幻想郷食堂   作:storyblade

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メニュー25「一角猪肉のテリヤキとショウガヤキ」

「仙人」

 

中国の道教から始まったそれは元は人間だった者が多くの究極的修業を乗り越えた先にたどり着いた者の事。神ではなく不死でもないが不老長寿とも言える位遥かに長く生き、空を飛べたり姿を隠したり火や水を操る等の仙術を身に着け、それによって人々を助ける命を受けた者でもある。仙人の住む場所は「仙境」と言われ、近づくことは容易ではなく寧ろ不可能とも言われる。一般的に広く知られるイメージは白髭を生やした老人であるが、その実それに限らず老若男女の仙人も実は世界に多く存在している。そしてそんな仙人は幻想郷にもいるのである。

妖怪の山。そこに人々はおろか妖怪や霊からも隠され、寸分の狂いもない正しいルートで来なければたどり着けない一軒の大きな屋敷がある。広い庭と白い壁面に濃い赤色の屋根、大きな丸い形をした窓と、アジアンテイストを思わせる屋敷。

 

妖夢

「はぁ!」

中華風の格好の少女

「まだまだ!遅いわよ!」

 

「は、はい!」

 

そしてその屋敷の庭の中で激しく動くふたつの姿。ひとりは白玉楼の庭師にして剣術使い、魂魄妖夢。しかし背には剣を背負わず、いつもの恰好とは違って動きやすい服装をしている。

そんな妖夢の相手をしているのは桃色の髪にシニヨンキャップを被り、右手に包帯を、左手首に鎖付きの鉄の腕輪を付け、胸元に花飾りと茨の前掛けを付けた服の少女。

 

「はっ!でやぁ!」

 

「踏み込みが浅い!剣と拳では違うわよ!もっと脇を締めなさい!」

 

みればふたりで組み手をしている様子。妖夢が攻撃を仕掛けるが相手の少女が難なくそれに対処している様子であった。そして暫く打ち合った後に妖夢の相手の少女から休憩の言葉が入る。

 

「……ふぅ、少し小休憩しましょう」

 

「は、はい…。くっ…やっぱり強いですね華扇さん」

 

「修行のたまものよ。そうでなくとも剣主体の貴女に躰術で負ける訳にはいかないわ。逆に言えば剣では貴女の方が上。落ち込むことは無いわよ」

 

「でも私先程華扇さんに剣でも一本だけ取られましたけど」

 

「躰術だけ修業している訳ではないからね」

 

「みょん…」

 

妖夢の相手をしていた少女の名は茨木華扇。幻想郷で仙人の異名を持つ存在のひとりにしてこの妖怪の山に屋敷を構えて暮らしている者だ。

幻想郷の仙人は皆修業によって超人的な力を身に付けており、妖怪に匹敵するかそれ以上の力を持ち、仙術や方術を駆使して隠居しながら自由気ままに暮らしている。とはいえ華扇は結構行動範囲が広いらしく人里等にも顔を出し、隠者ながらその存在は知られている。最も説教くさいという噂が一番多いのだが。

また一般的には仙人は断食し、霞を食って生きているとされているがそれだけを食べている訳でなく、彼女らは普通の食事や酒も日常的に食している。それは兎も角として何故白玉楼の妖夢が彼女の元に来ているのかというと、

 

「それにしても今まで剣一直線だった貴女が何故私のもとで修業したいなんて思ったの?」

 

「…確かに剣の腕なら不肖この魂魄妖夢、生意気ながらそれなりの覚えがあります。ですが逆に言えば剣が手に無ければ力が大きく落ちます。霊夢にはお祓い棒や陰陽玉や御札が無くとも術が、魔理沙には八卦炉や箒が無くとも魔法がある。ならば私は躰術をと思いまして。何の異変も起こってない間に」

 

「それで私という訳か。でもそれなら紅魔館の門番に聞けばよかったんじゃない?」

 

「私も最初そう思ったんですが…なんか咲夜さんにしごかれていたみたいなんで申し訳なくて…」

 

