幻想郷食堂   作:storyblade

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もっと食事シーンを上手く書ける技が欲しい(苦笑)


メニュー22「再びのブイヤベースと変わりカナッペ」

季節は秋真っ盛りを超え、ぼんやりと冬の気配を見せ始めた頃…。

 

「ん〜、久しぶりに明るいうちの温泉もいいものね~♪」

 

「橙、誰もいないとはいえあまり温泉で泳いではいけません」

 

「は、は~い!」

 

「いいじゃないの藍。私達以外に誰もいないんだから」

 

「あまり橙を甘やかしてはいけませんよ紫様」

 

時間はお昼前、ここは幻想郷にある岩風呂温泉。見た目立派な温泉だが…よく見ると数は少ないが浮遊霊みたいなものがあちらこちらと漂っている。この温泉にもとある話があるがそれについては今は詳細は省いておく。ともかくそんな岩風呂で霊等おかまいなしに入浴を楽しむ三人の姿がある。

 

ひとりは幻想郷の管理者にして妖怪の賢者とも言われる大妖怪、八雲紫。温泉に入っているのに傘も相変わらずである

ひとりは二本のとんがり部分がある変わった帽子を被った短い金髪、そしていくつもの狐の様な尻尾を持つ女性。第一話にて紫の傍にいた女性だ。名を藍というらしい。

そして最後のひとりはふたり目の女性と同じ様に帽子を被った茶髪、そして数本の猫の様な尾がある少女。こちらは橙という名前らしかった。

見ての通り彼女らもまた人間ではない。彼女らは式。古来より陰陽師をはじめとする術者によって使役される神、式神であった。藍は紫が操る式神の中で最も優れた者であり、高い能力を持っている。橙はその藍の式神である。

 

「それよりも紫様…数ヶ月前から幻想郷に現れる様になった例のあの扉ですが、どうやら紫様の見立て通り、一度に現れる扉が日に日に多くなっている様です。すれ違いにはなったようですが最近妖精達と魔理沙達が同日に行ったらしい事を耳にしました」

 

「やっぱりそうなのね」

 

「扉が現れる場所の確実な特定は現時点においても全く不明です。間隔も七日に一度という条件は変わりません。ただ最近、紅魔館の者達があの扉を呼び寄せる術を掴んだとか」

 

「あら〜それは羨ましいわね。いつでも行けるって事じゃない」

 

「幸い人里への出現は今の所あの「鈴奈庵」と「寺小屋」のみです。その後不審な扉が現れたという報告はありません」

 

「あの御札があるとはいえ、里の人間があんな場所に行ってしまったら大変だものね」

 

「また、書物等の物質は可能ですが扉の向こうから外の世界の者が来たり、加えてこちらの者が外とは別の世界に行ったという報告もありません。人があの扉の先にあるという店を通じての世界の往来は不可能な様です」

 

「あの扉についている一種の安全装置なのかもしれないわね」

 

「…残念ながら現時点であの扉についてはこれ以上の有力な情報は掴めておりません。引き続き情報を収集していく考えです」

 

「頼りにしてるわ藍」

 

紫と藍が話しているのは勿論異世界食堂、ねこやの扉の事であった。あの扉が幻想郷に現れてから既に二ヶ月程が経っていた。紫達はあれからねこやの扉について調べているが、扉の出現理由については不明のままだったのだ。しかし紫はねこやの扉の出現にも何かしらの意味があると思っている。この幻想郷では無意味な事は起こらないのだから。

 

「もうすぐまた冬がやってくるのね~」

 

「しかし…紫様の適切なご判断と、上白沢慧音の協力で未だ人里を中心とした幻想郷への被害はないとはいえ、あの扉についてはまだ多くの謎が残ったままです。ましてや外の世界と繋がる扉など、危険性は非常に大きいと思います」

 

「まぁね~。近いうちに月や天界にも出るかもしれないわね」

 

「…宇佐見菫子がまた関わっている可能性は?」

 

「オカルトボールの事?確かにあれも博麗大結界の破壊という目的で彼女が起こした異変だけど…それは多分無いわね。というか…あの扉、確証は無いけど不思議と悪いものに感じないのよね。霊夢もあまり慌てていないみたいだし」

 

