幻想郷食堂   作:storyblade

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メニュー3「ぶりのテリヤキ」

霊夢達が洋食のねこやの扉を見つけようと飛び回っていた丁度その頃。幻想郷のとある場所である事が起こっていた…。

 

 

白玉楼

 

 

幻想郷の冥界。そこに長い長い階段を上った先に、土壁に囲まれた和の風情がある一軒の大きなお屋敷がある。それが「白玉楼」という場所。屋敷だけでなく庭もかなり広く、あるもの全てがまさに和を象徴した様なもの。屋敷の周りには桜の木々が並び、更に咲いてはいないが周囲の木とは一線を画すひと際大きい桜の木がある。花見のシーズンになればきっと見事なものになる事は誰の目にも明らかそうである。…が、この桜が咲く事は無い。「西行妖」というそれは人間の精気を吸った妖怪桜であり、過去に幻想郷にとある異変を起こす一因になった事もあるのだ。過去に一度だけ咲いた事があるらしいのだが、現在では春になっても花をつけることはない。

 

剣を振る白髪の少女

「…ふっ!…やっ!…はっ!」

 

…そんな広い庭の中にひとりの少女がいた。ボブカットの白髪に黒いカチューシャ。緑の服に黒い革靴。特徴は幼さが残るその身体つきには似つかわしくない二振りの大きい日本刀。そして彼女の周りを漂うまるで人魂の様な幽霊の様な見た目をしている何やら白い物体。そんな少女は一心不乱に剣を振るい、地面にはその刀で切ったものか藁束が落ちている。どうやら剣の訓練をしているらしかった。

 

「せい!!……ふぅ、こんなものでしょうか…」

 

最後の藁束を切った一振りで少女は鍛錬が一段落したのか、手ぬぐいで汗を拭っていると、

 

桜色の髪をした女性

「妖夢ちゃん~」

 

その時、剣を振るっていた少女を妖夢と呼びながら、家の中からひとりの女性が顔を出した。女性は桜色の髪で水色と白を基調としたフリフリがある和の衣装に身を包み、手には扇子を持っており、頭には三角巾の様なもの。喋り方からどこかのんびり、のほほんとした雰囲気を醸し出している。そして彼女の周りには少女と同じ様な小さな人魂の様なものがぽつぽつと浮いている。

 

「あ、幽々子様。もうお食事は終わりですか?」

 

「ええたった今終わったところよ~。妖夢ちゃんもそろそろご飯にしたら?」

 

少女は女性を幽々子といった。彼女の名は西行寺幽々子。白玉楼の主にして、1000年以上前からこの幻想郷に住む古参者である。嘗ては西行寺家という名家の令嬢だったが、とある事情から幻想郷に移り住んだ。前回魔理沙の言っていた幻想郷の重鎮のひとりであり、八雲紫の古くからの親友でもある。

そんな西行寺幽々子にはある秘密があった。…「亡霊」。彼女は正確には人ではなく、死んでいるが生きてもいる、そんな特殊な存在(最も多くの者には既に周知の事実であるのだが)。前回紫が言った様に、彼女の様な存在も幻想郷は受け入れるのである。そんな彼女と、妖夢というらしいその少女は主人と従者であるらしかった。

 

「ありがとうございます。では後片付けの後に」

 

「…ところで妖夢ちゃん~、あの話聞いた~?」

 

「…?話とはなんですか幽々子様?」

 

「扉よ扉。少し前に紫が言ってたでしょう~?香霖堂の近くにとある食堂に続く扉が出たって」

 

どうやら紫はねこやの扉の事を幻想郷各地にいる知り合いに既に知らせていた様だ。

 

「そういえばそうでしたね。…でも本当なんでしょうか?外の世界の、しかも異世界に繋がる食堂って…」

 

「紫は不思議な人だけど嘘はつかないからきっと本当だと思うわ~」

 

不思議キャラは幽々子も同じでは?と妖夢は思ったがそれは口に出さない事にした。

 

「紫がそのお店の人から聞いた話だと、扉は七日に一回現れるそうよ」

 

「七日に一回というと…紫様がそのお店に行ったという日の翌日に幽々子様にお話しされたとの事ですから…ああ今日が丁度七日でしたか」

 

