幻想郷最大の森である魔法の森。その中ほどに見た目西洋風の一軒の家がある。そんな家の入口玄関上の木製の看板にはこう書かれている。
「霧雨魔法店」
「いや~住んでいる私が言うのもなんだがよくもこんなに散らかってしまったもんだ♪」
その家の中には霊夢の知り合いである魔理沙がいた。ここは魔理沙の自宅。彼女は人里にあるそれなりに有名な道具屋の生まれなのだがとある理由で家、正確には父親から勘当状態にある。そんな彼女が自宅兼店として住んでいるのがここ霧雨魔法店なのだ。彼女が集めたり作ったり盗んできたり?したマジックアイテムが沢山揃っている。……いや揃っているというより溢れかえり過ぎている。どの部屋も足の踏み場も無い位に。魔理沙の収集癖、更に魔法の研究以外はいい加減な適当さが災いし、掃除や手入れをサボり続けていたそこは店というよりも完全に物置と化しているのだった。
「ついつい掃除を後回しにしちまった。でもこれだけの物を集められるなんて我ながらかなり鑑定の目も上がってきたな〜♪しかし流石にネズミが入り込む暇も無い位ってのは女としてはよくない。てなわけで今日は私の貴重な研究時間を削って思い切ってやろうって訳だ♪」
散らかった我が家を笑いながらそう言う魔理沙。そんな彼女の横に、
「…どうしてその掃除に私が巻き込まれなきゃならないのよ」
同じ魔法の森に住む人形師兼魔法使いのアリス・マーガトロイドがいた。
「いや~悪いなアリス♪私だけだと何時までかかるか分からねぇから霊夢と香霖にも手伝ってもらおうかなと思ったんだけど霊夢は逃げるようにいなくなっちまうし、香霖は自分の店を空けておけないって。冷たいよな~あんな殆ど誰も来ない神社や店、少し位空っぽにしといても良いのに」
「…少なくとも今のこの店よりはまだ来ると思うけど」
「それは言わないお約束だぜ♪まぁいいじゃないかお前も全然家から出ないんだし運動も必要だぜたまには」
「どこの世界に運動と大掃除を一緒に扱う女の子がいるのかしら?」
「ここにいるぜ♪」
「子供と会話してる気分だわ…。それより約束は本当に守ってくれるんでしょうね?掃除を手伝ったら」
「わかってるって。お前から借りたマジックアイテムをほん〜〜の少し返すからさ。私がまだ使ってないものだけだけどな♪」
悪びれる様子が全く無い魔理沙。そんな彼女の表情を見ているアリスは、
(全くこの子は…。もう、ほんと迷惑なんだから…)
と心の中で思いながらため息を吐くがその顔には魔理沙にバレない様に苦笑いを浮かべている。迷惑とか言いながらアリスもまた魔理沙との付き合いを切れなかったりこうして頼み事を聞いているのは彼女を大切な友人と思っているからだろう。そしてそれは魔理沙も同じ、お互い魔法の森に住み、同じ魔法使いでライバル等色々理由はあるがアリスをちゃんと友人と思っている。
「あとパチュリーにも頼んだんだけどなんか「今大事な研究の詰めだから駄目」って断られた」
「まああの子は身体の事もあるだろうけど。…でもちょっと意外ね、あの子は私以上に貴女に取られてるのに断るなんてよっぽど大事な研究かしら」
「今度侵入した時にその謎を突き止めてやるぜ。あと取ったんじゃ無くて死ぬまで借りてるだけだって」
「…やるなら早く始めましょ。私の人形達にも手伝ってもらうから」
「おっとそうだった。んじゃやるとするかね」
…………
それから約一時間位が経過。掃除は各自順調に進む…とはあまり言えていなかった。というのも…、
「あ、パチュリーから借りた読みかけの魔導書!半分位まで読んでたのを異変解決のゴタゴタで放ったらかしてたの忘れてたぜ〜♪」
「…魔理沙、これはどこに置いたらいい?」
「あーそれはそっちの棚にだな。…ああシャンハイ、それは私の机に頼む。…あーこれは邪竜からのお礼でもらった竜の爪じゃないか!良かった〜盗まれたのかと心配したぜ〜」
「…魔理沙、貴女ホントに終わらせる気あるのかしら?何かを見つけては手を止めてるじゃないの」
「おっと悪い悪い、ついな♪」
