幻想郷食堂   作:storyblade

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メニュー11「ロースカツ・ヒレカツ・カツ丼」

博麗神社

 

 

霊夢

「……」サッサッサ…

 

幻想郷に異世界食堂の扉が現れるようになってからひと月以上が経った頃。ここ博麗神社では霊夢が竹箒を持ってひとり境内の掃除をしていた。ちなみに参拝者はひとりもおらず閑古鳥状態。これがここの日常的な光景である。博麗神社は山の奥地、周囲が森という僻地にあり、立地条件は決して良くないものの、以前は参拝者も少なくなかった。しかし霊夢が巫女になり、更に望んでもいないのになぜか彼女が不思議と人間以外の存在に好かれるらしい性質である事から徐々に妖怪が集まる様になり、今では定期的に妖怪達による宴会が開かれることが多くなっている。それを恐れて以前以上に人が寄り付かなくなったのだ。更に数年前にとある事情で別の神社が現れた事も重なり、最も神社が忙しい初詣の時以外殆ど閑古鳥なのである。

 

サッサッサ……「……暇ねぇ」

 

掃き掃除の手を止め、悪態をつく霊夢。

 

角が生えた緑の髪の少女

「霊夢さ~ん。倉庫の掃除終わりました~!」

 

するとそこにひとりの少女がやってきた。カールがある長い緑髪で額には一本角があり、耳は狛犬の耳。そして尻尾がある。着ているのは半袖のシャツと短パン、素足の下駄とかなりラフな格好である。

 

「ああありがとあうん。ちょっとお茶にしましょうか」

 

「はい!」

 

 

…………

 

一緒に縁側でお茶を飲むふたり。神社の周りの山にはポツンポツンとだが赤い色が見える。季節は秋に近づいている様だ。

 

「もうすぐ秋ねぇ…」

 

「早いですね~」

 

「ええそうね…」

 

だが霊夢はどこか拍子抜けしている様子である。

 

「…どうしました霊夢さん?」

 

「だってあうんの言う通り最近全く平和なんだもの」

 

「…?平和じゃダメなんですか~?」

 

「平和なのは良いけどさ~。それだけうちが頼られる機会が無いって事じゃないの~。タダでさえうちは妖怪達が来るせいで人が来る事がないのに。妖怪退治の依頼も無いし~」

 

「あ、あはは…すいません」

 

「あああうんが悪いって言ってんじゃないのよ?あんたはうちを盛り上げる方法について色々考えてくれてるしさ」

 

霊夢の言う通り、あうんは例えば何らかのイベントが幻想郷であった時、そこで流行っているものやイベントの盛り上げ方を覚えてそれを博麗神社で行ったりしている。こう見えて彼女は結構神社の運営に結構貢献しているのだ。ただそれが実を結んでいるかは別の話だが。

 

「まぁそんな訳で異変とまではいかなくても何か起こってくれてもいいな~って思ったわけ」

 

「そんな事言ったら紫様や歌仙さんに怒られますよ?」

 

「…おっとそれは勘弁ね。あはは」

 

笑う霊夢とあうん。

 

「せめて異世界食堂の扉が現れてくれたらな~」

 

「それって…前に霊夢さんが言ってた外の世界のご飯屋さんでしたっけ?確か七日に一回しか出ないっていう」

 

「そ。最初に香霖堂でみてから白玉楼や紅魔館、そして一番最近じゃ迷いの竹林にも出たって話。うちにも出てくれないかしら」

 

「そのイセカイショクドウ?の扉ってひとつしかないんでしょうか?」

 

「さ~ね~。もしかしたらいろんな場所に現れてるかもしれないけど…もしそうなら猶更うちにも出てきてほしいわ~」

 

そう言って後ろにごろりんと倒れながらため息をつく霊夢。

 

「はは。…さて、私はちょっと見回り行ってきますね」

 

そう言ってあうんは立ち上がり、正面の方に向かって走っていった…その時、

 

「……れ、霊夢さん!ちょっと来てください!」

 

突然自分を呼ぶあうんの声。霊夢は起き上がってあうんの行った方向に向かう。

 

「どうしたのよあうん……!」

 

そして霊夢は見た。博麗神社の大きな鳥居の丁度真下に、普段は絶対にない、見覚えのある猫の看板が掲げられた木の扉が。

 