「そうよ〜。お金も紫が払ってくれてるみたいだし、紫や霊夢達の話だとそのお店の料理、すっごく美味しかったっていうし、今日も霊夢達が行くって聞いてたから私も行ってみたい♪…と思ってたのに~!」

 

どうやら幽々子はねこやに行きたかった様だ。何を隠そう彼女、一見すらっとした見た目をしているが、その身体からは想像できない程の大食漢なのである。

 

「ダメですよ幽々子様。今日は幽々子様自身のお仕事もあるんですから、行かれるなら今度になさってください。それに今お食事終わったばかりでしょう?」

 

「ぶ~!今日は残念だけど何時か必ず行きますからね」

 

「はいはい」

 

だが今日はお預けという妖夢の言葉で行けなかったので幽々子はふくれっ面になっていた。一見ふたりの様子は主人と従者というより母と娘、若しくは姉と妹の様である。

 

「…ふぁ~、お腹一杯になったら眠くなってきたわ~。暫くお昼寝するから妖夢ちゃん、貴女も休みなさいね」

 

「ありがとうございます幽々子様」

 

そう言って幽々子は自室に戻っていった。後に残ったのは妖夢だけ。

 

「さて…幽々子様の言った通り、後片付けしたら私も休憩しようかな」

 

そう言って妖夢は刀を納め、自分が鍛錬で切った巻き藁を片付け、掃除道具をしまおうと蔵に向かった。

 

 

 

…………

 

白玉楼の蔵

 

 

「さてと、早く片づけを……!!」

 

蔵の扉を開け、掃除道具をもとの場所に片付けようとしていたその時、妖夢の目に、あるものが映った。その蔵には扉は入り口のものしか無い筈なのだが、奥の方に看板らしいねこの絵が掲げられた、木で造られた重厚な洋風の扉があった。しかし扉の先には何もなく、扉だけがそこにポツンと、入る者を待っているかの様に静かに佇んでいる。

 

「こ、こんなところに扉?な、なんとみょんな!しかし何故?今までこの様なものは…」

 

そこには今まで何もなかった筈と動揺する妖夢。まるで突然現れたかの様なその扉に警戒しつつも近づき、猫の絵に何か書かれている事に気づき、読む。

 

「……洋食の、…ねこや?…!」

 

その文字を見て妖夢の頭につい先ほど幽々子から聞いた話が思い浮かばれる。

 

「もしかしてこれが…幽々子様や紫様が言ってた、異世界の料理屋の扉でしょうか?で、でも、どうして白玉楼の蔵の中に…?」

 

想像していなかった事態に妖夢は幽々子を起こして相談しようとするが、

 

「……あ、そうだった。幽々子様はお腹一杯でお昼寝されるとどうやっても起きないんだった…」

 

どうやらその考えは無理そうだ。白玉楼の外の者に知らせるにしてもここを離れている間に、この扉のせいで幽々子に何かあればと思うと抵抗がある。とするとこの扉は自分が何とかするしかないのか…。

 

「紫様のお話だと危険はないという事ですが…実際どういう場所なのか、目で見てみないと判断できないし…」

 

どうするか否か、暫し考えた末に妖夢は結論を出した。

 

「…とりあえず半霊を幽々子様のお傍に残し、私だけで行きましょうか」

 

半霊。それが妖夢の傍に漂っている物体である。実は妖夢もまた人間ではなく、そして幽々子みたいな完全な亡霊でもない。人と霊のハーフ、半人半霊という存在であった。半霊は妖夢と精神でつながっている。半霊に何かあらば妖夢にも直ぐにもわかる。ひとまず妖夢は幽々子の傍に半霊を残し、自分だけで扉の先に行く事に決めた。

 

「……では、行きましょうか。鬼が出るか蛇がでるか」

 

妖夢は背中の刀に手をかけたまま、扉の持ち手をゆっくりと引いた。

 

 

…………

 