「…前にも申しましたが、紫様は今の博麗の巫女を少し買いかぶりすぎでは」

 

「何を言ってるのかしら藍。前にも言ったように、私は霊夢の可能性を信じているだけよ」

 

紫は藍や橙と同じく、霊夢に対しても全幅な信頼を置いている。一方の霊夢はそんな紫をぞんざいに扱うのが殆どだが幻想郷、そして博麗大結界にも欠かせない存在というのは重々承知しているので腐れ縁的な付き合いがずっと続いているのだ。

 

「それに紫様やあの幽々子殿のお話を信じない訳ではありませんが…本当なのでしょうか。人と人でない者が皆笑って一緒に食事する等…。人は本来自分とは違うものを恐れる生き物というのに」

 

「こちらでもしょっちゅう宴会やってるじゃない」

 

「あれは顔見知りの者達だけの集まりです。その店は初めての者でも普通に受け入れるとか」

 

「そういうお店なんでしょう。…それはさておき藍、また落ちてるんじゃない?橙の式」

 

紫が指さす先には温泉で泳いでいる中で溺れている橙。

 

「ちぇ、橙大丈夫か!」

 

「だ、だいじょぶえぇぇ…」

 

「橙も相変わらずね。……あら?」

 

 

…………

 

その後、温泉を堪能した紫、藍、橙の三人は各々服を着た後に、

 

「紫様藍様~、そろそろお腹空きましたね~」

 

「もうお昼頃ですものね。紫様、昼餉は何を御用意致しましょうか?」

 

「そうね〜…それじゃあ、あそこに行ってみましょうか」

 

すると笑いながら紫はある方向を指さす。その先には、

 

「…!」

 

「あー!」

 

自分達が今いる場所と風呂を挟んだちょうど反対側に、例の扉があった。つい先程まで自分達が話し合っていた扉が。

 

「い、いつの間に!」

 

「さっき橙が溺れていた時に現れたのよ。藍たら助けるのに夢中で気づかなかったなんて。ふふ、藍もちょっとだけまだまだね♪」

 

「め、面目次第もありません…」

 

「ね〜紫様。あそこって美味しいご飯食べさせてくれるお店なんでしょう?」

 

「ええそうよ。さて、折角ですから行きましょうか?」

 

「ですが…」

 

「怪しいのなら一回行ってみるのもいいでしょ?虎穴に入らずんば、というじゃない」

 

「…わかりました、私もお供します。例え何があっても紫様は私が必ずお守りします」

 

「私もお守りします!」

 

「ええ頼りにしてるわふたり共。それじゃあ行きましょうか」

 

そう言って紫達は再びねこやの扉を開けるのであった…。

 

 

…………

 

〜〜〜〜♪

 

 

紫がねこやの扉を開けるとそこは以前来た時と同じ温かい光と木の温もり、そしていい匂いが漂う洋食屋の風景が広がっていた。客はまだカウンターに老人がひとりいるだけだ。

 

「まだ二ヶ月位だけど久しぶりな気がするわね」

 

「ここが洋食のねこや…」

 

「良いにおいがしますね〜♪」

 

「あ、いらっしゃいませー!…えっと確かユカリさんでしたね。お久しぶりです!」

 

前に会っていたアレッタが挨拶をしながら近づいてきた。人間らしくない彼女の風貌に藍は一瞬紫を守ろうという動きを見せるが紫は直ぐに制止する。

 

「大丈夫よ。こんにちはアレッタ。扉を見つけたからまた食べに来たの。いいかしら?」

 

「勿論です!まだ開店したばかりですので。一緒の方はお連れ様ですか?」

 

「ええそうよ。ふたり共、自己紹介して」

 

「……失礼しました。紫様の従者にして式、八雲藍と申します。宜しくお願い致します」

 

「私は橙だよ♪」

 

「ランさんとチェンさんですね。こちらこそ宜しくお願いします!」

 

表情はまだ固いが姿勢を正しながらお辞儀をする藍。元気に挨拶する橙。そんな彼女らに警戒心無い笑顔で返事をするアレッタ。

 

「ねー貴女のそれ、カッコイイ山羊の角だね!」

 

「え?か、カッコイイですか?あ、あんまりそんな風に言ってもらった事ないです」

 

