霊夢達と店主、アレッタ、クロが話していたその時、
「お金の心配はいらないわ」
ヴゥーーン!
その場にいる全員に声が聞こえ、続けて奇妙な音と共に空中に切れ目の様なものが現れた。
「きゃっ!」
「な、なんだ…!」
(!)
アレッタと店主が怯み、クロがふたりを庇うかのように前に出た。その表情は警戒感をむき出しにしている。
「お、おいおいまさかここにか!?」
「とりあえず早く出てきてもらった方がよさそうだね…!」
「全くもう!こらスキマ妖怪!出るならさっさと出てきなさい!」
魔理沙も驚き、霖之助が冷静に話し、霊夢がその空間の亀裂らしきものに声を上げた。彼らはその向こうに誰がいるのかわかっている様である。
「わっ!」
やがて、いたずらっこの様な表情を浮かべながらその空間の亀裂から…ひとりの女性が出てきた。大きなリボン付きの帽子、紫の生地に裾に白いフリルがついたドレス、そして手には折りたたまれた傘を持っている。その女性は先ほど、ビジョンを眺めていた女性だった。
「うふふ、ご要望に預かってぬるりと出てきたわよ♪」
「く、空中から…突然女の人が出てきた…!」
「どうなってんだ…こりゃ…?」
(……)
店主とアレッタは当然驚き、クロは警戒を緩めない。
「あ~…一応大丈夫よ。確かに一見めちゃくちゃ怪しいけど、怪しいよりもどっちかといえば胡散臭い奴だから」
「いや全然大丈夫じゃないよそれ」
「ひどいわ~。挨拶をしに来ただけじゃないの~」
「いやそれなら普通に出ろよ普通に。てかお前がここに来たってことは見てたり聞いてたりしてたんだろ?だったらあの扉から入ってきたらいいじゃんか」
魔理沙は自分達と同じ様に扉から入ってくるように言ったが、
「そうしたかったんだけどあの扉、貴方達が入ったら消えてしまったんだもの~」
「…扉が消えた?」
「あ、ああ。お客さん達が入ってきたあの扉、一回通ったら消えてしまうらしいんです。ああでもご心配なく、お帰りの時はまた扉から元の場所に出れますから」
どうやらねこやの扉は誰かが通ると消え、そして出る時に再び元の場所に現れるらしい。
「そ、それはそうとこの人は一体…?皆さんのお知り合いの方ですか?」
「ああごめんなさいね、驚かせて。自己紹介するわ」
すると女性は姿勢を正した。
「…私は八雲紫。幻想郷を管理する者にして、幻想郷を最も愛する者。妖怪の賢者とも呼ばれているわ。初めまして。異世界の方々」
アレッタの問いかけに答える女性。彼女こそ、遠い昔幻想郷を博麗大結界によって人々の世界から遠ざけ、それ以来幻想郷を守り続けている者である。
「ユカリさん、ですか。私はアレッタと言います」
(……クロ)
「アレッタにクロ…さんね。そして…この際だから私も貴方の事、ほかの方々と同じで店主さん、って呼んでいいかしら?」
「は、はぁどうぞご自由に…」
「…ところでクロさん。そんなに睨まれたら私悲しいわ~。大丈夫よ。貴女や貴女の大切なものには何もしないから。そんな事したら私どころか幻想郷も大変だもの~。それにこのお店、他にも守護の力があるみたいだし」
「え、え?」
(……)
その言葉に嘘はないと思ったのか、クロはとりあえず警戒を緩める。アレッタは紫が言った言葉が少し気になったが、今は何より紫本人の方が気になった。
「ところで幻想郷って…レイムさん達が来たっていう世界ですよね?管理者ってことはじゃあ…ユカリさんは王様みたいな方ですか?」
「あらあら、王様だなんて大したものじゃないのよ。それなら王女、って呼んでくれた方が嬉しいわ♪」
「1000年以上生きてる妖怪ババァが何言ってんの全く…」
「霊夢ったらひどいわ~。育ての親として娘にそんな事言われたら悲しい~シクシク」
「誰が親で誰が娘よ!」
霊夢と紫の口論が続く。正確には泣きまねしている紫に霊夢が一方的に向かっていってるだけだが。
「あ~気にしなくていいぜ。こいつら毎回こうだから」
「とりあえず危険はないから大丈夫だと思うよ」
「は、はぁ。あ、それはそうと紫さんでしたっけ。失礼ながらどうやってこちらに?ここには扉を通らないと入ってこられない筈なんですが…」
店主は第一にそれが気になった。今まで10年以上この店をやっているが、紫の様な入り方は初めてだ。
