とある土曜、朝のねこやにて。何やら箱を前に考えている店主。
~~~~♪
「おはようございまーす!」
「おはようさん」
「? どうしたんですかマスター?」
「これなんだが…」
「わっ!どうしたんですかコレ?」
「いわゆる発注ミスってやつさ。うちじゃなくレオンハートのな」
「それってお酒をおろしてくれているお店ですよね?」
「ああ。つまみ用に購入したらしいんだが数を間違えちまったらしくてな。処理を手伝ってくれって渡されたんだ。少しはフライングパピーにも渡したんだがまだ余っていてな…どうやって処理するか迷ってんのさ」
「う~んでもこれだけのコレを使う料理ってあるんでしょうか…」
首をひねるふたり。すると少し考えて、
「そうだあれなら使えるか。流石に本場のもんとはいかねぇが生地はいつものやつ使えばなんとかなんだろ」
そう言うと店主は早速準備を進めた。
「命蓮寺」
特定の教祖や教えを持たない神道を崇拝するのが神社。それに対し釈迦の教えを守り、広め、悟りを開くことを目的とする仏道を重んじるのが寺院であるのは広く知られている。そしてそれは勿論幻想郷にも存在する。
人里から離れた場所にある広い寺。巨大な門の前には地蔵が立ち並び、敷地内には石畳の通路が広がる。大きな鐘楼と墓地、そして立派な本堂と巨大な円堂がある見事な寺。寺の名は「命蓮寺」といった。今回の話はここから始まる。
大きな傘を持った少女
「響子~。これはどこに置けば良かったっけ~?」
茶色い大きな垂れ耳の少女
「あ、それはあっちの蔵にお願い~」
水兵服姿の少女
「お、ととと!危ない危ない」
紺色の頭巾
「ちょ、気を付けなよ村紗」
寺の中では何やら複数の者達が何やら世話しなく作業をしていた。大きな机や長椅子を運んでいたり、敷物を畳んだりしている。どうやら大掃除をしているらしい。
ドスンッ!
「ふ~~。もう疲れたよ~」
「あたしも~」
「もうちょっとで終わりますから頑張りましょう!」
「そうだね。お師匠様達が戻ってくるまでに片付けといた方がいいよ」
「「は~~い」」
力が抜けた様な返事をしつつ、彼女らは掃除を続けた。
…………
「あ~…やっと終わった~…」
「つっかれた~…」
「ほんとだね。でもやっとお彼岸のお掃除も終わったね~」
そんな事を言いながら大の字に寝転がっているのは水色のショートボブカット、ミニスカートに下駄を履いているオッドアイの少女。そして黒のショートヘアに船長帽をかぶり、水兵服を着た少女のふたり。
座っているのは水色の髪で白い長袖の服に頭巾と赤い宝石の首飾りを付けた少女。その周りには大きい雲の様なものが渦巻いている。
「お茶が入ったよ~」
そしてお茶を持ってきたのは緑色の髪から垂れ耳が生えた小豆色のワンピースを着た少女だった。
「あ~ありがとう響子。星様とナズーリンは?」
「ふたりももうすぐ終わると…」
すると本堂の奥からふたりの女性が近づいてきた。
黒髪が混ざった金髪の女性
「おや、私達の方が後でしたか」
ネズミの耳の少女
「…遅れたね」
虎柄の腰巻を付け、左手に長い鉾の様な杖を持った女性と、もうひとりは頭からネズミの様な耳が覗く灰色の髪とネズミの尻尾が生えた少女だった。
「もう終わられたのですね。偉いですよ」
「あ、星様、ナズーリン。お疲れ様です。中の方の掃除は終わられたんですか?」
「ああ実はもっと早く終わっていたのですが…恥ずかしながら私が宝塔をどこにおいたかわからなくなって探していたのです。ナズーリンに見つけてもらいました」
