人里「寺小屋」
「それでは今日の授業はこれまで。皆、課題を忘れて来ない様に」
「「「ありがとうございましたー!」」」
学校や塾等の所謂学び舎というものは勿論幻想郷にも存在する。それが人里で唯一存在するここ寺小屋。寺小屋とは江戸時代に存在した読み書き計算を教える初等教育機関の事。幻想郷では人が暮らしている場所は本当に僅かしかないがそれでも普段の生活を送る上で最低限な常識や知識は知っておかなければならない。それを子供の時から学べるのがここであり、多くの人の子供、そして人々から然程危険視されていない様な妖精の子供が通っている。今日もそこの教師を務めている上白沢慧音による授業を終え、挨拶を交わして生徒達が帰ろうとしたのだが…、
「ああそれと、チルノとルーミアはここで課題を済ませてから帰る様に」
氷の羽を持った少女
「ええええ!?」
黒のワンピースの少女
「なんでー!?」
「家に持って帰らせると九割の確率で忘れてくるからな。その前にここで終わらせてから帰るんだ」
「それだと普通の勉強と変わらないじゃないか!」
「そーだそーだー!課題とは言わないのだー!」
「はぁ~。授業中居眠りしている事がしょっちゅうなお前達が言っても意味がないぞ。必ず終わらせてから帰る様に。それまでは厠以外は教室からは出る事は許さんからな」
「ぐぬぬ~」
羽が生えた緑色の髪の少女
「チルノちゃん、私も手伝うから頑張ろ。ほらルーミアも」
「大妖精…世話をかけるが頼む。私は用があって少し外出するが一時間位で戻って来るからな。ああそれと…ついでにふたりが勝手に出て行ったりしないかも見張っておいてくれ」
「あ、あはは…」
…………
それから約数十分が経ち、教室に残るのは三人の妖精の少女だけ。
「う~なんでアタイらだけこんな目に…。恨むぞ~慧音先生~」
慧音から居残りを命じられたふたりのひとりは水色の短い髪に青いリボン。白シャツの上に首元に赤リボンと青色のワンピース。そして氷でできている様に見える羽がある背の低い少女。先程のやりとりで慧音からチルノと呼ばれていた。
「早く遊びに行きたいのに~」
もうひとりは黄色の髪に赤いリボン。白い服の首元にも同じく赤いリボン。黒のロングスカートをはいた少女。名はルーミアといった。ふたり共居残り勉強に辟易しているのが目に見えてわかる。
「あともうちょっとだから頑張ろ。ね?」
そのふたりの勉強を見ているのはチルノやルーミアと同じ位の長さの緑色の髪をサイドテールにして白シャツに水色の服、そして背中から妖精といえる様な羽が生えた少女。先程慧音から大妖精と呼ばれていた。
「手伝ってもらって今更なんだけどごめんな大ちゃん」
「ごめんなのだ~」
「気にしなくていいよ。それよりも早く終わらせて、一緒に遊びにいこ」
「うう…大ちゃんはやっぱりいいやつだな~。いい友達をもってアタイは幸せだぞ~」
そんな感じで再び勉強を再開するのだが…それから5分もしない所で再びチルノという少女が机に伏せてしまう。
「どうしたの~?」
「だ~駄目だ~。お腹空いてもう力が出ない~」
「…あ、チルノちゃんそう言えば今日遅刻しかけてきたね。もしかして…」
「そ~なんだ~。全速で飛んで来たから朝ごはんを食べてきてないんだ~。なぁふたり共何か食べるもの無いか~?」
「私は持ってないや…ごめんね」
「私も持ってない~」
その言葉にチルノは「マジか」と言いつつガクーンと再び顔を机に沈める。それはまるで溶けてしまう位に。