 

~~~~♪

 

 

「! 警報!?……!!」

 

扉を開いた瞬間のベルの様な音に驚いた妖夢は背中の刀に手をかけ、さっと身構える。そして瞬間的にあたりを見回すと…そこには木造りの店らしい屋内で、何人かの人間や変わった形をした存在が皆、目の前の料理を美味しそうに食べているのが見えた。

 

「こ、これは…!」

 

「あ、いらっしゃいませー!」

 

妖夢がその光景に驚いていると、彼女に気づいた給仕らしき少女が近づいてきた。勿論アレッタ。そんな彼女に妖夢もまた気づく。

 

(頭に…角?妖怪、でしょうか…?いえそれより)

 

「いらっしゃいませって……あのここって」

 

「はい!ここはねこやっていう料理屋です!」

 

「ねこや…!あ、あの、つかぬ事を聞きますが…博麗霊夢や霧雨魔理沙って方をご存じですか?」

 

「はい!レイムさんやマリサさんのお知り合いですか?じゃあもしかして、貴女も幻想郷という世界から?」

 

「え、ええまぁ…」

(七日に一回だけ現れる異世界の料理屋につながる扉…。どうやら間違いなさそうですね…)

 

妖夢はやはりあの扉が七日に一回現れる、扉だと確信した。そして異世界食堂である事も。

 

「どうかされましたか?」

 

「い、いえ、なんでもありません。ちょっと驚いただけです」

 

とりあえず現状危険はないと判断した妖夢は背負う刀から手を引き、挨拶する事にした。

 

「失礼しました。私、魂魄妖夢といいます。幻想郷にある白玉楼という場所で、剣術指南役兼庭師をしています」

 

「ヨウムさん、ですね。私はここで働いているアレッタです!宜しくお願いします!」

 

「アレッタさんですか。こちらこそ宜しくお願いします。あの、ここは異世界につながる食堂、って聞いているんですけど…」

 

「はい。よければ食べていってください。マスターの料理は、どれも凄く美味しいですよ!」

 

確かに周りの者達は皆いかにも美味しそうに食べている。不思議と危険性は感じられなかった。

 

(…幽々子様のお話だとお金の件は心配ないとのことですし、それに私もこれからご飯のつもりでしたから…いいかな。……後で幽々子様には怒られそうだけど)

「……わかりました。それではお言葉に甘えさせていただきます」

 

「それではお席にどうぞ!」

 

とりあえず妖夢は開いている席のひとつに座り、周りを見渡した。全体的に木造りの柔らかい雰囲気のお店。壁や台にはいくつもの絵やインテリア風の小物がたたずんでいる。そして客層も様々な人種がいた。

 

(あれは以前パチュリーの本で見たことがある…。「ドワーフ」に「オーガ」、あれは「ころぼっくる」でしょうか?人間も沢山いますが…全然気にしてなさそう…)

 

多くの種族が全く関係なく、それぞれの料理を食べている。

 

(それにしても皆さん本当にいい表情で食べてますね。まるで食事中の幽々子様みたいです)

 

とその時、黒い長い髪の少女が水とおしぼり、そしてメニューを持ってきた。クロである。

 

(いらっしゃいませ)

 

「! あ、頭に声が!」

 

(ご注文がお決まりになりましたら言ってください)

 

驚く妖夢をよそにクロは立ち去る。

 

「……異世界には不思議な人達もいるんですね。私が言える事ではないかもしれませんが」

 

そんな事を考えながら妖夢はメニューを手に取った丁度その時、

 

 

~~~~~♪

 

 

再びドアベルが鳴り、新たな客が入ってきた。

 

「ふむ。今日も盛り上がっておるな…」

 

入ってきたのは以前ロースカツ、アルトリウスが一緒に食事していた男だった。先日と同じ様に黒いマントに髷、そしてマントの隙間から腰に帯刀している刀の柄がのぞく。そんな特徴の男に妖夢の目がいく。

 

(あの人も…刀を。…お侍さんでしょうか…?)

