幻想郷の人里にある貸本屋「鈴奈庵」。そこに本日ねこやの扉が現れた。霖之助が扉を開けるとそこには今までに見た事が無い場所と人々の姿があった。目に飛び込んできた光景に慧音、小鈴、阿求、朱鷺子の霖之助以外の四人はポカンと口を開けた後に漸く言葉を発した。
「な、なんだここは…?」
「見た事無い人がたくさん…」
「これは…一体…」
「……」
「はは、やっぱりそうなるよね初めは」
すると扉のベルに気づいたひとりの少女が話しかけてきた。アレッタだ。
「いらっしゃいま……あ!えっと確かリンノスケさんでしたっけ?お久しぶりです!」
「やぁアレッタさん。クロさんもお久しぶりだね」
(はい。いらっしゃいませ)
「!い、今頭に声が!?」
「それに関しても後で説明するよ」
アレッタが後ろの慧音や小鈴達に気づく。
「霖之助さんのお知り合いの方々ですか?」
「うんそうだよ。皆自己紹介して。こちらはここの給仕のアレッタさんとクロさんだ」
霖之助の言葉でそれぞれが自己紹介する。
「上白沢慧音。人里で読み書きを教えている。宜しくお願いするよ」
「も、本居小鈴です。初めまして!貸本屋をやってます」
「稗田家九代目当主、稗田阿求と申します」
「と、朱鷺子です…」
「皆さん初めまして!宜しくお願いします!」
すると厨房から店主が顔を出す。
「…お、霖之助さんいらっしゃい。今日は大勢でお越しですね」
「こんにちは店主さん」
「とりあえずお席にどうぞ。すぐに水とおしぼりをお持ちしますんで。ああアレッタさんクロさん、すまないがテーブルを繋げてあげてくれ」
「はい!(はい)」
そう言って店主は厨房の方に下がり、五人はアレッタとクロの案内で席に着くことにした。幸いテーブルが空いていたので繋げることができた。
「さっきの人が店主と言っていたが、人間だったのか。見た所人でない客も大勢いるようだが…そんな店の店主が人間とは…」
「鯨呑亭とかじゃ考えられないですよね。霖之助さん、どういうお店なんですここは?」
…………
霖之助は簡単に四人に説明した。するとそれを聞いた小鈴がひと際興奮した。
「…なんとなくわかってましたけどやっぱりここは外の世界!外の世界のご飯屋さん!凄い!私遂に外の世界に来たのね!」
「興奮しすぎよ小鈴」
「ここが、幻想郷の外の世界…」
「そしてあの爬虫類の様な者や翼が生えた者達は更に異世界の者達という事か…。成程。ここならば私も本当の姿でも気にならなそうだ」
するとアレッタが人数分の水とおしぼりを持ってきた。
「こちらサービスのお水とおしぼりです!そういえばリンノスケさん。この前レイムさんとマリサさんがみえましたよ」
「そうらしいね。あのふたりの事だからまた沢山食べただろう?迷惑をかけたなら謝っておくよ」
「いえいえ私達もお会いできて嬉しかったですから!はいこちらメニューです。ご注文がお決まりになったら言ってくださいね」
そう言ってアレッタはメニューを渡すと下がっていった。
「……今の給仕さんも人じゃないみたいですね」
「ああなんでも彼女は魔族っていう種族らしいよ」
「ま、魔族!……なんかカッコいい」
「朱鷺子ちゃんは強い妖怪に憧れてるもんね」
そんな話をしながら皆は取り合えずメニューを開くことにした。
「…凄い品数ね」
「上質な紙ね~。それに字も丁寧だわ」
「どうしようか…。同じものを注文するのもいいが、それぞれ違う物を注文するのも良いし」
「折角だから色々なものを食べてみたいですけど…」
すると朱鷺子がとあるメニューの一覧に気づく。
「あ…このスパゲッティという料理、結構色々な種類がありますよ」
「すぱげってぃ?」
「私知ってます。うどんと同じ小麦で作った麺だそうです」
「ふ~ん。でもお出汁も無いし、見た目随分違うわね」
「でも本当に沢山種類あるな。色どりも其々結構違う」
「じゃあこの中で色々なものを頼んでみませんか?」
