幻想郷食堂   作:storyblade

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遅くなりましてすみませんでした。
ただ次回も少し遅くなります。仕事の関係で全然執筆活動ができなくて…。
書きたいキャラは沢山あって必ず書きますのでお待ちいただけたら幸いです。


メニュー21「クリームソーダと持ち帰りのビーフシチュー」

幻想郷の迷いの竹林。立ち込める霧と日々成長する竹で方向感覚を狂わされ、出る事が極めて難しく、普段はあまり人は近づかない竹林。その竹林の中に輝夜や永琳が住んでいる以前紹介した永遠亭があるのだがそれとは別にもう一軒小さな家がある。今回の物語はそこから始まる…。

 

「お邪魔します」

 

その家にひとりの少女がやって来た。長い藤色の髪からウサギの耳が生え、セーラー服を着た少女。永遠亭の住人、鈴仙・優曇華院・イナバだ。

 

「…おお、鈴仙か。久々だな」

 

そして鈴仙を迎えたのは銀色の髪に帽子、上下青色の服とスカートの少女。人里の寺小屋で教師をしている上白沢慧音。ただしここは彼女の家ではない。別の人物の家だ。

 

「あ、こんにちは慧音さん。お久しぶりです。…妹紅さんは?」

 

「妹紅なら今外に出てる。私は留守番だ。もうすぐ帰ってくると思うが…」

 

「…ただいま。おお鈴仙ちゃんか。いらっしゃい」

 

「あ、こんにちは妹紅さん。ご招待にあやかりにきました」

 

入ってきたのは長い白髪の毛先にいくつものリボン、白いシャツにとサスペンダーと赤いモンペ姿の、以前鈴仙が洞窟に落ちた時に助けてくれた少女、藤原妹紅。言葉からここは彼女の家らしい。

 

「以前あのお菓子を御馳走してもらったお礼がまだだったからね」

 

「姫様はすっごく悔しがってましたけど」

 

「輝夜にはまたなんか美味いもんで送っとくさ」

 

「おかえり。あいつらは無事に出られたか妹紅?」

 

「留守番させて悪かったね慧音。妖精達は無事に送り届けたよ。にしても鬼ごっこに夢中になっている間にいつの間にか出られなくなってしまうなんてね」

 

「すまないな。あいつらには今度よく言っておく」

 

「気にしなくてもいいよ慧音。妖精なんて自由なのが基本なんだしさ」

 

「お前はそう言うが教える側の身にもなってみろ」

 

「そうですよ妹紅さん。なんならてゐがイタズラした時ももっと叱ってやってください」

 

「はは…」

 

そんな会話をしつつ囲炉裏を囲む三人。何か調理中か鉄鍋から湯気が出ている。

 

「いいにおいですね~」

 

「以前私が食べた「すぱげってぃ」というものとはまた違うにおいだな。昨日行ったのか?」

 

「ああ夜にな。もうご飯は食べてた後だったから食事はしなかったんだけど」

 

「それでお持ち帰りというわけか」

 

「なんてお料理なんですか?」

 

「ええと確かこれは…」

 

 

………

 

パチパチ…

 

「……」

 

時は昨日の夜まで遡り、場所は再び竹林の中。焚火をたきながら妹紅は時々空に浮かぶ見事な満月を眺めている。夜はこうするのが彼女の定番、という程ではないし友人達と過ごすのも好きだが、こうして月光浴しながらひとり過ごすのも妹紅は気に入っている。

 

(今宵もいい月だね…)

 

そう言う妹紅の頭にひとりの人物が浮かんでくる。自分とは切っても切れない関係で、腐れ縁で、宿敵みたいで、でもケンカする程仲が良いとも言えない事も無い人物。彼女と同じ長い、とても綺麗な黒髪の少女。思わず頭を振る妹紅。

 

「やれやれ全く…満月を見るとどうも輝夜を思い出してしまうね」

 

妹紅が言うその人物とは永遠亭の住人にして主、月からの移住者にして逃亡者でもある少女にしてかぐや姫その人、蓬莱山輝夜。藤原妹紅と彼女には深い縁がある。とても深く、とても長い縁が…。

 

「今更だけどもうあいつとの付き合いもどれ位」

 

ひゅぅぅぅぅ…

 

「…そろそろ戻ろうか。風も出てきたし」

 

妹紅は焚火の火を消し、跡も残らない位綺麗に掃除した後、自分の家に戻ろうと歩き始めた。

 

「…そういや前に輝夜の悪ふざけのせいでここら辺でレミリアに出くわしたんだっけか…。あん時は迷惑したよ」

 

 

(私達にとって退屈は最大の敵なの。日々如何に退屈をしりぞけ、少しでも楽しく生きるかが重要。だから少しでも貴女の退屈を紛らわせようとしている訳よ♪)

 

(お前が楽しんでるだけだろが!)

