閃の軌跡Ⅲ ―偽りの仮面―   作:アルカンシェル

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113話 帝都ヘイムダルⅪ

 

 

 

「ここが暗黒竜の寝所ですか……」

 

「随分と様変わりしたな」

 

 アルティナの言葉に、クロウは周囲を見回して独り言ちる。

 

「クロウはこの場所に来た事があるの?」

 

「ああ、帝都の地下墓所に散らばっていた《暗黒竜》の遺骸を集めた時にな……」

 

 ユウナの問いにクロウは頷く。

 

「その時のこの場所にあったのは《暗黒竜》の頭……

 当然温泉なんてなかったし、あんなもんもなかったな」

 

 殺風景な広間の中央には直径十アージュ程度のお湯溜まりが見える。

 そして景色の相違はそれだけではない。

 湯溜まりの向こうには怪しげな祭壇。そして出待ちをするのにちょうど良さそうな壁には水道橋が建設されており、そこから溢れるお湯が湯溜まりに落ちていく。

 

「何か分かるかイソラ?」

 

 周囲を警戒しながらクロウはイソラに尋ねる。

 

「そうね……ここが霊脈の中心で間違ってないわ」

 

 イソラは《アロンダイト》を展開しながら、そのセンサーを使ってこの場を読み解く。

 

「あの水道橋は霊脈をお湯として取り出しているみたいね……

 それを温泉に一度集めて、祭壇へと送り込んでいるのかしら?」

 

「温泉に集めてか……

 まさかとは思うが、《暗黒竜》が増えて復活するなんて事はねえよな?」

 

 クロウは確認のため尋ねる。

 元は暗黒竜だったイオがいるため、その可能性は低いのだが帝都中に霊脈を一纏めにしているという実験は暗黒竜復活の儀式を彷彿とさせる。

 

「その心配はないと思うわ……

 この温泉そのものには邪気は感じない……でも入ったりしない方が良いわね……

 霊的な濃度が高過ぎて常人だと精神が溶け出しかねないわ」

 

「おっかねえ温泉だな」

 

 イソラの答えにクロウは首を竦める。

 一方で――

 

「あれは……?」

 

 クルトは温泉の向こうに作られた祭壇に顔をしかめた。

 

「どうしたんだいクルト?」

 

「あれは太陽の砦にあった“揺籃”? どうしてこんなところにあんなものがあるんだ!?」

 

 クルトはセドリックにそう返しながら考え込む。

 クロスベルの古戦場の遺跡。

 その最奥にあったキーアが眠っていたとされる“揺籃”。

 しかし、その祭壇には雑に様々なオーブメントが取り付けられており、あの時に感じた神秘性は損なわれていた。

 

「見て、導力ポンプにゴスペルが付いてる」

 

 ユウナに言われて見れば、確かに導力ポンプには黒いオーブメントが取り付けられていた。

 

「でも対導力停止現象の装置のゴスペルがどうして導力ポンプに?」

 

「んーあの祭壇の“揺籃”には何が入ってるんだろう?」

 

 ユウナの疑問にミリアムは黒ずんだ水晶の中を覗き込もうと目を凝らす。

 

「元々ゴスペルは導力停止現象に対抗する装置ではありません……

 “揺籃”にはキーアが封じられていたと資料にはありましたが、この場合だと……」

 

 アルティナは考え込むが、判断材料がなく結論を出すことを諦める。

 

「それよりもワイスマンはどこに行ったのでしょう?」

 

 アルティナは油断なく寝所だった浴所を見回す。

 

「ふ……よく来たね」

 

 と、その声と共にリュートの音色が広間に響き渡る。

 

「我が仮初の宿へ、歓迎させてもらおうトールズ士官学院の生徒たちよ」

 

 リュートを爪弾きながらアルティナ達を出迎えたのは仮面にフードを被った《残滓》の一人である《銃使い》。

 それに従うように《人形遣い》がいる。

 彼らの他に、ワイスマンの姿はなく、また戦術殻に取り込まれた仲間たちの姿もない。

 

「貴方が《残滓》……

 ワイスマンの協力者ですね。僕はセドリック・ライゼ・アルノール……

 皇族として貴方に問おう。この帝都の地下で君たちはどんな実験をしようと言うんだ?」

 