「そうだね、そうしよう。皆もそれでいいかい?」
霖之助が四人に尋ねると全員が頷いた。となると次はその中で何を選ぶかだが…。
「スパゲッティを頼まれるならマルメットのソースのものがいいですよ」
その時、隣のテーブルで食事を終えたらしい青年が声をかけてきた。黒目をした金髪の青年。きっと隣の声を聴いていたのだろう。
「……マルメット、ですか?」
「おや、ご存じない?こちらのナポリタンとかミートソースに使われている赤い野菜の事です。マルメットを使ったソースは自信をもっておすすめできます」
「…もしかしてトマトの事かな?」
「多分そうだと思います。きっと異世界では呼び方が違うんでしょうね」
「教えて頂いてありがとうございます。随分お詳しい様ですが、常連さんですか?」
シリウス(ナポリタン)
「ああ失礼しました。シリウス・アルフェイドと申します。アルフェイド商会の次期当主にして、こちらのねこやのソースの味を得ようと研究している者です」
「…ソースの味を得る?」
…………
それからシリウスは自分達の事を簡単に説明した。アルフェイド商会とその経緯について。
「……成程。貴方の祖父殿が一代で築き上げたのがそのアルフェイド商会というもので、こちらのお店の味を異世界でも広めたいために始めたものと」
「はい。私も最初にこの店を訪れた時は驚きました。お爺様が生み出したと思っていたソース、いやそれ以上の美味たるソースに出会って。そんな私にお爺様は言いました。私がこの味を向こうでも食べたかっただけなのだよと。この味を自分達の世界でも広めたいと思い、真似をしていただけなんだと」
「それを聞いてどう思いました?」
「当然驚きましたが…でもそれ以上にお爺様の商人としての魂に感動しました。動機がどうであれ、儲かるという確信を得たのならば商売にするのが商人というものですから。それでお客様も幸福になるなら猶更です。その証拠にお爺様はこちらで出会った騎士のソース(ペシャメルソース)をきっかけに、商会と王家との繋がりをより強いものにしました。そして私もお爺様の意思を継ぎ、こちらの素晴らしい味を広めたいと日々研鑽と研究を重ねております」
「そうなんですか。見た目若いのに素晴らしい心持ち。うちの寺子屋の生徒達にも聞かせてやりたいものだ。特にチルノやルーミアに」
「け、慧音先生。無茶ですってば」
「…私からもひとつ良いですか?失礼ながら貴方達は私達とは随分姿格好や雰囲気が違いますが、異国の方々ですか?」
「ああそうか。いえ私達は…」
慧音と阿求が自分達の事について簡単に説明した。例に漏れずシリウスも深く驚いた様だ。
「なんと…では皆さんは私達の世界でも店主様達の世界でもない、また別の世界の方々なのですか?」
「ええまぁそういう訳です。最もこちらと同じくお互いの世界を行き来する事はできないんですが」
「…それは何とも残念。もし私が皆さんの世界に行ければ我が商会をより広められそうなのに」
「あはは。本当に商人ですね」
「………ん?いや待てよ。ここの扉は確か物の行き来はできたはず。となるとこの店を中継して我らの商品を彼らの世界に売りに出せるのでは……」
何か思いついたのか口元に手を当てて考え込むシリウス。
「…あの、どうしました?」
「ああすいませんつい。…おっと随分長居してしまいました。そろそろ戻らないと。それでは皆さん失礼致します。もし機会があればその時はアルフェイド商会を御贔屓に」
シリウスは立ち上がり、笑顔でそう言って去っていった。
「……何か嬉しそうな表情でしたね。あ、私達も早く食べるものを決めないと」
「ああそうでした!先ほどのシリウスさんのお話ではトマトを使ったものがおすすめとの事でしたが…」
「じゃあそれと一緒に何品か違う味のスパゲッティを注文しませんか?」
「そうだね。何にしようか…皆何か食べてみたいものはあるかい?」