 

(そこは一石二鳥ってやつ♪)

 

 

「…全く」

 

そう言いつつ苦笑いを浮かべる妹紅。そうしている内に自分の家が見えてきた…、

 

「……ん?」

 

思わず妹紅は立ち止まる。自分の家の扉の前に…立ちふさがる様に別の扉があった。

 

「こ、こりゃあどういう事だ?…洋食のねこや…!これって…まさか前に慧音や鈴仙ちゃんが行ったっていう…!」

 

妹紅の頭に浮かんだのはひとつの扉の事。木造りで、金のドアノブで、洋食のねこやと書かれている猫の看板がかかった扉。目の間にあるそれは今幻想郷の住人達の間でひそかに話題になっている扉に相違なかった。

 

「ほんとに突然なんだねぇ。まさかうちのこんな目の前に出るなんて…。う~ん。でも、もう、さっきご飯食べたからあんまりお腹空いてないんだけどな…」

 

時刻は結構遅い時間。既に夕飯も終えている妹紅は入るか否か少し悩み、

 

「…でもどちらにしろこんなとこにあったら家に入れないし…しょうがないね、行くだけ行ってみるか」

 

そう決めた妹紅は扉のノブに手をかけた…。

 

 

…………

 

…………♪

 

 

妹紅が扉を開けるとそこは今まで自分がいた森とは全く違う見た事無い場所だった。

 

「こ、こりゃあ…予想以上だ…」

 

驚く妹紅。するとそこに彼女に気づいたクロが近づいてくる。

 

(いらっしゃま……)

 

「え、い、今頭の中に急に声が…。吃驚した、これってあんたの能力かなんかかい?」

 

(……)

 

だがクロは何かを考えている様な表情で妹紅を見ているだけ。するとそこにアレッタも近づいてくる。

 

「いらっしゃいませー!ようこそ洋食のねこやへ!」

 

「洋食のねこや…。じゃあやっぱりここが今幻想郷で噂になってる飯屋なのか」

 

「はい。ここはねこやという料理屋です。お客様も幻想郷の方ですね。私はここで働いてますアレッタです。宜しくお願いします!」

 

「アレッタか…いい名前だな。私は妹紅、藤原妹紅。えっと…なんて言ったらいいのかな?ごめんね、挨拶は苦手なもんで」

 

「いえいえ大丈夫ですよ。モコウさん、ですか。珍しいお名前ですね。あと凄く長くて綺麗な白髪ですね」

 

「はは、まぁそっちの人達からしたらそうかもね。髪は…まぁありがとうね」

 

「…?あ、すみません。もし良ければ何か食べて行ってください!ギリギリですけどまだディナータイムですので」

 

「…でぃなーたいむ?まぁいいか。う~んそうしたいのは山々なんだけどもうご飯は食べてるからあんまりお腹空いてないんだよね」

 

「でしたら何か甘いものでもどうでしょうか?お菓子やお飲み物だけ召し上がられていくお客様も多いですよ」

 

「……そうだね。じゃあ軽い物位だけどいいかい?」

 

「はい勿論です!お席にどうぞ!」

 

そう言われて妹紅はひとつのテーブルにつく。時間が遅い事もあってか客は彼女以外には離れたテーブルに酒瓶を手にふたりの寝ている男がいる位。

 

(こういう場所にひとりで来るってのはどうも慣れてないから緊張するね…)

 

そう思う妹紅だが、店に入ってきた時からひとつ気になる事があった。

 

(ここ…強い炎の力を感じる。悪いもんじゃないから…ここを加護してるのかな…。でもこれ程の力が外の世界にあるなんて)

 

店を加護する様に存在している自分と同じ、いやそれ以上かもしれない強い炎の力。それを妹紅は感じ取っていた。

 

(おしぼりとお水、そしてメニューです)

 