掃除する度に下から出てくる昔の忘れ物に魔理沙の手がついつい止まってしまうのだ。なのでアリスやシャンハイ達が動かざるを得ない。因みに他の人形達も窓拭きや外の花壇の手入れやホコリ取りをせっせとしている。
〜〜〜♪
とその時家の扉が開いた。
「あ、客か?悪いな今日は生憎臨時休業で……お?」
「あら、貴女達は…」
豪華絢爛な服の少女・粗末な服の長い髪の少女
「「……」」
魔理沙とアリスは言葉を失う。入ってきたのはふたりの少女。
ひとりは金色の髪を縦ロールにした髪型にシルクハットとサングラス、身体中綺羅びやかな装飾品と豪華な服、手には扇と何とも派手な少女。
もうひとりはそれとは全く対照的に長い青い髪をただ伸ばし、粗末なパーカーを纏い、身体中に請求書や差し押さえ等と書かれてる札を浮かべている少女。そんなふたりからは物凄い悲壮感が感じられる。
「女苑に紫苑じゃないか。どうした?お前ら姉妹が来るなんて珍しいな」
「…というかなにか凄く元気無いわね?」
ぐぅ~〜〜〜〜〜
…とその時部屋になんとも気が抜けそうな音が響く。
「ねぇ…何か食べるものない?キノコでも何でもいいわ…」
「ひもじい…ひもじい…」
その正体はふたりの腹の音。よほど減っているのか声にも全く力が無い。
「へ?食い物?ん〜悪いけど今はキノコは残ってねぇなぁ」
「「そんな~…」」
「…というよりなんでそんなにお腹空いてるのよ…。今は貴女達命蓮寺にいる筈でしょう?」
「こっちにも色々事情があんのよ…。姉さん、私達だけでキノコ採りに行きましょ…」
「そうしよ~…」
暗い顔しながらふたりでキノコを採りに行こうとするふたり。すると魔理沙が何か思いついたのか妙な笑みを浮かべ、
「待て待て待て、素人がキノコ探しは危険だ。毒キノコとかに当たったらどうするよ。キノコっつったらこの魔理沙様の出番だろ。手伝ってやるぜ♪」
「ちょ、ちょっと魔理沙?」
「ほんとう~?…助かるよ~…」
「その代わりお前らも手伝ってもらうぜ?」
「ええわかってるわ…。寧ろそうしないといけないもの…」
「…?よ~しんじゃ行くか♪ああアリス、悪いけど掃除進めておいてくれ。本は適当に本棚に突っ込んでくれていいからな♪んじゃ頼んだぜ~!」
そんな調子で魔理沙はふたりを連れて出て行ってしまった。まだ片付けが終わっていない家に残されたのはアリスと人形達。
「………も~~ほんとにあの子ったら!ほんっとに迷惑なんだからーー!!」
…………
「…ねぇ魔理沙、この桃色のは食べれる?」
「どれどれ…、お、「スイートマッシュルーム」だな。甘味とかにしても美味だぜ♪」
「キノコで甘味ってなんかいいイメージ無いわね…」
「…ねぇ魔理沙〜。この黄色いイガイガしたのは〜?」
「…げ、そいつは駄目だ「カミナリダケ」だ。口に入れた瞬間雷食ったみたいに死ぬほど痺れるぞ」
「げ〜そうなの…。よく知ってるね~」
「自分で試したからな。うまく料理すればと思ったけど無理だった。おかげでその日は全く喋れなかったぜ。あとこの前食った「百味しめじ」っていうのは百通りの味がするっつうレアなキノコなんだがナメクジ味に当たっちまった」
「…命懸けなのね」
「それがキノコ研究の面白みだぜ♪」
森の中でキノコ採取に勤しむ魔理沙、そして女苑紫苑と呼ばれた姉妹。掃除を放ったらかした魔理沙は趣味のキノコ採取に喜んでいるがあとのふたりは空腹で疲れが出ているのかもう今すぐにでもキノコに齧り付きそうな勢いだ。
ぐるるるる〜〜〜
「う~…今なら毒キノコでもそのまま行ける様な気がするよ~…」
「そうね…」
「なんでそんなに腹空かしてんだよ?さっきアリスも言ってたけどお前ら今は命蓮寺にいんだからそこまで飯食ってねぇ訳ねぇだろ?昔みたい雑草とどぶろくばかりなんてしてない筈だぜ?」
「…ちょっと話せば長くなるんだけどね…」
女苑と紫苑のふたりは事情を話し始めた。