「ああそのことね。それは私の「境界を操る程度の能力」よ♪」
「…キョウカイ、ですか?」
「私達はスキマって呼んでるけどな。まぁ簡単に言うと、離れた場所と自由に繋がる事ができるんだ」
「さっきの切れ目みたいのがそう。彼女はスキマを使って離れた場所と自由に行き来できたり、スキマの向こう側にある物を取れたりできるんだ」
「なんか話だけ聞くとアニメに出てくる秘密道具みたいだな…」
「それで扉が消えちゃったからやむなくこうやって入ってきたって訳なの。できれば他にお客さんがいない方がいいでしょ?お店の場所は扉を見かけた時にある程度把握できたし。貴方がたの事情は霊夢達とのやりとりを見て聞いて知っているわ。改めてようこそ、私達の幻想郷へ」
「アンタまだ陰陽玉の通信機能取り外してなかったのね!…てか今はそれは置いといて紫!アンタならわかってるんじゃないの?このお店の扉がどうして幻想郷に現れたのか」
「あ、そうだったそうだった。どうなんだ紫?」
霊夢と魔理沙が紫に問いただす。しかしその返事はあっけないものだった。
「わからないわよ~。それを突き止めるのは博麗の巫女である貴女の役目でもあるでしょ霊夢?」
「うっ…。てかいつもの式神はどうしたのよ?初めての場所にアンタだけって珍しいわね」
「藍はお留守番よ。ついていきたい感じだったけどあなたや魔理沙もいるなら大丈夫だって言ってね」
「私はアンタのボディーガードじゃないのよたく…」
「まぁともかく私がここに来たのは自己紹介も兼ねての事よ。幻想郷は全てを受け入れる。どんなものであろうとも。例え七日に一度しか現れない、異世界につながる扉だとしても」
「はぁ…」
「あ、ありがとうございます」
(……)
どうやら自己紹介は無事?に終わったようだ。
「それじゃあ店主さん、折角だから私も貴方のお料理いただいてもいいかしら?霊夢達が食べているのみたらすごく美味しそうなんだもの♪もちろんお金はお支払いしますから」
「え、ええ大丈夫ですよ。ギリギリですがまだランチタイムですし。アレッタさん用意を。それとクロさんはあの人に渡すあれの準備を手伝ってくれ」
(…はい)
「はいマスター!それではこちらのお席へどうぞ!」
アレッタの案内で席に座る紫。そして彼女にお冷とおしぼり、続けてメニューを渡された。
「何がいいかしらね~。幻想郷には海が無いから何かお魚を使ったお料理がいいんだけど~、アレッタ、何かおすすめないかしら?」
「え?ええっと……でしたらこれはどうでしょうか?本日のおすすめなんですが…」
アレッタがメニューのある食べ物を指さす。
「…魚と野菜を使った郷土料理のスープ…。いいわね♪じゃあこれをお願いできるかしら?」
「かしこまりました!少々お待ちください!」
アレッタはマスターに報告しに行く。そして紫の所に霊夢、魔理沙、霖之助が移動して他に聞かれない様に静かに話し始める。
「紫、わからないって本当でしょうね~。初めはアンタがスキマ使って扉を運んできたと思ったんだけど」
「私がそんな事してなんの意味があるのよ。そもそも異世界とつながるというのがどれだけ幻想郷にとって危険か、貴女なら知らない訳じゃないでしょ?更にあの人達には悪いけど…ここが本当に安全な場所かどうか、簡単に判断するべきじゃないわ。特にあの黒い髪の女の子、あれは単なる存在じゃないわ。強いて言えば…「神」に等しい力をもつ存在。あの地獄の女神には及ばないかもだけれど…下手をすれば幻想郷を滅ぼせるほどの力を持っているわ。そんな存在がいる場所とつながるなんて…」
「でもあの扉は人は行き来できないんでしょ?だったら」
「もしその話が嘘だったら?」
「……」
霊夢と紫が静かに真剣な話を続けると、
「う~ん…でもここはお前が特段警戒するようなとこじゃないと思うぜ。雰囲気もいいし飯もうまいし♪」
「まぁ今のところ危険は感じないね…。どちらかといえば居心地がいい場所だよ」
魔理沙と霖之助が少なからずねこやをフォローする。
「確かに不思議な場所ではあるけど…今の段階では私も魔理沙と霖之助さんに同意するわ。見た事ない人ばかりだけど、少なくとも妖怪達の様なうさん臭さは感じないし、向こうも私達見ても全然気にしてないみたいだし、今までと同じ様に定期的に見に来ればいいでしょ」