「…おおやっぱり頭に声がする。まぁ気にしなかったらいいか。ありがとね」

 

(先程は失礼しました)

 

「さっき?…ああ質問に答えなかった事かい?気にしなくていいよ」

 

(ありがとうございます。…あの、お客様)

 

「なんだい?」

 

(……いえ、注文が決まりましたらお呼びください)

 

クロは何も言わずに下がった。

 

「? まぁいいか。…へぇ~随分色々なものがあるね。里の茶屋とか比べ物にならないな」

 

夕食は終えているので食事ものは飛ばし、デザートや飲み物のページに飛ぶ。

 

「ほ~甘味物もこんなに。外の世界のご飯屋は凄いもんだね。飲み物は……ん?」

 

妹紅の目がある物に止まる。今まで見た事も無い色をしたある飲み物に。

 

「…クリームソーダ。爽やかなタンサンと白い雲を思わせる甘みが楽しめる…。タンサンてのは炭酸の事だろうけど…色がなんでこんなに緑色なんだ?でも甘いものは好きだしちょっと興味あるかも」

 

そして妹紅はクロを呼んで、

 

「えっと、このクリームソーダというの貰えるかい?」

 

(かしこまりました。ソフトクリームかアイスクリームかどちらになさいますか?)

 

「じゃあ……アイスクリームってやつで」

 

(かしこまりました。少々お待ちください)

 

そしてクロは店主に注文を伝えに行った。

 

 

 

 

……店主調理中……

 

 

 

 

…………

 

(お待たせしました。ご注文のクリームソーダです)

 

暫くしてクロは妹紅の元にクリームソーダを持ってきた。綺麗なグラスにたっぷりと注がれた緑色のメロンソーダという飲み物。氷もたっぷりと入れられ、炭酸がぷくぷくと泡立つ。そしてその上にはアイスクリームという白い山を思わせる見た事無いものが乗っている。

 

(こちらのストローでお飲みください。ごゆっくりどうぞ)

 

「これは…思ってたよりずっと緑だ。…でもにおいは嫌いじゃないね。とりあえず飲んでみようか。すとろーって言ってたけど…これって吸い込むのか?」

 

取り合えず飲んでみる事にした妹紅は初めて見るストローの使い方に困惑しつつ吸い込んでみると、

 

「!び、吃驚した。急に入って来た。成程、ゆっくり吸い込むんだね」

 

今度はゆっくり吸い込んで飲んでみる。口の中に炭酸のパチパチという弾ける感触、次に果実を思わせる爽やかな風味と甘み。幻想郷にもラムネという炭酸飲料があるがそれとはまた違う味わい。

 

「…へ~色は変わってるけど中々に美味いもんじゃないか。夏とかに良いね。こっちの白いのはどうかな」

 

続いて上に乗っているアイスクリームたるものを一緒に出された匙ですくって食べてみる。口に含んだとたんまず冷たさを感じ、次に強い甘味と濃い乳の味、そして舌の上で雲の様にゆっくりと溶けていく。

 

「…こんなの食べた事無い。かき氷みたいに冷たくて、そして甘い。そして牛酪の様に滑らかに溶けていく…。これだけでも十分美味いね」

 

メロンソーダとアイスクリームの組み合わせのクリームソーダの味を妹紅は気に入った様子。

 

「こりゃ料理の方もきっと美味しいんだろうね。今度来た時はそっちも試してみようかね」

 

 

〜〜〜〜♪

 

 

とその時扉の鈴が再び鳴った。誰かが来店してきた様だ。

 

「来たぞ」

 

巨大な寸胴鍋を持ち、豊満な体つきで褐色の肌。黄金色の眼と真っ赤な長い髪。立派な黒い竜の角を生やした女性。クロと同じく異世界で最も偉大な神の一柱、赤である。先代店主との約束で必ずその日の閉店間際に来店する事になっているのだが最近は少しばかり融通が聞くようになったのか少しばかり早く来る事もたまにある。その赤は寝落ちているふたりの男を見てため息を吐く。

 

「…やれやれ、小奴らはまたこの体たらくか。娘、前みたいに片付けておけ」

 

「は、はい!あといらっしゃいませ!」

 

すると厨房から店主が出てきて挨拶をする。

 

「いらっしゃいませ。今日のご注文は?」

 