依神女苑と依神紫苑はいわば貧乏神といわれる神である。昔妹の女苑が自らの能力で周りから富を巻き上げ、意図してのものではないが姉がそれを防ごうとする者を強制敗北させるという最悪の戦術で暴れまわり、霊夢達を苦しめたが最終的には敗北し、反省を促すために女苑は命蓮寺に、力を制御できなかった紫苑は博麗神社にお預けの身となった。
その後はなんだかんだ色々ありながらもふたりは共に今は命蓮寺を主な拠点とし、たまに里にいる悪どい者や不幸になりそうに無い者からほんの少しずつ富を巻き上げるという反省しているのかしてないのかという生活を送っていたのだが…最近ちょっとした事が。
「…つまり人里で悪どいやり方で儲けてる奴がいて、そこからお前がいつもの様に少しずつ貢がせてた。それだけならまだ良かったが紫苑の力がふと変な方に働いてそいつが金を持っていること自体を不幸な風に考えてしまったためにどんどん金を出して無一文ぎりぎりにしちまった訳か?」
「しかもそれがたまたま里にいたブンヤの天狗に知られてしまって聖の耳に入っちゃったのよ。おかげですっごく怒られたわ。まぁ怒られただけなら良かったんだけど…」
「暫くご飯を作ってもらえなくなった…。里に行くのもお金使うのも駄目だって…。もししたら聖とあの説教好きな仙人と地獄の閻魔からお説教24時間×3コースだってさ…」
「げ~それは…」
「だから食べるなら自分で採るなりなんなりしないと駄目ってわけ…。最初のうちは雑草や薬草採ってたりしてたんだけど…紫苑はともかく…私はもう限界」
「女苑がいけないんだよ~!調子にのっていつもより多めに巻き上げたから!」
「私のせいにしないでよ!姉さんが力を誤ってしまったのも原因じゃない!」
「だってあいつ目の前で転んだ貧しそうな子供を貧乏人とか言ってののしったからつい怒っちゃったの!私は貧乏を馬鹿にする奴と食べ物を粗末にする奴が大っ嫌いなの!」
「私だって嫌いよ!だからいつもよりついつい多くとっちゃったの!姉さんも賛成してたじゃない!」
(…貧しい子供を庇ったりするとこ見ると最凶最悪の姉妹と言われたこいつらも昔よりはマシになってんのかねぇ…)
半泣きで言い合う紫苑と女苑。そんなふたりを暫し見ながら呟く魔理沙だったがやがて姉妹が力尽く。
ぐぎゅるるぅ〜〜〜〜
「…はぁ、怒ったらますますお腹空いてきちゃった…。お腹と背中がくっつきそう…」
「と言ってもまだひとり分位か…。う〜んねこやの扉がここに現れてくれりゃな〜」
「…ねこやの扉〜?なにそれ扉が美味しいの?」
「ちげぇよ!お前ら新聞見てねぇのか?ねこやっつうのは七日毎に現れる食堂への扉なんだ。てか前に妙蓮寺にも出たじゃないか」
「あ~そういえば響子がそんな事言ってたかしらね…。その時私達いなかったから…。てか新聞で思い出したらますます腹が立ったわ!あいつの新聞なんてもう頼まれても読むもんですか!」ぐぅ~〜「あ〜…」
「さいですか」
「……ねぇ魔理沙〜。それってどんな扉〜?」
「ああ木で出来てて…猫の絵の看板がかかってるぜ」
「ふ~ん…あんな扉みたいに〜?」
「ん?そうそうあんな扉…って、え!?」
聞かれた紫苑がフラフラ指差した先に…薄暗い森の奥には不釣り合いな重厚な木の、猫の看板がかかった扉がポツンと。
「女苑…私もうそろそろ限界かな〜…。なんでも欲しいと思う物に見えてきたよ〜…」
「私もよ姉さん…」
「いやいやあれだって!あれがねこやへの扉だって!」
「ああ…私もう駄…目」バタ
「我が人生…悔い…有り」バタ
「お、おいしっかりしろ!てか人生ってお前人間じゃねぇだろ!いやそんな事言ってる場合じゃないか!」
…………
〜〜〜〜♪
「アレッタ〜!悪いけど先にパンとスープだけでも大至急頼むぜ〜!」
「えっ?あ、ま、マリサさんいらっしゃいませ…ってええ!ど、どうしたんですかそのおふたり!」
アレッタが見たのは魔理沙に引っ張られてきた、ぐでんぐでんな様子の紫苑女苑。
「腹が減り過ぎて霊河鉄道特急冥界行きに乗り掛けなんだよ。だから」
(お持ちしました)
「おおは、早いなクロ!サンキュー、ほらふたり共」
「「………!!」」ガッ!ゴクゴクモグモグ…!
