とある日の開店前のねこやにて。
「マスター、お掃除終わりましたー!(した)」
「ありがとな」
「何を作ってるんですか?…わ~なんか綺麗ですね!」
「ああ。こいつは~~っていう料理だ。食ってみるか?」
「いいんですか!……とっても美味しいです!感じは〜〜に近いですかね?」
「確かに似てるかもしれんな。だがこういう形でも中々美味いもんだろ?」
「はい!」
(…こっちは何?)
「ああそっちは~~の〜〜だ」
「えっ!で、でもこれって生なんじゃ?」
「〜〜ってのはそもそも生のこれを使ったのが始まりなんだ。大丈夫、ちゃんとそれ用に処理しているもんなら生でも食べれる」
「そ、そうなんですか~。マスターの世界って本当に凄いですね…」
「俺が凄いんじゃなく業者が凄いんだ。さ、今日も頑張るか」
「はい!(はい)」
…………
「は~…。あ~漸く仕事が終わったわ~」
それから数時間後、こちらは幻想郷のとある道の上。肩をトントンと叩きつつそんな悪態をつきながら歩いているのは霊夢。最近里のとある家に頼まれて泊まり込みの番をしていたのだ。なんでもその家では「朝起きると寝た時と様子が違う」という案件が頻繁に起こっていた。調査の結果判明したのは一種の「枕返し」だった。枕返しは夜中、人が寝ている間にこっそりと枕元にやってきて枕をひっくり返す妖怪、もしくは頭と足の向きが変わっていたりする怪異である。子供の霊の遊びとも言われているが、裏切られ殺された者が裏切った者の枕元に現れて上記の怪異を起こす。またその昔古抑園鴬居という絵師が病床の母の絵を描いていたのだが完成して直ぐその母が亡くなり、その後その絵の周りに妙な事が続出したのが始まりである等危険な例もある。今回は前者である悪戯好きな幼い座敷わらしの仕業であった。その後霊夢が説教としつけ(幼い子供、しかも座敷わらしなので消さずにはしてやった)をして事態は収束し、家主の好意で少し仮眠を取って今帰ってる最中である。
「子供だったから多めに見てやったけど何が「えへへ、ごめんなさ〜い」よ全く…。こっちは頼まれて寝ずの番して、オマケに起こさない様に静かに対応せざるを得なかったってのに」
霊夢なら座敷わらしは愚か、並大抵の妖怪怪異など簡単に対処できるが今回は夜中にしか現れなかった事、そして正確には毎晩起こる訳では無かったので実は三日程前から里に降りて見張りしていたので疲れていたのであった
「あいつらしっかり留守番してるでしょうね〜。賽銭箱から賽銭抜いてたら容赦しないわよ。まぁうちの賽銭箱なんてしょっちゅう空っぽだけど…って自分で言ってたら悲しくなってきたわ。言っとくけど仕事で収入は少なからずあるのよ?ただ単にお賽銭が無いだけだからね!…って誰に言ってるのかしら私。…なんかもう調子が狂っちゃってるわ。お腹も空いたし早く帰って…ん?」
何かに気づいた霊夢の足がピタリと止まる。
星の飾りの帽子の少女
「ねぇルナサ。もう元気だしてってば~」
太陽の飾りの帽子の少女
「そうだよ。また次頑張ろ!ね!」
月の飾りの帽子の少女
「…うん」
道の脇に元気なさげに座っている三人の少女の姿がある。
ひとり目は緑色の星の飾りが付いた赤い帽子を被った茶色いショートヘアの少女。
ふたり目は青色の太陽の飾りが付いたピンクの帽子、軽いウェーブがかかった水色の髪の少女。
そして最後は黄色い三日月の飾りが付いた黒い帽子を被った金髪のショートボブの少女。
姿格好が非常に似通っていおり、雰囲気からして姉妹の様に見える。
「でも飽きられるって事は演奏家にとっては一番辛い事だし…」
「ルナサだけじゃないよ〜」
「そうだよ。それなら私達だって…」
金髪の少女は特にだが三人共なんか元気なさげな感じである。
「ねぇどうしたのよ騒霊の姉妹」
霊夢は彼女らを騒霊と言った。騒霊とは誰も触れてもいない、風が吹いた訳でもないのに勝手にも物が動いたり音が鳴ったりする現象の事であり、ポルターガイスト現象として知られている。彼女らはその現象が具体化し、人の様な姿をしたもの。彼女らもまた人間ではないのだ。