「師匠。置いた場所は覚えておいて」
「め、面目ありません」
ナズーリンという名前らしい少女の指摘に星という女性が申し訳なさそうにした。師匠と呼ぶからには女性の方が立場が上の筈だが普段からこういうやりとりなのかもしれない。
「星様。聖様は?」
「まだ神霊廟からお戻りになっておりません。神子様と話されているのでしょう」
「じゃあ戻るまでゆっくりしますか。お彼岸行事で最近大変だったもんね」
「ぬえの奴手伝ってって言ったのにこういう時だけいないんだから全く~」
「女苑も紫苑も逃げちゃったしね」
そんな事を言いながら其々力を抜く者達。すると頭巾の少女が何か思い出した様に話し出す。
「…あ、そういえばさ。今日ってアレが現れる日じゃないの?」
「アレって何よ一輪?」
「ほらアレよ。前に聖様が言ってた…」
これに返したのがナズーリン。
「…あの七日に一度現れる扉ってやつの事?」
「そうそうそれの事!」
「確か先日鈴奈庵の文々。新聞にも載ってたね。なんでも美味に繋がる扉とか」
「あああの霊夢さんが満足げにしてた写真のやつね。でも本当なのかな?」
「聖様が紫様から聞いた話と言われていましたから間違いないでしょう。現れるようになった原因は紫様にもわからないらしいですが」
「でもお寺に来た人達、全然その事について話してなかったね?」
「そうね~。新聞読んでる筈だから知ってる筈なのに」
どうやら紫の計画は上手くいった様で、里の人々からねこやへの扉の関心は薄れているらしかった。すると村紗という水兵服の少女が、
「ねぇねぇお掃除も終わったし折角だからこれからその扉、探しに行ってみない?美味への扉とか興味あるじゃない♪」
「ダメですよ村紗。私達は聖様のお留守番を任されているのですから」
「じゃあさじゃあさ、命蓮寺の中だけ探してみない?ここは広いし全員で探せばそんなに時間はかからないでしょ?お寺の外に出る訳じゃないし」
「それいいね小傘♪どうですか星様」
星という金髪の女性は顎に手をあてて考え、
「………まぁ、それ位ならば良いでしょう。但し寺の外には出てはいけませんよ」
「「「は~い♪」」」
喜ぶ水蜜、小傘。そして一輪の三人。
「でも探すといってもどうしようか…。ただでさえ掃除で疲れてるのに命蓮寺全てを探すのはちょっと嫌だなぁ」
「あ、それならナズーリンの能力で探せばいいんじゃないですか?」
「…え?」
「あそうか!ナズーリンは探し物を見つける能力があるんだった!ナイス響子♪」
「いや…でもどうすればいい?私のロッドは狭い範囲しか探せないし、そもそも扉を探せと言ってもその扉に反応するとは限らないよ?そこら中の扉に反応するかも」
ナズーリンというネズミの耳を持つ少女の能力は「探し物を探し当てる程度の能力」であり、それによって自分が欲しい物を探す力があるのだが…その精度はいまいちであり、あまりあてにできない事もある。
「だったら「滅多に食べれない美味しい物」とかで探してみればいいじゃない?」
「てな訳でナズーリン宜しく~♪」
「そんな適当な。……はぁ、仕方ないなぁ」
皆が期待の目で見つめるので仕方なくナズーリンはちょっと大きめな二本のダウジングロッドを取り出し、精神を集中し始めた。
「「「「「………」」」」」
………しかしロッドには何の反応も無い。
「………う~ん。なんにも変化ないね」
「だから言ったでしょ?そんな簡単に」
グインッ!!
