紅魔館
とある日の紅魔館。そこのテラスの大きな日傘をさしたテーブルで今日も当主レミリア・スカーレットがまったりと過ごしていた。その横ではメイド長である咲夜がお茶を用意している。
「今日もいい天気ねぇ。冬が近づいて空気も澄んできたし…今宵もいい月が出そうね」
「……お嬢様、お茶が入りました」
「あら、今日は私が好きなケーキじゃない、気が利くわね。そう言えば咲夜、フランやパチェ達はどうしたかしら?」
「パチュリー様ならもうすぐ来られると思いますよ。妹様でしたら先程お外に出て行かれました」
「そう。…ひとりで?ちゃんとパチェのクリームは塗った?」
「ふふ、ご心配なさらずともちゃんと塗ってから出て行かれましたよ。あと美鈴とこあも一緒です。妹様に引っ張られていかれました」
「…ならいいわ」
愛想ない返事で返すレミリアだが妹を誰よりも大事に思っている事を咲夜含め紅魔館の皆が知っている。
「それにしてもあの子も随分外に出る様になったわね。昔とは大違いだわ。…ま、ほぼ私のせいだけど」
「お嬢様、それは…」
「いいのよ咲夜。でもそう考えるとあんな事を起こしたのも強ち無駄じゃなかったのかもね」
レミリア始め紅魔館の住人、そして紅魔館は元々幻想郷のものではなく、先の守矢神社と同じ様に別の世界から来た者達である。ある日レミリア達は自分達が自由に暮らせる世界を作ろうとし、幻想郷に館ごと転移してきた。そして吸血鬼の弱点である日の光を永久に隠そうとし、空を晴れること無い紅い霧で覆い尽くした。後に「紅霧異変」と呼ばれる様になる事件である。異変そのものは霊夢や魔理沙によって阻止され、霧も晴れ、全てが無駄に終わった様に見えたが…得るものもあった。とにもかくにもレミリア達は今では自分達の運命は幻想郷と共にあると言える程もうすっかり馴染んでいる。
「それにしてもあの子ったら私に断りも無く出ていくなんて…」
「その事なんですが」
ガチャリッ
その時、パチュリーがテラスに入って来た。
「あら、こっちは噂をすれば。遅いわよパチェ」
「…研究を詰めてたのよ」
「そういえばパチュリー様。最近何やら忙しいとこあから聞きましたが…?」
「…まぁね。でもそのかいあって一応の目処はたったわ」
「一体何の研究よパチェ?」
するとパチュリーは手に持っていた本を出す。
「実は以前、ヴィクトリアにある魔法陣を教えてもらったのだけど…」
「ヴィクトリア…ああ、異世界食堂で貴女が知り合ったエルフと人間のハーフね。この前も会っていたわね」
「…その事なんですがお嬢様、私は以前行きましたし、美鈴やこあはともかくとして、妹様は連れて行って差し上げても宜しかったのではないですか?落ち着いて頂くのに苦労したんですからね…」
「だってまたお寝坊さんしちゃったんだから仕方ないじゃない。おみやげも持って帰ってきたしチャラよチャラ♪次に見た時は考えてあげましょ」
そう、実はレミリアとパチュリーは最近偶然にも再びねこやへの扉を見つけ、訪問していた。因みにその時は紅魔館の大図書館のカーテンの裏に現れていたのだが…フランドールはまた連れて行ってもらえなかったらしい。
「はぁ…それはさておきパチュリー様、ヴィクトリアさんに教えて頂いた魔法陣とは?」
「ええ…一種の召喚魔法みたいなものよ。…ねこやの扉を呼び出す陣」
「! ねこやの扉を?」
「最初にねこやに行った時、ヴィクトリアに存在だけは教えてもらっていたのだけれど…」
驚くレミリアと咲夜にパチュリーが説明する。
異世界に七日に一度現れる洋食のねこやの扉。客の多くは其々自分が知っている扉から来店するが、場所によっては遠かったり辿り着くのに一苦労するものもある。そんなある時ヴィクトリアの師であるアルトリウスはねこやの扉の出現時に一種の魔力が生じている事を突き止め、この魔力の流れに干渉し、扉の出現場所を意図的に操作する方法の研究を始めた。その結果出来たのがねこやの扉を呼び出すだけの魔法陣である。高度な知識と優れた魔力の制御が必要なので誰にでも使える訳ではないが。
