ダンジョンのある世界に転生したのは間違っているだろうか   作:舌百

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第三十話 湖畔(チチェン)

「ここが…アストランの都市…!」

 

 都市の門と番兵のチェックを通過した私たちは都市、チチェンの中へと足を踏み入れていた。

 広い1本の大通り、正面にそびえる巨大な神殿に圧倒される。大通りにはところ狭しと左右いっぱいに店が出ており人の往来も非常に活発だ。

 家も神殿も非常に綺麗な色彩で彩られており、ここがオラリオから離れた果ての地であるという事を忘れてしまいそうになる。

 

「チチェン、意味は泉のほとり。この周辺じゃ最も巨大な神殿のある都市」

「神殿は都市ごとにあるの?」

「うん。我々アストランの民は都市ごとに一つの神を祀る。この都市一つ一つが巨大なファミリア」

「まあそうなるさね」

 

 私たちの背後、ケツァルの換金に出ていたサンタムエルテ様が会話に混ざってくる。

 

「あっ、てことはサンタムエルテ神もかつては都市を…?」

「いやまさか。アタシはアストランの木っ端神だったさ。あそこは、オラリオのような多神都市だからね」

「しっかし、半島の名前もアストラン、都市の名前もアストランだと混ざるっすね。なんか別の名前ないんすか?」

 

と同様に換金の護衛から戻ったコリネウスさんがフラカちゃんに尋ねる。

 

「うん、都市の方をオメアトランってもたまに呼ぶからそっちにしようか」

「どっちにしても分かりづらいけど違うだけマシっすかね」

 

 異国語かつ横文字の馴染みのない名前って、すぐ覚えらんないよね。えっと、この半島はアストラン、都市のほうがオメアトラン…ね。よし、覚えた。覚えたぞぉ。

 アストラン、オメアトラン…とうわ言のようにつぶやいているとリィヤちゃんがあっ!と声を出す。

 視線の先には何やらご飯の屋台。時刻はそろそろおやつ時、お腹が空いてくるころだ。

 それはそれとしてついさっきまで何か食べてなかったっけ、リィヤちゃん。

 

「ちょっと私行ってきまーす!」

 

とリィヤちゃんは勢いよく駆け出してしまった。が、すぐに戻ってくる。

 

「言葉わかんなかった!」

 

 その後、フラカちゃんの仲介もあっておやつを入手した。手のなかには紙袋にくるまれた、サンドイッチ。

 いや、違う。とうもろこし生地にトマトと玉ねぎ、そしてそぼろ状のお肉が挟まったやつ。これタコスだ!

 薄々思ってたけどひょっとしなくてもここってメキシコ、マヤ文明ってやつだ。デ◯ズニーシーのロストリ◯ーデルタまんまじゃん。

 マヤ文明ってテレビとかでヤバい儀式とかしてるところって印象あるけど、なんかめっちゃ明るい。フラカちゃんのホームからは想像できないな…これ。

 

「おいひ〜ね!のくひあ!」

「うん、美味しいね。あ、ほっぺについてる」

 

ハンカチでリィヤちゃんの頬を拭う。

 

「んふふ、ありがとー」

 

 むふ〜という太陽のような笑顔、めっちゃ振ってる尻尾、リィヤちゃんやっば可愛いなぁ。ほっこりしてると後ろから凄い視線を感じる。

 パシウスさんだ。とんでもない笑顔でこっちを見ている。あの、口角が目尻にまで届いてますよ。

 

「パシウス、すごい顔をしているな」

 

と傍らのアルバートさんに突っ込まれてレディの顔になんてことをと言いながら表情をもとに戻していた。

 現在の目的地はすでにフラカちゃんが取ってくれている宿。そのために神殿の目の前に来たのだが、そこには巨大な泉があった。

 

「すっごいおっきい泉…」

 

と、数日前の夢の湖をフラッシュバックさせながら綺麗な水に感動する。

 ふと風が強く吹いた。吹き飛ばされそうなくらいの強く、そして爽やかな風。

 

「良い泉だろう」

 

背後、いや吹き抜けた先。神殿の上から声がする。

 目を向ければ巨大な翼を持つ女性が、神殿からゆっくりとした足取りで降りてくるのが見える。

 

「客人とは久しい。俺もつい出てきてしまった」

 

その神物は、翡翠色の髪の毛に同じ色の巨大な翼、そして同じ色の巨大な尾を持つ女性といった様子である。

 