「…失礼ながら貴女、私や橙を見て恐くはないのですか?」

 

「恐い?なんでですか?その尻尾もお耳もとってもかわいいと思いますよ!」

 

「えへへ、そうかな〜」

 

「か、かわいいなんてよしてください!」

 

「うふふ、良かったわねふたり共。かわいいって言ってもらえて。生えてない私は言ってもらえなかったのよ〜?」

 

「ああす、すいませんそういう意味じゃなくて!」

 

「ふふ、冗談よ♪」

 

すると店主も顔を出す。

 

「いらっしゃい。あ、紫さん。久しぶりですね」

 

「ええこんにちは店主さん。覚えていてくれて嬉しいわ。今日は家族を連れてきたの」

 

「ありがとうございます。まずは席にどうぞ。アレッタさんはご案内を。クロさん、準備を頼む」

 

(はい)

 

「はいマスター!それではお席へどうぞ!」

 

アレッタの案内で取り敢えず席につく三人。そして直ぐにクロがいつもの三点セットを持ってくる。

 

「貴女もお久しぶりねクロさん」

 

(…はい)

 

「わっ!頭の中に声がしました!」

 

「不思議な術ですね…」

 

橙は驚く一方、紫から以前クロの事は聞いていた藍は少し警戒する表情を見せた。

 

「あまり気を悪くしないでちょうだいね?この子達あまり外の世界に出た事ないし。特にこの藍は少し仕事熱心な所もあって」

 

(問題ありません。ご注文がお決まりになりましたらお呼びください)

 

「ええありがとう」

 

そしてクロが下がると同時に、藍が紫に話しかける。

 

「…紫様」

 

「ええ。彼女は只者じゃないわね。でも私達にも、ましてや幻想郷に何かしようとしている気配はない。何もせずに普通に客として振舞っていれば大丈夫よ」

 

「あの様な者がいるなんてここは本当にどういう場所なのでしょうか…」

 

「どうも何も、異世界に繋がる食堂よ」

 

「それはわかっています。私が言いたいのは何故あのような者がいて誰も不審がらないのかという事です。そしてこの場所には…強い加護の力があります」

 

「そうね。わかりやすく例えるなら…「火」と「闇」というところかしら」

 

「少なくともこの店の主人やあのアレッタという給仕からは邪気の類は感じませんが…あのような者がいる以上決してここが安全とは」

 

「ね~藍様~紫様~。早く何か食べましょうよ~」

 

真面目に考察する藍とは対照的に橙はこの雰囲気を楽しんでいるらしい。郷に入っては、というものだろう。

 

「もう橙…」

 

「ふふ、そうね。さあさあ折角だから何か注文しましょう。ふたり共、何か食べたいものある?」

 

「私はお魚が良いです〜♪」

 

「私はお任せします」

 

「う〜んそれじゃあ…あ、そうだわ。ねぇアレッタ、悪いけど店主さんを呼んでもらえないかしら?」

 

「畏まりました!」

 

言われてアレッタが店主を呼びに行くとほんの少ししてから店主が来る。

 

「今日のブイヤベースの魚は、前にいただいた時とまた違うのかしら?」

 

「ええ一部違いますよ」

 

「そうなのね…ではそれをみっつお願いするわ。付け合せはまたあの柔らかいパンとお酒をお願いするわね。あと…これは勝手なお願いなんだけど、油揚げを使った料理ってあるかしら?この子油揚げが大好きで」

 

「油揚げ、ですか?」

 

「ゆ、紫様!」

 

お稲荷さんは油揚げが好きな様に藍もその通りな様だ。店主は顎に手を当てて少し考え、

 

「…それではそのお料理はこちらに任せていただいても良いですか?」

 

「ええお任せするわ」

 

「畏まりました。では先にそちらからお出しします。ああ、あとお客さん方、一応お聞きしときたいんですが葱や香辛料は大丈夫ですか?」

 

「うん大丈夫だよ?」

 

「んん!…問題ありません」

 

「わかりました。では少しお待ち下さいね」

 

そう言って店主は再び厨房に戻っていった。

 

「紫様…からかわれては困ります」

 

「あら、からかってなんか無いわよ?好きなものを食べさせてあげたいっていう親心じゃない。お母さん悲しいわ〜」

 