「え?わっ!霊夢さん!」
「どうしたんですかこんな所で。あといい加減プリズムリバー姉妹って言ってくださいよ~」
「わっ!とは何よ失礼ね。里の依頼片付けて帰ってきたのよ。アンタらこそ何やってんのよこんなとこでショボクレて。妙に元気無いわね。…特にルナサ」
「わかります?」
「いつも騒がしい妹達を抑えてるアンタが逆にその妹に慰められてるなんておかしいと思うわよ」
「あはは…実はですね…」
姉妹の次女、メルランは事情を話し始めた。
…………
「…ふーん。昨日地底でやった宴会で失敗したって?」
「正確には失敗じゃなくて上手く盛り上げられなかったというか…飽きられてしまったというか。場を白けさせる様な事にはならなかったんですけど…」
「ごめんなさいふたり共…」
「だ〜か〜らルナサのせいだけじゃないってば!調子が出ないのは私達皆って言ったじゃない」
「調子が出ない?」
「ええ、実はここ最近私達ちょっとスランプというか…曲も新しいのが作れないし、演奏もなんか納得できないし。でもお客さんの期待には答えたいし、頑張ってやってるんですけど…」
「お客さんによっては盛り上がってくれたり喝采をあげてくれたりするんですけど…なんか雰囲気や顔でわかっちゃうんですよね」
「特に昨日は鬼の方々だったので…。特に萃香さんなんて「な~んかつまんないな〜」ってはっきり言ってたもんね」
「あーあいつら酒の勢いで言いたい事はっきり言うタイプだからね。それはさておき調子が上がらない原因でもあんの?」
「う~ん…それがこれ!って言う原因は思い当たらないんですよね。なんででしょうね〜?」
「いや聞いた私に聞き返されても。刺激でも足りないんじゃない?」
「…刺激、ですか?」
「そ。アンタら毎回おんなじ事やってるでしょ?歌作って練習してお披露目して。おんなじ事ばかりやってるからつまんなくなってるんじゃないかって事。私は音楽にはそんなに詳しく無いけどそんなんじゃ聞いてる方もアレー?って思うんじゃないかしら?一旦音楽から離れてもっと違う事やってみれば?」
「お、音楽から離れるって私達一応演奏隊なんだけどな。それはそうとして違う事ってどんな事ですか?」
「え?…う〜ん、行ったとこ無いとこ行ってみたりとか?」
「行った事が無いといっても…私達宴会やライブで大抵の所は行ってるからな~」
「行った事ないとこって言ったら…月とか、流石に外の世界に行くわけにはいかないし、というか行けないし」
「そうね~……あら?……ねぇアンタ達。行けない事ないかもしれないわよ♪」
「「「…え?」」」
「にしし」と悪戯を思いついた様な笑みを姉妹に向ける霊夢。彼女らから少し離れた場所に…あの扉があった…。
…………
~~~~♪
霊夢が扉を開けるとそこは霊夢にとって3度目の光景が広がるが姉妹達にとっては見た事ない風景が広がっていた。驚きのあまりポカンとしている。
「まさか仕事終わりで来れるなんてやっぱり私って持ってるわね〜♪」
「「「……」」」
「いらっしゃ…あ、レイムさん!いらっしゃいませー!(ませ)」
「今日も元気ねアレッタ。クロ。」
「レイムさんこそお元気そうで。…今日のお連れ様はマリサさんじゃないんですね」
「四六時中アイツと一緒って訳じゃないのよ。アイツの方が勝手に来てるだけ。いい迷惑だわホント」
そう言えば魔理沙も似たような事言ってた事を思いだし、やっぱり仲良いなと思うアレッタであった。一方驚きで言葉を失っていた彼女らも落ち着いて来たらしく。
「わ~凄い凄い!見た事無いよこんな場所!」
「あ、あの霊夢さん。ここって一体なんですか?」
「あら、知らないの?ここはねこやっていう外の世界にある料理屋よ。ついでに言うと外の世界だけでなく別の世界にも繋がっているみたいだけど」
「ええ!!」
「そ、そういえば昨日勇儀さんがそんな名前のお店の話してたような…。外の酒飲んでみたいねぇって…。そ、それよりもその割には霊夢さん随分落ち着いてますね?」