「でもそういえばもうすぐお昼だね。終わったら遊びに行く前にお昼ご飯食べよっか」
「賛成~♪」
「アタイは今すぐ食べたいよ~…あ、そうだ食べるといえばリグル達の話聞いたかふたり共?」
「リグル達の話って……何だっけ?」
「何か言ってたっけ~?」
「あれだよアレ!えっとえっと…ねこの何とか…だったっけ」
「猫?」
すると緑髪の少女が思い出す。
「………あ、もしかして「ねこや」っていうご飯屋さんの事?」
「それそれ!前に遊んだ時に言ってたんだよ!美味しいもの食べれるところに行ってきたんだって!」
「そ~なのか~?」
「…そういえば前に文さんの新聞にそんな話が載ってたね。確か…突然猫の看板がかかった扉が現れて、とか書いてあった様な」
「大ちゃん新聞なんて読んでんのか~。偉いな~、とまぁそれは置いといてそうなんだよ!その扉をこの前見つけたらしくてさ!サニー達とかエタニティラルバとかリリーホワイトとか、ミスティアまで行ったって言うんだ!自分達だけで行くなんてずるいよな!大ちゃんやルーミアだって思うだろう?」
「美味しいご飯食べたい~」
「う、う~ん私はちょっと心配だなぁ。だってこれも書かれてたけど外の世界に繋がっちゃうんでしょ?先がどんな場所かわからないし…」
「なんの心配も無かったって言ってたぞ?見た事無い場所だけど妖精とか角生えたやつとか人間とかいて面白かったって言ってた」
「そうなんだ。妖精はともかく角生えたって鬼の事かな?」
「ん~なんかマゾクとか言ってたな」
「マゾク…なんかかっこいいのだ~♪」
「あ~ここにも現れてくれないかな~。そのにゃんこやっていうご飯屋の扉」
「「ねこや」だよチルノちゃん。まぁそれはまた後にして慧音先生が帰って来る前に勉強終わらせよ」
「あ~い…。ちょっと厠行ってくる」
「逃げちゃダメだよ~チルノ」
「わかってるよ」
チルノは教室の障子を開け、厠へと歩いて行った…直後、ドタドタと走って戻って来た。
「ど、どうしたのチルノちゃん?」
「ど~したのだ~?」
「だだだ、大ちゃんルーミアちょっと来てくれ!」
何やら酷く慌てたチルノに引っ張られる様に大妖精とルーミアが付いていくと…、
「…ええ!」
「お~?」
厠に続く廊下の途中、その終着点である厠の丁度真ん前に…本来そこにある筈がない、木でできた扉があった。
「ななな、なんでこんなところに扉が?さっき私が行った時は何もなかったのに…?」
「それよりも見てみなよこの絵!」
「絵?……猫の絵だね~」
「え…それって!」
それは先程まで三人が噂していた、ねこやという場所に繋がる扉に違いなかった。
「すっげー!噂してたら現れてくれるなんてアタイってばやっぱり持ってるな~♪じゃあ早速行こうぜ大ちゃん!ルーミア!」
「行ってみるのだー!」
「ちょ、ちょっと待ってチルノちゃん!まだ課題終わってないでしょ!それにどこにも行っちゃいけないって慧音先生から言われてたじゃない!」
大妖精の意見は最もなのだが当のチルノは、
「ダイジョーブダイジョーブ!厠に行ったと思ったらいつの間にか別の場所だったと言えば問題無いって♪」
「問題しかないよそれ〜!」
「それにルーミアはもう入ってったぞ?」
「え!?」
いつの間にかルーミアは既に扉を開けてしまって入っていった。
「てなわけでほら行こうぜ大ちゃん♪」