「そう殺気立たないでくれたまえ、僕たちはささやかな実験をしているだけで、帝都の人たちに迷惑をかけるつもりはないさ」

 

「そんな事言って、霧の魔獣の事件だって貴方達の仕業だって分かっているのよ!」

 

 惚ける《銃使い》にユウナが声を上げて反論する。

 

「ああ、それについては心苦しいとは思っているよ……

 しかし帝都の人々の中にはある“因子”があってね。それを取り出すためには仕方がないのだよ……

 少し前まではそれでも時間を掛けて少しずつ回収していたけど時間がなくてね。やむを得ず少し乱暴な手段を取ってしまった」

 

「なんですって!」

 

 悪びれた様子を見せない《銃使い》にユウナは眦を上げる。

 

「この際です。実際に死亡した人がいないからその事についてひとまず置いておくとして……

 その帝都の民から奪った“因子”を使って何を企んでいる?」

 

 追及するよりも話を進めることをセドリックは優先して質問を重ねる。

 

「ノンノン、奪ったとは人聞きが悪い。僕は“因子”を返してもらっただけさ……

 彼らにはもう必要のないものだ」

 

「……意味が分からないな。君はいったい何者なんだ?」

 

「さて、僕はいったい誰なのだろう?」

 

 セドリックの問いに《銃使い》は肩を竦めて惚ける。

 

「何を企んでいるか、そうだね……

 君たちは《第二次塩の杭発生事件》を知っているかな?」

 

「それは……知っているも何も僕はあの場にいた当事者の一人だ」

 

「それなら話は早い……

 簡単に言ってしまえば、僕たちがしようとしている事は“それ”と同じさ」

 

「同じ……まさか……!」

 

 最悪の可能性を思い浮かべてクルトは絶句する。

 

「第二の《塩の杭》はノーザンブリアに蔓延する塩化病の因子を幻の《グノーシス》によって統合して錬成された……

 僕たちはそれにあやかって、この帝都に散りばめられた“因子”を《グノーシス》を使って統合しようとしているのさ」

 

 《銃使い》は振り返り、祭壇に掲げられた黒ずんだ“揺籃”の水晶を見上げる。

 

「まさか帝都で《塩の杭》を作り出すつもりか?」

 

「いいや。できるとすれば《塩の杭》ではなく《塩の杭》の力を取り込んだ聖痕……

 それとも新たな《零の御子》になるのか。それとも――」

 

「裁定は決まった“有罪”」

 

 《銃使い》の言葉を遮ってセドリックは剣を彼に突き付ける。

 

「ふむ……

 僕たちの予想では《塩の杭》が錬成される可能性はほぼないはずなんだけどね」

 

「万が一でも帝国の皇子として、そんな可能性は見過ごすことはできない……

 それに貴方の言葉は信用できない」

 

 セドリックは吐き捨てるように告げる。

 

「…………ああ、そうだろうね」

 

 《銃使い》はどこか諦めきったようなため息を吐いた。

 そしてガコンと大きな音が広間に響いた。

 

「っ――何が!?」

 

 音に反応してクルトは周囲を見回す。

 

「水道橋の一つが……」

 

 イソラはそれまでか細い水を落としていた水道橋の一つから水が溢れ出して滝となる姿に目を見張る。

 

「どうやら一つの戦場で《叡智の杭》が無事に役目を果たしてくれたようだ」

 

「ん……」

 

 《銃使い》の言葉にその背後に控えていた《人形遣い》は言葉短く頷く。

 

「四つの水路が解放されれば、この帝都の地に染み付いた“因子”はこの浴場に集まる……

 《聖痕》の錬成を阻止したければ、ボクたちを倒すことだ」

 

「っ――総員戦闘準備!」

 

 セドリックの号令に一同はそれぞれの武器を構える。

 そしてそれに対抗するように《銃使い》は導力銃を、《人形遣い》は二体の戦術殻を出現させる。

 

「っ――《クラウ=ソラス》、《フラガラッハ》……」

 

「アーちゃん?」

 

「……大丈夫です」

 

 敵に回った二つの戦術殻にアルティナは振り払うように首を振り、《銃使い》に尋ねる。

 

「先に聞きます……

 リィンやミュゼさん達はどこに隠したんですか?」

 

「リィン・シュバルツァーはここからそう遠くない場所に転移させたらしい……

 ミュゼ君たちに関しては、そこにいるよ」

 