「別に悪い場所じゃないし、向こうからこっちには影響ないみたいだから取り合えず大丈夫でしょ。それよりアンタらも挨拶しなさいよ」
「は、はい。…私はルナサ・プリズムリバー。プリズムリバー三姉妹の長女です。主にバイオリンはじめ弦楽器を担当してます」
「メルラン・プリズムリバー!姉妹の次女です!担当はトランペットだけど、管楽器なら何でもできるよ♪」
「三姉妹の末っ子、リリカ・プリズムリバーよ!得意はキーボードみたいな鍵盤楽器だよ♪」
「ルナサさんにメルランさんにリリカさんですね!私はこのねこやで働いているアレッタです!宜しくお願いします!」
(…クロと申します)
「…え?え?」
「い、今頭の中から声がしたような…」
「気にしなくていいわよ。直ぐ慣れるわ」
「わ、わかりました。うん宜しくね♪」
「宜しくー♪」
「宜しくお願いします」
「皆さんはご姉妹なんですか?」
「うんそうだよ」
そんな会話をしていたら店主も厨房から顔を出す。
「あ、いらっしゃいませ霊夢さん」
「こんにちは店主さん。今日も盛り上がってるわね」
「ありがたい事です。取り敢えずお席へどうぞ」
「じゃ遠慮なく座らせてもらうわね」
「あの…でしたらあちらのテーブルにしませんか?」
ルナサが指差したのは大きなピアノの前にあるテーブル。特に嫌な理由も無いので霊夢達はアレッタの案内でそこに座り、クロが同時に水とおしぼりとメニューを差し出す。
「今日はなんのお肉がいいかしらね〜」
「レイムさんは本当にお肉がお好きですね!」
「そりゃ滅多に食べられないし、ここのお肉料理が美味しいからよ♪ねぇアレッタ、なんか今日のお肉料理でオススメってある?」
「そうですね〜…あ、でしたらこれなんかどうでしょう。新しいメニューなんですけど」
「…牛肉の…「カルパッチョ」?カルパッチョって何?」
「えっと薄切りしたお肉やお魚をキレイに並べまして、上にドレッシングやソースをかけたお料理です。あっさりしてて前菜としても食べやすいと思いますよ」
「ふーん。じゃあ取り敢えずその新作料理もらおうかしら♪アンタ達はどうする…って、どうしたのよ」
ルナサとリリカはピアノを見ていた。特に鍵盤楽器担当のリリカは気になっている様だ。
「良いピアノだね♪」
「ええ。状態もいいしちゃんと調律もされてるわ」
「そういえば皆さんは楽器を弾かれるんですか?」
「うんそうだよ。私達は演奏隊だからね」
プリズムリバー姉妹はそもそも外の世界にいて何らかの理由で幻想郷に流れ着いたとある女性によって生み出された存在だった。本来ならばその女性が亡くなると同時に彼女らの存在も失われる筈だったが何故か消える事は無かった。生みの親ともいえる女性を失った彼女らは自分達ができる事を探し、その結果習得したのが楽器であった。一方メルランは店の雰囲気と客層に興味が行くようで。
「わ~あの妖精さん達凄く小さいし可愛い!あっちのライオンの頭の人はカッコいい!あっちの人は…人魚?わかさぎ姫さんとか喜びそうだなぁ」
「アンタ達取り合えず落ち着いて食べるの決めちゃいなさい。アレッタが困ってるでしょ」
「あ、はい。とはいっても…何がいいかな?」
「昨日はお肉料理の宴会だったから今日はお魚が良い様な気がするね」
「それでしたら」
~~♪
翼が生えた少年
「こんにちはー」
翼が生えた少女
「今日も食べに来たわよ~♪」
その時ねこやの扉が再び開けられた。入ってきたのは共に背中から鳥の翼の様なものが生え、鳥の様な脚を持った少年少女の二人組である。ふたりは霊夢やプリズムリバー姉妹達の隣の席に座る。
「も~アーリウスのせいでお腹ペコペコよ」
「ごめんねイリス。小鳥たちの巣を見回ってたら遅くなっちゃった」
(いらっしゃいませ。お水とおしぼりです)
「あ、ありがとうクロさん」
「今日もカルパッチョでお願いね」
(承知しました。あともしおかわりされるのでしたら…こちらのメニューも如何でしょう?)