「と思ったが、稀人だけでなく同胞もか。久しいな、サンタムエルテよ」

「覚えてるなんてあんたらしくもないねぇ。ククルカン」

「ククッ、我らアストランの神々の嬰児の名を忘れるわけがなかろう。そちらの痩せぎすの女も、久しいな」

 

 そう一瞥されたフラカちゃんは片膝をついて平伏する。彼女の目はアルディアちゃんのような蛇を感じさせるものだ。直接見られているわけでもないのに凄い威圧感を覚える。

 

「して、何用だ?」

「言う必要があるのかい?」

「なぁに、気になっただけよ。久方ぶりに孫家族が帰ってきたのだ、理由の一つくらいは聞いてもよかろう」

「アタシは立派なババアだってのにねぇ。目的はチコモストクだよ」

「…ほう」

 

それまでの飄々然としたククルカンの表情が消え、真剣なものとなる。

 

「なれば大衆の前でする話ではないな。許す。上がれ」

「アタシたちはもう休むつもりだったんだが…ってあの自由なる風(ククルカン)が聞くわきゃないね。少し話してから休むことになるよ、付き合わせるね」

「私はいいよー!みんなもいいよね?」

 

とリィヤちゃんが我らメンバーに確認を取る。

 どれだけ可愛くても、どれだけ幼そうに見えても、リィヤちゃんは副団長。こういうところでは音頭を取ってくれるのでやっぱり副団長だなというのが見れる。

 団員皆で二つ返事をして、民衆の目線を集めながら石段を登った。

 

 

 神殿の中は薄暗く、奥に石を切り出しただけの椅子とその前に多彩色の茣蓙が引かれているのみだ。

 うっすら差し込む日の光とパチパチと数本燃える松明だけの光源のなか、彼女は不遜に椅子に座った。

 やけに暗い。外の明るさと比べて1枚黒色のベールがかけられてるような暗さだ。そして、全身を重圧を襲う。前を向けない。

 

「座るがいい」

 

そう促されるままに、正座で座る。他の人たちは胡坐だったり女の子ずわりだったりまちまちだ。

 

「して、なぜあんなところに?俺の知らぬ若い時代の産物だが何もないことくらいは知っている」

「あんたらからすればだろう?アタシには、あるんだよ」

「まだ、憧れを捨てられないか。若いとは良いな」

 

 そういうとククルカン様は、いとおしそうに目を細める。まるで本当の娘や孫を見るような目で、サンタムエルテ様を見ている。

 

「ババアに向ける目じゃないよ、気色悪いねぇ」

「クク、しかし急ぐなよ。あの鍵の香りはミクトランのそれに近い。何かを呼び起こしかねんぞ」

「....あんたが言うならそうなんだろうね。肝に銘じておくよ」

 

 はたからサンタムエルテ様とククルカン様の話を聞いているけど、理解できねぇ~~~~。固有名詞多すぎるかも。

 そう思い周りを見るとリィヤちゃんはポーっとどこかを見つめて動かなくなっていて、パシウスさんはメモをこそこそと取っている。コリネウスさん、アルバートさんは二人して目を合わせあって何の話なんだろうな、という顔をしている。

 さすがレベル2の冒険者たち。この重圧に負けず普通にしている。しかし、皆分からないのは私と同じだ。

 

「では、好きに楽しんでゆくとよい客人よ。くれぐれも我らが娘をよろしくな」

 

 ククルカン様が立ち上がるとふわっと空気が軽くなる。先ほどまでの光度の低い神殿の中が明るさを取り戻す。

 沈みかけの夕日が神殿の中を赤く照らす。影の強かった空間が松明のオレンジによって光で満たされる。

 

「情報漏れを避けるためとはいえ神威で空間覆うかね...子供たちが委縮しちゃってるじゃないか」

「神とは常々恐ろしいものだ、良いことではないか」

「その時代はとっくのとおに終わったんだよ。今は善良な神の時代さね」

「そんなもの、か」

 

 サンタムエルテ様のククルカン様への小言を最後に我々は神殿を後にした。最後に見たククルカン様はどこか遠いところ、過去を見ているような憂いを帯びた表情をしていた。

 

 ところ変わって宿屋の一室。

 ベッドに座るフラカちゃんとサンタムエルテ様を我ら5人各々椅子に座ったりしながら話を聞く。

 

「ここまでバレちゃったなら、全部話す。構いませんね、我が神よ」

 

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