「な、なんでしょうあの扉!?あんなものはさっきまで」

 

とその時、あうんを目一杯なでなでする霊夢。

 

「いたた!ちょ、ちょっと霊夢さん痛いですってば」

 

「あうん~!お手柄よ!まさかねこやの扉をみつけてくれるなんて!」

 

「い、いえ見つけるってあんなとこにあったら誰でも」

 

「細かい事は言いっこなし!まさかほんとに出てくれるなんて~♪」

 

「で、出るって…まさかこれがさっき言ってたイセカイの?」

 

「そういう事よ♪んじゃ早速」

 

 

「ちょっと待ったー!!」

 

 

「…今の声は…」

 

その時上空から猛烈なスピードで近づいてくる何かがあった。それは霊夢とあうんの元に近づくと急ブレーキで速度を落として地面に着陸した。

 

 

キキィィィィィィィィ!!!「よっと!」

 

 

「あ、貴女は…!」

 

「ちょ、驚かすんじゃないわよ魔理沙!」

 

やってきたのは魔理沙だった。高速で飛んできたためか息が荒い。

 

「ハァ!ハァ!私に黙って抜け駆けしようなんてそうはいかないぜ!あうん水くれ!」

 

「は、はい~!」

 

「抜け駆けって何よ。てかアンタよく扉がここに現れたってわかったわね?」

 

魔理沙はあうんが持ってきた柄杓の水を飲んで説明した。

 

「ゴクゴクゴク…ふ~。何も不思議がる事はない。異変あるとこに霊夢あり。霊夢の隣に霧雨魔理沙ありだ!」

 

「か、かっこいい…!」

 

カッコつける魔理沙にあうんは目を輝かせていた。

 

「とまぁ冗談はさておき、流石のお前も知らなかったようだな♪実はここにこっそり魔法をかけといたのさ。不思議な魔力の動きがあったらすぐにわかるようにな」

 

「……は~!?何よそれ!」

 

「それで今回、てかついさっき反応があったからブレイジングスターでかっ飛んできたって訳だ♪間に合って良かったぜ。まぁでも心配するな。一日経ったら魔法は消えっから」

 

「そういう事じゃなくてうちに何勝手な事してくれてんのよ!」

 

「いいからいいからそんな事より扉だろ扉。誰か来ないうちにさっさと行こうぜ~♪ほらほらあうんも!」

 

「え?わ~!」

 

「ちょ!もう!覚えときなさいよ!」

 

魔理沙があうんの手を引いて一足先に扉を開けて入っていったのを見て、霊夢も仕方なく怒りを抑えつけて追いかけたのであった。

 

「い、今の扉は……!?」

 

 

…………

 