そう言ってクロもまたメニューのある部分を指す。
「何々、サーモンの…「タルタル」?変わった名前ね」
(本日からお出ししている新しい魚料理です。カルパッチョがお好きでしたらきっと気にいられるかと)
「ふ~ん。じゃあいつものカルパッチョとそれをお願いするわ」
(承知しました)
するとそれを聞いていたメルランが、
「…新しいメニュー、か。ねぇ、えっとアレッタだっけ。私達もこのタルタルっていうやつにしていい?」
「メルラン?」
「ほら、さっき霊夢さんから言われたじゃない。たまには新しい刺激も必要ってさ。だったら新しい見た事無い料理を食べてみるっていうのもいいんじゃない?」
「…いいね。悪くないかも♪じゃあ私もそれで♪」
「リリカまでそんな単純な…。まぁ、何事も経験というのは悪い事ではないわね。では私もそれでお願いします」
「かしこまりました!少々お待ちください!」
クロとアレッタが店主に注文を伝えに行く。それと同時に隣に座ったふたりが霊夢達に目を向けた。
「貴女達、ここの新人?」
「見た事無い恰好だね。…あ、もしかして君達も新しい世界の人達?最近別の世界にもここの扉が繋がったって聞いたよ」
「ええそうよ。幻想郷の巫女、博麗霊夢。宜しくね」
「私はリリカ。リリカ・プリズムリバー♪」
「私はメルラン!リリカの姉でルナサの妹!」
「ルナサと言います。この子達の姉です。あ、霊夢さんは違いますけど」
アーリウス(カルパッチョ)
「初めまして。僕はセイレーンのアーリウス。宜しくね」
イリス(カルパッチョ)
「私はイリス。アーリウスと同じくセイレーンよ」
「うん宜しく~。ふたりも私達と一緒で姉弟かなんかなの?」
「ううん僕達は同じ日に卵から孵ったの。一緒に育った幼馴染って感じかな」
「セイレーンはある程度になると巣立ちをするの。私とアーリウスは一緒に旅に出て今同じ島に住んでるのよ」
「へ~…。あれ、一緒に住んでるって事は…ふたりはもしかして~♪」
「え!…ち、違うよ!…今は」
「う、うん。今はまだ、ね…」
ふたりの反応を見てその時はそう遠くないなと思う霊夢達であった。すると霊夢が、
「…ところでそのセイレーンっていったら前に外の本で見た事あるけど、歌が好きだけど歌うと船とか沈めちゃうんだって?」
「…だ~か~ら!それは誤解なんだってば~!」
霊夢の一言に強めに反応したのはイリス。そんなイリスをアーリウスが宥める
「ま、まぁまぁイリス。そんな風に思われてるのは初めてじゃない。落ち着いてよ」
「む~…だって~」
「ど、どうしたの?」
聞かれてアーリウスが話し始めた。
外の世界では鳥人の様な姿とも魚人の様な姿とも言われるセイレーン。その歌声はこの世のものとは思えない位美しいとされるが、聞いた者を誘惑し、狂わせ、船を沈め、人を食う凶暴な怪物と伝わっている。
そんな伝説の存在であるセイレーンは異世界では実在し、海に浮かぶ島々に住んでいる魔物の一種である。彼らもまた歌が好きで歌声も美しいがこれも伝承に伝わる通り人間には毒であるらしく、過去多くの船を沈めてしまった事も事実だった。だがこれには事情がある。彼らの歌は歌う者の意志に関係なく必然的に魔力を含んでしまうらしく、例え悪意が全く無くても人間は誘惑されてしまうとの事。そして彼らは人間を食べる事は無い。生の魚を食べる種族である。これも異世界の人間には奇妙な目で見られてしまうらしい。そのような経緯もあり、人からセイレーンはあまり良い存在とは思われていない。
「…成程ね。そういうことだったのか。それは悪い事を言っちゃったわね。御免なさい」
「…もういいわよ。アーリウスも言った通りもう何回も同じ事言われたし」
「だから人がいる場所とかでは僕達は歌えないんだ。歌うのはとっても好きなんだけどね」
「ほんと自分で言うのも不便なもんだわ全く。おまけにここで歌おうとしたらクロさんに止められたし~」
