「ありがとうございましたー!」
~~~♪
シリウス
「こんにちはー」
ジョナサン
「どうもお世話になります」
今日も今日とて繁盛している異世界食堂こと洋食のねこや。とそこにまた新しい客がやって来た。それはアルフェイド商会のシリウスとジョナサン。シリウスはいつもの様に袋を、ジョナサンは何やら壺を持っている。
(いらっしゃいませ)
「いらっしゃいませー!」
「ああいらっしゃいおふたり共。今日でしたっけ。今お金お持ちしますんでどうぞ席でお待ち下さい」
「ありがとうございます」
「こちらへどうぞー。…今日はいつもよりもお荷物多いんですね?壺なんて初めてじゃないですか?」
「ええ実はちょっとこれの事で店主さんにご相談がありまして…」
「私に?」
するとジョナサンが壺を開けるとその中を覗き込むアレッタ。
「あ~これですか…。今凄く豊漁ですよね?」
「ええ。でもこれだから碌な調理法が無くて。それで店主さんなら何かいい調理法があるかもと半分押し付けな形でお持ちしたんです…。お金はいりませんので受け取っていただけませんか?」
「どれどれ…!こ、これって…!さっき豊漁って言いましたけどもしかしてコレ天然ものですかい?」
「え、ええ勿論」
「ど、どうしたんですかマスター?」
顎に手を当てて少し考える店主。
「……シリウスくん。もし手に入るなら次回も持ってきてもらえますか?勿論お代はしっかりお支払いしますんで」
「い、いえいいですよ沢山獲れてますので」
「そういう訳にはいきません。さて…となると、コンロは前にバーベキューやった時のもんがあるし捌き方は前に教わった事あっから出来るとしてタレが必要だな…。伝手を当たってみるか」
人里「鯢呑亭」
時は夕方で空も暮れかけてきたところ。人里のとある一画に「鯢呑亭」と書かれた赤提灯が掲げられた一軒の居酒屋がある。今回の物語はここから始まる。これから夜も暮れ、人も入って一日で一番忙しくなる時間だというのにまだ提灯に灯がともっていない。定休日であろうか?
ガララ
客1
「あれ?今日って開いてないのかい?」
鯨の帽子の少女
「ええ実はおじさんが今朝ぎっくり腰になっちゃって今日は臨時休業なんです~」
客2
「あ~そりゃ気の毒にな。しゃあねぇか、おっちゃんにお大事にって伝えてくれ美宵ちゃん」
「すいませんありがとうございます~」
お店が開いていない事を気にした客が帰っていく。そんな彼らに対応したのは店員らしいひとりの少女。桃色の髪に鯨をかたどった帽子を被り、同じく鯨の絵が描かれた前掛けをしている。そんな少女は臨時休業を利用してか普段手が届かない所なども掃除している。
ガララ
「あ、すいません今日は…って」
丸眼鏡の茶髪の少女
「邪魔するぞい♪」
射命丸文
「こんばんわ~美宵さん」
そして再び入って来る少女がふたりいた。ひとりは丸眼鏡を付けた茶色い髪に葉っぱの様な形をした変わった帽子を被り、よく見ると背後に狸の尻尾が覗いている。それが彼女が人間でなく妖怪である事を意味している。
そしてもうひとりは妖怪の山に住む天狗の幹部的な役割を担うと同時に、文々。新聞の編集者でもある射命丸文である。その恰好はいつもの恰好ではなく、まるで新聞記者の様な恰好である。
「マミゾウさんに文さん。も~来るなら夜中にしてくれって言ったじゃないですか~。それに生憎ですがうちは今日はお休みですよ~」
「それは人間にとってじゃろう?我ら妖怪には関係のない話じゃ。固い事いうでない」
「そうですよ~。ここは里でも私達が飲める貴重な場所なんですから~」
「店主はおらんでも酒と軽くできるもんくらいはあるじゃろ?」
マミゾウと呼ばれた少女と文はひく気が無いようだ。
「…は~しょうがないですね。ま、そう言うと思って実は準備はしていたんですけど。でももう少し店の奥でお酒でも飲みながら待っててください。まだ日が沈みきってないので」
「お~流石は美宵じゃな♪」
…………
「「わはははは♪」」
「そんな事があったんですか~」
「笑い事じゃないぞ。全く、狸の扱いはもっと丁寧にしてほしいもんじゃ」
「そういえばはたてもそんな事話してましたね~」
その後、店内は三人の小さな宴会場と化していた。今のここは「人間の飲みどころの鯢呑亭」ではなく、「妖怪専用の飲みどころの鯢呑亭」である。元々普通のいち居酒屋にすぎなかったここがこうなったのにはとある訳がある。