 

~~~~♪

 

 

温かみがある店内。火の光とは違う証明。見た事無いインテリア用品。扉を開けるとそこは異世界食堂、ねこやの風景が広がっていた。満席ではないものの今日も盛況の様だ。

 

「「こんにちわ~♪」」

 

(いらっしゃいませ)

 

「あ!レイムさんマリサさんいらっしゃいませ!」

 

対応する角が生えた金髪の少女と黒髪の少女。勿論アレッタとクロ。その声を聴いて厨房の方から店主も顔を出す。

 

「…お、いらっしゃい霊夢さんに魔理沙さん」

 

「おう!久しぶりだなアレッタ!クロ!おっさん!」

 

「久しぶりに食べに来たわよ♪」

 

「ありがとうございます」

 

喜ぶ霊夢と魔理沙。一方初めて見るあうんは驚きを隠せない。

 

「れ、霊夢さん魔理沙さん!なんですかここ!?」

 

「ああそういやあうんは初めてだったな。ここがねこやっていう外の世界の料理屋だぜ」

 

「いらっしゃいませ。ようこそ洋食のねこやへ!」

 

「あうんも挨拶しなさい。大丈夫よ。悪い人達じゃないから」

 

「は、はい。狛犬の高麗野あうんです!宜しくお願いしますです!」

 

ペコリと頭を下げて挨拶するあうん。

 

「私はアレッタと言います!宜しくお願いします!」

 

アレッタも挨拶し、

 

(…クロと申します)

 

続けてクロも挨拶した。

 

「!!!」

 

すると突然激しく吃驚した様な表情を見せたあうんは霊夢の後ろに隠れた。

 

(あ、あわわわわわ…!!)

 

(…?どうかなさいましたか?)

 

「ああ大丈夫大丈夫。この子ちょっと恐がりなだけだから。それより席空いてるかしら?」

 

「あ、はい。それではこちらにどうぞ!」

 

アレッタに誘導されて席に着く霊夢、魔理沙、あうん。とりあえず一息ついた時、あうんが隣の霊夢に話しかけた。

 

(れれれ、霊夢さん!あの黒い髪の女の人って一体なんなんですか!?)

 

あうんの能力は「神仏を見つけ出す程度の能力」。それによって無意識的にクロが普通とは違う事をあうんは感じ取った様だ。

 

(…わかってるわよあうん。あの人、いえ正確には人じゃないか。もの凄い力を持っている…。多分幻想郷のあらゆる神々よりもね。でも敵意は感じられないから大丈夫よ)

 

(それにこっちの世界の奴は幻想郷には来れないらしいから心配しなくても大丈夫だぜ)

 

(わ、わかりました…)

 

「おお久々だな貴公ら。息災か?」

 

「あ、エビフライのおっさん」

 

「お、おっさん!?」

 

「レイムにマリサだっけ。元気してた?」

 

「えっとメンチカツさんだっけ?まぁぼちぼちってとこね」

 

霊夢と魔理沙は久しぶりに会った異世界食堂の客達と挨拶を交わした。

 

 

…………

 

(こちら、おしぼりとお冷、そしてメニューです。ご注文がお決まりになりましたらお呼びください)

 

暫くしてクロが三点セットを持ってきて再び下がっていった。それにぽかんとするあうん。

 

「……」

 

「このテレパシーも彼女の会話法みたいなの。慣れたら大丈夫よ」

 

霊夢と魔理沙とあうんはとりあえずメニューを開く。…が、霊夢は何を注文するか決めていたようで。

 

「私はもう決まってるわ。ロースカツよ!」

 

「また肉かよ霊夢」

 

「当然よ。前に食べれなかったからね。あとそれとあのビールっていうお酒。次来た時に飲んでみたかったのよね~」

 

「私も酒は…そのビールってやつ頼んでみようかな。前はエビフライだったから今日は私も肉を頼んでみたいが揚げ物は……お?」

 

すると魔理沙は気になるメニューがあったのかアレッタを呼ぶ。

 

「なぁアレッタ。このヒレカツってのはロースカツとどう違うんだ?」

 

「えっとですね…豚肉のヒレっていう部分を使っててロースカツよりも脂は少ないんですけど、その分あっさりしてて柔らかいのが特徴です」

 

「へ~あっさりしてんのか。んじゃ私はそのヒレカツってやつとビールにするか」

 

「私はロースカツとビールでお願いね。あ、パンじゃなく白ご飯とお味噌汁で」

 

「私も同じで頼むぜ」

 

「はい!畏まりました!」

 

「あうんはどうする?」

 

「え、えっとちょっと待って下さい!」

 

そう言ってあうんがメニューを覗き込んだが待たせると悪いと思って霊夢と一緒のものにしようかなと思い始めた…その時、

 

 

バタンッ!~~~~♪♪

 

 

ねこやの扉がいつもよりも勢いよく開かれた。

 

「あー腹減ったー!」

 

そして同時に大きい声で入ってきたひとりの客がいた。全身筋肉隆々の至る所に戦傷の様な跡がある強靭な身体で腰巻と肩当を付けた大男。…いやただの大男ではない。尻尾と見事なたてがみ、獅子の頭の大男だった。男の勢いにアレッタも一瞬びくつくが何時もの事なのか普通に対応する。

 