「…相変わらずなんだから。でもいい心がけね。霊夢に爪の垢でも煎じて飲ませたいわ。…確かに今の幻想郷はここ最近、脅威となりそうな異変は起こっていない。しかしいつ何時何が起こるかわからない。そのために常日頃の鍛錬は必要よ。何かあって対処できない様では遅いのだから」

 

「あはは、あの人は修行嫌いですからね」

 

「今更だけど幽々子大丈夫なの?彼女貴女がいないと何もできないんじゃない?」

 

「白玉楼は紫様や藍さんや橙さんが来られているんです。だから構わず行ってこいと仰られて」

 

「ああ成程」

 

そんな訳で妖夢は主である幽々子の許可を貰い、華扇の屋敷に明日まで修業に来ているのだった。

 

「…まぁ今すぐかどうかはさて置き、大きな異変になる可能性があるものは既に起きているのだけれど」

 

「…え?それは一体…」

 

妖夢の顔が一瞬怪訝な表情になる。

 

「例のあの扉の事よ。外の世界に通じているという扉の事」

 

「…ああ!もしかして異世界食堂の扉の事ですか?」

 

華扇の真面目な表情とは反対に妖夢の表情は安堵の色が浮かぶ。

 

「そうよ。前に霊夢や紫が何度か行ったらしいというのを聞いて私も問い詰めたわ。そしたら」

 

(あそこに関しては大丈夫でしょ。少なくともこれまであった様な脅威は感じないわ。今は様子見ね)

 

「と簡単に言われたわ。幾ら護符があるからって油断しすぎじゃないかしら」

 

「護符ですか?」

 

「幻想郷との間にいざこざを起こさない様に用意したのよ。私も多少協力したわ。…そういえば貴女も行ったのよね?どんな場所だった?」

 

「う~ん一回だけですけど決して嫌な雰囲気は感じませんでしたよ。私としては…霊夢や紫様と同じ意見ですね」

 

「貴女も甘いわね。危険危険じゃないに関わらず外の世界に繋がること自体が結構な問題なの。この幻想郷は外とは隔離された場所。外から物が流れついてくるのとは訳が違うの。ましてや出る事ができるなんてそんな事里の人間が知ったらどうなるか」

 

「…まぁそれは危惧するべき点では確かにありますが」

 

「紫の話では向こうから来る事は出来ないらしいけどもしそれが虚言だったら?今は無理でも後々来れてしまったら?そうなってからでは遅いの」

 

「は、はいすみません」

 

「だいたい紫は霊夢に…」

 

暫し今この場にいない者達への華扇の説教が続き、

 

「よし、小休憩は終わり。次は瞑想よ」

 

そんな感じで妖夢の一泊修業は過ぎていった…。

 

 

…………

 

次の日、夜が明ける前からふたりの修行は続いていた。

 

「ふっ!はっ!…やっ!」

 

「もう少し間を詰めなさい!」

 

午前の最後の組手、妖夢の動きは昨日よりもよくなったのか動きが軽く見える。

 

「はっ!」パシッ!!

 

「…今のは中々良かったわ。この短時間で結構動き良くなったじゃない」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「もうお昼頃だし、午前の修業はここまでにしましょうか。妖夢、少し休憩したら昼食作るのを手伝ってくれる?」

 

「はい勿論です」

 

そしてふたりが組手終了の礼した……その時、

 

 

ヴゥゥゥゥゥゥンッ!!

 

 

「「!!」」

 

ふたりの間に……あの扉が現れた。ねこの看板が掛けられたあの扉が。

 

「な、何、扉!?隠岐奈かしら?」

 

「……あ、華扇さんこれですよこれ!これがねこやの扉です」

 

「!これが…。まさかこんな形でお目にかかれるなんてね」

 

屋敷にかけている目眩ましの仙術をかいくぐって出てきた扉に華扇の警戒心は膨らむ。

 

「私の時はうちの蔵にいつの間にか出てきましたが本当に唐突に出てくるんですねぇ」

 

「…扉から誰かが出てきたりはしないのかしら?」

 

「向こうの世界からは扉が出た事は分からないそうで、あくまでもお客側次第だそうです」

 