そして少しの間、五人はそれぞれ食べたいスパゲッティを話し合い、霖之助がアレッタを呼んで注文する事にした。
「……ではそれでお願いするね。ああそうだアレッタさん、取り皿を人数分お願いできるかな?あと取り分けられるものを」
「かしこまりました!少々お待ちください!」
注文を受け取るとアレッタは嬉しそうに店主に知らせに行くのだった。
「霖之助、なぜ取り皿を?」
「皿を動かすよりも食べやすいだろう?」
そんな会話をしながら五人は頼んだものを待つことにした。
……店主調理中……
…………
……そして暫くして、アレッタとクロがワゴンを引いてやってきた。
「お待たせしました!(お待たせしました)」
「注文が多くて申し訳なかったね」
「いえいえ!」
そう言ってアレッタは人数分の取り皿と箸、フォーク・スプーンを、クロがセットのスープとパンを五人の前に出す。
「ふわ~パンもスープもいいにおい♪」
(パンとスープはいくらでもお代わり自由ですので)
「いくらでも!?」
「それは大盤振る舞いだな」
「こちら、ご注文のスパゲッティになります!」
そして繋げたテーブルの真ん中に色とりどりの湯気立つスパゲッティが並べられた。
「右からミートソース(小鈴)、和風明太子(阿求)、カルボナーラ(慧音)、ナポリタン(朱鷺子)、そしてペペロンチーノ(霖之助)です!」
「ほわ~…」
「凄く…いいにおいです」
「写真よりずっと美味しそう…」
「確かに幻想郷では見た事無い料理だな」
(こちらのタバスコと粉チーズもお好みでお使いください。タバスコは辛いのでかけ過ぎにはお気を付けください)
「それではごゆっくりどうぞ!」
「うんありがとう」
そしてアレッタとクロは下がっていった。
「さぁ、温かいうちに食べようか」
「ああそうだな」
そして五人は食前の「いただきます」をして、
「取り合えず自分が選んだものから食べてみましょうよ」
「じゃあまずは私から頂きますね♪」
そう言って小鈴はまず自分が選んだミートソースに手を伸ばす。ラグソースやボロネーゼとも言われる「ミートソース」。トマトベースの赤色のソースの中に少し大きめのひき肉とみじん切りの玉ねぎや人参、そして薄く切られた小さい茸が見える。小鈴はソースと麺をゆっくりとかき混ぜ、一緒に箸で口に運ぶ。
「…美味しい!」
少し大きめの声でそう言った。
「このソース、物凄く煮込まれてて、みじん切りに切られた野菜の甘さがしっかりとあって、こんなに薄いのに茸もちゃんと味を忘れてないし、このひき肉の歯ごたえも凄くいいです!食べた事無い麺ですけどそれと凄く絡んでます!」
「流石小鈴ちゃん。解説が上手だね」
相当口に合ったのか夢中で食べている小鈴。それに釣られたのか阿求も唾をのみ、
「…では次は私が」
自分が選んだ和風明太子スパゲッティに手を伸ばす。キャビアをまぶしたパスタが始まりの「明太子パスタ」。麺全体にからんだそれはほんのりピンク掛かっていて、そこからよく絡む様に加えられたバターの香りがし、麺の山の上には飾り付けの千切りの海苔が添えられた一品。見た目は他のものと違ってシンプルであるが、
「…この明太子?というもののプチプチとした食感と強い塩気。それをこの細くもモチモチとした麺と絡ませているバターというもののコクと香り。その中で少しでもしっかり感じる海苔の風味。和風なのに洋風の様でもある味。とても…美味しいです…」
阿求もまたその味を絶賛した。
「じゃ、じゃあ私」
続いて朱鷺子は自分が選んだナポリタンに手を伸ばす。日本の喫茶店生まれの「ナポリタン」。ミートソースよりもオレンジを強調したソースに染められた麺は炒められているのかほんのりと香ばしさもある。一緒に入っているのは何かのお肉(ウインナー)とピーマンという野菜、そして玉ねぎの細切り。そしてこれからもほのかにバターの香りがしている。朱鷺子はそれを一緒に口に入れる。
(…美味しい…!)