 《銃使い》は水道橋を見上げると、そこには先程までいなかったはずの戦術殻を纏った者たちがいた。

 

「ミュゼさん……」

 

「フリッツに、エイダ、クリス……それにシャーリィ」

 

「ギデオン……」

 

「えっ!? あの銃ってまさかクレアさん?」

 

 四つの水道橋の上に立つ姿にユウナは驚き、クルトは舌打ちする。

 

「っ……不覚。上を取られたか」

 

「安心して良いよ。彼らには手出しはさせないし、人質として使うつもりもない……

 ただ《人形遣い》が水道橋を壊さないための保険さ」

 

「むー」

 

 おどけた調子でしゃべる《銃使い》に《人形遣い》は不満と言わんばかりに唸る。

 

「さあ、見極めさせてもらおう……

 未完の叙事詩を再び綴る一ページとなるかどうかを」

 

 

 

 

「これで仕舞やっ!」

 

 ゼノが蜘蛛の巣に仕掛けた導力爆弾を撃ち抜けば、一つの爆発が連鎖して三体の禍々しい蜘蛛たちを爆炎で燃やし尽くす。

 

「はあっ!」

 

「おおおおっ!」

 

 ユーシスとルーファスが新たに現れた一際大きな親蜘蛛に向かって息を合わせた連続突きを繰り出し、止めを刺す。

 

「ほう……やるじゃないか」

 

「どこを見ているっ!」

 

 《c》は呼び出した蜘蛛たちが撃破されていく様に感心した呟きを漏らし、アイネスがハルバードを振り下ろす。

 

「ふっ――!」

 

 《c》の棒が大きなバルバードの刃を側面から叩き弾く、同時に棒は回転してアイネスが態勢を直す前に薙ぎ払われる。

 

「くっ!」

 

「旋風輪っ!」

 

「むっ!?」

 

 棒はアイネスの体を乗せるように一回転して、背後から忍び寄ったレオニダスへと叩きつけられる。

 

「そこっ!」

 

 子供の体で大の大人二人をまとめて投げ飛ばした《c》に驚きながらも、エンネアは三又の矢を放つ。

 

「んっ!」

 

 しかし矢は《c》に当たる前に《OZミラージュ》が放った光線によって撃ち落とされる。

 

「流石一流の猟兵と鉄機隊、そして貴族の貴公子たちと言うべきかな?

 やはり《神速》を脱落させておいて正解だったようだ」

 

「それはこちらの台詞だよ……

 悪魔と人形はともかく、子供の君一人にここまで粘られていては、天才と持て囃されてきた身としては恥ずかしいばかりだ」

 

 《c》の称賛にルーファスもまた称賛を返す。

 

「だがお前たちの蜘蛛は倒した……

 ここからは全員でお前を倒させてもらう」

 

 ユーシスは《c》に剣を突き付けて宣言する。

 

「ふ……果たして君たちにそれができるかな?」

 

 《c》が余裕の態度を崩さずに挑発するように言い返す。

 

「はっ! 強がるのもええ加減にしとけよ。俺らがその本気でやれば――」

 

「コオオオオオオオオオッ!」

 

 ゼノの言葉を遮って、《c》の呼気が広間に響き渡る。

 

「っ……この闘気は……」

 

「はあああああああああっ!」

 

 次の瞬間、力は収束し《c》は黒き闘気を纏う。

 

「ウォークライだと!?」

 

 最高位の猟兵にしか使えない黒き闘気を迸らせる《c》にレオニダスは驚愕する。

 

「まさかこいつは!」

 

「何か知っているのか《罠使い》?」

 

 《c》の纏う凶悪な気配に警戒心を強めながらアイネスはゼノに聞き返す。

 

「風の噂程度の話やけど、あいつは……オルランドの隠し子かもしれへん」

 

「ほう……オルランド君の隠し子か……

 しかし彼の棒術はおそらく――」

 

「皆の者、その話は後だ。来るぞ」

 

 ルーファスがゼノの言葉を吟味すると、ユーシスの警告が響き渡る。

 その声に一同は気を引き締め直して――最後列にいたエンネアが突き飛ばされた。

 

「なっ!?」

 

「捻糸棍」

 

 《c》は技の名を呟きつつ、動揺したアイネスに襲い掛かる。

 

「くっ――」

 