 

「いらっしゃいませー!」

 

「おおアレッタ。今日も世話になるぞ」

 

すると厨房から店主も顔を出す。

 

「いらっしゃいタツゴロウさん」

 

男の名はタツゴロウと言った。

 

「ああ。…今日はあ奴はおらんのか?」

 

「アルトリウスさんならまだ来ていないですね」

 

「…ああそういえば今日はこの時間は弟子の講習があると言っていたな。とすると夜か…」

 

仕方ないかと、タツゴロウはカウンターでひとり食事をとろうとしていたその時、

 

「…む?」

 

タツゴロウも妖夢の方を見て、

 

「…娘、お主…人ではないな?」

 

「!」

 

突然言われた言葉に驚く妖夢。

 

「物の怪?…いやしかし邪な気は感じ取れぬ。…すまない。気を悪くされたなら謝ろう」

 

「い、いえ」

(半人半霊である事は気づかれてないようですね…)

 

「初めて見る客だな。…お主も剣をやるのか?」

 

「えっ?あ、はい!」

 

「…ほう、幼い様に見えて良い気をしておる。かなりの修業を積んでいる様だな」

 

「あ、ありがとうございます。…そういう貴方からも強い気を感じます」

 

タツゴロウは妖夢の強さを瞬時に察したらしい。そして妖夢もまたタツゴロウの力を感じ取っていた。同じ剣をやる者だからこそだろうか。

 

「丁度良い。ひとりで食うのもつまらんし、挨拶がてら、共に食事しても構わぬかな?」

 

「は、はい。私は別に」

 

そしてタツゴロウは妖夢と相席する事にした。水とおしぼりを持ってきたアレッタにいつもの事らしい注文をする。

 

「今日もまたいつもので頼む。ライスと味噌汁も一緒で良いからな」

 

「テリヤキチキンですね!かしこまりました!ヨウムさんはもう決められましたか?」

 

「え、えっと…」

 

慌てて妖夢はメニューを開くが、霊夢や魔理沙と同じくそのメニューの多さに悩む。

 

(洋食だけでなく和食も幅広いですね…。この人はテリヤキを頼んでました。私も好きですけど折角なら普段幻想郷であまり食べないものに……おや?)

 

するとある品に目が行き、思わず頼んでしまう。

 

「あ、あの~この「ぶり」というのは?」

 

「え?えっと…マスターの世界でとれる海の魚、との事です。シュッセウオ?らしいんですけど」

 

(海の魚…。幻想郷では滅多に食べれないし、ちょうどいいですね)

 

妖夢はメニュを決めた。

 

「ではこの「ぶりのテリヤキ」をください」

 

「かしこまりました!少々お待ちくださいね!…マスター!テリヤキのチキンとぶり、注文いただきました!」

 

「はいよ。少々お待ちを」

 

言われてマスターは調理に入る。緊張が解けた妖夢は水を一口飲んで落ち着く。

 

(ふ~、何とか落ち着きました)

 

「お主もテリヤキを選んだか。いやわかっておる!やはり白いライスにはテリヤキが一番だからな!はっはっは!」

 

「あ、あはは…」

 

タツゴロウ(テリヤキ)

「ああ名乗っておらずすまなんだ。拙者、タツゴロウと申す。大陸を回りながら時には傭兵や護衛もしておる」

 

「魂魄妖夢といいます。白玉楼の剣術指南役で庭師もしています。宜しくお願いします」

 

「ほう、その年で指南役を。拙者にも何人かの弟子の様な者もおるが、お主程の年頃で指南役などそうはおらん。大したものだ」

 

実際は妖夢は人間ではなく、見た目よりも長く生きているのだが。

 

「いえ、私なんてまだまだです。…見た所タツゴロウさんは、傭兵としてもかなりの実戦を積まれていると見えますが?」

 

「まぁな。若い頃故郷をこの愛刀と飛び出して以来、数多くの戦や魔物の類と相まみえてきた」

 

「そうなんですか。…私はタツゴロウさんと違って実戦の経験もあまり無いですし、ひたすらに稽古稽古です」

 

「戦なんて本来無い方がいい。戦があるという事は誰かが死ぬという事。人であろうと、魔物であろうと。故郷を飛び出して以来、幾度もの戦いの場を潜り抜けてきた結果、拙者をサムライマスターや、伝説の剣豪などと言う者もおるらしいが…そんなものは誰かがつけた大袈裟なあだ名にすぎん。拙者はただ自身が守りたいと思うもののために、一心不乱に剣を振ってきたにすぎぬさ。…お主には守るものはあるか?」

 

「…はい。私にも命をかけても守るべき方がいます」

 

妖夢は力強く返事をした。頭に浮かぶのはただひとりの女性。その者を守るためなら命も惜しくないと妖夢は思っている。

 