朱鷺子は素直にそう思った。ウインナーというものとそこからジュワッと感じる脂、ほんのり苦いピーマンという緑の野菜、甘い玉ねぎ、いずれも食感が生きている。うっすら感じるバターのコク、それをまとめているのがこのオレンジ色に染まった麺。ちょっとだけ甘く、それでいてほんのちょっとの酸味も感じ、炒められた香ばしさもある。そんな味付けのナポリタンを無言のまま夢中で頬張る。
「朱鷺子の奴夢中で食べているな。そんなに美味いのか」
そう言いつつ慧音は自身が頼んだ「カルボナーラ」をトングで皿に盛る。別名炭焼きのパスタと呼ばれるそれはミートソースやナポリタンと違い黄色めのソースに色付けされた麺。具は細切りされたベーコンだけとシンプルだが、ソースと黒胡椒とあらかじめかかっている粉チーズが濃厚な香りを生み出している。
「箸やスプーンは使った事が多いがフォークは初めてだな…」
慧音はフォークでくるくるとなんとか巻き取り、口に運ぶ。
「…ほう。これはこれは。初めて食べる味だが…美味いな。この燻製肉の強い味と、そしてこの黒い粒からのほんの少しの刺激と香り、そしてこの麺が纏っているソースは…卵か?それがこれらの味や肉の脂を吸っている。この粉チーズとやらも良い具合にこの料理の濃厚さを上げている」
「慧音も本居ちゃんに負けず感想うまいね」
「これでも教える側だからな」
そう言いながら慧音もカルボナーラを気に入ったらしく、笑顔で食べている。小鈴、阿求、朱鷺子や慧音も初めての店の味に満足しているらしい。それを見て安心した霖之助も自分が頼んだペペロンチーノとやらを食べてみる事にした。日本では「ペペロンチーノ」と呼ばれるが実は海外ではその名前はなく、その上見た目から貧困街の食事という別名もある。だが反面シンプル故の奥深さから人気が高い。見た目は明太子と並びシンプルで特に目立つソースもなく、上にはほんの少しのニンニクのかけらと鷹の爪、カルボナーラと同じベーコンの薄切り、小さい香草が乗っている位だ。
「これは…見た目シンプルだけどニンニクと香草を使っているためか香りが強いね」
慧音にあやかって霖之助もフォークで食べてみる。そして驚く。見た目なんの味付けもされていない様だが、よく見ると麺全部がなんの臭みもない黄色っぽいオイルでしっかりと味付けされている。そのオイルが鷹とニンニクの辛さを引き立たせ、更にそれらの香りとベーコンの脂を吸い、それを麺全体により絡ませている。
「結構辛いけど美味しいね。…そうかこれは麺を味わう料理。そして何よりこの油が重要なんだね。…ふむ、オリーブオイルというのか。牛や豚でなくオリーブという実からとれる油…。幻想郷にもあるのかな」
「スープもパンもふわふわで美味しいですね~♪次は阿求の明太子食べてみようかな♪」
「では私はカルボナーラを頂いてみようかしら」
「……」(無言でナポリタンを食べている朱鷺子)
「う~んナポリタン興味あるけど朱鷺子ちゃん随分気に入っているみたいだね」
「霖之助、ペペロンチーノとやら少し貰うぞ」
気が付けば皆でスパゲッティ会食会の様になっていた。
~~~~♪
すると再び扉が開かれ、入ってきた者がいた。
(いらっしゃいませ)
「いらっしゃいませサラさん!」
「ええお疲れ様ふたり共。いつものお願いね♪」
それはサラだった。そして彼女は霖之助に気づく。
「あ、リンノスケさんじゃない」
「ん?やぁ、えっと確か…メンチカツさんだっけ。久しぶりだね」
「知り合いか霖之助?」
「ああ。最初に来た時にお世話になったんだ」
「いえいえお世話になったのはこっちのほうよ。…今日は随分大所帯ね。それも女の人ばかり。この前もレイムやマリサもいたし、貴方も隅に置けないわねぇ♪」
「え?」
「いやいや私達は単なる付き添いだ!それにこいつとはただの友人だ!」
「どうしたんですか慧音先生?」
そんなやりとりの後、簡単にお互い自己紹介をして、