「だから無人島で暮らしてるんだね」
「うん。動物達には僕らの歌の魔力が効かないからね」
そんな会話をしているとルナサが、
「…あの、イリスさんとアーリウスさんでしたっけ?ちょっとお聞きしたい事があるんですが…」
……店主調理中……
…………
「…へ〜君達は人間じゃないんだ。全然そんな風に見えないなぁ」
「楽器をしているけど最近上手く演奏できないって?…成程ね、私達もたま〜にだけどそういう事あるわよ。思った様に歌えない事」
「ほんと?そういう時どうするの?」
「私達、生んでくれた人が死んじゃっても何故か消えなかったの。それで何かやる事が欲しくて楽器を始めて、演奏隊を結成したんだ。最初に比べたら上手くなってる筈なのに何が駄目なのかな〜」
最初に回答したのはアーリウス。
「そんな時は兎に角やってみるしか無いと思うよ。歌うなら歌い続ける。演奏するならし続ける」
「でも…それでもし上手く行かなかったら?」
「歌うのをやめるわ」
きっぱりと言い切るイリス。
「好きなもの食べたり、空を散歩したり、動物達に餌をあげたりして何もしない。そしたらまた無性に歌いたくなるものよ」
「なるかな?」
「なるわよ。それが生き甲斐ならね」
「生き甲斐、か…」
「あああとこれは僕達が旅立つ前にオババに言われたんだけど、生き物というのはお腹が減るもの。悩み事ができても取り敢えず美味しいもの食べてお腹一杯になって笑顔になれ。そうしたら新しい何かが見える事もあるってね」
「そ、そういうものかな~」
とそんな会話をしていると店主とアレッタが霊夢達に、クロがイリスとアーリウスに料理を運んできた。
「お待たせしました。牛肉のカルパッチョです」
「(サーモンのタルタル料理です)!」
霊夢に出されたのは薄く切られた牛肉を綺麗に並べ、その上にソースと緑色の葉野菜、そして薄切りのチーズがかけられたもの。肉は縁のほんの少しの部分だけ火を通されているがそれ以外は完全に生といっても良い位赤身が残っている。
姉妹には白い皿の上に細かく切られた薄緑色の野菜とその上にサーモンという魚が同じ様に細かくされたのが乗せられたもの。円柱状に整えられ、綺麗に層を作っている。イリス、アーリウスにもマグロという魚のカルパッチョの他に同じものが配膳された。
「わ〜なんか綺麗だね♪」
「ええ、こんな料理初めてだわ」
「…!ちょ、ちょっと店主さん!これ殆ど生のお肉なんじゃ…?」
「はは、やっぱり驚かれたか。安心して下さい。ちゃんと生でも食べられる様に処理されている肉ですし、ボイルして肉の表面はしっかり火を通してありますから」
「ボイル?確かに縁の部分はそうみたいだけど…」
「カルパッチョってのは元々生の肉を使ったのが始まりの料理なんです。外国じゃ魚よりも肉を使っている方が多い位ですよ。魚を使うようになったのは日本が最初と言われてます」
「日本にはお刺身や鯉の洗いなんてあるものね。私は気にしないわよ。店主さんが悪いもの出すとは思えないし」
「かかっているのは醤油とバルサミコ酢をベースにした和風ソースです。葉野菜とパルメザンチーズの薄切りと一緒に食べて下さい」
「ねぇねぇ店主さん。私達のはどんな料理なの?」
「ええ。そちらは下の野菜はアボカドという野菜、上はサーモンという魚を細かくしたものです。オリーブオイルと薄口醤油、少しのレモン汁で和えてます。こちらのソースはサーモンにもアボカドにも合うわさびとマヨネーズベースのソース。そのまま食べて頂いてもこちらの薄く切ったバゲットと一緒に食べても美味しいですよ。それではごゆっくり」
そう説明すると店主達は下がっていく。
「それじゃあ早速食べますか♪いただきます!」