「左様か。…だが、お主もむやみに命を無駄にする様な事はするなよ。お主に何かあっては、その者も深く悲しむであろうからな」

 

「!」

 

「お主の主とお主、両者が共に生きてこそ意味があるのだ。そのためにも、精進をこれからも怠るなよ」

 

「は、はい!」

 

妖夢は今のタツゴロウの言葉を再び胸に刻んだようだ。

 

 

 

 

……店主調理中……

 

 

 

 

…………

 

「ところでお主の刀。中々の業物の様だな」

 

「はい。祖父が私に残してくれたものです。祖父も剣士で、私なんて比べ物にならない位強い人で、ものすごく厳しい人でした。昔言われた事があるんです。「雨を斬れる様になるには三十年、空気を斬れる様になるには五十年は掛かるという。妖夢、お前はまだ雨の足元にも及ばない」って」

 

「それはそれは…。祖父殿とはぜひ一度手合わせ願いたいものだ。同じサムライとして血が疼く」

 

「あはは。……でもある時、突然いなくなっちゃって…」

 

「…それは」

 

「お待たせしましたー!」

 

とその時、アレッタが料理を運んできた。

 

「テリヤキチキンとぶりのテリヤキです」

 

ふたりの前には真っ白なライスとみそ汁。具はナメコとわかめらしい。漬物。そしてタツゴロウの前にはテリヤキソースがたっぷりとかけられた大きな鶏肉。対して妖夢には同じテリヤキ色に染まった肉厚のぶりの切り身が置かれたが、ぶりの方にはチキンと違って添え野菜が無いための代わりか、小鉢のひじきの煮物も別に置かれた。

 

「ライスと味噌汁はおかわり自由ですので!」

 

「これがぶりですか…。確かに川魚とは違う」

 

「うむ。来たか!ところでヨウムとやら、酒は?」

 

「え?ええ、まぁ」

 

「ではアレッタ、もうひとつ清酒を頼む」

 

「かしこまりました!」

 

「え、わ、悪いですよそんな!」

 

「構わん構わん。出会いの祝い酒として受け取ってくれ」

 

言われて妖夢にも冷酒が入った盃が運ばれてきた。ふたりはそれをカチンと合わせ、食事を始める。

 

「……うむ。やはりこの白いライスはいつ食ってもうまい!」

 

「タツゴロウさんの故郷では白米は無いんですか?」

 

「茶色くホソボソとした玄米はあるがこの白いライスはそれとは一線を画す。ここの食事で故郷を思う事もあるがここの食事がうますぎるため、故郷に帰る気が起きぬわ」

 

そう笑って食事を再開するタツゴロウ。妖夢はぶりのテリヤキに箸を入れる。肉厚なのに見た目以上に柔らかく、箸でサクッと切れたブリの身を口に運ぶ。

 

「…!美味しい…。噛んだ瞬間にほんの少しだけ感じる酸味と、その身から出てくるたっぷりの魚の脂、そして力強い味を感じます。鳥のテリヤキとはまた違う味わいです」

 

「…うむ。この皮から出てくる脂、そしてこの乙女の様な純白の肉に肉汁がたまらん」

 

テリヤキチキンをライスと一緒に頬張るタツゴロウにまねて、自分もぶりのテリヤキを小さく切って白ご飯に乗せ、一緒に食べる。

 

「…ぶりという魚の独特の味と白いごはん、それらをこのテリヤキソースが見事に一体にしています」

 

「そうであろうそうであろう。このソースの力は偉大だ」

 

同じ様な感想を言う妖夢に対し、タツゴロウも上機嫌な様子だった。ふたりは会話を交えながら暫く食事を続けると、

 

「…そういえばヨウムとやら。先程お主の祖父殿は、突然いなくなったと申しておったが…何やら訳ありか?」

 

すると妖夢は箸をおく。どこか元気なさそうだ。

 

「…わかりません。さっき言った通り、ある時本当に突然いなくなってしまいまして。幽々子様にもわからないですし。ああ幽々子様というのは私の主の名前です」

 

「左様か…。お主の主は行方を知らぬのか?」

 

すると妖夢はこう答えた。

 