どうやら霊夢もここは危険ではないと現時点で判断している様だ。
「…まぁ確かにあの人達から邪な気は感じない。今は様子を見るしかなさそうね。華扇や隠岐奈にも一応伝えておかないと」
紫はとりあえずこの件は保留しておくことにした。
……店主調理中……
…………
そうしている内に紫が頼んできたものが店主によって運ばれてきた。
「お待たせしました。ブイヤベースです」
紫の前に置かれたのはブイヤベース。うっすら香辛料の香りがする赤色系のスープとその中には大きな魚の切り身と貝、殻が付いた海老が丁寧に並べられている。
「いいにおいだわ~♪これがブイヤベース。聞いたことあるけど食べるのは初めてね」
「お客さんお酒は?」
「大丈夫よ。ありがとう」
「よかった。ではこちらが白ワインです。肉なら赤ですが魚なら白が合いますよ」
グラスに注ぎながら料理の説明をする。
「今日使っている魚は車海老とカサゴ。そしてあさりです。本場のやり方では貝は使わないんですが、うちではより旨味を出すために使ってます。あとパンはおかわり自由ですんで。それではごゆっくり」
ワインをグラスに注いでから店主が厨房へと戻っていく…。
「これまた随分具沢山で豪華なスープだね」
「さっそくスープからいただきましょうか」
紫はスプーンでスープをひとさじすくい、ゆっくり口に運ぶ。口の中にいくつもの食材の旨味が溶け込んでいるらしい風味が広がる。
「……美味しい。赤いからトマトの味かしらと思ったけどそれだけじゃない。色々なお野菜や香辛料、そしてお魚のお出汁がこのスープに溶け込んでいる。複雑な味だわ」
次にカサゴの切り身にナイフとフォークを入れ、再び口に運ぶ。
「…海の魚らしい力強い上品な肉質にほんのりと魚の甘みがある。そこにスープの美味しさもしっかり含んでいるわね」
「わかるぜ。さっき私が食べたエビフライのエビも川のエビと違ったもんな~」
そこにアレッタが助言する。
「スープはパンと一緒に食べても美味しいですよ♪」
言われて紫はパンを少しちぎり、スープに少し浸して食べる。
「このパンだけでも十分だけど…こうして食べるともっと美味しいわ。パンはあんまり食べた事ないけどこれならいくらでも食べれそうね♪」
「ね~紫。私にも少しちょうだいよ?」
「や~よ。これは私が頼んだんだから」
「ケチね~。じゃあお酒だけもらうわ。アレッタ。悪いけどグラス新しいのもうひとつお願い~」
「あ、私にもくれだぜ♪」
どうやら本日お越しの面々による騒がしい宴はもう少し続きそうだった。
……少女食事中……
…………
その後、紫はブイヤベースは勿論、パンもワインもきれいに平らげた。
「ふぅ~。美味しかったわ~♪」
「そう言っていただけて良かったです」
「たまの洋食もいいものね。店主さん、確かこのお店は七日に一度扉が開くのよね?また来てもいいかしら?」
「…そういえば紫、アンタここに来た時「お金の心配はいらない」って言ってたけど、あれってどういう意味なのよ?アンタだけのものなら簡単に支払えそうだけど、さっきの台詞じゃ私達も同じ意味の様に聞こえるんだけど?」
すると紫はほんのちょっとスキマを開き、そこに手を入れるとそこから何かを取り出した。
「はいこれ」
それは…金色に輝く小判だった。しかも丁寧に帯でまとめらている。
「こ、こりゃあひょっとして、小判ですかい!?」
「凄い!金貨よりも大きい!」
「それで私や三人の分もお支払いしたいんだけど大丈夫かしら?」
「え、ええ十分です…。では一枚頂いて」
換金するにはあまりにも大金なので、店主はそこから一枚だけ抜こうとする。すると紫はそれを止めて言葉をつづけた。
「それには及ばないわ。…ねぇ店主さん。もしかしたらこの先、私達以外にも幻想郷からここの扉を通ってくる子がいるかもしれない。その子達の食事代もそのお金で建て替えておいて?きっとここの料理に皆喜ぶだろうから」
「…それって僕達だけでなく、この先幻想郷から来る皆の分も奢ってくれるって事かい?」
「紫~♪たまにはいい事するじゃな~い♪」
「おう!伊達に歳は取ってないぜ♪」
霊夢と魔理沙は凄く喜んでいる。
「は、はぁ。うちはどなたが払ってくれても問題ないので大丈夫ですが…ほんとにいいんですか?」