「おうアレッタ!今日もいつものだ!」

 

「い、いらっしゃいませライオネルさん!今日もお元気ですね!」

 

ライオネルと呼ばれたその男は霊夢達の隣のテーブルにドスンと座る。これも待ち構えていた様にクロが水とおしぼりを渡す。メニューを出さずに「いつもの」で通った事から常連なのだろう。アレッタも慣れた様子で店主に取り合えず霊夢、魔理沙の分も含めて注文を伝えに行く。

 

(少々お待ちください)

 

「早めに頼むぜ!」

 

クロはコクッと頷いて離れる。男はおしぼりで顔を拭く。

 

「ふー。今日の挑戦者は前の奴よりはやる奴だったがまだまだ剣の扱いが甘かったな。……ん?」

 

「……」

 

すると男は何か気になったのか隣のテーブルの席に目をやった。そこには呆然とした顔でライオネルを見る…あうんがいた。

 

「おい、どうしたそこの小僧。俺の顔に何かついてるか?」

 

「…あ、ご、ごめんなさい!」

 

少々圧がある声で言われてびびるあうん。

 

「ごめんなさい。この子今日が初めてなもんだから色々珍しいのよ。悪気はないから」

 

「お、お前ら確かあん時の奴らじゃねぇか。久しぶりだな」

 

「おう。ひと月ぶりに来たんだ」

 

「……そういやロースカツやテリヤキが俺らとは別の世界の客人って奴の事話してたな。滅多に見ねぇカッコだなと思ってたが…もしかしてお前らがそうか?」

 

「ええそうよ。幻想郷の博麗霊夢。宜しく」

 

「同じく幻想郷の魔法使い、霧雨魔理沙だ。魔理沙でいいぜ」

ライオネル(カツ丼)

「俺は魔族で剣闘士のライオネルってんだ」

 

自己紹介しあう霊夢、魔理沙、ライオネル。続いて、

 

「わわわ、私はあうんです!宜しくお願いします!」

 

あうんもびくつきながら挨拶をした。

 

「おいおいお前も見た感じ俺と同じ獣人、しかもその耳からして獅子かなんかだろ?誇り高き血を持ってやがんのにびくびくしてんじゃねぇ。腕も足もひょろひょろして頼りねぇし、男ならもっとシャキッとしやがれシャキッと!」

 

「い、いえ私は一応女で」

 

すると間髪入れずにライオネルが、

 

「しょうがねぇ、お前には俺のとっときを奢ってやる。おいアレッタ。こいつにもカツ丼だ!」

 

「はい!畏まりました!」

 

「え、ええ!」

 

すんなりと受け入れたアレッタはすぐさま店主に注文を届けに行った。再び厨房の奥から「はいよ」の声が響く。

 

「金なら心配すんな。これでも数十年は遊んで暮らせるだけの金は持ってらぁ。遠慮なく食っていけ」

 

「い、いえそういう訳じゃなくて…」

 

「まぁまぁあうん。ここは素直に受け取っておきなさいな♪」

 

「そうだぜ。奢ってくれるっていってんだから素直に従うのが吉だぜ♪」

 

「霊夢さん魔理沙さんー!」

 

半分泣き顔なあうんに対し、霊夢と魔理沙はどこか楽しそうだった。

 

 

 

 

……店主調理中……

 

 

 

 

…………

 

それから暫くして、注文したものを乗せたカーゴを押してアレッタとクロがやってきた。

 

「お待たせしましたー!こちら、ロースカツとヒレカツです!」

 

先に霊夢と魔理沙の前に彼女らの料理が出された。霊夢の前にはカラッと黄金色に揚がった大きな一枚肉、それが6つほどに切り分けられたロースカツ。魔理沙にはロースカツよりも小ぶりなもので切られていないものが3つ。添えられているのはキャベツの千切りとくし切りのトマト。そしてレモンの切れ端。付け合わせは白ご飯とお味噌汁。味噌汁は豆腐とわかめ。

 

「あとビールをお持ちしました!」

 

更に一緒に頼んだビールという金色のお酒が置かれた。笑顔になる霊夢と魔理沙。

 

「ようやく会えたわねロースカツ♪」

 

「エビフライと同じでこんがりと揚がってて旨そうだぜ♪」

 

「こちらのソースとレモンをかけてお召し上がりください!」

 

(お待たせしました。こちら、カツ丼です)

 

そして続いてクロがあうんとライオネルの前に料理を出す。おぼんの上にどんと置かれた蓋つきの丼鉢。その横にはお味噌汁と漬物が入った小皿。

 

「お茶碗よりもずっと大きい…」

 

「待ちくたびれたぜ~」

 

「それではごゆっくりどうぞ!(それではごゆっくり)」

 

アレッタとクロは料理を届けると下がっていった。

 

「いただきます!…うむ。今日もいい匂いをしておる」

 

手を合わせてそう言うライオネル。料理を食べる前には必ず言う言葉と店主から教わったらしい。蓋を開けるとそのまま豪快に食べ始めた。

 

「「いただきます!」」

 

「い、いただきます!」

 

続いて霊夢と魔理沙、あうんも言った。まず霊夢と魔理沙はビールが入ったジョッキを手に取り、

 

「物凄く冷えてるわね~。冷やして美味しいのかしら?」

 