「成る程。…で、これはどうしたら消えるの?」

 

「入れば消えるらしいですよ。入らなくても閉店時間になれば勝手に消えるとか。どうします?止めときます?」

 

華扇は顎に手を当て、考える

 

「……いえ行ってみましょう。敵を知るにもまずは情報を得る事、虎穴に入らずんばというやつよ」

 

「そんなに心配しなくていいですよぉ。あ、白楼剣と楼観剣は持ってこっと」

 

そんな感じで妖夢と華扇は突如現れたねこやへと行く事にしたのであった…。

 

 

…………

 

 

~~~~♪

 

 

妖夢が扉を開けるとそこには以前来たいい匂い漂う不思議な店内が広がる。ひとつ違うのはまだ客がひとりもいない事。妖夢は直ぐに挨拶をし、華扇はぐる〜っと店内を見渡す。

 

「こんにちは~」

 

「……へぇ、食事処にしては清潔な場所じゃない」

(……あととても強力な守護もかかっているわね)

 

「いらっしゃいませー!ようこそ洋食のねこやへ!」

 

(いらっしゃいませ)

 

「お?お嬢さん確か…妖夢さん、でしたっけ。いらっしゃい」

 

「はい、魂魄妖夢です。お久しぶりです皆さん」

 

「はいお久しぶりです!」

 

「華扇さん、こちらこのねこやの店員さんのアレッタさんとクロさん、そして店主さんです。アレッタさんとクロさんは人では無くて別の世界の方なんですけど」

 

「らしいわね。…幻想郷の茨木華扇。もしくは茨華仙とも呼ばれているわ。宜しく」

 

「どうもいらっしゃい」

 

「アレッタです。こちらこそ宜しくお願いします!」

 

(クロと申します)

 

(…成程、紫が言っていたのは彼女の事か。確かに物凄い力を感じる。これは要注意ね)

 

「…あの、右腕大丈夫ですか?随分大きな怪我に見えますけど」

 

「ああこれ?ええ大丈夫よ。飾りみたいなものだから気にしなくていいわ」

 

「今日はお客さんいないんですか?」

 

「いえ開店したばかりでして。皆さんもうすぐ来られるかと」

 

〜〜♪

 

その時後ろの扉が開いた。入ってきたのはアルトリウスだった。

 

「…おや、今日は一番では無かったか」

 

「いらっしゃいませアルトリウスさん!」

 

「…おお、こちらでは初めての顔じゃな」

 

「はい、宜しくお願いします」

 

〜〜♪

 

「む、少し列ができておるか?」

 

続け様に開いた扉から入ってきたのはタツゴロウである。

 

(いらっしゃいませ)

 

「今日は早いなテリヤキ」

 

「仕事が早く終わってな。…おおお主はヨウムではないか。久しいな」

 

「お久しぶりですタツゴロウさん!」

 

「知り合いかテリヤキ?」

 

「前に言った事があるだろう?別の世界の剣術使いの事を」

 

「この娘の事か。…ふむ、なるほど。確かに少々変わったものを感じるな」

 

「一緒にいるのはお主と同じ世界の客人かな?」

 

「ええそうよ。茨木華扇。宜しく」

 

「カセン殿か。拙者はタツゴロウと申す」

 

「アルトリウスじゃ。ここでは古参じゃから何か分からない事あれば聞くと良い」

 

〜〜♪

 

「いらっしゃいませー!」

 

「おっと、取り敢えず席につこうかの」

 

「そうだな。良かったらヨウムとカセン殿とやらも一緒にどうだ?ロースカツもたまには若者と交流しろ。ぼけ予防にもなるぞ」

 

「若弟子なら何十人もおるわい!まぁたまには良いか」

 

「勿論です!あ、華扇さんも良いですか?」

 

「私はここでは新人だから任せるわ」

 

四人はテーブル席に座る。クロが人数分の水とおしぼりを出したところで。

 

「儂はまたいつものでな」

 

「拙者も」

 

(畏まりました。少々お待ちください)

 

言われてクロは注文を言いに行く。

 

「ふむ、今日はいつもとは違うな」

 