「あそうだ丁度良かったわリンノスケさん!また貴方に見てほしいものがあるのよ!協力してくれないかしら?」
そう言うとサラは鞄からとある何冊かの本を出した。そこには見た事が無い文字が羅列している。
「それは……古文書かい?」
「そう。今私が研究してるものなんだけど…ちょっと息詰まっちゃってて。貴方なら何かわからないかしら?」
「うーん…僕は年代や用途はわかるけどこういうのは…」
霖之助の能力は名称と用途はわかるがこういった事には不向きな様だ。すると、
「すみません…私にもその本見せていただいていいですか!?」
「わ、私も見せてください!」
小鈴と朱鷺子が突然興奮してそう言った。
「え?ええ」
小鈴と朱鷺子は横からその本を覗き込み、行を目で追っていく。特に小鈴のそれはまるで読んでいる様だ。朱鷺子は読むわけでなく、古文書そのものに興味があるらしい
「……貴女、まさか読めるの!?」
「ああ思い出した。小鈴にはどんな文字も読める力があるんだった」
「そういえばそうだったな」
それを聞いたサラは小鈴を興奮のあまり小鈴を抱きしめた。
「わっ!」
「まさか救世主が他にもいたなんて!幻想郷っていうのは凄い人ばっかりね♪ねぇもしよければ内容教えてもらえるかしら!あと貴女暫くうちに来ない!?読めてない本が沢山あるのよ!」
「め、メンチカツさん落ち着いて。ここは人の行き来はできないんだってば」
その後サラのそんな言葉をちょっぴり聞いていて内心穏やかでなかったアレッタを全員で慰めたり、後に来たハインリヒがその騒ぎの原因を聞いて少し慌てたり、ほんの少しだけねこやが騒がしくなるのであった…。
……少女食事中……
…………
「どうもご馳走様でした!美味しかったですスパゲッティ♪」
「はい!本当に凄く美味しかったですナポリタン!」
(それは良かったです)
「こんなお店があるんだという事、私の記憶に残しておきますね」
「はい是非!ここは私の記憶にも人生にも欠かせない場所ですから!」
「はは、そこまで言ってもらえるとなんか照れるな」
「店主。あの扉は様々な場所に出ると聞いた。もしかしたら…この後私の教え子達も来るかもしれんがもしご迷惑をかけたら申し訳ない。その時は遠慮なく叱ってやってくれ」
「いえいえ、全然構いませんよ」
「あーあ残念だわ。リンノスケさんとコスズがいれば私の研究もはかどるのに」
「また古文書見せてくださいね!」
「マリサ殿達に宜しくなリンノスケ」
「ええ」
そんな会話を交わしながら五人は扉を開け、幻想郷に戻っていった…。
…………
~~~~♪…シュゥゥゥゥン…
「おお、店主の言った通り本当に煙の様に扉が消えてしまった」
「不思議ですね。そしてとっても不思議な場所でした」
「でも私は凄く楽しかったです♪。美味しい物も食べれたし本も読めたし」
「はいそうですね♪」
特に小鈴と朱鷺子はひと際満足したらしかった。因みに彼女達のお土産はミートソースパスタパンとナポリタンドッグである。
「でもどうしてあんな扉が現れる様になったのでしょうか?」
「それは私も思ったが…まだわからんな」
「まぁあんな場所だから初めて行くとちょっと驚くけど、でも決して悪い場所じゃないよ」
そんな会話をしていた時だった。
「あーーー!!」
突然小鈴が大声を上げた。
「ど、どうしたのよ小鈴?」
「無くなってる!新聞が一枚も!」
扉に入る前まであった筈の文々。新聞が何も無かったかのように無くなっていた。小鈴や霖之助が読んでいたものまで。
「…本当。確かに行く前はあったのに」
「誰よ一体!閉じてる店に入って物取ってくなんて窃盗よ!強奪よ!不法侵入よ!」
「お。落ち着け小鈴」
騒ぐ小鈴を皆で宥めながら、
(……こんな事するとすれば紫かな?まぁ考えるまでもなく間違いなくそうだろうね。となると…あっちの方も今頃ひと騒ぎしているんだろうなぁ…)
霖之助はそんな事を考えていた。
…………
妖怪の山
?