「まぁとにかく飲んでみようぜ」

 

それに口を付けて飲み始めた。

 

「「…!!」」

 

ふたりは一瞬目を開くと器の半分位まで一気にゴクゴクと飲み干した。

 

「く~~~!なにこれ!日本酒と違って甘く無いしほんの少し苦いけど、すっごくキレがいい!これは確かに冷やさないと駄目だわ!」

 

「シュワシュワってくる炭酸に一瞬ビビったけどそれもどうでもいい位のど越しがすげぇなコレ!何の後味も残らねぇし!」

 

「ロースカツさんの言う通りこれはロースカツに間違いなく合うわね!」

 

ふたりは初めて飲むビールの美味しさにすっかり上機嫌になる。そのままの勢いで霊夢はロースカツの一切れを箸でつかみ、そのまま口に運ぶ。ビフテキと同じく上質な肉を使ってるのが噛んだ瞬間わかる。黄金色に揚がった衣のサクリという食感の後にくる肉、そこから溢れ出る豚肉の旨味と脂身からジュワッとにじみ出る脂の甘みが感じ取れる。

 

「う~ん美味し~!ビフテキとはまた違うわね~!負けない位肉の旨味を感じるわ~♪衣はサクサクだし!」

 

「私はこのソースをつけて食べてみようかな」

 

そう言って魔理沙はヒレカツのひとつに黒いソースをかけ、それを箸で持って口に運んだ。まず感じるのはほんの少し酸味を含んだ風味豊かなソース。そしてロースカツと同じくサクリとした衣。その後に柔らかい肉。アレッタが言った通りロースに比べて脂身は少ないがとても柔らかく繊維まで感じ取れ、肉の濃い旨味を味わえた。

 

「おーほんとにやわらかいな!しかも肉の美味さもしっかりあるのにあっさりしてるし、何よりメンチカツにも使ってたこのソースがなんとも言えない位合うぜ♪」

 

「白ご飯にも勿論ビールにも合うわね~。やっぱり肉は偉大だわ~」

 

ロースカツとヒレカツの美味にすっかり夢中な霊夢と魔理沙。一方あうんは自らに出された丼の蓋を取る。するとまず感じたのは凄く香ばしくて甘いにおい。そして見えたのは霊夢と同じものと思われるロースカツ。それが黄色と白の半熟卵で包まれている。卵の中には玉ねぎも入っており、そして飾り付けにちょこんと三つ葉が乗っている。

 

「うわぁ…凄くいいにおいです」

 

隣のテーブルを見るとひたすらカツ丼をがっついているライオネル。しかもよく見るとテーブルの上に空の器が既にあった。今食べているのはいつの間にか頼んだおかわりなのだろう。その食いっぷりにますます食欲をそそられたあうんは我慢できなくなったのか卵で色付けされたカツの一切れを頬張る。

 

(あ、熱い!…でもお肉から出てくる脂と…卵と玉ねぎの甘みを含んだ出汁が…凄く美味しいです!)

 

あうんの言う通り出汁をたっぷり吸ったカツはサックリ感はやや消えているがその分肉と出汁の旨味、卵と玉ねぎの甘みが一緒に味わえた。肉もとても柔らかい。

 

(…あ、下にはご飯があります。今度は一緒に食べてみよ)

 

カツを堪能したあうんは次にカツを少しだけ切って下にあるご飯と一緒に食べてみる。

 

(お肉の味の濃さが下にあるご飯と一緒に食べると丁度いい具合になりますね。ご飯にもお出汁がしみ込んでて美味しいです!)

 

丼は上の具が基本的に味が濃くされているものが多い。しかし下のご飯と一緒に食べる事で具の濃さが和らげられる上に、ご飯が具の旨味も吸ってますます美味しくなる。カツ丼も例のごとしだった。

 

(これはあの人が夢中になるのもわか)

 

「カツ丼大盛り2杯おかわり!」

 

大声で更におかわりをするライオネル。そのテーブルには空の器が既に3杯あった。あうんがまだ半分も食べてないのに物凄い勢いである。

 

「は、早い…!」

 

「身体が大きいから結構食べるとは思ってたけどもの凄い食欲ね」

 

「そんなに美味いのか?」

 

「おうよ。でもただ美味いだけじゃねぇ。何しろこいつは俺の運命を変えたメシだからな」

 

それからライオネルは簡単に自分の事を話した。今より数十年前、彼は他を圧倒する程の魔の加護と力を存分に振るい、戦・暴力・強奪などあらゆる欲求を満たしていた。その時の彼は自分のこれからも続くであろう天下を決して疑わなかった。

…だがそれはある時一瞬で崩れ去った。嘗て邪神を滅ぼした伝説の勇者の一角、「剣神」と呼ばれる者に完敗したからだ。全てを失ったライオネルは今は帝国の領地の一部で暮らす魔王の血を引くものに買われ、剣闘奴隷として扱われる事になった。たった一度の敗北で完全に自信を失った彼はいつ死んでも仕方ないと思う様になっていた。

そんなライオネルの運命を変えたのが、死を待つ彼の前に現れたねこやの扉、先代の店主、

 

(こいつは俺らの言葉で勝利っていう意味があんのさ。栄養も満点だし、戦う男のメシってったらやっぱこれだろ♪)

 