「そうだな」

 

「何が違うんですか?」

 

「あの黒髪の給仕はまるで来るのを予想していたかの様に直ぐに料理を出してくるんじゃ。しかし今日はそれが無い。まるで儂らが一緒に食う事を予想していたかの様じゃ」

 

「相変わらず不思議な者だ。ああそういえばヨウム、以前お主の主にもお会いしたぞ。あんな細身なのに凄い食欲で皆度肝抜かされたわ」

 

「あ、あはは…」

 

「あれだけ食べて何も変わらないのだからある意味羨ましいわ全く。まぁ人間でないから無理もないのだろうけど。…それはそうとおふたりも相当な腕前の様ね」

 

「いやいや、こやつも儂もまだまだ学ぶべき事は多い」

 

「うむ。修業には終わりはない。そういうお主も中々のやり手だと思うぞ」

 

「タツゴロウさん、華扇さんは仙人でもあるんですよ」

 

「…ほう、仙人か。その名を聞くのも久々だ。どうやらお主らの世界は東の大陸に近い文明のようじゃな」

 

~~♪

 

弓矢と袋を背にした少年

「こんにちは~!」

立派な犬

「ワン!」

 

そんな会話をしているとまたひとり、…いやひとりと一匹の客が入って来た。見た目高校生位の少年とその横にはぴったりとついている大きい白い犬。少年の背には弓矢があり、一見狩人の様な恰好である。

 

(いらっしゃいませ)

 

「おおユートくんいらっしゃい。何かデカい袋持ってるね」

 

「ああ、実は店主さんにちょっと頼み事があって…」

 

「頼み事?なんだい」

 

「これなんですけど…」

 

ユートというらしい少年がカウンター席の一画にその袋をドサッと置き、中身を取り出すと…中にあったのは相当に大きい肉の塊。

 

「わっ!どうしたんですかユートさんその大きなお肉?」

 

「狩りで師匠とタロと一緒に採った一角猪なんだけど、そいつが中々の大物で。しかも一頭だけでなく三頭も採れちゃって」

 

「ワン!」

 

タロと呼ばれた犬はいささか誇らしげだ。

 

「ただ…採ったのは良いんですけど肉の処理に追いつかなくて。結構食ったり干し肉にしたり周りにおすそ分けしたり森の動物にやったりしたんですけどそれでも食いきれなくて…」

 

「クゥ~ン」

 

今度は「ごめんなさい」と言ってる様だ。

 

「いやいや気にすんなってお前は悪く無いよ。かといってこれ以上保管しとくと味が落ちちゃいますからね。そこで俺達が初めてここに来た事を思い出して」

 

「ああそういや代金と引き換えに肉を貰ってましたね。という事は…」

 

「そうなんす。申し訳ないんすけど店主さん、この肉こっちで使ってくれませんか?物は保証しますし、臭み抜きはやってるから直ぐに使えますよ」

 

「……脂身とサシもしっかりある。うん、こりゃいい肉だ。本当にいいのかい?」

 

「いえいえどうぞどうぞ遠慮なく。その代わりといっちゃなんなんだけど…」

 

「はは、わかってます。こいつで旨いポークジンジャー作りますね」

ユート(ポークジンジャー)

「ありがとうございます!ポークジンジャーなら幾らでも食えるからな」

 

「ワン!」

 

するとタロという犬が華扇に近づいていく。頭を撫でてやる華扇。

 

「ああこらタロ!」

 

「いいのよ。私は動物が好きだから」

 

「ワフ」

 

「……いい子ね。貴方への強い信頼と感謝の念が伝わって来るわ。大事にしてあげてね」

 

「…?はい勿論です!タロ」

 

言われてタロという犬がユートの足元に戻っていく。その後ろからアレッタが彼女らのテーブルに近づいてくる。

 

「すみません遅れまして!ご注文は如何しましょうか!」

 

「あ、忘れてました。華扇さんは何にします?ここでは里の食事処より色々なご飯や甘味がありますよ」

 

「へぇ。甘味は凄く興味あるけど昼食にするつもりだったからまずはお腹を満たしたいわね」

 