「やれやれいつも同じ事を聞くでない。妾の頼むものはいつ如何なる時も常にひとつ。だが…今日はちと他にも用がある。それが終わってから一皿頂こう」

 

「用、ですか?」

 

「うむ」

 

すると赤は突然歩き出したと思えば…妹紅のテーブルの前で止まった。

 

「…娘よ。少し良いか?」

 

「え?あ、ああ別に構わないけど…他の席もあるじゃないか?」

 

「お主と少し話がしたいのじゃ。…心配するな店主。迷惑はかけぬ。それと何か酒でも頼めるか?クロに持ってこさせてくれ」

 

「はぁ。わかりました。クロさん頼む」

 

いつもとは違う彼女の姿に少し戸惑いつつも店主はワインとグラスを用意し、クロに赤の所に持って行かせる。

 

「自分で注ぐから構わんぞ」

 

「赤…」

 

「わかっておる」

 

クロは頷いて下がる。赤はグラスに赤ワインを注ぎ、軽く一口付けた後に妹紅に話しかける。

 

「娘よ。名はなんという?」

 

「…妹紅、藤原妹紅だけど」

 

「モコウか。妾の事は…とりあえず赤とでも呼ぶと良い」

 

「アカ?変わった名前だね。まあいいか。そのアカさんが私に何の用だい?」

 

すると赤は自らの手をゆっくりと妹紅に向ける。

 

(…これでよい)

 

「!ま、また頭に声が…!」

 

(お主も声でなく心で話すと良い。そうすれば妾にも聞こえる)

 

「こ、心で?」

 

(試してみよ)

 

言われた通り妹紅は心で通じているかの有無を質問してみると赤はそれに答える。どうやら本当らしい。

 

(ほ、本当に通じてるのか…)

 

(この会話は妾とお主にしか聞こえぬ。少々聞かれたくない事を聞く故、こうさせてもらった)

 

すると赤は再びワインを一口飲み、困惑する妹紅に向き合うと、真面目な表情でこう聞いた。

 

(答えよ。お主何故、その命をもっておる?)

 

(!!)

 

目を見開く妹紅。そしてそれと同時に目の前の人物から強い力を感じる。赤が自らの力を少しばかり解放したのだ。感じたのは自らと同じ炎、それも極めて強い力。それはこの店に入って来た時に感じたのと同じものだった。

 

「あ、アンタ一体!?」

 

(心で答えよと言っておる)

 

驚く妹紅だったがその一声に思わず黙り、言われた通り心で尋ねてみる。

 

(こ、これで良いのか?)

 

(うむ。それで良い)

 

(…アンタ誰だ?何故気づいたんだ?)

 

(…妾はお主らの世界とは別の世界に住むもの。大陸によっては「七色の覇王」「六柱の竜」と呼ぶ者もおるが、最もわかりやすい言葉でいうなら…神の一柱、か)

 

(!神様、か…。成程ね…確かにそれほどの力ならそれも納得だな…)

 

(最もそんな呼称に興味は無いがな。…さて、お主の質問には答えた。次は妾の質問に答えてもらおう。お主一体何者じゃ?)

 

(……)

 

妹紅は黙っている。そんな彼女に赤はこう言う。

 

(我らの世界にもお主と同じそれを持つ者はわずかにおる)

 

(…え?)

 

(我らの血を得た者は皆、お主と同じそれを持つ。だが完全なものではない。青の者は水に、黒の者は夜の闇に触れねば弱まってしまう。…だがお主のそれは違う。扉の向こうからはっきりと感じたぞ。お主のその、命の力の強さを)

 

(……)

 

(答えよ。ここは妾の縄張り、ごまかしは付けぬと思っておけ)

 

(…………私は死ねないんだ…)

 

妹紅は少し考えた後に話す事にした。藤原妹紅。彼女には幻想郷の他の妖怪や神々とは全く違う能力がある。「死ぬことも老いる事もない程度の能力」。いわば不老不死である。嘗て数多くの人間や権力者が望み、そして叶う事は決してなかった命の循環に抗う禁断の秘術。何故彼女にそんな力が宿っているのか…。

 