「だ、だから…もう!」

 

「藍様お顔が赤いですよ?」

 

「何でもありません!」

 

そういう藍だが嫌そうではない。紫の自由奔放さやおふざけに苦労する事もあるが藍は紫の式である事に誇りを持っているし、唯一の主なのだ。

 

「藍、貴女のその真面目さは確かに立派だし必要だわ。でももう少し肩の力を抜きなさいな。私は本当に貴女達とただご飯を食べに来たかったのだから」

 

「は、はぁ」

 

「ほっほ、その通りじゃ。ここは食事をする場所。争いはご法度じゃよ」

 

するとカウンターに座っていた客が声をかけてきた。まだ客は彼だけだったので聞こえてしまったのだろう。

 

「ようこそ、新たな異世界食堂の客人」

 

「お爺ちゃん誰〜?」

 

「おお失礼。儂はアルトリウスという。ここでは一応今の店主の先代からの古株じゃ」

 

「これはご丁寧に。幻想郷から来た八雲紫ですわ」

 

「…八雲藍と申します」

 

「あたしは橙だよ♪」

 

 

 

 

……店主調理中……

 

 

 

 

…………

 

「幻想郷…ということはお主らも霊夢殿や魔理沙殿と同じか。……ほう、そちらのおふたりはまた中々面白いな。ホムンクルス?…いや違う、使い魔の類か」

 

「使い魔じゃないよ、式神だよお爺ちゃん」

 

「シキガミ、とな。…ふむ、その名前を聞くのもまた久しぶりだ」

 

「式神をご存知?」

 

「これでも魔術は広く学んでおるからの。テリヤキの…確か東の大陸で生まれた術だったか。まぁ別にいいわい。ここは30数年程前に儂の古い友人が先代店主と共に開いた店じゃ」

 

「…ご友人って、見た所ご老体は異世界の者ではないのですか?」

 

「確かに儂はこの店とはまた別の世界の者じゃ。友人もじゃがまぁ色々あっての。兎に角ここには様々な者が訪れるし、色々と変わった場所かもしれんが決して危ない場所ではない事は保証するよ。先代と儂の友人にとっては特別な場所じゃし、悪い様に思わんでくれたら知り合いとして嬉しい」

 

「は、はぁ…」

 

「お待たせしましたー!ロースカツとビールです!」

 

「おお待っておった待っておった♪」

 

アルトリウスが馴染みのメニューに差し掛かると同時に、店主とクロが紫達のメニューを持ってきた。

 

「お待たせしました。こちらご希望の油揚げを使いました料理、油揚げのカナッペです」

 

紫達の前に出された一皿。それにはクラッカー位のサイズに四角く切られた薄い油揚げの上に色々な具材が乗せられたもの。

 

「わ~なんかキレイですね」

 

「見た感じは寿司に似てますね」

 

「具を乗せているのが油揚げなのね。カナッペってどんなお料理?」

 

「一口大に切ったパンやクラッカーというお菓子の上に色々な具材を乗せた料理です。今回は仰る通り油揚げを少しこんがりと焼いたものを土台に使っています。上に乗っているのは右からカマンベールチーズと青ネギ、スモークサーモンとアボカド、そして生ハムとメロンです。このまま手づかみでお召し上がりください」

 

すると藍が最後のものを見て少しひきつる。

 

「!め、メロンって…聞いた事はありますが確か果物ではないのですか?そしてこの生ハムというもの…見た所肉で、しかも生という事は生肉なのでは?」

 

「はは。初めての方はお客さんみたいに驚かれる方もいるんですがご安心ください。生ハムとメロンはとても相性が良いんです。外国では前菜として普通に食べられている国もあります」

 

「焼いたお肉に木の実のソースをかけたのは食べた事あるけど生の果物は初めてだわ」

 

「生ハムは確かに見た目は生っぽく見えますが、豚肉を十分に塩漬けと乾燥、そして加熱してあるので安心して召し上がれますよ」

 

(こちらは白ぶどう酒です)

 

「以前いただいたものね。ありがとう」

 

「それではごゆっくり。ブイヤベースの方はもう少々お待ちください」

 

「大丈夫よ。これを頂きながら待ってるから」

 

一礼をして店主とクロは下がる。

 

……♪

 