そして大妖精が一瞬驚いている間にチルノも行ってしまった。もう頭から課題の事はすっかり消えてしまった様だ。
「あ!…もう〜どうなっても知らないからね~!」
ふたりだけ行かせる事などできる訳もなく、この後の事を予測しつつ諦めながら大妖精も後を追うしかなかったのだった…。
…………
〜〜〜〜♪
そしてチルノ達が見たものは今まで自分達がいた寺小屋とは全く違う場所だった。
「う、うおーすげー!何だここ!?」
「とっても暖かいし、いい匂いがする〜!」
「ほ、ほんとに別の場所に繋がってるんだ…」
(…いらっしゃいませ)
「…大ちゃんルーミアなんか呼んだ?」
「何も言ってないよ?」
「き、聞こえたというか頭の中に響いた様な…」
「あ、いらっしゃいませ〜!」
頭に聞こえてきたのはクロの声だがチルノ達は誰の声か気づかない。代わりにクロの声でチルノ達の来店に気づいたアレッタが近いてきた。
「うわ!お前鬼か?なんか見たこと無い角だな〜」
「こらチルノちゃん、初めて会う人にお前なんて駄目だよ!ごめんなさい!」
「いえいえ全然気にしないでください」
笑ってそう返事するアレッタ。普通ならば見た目こんな子供同然の者達だけで来店すればおかしく思うがここは異世界食堂。突然現れるその扉に好奇心から入って来るのが子供だけという例も結構あるのだ。
「私はオニじゃなくて魔族なんです。それよりオニという事は皆さんも幻想郷から来られた方々ですね。ようこそ洋食のねこやへ!私はアレッタといいます」
「おうよろしくなアレッタ!アタイは幻想郷最強!すんごく強い氷の妖精、チルノだ!」
全然怖気ない様子のチルノ。頭は賢くは無いが誰とでも気軽に話せるのが彼女の良いところかもしれない。
「ルーミアだよ~。…貴女人間じゃないんだ~。残念~人間なら………アレ?なんて言おうとしたんだっけ?まぁいいか〜」
「大妖精といいます。は、はじめまして」ペコリ
「チルノさんとルーミアさんと…えと、お名前は?」
「あっはっは!ここでもその話が出たな♪」
「も、もうチルノちゃん!あ、あの私は一応大妖精という、まぁ名前と思って頂ければ嬉しいです」
「私達は大ちゃんと呼んでるよ〜♪」
「は、はぁ、そうなんですね。ではダイヨウセイさんと呼ばせてもらいますね?」
「はい、それでいいですよ」
「なぁなぁ、ここって美味しいご飯食べさせてもらえる場所なんだろ?リグルやサニーミルク達が言ってたぞ!」
「リグルさんやサニーさん達のお知り合いでしたか。はい、ここは異世界のねこやっていう料理屋です!ここのご飯はどれも美味しいですよ!」
「美味しいご飯食べたいのだ~♪」
~~~~♪
とその時、扉のベルが鳴って扉が開き、「ズシ!ズシ!」と足音を立てて入って来る者がいた。
トカゲの様な大男
「……」
それは見た目爬虫類、青緑色の鱗に覆われた固い肌と太い尻尾を持った二足歩行するトカゲというべき風貌の大男。皮の軽鎧と木の小手、粗末なマントを羽織った、まさにリザードマンといえる者である。
「おおおおおおおお!!」
「わ~!」
「うわわわわわ!!」
「あ、いらっしゃいませガガンポさん!(マセ)」
「ム、キタ」
突然後ろから現れたそんな存在にチルノは目を見開き、ルーミアは口をあんぐり、大妖精は慌てるがアレッタとクロは何ら気にせず歓迎の挨拶を言い、リザードマンの方もカタコトながら返事をした。
「ななななんだお前は〜!こ、この見た事無い妖怪め〜!」バッ!