そんな会話をしている間店主がユートの肉を見ながら料理を考案する。店主はどうやら肉料理をいつもの肉と一角猪の肉のどちらにするかの選択式にする様だ。それに反応したのは幽々子の食事調理も担当している妖夢。

 

「店主さん、そのお肉をどう使うんですか?」

 

「ん~煮込みや鍋にしても良いですし、テリヤキかショウガヤキにしても良いですね」

 

「じゃあ私はそのお肉を以前食べたテリヤキにしてもらえますか?」

 

「では私はショウガヤキをお願いしていいかしら?」

 

「ならば拙者もお代わりはそれのテリヤキを貰うとしよう」

 

その声を聴いてあちこちから本日限定の一角猪メニューに興味を持った者達から注文が入った。

 

「畏まりました!(ました)」

 

「はいよ、少々お待ちください」

 

調理に入る店主。引き続き注文を取るアレッタとクロ。

 

「…あ、すみません。ちょっとお手洗い行ってきますね」

 

そう言って妖夢はお手洗いに立った。すると三人となった所でアルトリウスが少し真剣な表情で華扇に話しかける。

 

「…ところでお主、カセンと言ったか。その右腕、どうしたんじゃ?」

 

「え?ああこれは別に」

 

「何故にそうなってしまったのじゃ?」

 

「!!」

 

「あのヨウムとやらは気づいていない様じゃが…隠しておきたい理由があるのか?」

 

華扇は驚く。彼女の腕、彼女自身には周りには秘密にしている事があるのだ。親しい者の中には気づいている者もいるかもしれない。しかしまだほんの少数で自分も上手く隠せている自信がある。しかし異世界、しかも今日会ったばかりの者がその秘密に勘づくなんて予想していなかった。どう答えるべきか考える華扇。

 

「ロースカツ」

 

「…すまん、好奇心が勝ってしまったが何やら事情がある様じゃな。なら何も聞かん。ここは色々な者が来るからの。お主の様に何かしらを背負っている者も。それに深く関わる様な事はせぬ。我らはここの客として店の平穏を願うだけ。お主がそれを犯そうとせぬなら我らも受け入れるさ。じゃがもし力になれることあれば尋ねると良い」

 

「……気持ちだけありがたく受け取っておくわ」

 

華扇は話題を変える。

 

「それはそうとこのお店、これほど多種多様な種族が笑い合って食事するなんて。私達の世界ではあまり考えられないわ」

 

「ほっほ。今はそうじゃが昔は酷かったものじゃよ。嘗ては人と魔族が互いの存亡をかけて血みどろの戦いをした。しかしあれから七十数年、時代は変わった。もう彼らは我らの敵ではない。まぁ今でも完全に魔族への敵意を消せぬ者はおるが、時の流れに任せればより薄れていくじゃろう」

 

「そうだな。生きている限り変われるさ」

 

「……」

 

「すみません失礼しました。…どうしました華扇さん?」

 

「いいえ、何でもないわ」

 

 

 

 

……店主調理中……

 

 

 

 

…………

 

「お待たせしましたー!こちらロースカツとテリヤキチキンです!」

 

「おお来た来た」

 

(そしてこちら、一角猪肉のテリヤキとショウガヤキです)

 

妖夢と華扇の頼んだ料理も運ばれてきた。妖夢の前にあるのは一角猪肉のテリヤキ。以前食べたブリのテリヤキと同じねこやのテリヤキソースのいい匂いがする。華扇のはここではポークジンジャーという名前で知られているショウガヤキ。こちらも和食にはかかせない醤油と生姜の食欲をそそるいい匂いがする。そんなソースやタレに染まっているのはユートとシロが持ってきた一角猪という獣の肉。付け合わせは王道の千切りキャベツ。そしてライスと味噌汁と漬物というセットだ。

 

「いい匂いですね~」

 

「ええそうね。生姜のいい匂いが食欲をそそるわ」

 

「…うん!やっぱりポークジンジャーとライスの組み合わせは最高だな!」

 