「いらっしゃいませー!」

 

「うむ、今日も世話になるぞ。おう、もう来ていたかロースカツ」

 

「遅かったなテリヤキ」

 

「仕事が立て込んでたのでな。今日もいつも通りで頼むぞ」

 

……♪

 

(いらっしゃいませ)

 

「今日もエビフライを頼む!タルタルソースも勿論多めでな!」

 

ランチタイムだからか続々と客が来ている。しかし何れも紫達を気にする事は無い。

 

「…客達皆私達を気にしませんね」

 

「それではいただきましょうか」

 

「いただきます!じゃあこのお魚のやつからにしよっと♪」

 

まず橙が手を伸ばしたのはスモークサーモンとアボカド。店主に言われた通り下の油揚げを手でつかみ、そのまま口に運ぶ。こんがりと焼かれているらしい油揚げはサクサクとした歯ごたえがし、それと同時に薄切りされたスモークサーモンがもつ燻製の独特の香りとやや強い塩気とじわりと出てくる魚の脂の旨味、そしてアボカドという野菜の牛酪を思わせるねっとりとしてまろやかな食感。

 

「お揚げがサクサクとしてて、このお魚もお野菜も食べた事無い感じですけど…凄く美味しいです!」

 

「そうなのね~。では私はこちらから頂こうかしら」

 

紫がとったのはカマンベールチーズと青ネギ。とろりと溶けたカマンベールチーズの濃厚な風味と味わい、シャキシャキとした食感を残した青ネギ、その上によく見るとピリリと辛味がある一味が乗っている。何れも油揚げと相性がいいものばかりでシンプルながらもより良い味に仕上がっている。

 

「見た目簡単ながらも凄く美味しいわ。白ぶどう酒とも合ってる。ねぇ藍、貴女この果物とお肉のもの試してみなさいよ」

 

「え、こ、これですか?ま、まぁ食べれないものを料理屋が出すとも思えませんけど…果物と肉の組み合わせは…」

 

少々おびえながら藍はメロンと生ハムというものを手に取り、口に運ぶ。

薄く切られた肉は見た目と違って決して生臭くない。強い塩気を持ち、噛めば噛むほど肉の旨味が出てくる。一緒に組み合わされたメロンという果物は柔らかすぎず、ほんの少し歯ごたえを残し、強いまろやかな甘み。…いやこの塩漬けの肉がメロンの甘みをより強めているのだろう。そして同時に果物の青臭さも消しているのだ。それはこの組み合わせが優れているという事に他ならない。

 

「!……驚きました。この生ハムという塩気が効いた肉とメロンという果物が互いの長所を生かし、互いの短所を消しています。まさか肉と生の果物がこんな味を引き出すなんて…」

 

「へぇ、そんなに合っているのね」

 

「そしてこの油揚げ!サクサクとした歯ごたえと豆の風味も香ばしさもちゃんと生きてて!……あ、す、すみません」

 

「いいのよ。美味しい物は素直に美味しいといえば。…あら、気づかない内にまたお客さんが増えている様ね」

 

見ると紫の言う通り、いつの間にか客は更に増えていた。

 

「オムライス、オオモリ。オムレツサンコ、モチカエリ」

 

軽鎧をまとうリザードマン。

 

「今日もポークジンジャーにライス大盛りでお願いします!タロには猪肉を焼いてあげてください」

 

(ワン!)

 

見た目狩人の様な恰好をした少年。傍にはよくしつけられているのだろう一頭の犬がぴたりとついている。

 

「久しぶりだね、ロウケイ」

 

「ごめんねアルテ。最近仕事が忙しくなっちゃって…」

 

「ううん。久しぶりに一緒にご飯食べれて、私嬉しい」

 

褐色の肌の少年と色白の青い髪の少女。見ると少女の足は竜の足の様な形をしているから人間では無さそうである。

他にも耳長の銀髪の女性や蛇の様な足を持った女性等、アルトリウスの言った通り人以外に亜人や動物なんかも来ているが誰もが皆自分達の食事を楽しみにし、周りの事は全く気にしていない様だった。

 

「すご~い!また見た事無い人達ばかりですよ紫様!藍様!」

 

「これだけ多くの違う種族がこうして一緒の場で、しかも互いに干渉せずに友好的な態度をししているなんて、俄かには信じられません…」

 