そしてカツ丼という勝利の丼であった。それは今まで食べたどんな料理よりも美味く、あっという間に平らげた。先代店主は金ならいつでもいいと言ってライオネルが満腹になるまでカツ丼を出し続けた。彼が奴隷から解放され、今まで、そしてこれから食べる分もまとめて払ったその時まで。人生で最高の飯と店主の優しさに触れたライオネルにはもう恐れるものは何も無かった。それから彼は二十年以上、「獅子王」という最強の剣闘士として君臨し続けたのだった…。

 

「ふ~ん、アンタも苦労したんだな」

 

「一年も支払い待ってくれるなんて太っ腹な店主さんね~。でも最初の部分は貴方の自業自得みたいなもんだと思うんだけど?」

 

「ガッハッハ!ちげぇねぇ。今思えば馬鹿な事してたもんだ。剣闘奴隷から解放されて、一時は前みたいに好きな酒飲んだり飯がっついたりまた贅沢してみようかとちらっと考えちゃみたが…どうにも満たされる気が起きなかった。そして気づいた。やっぱ俺は戦いとカツ丼が好きなんだってな」

 

「だから今も剣闘士を続けてんの?」

 

「ああ。先代のジジイがくたばったって聞いた時、墓に花のひとつでも手向けてやろうと思ったが…別の世界に住んでる俺には無理だしな。カツ丼を糧に勝ち続けるのが俺なりのジジイへの手向けって訳だ。いつか剣神にも勝ってやるぜ!」

 

力強く断言するライオネル。

 

「……」

 

そんなライオネルを黙って見つめるあうん。

 

「おい、どうしたあうん?」

 

すると、

 

「……か」

 

「か?」

 

「…かっこいい!!」

 

興奮気味にそう言ったあうん。きょとんとする霊夢と魔理沙。

 

「「へ?」」

 

「かっこいいです!!私もライオネルさんみたいに強くなりたいです!そしてもっと霊夢さんのお役に立ちたいです!」

 

「あ、あのあうん。それは嬉しいんだけど」

 

「教えてください!どうすればライオネルさんみたいに強くなれますか!」

 

霊夢の言葉が聞こえていないのかあうんは興奮冷めやらぬままライオネルに尋ねる。

 

「そうだな。おめぇの場合もっと筋肉を付けなきゃ始まらねぇ。そんなひょろひょろな身体じゃ戦いに勝てねぇぞ。まずはもっとしっかり食って身体を鍛える事だ」

 

「はい!先生!」

 

「せ、先生~?」

 

「アレッタさん!カツ丼のお代わり私もお願いします!」

 

「いやいやあうん、お前まだそれ食いきれてねぇって」

 

「私はご飯とお味噌汁のお代わりお願いね」

 

「あ、霊夢だけずるいぞ。私もお代わりだアレッタ!」

 

なんとも賑やかな食事風景であった。

 

 

 

 

……少女食事中……

 

 

 

 

…………

 

「今日もありがとうございました!」

 

「扉が出る場所がわかれば毎週来たいとこなんだけどね~」

 

(それにしても幻想郷とは、本当に変わった場所なのですね)

 

「…まぁね」

 

「でも私としてはもっと多くの方に来ていただきたいです!」

 

「あはは、そうね」

(…う~ん、アレッタには悪いけどそう簡単には行かないかもしれないわ)

 

幻想郷の人里に住む人間は基本的に人間以外の存在を恐れている。今は霊夢と魔理沙以外の人間が異世界食堂に来た事はないらしいが、もし人里に扉が現れ、何も事情を知らない人が扉をくぐってここの客人達を見れば大混乱になる事は間違いないだろう。

 

「ねぇアレッタ、クロ。今までどれ位の客が幻想郷から来た?」

 

「え!ええっと確か…」

 

アレッタとクロは今までに来た者達を説明した。その数からするとどうやら幻想郷に扉は一日に一ヶ所だけでなく、少なくとも二ヶ所現れた日もあるらしかった。偶然にもすれ違う事は無かったようだが。

 

「…成程な。どうやら複数現れた日もあるらしいな」

 

「その様ね」

(幸いな事に人里には出てない…。人里の人達がここの扉を勝手にくぐらない様に何か対策を打っておく必要がありそうだわ…)

 

霊夢はそう考えていた。

 

「霊夢さんどうしたんですか~?」

 

「え?うんちょっと考え事」

 

するとお土産を持って店主がやってきた。

 

「お待たせしました。お持ち帰りのビフテキサンドと海老カツサンドとカツサンド」

 

「お、待ってたぜ~♪」

 

「あと瓶ビールです。瓶は割れない様お気を付けください」

 

「わかったわ♪ああそれから店主さん、はいコレ。うちの霊験あらたかな御札よ。商売繁盛のお守り代わりに置いといて」

 

すると霊夢は一枚の御札を取り出して渡した。

 

「いいんですか?」

 

「気にすんな♪どうせ誰も来ない神社の埃被ってるもんだし♪」

 

「失礼ね魔理沙!」

 

そんな会話を繰り広げた後、今度こそ帰る事にした。

 

「是非また来てくださいね!」

 

「「「ご馳走様でした(だぜ)ー♪」」」

 

(ありがとうございました)

 

「またのご来店をお待ちしております」

 

 

…………

 

 