「…そう言えば先日の博麗神社での宴会で幽々子や守谷の連中がそんな事言ってたわね。一瞬だけだけど力を感じたって」
「その魔力の流れをこの陣で掴み、操作して、幻想郷のどこかに現れる扉を陣の場所に呼び寄せると言うわけ…」
「扉を呼び出すって何時でもですか?」
「いえ、ヴィクトリアの話じゃ七日毎という条件は変えられないみたい…」
「けれど毎回あそこの料理を食べれるって事じゃない♪早速やってみなさいよパチェ」
「ええ…。今日は丁度また現れている日だから…試してみるわね」
そう言うとパチュリーは魔法で浮かせたチョークで床に陣を描いていき…ものの数分で複雑な陣が完成した。
「これが…洋食のねこやの扉を呼び出す陣、ですか?」
「ええ…。それじゃあ始めるわね…」
そう言うとパチュリーは目を閉じ、呪文を詠唱し、自らの精神を集中させる。
…パァァァァァ…
すると、ほんの少ししてから陣を構成している線が光を放ち始めた。
「さぁ…出てきなさい…。異世界の扉…!」
シュバァァァァァァ!!
光はどんどん強くなり…やがてひと際強くなった。…そして数秒程して光が収まり、魔法陣に何か変化ある……、
「…………?」
「……あれ?」
と思ったのだがしかし、扉どころかその場所には何の変化も起こっていなかった…。
「何も起こりませんね…?」
「…あ、あら?お、おかしいわね…そんな筈は…………あ」
驚きながら手に持つ完成図と地面の図を照らし合わせたパチュリーは気づいた。床の陣のごく小さい一部分だけ完成図と違っている。どうやら書き間違っていた様だ。
「ま、まさか陣を書き間違えるなんて…このパチュリー・ノーレッジ、一生の不覚だわ…。こんな事アリスはまだいいとしてあの魔理沙に知られたら…む…むきゅ〜」
「お、落ち込まないでくださいパチュリー様。お疲れだったのですしそれに原因はわかったのですから」
「…でもパチェ、失敗の割にはさっき成功したみたいな感じも出てたけれど?」
「……ええ。見直してみたけど扉の出現を探知したのは確かよ。ただ…扉をこの陣の上に召喚する部分で失敗したみたい…」
「それってつまり…?」
咲夜の質問にパチュリーはこう答えた。
「簡単にいえば途中で落っことしたのよ…。恐らくだけど…ここの近くに」
…………
…少し前、紅魔館のすぐ近くの場所にて。
「も〜!なんで見つからないのよ〜!」
日傘をさしながらぷんぷこ怒っているのは金髪に赤と白を基調とした服、そして背中からハ色に輝く羽を持つ少女。レミリアの妹、フランドール・スカーレットであった。どうやら何かを探している様だが…、
「お、落ち着いてください妹様。幻想郷といっても広いんですからそんなに簡単には見つかりませんよ」
そしてフランドールに付き添うのは咲夜と同じくレミリアの従者にして紅魔館の門番である紅美鈴と、
「無闇に探すよりは大人しく館で待っていた方が良いですってば~」
そして主にパチュリーの召使いとして働く小悪魔のふたり。
「だって今まで2回出てきて2回ともお姉様に黙って行かれちゃったのよ~。また先越されたらどうするのよ~。だから絶対に先に見つける必要があるの~!聞いたら悪戯好きの妖精達やチルノ達だって行ったらしいじゃない。私だって行きたいのに~!」
どうやらフランドールが探しているのはねこやの扉らしかった。美鈴と小悪魔はそれに連れ出されたらしい。そして周辺を探した結果見つからず、諦めて帰って来たらしかった。
「う~ん…でも肝心の扉がどこに現れるか全くわからないんじゃ探しようが…」
「む〜…案外呪文とか唱えたら出てこないかしら。ひらけ〜ゴマ!」
「妹様、それは扉を出すんじゃなくて開けるおまじ」ゴン!!「いったー!!」
とその時美鈴が何かに思い切りぶつかった。あまりに突然で避ける事も出来ずに派手な音が鳴り、顔面を抑える美鈴。