「そういえば今日はあの人は来ないんですか?」
「ああ萃香さんなら今日は博麗神社で霊夢さんと飲むんですって」
「そう言えばお主もあ奴の瓢箪に住み込んで随分経つのぉ。よその所に移りたいとか思わんのか?」
「いえいえまさか。あんな便利な屋敷を放っておける訳ないじゃないですか~。萃香さんも別に悪くは思ってないでしょうしいつまでも住み続けますよ~。勿論無賃で♪」
「お主も悪よのぉ~ククク。流石はこっそりと隠れ住む座敷童の事はある」
「でもまぁお互い様じゃないですか~?おかげでこうして里でも飲めるんですし~」
「座敷童」といえば多くの人が耳にしたことがある妖怪だろう。子供の姿で悪戯好き、しかし家の者や見た者には幸福が訪れる。大人の前に姿を現すのは苦手だが子供とは一緒に遊ぶこともあるというなんとも子供らしい妖怪。美宵は幻想郷の座敷童なのだ。
座敷童と言えば家の中に留まる地縛霊、というのが一種の通説になっているが彼女曰く家や屋敷となる「器」、留まる先があれば外には自由に行き来できるらしい。そして彼女は他の座敷童と違い外に憧れていた。そしてある時に出会ったのがこの鯢呑亭となった元々の家、更に萃香の伊吹瓢箪であった。幾らでも酒が出てくるという特殊な性質を持っているそれを気に入った美宵は瓢箪の持ち主である萃香から住んでもいい条件として妖怪でも飲める場所を作ってほしいと依頼され、そうして生まれたのが「妖怪専用の飲みどころの鯢呑亭」なのであった。
因みに今来ているのは天狗の文、そしてお化け狸のマミゾウという妖怪で共にこことは長い妖怪である。
「そういえば飲みどころで思い出したんですけど~、おふたり共あの扉について何か知りませんかね~?」
「あの扉?」
「…ああ、もしかしてあの外の世界の食事処に繋がる扉の事かの?確か…そうじゃ思い出した、ねこやっていう」
「そうそうそれですよ!何か知りませんかね~?若しくは行った事あるとか」
「う~んすいません、私行った事ないんです。この前萃香さんが来られた時に最近行かれたとは聞きましたけど」
「儂も小鈴らが行ったというのは聞いたがの。興味はあるんじゃがまだないぞい」
「そうですか~…」
「なんじゃそれほど行ってみたいのか?そのねこやというところに」
「あったり前じゃないですか!はたてに椛ににとり、雛に秋姉妹!ネムノさんにミスティア!しかもにとりに至っては最近二回目も行ってるんですよ!なのに幻想郷最速の、真実はコンマ二桁まで追い求め、時にはオモシロおかしい新聞記者であるこの射命丸文がまだ行けてないなんて~!」
あからさまに落ち込む文。
「…まぁさっきも言ったが確かに儂も縁があれば一回出向いてみたいとは思う。前に霊夢の奴から聞いたがその店にはなにやら美味い飯以外に儂が知らない様な酒もあるらしいからな」
「私も一回くらいは行ってみたいな~とは思います。前にネムノさんやミスティアさんが来た時に凄く美味しかったって言ってましたし、お店の料理を増やせたらな~と」
「ですよねですよね?あ~今日出てくれませんかね~」
ガララ
そう言う話をしていると再び扉が開く音が。表の看板には臨時休業の張り紙があり、中の音や光は外に漏れない様妖術じみたものがある筈だが。
ネムノ
「お邪魔するべ」
ミスティア
「こんにちは美宵ちゃん…とマミゾウさんも文さんもいた」
扉を開けたのは以前異世界食堂で豆腐ハンバーグを味わった坂田ネムノとミスティア・ローレライのふたりだった。
「おやおや、噂をすれば妖怪の山の山姥とミスティアではないか。久しぶりじゃな」
「どうしたんですか?ネムノさんは兎も角ミスティアさんは屋台があるんじゃないんですか?」
「うん。その予定だったんだけど今日はうちも臨時休業にしたの。ちょっと美宵ちゃんに用があって」
「私に?」
「ああそうなんだが…う~ん文もいるからな~」
「なんですかなんですか?私がいたらまずいのですか?酷すぎませんか~!?」
少し考えるネムノとミスティアだったがやがて諦めて、
「う~ん、まいっか。ちょっと美宵ちゃんを誘おうと思ったの」
「美宵を誘う?どういう事じゃ?」
「ああ。実はうちの近くにねこやの扉が現れたんだべ。それでまた行こうと思ったんだけんど」
「前に美宵ちゃんも話聞いて行きたがってたでしょ?今日臨時休業なら行けるかなって誘いにきたんだけど…」
ヒュンッ!!