妹紅は大昔とある貴族のひとり娘として生まれた。父はあの「竹取物語」の中でかぐや姫、つまり輝夜に求婚した貴族のひとりであった。この時初めて妹紅と輝夜につながりができた事になる。父は輝夜から婚儀の条件として提示された蓬莱の玉の枝という物を手に入れたが輝夜から偽物と見放され、求婚は叶わなかった。この一件で父の周りからの評判は下がってしまう。それでも父は輝夜を手に入れようと思ったのか、或いは恥をかかされた復讐をしようと思ったのか彼女に執着する様になり、家の経済状況は逼迫していった。周りの者も家族の言葉も聞かず落ちぶれていく中で父を止めようとした娘妹紅は邪魔者として家から追い払われた。この時妹紅は原因を作ったとして輝夜を憎む様になる。

それから少しの時が経った後に妹紅はとある話を耳にした。輝夜が月に帰る時、迷惑をかけた詫びとして帝にとある壺を残したが、それが富士の山に運ばれるというのだ。復讐心に駆られた妹紅はそれを奪おうと計画し、壺を運ぶ集団を利用する形で共に山に向かった。そして旅の終わりの時、妹紅は富士山頂で出会った木花咲耶姫という神から壺の中身について衝撃の事実を告げられたのである…。

 

(……蓬莱の薬、とな?)

 

(月の民が作ったっていう秘薬だよ。詳しくは知らないけど…例え身体が滅んでも魂が直ぐに新たな身体を作り出して死ななくなるっていう薬らしい。怪我や老いによる衰えなんかもあっという間に治すんだってさ。飲んだ者は蓬莱人って呼ばれるらしいよ…)

 

(…まさに不老不死の薬だな。妾の世界でも嘗て多くの者達が同じ様なものを生み出そうとしたがそのどれもが無駄に終わった。その者達が聞いたら狂って喜びそうじゃ。で、お主はそれを飲んだという訳か?)

 

(ああ。今思っても…全く馬鹿な事をしたもんだ)

 

(欲深い者達にとっては喉から手が出るほど欲しがる物と思うが?)

 

(不老不死なんて…一番手に入れてはいけないものなんだよ…)

 

壺の中身を妹紅達が知った後、一行はその薬を利用しようと争いを始めた。その結果妹紅と団の長以外の者は全滅、残った長も既に薬に興味を持っていた妹紅に切り捨てられた。そして妹紅は遂に壺の中身である蓬莱の薬を遊び心で口にしたのだった。

……それから彼女の人生は再び一変する。薬によってなのか彼女の美しかった黒い髪は真っ白に染まってしまった。更にどんなに時間が経っても老いる事もなく、怪我をしても直ぐ治る身体。そんな彼女を周囲が奇妙な目で見る様になるのはある種当然だった。いたたまれなくなった妹紅は人から避ける様に長く各地を放浪した。その途中何度も死ぬ様な目に、いや実際死んだ。妖怪や凶暴な動物に殺された事もあった。でも死ねなかった。どんな目にあっても、自害しようとしても死ねなかった。自分に絶望し、失意のままの妹紅がたどり着いた場所、それが幻想郷であったのだ…。

 

(そしてそこで私は輝夜のやつに会ったって訳さ)

 

(お主の父を貶めた娘とやらか。何故その者が幻想郷とやらにおる?)

 

(それは…あいつも私と同じ薬を飲んだからだよ。そして月から追放された。蓬莱の薬を飲むことは生み出した月にとっても最大の禁忌とされているのさ)

 

(成程な。行きついた場所がお主と同じだったという訳か。因果とやらかもしれぬな…)

 

嘗て妹紅の人生を狂わせるきっかけになったと言えなくもない輝夜。彼女もまた妹紅と同じ様に蓬莱の薬を飲み、不老不死の身体となっていたのだ。そして長い時の後に彼女らは巡り合った。赤の言う通り因果と言えなくもない。

 

(わかったかい?どんな目にあっても、例え光や自然や何も無くなった世界になっても死ぬことが許されない、永遠に生き続ける化け物。それが私って訳さ…)

 

話が長くなって既に氷もアイスも完全に溶けたクリームソーダを前に妹紅は自虐気味にそう言って笑った。

 

(…お主は、今もその娘を恨んでおるのか?)

 

赤の質問に妹紅は、

 

(…まぁそりゃああいつの我儘で色々あったから恨んだよ。薬の事もなんてもん残していったんだってね。…でも、もう今はあんまりって感じかな。なんだかんだ言っても父があんな事になったのは父自身のせいだしさ。薬を飲んだのも私が勝手に飲んだんだし、自業自得だなって。もう千年以上も生きてたら恨みなんて薄れてくるって。だから輝夜とは今は腐れ縁というか…殺し合う程は仲はいいって感じかな)

 

(……)

 

(なぁ、アンタ結構な神様なんだろ?アンタなら…私を殺せないのか?)