ガツガツ!!

 

先に注文していたユートはその味に満足げである。その横で犬でも食べれる様に一角猪肉を茹でたものと焼いたものの二種類にシロががっついている。相当美味いらしい。

 

「ふふ、あの子夢中で食べてますね。私達も食べましょう」

 

妖夢は自分の一角猪のテリヤキに箸を伸ばし、厚みのある肉を口に運ぶ。食べてみた感じとしては豚肉よりも猪の肉に近い。猪の肉は豚よりクセと臭みがあるがちゃんと処理を施しているらしいそれは嫌な臭みもない。そして豚肉よりも濃い味と脂の甘みがあるのが特徴である。火を通した脂身は「サクッ」とした独特の歯ごたえでそれでいて口の中でとろける様な感じが味わえる。そんな一角猪の肉は勿論甘みあるテリヤキソースとも合う。

 

「初めて食べるお肉ですが美味しいです!ブリという魚もそうでしたがこの脂の味とソースの組み合わせがたまりません!」

 

妖夢は満足げだ。そんな彼女の横で華扇がショウガヤキにとりかかる。以前里の食事処で豚バラ肉のショウガヤキを食べた事はあるがこちらはまた違う味わいだ。一角猪肉の強い味と脂の甘み。肉には粉がまぶせられて焼かれているらしい。それが生姜風味の甘辛いタレを吸い、よく絡んでいる。更に一緒に焼かれた玉ねぎのシャキシャキ感も合わさる。そんなショウガヤキの味も勿論、

 

「…妖夢の言った通り、確かにとても美味しいわ。店主はいい腕をしているのね」

 

「それだけじゃないですよ華扇さん。このお肉の鮮度もいいんですよ」

 

鍛錬疲れの、そして空腹だった身体に染み渡る美味さ。噛むほど甘みが増す白いライスとも問題なくよく合う。

 

「うん。ユートさんの言った通り、お肉とタレの甘みと脂が白いご飯に染みて最高です!」

 

「う~んご飯も良いけど私はお酒がいいかしらね…」

 

すると華扇はアレッタを呼び、

 

「ねぇアレッタ、これにぴったりのお酒って何かあるかしら?」

 

「えっと…テリヤキさんがいつも飲んでおられるレーシュの冷やが合いますが、ポークジンジャーならビールの方が合いますかね」

 

「うむ。ビールなら間違いないぞ」

 

「じゃあそのビール?っていうお酒をこれに入れてくれる?お代はその分払うから」

 

そう言って華扇が出したのは普通のものよりもずっと大きな枡。

 

「え、こ、これにですか?わ、わかりました!」トコトコ

 

「お主あれ…もしや一升枡か?見た目によらず強いのだな随分」

 

「一合なんて私にとって単位に入らないわ」

 

「お、お待たせしました。よいしょ」

 

枡一杯に入ったビールをアレッタが両手で運んでくる。相当な重さの筈だが華扇はなんにも気にせず片手でひょいっと持ち上げるとそれに口付け、半分近くまで豪快に飲む。日本酒に比べて趣は弱いがキレとのど越しが勝るビールはこってりとした料理にうってつけで異世界の酒飲みから大好評だ。

 

「ここまで後味がスッキリしたお酒は初めてだわ!ショウガヤキに間違いなく合うわね!」

 

「見事な飲みっぷりだな。ローストチキンやシーフードフライ達が喜びそうだ」

 

酒が入っている事もあるが来店時に比べ、華扇の顔から警戒心が解かれていくのがわかる。

 

「…うん!一角猪のお肉は初めてだけど中々美味しいじゃない」

 

「ほ〜、いつものカツドンの肉の方が好きだがこれもうめぇじゃねぇか」

 

「…うむ。ヨウムの言った通りこのテリヤキも美味いな」

 

「良かったなタロ。皆喜んでくれてるぞ」

 

「ワン!」

 

あちこちから美味いという声と喜ぶ声が聞かれる。一方ロースカツはゆっくりと自分のロースカツとビールを味わっている。

 

「儂ももう少し若ければ何皿も食えるのじゃがなぁ」

 

「お前は相変わらず同じロースか。たまには他の者に混ざって違うものでも食ったらどうだ?この一角猪のカツも中々美味いぞ。カレーにもばっちりだ」

 