とその時突然、かざしたロッドがとある方向に向いた。
「へ?」
「う、動いた!」
「この方角は…鐘の方だね!」
「行ってみようよ!」
そして星と響子以外がそっちの方に走っていく。
「…はぁ。もう少し落ち着けば良いのに。先程まで掃除で疲れていたのではないのですか?」
「あはは…まぁ食欲の秋ともいいますし。私達も行ってみましょう」
…………
「「「「「「………」」」」」」
そして一行が見たのは…鐘楼にぶら下がっている大きな鐘、ではなく、その鐘の真下に出現していた猫の看板が掲げられた木製の扉だった。
「扉…よね?」
「扉だね…」
「ほんとに出たね…」
「ついさっきまでは間違いなくこんな扉無かった筈なんですけど…」
「じゃあほんとについたった今現れたって事?」
「……多分」
誰もが突然現れたその扉に口数少なく驚いた。そして次に出てくるのは、
「じゃあ早速行ってみようよ!」
「そうだね!」
「いけませんよ小傘、水密。先程言ったはずですよ。寺の外には出ない様にと」
「え~!だって今行かないといつ行けるかわからないよ~!」
「そうだよ星様~!それに私達言われた通りお寺の外には出てないじゃん~!」
「そんな屁理屈は…」
すると一輪という女性が加わる。
「それにさ~。この扉を何時までも放っておいたら博麗の巫女とか魔理沙とか来るかもしれないよ~。そうなったら間違いなく「この扉入らせなさい!」って言うに決まってるよ~。そうなる前に私達で対処すべきじゃないの~。命蓮寺を守るのが私達の役目でしょ~?」
「む…」
「そうそう!それにこの扉の先が本当に新聞に書かれている様な美味に繋がっているなら聖様にも食べさせてあげたいでしょ~?」
「むむ…」
「きっと聖様も喜ぶと思うな~。私達聖様や星様に美味しいもの食べてもらいたいんだよ~。ほら、雲山もそう言ってるし~」
「それにさ~この扉を見つけてくれたのもナズーリンのおかげでしょ~?だったら師匠として弟子をほめてあげないと駄目じゃ~ん」
「いや私を巻き込んでもらっても困るんだけど…」
「お金は紫様が払ってくれてるらしいしさ~。お願いだよ星様~」
目をうるうるしながら頼む小傘、水密、一輪の三人。
「…星様、行かせてあげましょうよ。皆行事やお掃除頑張ってくれましたし、私が残りますから」
苦笑いしながらそう薦める響子。そんな彼女の言葉を受けて星も折れた。
「………はぁ、仕方ありませんね。但しできるだけ早く戻ってきなさい。あとナズーリン。貴女も行ってください」
「私も?…わ、わかった」
「やった~♪」
「じゃあ行こう三人とも!」
「おみやげ貰って帰ってきますね♪」
そして小傘、村紗、一輪、そしてナズーリンの四人はねこやへの扉を開けた。
…………
~~~~♪
そして扉を開けたその先は…見た事無い場所。そしてそこには…見た事もない人々がいた。
見た事無い恰好をした人間。獅子の顔をした大男。蝶の様な羽を生やした小人。知り合いの鬼よりももっと鬼らしい姿をした夫婦らしい者達…。
「ななななななな!!」
「ななな、なんなのここは!てかなんなのあの人達!?」
「見た事無い人間と妖怪が…一緒にご飯食べてる…!?」
「これは計算外…」
四人は目の前の光景に驚きと呆然を隠せない。そして気が付いた。扉の先がどうなっているかの予備知識が足りなかった事を。考えれば文々。新聞には食べ物に関する場所であろう事は書かれていたが、どんな場所かについては書かれていなかった。そしてそこにいる人々がどんな人達かも。前回霊夢が心配していた事が図星になった様だ。
「アレッタの姉ちゃん。コーラお代わり~!」
「は~い直ぐにお持ちしま~す!」
「こっちはあのピザだ!お代わり頼むぜ!」
(お待ちしました)
見た目かなり繁盛しているらしく、手に飲み物らしいものが入ったグラスを持ったアレッタとクロが忙しく動き回っているが、やがて入り口にいる四人に気づいた。
「あ、いらっしゃいませ~!直ぐに伺いますので少々お待ちくださーい!」
そう言いつつ飲み物をお代わりしたらしい席の者に渡しに行くアレッタ。
「凄い盛況だね…」
飛び交う様に注文と会話が飛ぶ店内を静かに見ているとやがてアレッタが近づいてきた。
「お待たせしました~!ようこそ洋食のねこやへ!四名様ですか?」
「う、うんまぁね。あの…ここって美味に繋がる扉って事でいいのかな!」
「…ビミに繋がる…?」