「そうね。私もここに来るのは二回目だし、初めて見る人もいるから少し驚いているわ」

 

「お待たせしましたー!ご注文のブイヤベースです!」

 

そうこうしている間にアレッタがもうひとつの料理を持ってきた。幅広の皿に入った赤色のスープに魚介が浮かぶ。以前紫が食べたものと同じブイヤベースが出された。

 

「本日のお魚はエビとムール貝と、(アジ)というお魚です。鯵は食べやすくするためにツミレにしました。スープが良くしみ込んでて美味しいですよ。それではごゆっくり!」

 

「これも美味しそう~♪」

 

「相変わらずいいにおいね」

 

三人は運ばれてきたブイヤベースに取り掛かる。

匙で掬い、一口飲んでみるとトマトをベースとして様々な魚介と香辛料、そしてサフランやいくつもの香草や香味野菜の風味が生かされた濃厚なスープが口に広がる。

 

「…美味しいです。とても複雑な出汁の味がします」

 

具となっているエビは濃厚なスープな中でもぷりぷりとした食感とエビ自身が持つ強い味はしっかりと残っている。

あさりやしじみよりもずっと大きいムール貝という貝は見た目よりとてもあっさりとしていて柔らかい。

最後に鯵という魚のツミレ。口の中で崩れるほど濃厚なスープで良く煮込まれているにも関わらず、エビと同じくそれ自体の味が強い。きっと魚そのものの本来の味が強いのだろう。

それぞれの具が互いを邪魔する様なことはなく、スープの中でちゃんと共存している。

 

「アレッタの言った通りね。しっかりと煮込まれてて美味しいわ」

 

「私はこのツミレが一番好きです♪」

 

「川の魚でもできるでしょうか…」

 

「これはパンをつけても美味しいのよ。やってみて」

 

そんな感じで八雲一家の食事は続いた。

 

 

 

 

……少女食事中……

 

 

 

 

…………

 

「冷たくて甘くてとても美味しいです〜♪」

 

「お抹茶をこんな風に食べるのは初めてね」

 

「はい。お茶の渋みや苦味がこの強い甘さでも失われてなく、ちゃんと残っていてとても美味しいですね」

 

お揚げのカナッペもブイヤベースも食べ終え、最後にデザートの抹茶のアイスクリームを三人で食していると、

 

……♪

 

「いらっしゃいませー!」

 

「こんにちわ~♪」

 

「今日も食べに来たわ。ありがたく思いなさい」

 

「…あ!」

 

「…あら?貴女達」

 

聞き覚えのある声な気がして藍達が目を向けると…やって来た客はレミリアとその妹のフランドール、そしてパチュリーだった。

 

「…あら?八雲紫じゃない。それにその従者も」

 

「あ、ほんとだ!」

 

「フランちゃんこんにちは〜!」

 

「…アレッタ。前と同じセットをお願い。…レミィ、私はヴィクトリアの所に行ってるわね」

 

無駄ない動きで注文してパチュリーはヴィクトリアの席に行く。軽く挨拶して一緒にお茶をするのが習慣になった様だ。レミリアとフランは紫達のテーブルの隣のテーブルに来た。

 

「今日はいいカルビは入ってるかしら?あとデザートにプリンを」

 

「私は…この食べた事無いオムレツにしよっかな♪あと私もプリン!」

 

「かしこまりました!」

 

注文を伝えに行くアレッタを見届けると知り合い同士の会話になる。

 

「アンタ達も来ていたのね。やはり扉は複数あったって事ね」

 

「貴女達も扉を見つけたの?それとも例の魔法陣とやらで?」

 

「相変わらず耳はいいわね。ええそうよ。七日毎だけどお陰で好きなタイミングで来れる様になったわ」

 

「…一応聞いておきますが、前みたいに何か企んではいませんよね?」

 

「あら失礼ね?私達は普通にここに食事しにきているだけよ。ねぇフラン」

 

「そうよ。失礼しちゃうわ」

 

フランドールも頬を膨らませながら返事をする。嘘は見られない。

 

「どうせ私達が以前やった事を思い出して心配してるんだろうけど…言ったでしょう?私達の運命は幻想郷と共にあるって。今更外の世界に出てどうこうするつもりは無いわよ。どうせ並大抵の事はここでは起こり得ないし、それに…」

