない。効率よく、正確に。

──マシュの動きが洗練されていく。

 確か、タナカくんがマシュは技能と経験が使いこなせていないということを言っていた。それなら、彼女は今、馴染ませている状態。マシュは心身共に成長していっているということになる。

 

「んじゃ、これならどうだ──?」

 

 キャスターがまた火球を複数生成する。そして、放った。

 

「──?」

 

 さっきと同じ、数、密度、動き。こんなのマシュが防げないはずがない。

 

「────はあっ!」

 

 想定通り──いや、それ以上に、正確に、確実に、素早く火球をマシュが打ち消していく。

…明らかにおかしい。いったい何が狙いだ──?

 マシュが、最後の火球に狙いをつける。そして、盾で掻き消した。

 

「ルーンに意識を割きすぎだぜ──嬢ちゃん」

 

──掻き消した先に、キャスターがいる。彼は、腰を深く落とし──

 

「授業料だ──くらいなァッッ!」

 

 マシュを、()で吹き飛ばした。

 一瞬、爆発したかのような音が辺りに響く。マシュが、瓦礫に叩きつけられたのだ。

 

「けっこう頑丈だな」

 

 キャスターが、横たわっているマシュを観察している。……パッと見た感じ、彼女の体に目立った傷は見えないけど、すぐには立ち上がれなさそうだ。

 

「───」

 

 キャスターが、無言で私に視線を向けた。

 彼から、無意識に発せられる、生物としての存在規模が、私を竦み上がらせようとする。彼にそんなつもりは無いと分かっているけど──怖い。

──どうする。何をすればいい。私は今完全に無防備だ。

 キャスターに、飛びかかる? ──駄目だ。やっても無駄だし、意味もない。

 じゃあ、私には、何もすることがない? このまま彼が何もしないことを祈って待つ──?

 

「──違う」

 

──一回目は、認めなかった。

──二回目は、自覚した。

 

 さっきまで、何を見ていたんだ。マシュの姿を、勇姿を、成長を──!

 

「──そうだ」

 

 後輩(マシュ)は、この戦いで、急激に成長している。

 

「私のやるべきこと」

 

 なら、先輩()も成長しなきゃ。

 

──三回目は、

 

「助けて、マシュ──!」

 

 みっともなくても、先輩らしくなくても、マスターに相応しくなくても!

 今は──今だけは、私はマシュの先輩(マスター)だから──!

 

「頑張れ、マシュ!」

 

 マシュを──励ます、応援する、戦うための原動力を与える……!

──傷ついてほしくない、悲しんでほしくない、苦しんでほしくない!

 

 それでも、頑張れ。

 

 何を頑張ればいいか、私は分かっていないかもしれない。

 本当はしなくていいかもしれない。

 それでも、無責任だとしても、叫ぶ。

 

「頑張れ──!!」

 

「 ぅ、 ぁあああああッッ!!」

 

 マシュがよろよろと立ち上がり──盾を持って、キャスターに突撃した。

 

「──こいッ!」

 

 キャスターが、マシュの全力の突撃を真正面から受け止める。

 あの質量()を受け止めた……! なんて、出鱈目。

 

「いける、マシュ!」

 

 盾の使い方も、体の効率的な動かし方も分からない。

──でも、マシュの力になれるはずだ。

 私の声に──感情を、想いを、祈りを込めろ!

 

──そして、どれくらい拮抗していただろうか。

 マシュがなんとかキャスターを押し返した。

 

「──いいねぇ」

 

 再び、キャスターとマシュの距離が開く。でも、趨勢は明らかだった。

 

「はぁ、はぁ………っ!」

 

 マシュは、盾を支えにすることでなんとか立っている状態だ。

 対して、キャスターは汗すらかいていない────圧倒的な、力の差。

 

「──とっておきをくれてやる」

 

 キャスターが、杖を掲げると同時に彼の足元に魔法陣が展開された。

 

『キャスター!? 宝具はまだ早いッ!』

 

 ドクターの、切羽詰まった声が聞こえる。

 

──宝具。

 英霊の誇り、信念、逸話の再現。

 英雄(キャスター)が駆け抜けた生涯が、今放たれようとしている。

 

「死んだら、その程度だったってことだろ?」

 

 爆発的に高まる魔力。

 直感的に分かる──今のマシュでは、防げない。

 私の体が恐怖で硬直する。当たり前だ。こんなのが放たれたら、消し炭なんて優しい領域(レベル)の被害が出る。

 どうする。どうする。どうする──!

 マシュは、本当に精も根も尽きている。おそらく、私が声をかけても盾を持ち上げることすらできないだろう。

 

──じゃあ、何もできない?

 

「──死にたくない」

 

 素直に、そう思った。

 誰か、誰か助けてくれないか。誰か──!

 

────俺たちは同じマスターで対等で友達だ。

 

 タナカくん。

 私が一人だったときに、手を差し伸べてくれた。私の友達。

 彼に、助けてもら──

 

「──駄目だ」

 

 私は──マシュを信じていると言った、助けてと言った、頑張れと言った!! 彼女は、私の信頼に全部応えてくれている!!

 それなのに、彼に助けを求めるのは────マシュに対する、裏切りだ。

 

 私は!! マシュを、傷つかせ、悲しませ、苦しませている!!

 

 おおよそ思いつく、酷いことをマシュに強いている。

 

 でも、

 

 それでも、

 

 これだけは!

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()───っ!!

 

「──マシュ」

 

 マシュに駆け寄って、声をかける。

 

「せ、ん、ぱい……に、げて」

 

 彼女は、滝のような汗を流しながらも、私に逃げてと言った。

 

「──逃げないよ」

「だめ、です……私、は、宝具、がつか、えません……!」

 

──ああ、なんてできた後輩なんだ。

 こんなに消耗しているのに、他人()を心配している。

 

「我が魔術は炎の檻、茨の如き緑の巨人」

 

 キャスターに、世界の中心になったと錯覚するほどの魔力が集まった。

 臨界状態。間も無く、宝具が展開されるだろう。

 

──やっぱり、怖いな。

 

 でも、それ以上に──!

 

──()()()()()()()()()()

 

「──ぁ」

 

「因果応報、人事の厄を清める杜──」

 

「──倒壊するは『灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)』!」

 

 炎と共に、巨人が現れる。

 たぶん、このままだと、ひとたまりもないのだろう。

 

 でも、不思議なくらい落ち着いている。

 

「────マシュ、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 マシュの綺麗な瞳を真っ直ぐ見詰める。

 

「宝具が使えないって言ったね」

 

──宝具とは、誇りと、信念と、逸話と、駆け抜けた生涯の、具現。

 

 それなら、使えなくても仕方がない。

 

「オラ、善悪問わず土に還りな────!」

 

 だって。

 

「使えなくてもいい」

 

 私たちの関係(物語)は始まったばかりだから。

 

「今から、これから──私たちの、宝具()をつくろう」

 

 そう言って、マシュの肩を支える。

 

「ぁ────はい!」

 

 マシュの体に力が戻る。

 

「────宝具、展開」

 

 マシュの力になれている。

 

 マシュの支えになれている。

 

 それが、誇らしい。

 

───俺は、君の隣に立って君を支えるよ。

 

 彼は、どう思っていたのかな。

 

「はああああああ──────ッッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 主人公って誰だっけ……?

 ちなみに、オリ主くんの道は始まってすらいません。

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