魔理沙がふたりの鼻先に香ばしいパンと温かいスープを持っていくと…そのいい匂いで一気に覚醒したふたりは熱いのも気にせず勢いよく無言で食べ始める。
「おいおいそんなに慌てて食うなよ胃が受け付けないぞ」
「あ、魔理沙さんいらっしゃい。クロさんに言われてすぐ用意したんですが大丈夫ですか?随分慌ててたみたいですけど」
「ああ大丈夫大丈夫、もう半分以上は解決したから。それより今日も世話になるぜおっさん♪」
「ええどうぞ」
「店主!カレーライス大盛りおかわりだ!」
注文を受けた店主は簡単な挨拶だけして下がる。そうこうしてる内にふたりは食べ終えていた。
「うぅ…美味しい、美味しいよ〜!」
「ちゃんと真面目に生きてきて良かったわね姉さん〜!」
「よ、良かった元気になられたみたいで。…でもあちらの青い髪の方は顔色少し悪く見えますが大丈夫ですか?」
「気にする必要ないぜ。元々こんな感じだからこいつら」
お腹に食べ物を入れて少し余裕ができたのか紫苑と女苑は立ち上がる。因みに彼女らが引っ張られてきた時は客も一瞬驚いたが今は落ち着いている。
「…なんか変な場所。見た事ないものや…人達もいる」
「というか私達里でご飯食べるとまずいんじゃ…いえ里にこんな店あったかしら?」
「いや違う違う。ここがねこや、人呼んで異世界食堂だぜ。なんでも外の世界にある食堂で別の世界や幻想郷にも繋がっちまったらしいんだ。理由はわかんないんだけどな♪」
「外の世界ですって!?……という事はここは里でも幻想郷でもない。幻想郷のルールで縛られない…て事はここでは聖の約束は無効って事ね!」
「ここじゃご飯食べれるの?……やった~!」
(ここって最初確か紫が見てた様な気がするんだけど…でも食い物じゃないけど自分達で見つけたって意味では間違ってないし…まぁ大丈夫だろ知らんけど)
「はい!マスターのご飯はなんでも美味しいですから遠慮なく食べてってください!」
(……)コク
「…ひっ!」
「…あら?アンタ誰?…人間じゃないわね」
「ああこいつはアレッタ、こっちはクロって言ってここの給仕で異世界の住人らしいんだ。因みにさっきのおっさんはここの店主、おっさんは人間だけどな」
「初めまして、アレッタと言います!」
(…クロと申します)
「へ~それじゃご飯のお礼にこっちも自己紹介してあげるからありがたく聞きなさい。泣く子も黙る疫病神、依神女苑よ!恐れおののくがいいわ♪」
「な、泣く子も瀕する貧乏神。依神紫苑…。よ、宜しく…」
手に持つ扇をパタパタさせながら「どや」と言った女苑とクロを見てやや怯えている紫苑。
(…どうかされましたか?)