「チルノちゃん!?」
「氷符!「パーフェクトフリーズ」!!」
すると突然現れたそれにチルノは思わず自らが最も得意とするスペルカードを放とうとした。大妖精は思わず顔を手で覆う。が、
「…………アレ?」
しかし、何も起こらなかった。
「あれ~何も起こらない~?」
「ま、まだまだ~!氷符!「アイシクルフォール」!!」
………しかしこれまた何も起こらなかった。
「また何も起こらないね~?」
「な、なんでだ~!?」
(……)
「あ、あのチルノさんどうされたんですか?」
スペルカード等知るはずもないアレッタから見たら何がなんなのかわからないかもしれない。とその時厨房から店主も顔を出した。
「どうされました?あ、ガガンポさんいらっしゃい」
「ム、キタ。キョウモオムライス、オオモリ。オムレツサンコ、モチカエリ」
「はいよ。幻想郷からのお客さんも取り合えずお座り…って随分かわいらしいお客さんだな。アレッタさん今空いてるからついてあげてくれ」
「はいマスター!さぁとりあえずどうぞ」
「は、はい!ほらチルノちゃん」
「ぐぬぬ~何故だ?何故アタイの力が~」
「ね~はやく座ろうよ~。お腹空いた~」
悔しそうなチルノをよそにガガンポと呼ばれたリザードマンはズシズシとテーブルのひとつに向かう。取り合えずチルノ、ルーミア大妖精も空いているテーブルに座る事にした。
「…不思議な場所だね」
「美味しいご飯とっても楽しみなのだ~♪」
「でも来たのはいいけどどんなご飯があるのか全くわかんないぞ?それにこういうのってお金が必要なんじゃないのかな?」
「それなら大丈夫です。紫さんから皆さんの分のお金を頂いていますから」
そんな事を言いながらアレッタが人数分の水とおしぼり、そしてメニューを持ってきた。
「こちらお水とおしぼり、あとメニューです」
「このお水、蜜柑みたいなものが入ってるぞ。……ちょっと酸っぱいけどさっぱりしてて良いな♪」
「あ、ありがとうございます。メニューってお品書きの事ですよね?」
「はい。こちらの料理はなんでもおススメですけどどうしましょう?お食事ものや甘いものもありますよ」
「アタイお腹ぺっこぺこだから何か食べたいな~。なぁルーミア…あれ?ルーミアは?」
「ルーミアさんならあちらに…」
「え?…あ!」
「~♪」
「……」
すると当のルーミアは…いつの間にかふたつ向こうのガガンポがいる席にいた。最初は吃驚したもののそこは好奇心旺盛な面が強いルーミア。落ち着いたらすっかりガガンポという存在に興味津々である。当のガガンポは無言のままだが。
「ねぇねぇあなたは誰~?トカゲの妖怪~?」
「…オマエノイウコト、ムズカシイ。…ヨーカイ、ワカラナイ」
「あはは♪面白い喋り方ね。あたしルーミア。あなたのお名前は~?」
ガガンポ(オムライス)
「…ルミア、カ。オレ、ガガンポ。ヨロシク」
「ち~が~う~。ルミアじゃなくてルーミアなのだー」
「る、ルーミアちゃん普通にやりとりしてる…ってチルノちゃん?」
するとそこにチルノも参戦してきた。
「なぁお前、何やったんだあん時!アタイの最強無敵のスペルカードが出せないなんておかしいぞ!」
「…オマエノイウコト、モット、ワカラナイ」
「ぐぬぬ~!普通に喋れよ!アタイはチルノってんだ!お前の名前は!?」
「…ガガンポ」
「チルノちゃんまで…ど、どうしよう」
「ふふ、大丈夫ですよ。初めて見た方はちょっと驚くかもしれませんけどお優しい方ですから」
とそこにクロがガガンポの注文したオムライスたる料理を持ってきた。ガガンポの尻尾が動き、物静かな声が少し高くなる。余程大好物なのだろう。
(お待ちどうさまです。ご注文のオムライスです)
「ム、キタカ!」
「うお、なんだなんだこの黄色いものは!?まるで黄色いお山みたいだ」
「何か赤いものがかかっているのだ~」
「ほら!大ちゃんもこっち来なよ!」
「え?う、うん」