 

(…無理じゃな。お主の命は妾の炎でも焼き尽くせぬ。恐らく嘗て妾が戦った(万色の混沌)にも不可能じゃろう)

 

(そっか…。もしできるんならあいつを連れてくるんだけどな。私より先に殺してやりたいから…)

 

少し残念そうな表情を浮かべる妹紅。最後の言葉は輝夜への気遣いの意味だろうと赤は思った。

 

(……嘗て妾と我が同胞は千年に渡る戦いの末に勝ち、世界を創造した。それよりおよそ三万年余り、お主と同じ様に長い日々を世界を見守りながら過ごしてきた。同じ様な生き方をしてきたわけではないがな。正直、妾も生きる事に飽きた事が無くも無い)

 

(三万年か…。長いね…)

 

(しかし、生きて良かったと思う事も今はある)

 

(…ふーんどんなんだい?)

 

(お待たせしました)

 

とその時、クロが今と待っていた様に赤の元に一皿を運んできた。赤がこの店で最も愛する料理を。

 

(これじゃ。この香り、この味、妾を誘惑してやまぬこの料理に出会えた事こそ、妾にとって最も幸運な事のひとつ。これに出会っただけでも約十万年以上生きている長い命に価値があったというもの♪)

 

一瞬ポカンとした妹紅。

 

(…ふふ、なんだそれ。理由が食べ物なんて随分軽い神様だな)

 

(…モコウと言ったな。お主自身も言うたが、過去に理由があったとはいえ、その薬を飲んだのはお主自身。しかも周りの者を蹴落としてまで。不老不死の罪は間違い無くそなた自身にある。それは否定せん)

 

(…ああわかってる)

 

(じゃがお主は自らの罪を認め、しかも自らを化け物と呼んだ。二度とその薬を飲んではならないとも。本当の化け物ならばそんな風に思わんものだ)

 

(……)

 

(先にも話した通り、妾にはお主の命を終わらせてやる事はできぬ。ましてやその薬とやらを生み出した幻想郷とやらでも無理ならば妾の世界でも無理じゃ。後々の世界ではわからぬがな。ならばせめて、いつかお主とその娘の命を終わらせるものに出会えるかもしれぬ時まで、日々の退屈を和らげるものにひとつでも多く出会う事が、何より必要と妾は思うぞ。妾にとってのこれの様にな)

 

 

(私達にとって退屈は最大の敵なの。日々如何に退屈をしりぞけ、少しでも楽しく生きるかが重要。だから少しでも貴女の退屈を紛らわせようとしている訳よ♪)

 

 

赤の言葉で友の言葉を再び思い出す妹紅。

 

(…そうだな、その通りかもね。えっと…アカさんだっけ。ありがとうな)

 

(構わぬ。妾も中々面白い話を聞けたからな)

 

(あああとひとつ。さっきアンタ十万年以上生きてるって言ってたけど、知り合いにもっと長生きしてる奴がいるよ。っていってもそいつも蓬莱人なんだけど)

 

(…ほう。どれ位じゃ?)

 

(えっと…確か五億年以上って言ってたけか)

 

この言葉に今度は赤がポカンとしたと思ったらその直後、

 

「…ふ、ふははは、ははははははははは!」

 

大声で凄く楽しそうに笑う赤。そんな彼女を見てポカンとするクロ。彼女からしても赤がこんなに笑うのは本当に数える位しか覚えがない。厨房から店主とアレッタも呆然としている。

 

「ははは……ふぅ…。こんなに笑ったのは久々だ。ここ数年で一番面白かったぞ娘」

 

「そ、そりゃどうも」

 

「そうか五億年か。妾等そやつからしたら赤子同然だな。くくく…」

 

すると赤は店主を呼んで、

 

「笑わせてくれた礼をせねばな。おい、店主。ひとつ頼めるか?」

 

「はい?なんでしょう」

 

 

…………

 

「…どうした妹紅?」

 

「妹紅さん?」

 

「…はっ。ああごめん。ちょっと考え事してた。えっとなんだっけ?」

 