「ありがとうございます!是非是非行きましょう!一刻も早く!」
「いやお主を誘いに来たんじゃないぞ文。…でもまぁ気持ちはわからんでもないな。そう言う事なら是非儂も行ってみたいのぉ」
瞬時にネムノとミスティアの手を取り、急かす文だった。マミゾウも行きたい気持ちが勝っている様だ。
「お、おう。まぁうちらは構わねぇよ。美宵、おめぇはどうする?」
「私も行きたいです!直ぐに片付けしますね!」
…………
時刻はすっかり夜。一行は山の中のとある場所にやって来た。そこにはネムノが今現在建設中という彼女の自宅兼店があるがその裏にねこやの扉が出現していた。
「ほうほう、これが噂の扉か。漸く外の世界の酒が飲めるわけじゃな♪」
「木造り…金の扉の取っ手…猫の看板。聞いた通りだわ」
「長かった…ここに来るまで長かったです。これでやっとはたてに突っ込まれる様な事はありません!」
「さてさて今日は何を食べさせてくれるかな~♪」
「楽しみだな♪ああその前に文に言っとくけどくれぐれも向こうに迷惑かけないようにな?」
「だからなんで私だけなんですか~!?」
「だって文さん間違いなく取材しようとするでしょ?言っとくけど店主さんはご飯作らなきゃならないんだからね?」
「わかってますよ~。迷惑はかけませんから♪」
(((心配だな~(だべ)(じゃな)…)))
…………
~~~~♪
「「イーライじゃとぉぉぉぉぉぉぉ!?」」
「わっ!」
「な、なんじゃ~?」
「お前さん正気か!?あのイーライじゃぞ!?イーライなんてとても食えたもんじゃないぞ!」
「あんなもんが今日のおススメだなんて信じられん!」
「わ、私も食べる前はそう思ってたんですけど大丈夫です!今日もお昼のまかないで食べたんですが本当におかわりしちゃう程物凄く美味しかったです!マスターが是非おふたりに食べてほしいって」
ネムノが扉を開けると彼女らの声の前に店内の別の客の大声が聞こえた。よく見るとアレッタが何やらふたりの男性客と会話をしている。とそんな彼らを横目にクロが扉を開けた幻想郷組の応対にやってきた。
(いらっしゃいませ)
「…え、え?い、今頭の中に声が響いた様な…?」
「ああ大丈夫だよ。恥ずかしがり屋さんなのかこれがこの人の会話のやり方なんだって」
「ほ〜不思議な術じゃの」
「アンタ確か…クロさんだっけか?久々だべな」
(御無沙汰しております)
クロが幻想郷組に対応するその一方、
「う〜む、ここの事じゃから悪いもんなんて出す訳ないとは思うがのぉ〜…」
「泥臭くて骨だらけ、食い方といえばぶつ切りにして魚醤で焼くかゼリー寄せ位しかない、それでもあまり食う気が起こらんイーライを美味く食えるのか…」
「大丈夫です!」
驚く男性二人組に対してアレッタが返す。ここで働く以前の彼女からしたらかなり強くなったといえる。
「…そこまで言うなら、一回試してみるかのぉ」
「おう、店主の手並み拝見じゃ!それでは一番オススメの食い方と酒で頼むぞ!あとビール其々三人前にシーフードフライを二人前頼む」
「畏まりましたー!…あ、し、失礼致しましたいらっしゃいませ~!」
大声を出したのを恥ずかしく思ったのかそそくさと注文を伝えに行くアレッタであった。
「あの娘、山羊の角が生えてる」
「ふ〜む、前に小鈴や阿求から人と妖怪が一緒に飯を食っとると聞いたがほんとだったのか。この娘も変わった形の耳しとるし、お主も妖怪か?」
(…いえ、私は違います)
「おや違うのか。まぁいいわい、取り敢えず自己紹介しようかの。化け狸の頭領、二ツ岩、人呼んでマミゾウじゃ。よろしゅうな」
「げ、幻想郷の奥野田美宵って言います!美宵って呼んでください!」
(承知しました)
「あともうひとり…ってアレ?文は?」
「そういえば先程から姿が」
「あやや?私なら一番後ろにいましたよ?はじめまして〜!幻想郷最速の烏天狗にして文々。新聞記者兼編集者の射命丸文です!本日は宜しくお願いします!」
(…畏まりました。…取り敢えずお席にどうぞ)
そそくさと名刺を渡す文。言われて五人はクロの案内でひとつのテーブルに座る事に。
(…文、お主先程まわりに気付かれない様な速さで動き回りながら写真撮りまくっとったじゃろ?)