「いいのいいの!遠慮なんか一切せず受け取っておきなさいな♪」
「…霊夢。それは君が言う事じゃないよ?」
「そういう事なら七日後も遠慮なく来させてもらうぜ!いいだろおっさん。アレッタ。あとクロ」
(はい)
「はい!」
…………
「「それじゃあまたね(な)~」」
「ありがとうございました。またお越しをお待ちしております」
「ぜひまた来てください!」
(ありがとうございました)
~~~~♪
…………
霊夢達が扉を開けると、そこは確かに霊夢達が入ってきた場所と同じ香霖堂の裏だった。空はもう夕焼け。最後の霖之助が扉を閉めると、扉はすぅっと消えた。
「あ、紫の言った通り本当に消えたぜ」
「入ったりすると消える…。どうやら扉を使えるのは一日一回みたいだね」
「どうやらその様ね。今度は皆で一緒に行きましょうか」
それを見た霊夢は、
「ねぇ魔理沙!それと霖之助さんと紫も!この扉の事、他の奴には秘密にしといて!もし他の奴に先に使われたら私達あのお店に行けなくなっちゃうから!」
「…それなら紫が言った通り、皆で集まって一緒に行けばいいじゃないか?」
「あんまり大勢で行ったらお店も大変でしょ?あのお店、結構人気店みたいだし。気遣いよ気遣い♪」
そう言って霊夢はいかにもお店のためという風に言うが…長い付き合いの皆はわかっていた。
「霊夢。そう言っておきながら貴女、あのお店の料理をひとりじめするつもりね?」
「うっ…」
「それにもし私達が行けない日とかあったらひとりでも行くのは目に見えてるんだぜ」
「うぐっ。…だって~、あんな美味しい料理毎回タダで食べれるなんて他の連中が知ったらきっと我先に行っちゃうのは目に見えてるじゃないの~。もし妖精とかにも知られたら確実よ~?毎回毎回大勢で行ったら紫のお金も直ぐに無くなっちゃうかもしれないし~」
「心配しなくてもそんな簡単に無くなるほどお高いお店じゃなかったわよ…。それにさっき言った通り、あの扉が幻想郷にどんな影響を及ぼすかを注視する必要がある。その意味でも全員に秘密にはしておけないわ」
「…じゃあ取り合えず幻想郷の重鎮には知らせておくというのはどうかな?」
「ていうと…幽々子や永遠亭の医者。命蓮寺の坊さんや守谷の神さんってとこか」
「そうね。あとはさっき言った通り華扇や隠岐奈にも。少なくとも彼女達には伝えておくわ。これ位ならいいでしょ霊夢?」
紫や霖之助の言葉に霊夢も従うしかない雰囲気だった。それに自分も幻想郷の守護者のひとりとして、これからもあの扉の事は頭の隅に入れておく必要がある事は理解している。
「む~…わかったわよ~。でもいいわね、あんまりそれ以外の奴には知らせないでよ?特に悪戯好きの妖精達には!」
「はいはいわかったわよ」
「それじゃあ今日は解散にしようぜ~」
取り敢えず四人は今日の事は覚えておきつつ解散となった。因みに霊夢、魔理沙、紫の手には其々お持ち帰りのステーキサンド、メンチカツサンド、フルーツサンドが。支払いは勿論紫のお金であった…。
…………
その夜、ねこやでは店主がひとりの女性客に対応していた。赤いドレスに身を包んだ真紅の長い髪と褐色の肌。そして頭には竜の様なふたつの角が生えている。
「…店主、今日は…何やら新しい客がおったのだろう?」
「ご存じだったんですか?」
「当り前だ。わらわを誰だと思っておる」
「はは。さて、お待たせしました。ビーフシチューです」
女性の前に出されたのはビーフシチュー。これが女性がこの店で最も愛する料理である。
「…は~。相変わらずこの香りは、いつもわらわを誘惑してやまぬ…」
香りだけで恍惚な表情を浮かべる女性だった。だがスプーンを取り、食事を始めようとした時に一瞬、表情が再び真面目になった。
「…おい、店主。すまんがクロの奴を呼んでくれぬか。今日はもう客は来ぬのだろう?」
「え?ええ、構いませんよ。クロさん」
言われて店主はクロを呼ぶ。彼女の方も何かあるのか、素直に従い、ドレスの女性の前に座る。そしてふたりは…周りに聞こえない様にテレパシーで話し始めた。
(…扉の向こう側から感じていた。どうやら新しい世界と繋がったそうじゃな)
(…うん。そうみたい)
(…我々の世界でも、店主の世界でもない、新たな異世界の者は、どんな感じじゃ?)