「め、美鈴大丈夫!?」
「いったたた…な、なんですか一体〜?というか私何にぶつかったんですか〜?」
「……」
「め、美鈴…」
「へ?……えーー!」
フランドールはポカンとし、小悪魔は目を見開いてぶつかったそれを美鈴に伝え、それを見た美鈴は驚く。彼女らの前に今の今まで無かった筈のあるものが存在していた。木で作られた、金のドアノブの、猫の看板がかかった扉。
「と、扉!?な、なんでこんなところに突然!?」
「そ、それもあるけどほら!この看板!」
「……洋食のねこや…ってええ!」
驚く美鈴と小悪魔。一方フランドールは違った。
「やったー!遂にお姉様より先に見つけたわ!きっと神様が可哀想な私に授けてくれたのね!早速行きましょ♪」
「で、でも妹様!まず先にお嬢様達にお知らせしたほうが」
「ほらほら行くわよ♪」
「ちょっ、ちょっと引っ張らないでください~!」
聞く耳持たないという感じでフランドールは扉を開けると小悪魔を引っ張って行ってしまった…。
「……もう〜!怒られても知りませんよ!知りませんからね!」
そしてふたりだけを放っておく事もできる訳なく、美鈴もついていくしかなかった…。
…………
~~~~♪
大喜びで扉に飛び込んだフランドールと巻き込まれた形になった小悪魔と美鈴がその先で見たものは自分達が住んでいる紅魔館に雰囲気が似ている様で違う。紅を主体としたそれとは違って木の落ち着く雰囲気の部屋と家具、そして幻想郷では見た事無い種族達。
「わ~!なんか凄い凄い!」
「前に扉の外からちょっとだけ見たけど…やっぱり驚くね」
「人間はともかくとしてあんな耳尖ってる人や小さい妖精が外の世界にいる筈無いし…あれがお嬢様やパチュリー様の言ってた異世界の人なのかな」
三人とも反応は其々。そしてそこにアレッタとクロが近づいてきた。
「いらっしゃいませ~!(ませ)三名様ですか?」
「…え、え?い、今頭に声が」
「ねぇねぇ!ここって外の世界のご飯屋さんなんだよね?」
「はい!ここは洋食のねこやっていう料理屋です!」
「やっぱり~!お姉様やパチュリーから聞かされてずっと来たかったんだ♪」
「…お姉さんやパチュリーさん…?…あ、もしかしてお姉さんて、レミリアさんの事ですか?」
「うんそうだよ。私はレミリアお姉様の妹、フランドール。吸血鬼、フランドール・スカーレットよ♪貴女は…人間じゃないわね?」
「はい、私は魔族なんです。フランドールさんですね。私はアレッタと言います!」
(…クロと申します)
「…あれ?貴女の声ってなんか変な感じがするね?それになんか…私達に似た力を感じるわ。貴女ももしかして吸血鬼?」
(いえ、私は違います)
「ふ〜ん、まいっか。あ、ほら、美鈴とこあも自己紹介して♪」
「あ、は、はい!紅魔館の番人にして普通の妖怪、紅美鈴です。は、初めまして!」
「私は小悪魔だよ~♪宜しく~!」
「メイリンさんと…えっと…小悪魔さんで宜しいんですかね?」
すると奥から店主が顔を出した。
「いらっしゃい」
「あ、人間だ。ねえもしかして、貴方が咲夜が言ってたここの店主さんなの?」
「ええ、私がこの洋食のねこやの店主です。どうぞゆっくりしていってください、幻想郷からの新たなお客様」
「ほ、ほんとに人間がこんなお店をやってるんですね…」
「マスターのご飯は全部美味しいですから是非一杯食べてってください!」
「は、はぁ」
「それじゃあお席に」
「なぁだったらこっち来なよ」
その時、席に案内しようとしたアレッタ達とフランドール達に声をかける一画があった。
戦士らしい恰好をした少年
「俺達もつい今来たとこなんだ。一緒に飯食おうぜ♪」
魔術師らしい恰好をした少年
「ちょっとジャック、いきなり失礼ですよ」
冒険者らしい恰好をした少年
「まぁまぁいいじゃないかケント。リディもいいか?」
ローブの少女
「う、うん」