(ええ!?)
(あややや、流石はマミゾウさん。ふっふっふ正直に写真撮らせてくれっていっても歓迎されない事は目に見えてますからね。この時に備えてにとりに私のカメラを改造してもらったんです。私の最大速で動きながら撮っても決して写真がぶれない様にね。はたてとは違いますよ私は♪)
(でもバレたらどうすんだ?)
(大丈夫ですって♪現に皆さんも気づいてなかったでしょ?それに後で正式な取材も勿論申し込みますから)
そこへクロが3点セットを持ってきた。
(お水とおしぼり、そしてこちらメニューになります)
「さぁさぁ必要な写真はある程度撮りましたし今は取り敢えず何食べるか決めましょう♪何か写真写りが良い料理が良いですねぇ」
「調子のいい人だなぁ」
「まぁ好きにやらせておけ。それはさておき給仕、飯の前に一杯ビールを飲ませてもらえんかの?ずっと飲みたいと思っとったんじゃ」
「私もそれお願いします」
「うちらも今日は飲んでねぇから飲んでくべ」
(承知しました)
「ビールとシーフードフライお持ちしましたー!本日はイカリングとホタテ、鮭です。ごゆっくりどうぞ!」
「おー待っとったぞ!」ゴクゴク…!
ゴクゴク…!「ふぃ〜!やっぱり寒くなってきてもやはり山登りの後はまずビールで冷やすに限る!」
「全くじゃ!おまけにここは暖かいからのぉ。冷たい酒も何のそのじゃわい!」
クロがビールを取りに行くのと入れ替わりで隣の席にアレッタが料理と酒を運ぶ。風貌の割には身長だけ小柄な男ふたりは妙にでかい硝子の器に入っているそれを一回で半分以上飲んでしまった。
「なんとも美味そうに飲むのぉ」
「ん?おお美味いぞビールは!お前さんらは、ここは初めてかい?」
「んだ。うちとこっちのミスティアってのは二回目だけどこっちの三人は初めてだ」
「私達はこことは別の世界の住人なんです」
ギレム
「おおお前さんらもか!前に赤い娘や黄色い娘とかとは話した事あるぞ。儂はドワーフのギレムという。酒職人をしとる」
ガルド(シーフードフライ)
「儂はガルド。こいつと同じドワーフで硝子職人じゃ」
「赤い娘と黄色い娘って…」
「もしかしなくても霊夢さんや魔理沙さんの事でしょうね~」
「ほぉドワーフ、か。前に小鈴の店の本で見たことだけはあるぞい。化け狸の二ツ岩マミゾウじゃ。よろしゅうの」
「坂田ネムノだ。ネムノって呼んどくれ」
「ミスティアだよ!」
「奥野田美宵って言います」
「幻想郷一の新聞記者、射命丸文です!宜しく!」
勢いよく、それでいてさっと名刺を渡す文。
「お、おお。シンブンとは何か知らんがよろしくの」
(ビールお待たせしました。ごゆっくりどうぞ)
そこにクロが人数分のビールを運んできた。
「それじゃあ出会いを祝って乾杯をしようじゃないか」
「賛成〜♪」
「「「カンパ~イ!」」」
乾杯の言葉で皆がジョッキを上げ、一斉に飲む。刺激あるキレの良い黄金色のビールが喉をスッと流れていく。
「お、美味しい〜!」
「これは間違いなくうちの八目鰻にも合うお酒だわ。あ〜ん作り方知りたい〜!」
「中々いい飲みっぷりじゃ!」
「気に入った!お前さんらの酒代は儂らが奢ってやる!気にする必要はないぞ、これでもそれなりに金はある!」