(…まだ、よくわからない。けど、管理者と名乗った者は、私がどういう存在なのか、少なからず気づいている様子だった。…赤、貴女の事も)
(…ほう…)
その言葉に「赤」と呼ばれた女性は思う事があるのか目を細める。
(お前の事はおろか、わらわの気配をも読むとは。お前の言う通りただの存在で無い事は確かじゃな)
(他の人達も普通とは違う気がする…。少なくとも…今日会った人については。これから会うかもしれない者はまだわからないけど)
(そうか…)
(……でも)
(…ん?)
(……マスターの料理を食べて、皆、他と同じ様にすごく笑顔だったから…悪い人達じゃ、ない気がする…)
クロのその言葉に赤という女性は一瞬きょとんとし、
(……ふふ)
その答えに思う事があったのか、わずかに笑った。
(…何?)
(お前もだんだん…いや、忘れろ。下手な事言ってお前の機嫌を損ねるのは、わらわの望むことではない)
(…?)
(まぁとにかくじゃ。先にも言った通り、もしわらわの目の届かぬ時にこの店に危機が訪れた時は…)
(わかってる。「黒」である私が守る。店もマスターもアレッタも。それが今の、私の意志)
「黒」の力強い言葉に「赤」は笑みを浮かべる。「赤」と「黒」。ふたりは人間ではない。はるか昔、彼女らの世界が多いなる存在によって滅ぼされかけた時、1000年に及ぶそれとの戦いの末に勝利し、世界を救った神々の内の二柱である。
「…ふっ。おい、店主。すまんがビーフシチューの新しい皿を頼む。話が長うなってしまって冷めてしまったのでな」
「わかりました。…ああそれとクロさん、今のうちに一緒にまかない食っちまったらどうだい?チキンカレー温めてあるから」
黒(チキンカレー)
(…うん)
店主の言葉にクロは笑みを浮かべて返事をし、赤と一緒に食事をすることになった。
赤(ビーフシチュー)
(まぁわらわとしても、もし万に一新たな世界の者がこの店、そしてこのビーフシチューを傷つける事あらば…その時は我が炎で消滅してやるつもりだがな♪)
本気か茶目っ気か、赤は心の中でそんな事を考えていた。
…………
それより少しした後、「赤」は毎度のおみやげを持って去り、クロは先に上がっていた。残ったのは一緒にまかないを食べている店主とアレッタのみ。ふたりの話題はやはり、
「それにしても今日は驚きました。まさか私達の世界やマスターの世界以外にも異世界があったなんて」
「ああ。俺もちょっと驚いたよ。しかもその世界が俺の国の、存在しているけど目に見えない世界だったなんてなぁ」
幻想郷という存在に店主はやはり驚いていたが、それでも自分の役割は決まっている。先代の店主が言っていた通り、「メシ屋は美味いメシを出し、客に気分よく帰ってもらえたらそれでいい」。その客が自分達の世界の者でも異世界の者でも関係ない。それが「異世界食堂」のスタンスであり、今後も変えるつもりはない。
「…世界ってのは本当に摩訶不思議なもんだ」
「でもユカリさんのお話だとこれからもっと多くの方が来られるかもしれませんから、ちょっと楽しみですね!」
「ふふ、そうだな」
ふたりは七日後に、また訪れるかもしれない新たな客に、少なからず楽しみを持っていた。
…………
七日後、香霖堂裏
そしてそれから七日後、霊夢と魔理沙は再びねこやに行こうと霖之助の店の裏にある扉からねこやに行こうとしていたのだが…、
「どういう事よ!なんで扉がないわけ!?」
何故か七日後のそこには…ねこやの扉が無かった。
「こーりんお前!扉隠したのか!」
「人聞きの悪い事言わないでもらえるかな…。僕は何もしてないよ。僕も本当に現れるか気になってちょくちょく見ていたけど…何時になっても扉は現れなかったよ」
「なんでよ~!扉は七日に一度現れるんじゃないの~。あの店主さん嘘ついてたって訳~?」
お金の心配がいらなくなった事もあって霊夢は毎回行こうと思っていたのか、凄く悔しそうだ。すると、
ヴゥーーーン!