 

「…それに?」

 

「折角ちょっと気に入りの店ができたのに、下手なことして来れなくなったら困るしね」

 

……♪

 

「いらっしゃいませ!ロメロさん、ジュリエッタさん」

 

「こんにちは。扉が隠れ家に出たから早く来れたよ」

 

「…あら、以前お会いしました…確かレミリアさん。お久しぶりですわ」

 

「ええごきげんよう」

 

「わ〜私達と同じ吸血鬼だ〜」

 

軽い挨拶を交わしてからふたりは目の前の料理に取り掛かろうとする。

 

「…貴女の能力はここの扉の出現をどうみていますか?」

 

「さぁ。でもこうして現れる様になったのも何か意味があるんじゃない?アンタの主の紫がいつも言ってるじゃない。幻想郷は全てを受け入れると」

 

(お待たせしました。カルビ重御膳とホワイトソースオムレツです)

 

「わ~い♪お姉様早く食べようよ〜」

 

「ええ。…兎に角ここは普通に食事をする場所。そして食事は静かに行うのがマナーというものよ」

 

「……」

 

藍は内心驚いていた。レミリアもフランドールも今は落ち着いているとはいえ、ほんの少し前まで中々厄介な事をしてくれる連中だった。おまけにプライドも高い。そんなふたりがここまで、しかも食事処とはいえ店のマナーに従っている事に。そんな事もありつつまた時間は過ぎていった。

 

 

…………

 

「ありがとうございましたー!(ました)」

 

「本当にいいんですか?うちは多く貰うのはしない主義ですし前に頂いた分もまだ全然」

 

「いいのいいの受け取っておいて。次いつ来れるかわからないし、それに私冬は冬眠しちゃうから」

 

(…冬眠?)

 

「冬眠と言ってもお布団でいつもよりよく寝てるだけだけどね♪」

 

「あら、失礼しちゃうわね橙」

 

「…店主、貴方はご自身の店がこの様な事になって不安を感じられてませんか?」

 

「不安、ですか?ふふ、そりゃ最初は当然吃驚しましたが、今はもうすっかり慣れちまいましたし。それになんだかんだ言っても色んな世界を知れるのは楽しいですからね。ああでも店内での争いは御免ですよ」

 

「ここじゃ店主が実は一番恐いものね〜」

 

横やりを入れてきたサラの言葉に苦笑いのアレッタが気付かれない様に小さく頷いた。

 

「…わかりました。すみません変な事を聞きまして。ご馳走でした」

 

「それじゃあまたね。あとおみやげもありがとう」

 

「バイバイ!」

 

「是非、またのご来店をお待ちしております」

 

 

………

 

〜〜〜〜♪

 

出てきたのは元の温泉。紫達が出てくると扉は消えてしまった。

 

「どうだったふたり共。ねこやは?」

 

「楽しかったし美味しかったです♪ね、藍様」

 

「え、ええ、そうですね」

 

橙の言葉に返事した後、藍は紫に話しかける。

 

「紫様」

 

「何、藍?」

 

「…紫様が仰られてた事、少しわかりました。そして…もっと学ばなければいけない事に。住む世界を超越して、力の強弱等関係なく、民族も人種も別け隔てなく笑いながら過ごせる場所があるなんて…世界は広いですね」

 

「ええそうね」

 

「あ、でも調査は引き続き行いますよ!ただ、その、変に緊張したりまた行くに値する様な場所と思っただけです」

 

「十分よ。頼りにしてるわね藍」

 

そんな会話で締めくくり、彼女らは住処への隙間を開いた。




メニュー23

「カルパッチョ・タルタル」

藍の異世界勉強会、といった感じの回でした。次回は幻想郷も異世界も新キャラ予定です。

こんにちは、storybladeです。幻想郷食堂をお読み頂きありがとうございます。突然ですがアンケートです。先代博麗の巫女や魂魄妖忌の回があれば読んでみたいと思いますか?公式設定が少ないのでオリジナル要素を含んでしまいますがどうでしょうか?ご意見お願いします。期限は今月一杯です。

  • あれば読んでみたい
  • 不安なので読みたくない
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