「いよ!太っ腹!あ、悪い意味じゃありませんからね」
するとガルドが美宵の被っている鯨の帽子を見て、
「ところでお前さん、何やら変わった帽子被っとるのぉ」
「え?あ、これですか?これは鯨を象った帽子です。私幻想郷で鯨呑亭っていう居酒屋をやってまして」
「く、クジラじゃとぉぉぉ!あの海の覇者で大きいものなら小島程にまで成長するあのクジラか!?」
「いやいやこいつは驚いたわい!異世界にはクジラをどうにかする技術まであるのか!なんとも恐ろしい話!異世界の酒が飲めないのは悔しいが異世界に生まれなくて良かったわい!」
「え、えっと~そんな難しい話では…」
(まぁまぁ美宵。面白いから黙っておけ)
「ところでこっちも聞くがその料理はなんじゃ?天ぷらとは少し違うようじゃが」
「お、おお、こいつはシーフードフライと言っての。魚介を揚げたもんじゃ」
「儂らの住んどる場所は海から離れていての。魚と言えば川魚か腐敗せんよう燻製か塩漬けにしたもん位しか普段食えん。新鮮な海のもんなんて猶更無理じゃ。だからここで初めてこいつを食った時はそりゃー驚いたもんじゃ!」
「海か〜。幻想郷には海が無いからな〜」
「以来ここではいつも酒とそれに合うおススメの魚メシを食っとるんじゃが…じゃがなぁ」
「う〜むまさかイーライとはの〜…」
腕を組んで考え込むギレムとガルド。よほど食べるのに悩む食材なのだろうか?
「いーらい…って知ってる美宵ちゃん、ミスティア?」
「聞いたことないなぁ」
「私も居酒屋やってるけど知らない」
「もしかしてこっちと幻想郷では名前が違うんじゃないでしょうかね?でもそんなに悩むお魚なんですか?」
「当然じゃ!イーライといえば扱いに難しい魚で有名じゃからな!」
「川底に住んどってスライムを塗ってるみたいにヌメヌメしてて細っそい奴で真面に握らせることすらさせん!おまけに苦労して捕まえて調理しても小骨が多くて食いにくく、その上泥の中で暮らしてるから泥臭さがどうやっても残ってしまうんじゃ!おまけにナイフを入れても暫く動いて死のうとせん!扱う者の中には「悪魔の魚」とさえ言ってる奴もおる位じゃ」
「…川底に住んでおって、ヌメヌメしてて、小骨が多くて泥臭い細い魚とな?」
「…もしかしてそれ」
「お待たせしましたー!本日おススメのイーライの蒲焼と白焼。お酒は清酒のアツカンです!」
アレッタが運んできたのは何かの魚の開きらしきもの。それに茶色いタレをかけて焼かれた料理。香ばしく、それでいて甘い匂いが漂う。もうひとつはタレの色はついておらず、うっすら焦げ目がつくまで焼かれた白い身が美しい。
「な…なんじゃいコレは!?」
「なんとも香ばしくて甘い、いい匂いを放ちよる。これがイーライだというのか!?」
驚くギレムとガルド。対して幻想郷組はそれの正体が分かったらしく、
「ほうほうやっぱり鰻の事じゃったか」
「ああ鰻か泥鰌かどっちかと思ってたべ」
「でもほんといい匂いです!」
「うん!普段八目鰻出してる私からしても凄く美味しそう!」
「あやや~見事な照りでこれは写真映えしますね~♪」パシャ!