「落ち着きなさい霊夢」
再び空間の裂け目が現れ、その中から紫が出てきた。
「あの時の店主さん達が嘘を言っている様には思えないわ。これは…もしかするとこの幻想郷、そして結界の影響かもしれない」
「どういう事だぜ紫?」
「知っての通り、博麗大結界は幻想郷を外の世界から隔離するためのもの。でも稀に外の世界から流れてくるものや結界が薄い場所もある。外にある博麗神社や無縁塚みたいな」
「そんな当たり前の事、今更どうしたのよ?」
「そしてあの扉には、正確にはあのドアベルね。あれには異世界とつながる不思議な力がある。でも扉が現れたのは博麗神社でも無縁塚でもないし、結界が薄い訳でもない。どうしてつながったのかは今は後にして…。もし仮に、結界とあの扉の力がぶつかり合った結果としたら」
「結界と扉の力がぶつかる?」
「そう。そして結果扉が結界を通り抜けたけど、完全じゃない。結界の影響で扉の力が不安定になり、同じ場所に定着しなくなったとしたら…ここにないのも頷けるわ」
同じ場所に定着化しない。そこから出される答えはひとつ。
「……つまり、七日に一度扉は現れるけど、幻想郷のどこに現れるかはその時その時で変わる。異世界食堂とやらに行くには新たに扉を見つけなければならない、という事かな?」
「ま、簡単に言えばそういう事ね」
「そんな~!今日は朝起きた時からロースカツの口だったのに~」
「紫、扉が今どこにあるかわからないのか?」
「それがわかるならとっくに教えているわよ」
どうやら紫にも扉の正確な位置を把握しないと異世界食堂に行くのは無理な様である。
「こうなったら探しにいくしかないわね!行くわよ魔理沙!」
「おう!」
そう言って霊夢と魔理沙は扉を探しに飛んで行ってしまった…。その場に残ったのは紫と霖之助のみ。
「……行っちゃったね」
「もう霊夢ったら…仕事の事忘れているんじゃないかしら」
やや呆れ顔をするふたりだった。
異世界食堂にして「ねこやの扉」それは七日に一度、幻想郷に現れる。しかしその扉はどこに、どれだけ現れるかわからない…。
「……ところで紫、つかぬ事を聞くようだけど君はスキマを使って外に行けるんだろう?そしてあの店は外の世界のもの。だったら君ならいつでも食べにいけるんじゃないか?」
「…流石霖之助さんね。う~ん、それもアリといえばアリなんだけど止めておくわ。あちら側じゃ私は目立ちすぎるから。それに…」
「それに?」
「私だけ食べに行ってた!なんて後々霊夢に知られたら…何よりも怖いもの」
「…成程ね。確かに」
メニュー3
「ぶりのテリヤキ」
連休を使って何とか早く上げられました。
次回は来月始め頃になります(嘘じゃないです汗)。
こんにちは、storybladeです。幻想郷食堂をお読み頂きありがとうございます。突然ですがアンケートです。先代博麗の巫女や魂魄妖忌の回があれば読んでみたいと思いますか?公式設定が少ないのでオリジナル要素を含んでしまいますがどうでしょうか?ご意見お願いします。期限は今月一杯です。
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あれば読んでみたい
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不安なので読みたくない