「ふっふっふ、今回の新聞は久々の特ダネだったこともあって話題沸騰ですね♪先程人里の様子も見てきましたが人々も妖怪の皆さんも噂にしてましたし♪」
ここは妖怪の山の峰にあるとある家。その家の中で何やらひとり不吉に笑う者がいた。内容からどうやら異世界食堂の記事を書いた新聞に関わる者の様だ。
「さ~てこうなると次の記事を書くとなれば…次はあの扉の先に行ってお店の」
バーーンッ!!!
「ひゃあ!な、なんですかなんですか!?」
とその時、家の扉が激しく蹴破られた。
霊夢
「ぜぃ、ぜぃ…お邪魔するわよ!」
魔理沙
「はぁ、はぁ…や、やっと見つけたんだぜ!」
入ってきたのは霊夢と魔理沙だった。かなり疲れている様だ。
「あやや!霊夢さんと魔理沙さん。どうされたんですか?」
「どうされたんですか?じゃないわよ。アンタをずっと探してたのよ文!」
「最初ここに来たらいなくて、その後色々どこ行ってもいなくて、挙句の果てに「今帰った」って聞いてまたここにとんぼ帰りだぜ!」
「そ、それは大変でしたね。でも私がひとつの場所にとどまっていないのは当然です。記者たる者常に特ダネを探して動き回るのが本筋ですから♪というかどうしたんですか一体?そんなに必死で」
すると霊夢はあの新聞を出した。
「おー!それは私の新聞!霊夢さんも買ってくれたんですね!」
「違うわよ!アンタのこの新聞について言いたい事があってきたのよ!」
「そうだぜ!てかお前どうやってこの扉の事知ったんだ!?」
すると文と呼ばれた少女はこう答えた。
「あーそれはですね~魔理沙さんのおかげですよ♪この前新聞のネタになりそうなものを探していたら猛スピードで飛んでいく魔理沙さんを発見しまして、これは何かあると新聞記者の勘に引っかかりまして、追いかけたら妙な扉に霊夢さん達が入っていったじゃないですか!一か八か帰ってこられるのを待ってたらお腹一杯!って満足そうな霊夢さん達だったんでこれはと思い新聞にさせていただきました♪言っときますが嘘は書いてませんよ?文々。新聞は真実を面白おかしく書くのがポリシーなんで♪」
満足そうにそう言う文という人物。いや彼女もまた人間ではなかった。射命丸文。黒髪のセミロングに頭に山伏風の帽子を被り、黒いフリル付きのミニスカートと白い半袖シャツ、そして烏の様な羽をもっている。彼女は烏天狗という妖怪の少女である。彼女は天狗の中でも最高の速度を持ち、霊夢達にも負けない位の高い戦闘能力を持つらしいが、寧ろ戦いよりも自身の稼業である新聞事業を重視しており、文々。新聞は彼女の書く新聞であった。
「アンタのせいか魔理沙…」
「ちっ、不覚だったぜ。てかそんな事言うために来たんじゃないだろ!」
「ああそうだった!アンタに言わなきゃいけないことがあるのよ!」
…………
それから霊夢と魔理沙は文に事の事情を話した。
「あややや…それはそれは。あの扉の先はそういう事でしたか」
「だからあの扉の先、私達はねこやって言ってるけど、里の人々が入っていったら大変な事になるわ。私やアンタ達妖怪は大丈夫だろうけど」
「ああ。それにねこやには霊夢や私でも歯が立たない様な力を持った奴がいる。危険な奴じゃなさそうだし、幻想郷と行き来はできなそうだけどねこやの中で力を使われたら厄介だしな」
魔理沙が言うのは勿論クロの事。実際彼女は自分の力でねこや自体を傷つける事はしないと決めているが、店内で何か起これば彼女は力を使う可能性もゼロではないかもしれない。
「それで私にどうすればよいと?」
「決まってるでしょ!この新聞が嘘の記事でしたって発表するのよ!」
「ええ!そ、それは嫌ですよ!私の新聞は出鱈目な記事は書かない!そして真実を面白おかしく書くのが売りなんですよぉ!これまで謝罪記事なんて一回も書いた事ないんですから!」
ギュウゥゥゥゥゥンッ!