「まぁそう言われてもわからないよねぇ。えっと~博麗霊夢って人知ってる?」
「あ、レイムさんのお知り合いですか!じゃあ皆さん幻想郷の方々なんですね!失礼しました。私はここで働いているアレッタと言います!宜しくお願いします!」
元気にそう挨拶されたので四人も返す事にした。
「私は唐笠お化けの多々良小傘!お化けなんでほんとは驚いてほしいとこなんだけど…もう私達の方が何倍も驚いてるから難しいよねぇ…がっくし」
「まぁまぁ小傘。あ、私は村紗水密!人からはキャプテン・ムラサって呼ばれてる船幽霊っていう妖怪さ!」
「命蓮寺の僧侶にして、入道使いの雲居一輪!一輪って呼んでね。こっちは……アレ?雲山は?」
見ると彼女の周りを漂っていた雲が消えていた。
「…私はナズーリン。とある尊き方の使いだよ」
「コガサさんに、ムラサさんに、イチリンさんに、あとナズーリンさんですね!」
すると厨房から声がかかった。
「アレッタさん。新しいの焼きあがったからお出しして」
「はいマスター!とりあえず皆さん、あちらのお席にどうぞ!」
そう言ってアレッタは再び客に対応しに戻っていった。
「ね、ねぇ今のって人間だよね?人間が妖怪に指示を出してる?というか妖怪に料理を出してる!?」
「嘘みたいだね…」
「ねぇ早く座ろう。ここじゃ迷惑」
「あ、そうだね!」
ナズーリンの言葉で取り合えず席に座る事にした四人。すると待ち構えていた様にクロが水とおしぼりを出す。
(いらっしゃいませ。こちらサービスのお水とおしぼりです)
「あ、どうも……って、え、え!?」
「い、今頭の中に声が聞こえた!」
(それからこちらメニューになります。幻想郷の方々にも読める言葉で書いてあります。ご注文がお決まりになりましたら仰って下さい)
そう言って去り行くクロを呆然と見つめる。これももう定番になりつつある反応である。
「……外の世界にも不思議な人達がいるんだねぇ」
「でも外の世界というよりまるで別の世界に来たみたいだね。単に外の世界にあんな人達がいるはずないもの」
「そうだよねぇ。人種で言えば妖怪とかに近いけど幻想郷にあんな妖怪はいないものねぇ。今の人?も幻想郷の方々にも読めるって言ってたし」
「う~む…」
するとナズーリンが、
「…なんか嗅ぎなれない匂いがする」
「…ほんとだね。なんの匂い…あ、あの料理からじゃないかな?」
小傘が隣の席の料理を指さそうとしたその時、調理の一段落が過ぎたらしい店主がやってきた。
「いらっしゃいませ。ようこそ異世界食堂へ」
「…異世界食堂?」
「ええ。本当は洋食のねこやっていう名前なんですが、うちのお客さんからはそんな風に呼ばれてますんで。お客さん方、幻想郷から来られた方々ですね?」
「う、うん。ねぇ、ここってどういうどこなの?外の世界のお店なの?にしては見た事無い人、いや人なのかな?まぁそんなのが沢山いるんだけど」
小傘の質問に店主はねこやと異世界食堂の由来、そしてその扉が幻想郷に現れた経緯を簡単に話した。
「異世界に繋がる外の世界の食堂か。成程ね~、どおりで見た事無い様な人ばかりだと思ったよ」
「でも貴方は人間でしょ?よくそんな人達を相手に商売してるね?」
「はは、これも先代の店主の影響ですかね。まぁてな訳でお客さん方も遠慮なく食べてってください。お代は紫さんから十分すぎるほど頂いてるんで」
「勿論そうさせてもらうけど、ねぇ店主さん何かおすすめ」
(マスター。ピザの追加オーダー頂きました)
「ああはいよ。では皆さんごゆっくり」
クロという少女の言葉を聞き、店主は再び厨房に戻っていった。と、今の中で聞いた一部分を村紗が繰り返す。
「…ピザ?」
「坊ちゃんこの本日限定のピザ、本当にチーズしか使われていないんですね」
「うん、マルメットのソースもオラニエもベーコンも使われてない。本当にチーズだけだ。でも…とても味が複雑だ」
「四種のチーズと聞きましたが…チーズ其々全て味が違うのでしょうか?それとも作り方?一体どうやっているのか…」
「…うんうめぇ!初めて食べたけどピザもうめぇな」
「限定っていうから頼んでみたけど良かったね。コーラも合うよ」
「たまにはハンバーガー以外のもん食べるのも悪くないな」
見ると周りの席も多くがピザという食べ物を注文している。ある者はメインに、ある者は普段いつも頼んでいるもののついでみたいに。