「う、ううん…なんでも…ない」
「ジョオンさんとシオンさんですね。はい、宜しくお願いします!」
しかし当のアレッタはニコニコしながら、クロは無表情なまま。
「…ね、ねぇ、アンタ私達を見て何とも思わないの?自分で言うのもなんだけど私達一応神で、しかも貧乏神なのよ?もっとこう驚いたり怖がったりするもんでしょ?」
「勿論ちょっと驚きましたけど…神様でもここに来られた方は全てお客様ですから」
「へ、変な奴だけど…悪い気はしないな」
「それに貧乏神という事はきっと貧しい人達を守護してくれる神様なんですよね?そんな神様を怖がったりしたら失礼ですから♪」
この時点でアレッタの貧乏神に関する知識はゼロだった。
「は、はぁ?な、何を言ってんの私達はむぐぐ!」
「女苑、黙ったほうがいい」
「て、てな訳で取り敢えずどっか座っていいか?」
…………
「お水とおしぼり、そしてメニューです」
「おうサンキュー。今日は何がいいかな」
そして適当に席に着いた魔理沙と紫苑と女苑姉妹。水とおしぼりとメニューを貰うが女苑がこんな事を言い出す。
「品書きを見る必要はないわ。ねぇ、悪いけど店主を呼んでもらえるかしら?」
「え?あ、はい。少々お待ちくださいね」
言われてアレッタは店主を呼びに行き、数秒ほどしてから彼女らのテーブルにやって来た店主に、
「お呼びですか?」
「店主、貴方に注文するわ。この私に似合う位高級で、美しくて、お腹も満たされる料理を出してみなさい♪」
女苑はこんな注文をしたのだった。「おいおい」という魔理沙と無視して黙々と品書きを見る紫苑。
「わかりました」
しかし店主はほんの少し考えた後に直ぐ返事を返す。
「あ、あら?そ、そんな簡単に?」
「大丈夫ですよ。あ、お客さん魚は大丈夫ですか?今日はいい魚が入ってるんでそれを使おうと思ってるんですが」
「え、ええ大丈夫だけど…」
「お、魚か。なら折角だから私もそれにするぜ♪紫苑はどうする?」
「…私は安くてもいいからとにかくお腹一杯になるものがいい。そして肉がいい。あと美味しいなら尚更いい」
すると横にいたアレッタが、
「それならこちらのメニューはいかがでしょう?凄く美味しくてお腹も一杯になりますよ」
「…じゃあそれでお願い」
「はいよ。少々お待ちください」
言われて店主は厨房に戻っていった。
「いや~楽しみだな♪」
「……それにしても見たとこ随分流行ってるのね。店の中の物も珍しいものばかりだし、おまけに給仕はあのアレッタって子と黒い子のふたりだけ、これは随分儲けてさぞかしいい暮らししてるんでしょうね~」
とそんな会話をしていると、
~~~~♪
恰幅のよさそうな男性
「…おお、今日も盛り上がっているな」
扉が開いてひとりの男性客が入って来た。上品な服装に身を包み、その手には何やら袋を持っている。
「ああどうもトマスさんいらっしゃい。今日でしたか」
(いらっしゃいませ)
「やぁこんにちは。今日も世話になるよ」
「クロさん、今月の売り上げをお渡ししてくれ」
(はい)
「今日は少し珍しい作物を持ってきたよ」
「ありがとうございます。後でゆっくり見させていただきますね。いつものですか?」
「ああ。ミートソースと食前にコーヒーをお願いするよ」
「…アレッタ、あのおっさんは誰だい?」
「あちらの方はトマスさんと言って昔から来てくださってるお客様だそうです。月に一度、異世界食堂の月の売り上げと交換でお野菜やお薬を頂いてるんです」
このアレッタの言葉に女苑が少し驚いた表情を見せた。
「月の売上と交換って…全額?」
「はい。私達のお給料を抜いた以外はほぼ全額だと思います」
「でもそれじゃ儲けにならないんじゃ…?」