「遠慮する。この店に来たばかりの頃は試しに牛や鳥も食ったことがあるが、やはりカツにして最も美味いのは豚のロース。そこは譲れんよ」

 

「相変わらずだな」「頑固ジジイだな」と冗談を含めた笑い声が飛ぶ。これもこの店ではいつもの光景だ。

 

「…紫の言ってた通り、いい店の様ね」

 

「だからそんなに警戒する必要は無いって言ったでしょう?」

 

「…でもやはり人里に出てきては問題だから、ちょっと里へ行く回数を増やした方がいいわね」

 

「そう言ってお酒が飲みたいだけなんじゃないですか?」

 

「あらそんな事無いわよ」

 

こちらも小さく笑みが浮かんだ。

 

 

 

 

……少女食事中……

 

 

 

 

…………

 

「ありがとうございました!(ありがとうございました)」

 

「大丈夫ですか?持ちきれますか?」

 

「だ、大丈夫です。これ位あれば幽々子様も喜ばれるでしょうし」

 

妖夢の両手には大量のおみやげがあった。

 

「カセンさん、随分デザート召し上がってましたね」

 

「私は甘いものが好きだから。あとごめんなさいね店主。無理言ってお酒を分けてもらって」

 

「いえいいんですよ。紫さんから十分なお金を頂いてますし、これ位は」

 

「…ただひとつだけ忠告しておくわ」

 

「なんでしょう?」

 

真面目な表情の華扇。次に出た言葉は、

 

「お酒はもっと用意しておいた方が良いかもしれないわ。幻想郷は大酒飲みが多いから」

 

「あはは、わかりました」

 

「それでは失礼するわね。美味しかったわ。元気でねタロ」

 

「ワン!」

 

「ご馳走様でした皆さん。タツゴロウさんもアルトリウスさんもまた」

 

「おおまたな」

 

「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」

 

 

〜〜〜〜♪

 

 

…………

 

その夜、

 

一角と長い金髪を生やした大柄な女性

「…くー!この黄金色の酒、懐は浅いけどキレと喉越しが最高だねぇ!」

二本の角が生えた小柄な少女

「酷いよ華扇〜。こんな酒があるなら私達も誘ってくれていいじゃ〜ん」

 

「急だったんだからしょうがないじゃない」

 

幻想郷のとある場所にて華扇と彼女の知り合いらしい者達が宴会をしていた。飲んでいるのはねこやから持って帰って来たビールや日本酒。更に周りには空き瓶が大量にできていた。

 

「噂は聞いてはいたけどこんな酒が飲める場所なら次は是非とも行ってみたいねぇ。次また七日後だろ?旧地獄に出てくれないかねぇ」

 

「それは勝手だけどあまり迷惑をかけちゃ駄目よ」

 

「あーまた華扇が酷い事言った〜。私らが迷惑かけた事なんてあった〜?」

 

「…少なくともアンタは酒で迷惑かけてる事しか覚えないけどね。それとアンタ達の道具は危険だから使わない事。あああと私から聞いた事は秘密だからね」 

 

「へいへい分かった分かった」

 

「は〜い。えへへ〜♪」

 

本当にわかってるのかしら?という心配が残りつつ、苦笑いをしながら華扇は自分は枡を使った事は隠しつつ旧友との酒を楽しんでいた。




メニュー26

「串カツ食べ放題」

次回は誰が出てくるか、この時点である程度浮かぶ方もいるかも汗。

こんにちは、storybladeです。幻想郷食堂をお読み頂きありがとうございます。突然ですがアンケートです。先代博麗の巫女や魂魄妖忌の回があれば読んでみたいと思いますか?公式設定が少ないのでオリジナル要素を含んでしまいますがどうでしょうか?ご意見お願いします。期限は今月一杯です。

  • あれば読んでみたい
  • 不安なので読みたくない
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