~~~~♪

 

 

霊夢と魔理沙とあうんが扉をくぐって出てくると、いつもの様に扉は消えた。

 

「ふ~美味かったぜ~♪私は満足だ」

 

「あうん、あんなに食べてお腹大丈夫なの?」

 

「大丈夫です!しっかり食べてとれーにんぐしないといけませんし!」

 

「ま、まぁ精々頑張るのぜ。てか霊夢、お前またビフテキサンドかよ」

 

「当然よ♪あとまさかビールまでお持ち帰りできるなんて、頼んでみてよかったわ♪」

 

「そうだな♪次回はどこに現れるのか楽しみだぜ。んじゃ取り合えず今日はかいさ」

 

すると霊夢が帰ろうとする魔理沙に、

 

「おっと魔理沙そうはいかないわよ。あんたには勝手にうちに魔法かけてくれたこと、しっかりお返しさせてもらわないとね」

 

「い!?いやいや今さらどうでもいいだろ?偶然とはいえねこやの扉が現れて行けたんだし!」

 

「い~やそうは行かないわ!」

 

「全くわからず屋だな!しょうがねえこうなったら一勝負だ!」

 

「望むところよ!食後の運動だわ!あうん!おみやげを安全な場所に置いといて!」

 

「私のも頼むぜ!」

 

「は、はい~!」

 

どうやら騒がしいのはまだまだ続きそうだった。

………だがそんな彼女らを遠くから見ていた者がいた。

 

 

(…………なんと、あの扉にはそんな事が。これは久々の特ダネですね!)




次回は来週、ちょっとした幕話をお送りします。

こんにちは、storybladeです。幻想郷食堂をお読み頂きありがとうございます。突然ですがアンケートです。先代博麗の巫女や魂魄妖忌の回があれば読んでみたいと思いますか?公式設定が少ないのでオリジナル要素を含んでしまいますがどうでしょうか?ご意見お願いします。期限は今月一杯です。

  • あれば読んでみたい
  • 不安なので読みたくない
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