「マスターはこの異世界食堂での自分の儲けは考えてないらしいんです。それよりも美味しい料理で喜んでもらえたら良いって」
異世界食堂の支払いは基本当然異世界の通貨で行う。それを店主の世界で使うには換金せねばならないが現実世界のどこでも使われてない通貨をそうしようとすれば色々ややこしい。ならば地産地消ということで始めたのが先代店主と先程のトマス始め異世界人との取引で店主が変わった現在も続いている。周りから見れば店主にはほとんど益が無い様に見えるが店主からすれば未知の食材を知れる事もあるし、過去回復不可能とされた友人のケガを異世界の薬で治せた事もある。そして何より異世界食堂はあくまで店主の趣味みたいなもの。平日の通常営業だけでも幸い益は出ているし、これでいいらしい。
「ふーん…。因みにだけどアンタ、給金はちゃんと貰ってる?手荒く扱われてたりしない?」
「いえいえとても良くしてもらってます!お給与も以前働いていた場所の10倍は頂いてますし、お仕事は大変ですがとても楽しいです」
「じゅ、10倍〜!?こーりんにも聞かせてやりたいぜ」
「欲の無い人間なのね。この前の奴とはまるで違うわ。人間って欲の塊みたいな奴ばかりと思ってたのに。……ところでどうしたの姉さん、さっきから黙って」
「……喋るとお腹減る。だから喋らない」
「あ、そうですか」
「それに…」
「それに?」
「………いや、なんでもない」
そういう紫苑の目は先程からちょくちょくクロに向いていた。周りを不幸にする能力持ちの彼女にとって黒の王は少々刺激が強かった様である…。
……店主調理中……
…………
それから暫くして店主とアレッタが料理を持ってきた。
「大変お待たせしました。こちらが魔理沙さんとお客さんのお料理、「海鮮丼」です」
魔理沙と女苑の前に出されたのは鉢からはみ出んばかりの…様々な色をした海鮮類が乗った丼。魚のひとつひとつがいずれもツヤがあって宝石の様にキラキラしており、鮮度も十分な事が見ててわかる。
「おースゲーなこれ」
「どの魚も光ってる…!」
「これは…確かに一見贅沢な料理ね。見た事無い魚ばかりだわ。魚卵みたいなものもあるじゃないの」
「本日使っている魚はマグロの赤身、中トロ大トロ、イカ、ヒラメ、甘えび、それとウニとイクラです。ご飯は酢飯にしてあります。こちらの出汁醤油をかけてお召し上がりください」
「そしてこちらがシオンさんのご注文された「牛丼」です!」
紫苑の前に置かれたのは同じく丼でその上には…煮込まれたたっぷりの牛肉、そして玉ねぎ。真ん中にはちょっとの紅ショウガ。こちらも見た目迫力が凄く、甘い匂いが食欲を掻き立てる。
「沢山の肉…しかも牛肉!」
「こっちも美味そうだな♪」
「豪快に食べてください!それが一番美味しい食べ方です。それではごゆっくり」
そう言ってアレッタと店主は下がっていった。
ぐぅ~〜…
「…いただきます」
においに食欲を掻き立てられた紫苑はまず上に乗っている肉だけを食べてみる。
「!…甘い、甘じょっぱい味付け。そしてお肉が凄く柔らかい。簡単に噛み切れる」
少し甘めのつゆで十分煮込まれているのがよく分かる位肉はとても柔らかかった。一緒に煮込まれてるらしい玉ねぎはシャキッとした歯応えを残し、存在を消してない。肉だけならばほんの少し物足りない感をしっかり補っている。上に乗っている紅ショウガのほんの少しピリリとした刺激もいい。
「次はご飯と一緒に…」
次に上の肉と白米と一緒に食べる。米が肉と玉ねぎの旨味、そして煮込んだつゆを存分に吸っていてこちらも間違い無い。上の具だけなら味が少し濃いがご飯と一緒に食べる事で牛丼は完成の味になる。
「…!」ガッ!ガツガツ…!