声をかけたのは軽鎧と片手剣、そして小盾を身に着けた茶髪の少年。
ローブと杖といういかにも魔術師らしい恰好をした黒髪の少年。
ひとり目の少年と似た恰好だがやや身なりが良い金髪の少年。
そして最後はケインと呼ばれた少年と同じくローブを着た長い黒髪で白い肌の少女。
「いいだろ?飯は大勢で食べた方が美味いしさ♪」
「ありがとうございます皆さん。どうでしょうかお客様?」
「う~ん…いいよ!美鈴とこあもいい?」
美鈴と小悪魔も頷き、三人は少年達の隣のテーブルに案内され(折角という事なんでクロがテーブルを繋げた)、アレッタが人数分の水とおしぼりを用意した。
「相変わらず凄い力だなクロの姉ちゃん。あ、誘っておいてなんだけどありがとな♪一回異世界の人と交流してみたかったんだよ」
「こ、こちらこそ気を遣っていただいてありがとうございます」
「あの~妹様や私は見ての通り人間じゃないんですけど怖くないんですか?あ、正確には美鈴もだけど」
「新しい世界の事はタツゴロウさん達から教わってたからね。それに僕達の世界は人間以外にも多くの種族がいますから」
「うん。エルフやリザードマンや小人、果てには魔族やドラゴンまでな」
「へ~ドラゴンまでいるんだ~!楽しそう~♪あ、私はフランドール・スカーレットよ。吸血鬼なの。宜しくね」
「吸血鬼か…。一応聞いておくが人間を襲う事は無いな?」
「う~んお姉様と違って私はその気はあんまり無いかな~。むしろ私はきゅっとしてドカーンっていう方が好きだし」
「…きゅっとしてどかん?」
「あー気にしなくていいですよ!わ、私は紅美鈴と言います!宜しくお願いします!」
「小悪魔だよ。宜しくね♪」
ジャック(三人ともハンバーガー)
「フランドールにメイリンに…えっと小悪魔でいいのか?俺はジャック。冒険者でこのパーティーの一応リーダーだ。宜しくな」
ケント
「ケントと言います。魔術師です。まだまだ修行中ですけど」
テリー
「テリーだ。一応この中では年長だ。宜しく頼む」
リディアーヌ(チキン南蛮)
「り、リディアーヌと言います。よ、宜しくお願いします」
「うん宜しく~♪」
「ところでさっき、えっとジャックさんが言ってた冒険者ってなんですか?」
「え、知らないのか?冒険者ってのは………ケント、テリー頼むわ」
「たくジャックは…。冒険者というのは文字通り冒険をする者、世界をめぐる旅人の事です。報酬や戦いを主な目的とする傭兵や遺跡や財宝を探すトレジャーハンター等の冒険者もいます」
「僕とジャックとケントは同じ町出身の幼馴染なんだが…前から外の世界に憧れていたんだ。そしてある時この異世界食堂の扉を見つけて、そこで多くの人や物に出会って、より世界の広さに興味を持ったんだ。そして成人になったと同時に冒険者になって旅に出た。そういう事だ」
「まだまだ知らない事や助けられてばかりだけどやっぱり冒険ってのは面白いからやめられないぜ♪色々な事故に巻き込まれる事もあるけどな。この前ケントがファイアバグの巣に落ちた時なんかほんと冷や冷やしたよな~」
「何言ってるのよジャック。落ちたの貴方じゃない。ケントと私の水魔法で弱らせた間にテリーが救出したんじゃないの」
「…あれ?そうだっけ?まぁいいじゃないか助かったんだし♪ハハハ」
「調子いいなぁもう」
「なぁそれよりもそっちの世界について聞かせてくれよ!新しい世界って興味あるんだよ」
「え、えっと私達が住んでる世界は幻想郷って言って…」
…………
「…ふ~ん店主さんと同じ世界から更に別れた世界か~。そんな世界もあるなんてな!」
「ええ驚きです。天界や魔界だけでなく、月の都に冥界まであるなんて…」
「世界というのは本当に不思議で、そして広いな」
「最も私達も元は幻想郷の住人じゃないんだけどね~」
「幻想郷に移ってきてもう結構経ったからね」
「なぁ、俺達はあんた達の世界に行く事は出来ないのか?」