「…幽々子様が言うには…祖父は悟りを開いたから去った。もう…戻らないと思う、と。そして自らの剣術指南役兼庭師の任を解き、私に二代目剣術指南役兼庭師に任命する。その証としてこの楼観剣と白桜剣を与える、と…」

 

「…すまぬ。簡単に聞いてよい話ではなかったな」

 

「いえ、いいんです。もう何十年も前の話ですし。…本当に勝手ですよね祖父様」

 

そう言う妖夢だがやや元気が無さそうに笑う。やはり少し寂しいのだ。

 

「…しかし、ひとつだけ確かな事がある」

 

「…確かな事ですか?」

 

すると今度はタツゴロウが答えた。

 

「お主の祖父殿は…きっとお主を信じていたのだ。お主がいつか、その刀と役目を継ぐに相応しい程に成長できる日が来る事を。そうでなければその刀をお主の主に託しはしないだろう?」

 

「それは…そうかもしれませんが、でもせめて、お別れの言葉位残してほしかったな…」

 

思い出したのか妖夢の顔には寂しさが見える。するとタツゴロウは、

 

「…勝手ながら拙者には祖父殿の気持ちが少しわかる気がする」

 

「…えっ?」

 

「自分で言うのもおかしいが、男とはやや不器用な生き物でな。歳をとるほど伝えたい事が素直にできぬ事があるのだ。だから言葉を誰かに残したり、何かに託して伝える事がある。お主のその刀の様に」

 

「……」

 

「そして想いとは時には言葉で伝えるのが全てではない。目で見て気づくものでも、耳で聞いて気づくものでもない真実がある。それは時には、刀で交えて知る時があるものなのだ。我ら剣に生きる者にとってはな」

 

「…!!」

 

 

(真実は眼では見えない、耳では聞こえない、真実は斬って知るものだ)

 

 

「さぞ心細い時もあるであろう。だが、心配はいらぬ。その刀と共に、祖父殿はお主といつも共にいる。孫を可愛がらぬ者などおらぬさ。そしてもし、もしこの先の未来、祖父殿と再び相対する時来れば、その時は刀を交えてみるとよい。お主がいかに成長したかを知った時、認められれば、祖父殿はきっとお主に全てを伝えてくれる筈だ」

 

タツゴロウは妖夢にそう教えた。妖夢はそれを静かに聞いていた。幽々子の話だともう会えない可能性の方が大きい。しかしそれでもまた会えると信じるだけならば、消して間違ってはいない筈である。

 

「……ありがとうございますタツゴロウさん。私頑張ります!」

 

妖夢は元気を取り戻したようだ。

 

「構わぬさ。共に剣を学ぶ者として、これからも共に精進しようではないか。勿論しっかり食ってな!」

 

「はい!」

 

ふたりは再び箸をとって食事を続けたのであった。因みにこの後若き冒険者達が来店し、妖夢とどちらの剣が上か等話をして交流する事もあったがその話はまた何れである。

 

 

 

 

……少女食事中……

 

 

 

 

…………

 

食事が終わり、妖夢とタツゴロウは同じタイミングで退店することになった。

 

「ありがとうございました!(ありがとうございました)」

 

「こちらこそありがとうございます。お土産までいただいて」

 

「いえ、紫さんから十分すぎるほどのお代は頂いてるんで。こういう形で少しでも使わせてください」

 

「ではな店主、アレッタにクロ。そしてヨウムとやら」

 

「…タツゴロウさん。改めてありがとうございました」

 

「なに、拙者も有意義な時間を過ごせた。また会う時あれば」

 

「はい。その時はまた」

 

「ありがとうございました。またのご来店を」

 