「結構多くの人が頼んでるねピザって言うの」
「…あ、これの事かな?うすいパン生地の上に色々な具や素材を乗せて焼いたものだって」
「メニューはオニオンベーコンピザの一種類…あ今日限定のピザがおすすめって書いてある」
確かにメニューページの上に「本日のおススメ」という小さい紙がクリップで止められている。
「これ頼もう」
するとナズーリンがはっきりそう言った。
「この料理知ってるの?ナズーリン」
「…ううん全く知らない。でもこの料理に私のセンサービンビン感じてる」
「それも能力?」
「いやただの勘」
「か、勘って霊夢さんじゃないんだから。でもナズーリンがそこまで薦めるって珍しいね」
「ねぇ、折角だからそれ頼んでみようよ?」
「そうだね。一枚で二人前って書いてあるから丁度いいじゃない」
そして四人はアレッタを呼んで注文する事に。
「このオニオンベーコンピザっていうのと、本日限定のピザっていうのをひとつずつお願いするよ」
「かしこまりました!お飲み物は如何ですか?こちらのコーラがおススメです!」
「こ、こーらって…あの、亀の甲羅じゃないよね?」
「いえいえちゃんとしたお飲み物です!初めての方は少し驚かれるかもしれませんが美味しいです!」
「はは、冗談冗談。…まぁ頼んでみたらわかるか。じゃあそれもお願いできるかな?」
「畏まりましたー!」
早速アレッタは店主に注文を届けに行った。すると奥から「あいよ」という元気な声が聞こえた。
……店主調理中……
…………
「お待たせしましたー!」
そして暫くして、アレッタがワゴンを引いてナズーリン達のテーブルにやってきた。
「ご注文のお料理をお持ちしました!」
「ありがと~」
「オニオンベーコンピザと、本日限定四種のチーズのピザ、クアトロフォルマッジです!」
そしてアレッタはテーブルの真ん中に二枚の大皿を並べる。その皿の上には丸い形をしたピザという料理。湯気が立ち、表面がグツグツと音を立てていて焼きたてなのがよくわかる。土台らしいこんがりと焼き目が付いたパンの上にたっぷり塗られた赤いトマトソース、その上に嗅ぎなれた事が無い黄色い何か、その上に具として玉ねぎとピーマン、そしてベーコンというお肉らしきものが散りばめられていて香ばしい焼き色がついている。もう一皿はパンは同じだがその上に乗っているのはオニオンベーコンピザにもある黄色いもの。それが一面にたっぷりと乗っていてこんがりと焼かれている。他には違う色は一切ない。あと四人の元にはコーラという…泡を持った何やら黒い飲み物が置かれた。
「これがピザ。確かに見た事無い料理だね」
「変わった匂いだけどすっごくいい匂いがする!」
「やっぱりこの匂い、お店に漂っている匂いだね。この黄色いやつなのかな?」
「それもあるけど…こんな真っ黒な飲み物見た事無いよ。シュワシュワしてるからラムネみたいに炭酸が入ってるのかな」
「オニオンベーコンピザはこちらのタバスコをほんの少しかけて頂いても、あとクアトロフォルマッジにはこちら蜂蜜をかけても美味しいですよ。タバスコは辛いので少しずつかけてくださいね。それではごゆっくり!」
そう言うとアレッタは下がっていった。
「へ~蜂蜜!」
「取り合えず乾杯しない?」
一輪がそう言うと皆OKし、コーラのグラスを持つ。
「それじゃ皆お彼岸の間、そしてお掃除お疲れ~。乾杯!」
「「「「カンパ~イ!(乾杯)」」」」
グラスをカチンと鳴らして四人は乾杯した。
「じゃあこのコーラってやつ、だけど……ほんとに美味しいのかなコレ?」
「アレッタって子はおススメって言ってたけど…取り合えず飲んでみようよ」
四人は茶色い泡を生み出している黒いものを恐る恐る飲んでみる。すると口に含む瞬間感じるのは強い炭酸となんらかの柑橘の様な、もしくはハーブの様な香り。そして強い甘み。それが喉を通るとなんとも爽やかな感じがする。
「うん、やっぱり炭酸だ。そして甘い」
「飲んだことない味だけど、でも思ったより美味しいね」
「香りがちょっと特徴的だけど飲んだ後爽やかだね~」
「…暑い時とかよさそう」
初めて飲んだコーラの味に四人は満足したようだ。
「さて喉の渇きも和らいだことだし、早速食べてみようか」
「そうだね。これは…手でつかんで食べるのかな」
「お箸とか無いからそうじゃないの?」
そして小傘と村紗はオニオンベーコンピザの方に手を伸ばし、八つに分けられたひとつを取る。ピザにかかっている黄色いもの、チーズが伸びた事に驚く。