「う~んとっても難しいですね〜。繋がったら繋がったらで色々大変ですからね」
其々がそんな感じで交流する中…フランドールがリディアーヌにこんな質問を。
「…ねぇねぇ、貴女の足何それ?人間じゃないよね?」
最初に見た時はローブに隠れて気づかなかったがわかった。リディアーヌという少女の足が二本足でなく、まるで蛇の様な、爬虫類みたいなものである事に。
「ほ、ほんとですね」
「あ、えっと、あの…私はラミアなんです」
「…ラミアって何?」
フランドール達の疑問に少女が答えた。
赤の神に仕えし人ならざる者。女性の上半身と蛇の下半身という竜に近い姿で高い魔力と知識を持つ。そして女しか生まれず、他種族の男と交わる事で血を継ぎ、世代を続けていく種族。それが「ラミア」である。
「じゃあリディアーヌさんのお父さんも人間なんですか?」
「うん…多分」
「多分?」
「ああ…リディは実の両親の顔を知らないんだよ。卵の頃に育ての親父さんに買われたらしいんだ」
「す、すみません…」
「ううん大丈夫。お義父さんはいい人だったし、私をちゃんと育ててくれた。でも外の世界には出るなって言われた。魔物は人間とは仲良くできない。ひどい目に合うだけだって。だから私が知ってるのはお義父さんと一緒に暮らしていた塔と直ぐ近くの森だけ。そのお義父さんも死んじゃって…ジャック達に出会うまではずっとひとりぼっちだったんだ。言いつけを守ってずっと閉じ籠もってたから」
「閉じ籠もってた…」
何か思い当たる事があるのかフランの表情が一瞬曇った。
「俺達はリディのお義父さんに用があって来た時にリディに出会ったんだ。そしてここねこやで一緒に飯食って、一緒に旅に出始めたって訳さ」
「…そうなんだ。…怖くなかった?」
「…正直最初はとても不安だったよ。本にも魔族は人とは相いれない種族だって書いてあったから…自分の住処から出る気もしなかった。でもこのお店に来て、そしてジャック達に一緒に旅に出ようって言われて、とても嬉しかったんだ。それで外の世界に出たら、本でしか知らなかった世界が、ううん本でも知れなかった世界がパーッって開けてさ。あのままだったら何もわからなかった…。だから今は楽しくてしょうかないの!」
「……」
迷い無い笑顔で言ったリディアーヌ。
そんな彼女にフランドールも思う事があった。彼女には姉レミリアよりも複雑な事情があった。
「ありとあらゆるものを破壊する程度の能力」
彼女曰く全てのものに「目」があるらしく、それが見えればどんなものでも破壊できる能力。無論その危険性はレミリアにも知られるものになり、そのせいで彼女は実に495年間もの間紅魔館の地下で幽閉同然で過ごしてきたのだ。当然かもしれないがその中でフランドールは孤独で闇を抱えていった。自分を閉じ込めた姉と全てのもの。そして同時に自分自身にも。どんな強固な壁で囲われようが檻に閉じ込められようが彼女の前では意味が無い。出ようと思えば出れる筈。でもそうしなかったのは自分にその気が起きなかったから。閉じこもっていれば日に当たる事も無いし、食べ物や玩具も何も苦労せず持ってきてもらえた。そんな境遇に甘えていただけだった。そんな中で先の紅霧異変が起こり、霊夢達とレミリア達が弾幕勝負を繰り広げる中でフランドールは遂に外に出た。戦いの中で姉との仲も戻り、霊夢達とも知り合えた。幻想郷で過ごしていく中で本来のものであったのだろう明るい性格も取り戻していった。それからは少しずつ外の世界に慣れようと努力しているのだ。
「そっか…うん、私その気持ちわかるよ。外って楽しい事が一杯あるものね!」
「そうだね!」
フランドールとリディアーヌ、そしてジャック達も交じって話が進む。そんな彼らを見て美鈴と小悪魔が笑う。
「妹様…変わられましたね」
「うん、とっても楽しそうだね」
「……あ、そう言えば話に夢中で僕達注文決めてなかったじゃないか」