「この料理の名前ですよ~」

 

「ああそうだったね。これは「ビーフシチュー」という料理らしい」

 

「ビーフ…確か外の世界で牛肉を意味するな」

 

囲炉裏に焚べられた鍋には赤が食べていたものと同じ料理が入っていた。昨日赤が「笑わせてくれた礼に、少しばかり分けてやろう。ありがたく思うが良い」と言って少し(とはいえ数人分はある)持たせてくれたのだ。鍋は食堂からの借り物だが店主曰く返却は次回でいいらしい。十分に温まった所で皿代わりのお椀に入れる。

 

「「「いただきます」」」

 

匙で掬い、湯気がたっているそれに息を吹きかけて食べてみると、味噌汁や鍋の出汁でも無いスープの濃厚な旨味が口に広がる。食材だけでなく香辛料や酒等沢山の具材が溶け込んだ複雑な味がする。そして何よりとろみがあるためかとても温かみを感じる。

 

(…美味い)

 

「は〜…これは濃いですね〜」

 

「ああ。だがただ濃いだけじゃない。とても繊細な味だ。具材の大きさは違うが前に食べたミートソースとやらに近いな」

 

「野菜もこんなに大きく切られてるのに匙で簡単に崩れますよ。どれだけ煮込まれてるんでしょう」

 

鈴仙の言う通り、人参じゃがいも玉葱と野菜のどれもがほろほろと崩れる程とても柔らかい上にそれらがしっかりスープの旨味も含んでいる。目玉はやはり名前にもなってる牛肉。薄く切られている訳でも無いのに口の中で簡単に肉の繊維が簡単に噛み切れる程柔らかく煮込まれていた。

 

「ほわ〜…凄く柔らかいですね〜。何の獣臭さもありませんし」

 

「全くだ。この肉といい野菜といい、これなら野菜嫌いな子供達も食べれそうだな」

 

「姫様にも食べさせてあげたいなぁ」

 

(…ふふ)

 

ビーフシチューを楽しんでいる彼女らを見ながら妹紅は赤、そして輝夜から言われた言葉を思い出しながら色々考えていた。今は終わらない命。もしかしたらこの先も永遠に。知り合いも、多分目の前の彼女らも何れは自分より先に死に、自分は残されていくのだろう。悲しいし空白の時間も沢山できるに違いない。ならばせめて彼女らの言う通り、その空白の一日一日を出来る限り充実したものに、思い出あるものにする様改めて努力しよう。そうすればその思い出を糧として生きていける。いつか自分や友に永遠の安らぎが訪れる事を信じて。

 

 

(…ねぇ妹紅)

 

(…あ?)

 

(例え全ての人間が死に絶え、妖怪達が消えても、私達は嫌でも永遠に付き合っていくんだから、今後とも宜しくね)

 

(…ふん、その前に絶対にお前を始末する方法を見つけてやる)

 

(…そういうものいいわね)

 

 

「…なぁふたり共」

 

「うん?」

 

「なんですか妹紅さん?」

 

「…やっぱりまだ当分退屈はしなさそうだ。あと鈴仙ちゃん、少し分けるから輝夜のやつに持って帰ってやってくれるかい?」

 

 

…………

 

昨日の夜、妹紅が帰った後のねこや

 

(……驚いた)

 

(ん?)

 

(赤があんなに楽しそうに笑った事。そして、ビーフシチューを分けた事も、凄く驚いた)

 

完食したばかりの赤にクロは心で話しかけた。

 

(…ふふ、妾とてたまにはふざける事はある。この店の者達の影響かもな。だがこれきりじゃ。ビーフシチューを食して良いのは妾のみなのじゃから。…のぉ、黒)

 

(…何?)

 

(長く生きておれば面白い事もあるものだな。そうは思わないか?)

 

(?…うん)

 

笑う赤にハテナを浮かべながら黒は返事をした。




メニュー22

「再びのブイヤベースと変わりカナッペ」

こんにちは、storybladeです。幻想郷食堂をお読み頂きありがとうございます。突然ですがアンケートです。先代博麗の巫女や魂魄妖忌の回があれば読んでみたいと思いますか?公式設定が少ないのでオリジナル要素を含んでしまいますがどうでしょうか?ご意見お願いします。期限は今月一杯です。

  • あれば読んでみたい
  • 不安なので読みたくない
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