待ちきれないらしい霊夢のいただきます。お箸で肉の一切れを野菜、チーズと一緒にとって食べてみる。肉は確かに生の部分が多く、しっかり焼かれたり揚げられたものとは違う。脂もそれらほど強くは感じない。しかしその分あっさりしていて刺身と同じく肉の純粋な甘みと繊維、歯ごたえが感じられる。生臭さも感じない事から店主の言った通りきっとしっかり処理されているのだろう。ルッコラという葉野菜のシャキシャキ感と苦み、薄切りながらも存在をしっかり示しているチーズ、そしてバルサミコ酢というものを使ったソース。酸味もあるが甘みもあり、肉や野菜ともよく合っている。
「生のお肉なんて食べた事無いから実はほんのちょっぴり心配だったけど…全然気持ち悪く無くて全然いけるわ。あっさりしてて甘みがあって、茹でてあるおかげで脂っぽくもそんなにないし、これなら幾らでも食べれるわ♪」
「へ~本当に生でも食べれるんですね~」
「ねぇ私達も食べようよ~」
「え、ええそうね」
姉妹達も自分達の前のタルタルを食べるためにスプーンを入れる。下の野菜と上の魚を一緒に掬う。初めて食べるアボカドという野菜は今までにない食感で感じとしては里芋に近く、味はたんぱくで滑らかな舌触り。サーモンという橙色の魚は今まで食べた川魚よりも味が濃く、みじん切りされた事による良質な脂の旨味をしっかり味わえる。アボカドとサーモン、お互いが良さを邪魔せず、口の中で同調している。ワサビの辛味とマヨネーズというほんの少しの酸味を感じる白いもの、そして醤油の組み合わせのソースがこれらの味をより高めている。
「美味しいねコレ!」
「野菜もお魚も食べた事無いけどどっちも凄く美味しいよ!」
「…そうね。このサーモンというお魚とアボカドというお野菜。そしてこのかかっているソースというものの組み合わせが素晴らしいわ」
姉妹達はいずれもタルタル料理の完成度に驚きを含みつつ感動している様だ。
「う~んやっぱり生のお魚を作った料理はここのが一番ね~」
「このショウユが味わえるのはここだけだもんね」
「あとこのタルタル料理って美味しいじゃない♪サーモンって前にカルパッチョで食べた事あるけどこういうのも良いわね♪」
「ねぇ霊夢さん、折角だからそのカルパッチョっていうの少しだけ分けてくださいよ?」
「…しょうがないわね。そっちのもの少し分けなさいよ」
「このバゲットっていうパンに乗せても美味しいね」
「ええそうね。ソースがパンとも合ってるわ」
皆満足している顔だ。とその時、霊夢がプリズムリバー姉妹にこんな事を言った。
「…ねぇアンタ達、折角だからここで一曲やってみなさいよ」
「「「え?」」」
「あ~それいいわね。私達も聞きたいわ♪」
「うん。外の世界の音楽って興味あるし、もしよかったら僕も聞きたいかな♪」
「で、でも私達は今…。それにご迷惑では…」
「ねぇアレッタ、ちょっと店主さんに聞いてほしいんだけど」
霊夢はアレッタを通じて店主に尋ねると「騒がしくしすぎない位ならいいですよ」という返事でOKを貰えた。ルナサはまだ踏ん切りがつかない様な顔をしている。そんな彼女にリリカとメルランは、
「やってみようよルナサ!外の世界での演奏なんて滅多にできる事じゃないし♪」
「そうそう♪それに私達は演奏隊。お客さん達に喜んでもらうのが生きがいでしょ?」
「それに今私達気分が乗ってるんだよね♪」
「メルラン、リリカ…」
ふたりの笑顔に刺激されたのか、ルナサの顔からも不安が消えていく。
「…ふふ、そうね。喜んでもらって、楽器を弾くのが私達の生きがいだものね」
「あ、それなら店主さん、私からもひとつお願いがあるんだけど~」
リリカのお願いとはピアノを使わせてもらえないか?というもの。特に問題ないとこれも店主から了承を貰える事が出来た。ピアノの椅子にリリカが座り、ルナサもメルランも愛用のバイオリンとトランペットを召喚する。いつもと違う動きに気づいたのか他の客達も彼女らに目を向ける。
「準備はいい?」
「いつでも♪」