言われて大妖精とアレッタは隣のテーブルに移動する。
(オムレツはいつもの様に最後にお渡しします)
「マカセル。…イタダキマス」
手を合わせて行儀よく挨拶を済ませてからオムライスにスプーンを入れるガガンポ。
「わわ!中から色んなものが出てきたぞ!」
「キレイなのだ~」
「お米かな?お肉やキノコみたいなものも入ってるね」
「なあなあトカゲのおっちゃん!それ一口おくれよ!」
「食べてみたいのだ〜」
恍惚な表情で一口一口大事に味わう様に食べるガガンポにチルノやルーミアはおねだりするのだがガガンポはオムライスを庇う様にして断る。
「…アゲナイ」
「え〜ケチンボ〜」
「オムライスタベレル、ユウシャ。オムライス、ユウシャノアジ」
「…勇者?おっちゃん勇者なのか?前に絵本で読んた事あるぞ。勇者ってのは凄く強いって」
「…厶。オレ、ユウシャ。オレ、ムラデイチバン、ツヨイ」
ガガンポは大陸のとある湿地帯に住む「青尻尾の族」というリザードマンの一族の出だった。彼らの集落では毎年村の中で一番の強者、勇者を決める祭が行われ、祭で優勝した者は村からの尊敬を集めると共にある使命を授かる。
「七日に一度現れる扉の先からオムレツなる異世界の料理を持ち帰る事」
そして同時に「オムライスなる至高の料理を腹一杯食べられる」特権が与えられるのである。故に勇者の座は毎年大人気であり多くの若きリザードマンが挑むのであるがガガンポは勇者を決める祭で何年も勇者の座を防衛している強者なのだ。
「オレ、モットオムライス、クイタイ。マダマダマケルキ、ナイ。ソシテオムレツ、トドケル。ムラノタメ」
「そ~なのか~」
「スッゲー!おっちゃんそんなに強いんだな!通りでアタイのスペルカードが効かない訳だ。悔しいけど使う前に消されてたんだな。うんうん♪」
何やらひとり納得するチルノ。
「でもそれならアタイにだってそのオモライスってのを食べる権利あるな!なんたって幻想郷最強だからな!てな訳でーえっとーアレッタだっけか?アタイにもオモライスってのくれ~♪」
「アタシにも~♪」
「あ、駄目だぞルーミア!オモライスは勇者だけが食べれるんだ!」
「え~!」
オムライスをすっかり勇者だけの食べ物と勘違いしているチルノ。するとそれを横に見ながら二杯目のオムライスにかかろうとしていたガガンポが、
「…オムライス、ウマイ。デモ、オムレツモ、キットウマイ。イチゾク、ミンナダイスキ」
「ならアタシはそっちを食べるのだ~♪」
「大ちゃんはどうするんだ?」
「えっ?えっと私は…」
「ふふ、気になさらずオムライス召し上がって頂いても大丈夫ですよ。それにオムレツもお肉とかシュライプとか色々あります」
「じゃあ私はお肉のオムレツにするのだ~♪」
「じゃ、じゃあ私も…あの、しゅらいぷってなんですか?」
「えっと別の言い方で…エビって言ったかな?」
「あっ、エビの事なんですね。…それじゃあ私はエビのオムレツでお願いします」
「かしこまりました!少々お待ち下さいね!」
アレッタは店主に注文を言いに行った。
「楽しみだなー♪」
「あ、あの、ありがとうございます」
「厶」
リザードマン最強の戦士と自称幻想郷最強の妖精(自称)の交流は暫し続く…。その間新たな客も増えてきて徐々に賑やかになり、アレッタも離れたが小さい三人の客も次第に緊張が薄れていく。
「ねぇチルノちゃん、忘れてたけどお手洗い大丈夫?」
「………あ、すっかり忘れてた。なぁアレッタ、厠どこ?」
……店主調理中……
…………
「…ゴチソウサマ」
「おっちゃん偉いな!いただきますとごちそうさまは大事だぞ」
「…ショクジニカンシャ、ダイジ。ツクッタモノニカンシャ、ダイジ」ふきふき
「だからチルノちゃんもお野菜残したら駄目だよ?」
「あといただきますの時はちゃんと手を合わせるのだ~」
「うぐ!ヤブヘビだった」
するとそこに店主がカートを押してやってきた。