 

~~~~♪

 

 

…………

 

ドアベルと共に扉を開けるとそこは見慣れた白玉楼の蔵だった。妖夢が扉を閉めると…扉はゆっくりと消えた。

 

「扉が消えた…。本当に異世界の食堂だったんだ」

 

夢にも思えたが手に持つテリヤキサンドが嘘でない事を証明していた。

 

(ねこや…。また縁あれば行ってみたいですね。今度は是非幽々子様もおつれして)

 

そう思いながら妖夢は蔵の扉を開けると、

 

 

ガラッ

 

 

「「「妖夢(ちゃん)~!!」」」

 

その前には幽々子、そして霊夢と魔理沙がいた。多少怒っているようにも見える。その後ろでは妖夢が置いていった半霊がおたおたして動いている。

 

「ゆ、幽々子様!そして霊夢に魔理沙まで!どど、どうしたんですか?」

 

「半霊から聞いたわよ~!妖夢ちゃん、蔵の中に出たあの扉をくぐって異世界の食堂に行ってたらしいじゃない~!ひどいわ~!何で私にも教えてくれなかったのよ~!」

 

「そ、それは…だって幽々子様はお昼寝から起きないですし」

 

「美味しい食べ物があるんだったら寝ていても動くわよ~!」

 

「も、申し訳ありませんでした。…でもなんで霊夢達まで?」

 

「私達は扉を探していたのよ!そしてここに来た時に幽々子が半霊から「妖夢が突然現れた扉に入っていった」って言ってたからこれは間違いなくねこやの扉だと思ったの!」

 

「そんでお前が帰ってくるのを待っていたって訳なんだぜ!お前が帰ってきたって事は…!」

 

「…はい。扉なら消えてしまいました」

 

「「「ええ~~~…」」」

 

それを聞いて霊夢、魔理沙、幽々子は本当に残念そうにため息をついた。

 

「…あら、妖夢ちゃんそれは?」

 

「あ、ねこやの店主さんが持たせてくれたんです。テリヤキサンド?っていうんですけど」

 

「おう。私がもらったメンチカツサンドとはまた別のものか」

 

「も~、そういう事なら折角だから今回はお土産だけで我慢しておくわ。でも次は絶対に行きますからね!」

 

「は、はい。今度見かけたらお連れします!」

 

「…それにしても霊夢の言う通りその「ねこや」というお店の扉、幻想郷のあちこちに現れるみたいね~。こうなるといつ噂が広まってもおかしくないわよ?」

 

「私もまさか白玉楼の蔵の中に現れるなんて思いませんでした」

 

「月とか地底にだって現れるかもしれねぇな~。次に見つけられるとしたら運しだいって訳か…」

 

やや諦めの様な表情を見せる三人に霊夢が喝を入れた。

 

「私は諦めないわよ!どこにでも出てくるって事はうちの神社に出てくる可能性もあるわ!」

 

「そういったら魔法の森や紅魔館、妖怪の山にもだぜ!」

 

「てなわけで魔理沙!あと妖夢に幽々子も!もしあの扉を見かけたらすぐに入らずに真っ先に知らせなさい!いいわね!」

 

「おう!」

 

「わ、私も協力するんですか!?」

 

「あたり前じゃない!ひとりで行った罰よ!私も今日はおみやげだけで我慢してあげるから!という訳で幽々子!それ少し分けなさい!」

 

「いやよ~!これは妖夢ちゃんから私へのおみやげなのよ~!という訳で妖夢ちゃん、お茶お願いね~♪」

 

「は、はい!」

 

訓練と食事は終えたが、妖夢の仕事はまだまだありそうだった…。

 

 

…………

 

どこかの山

 

 

一方その頃、こちら側では、

 

(それにしても我らの世界でもねこやの世界でもない、新たな世界の剣士か…。孫の様な弟子ともいえる者は多くいるが…もし拙者に孫娘がいたとすれば…彼女の様な歳に近いかもしれぬな…。独り身で駆け抜けた人生であったが…やはりあの店は拙者に多くの事を教えてくれる。いずれまた会う時あれば、その時は再び共に飯を食うか…)

 

そんな事を思いながらタツゴロウはひとり山を下りていた。




メニュー4

「カルビ重」


妖夢とタツゴロウの組み合わせは一番最初に思いつきました。スペルカードルールがなければ妖夢よりタツゴロウの方が腕が上、なのかな?

こんにちは、storybladeです。幻想郷食堂をお読み頂きありがとうございます。突然ですがアンケートです。先代博麗の巫女や魂魄妖忌の回があれば読んでみたいと思いますか?公式設定が少ないのでオリジナル要素を含んでしまいますがどうでしょうか?ご意見お願いします。期限は今月一杯です。

  • あれば読んでみたい
  • 不安なので読みたくない
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