とそこに突然、空間に裂け目の様なものが現れた。
「落ち着きなさい霊夢。それに文も」
そこにやってきたのやはり紫だった。
「や、八雲紫!?」
「おお紫!新聞はどうなった!?」
「勿論全て回収したわ。既に販売されたものは倍のお金払って買い戻したし」(中にはこっそり持っていったものもあるけど♪)「今から嘘でしたって発表しても遅いわ。実際新聞を見てしまった人もいるし」
「じゃあどうすればいいってのよ」
「寺子屋の教師、上白沢慧音に協力を頼むわ」
「慧音?…あそうか、慧音は「あった事を消す程度の力」があるんだった」
「ええ。彼女の力で里の人々からこの新聞を見たという記憶そのものを除去してもらいなさい。そうすれば少なくとも人々がねこやの扉に興味を持つことは無くなるわ。里の平和のためならば協力してくれるでしょ」
確かに紫の言う通り、そうなれば少なくとも扉に直ぐに入る事は無くなる可能性は高い。しかし。
「でもそれでも入ってしまう可能性はあるわよ?里に出る可能性も全然あるんだから。それとも入った人の記憶をまた消すつもり?」
「わかってるわよ。…射命丸文。ねこやの扉の事について新聞を書きなさい。もし見つけたら必ず博麗の巫女に連絡する事、そして絶対勝手に入らない事という注意書きも添えて。これは幻想郷の管理者である八雲紫、そして貴女の上司である飯綱丸龍からの命令でもあります」
「あややや!わ、わかりました!」
「あいつにも教えといたのか。仕事が早いな全く」
「…は~。まぁいつかこいつらにバレる可能性もあった事に気が向かなかった私も悪いし、しょうがないわねぇ」
霊夢は頭を掻きながらそう言った。
「でもいいわね文、絶対にそこの部分を強調するのよ!」
「は、はい!飯綱丸様の命令には背きません!」
その後霊夢は慧音に、魔理沙は新聞を売っていた小鈴に事情を説明しに行き、ふたり共協力を約束してくれた。因みに慧音と小鈴がまさにこの日、霖之助や阿求と一緒にねこやに行っていた事を知った霊夢と魔理沙は驚いていた。後日慧音が人々の記憶をこっそりと消し、小鈴が新たにできた新聞を今回は特別サービスとして各家に朝刊配達に回り、とりあえず里の人々からねこやの扉への関心は薄れる事になった。……人々からは、であるが。
「でも人はそれでいいとして妖怪はどうする?あいつらの記憶も消すのか?」
「あいつらは大丈夫でしょ。あんなことでビビる様な連中じゃないし。それにお守りも渡してあるから」
「…お守り?」
…………
とある頃、ねこやにて。
「……ん?ああそういや霊夢さんに御札もらってたんだった。ん~~…取り合えずここに飾っておくか」
そう言いながら店主は霊夢が置いていった商売繁盛の御札を厨房の天井近くの壁に貼り付けた。
メニュー13
「オニオンベーコンピザ&クアトロフォルマッジ」
霖之助と小鈴がいればかなりのオーパーツが解析できるかも(^^;
ひとつお知らせです。
最近自身の仕事が忙しく編集の時間が殆ど取れていない状態です。そのため次回より投稿が暫くいつもよりも遅くなると思います。ただでさえ遅いのに申し訳ありません…。
こんにちは、storybladeです。幻想郷食堂をお読み頂きありがとうございます。突然ですがアンケートです。先代博麗の巫女や魂魄妖忌の回があれば読んでみたいと思いますか?公式設定が少ないのでオリジナル要素を含んでしまいますがどうでしょうか?ご意見お願いします。期限は今月一杯です。
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あれば読んでみたい
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不安なので読みたくない