「蒲焼はそのままで、白焼きはこちらのワサビと醤油か、お塩を付けてお召し上がりください!」
「と、取り敢えず一回食ってみるか…?」
「お、おおそうじゃな。見た目は良いが問題は味じゃ…」
ふたりがそれに箸を入れ、口に運ぶと、
「……!な、なんとぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ふたり揃って本日何度目かの雄たけびを上げた。
「柔らかくて口の中で蕩けるぞい!これがあのイーライじゃというのかぁぁ!今迄のもんとは全く別もんじゃ別もん!!」
「こっちのシラヤキとやらも美味いぞい!一緒に食うワサビの辛さと醤油の塩気がバッチリじゃ!これは絶対セーシュに合うぞい!!」
「……かー!美味い!これは幾らでも食えるぞい!じゃんじゃん持ってきてくれい!!」
何とも見事な反応を見せるドワーフふたり。そんな彼らを見て彼女らも興味が湧いたらしく、
「…うちらも注文する?」
「あれだけ美味そうに食うのを見てしまってはなぁ…」
「私もなんか食べたくなってきました」
「鰻ならウチでも何か出せるものができるかもしれないし…」
そして彼女らはアレッタを呼び、
「すまんが、うちらにも鰻とそれに合う酒を頼めるかの?あとできれば蒲焼以外にも色々貰えると嬉しいんじゃが」
「ウナギ…ああイーライですね!畏まりました!暫くお待ちください!」
……店主調理中……
…………
そして暫くして鰻の美味さに酒と料理がいつも以上に進んだギレムとガルドは酔って寝てしまっていた。
「「ZZZ…」」
「おふたり共随分飲まれましたねぇ…」
「大丈夫じゃろ。本で読んだがドワーフは酒に強い種族みたいじゃし」
「お待たせしましたー!」
「あ、来た来た♪」
「本日おススメのイーライの蒲焼と白焼きです!蒲焼はそのまま、白焼きはこちらのワサビと醤油に付けてお召し上がりください。そして…こちらはイーライのオムレツとヤナガワフウ、そしてウザクになります!」
運ばれてきたのは定番の鰻の蒲焼と白焼き。そして黄色い卵に包まれたオムレツ、小鍋で卵と一緒に煮込まれた料理。そしてウザクという小鉢。
「ほうほう、卵と来るか」
「どれも美味しそうだな♪」
「ウザクって何?」
「えっとイーライをキュウリとお酢で和えた物です。サッパリしててお酒にも合うと思いますよ!あと蒲焼は丼もできますのでもしご希望なら言って下さい。それではごゆっくり!」
「ありがとうございます♪どれから食べようかなぁ…」
「じゃあうちは白焼きから食べてみるべ。素材が一番わかるのと店主さんがどういう風に焼いてるか知りたいからな」
ネムノが箸を伸ばしたのは肉厚な鰻の白焼き。大勢で食べれる様に何切かに分けられたひとつを取り、ほんの少しのワサビと醤油に付けて食べてみる。
「う~ん美味い♪しっかりとした肉厚な身なのに口の中で天使の羽みたいにふわふわって溶ける。こいつはいい鰻だべ!焼き方も文句なしだ」
「こっちの蒲焼も美味しいわ~♪」
ミスティアは蒲焼から食べている様だ。因みに幻想郷ではどちらかというと八目鰻の方がよく食べられている。彼女の屋台もそちらの方が主流でこれが取れなかった時は鰻で騙していたりした事もあるらしい。最も八目鰻は鰻に見た目が似ているだけであって歯ごたえも風味も結構違う全くの別物なのだが。
「鰻は久しぶりに食べたけどネムノが言った通り身がほんとふっくらしてるわねぇ!小骨も身を傷つけない様しっかり取られてて臭み抜きの下処理もいいわ。今度から八目鰻と一緒に売り出そうかしら?」
「んだな♪」
「じゃあ儂は…そうじゃの。このおむれつを試してみるかの」
「あ、それ私も興味あります!」
マミゾウと美宵は鰻のオムレツに興味が湧いた様だ。卵の黄色一色で他には何の色もついていない。そして匙を入れなくてもぷるぷるとしているのが見ただけでわかる。
「キレイですね~。食べるのが惜しいです」
美宵がスプーンを入れるとやはりそれは非常に柔らかく、完全に火が通っていない半熟な硬さが良い感じだ。更に中の卵と一緒に細かく切られた鰻の開きが流れ出る。
「わ~とろとろ半熟卵の中から鰻が!」
スプーンでとろとろの半熟卵と鰻を一緒に口に運ぶ。