「お待ちどう様。先にいつものお持ち帰り用パーティーオムレツみっつですね」
「厶、カンシャスル。…オカンジョウ」
「…はい。まいどあり」
「…ジャ!」
「またのご来店を」
「ありがとうございましたー!(ました)」
「またなートカゲのおっちゃん!」
「またね~」
「お、お元気で」
「ム!」
〜〜〜〜♪
その一言とお辞儀し、ガガンポはオムレツを腕と尻尾に器用に下げて帰っていった。
「そしてこちらもお待たせしました。ご注文のオムライスです」
「来たな~勇者のオモライス!」
「それとひき肉と玉ねぎのオムレツと、こちら海老のホワイトソースオムレツです」
店主はチルノの前にガガンポが先程まで食べていたのと同じオムライスを出した。黄色い卵で中身が包まれ、上からは真っ赤なケチャップソースがかけられているそれは見た目黄色いお山で楽しい。
ルーミアと大妖精の前に置かれたのはオムライスよりもほんの少し小さめだが同じく黄色い卵で包まれた料理。ルーミアのは上にオムライスと同じくケチャップが、大妖精のはケチャップはかかってなく、緑色の細かい香草みたいなものが乗せられている黄色いお山。
「キレイ…」
「美味しそうなのだ♪」
「あとこちらはオムレツに付け合わせのパンとスープです。一緒に食べると美味しいですよ」
「え~大ちゃんとルーミアだけずるい!おっちゃんアタイにもくれよ~」
「え?う~ん…はは、わかりました。沢山ありますからじゃあ特別でお出ししますね」
「やった~!おっちゃんわかる奴だな♪じゃあその前にオモライスから食べるとするか!いただきま~す!」
よほどお腹が空いていたのか手をパチンと合わせた途端にチルノはオムライスにスプーンを入れる。沈む様にすんなりと切れた卵の幕は絶妙な半熟具合でとても柔らかく、牛酪の香りがほんのりする。
「この卵とろとろですっごく柔らかいな!それにこの赤いやつ、ちょっとだけ酸っぱいけど卵とすっごく合うぞ!」
「さっき教えてもらったけどケチャップっていうんだって」
卵の中からは細かく切られた鶏肉、薄切りの見た事無い茸、赤色や緑色のみじん切りにされた野菜、それらを含んでいる濃いオレンジ色のチキンライスが覗く。
「おおこのご飯、上の赤いので味付けされてるのか!お米に馴染んで美味い!お肉も柔らかいし茸も野菜も見た事無いもんだけどこれも美味い!このご飯だけでも幾らでも食べれそうだ♪このとろとろの卵と凄く合ってる!」
噛む度に肉汁と適度な塩気を感じる鶏肉、旨味の茸、甘めの野菜、それらをまとったチキンライスとそれを優しく包む卵の組み合わせ。オムライスの味をチルノはすっかり気に入った様だ。
「これが勇者の味なんだな!またアタイ強くなってしまったぜ〜。ほら大ちゃんもルーミアも食べなよ。冷めてしまうぞ」
「あ、うん」
「いただきますなのだ~♪」
言われてルーミアと大妖精も自分達の前にあるオムレツにスプーンを入れる。先に入れたのはルーミア。
「わ~お肉が沢山入ってる~♪」
スプーンを入れるとオムライスと同じ様にすんなりと卵の幕が切れる。そしてとろとろの半熟卵が溢れる。オムライスよりもほんの少し半熟具合が強めらしい。中からはいい匂いを放つたっぷりのひき肉とみじんぎりの玉ねぎが見える。口に含むと、
「…とろとろの卵とお肉と、玉ねぎの甘さが絡んで…とっても美味しいのだ~♪」
塩と香辛料で味付けされて炒められたたっぷりのひき肉の濃い味とみじん切りながら熱を通して甘みをより引き出されて歯ごたえもある玉ねぎ、牛酪の風味がする半熟の卵とケチャップの酸味が口の中で交わり、絶妙な味わいを生む。
「この赤いの見た目見た目まるで……アレ?なんて言おうとしたんだっけ?……まぁいいか~♪」
何か自分に違和感があるもののルーミアは気にせず目の前のオムレツを食べ進める。
そんなルーミアの向いに座る大妖精もスプーンを入れていた。卵の半熟具合は勿論だがこちらはルーミアのそれとは違って、