「おおそうだった!まぁでも俺らの頼むもんって言えば決まってるしな。あ、フランドール達もどうだ?ここで一番のもん食えるぜ♪」
「そうなの?じゃあフランもそれにしようかな♪」
「私達もそれで構いません」
「じゃあ注文するか。アレッタさん、俺達はいつものヤツをお願いします。フランドール達にも同じものを」
「かしこまりました!」
注文を受け取ったアレッタが厨房に伝えに行き、店主の「はいよ」という声が響いた。
……店主調理中……
「…あ、ところでラミアって女の子しか生まれないんだよね?」
「うん」
「じゃあリディアーヌもジャック達といつか子供創るの?」
「「「「………え!!??」」」」
「「い、妹様!!」」
…………
「お待たせしました~!(した)料理をお持ちしました!」
「お、待ってました!」
それから間もなくしてジャック達とフランドール達のテーブルに料理が運ばれてきた。ジャック達にはアレッタが、フランドール達にはクロが料理を出す。
料理はみっつ。
ひとつ目は厚みあるハンバーグと緑色の葉野菜、薄切りの玉ねぎとトマト、そしてチーズのもの。
ふたつ目は何やらとろみがあるソースがかかったハンバーグと玉ねぎと千切りキャベツのもの。
みっつ目は揚げられている鶏肉と葉野菜。そして細かく切られた野菜が混ざった白いソースがかかっているもの。
それらが丸い形をしたパンに綺麗に層を作る様に挟み込まれている。
(ご注文のハンバーガー、てりやきバーガー、チキン南蛮バーガー。そしてお飲み物のコーラのセットです)
「わあ~これがハンバーガーなのね!一回食べてみたかったんだ!」
「知ってるのかい?」
「本で写真だけは見た事はあるけど本物を見たのは初めてだよ」
「咲夜さんが「お行儀が悪い」ってこういうの作ってくれないんですよね~」
「あとフライドポテトとオニオンリングは大きめのバスケットにご用意しました!」
「ありがとうございます」
「それではごゆっくり!」
「妹様、どれを召し上がられます?」
「どれ食べよっかな〜…あ、じゃあリディアーヌと同じものにしよっと♪お野菜も少ないし♪」
フランドールはリディアーヌと同じチキン南蛮バーガーを選ぶ。美鈴はケントと同じてりやきバーガーで、小悪魔はジャック、テリーと同じハンバーガーとなった。因みにフランにはニンニクは駄目だが玉ねぎは大丈夫という事は確認済みである。
「それじゃ折角だから乾杯するか」
反対する者もおらず、皆でグラスを合わせて「乾杯!」と唱え、コーラに口をつける。パチパチと口の中で弾ける炭酸、甘さと爽やかさが喉の奥に流れ込んでいく。
「!び、吃驚しました。見た目もですけどこんな感じの飲み物なんですね!」
「はは、初めて飲んだ時の僕らと同じ反応だね」
「あ〜、やっぱり疲れた時の一杯はコレだよな〜。じゃあ食べようぜ♪」
「「「「「「「いただきます(まーす)!」」」」」」」
再び全員でいただきますをし、食事が始まる。
「じゃ、じゃあ妹様、まずは私から念のため味見しますね」
「え~~」
小悪魔は手よりも大きいハンバーガーにかぶりつく。外のパンはふんわりと柔らかくて内側が焼かれている事で香ばしい。牛肉と豚肉の合い挽きハンバーグは分厚いが簡単に噛み切れ、肉汁と肉と香辛料の強い味がする。シャキッとした新鮮な葉野菜。ほんの少しの酸味が効いている赤いトマトと火を通した甘い玉ねぎ。熱でとろけたチーズと甘酸っぱいケチャップソース。多くの食材を一度に口に含んでいるのに全く味がケンカしていなく、ひとつにまとまっている。
「美味しい~!ハンバーガーってこんな味なんだね!色々な味がするよ!」
「そーだろ?肉を食べてるって感じするよな♪」
「うん。肉以外にも使っている食材のどれもが上質なものを使っているのがわかる」
「じ、じゃあ次は私が食べますね。もう美味しくなさそうなんて全然感じませんけど」
次に美鈴がてりやきバーガーに口を付ける。