「あちち…わわ、なんか伸びた!」
「か、変わった食べ物だね。頂きま~す」
ふたりはピザを恐る恐る口に運んだ。横の一輪とナズーリンが見守る。
「「……美味しい~♪」」
一口食べてみたふたりから笑みが零れる。
底はカリッとして中はふわっと素朴な味がする薄いパン生地に濃厚な旨味を含んだトマトのソース、ほんのりと苦みがあるピーマン、生のまま焼かれているのだろう僅かに辛味がある薄切りの玉ねぎ、香ばしく焼かれたベーコンという燻製肉、そしてこれまた濃厚な風味がするチーズという伸びるもの。一見全てバラバラな味のものだがそれらが決して別々に主張せずに良い部分を引き出し合い、しっかりとひとつに纏まった味を形成している。
「なにこれ!こんなの食べた事無いよ!」
「色々な味がするけど全部がちゃんと纏まってる!何よりこのトマトのソースと…チーズっていうのが凄く合ってる!」
「うん。他の食材より強い塩気があってちょっとしょっぱいけどそれがまたいいね!」
小傘と村紗は初めて食べるオニオンベーコンピザの味に満足している様だ。
「ほら早く一輪とナズーリンも食べてみなよ♪」
「へ~そんなに美味しいの?じゃあ…ってナズーリンもういつの間にか食べてるし!」
見るとナズーリンは既にいつの間にかもうひとつのピザ、クアトロフォルマッジに手を付け、黙々と何も言わず食べていた。
「……(モグモグ)」
「た、食べてるんなら何か感想言いなよ」
「美味しい。それ以外必要ない」
「し、シンプルな感想。…まぁいいか、じゃあ私もこっち食べてみようっと」
一輪はクアトロフォルマッジに手を伸ばした。オニオンベーコンよりももっと沢山のチーズが使われているのだろう、伸び方がそれの比ではない。
「わわわ、伸びが凄い。まるでお餅みたいだ。他は見た感じ何も乗ってたりしてないけど…頂きます……!!」
口に運ぶ一輪。そして目を開いて驚く。一見チーズというものしか乗っていなくて単調な味かもと思っていたそれから思った以上に複雑な味がする事に。
クアトロフォルマッジとはイタリアの言葉で「四種のチーズ」という意味でそれらをバランスよく使っているのが特徴のピザ。具はチーズ以外一切乗ってなくまさに主役、チーズを食べるためのピザである。使うチーズの種類は決まってはいないが必ず四種以上使うのが定義とされ、本日ねこやで使ったチーズはゴルゴンゾーラ、フレッシュモッツアレラ、カマンベール、そしてパルメザンチーズという四種類が使われている。
「濃厚だけどすっごく美味しいよ!ねぇナズーリン!」
「……」
ナズーリンは黙々と2ピース目に取り掛かっている。
ブルーチーズの一種で特徴ある風味だが旨味も濃いゴルゴンゾーラ、
乳の風味が優しいモッツアレラ、
濃厚なコクを含んだカマンベール、
粉チーズながらしっかりと主張するパルメザン、
それらがパンの上で見事に調和した味にすっかりはまってしまった様だ。
「見た目あまり変わらないのに色々な味がする!塩気もあって甘くもあって香ばしくもあって…不思議な味だけど美味しい~♪次はちょっと味変えてみようかな」
「あっ、じゃあ私もこのタバスコ?ってやつかけてみよっと。アレッタって子は少しずつかけてくださいって言ってたけど…」
そう言って一輪はちょっとだけ蜂蜜を、小傘はタバスコをそれぞれのものにかけて食べてみる事にした。
「…!ピザ、いやチーズってやつのしょっぱさと蜂蜜の甘さが凄く合ってる!」
「こっちもこのタバスコってやつ、結構辛くてちょっと酸っぱいけど…味が引き締まっていい風味出してるよ♪」
どうやら味変も気に入られたらしい。
「コーラの炭酸とも合うね~♪じゃあ私も次はこっちの…」
そう言ってオニオンベーコンの1ピースを食べ終えた村紗が今度はクアトロフォルマッジに手を伸ばそうとしていると、
「……」
ナズーリンが残ったそれに視線を真っすぐにしていた。8ピースに切られているので四人で分けると2ピースで一人分。だからもうこっちは食べ終えているのだが…。
「…もしかしてまだこっち食べたい?」
「……」コク
静かに頷くナズーリン。すると小傘がある仮説を言った。
「…ねぇ思ったんだけどもしかしてナズーリンのダウジングが反応したのって…この本日限定のピザの事だったんじゃないのかな?」