 跳び込むように上段から棒を振り下ろし、連続突きで打ちのめし、一撃二撃と左右の薙ぎがアイネスを殴りつける。

 

「砕け散れ――桜花無双撃」

 

 《c》は棒の最端を持って遠心力を乗せた一撃でアイネスの兜を割るほどの一撃を叩きつける。

 

「こいつ――くっ!?」

 

 レオニダスはアイネスの体を盾にされて怯み、《c》はその隙を使って次の瞬間には彼の背後に回り込んでいた。

 

「烈波――」

 

 アイネスに繰り出した連続突きを《c》はレオニダスの分厚い背中に浴びせ――

 

「――無双撃」

 

 とどめの一撃に痛烈な横薙ぎの一撃を浴びせ、ゼノに向かって吹き飛ばす。

 

「うおっ!? ぐはっ!」

 

 レオニダスを躱したゼノに投擲された棒が命中して怯み、《c》は棒を回収しながらゼノを踏み台にして叫ぶ。

 

「リルティナ」

 

「んっ!」

 

 《OZミラージュ》はその呼び声に応えて、空中で《c》の手を取り――

 

「《ARCUS》駆動」

 

 導力の炎が《C》に宿る。

 そのまま《OZミラージュ》は宙を大きく舞い、手を繋いだ《c》を加速の勢いのままルーファス達に向かって投げ放つ。

 

『合技――鳳凰烈波』

 

 巨大な火の鳥を模した炎が迫る。

 

「ユーシス合わせろ!」

 

「っ! はいっ!」

 

 ルーファスの呼び声にユーシスは頷き、戦術リンクを結ぶ。

 その瞬間、彼の戦略を察したユーシスはルーファスと肩を並べて、剣を構える。

 

「合技――」

 

 ユーシスは右手に――ルーファスはあえて左手に剣を構え――二人は剣を並べるように凍気を込めた刺突を繰り出す。

 

『クリスタルランサーッ!』

 

 二つの刺突が一つになって繰り出される氷の一撃。

 炎の一撃と氷の一撃が激突する。

 

「くっ!」

 

 その衝撃にユーシスは顔を歪め――《c》は弾き返されて着地した。

 

「ふっ……なかなかやるな」

 

「化け物め」

 

 余裕を崩さない《c》にユーシスは思わず悪態を吐く。

 小さな体でありながら、黒き闘気を纏うその膂力は大人顔負け。

 棒という殺傷能力が低い武器でなかったら、既にこの場にいる何人かは死んでいたかもしれないとユーシスは考える。

 

「さて……ん?」

 

 棒を構え直して《c》は不意に振り返る。

 

「何だ?」

 

 釣られて視線を彼の背後にやれば、杭のオーブメントが光を放ち、幾何学模様の魔法陣を空中に描き始めていた。

 

「どうやら時間のようだな」

 

「しまった」

 

 ユーシスはいつのまにかそれの存在を“認識”することを忘れていた失態に気付く。

 

「間に合うか!?」

 

 咄嗟に《ARCUS》を駆動して導力魔法の準備をするが、その間にも魔法陣は大きく広がり――

 

「悪いなあ……それは止めさせてもらうわ」

 

 ゼノが手元のスイッチを押した瞬間、天井から杭の周囲に槍が降り注ぎ――着弾と同時に爆発する。

 

「くっ……」

 

 爆風から顔を守り、やり過ごした後にはもうそこに杭のオーブメントは破壊されたオブジェクトになっていた。

 

「これで俺らの勝ちやな」

 

「さあ……それはどうかな?」

 

 勝ち誇るゼノに《c》は焦りなく応える。

 

「はっ、負け惜しみを――」

 

「“闘争”のエネルギー受諾完了――」

 

 無機質な、淡々とした人形の言葉が響く。

 

「Sウエポン駆動――《叡智の杭》セット」

 

 機械の塊のような銀の槍をその装甲をずらし、広げて穂先に銀に輝く刃を生み出す。

 

「ワイスマンが言ったいたはずだ……

 《グノーシス》を持っているのは《OZミラージュ》だと」

 

「っ!」

 

 その言葉にゼノとエンネアが導力ライフルと弓を構え――

 その言葉にレオニダスとアイネスが駆け出し――

 その言葉にルーファスとユーシスが導力魔法を駆動し――

 そんな彼らを迎え撃つために《c》は棒を構え――

 