香ばしいパンに挟まれたのはザクザクとした食感の千切りキャベツ、そして火を通していない生の玉ねぎ。新鮮さを感じる辛味が効いている。そしててりやきバーガーに合わせて別に作ったハンバーグ。軟骨が入っているのかコリコリとした食感がある。そしてそれらをより引き立てているのは甘みと風味が強いしたたる位のたっぷりなてりやきソースとマヨネーズというちょっと酸っぱいが野菜に抜群に合う白いソース。
「これは…ふわふわしててシャキシャキしててコリコリしてて面白い食感ですね♪。でもとても美味しいです!特にこのソースが病みつきになりそうです!」
「そうでしょう?ハンバーガーは肉の強い味が楽しめるんですがこっちは肉とソースの組み合わせがたまりませんよね♪」
「ね~もう私も食べていいよね?」
「あ、す、すみません妹様。はい、全然大丈夫です」
「じゃ、改めてもう一回いただきまーす♪」
我慢していたフランもチキン南蛮バーガーにかぶりつく。
強く感じるのはこんがりと揚げられた鶏肉。サクリという食感のすぐ後に中からじゅわっと鶏の脂、そして肉汁が溢れ出る。そして揚げ鶏が纏い、衣にもたっぷり含んだ甘酸っぱい半透明な茶色い酢が効いたソースと、みじん切りの野菜とゆで卵が入ったこれまた少し酸味がある白いソースが味に複雑さを生み出す。揚げ鶏だけなら味が単調になりそうだがこのソース達との組み合わせでより良い風味を生み出しているのがわかる。しかもこのソースがパンにも千切りキャベツにも抜群に合っていてより美味にさせている。
「美味しい!凄く美味しいねコレ!」
「そうでしょう!」
「それはリディが考えた料理なんだぜ」
「店主さんに試しに作って見て貰えませんかって言ったらほんとに作ってくれたんだよね」
「リディも随分積極的になったな」
「も、もう三人共!」
「あとこのフライドポテトとオニオンリングも決して外せないぜ?」
強い塩気とサクサクとした食感、ホクホク揚げたてがたまらないフライドポテトと、揚げられてより甘みが増した名前通り輪っかになっているオニオンリング。これも勿論。
「…これは危険な食べ物です。ずっと食べられます」
「うん。どんどん進んじゃうね…」
「これもコーラに凄く合うね~♪」
「そうだろそうだろ♪あ、アレッタの姉ちゃん、ハンバーガーお代わり!」
「僕はコーラをもう一杯お願いします」
「僕ももらおうか」
「あ、じゃあ私はチキン南蛮を別でお願いします」
そんな感じで今回も別の世界の者同士の賑やかな食事会は過ぎていった…。
…………
(ありがとうございました)
「今度は是非レミリアさん達も一緒に来てくださいね!」
「はい、必ずお連れしますね」
「また会ったら一緒に飯食おうぜ♪」
「と言っても僕達は冒険しながらだからたまに来れない時もあるけどね」
「まぁこれが今生の別れでは無いだろう。また会えるさ」
「そうですね♪」
「またねリディ!また一緒にご飯食べようね!」
「うん。楽しみにしてるねフラン!」
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
…………
~~~~♪
フランドール達が戻ってくると再び扉は消えた。空はとうに夕方でオレンジに染まっている。
「あ、扉消えちゃった」
「わ~もうすっかり夕方ですよ!」
「早く戻りましょう。お嬢様達が心配されてると思います!」
「呼ばれたかしら?」
とその時、後ろの方からフラン達とは違う別の声が聞こえた。嫌な予感しかしなかった美鈴と小悪魔がゆっくりと振り返るとそこには、
「おかえりなさい」
「随分遅い御帰還ね…」
「……」
レミリア、咲夜、パチュリーがいた。しかしその表情は笑っている様で全く笑っていない。その事に気づいた美鈴と小悪魔の顔が引きつる。
「お、お嬢様!それに咲夜さんとパチュリーさんまで!?」
「ど、どうしてここにいるんですか!?」