「それじゃあ…始めましょうか。……す~」
ルナサの息遣いと共に彼女らの演奏が始まる。ルナサの弾くバイオリンが心を落ち着かせ、昂ぶりを抑える音色を放ち、メルランのトランペットが放つ聴く者の気持ちを高揚させる音色を生み出す。そしてリリカの演奏がふたりの音をまとめあげ、お互いの音をより共鳴させる。
稗田阿求曰くルナサの演奏は気持ちを落ち着かせる「鬱」、メルランは気持ちを高める「躁」、リリカは「そのどちらでもない感情や想い」を乗せているという。ルナサやメルランのそれぞれの単独の演奏ならば聞く者達への影響が大きいらしいのだが(彼女らに悪気はない)、その間にリリカの演奏が入る事で音色だけでなく彼女らの演奏の問題点をいい意味で消すことができているとの事らしい。
「…素敵ですね」
「ああ。力強くて繊細。我が砂の国にはこういった楽器は無いからより新鮮さを感じるな」
「ほ~これはこれは。私達の国の琴や三味線とはまた違う弦の音色。美しいですな」
「太鼓の様な力強い楽器の方が儂は好きじゃがこういうのも良い物だな」
「私こんな演奏聞くの初めてです!」
(…確かにこういうのも悪く無い)
聞いている客の反応は上々。演奏している姉妹の表情も実に楽しそうだった。演奏は彼女らにとってとても大切なもの。自分達を証明する、まさに生き甲斐。周りの人や妖怪も楽しんでくれた。そんな彼らを見ると自分達も楽しかった。しかし周りの期待が大きくなるといつの間にその期待に答えなければ、という責務や使命感という面が強くなっていた。責務や使命感は必要なものだが行き過ぎると楽しさやワクワクを忘れさせる。気づかない内に彼女らもそうだったのかもしれない。ここでの出会いや刺激が彼女らに良い影響を与えた様だった。
「いい音だねイリス」
「そうね。あ~私達も歌えないのが残念だわ~」
(…例の札の方も問題なく働いている様ね。それにしても思ったより早く立ち直ったわね。単にお腹が減ってただけなんじゃないの?まぁあいつらの演奏が良くないとうちの宴会も盛り上がりに欠けるしいっか)
「あ、アレッタ。温かいお肉も食べたいから追加でそうね〜メンチカツ貰えるかしら」
……少女食事中……
…………
「ふ〜食べた食べた♪」
「ご馳走様でした♪」
「ピアノ使わせてくれてありがとうね!」
「こちらこそありがとうございます。お客さんも喜んでましたし」
「お礼を言うのは私達の方です。ここでの経験を新しい曲作りに生かしますね」
(いい音でした)
「また演奏聞かせてくださいね!」
「また来れたらね!」
「こちらおみやげのステーキサンドとビール、あとシュークリームです」
「やっぱりおみやげって言ったらこれよね〜♪」
~~♪
とその時、霊夢達が帰る前に再び扉が開いた。
「あ、いらっしゃいませ」
「…あら?アンタ達!」
早苗
「…あ、霊夢さん!」
入ってきたのは三人。ひとりは守矢神社の風祝にして巫女、東風谷早苗。そしてもうふたりは、
白と赤のメッシュが入った黒髪の少女
「げっ!博麗の巫女!って…な、なんだいこりゃあ…!」
お椀を被った赤い着物の少女
「わ~すご~い!」
メニュー24
「ホットケーキ」
次回後編に続きます。仕事の関係でまた少し遅れそうです。すみません…。
こんにちは、storybladeです。幻想郷食堂をお読み頂きありがとうございます。突然ですがアンケートです。先代博麗の巫女や魂魄妖忌の回があれば読んでみたいと思いますか?公式設定が少ないのでオリジナル要素を含んでしまいますがどうでしょうか?ご意見お願いします。期限は今月一杯です。
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あれば読んでみたい
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不安なので読みたくない