「確かにお店じゃなく「美味しいもの」って事で探してたもんね」
「はは、ねぇ折角だからコレもう一枚おかわり頼もうよ。もう一枚位食べれるでしょ?」
「「さんせ~♪」」
一輪の言葉に小傘と村紗が合いの手をうった。当のナズーリンは何も言わなかったが悪そうでは決してない。
「という訳でアレッタ~、こっちのピザもう一枚おかわりお願い~♪」
「あとコーラも~♪」
「は~い畏まりました~!」
「……」モグモグ
「ああ私もそっち食べたいんだから~!」
……少女食事中……
…………
そしてある程度の時間が過ぎ、気が付くとお皿もグラスも空になっていた。
「は~食べた食べた!」
「美味しかったね~♪ピザもコーラも」
「結局ナズーリンこっちのピザしか食べなかったね」
「美味しい物は食べ続けたい。これ常識」
そこにアレッタとクロがやってきた。
「皆さんどうでしたか?ピザのお味」
「すっごく美味しかったよ!また食べに来たい位」
(それは良かったです)
「ねぇこのクアトロフォルマッジってピザ、何で本日限定なの?いつでも出したらいいのに。きっと売れると思うなぁ」
「あはは…」
苦笑いするしかないアレッタだった。
…………
~~~~♪
おみやげを持ってねこやから戻ってきた小傘、村紗、一輪、ナズーリンの四人。
「あ、扉消えちゃった」
「…残念」
「いやいやあのままじゃ鐘がつけないよ」
「店主さんの話だと扉が出る場所って決まってないんだよね。じゃあ行こうと思ったらまた探さないといけないのか~」
次回のねこやの事を考えている四人。するとそこに留守番していた響子がやってきた。
「皆お帰りなさい!なんともなかった!?大丈夫だった!?」
表情からして扉の先がどういう場所かわからなかったので心配していた様だ。
「あ、響子。ただいま~」
「ぜ~んぜん何の心配もなかったよ。次は響子も一緒にいこ!」
小傘と村紗の言葉に「そうだ」と一輪とナズーリンも頷く。そんな彼らに安心する響子。
「そ、そう…良かった。聖様はもうお戻りになってるよ」
「わかった~。あ、はいこれおみやげ。チーズケーキっていうお菓子だよ」
響子におみやげを渡し、四人が向かおうとした…とその時響子が何かに気づく。
「…あれ?なんか皆、何かにおわない?」
響子が何かのにおいに気づく。その言葉を聞いた四人がそれぞれの身体に鼻を近づけると、
「…あ~このにおいは…」
「…うん、間違いないね」
「においの事までは考えてなかったな~…」
「…不覚」
店に入っている間はその中にいたので気づかなかったが、四人の服にはピザに使われている大量のチーズのにおいが染みついていたのであった…。
…………
その日の夜のねこや
「ほい、本日最後のこいつだ」
店主がまかないとしてアレッタに出したのはクアトロフォルマッジ。クロは勿論チキンカレー。
「わ~ありがとうございます!お客さんが凄く美味しそうに食べてたので気になってたんです!クロさんもどうですか?」
(…ううん。私はいい)
「美味しそうなのに~。でも頂いたあの沢山のチーズ、全部使いきれて良かったですねマスター!」
「はは、まぁな」
クアトロフォルマッジに使われた多種多様のチーズ。それは店主がレオンハートのマスターから譲り受けた(売られた?)酒のつまみの大量のチーズを消費するために作ったメニューだった。
「…うん美味しいです!今日来られた小傘さん達もいつも出してほしいって言ってましたよ?」
「う~ん、ありがたいが…こいつほど他の料理であんなに色んなチーズは使わねぇしな」
そう言って苦笑いしながら自分も同じくピザに手を伸ばす店主だった。
メニュー14
「思い出パフェ」
遅くなりましたが14話投稿しました。今後しばらくは同じ位の間隔になると思います。すみません。
こんにちは、storybladeです。幻想郷食堂をお読み頂きありがとうございます。突然ですがアンケートです。先代博麗の巫女や魂魄妖忌の回があれば読んでみたいと思いますか?公式設定が少ないのでオリジナル要素を含んでしまいますがどうでしょうか?ご意見お願いします。期限は今月一杯です。
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あれば読んでみたい
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不安なので読みたくない