「…私が落とした扉の魔力をたどったらここにたどり着いたのよ。でも扉は無かった。つまり…誰かが入ったって事」
「そして…これが落ちてたわ」
咲夜が見せたのは…赤い長い髪の毛。美鈴のそれと同じ色の…。
「美鈴…。妹様に連れられたとはいえ、貴女がまさかここまで馬鹿とは思わなかったわ…。居眠りなんてレベルじゃないわよ…」
「…小悪魔。私の補佐でありながら…私に許可なく私が呼び出したものを使うなんて…いい度胸してるじゃないの…」
咲夜とパチュリーの怒気含む声に美鈴と小悪魔はすっかり怯えている。ふたりも決して弱くないのだが今はそんなもの全く関係無い様に感じる。
「…フラン。姉であるこの私に何の相談もせず扉を使い、しかもこん長い時間外出するなんて…本当に困った妹だわ。これは…相当なお仕置きが必要な様ね」
レミリアもまたフランドールにそう言い放つ。その手には今すぐにスピア・ザ・グングニルを出しそうな勢いだ。
そんな彼女に対し、フランドールはどうしたかというと…、
「……………ごめんなさい」
「……え?」
「…妹様?」
「…フラン?」
意外にも素直に頭を下げ、素直に謝った。思わぬ反応だったのかレミリアだけでなく咲夜もパチュリーも、果ては美鈴も小悪魔も思わずきょとんとしてしまう。
「勝手に扉に入ってごめんなさい。あとこんな遅くまで外出してしまった事もごめんなさい。リディやジャック達と一緒で楽しくて、つい遅くなっちゃったの。でもそのために皆に心配かけちゃって…ごめんなさい」
「……」
「咲夜、パチュリー。美鈴とこあを怒らないであげて。私が連れて行っちゃっただけなんだからふたりは悪くない」
「「い、妹様…!」」
「…でもねお姉様。私、ねこやに行けて良かったと思ってる。美味しいものも食べれたし、新しいお友達もできたの。だから今度は…お姉様も咲夜もパチュリーも皆で行こ!皆でご飯食べに行こ!」
フランドールは屈託ない笑顔でそう言った。そんな彼女の言葉に、
「…………ハァ。もういいわ」
怒りが急速に萎んでいくレミリア。
「危ない所に行ってた訳じゃあ無いし、ねこやに行って悪い事が起こるなんて事もあまり考えられないし。それに前に私も勝手に行ったんだからおあいこだしね」
「お嬢様…」
「…それに魔法を失敗したのは私だから…私も全く悪い訳じゃないし」
「…でもフラン。もし今度どこか行く時は必ず声をかけなさい。例えねこやだとしても」
「うんわかった!」
「美鈴小悪魔。今回は妹様に免じて多めに見るけど明日から暫くいつも以上にしっかり働いてもらうわ。異論は認めないわよ」
「「は、はい勿論です咲夜さん!」」
「それじゃあ寒くなる前に中に戻りましょうか」
「うん!あ、お土産貰ってきたんだった!皆で食べよう♪」
そう言ってフランドールは先に入って行く。その後ろ姿を見て、
「…あの子も成長したわね」
「子供の成長は早いものよ。…レミィも見習ったら?」
「あら、失礼ねパチェ。この完全な私にこれ以上なんの成長が必要というのかしら?」
そんな親友同士のやり取りを見ながら彼女らの従者達はそっと笑った。
メニュー21
「クリームソーダと持ち帰りのビーフシチュー」
次回はいつもとちょっと違う雰囲気の回。そして仕事の関係で普段より少し時間を頂きます。すみません。
こんにちは、storybladeです。幻想郷食堂をお読み頂きありがとうございます。突然ですがアンケートです。先代博麗の巫女や魂魄妖忌の回があれば読んでみたいと思いますか?公式設定が少ないのでオリジナル要素を含んでしまいますがどうでしょうか?ご意見お願いします。期限は今月一杯です。
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あれば読んでみたい
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不安なので読みたくない