そうとわかればもう遠慮する事は無い。アレッタに言われた通り丼を持って豪快にかき込む紫苑。米と肉、そしてつゆが口の中に押し寄せ、食べるのをやめられない。
「そ、そんなに慌てて食べたら喉詰まるわよ」
「まあまあ美味いんだったらしょうがねぇさ。私達も食おうぜ♪」
「え、ええそうね。いただきます…どこから食べようかしら」
魔理沙と女苑も自分達の海鮮丼にとりかかる。まず上に出汁醤油をかけるとより光沢が映えた様にも見える。女苑が箸を入れたのはマグロの赤身。店主の言った通りほんの少し専用の醤油をかけ、赤身と下の酢飯を一緒に口に運ぶ。
「!…美味しい。この魚、マグロだっけ。見た目と違ってちょっとシャキッとした歯ごたえでサクッと切れて味が濃くて、でも後味はサッパリしてるわ…!」
一方魔理沙が食べたのは真っ白なイカの刺身。ねっとりとした舌触りにコリコリとして歯を押し返す強い弾力。しかしいたずらに固いのでなく程よく柔らかい。
「おおイカって面白い歯ごたえだな。舌触りはちょっと独特だけどコリコリしてて、見た目によらずこれも味もしっかり濃くて風味が良いぜ♪」
次に女苑が食べたのは大トロ。それにかかった出汁醤油に脂が浮くのがそれだけ脂がのっているという事を意味している。食べてみると、
「…!な、何これ?こんな魚初めて食べたわ…!口に入れた瞬間から魚の脂を感じて…あまり噛まずにあっさり溶けちゃった!」
魔理沙が次に食べているのはウニ。見た目が独特なそれはほんの少しの苦みを含んでいて、とても濃厚な味わい。そしてイカ以上に風味を感じる。
「このウニっての苦味があってちょいクセあるけど…とろみがあってなめらかで牛酪みたいに濃厚だぜ。醤油ともよく合うな」
他にも赤身と大トロの間位で程よく脂がのっていて食べやすい中トロ。
淡白だがしっかりとした歯応えと旨味があるヒラメ。
ぷりっとしてて名前の通り甘みが強い甘えび。
中に濃厚な味わいのエキスを含むぷちぷちとした食感が楽しいいくら等、どれも美味で勿論酢飯にも醤油にも合う。
「まるで海産物の宝石箱だな♪」
「確かに豪華で美しくてお腹もいっぱいになるわ。人間もやるじゃない♪」
ドンッ!
「牛丼おかわり!」
「まだ食べるのかよ紫苑?」
「こんなに美味しいもの、食い溜めしておかなきゃ損」
「紫苑の言う通りだわ。私もおかわり!」
「お前まだ食いきれてないじゃないかよ」
先程の生気のなさはどこへやら、力強くそう返事する紫苑女苑と笑う魔理沙だった。
……少女食事中……
…………
(ありがとうございました)
「また来てくださいね!」
「そ、そうね〜。また都合が合えば、ね」
「女苑が来なくても私は来る。また必ず来る」
「こ、来ないなんて言ってないでしょ!扉を見つけられたらって話よ!」
そう言うふたりの手にはおみやげのステーキサンドがあった。魔理沙のはシュークリームである。
「今回も美味かったぜおっさん♪」
「ありがとうございます」
「そう言えばマリサさん、今日はレイムさんは一緒じゃなかったんですね?」
「私だって四六時中あいつと一緒って訳じゃないのぜ?家の掃除に誘ったらいなくなって……あ」
…………
霧雨魔法店
〜〜♪
その後、食事を終えた魔理沙は依神姉妹と別れて自宅に戻ってくると、
「悪い悪い遅くなっちまった!キノコ探ししてたらあのねこやの扉見つけ…て」
魔理沙の目に入ってきたのは…全て綺麗に片付いた部屋。そして、
「す〜…す〜…」
疲れてテーブルで眠っているアリス。どうやら全部片付けてくれた後に疲れて眠ってしまった様だ。
「……」
そんなアリスを見た魔理沙はそっと彼女に毛布を掛けてあげると、
「…ありがとなアリス。よーしこいつが元気になる様、魔理沙秘伝のキノコシチュー作ってやるか♪」
小さくそんな事を言いながら魔理沙は採って来たキノコとシュークリームを手にキッチンに向かった。
メニュー20
「ハンバーガーセット」
おみやげでなく手料理でアリスへのお礼にした魔理沙でした。
次回は以前ほんの少し出た少女の回です。
こんにちは、storybladeです。幻想郷食堂をお読み頂きありがとうございます。突然ですがアンケートです。先代博麗の巫女や魂魄妖忌の回があれば読んでみたいと思いますか?公式設定が少ないのでオリジナル要素を含んでしまいますがどうでしょうか?ご意見お願いします。期限は今月一杯です。
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あれば読んでみたい
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不安なので読みたくない