「…ほう~こうなるか。卵の甘さとほんの少しタレの味をしみ込ませた鰻の甘さが合っとる♪」
「材料はとても簡単だけどこんなに美味しいんだ~!これならうちでも出せるかも♪」
「いいですねぇ。皆さんの幸せそうな顔が撮れてますよ~♪」
「ねぇ文も食べなよ。少しは食べないと失礼だよ」
「あやや、そう言えばそうですね。じゃあ私はこの鰻のヤナガワフウっての食べてみますね」
「ヤナガワといえば定番は鰻じゃなく泥鰌だけどなぁ」
文が手を伸ばしたのは鰻の柳川風(ヤナガワフウ)。本来泥鰌を使う柳川風の始まりは文政時代の頃、元は泥鰌と牛蒡を煮込んだだけのものだったと言われている。その後江戸のとある店が鶏卵を含めたのが現在まで受け継がれていると言われているがその発祥は多くの説があるとの事。小鍋からまだ湯気が立っているそれをレンゲで小皿に取り、口に運ぶ文。
「は~~、鰻の柔らかさと牛蒡のシャキシャキ感、それに出汁の味と卵のコクがしみ込んで暖まります~。これからの季節にはいいですね~」
「…うん美味しい!こりゃ熱燗だな♪」
その脇でマミゾウはウザクをつまむ。ウザクとは三重県の郷土料理で鰻とキュウリやわかめを混ぜた酢の物。余った鰻を使って作ったのが始まりとされる。
「こっちの鰻は歯ごたえをしっかり残しとるの。これは冷酒じゃな」
「鰻だけでこんなに料理とお酒の楽しみ方があるんだね~」
彼女らは存分に鰻を楽しんだのであった。
「…ところで気になったんだけど文。アンタ卵食べていいのかい?」
「何か変ですかね?別に鶏肉食べてる訳でもないし無精卵ですから気にしませんよ」
「そ、そうか」
……少女食事中……
…………
「「「ご馳走様でした~♪」」」
「土産まで持たせてもらってすまんのぉ」
「いえいえ、また是非来てくださいね!」
(コクコク)
「取材ありがとうございます人間の店主さん!」
「はは、まぁお客さんも少なかったですから」
「これではたての目に物見せてやれますよ。写真も一杯撮らせてもらいましたし♪」
「写真?」
「ああいえいえ全然なんでも無いですよ~!それじゃあ失礼しますね~!」
「ありがとうございました~!」
そして一行が扉を開けて帰ろうとした時、
(…お客様。次はもうなさらないでくださいね?)
「…え?」
クロはそれだけ文に告げた。
…………
その日の夜、最後の赤を見送った後。
「アレッタさんすっかり鰻にはまったらしいな」
「だって本当にとっても美味しいんです!…そういえばマスター、あのイーライの黒いソースはどうしたんですか?」
「ソースじゃなくてタレな。ああ、知り合いの鰻屋にシリウスくんから買った鰻と交換で少し分けてもらったんだ。勿論特別営業分だけな」
「マスターの世界ではイーライってそんなに貴重なんですか?」
「そう。特に天然ものは数が少なくて高級なもんなのさ。知り合いも喜んでたよ。…そういえばクロさん、さっきあの人に何を言ってたんだ?」
(…ヒミツ)
「「…?」」
店主とアレッタは首を傾げた。
その後、文が撮って来た写真の何枚かに先のはたてと同じ様な異常が現れた事。悔しがる文と笑うはたて。それを宥める椛達がいたのは言うまでもないだろう…。
今回何とかいつも通り投稿できました。鰻のイーライはオリジナルです。
鰻のオムレツは某グルメ番組で見たものから引用させてもらいました。
そして次回からいつもと違う回を二本連続投稿します。
来月の始め頃 「おみやげ」
年末年始頃 「特別編」
よければご覧くださいませ。
こんにちは、storybladeです。幻想郷食堂をお読み頂きありがとうございます。突然ですがアンケートです。先代博麗の巫女や魂魄妖忌の回があれば読んでみたいと思いますか?公式設定が少ないのでオリジナル要素を含んでしまいますがどうでしょうか?ご意見お願いします。期限は今月一杯です。
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あれば読んでみたい
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不安なので読みたくない