「わ、エビが沢山!この白いのは…豆腐とかでもないし、嗅いだことないけどでもとってもいい匂い…」
大妖精のは鮮やかなピンクのたっぷりのエビとそれを含んだ白いもの。口に運ぶとエビのぷりぷりとした食感ととろ~っとした滑らかな舌触り。ほんの少し塩気がする乳と牛酪の濃厚な味わい。
「…この白いの、ホワイトソースだっけ?凄くなめらかで美味しい。牛酪の味かな?玉ねぎの甘みもある。エビも沢山入ってて卵も凄く半熟…あ、そうだ」
次は思いついてパンを少しちぎってオムレツと一緒に食べてみる。これも勿論、
「このパン凄く柔らかい!この白いのと凄く合う♪」
「私もその食べ方やってみよ~♪」
「あ、ずるい!アタイもやるぞ!」
大妖精もルーミアも初めて見るオムレツの味に大満足の様であった。それからお互いの料理を交換したりして仲良し三人組の賑やかな食事タイムは過ぎていった…。
…………
「うっぷ、食べ過ぎた…」
「チルノちゃんオムライス食べた後、オムレツだってお代わりするんだもの。流石に食べ過ぎだよ…」
「あれも食べた事無い味だったけど美味しかったのだー♪」
チルノはオムライスを食べ終えた後、ふたりが頼んだオムレツとはまた違うベーコンとチーズのオムレツも頼んでいたが案の定食べきれず、大妖精とルーミアも協力していた。ベーコンの燻製された独特の風味と濃いチーズ、どちらも初めての味だったが卵との組み合わせは抜群でこれも勿論綺麗に食べ終えた。
「大丈夫ですか?」
「ダイジョーブダイジョーブ!それよりもすっごく美味しかったぞ!紅魔館のメイドや美宵の料理と同じ位!おっちゃんもやるな」
「はは、ありがとうございます」
「とても美味しかったです」
「私も~♪ねぇまた食べにきてもいい?」
「ええ勿論です。七日に一回ですけどね。是非他のお友達の方もどうぞ」
(またのご来店をお待ちしております…)
…………
~~~~♪
再会を約束して戻って来たチルノ、大妖精、ルーミア。扉を閉めると煙の様に消えてしまった。
「あ、消えちゃった」
「残念だな~毎日あればいいのに~。こんな扉があるならアタイサボらず来るぞ~」
「私もなのだ~」
笑って言い合うチルノとルーミア。
……その反面大妖精は苦笑いを浮かべる。
「あの~チルノちゃんにルーミアちゃん。ご飯が美味しかったのはとても良かったと私も思うし、お腹一杯なのも良かったし、また行きたい気持ちもあるんだけどね…。今はそんなお話してる場合じゃないと思うんだ」
「ん?どうした大ちゃん?」
「どうしたのかー?」
頭に「?」マークを浮かべるチルノとルーミアは次の大妖精の言葉で、
「…もうとっくに慧音先生帰ってるよ?課題も終わってないよね?」
一気に現実に還らされた。
「「……」」
「あはは、今回は私も一緒に怒られてあげるから…」
引きつった顔で三人が教室に帰るとそこには…髪の色が変わり、角が生えた慧音がいた。
その後チルノらがどうなったのかはご想像にお任せするがひとつだけはっきり言えるのは暫くの間彼女らの居残り授業が増えた事だろう…。
メニュー19
「海鮮丼・牛丼」
チルノは最後までオムライスをオモライスと間違えてました。そしてルーミアは常闇の妖怪ですがクロの力に気づかなかった様です。まぁルーミアですから。
「インフィニットストラトス」と別作品とのクロスオーバー小説で、主人公がどちらの立場の小説が読んでみたいと思いますか?時間的にひとつしか無理そうなのですがどちらで行くべきか悩んでいます。期間は今月一杯位。ご意見いただければありがたいです。
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生徒(束の弟で箒の双子の兄)
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教師(コーチ)