「プリズムキャリバーッ!!」

 

 彼らの全ての反応を置き去りにして、広間に吹き抜けた《神速》の一刀が《OZミラージュ》を斬り伏せた。

 

「デュバリィッ!?」

 

「レオンハルトはどこですかっ!?」

 

 《OZミラージュ》を斬り捨て、デュバリィは怒りのまま叫ぶ。

 その姿にアイネスとエンネアは苦笑し――

 

「まだだ!」

 

 ユーシスが叫ぶ。

 

「っ!」

 

 体を斬断された《OZミラージュ》はそのまま銀の槍を地面に向けて突き立てた。

 

「こいつっ――」

 

 追撃を仕掛けようとしたデュバリィだが、《c》の棒がそれを阻む。

 

「任務完了…………この端末は放棄します」

 

「ああ、お疲れさま」

 

 最後にそれだけ言い残して《OZミラージュ》は動かなくなった。

 応えた《c》はそんな《OZミラージュ》を無防備に、隙だらけになって見下ろしていた。

 不気味な沈黙にユーシスたちは油断なく身構え――

 

「やはり何も感じないな」

 

 《c》は小さく呟いた。

 

「さて、どうやら君たちは目的を達成したようだが、私たちはどうするべきかな?」

 

 ルーファスは周囲の変化を観察しながら《c》に尋ねる。

 もしも《グノーシス》が霊脈に撒かれてしまえば、プレロマ草が現れると聞いていたがその兆候はない。

 また空気に上位三属性が働き始めた独特の空気もない。

 

「さあな……これ以上俺にも戦う理由はない」

 

 《c》はそう言って指を鳴らすと、彼の周囲に転移魔法が駆動する。

 

「待てっ!」

 

 ユーシスが叫ぶが、その時にはもう《c》の転移は終わっていた。

 残ったのは《OZミラージュ》と杭の残骸。

 そして床に突き立ったままの槍のSウエポンだけだった。

 

「…………してやられたか」

 

 アイネスは割れた兜を脱ぎ、ため息を吐く。

 

「はあ……依頼失敗か……」

 

「まさかここにいる全員の目を欺くとはな。奴らの方が一枚上手だったという事だろう」

 

「ですが、これで本物の《C》への借りは返せたと言えるんでしょうか?」

 

 エンネアの呟きに一同は思わず口を噤む。

 結果だけを見れば、自分たちは《c》の企みを阻止することはできなかった。

 つまりクロウが求めた仕事を果たせなかったことになる。

 正式に依頼されたわけではない。

 過去の弱味と今の利害から一時的に協力しただけなのだから気にする必要はないのだが、一流のプライドがこの結果に不満を感じていた。

 

「…………ユーシス、君はあの《c》と戦って何か感じた事はないかな?」

 

「あに……ルーファス総督、それはどういう意味でしょうか?」

 

 ルーファスに話しかけられたユーシスはその質問の内容が理解できず首を傾げる。

 

「いや……君がそう言うなら私の勘違いなのだろう……

 とりあえずヴィータ君に報告して指示を仰ごう」

 

 ルーファスは何かを考え込みながら、そう提案し――

 

「兄上……いえ、ルーファス・アルバレア……お話があります」

 

 今度はユーシスがルーファスに話しかけるのだった。

 

 

 

 

 

 

「みししーっ!!」

 

「さよなら……ワルみっしぃ……貴方の事は決して忘れません……」

 

「まだよ杭が動き出したわ……じゃなくて動き出したぞ!」

 

「みんな! 杭じゃない《OZミラージュ》を止めてっ!」

 

「何っ!?」

 

「《叡智の杭》シュート!」

 

「しまった!」

 

「やられましたね」

 

「てめえ、待てこら!」

 

「さらばだ! MISHISHI!」

 

「やれやれ、まんまと出し抜かれたみたいだね」

 

 

 

 

 







《叡智の杭》
穂先をグノーシスの結晶で作り出したSウエポン
穂先は脆く実戦ではほぼ使い物にならない
場の闘争エネルギーを霊脈に刺した杭のオーブメントが集めて、Sウエポンに送ることで《グノーシス》として活性化させて霊脈に干渉できる状態にした

構造的には閃Ⅲの各地で行われた実験
闘争のエネルギーで神機の起動実験を行っていたものと原理的には同じです

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