幻想郷食堂   作:storyblade

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アルトリウス私室


「…さてと、そろそろ始まる頃か」

ここは王国王城の中にあるアルトリウスの私室兼研究室。異世界食堂の客では最古参である彼は毎回自らの空間操作の魔法でねこやの扉を自らの元に呼び寄せていて今日も自ら呼び出した扉からねこやに行くつもりである。

ヴゥゥゥーン…

「では行くとするかの」


~~~~♪


そして彼が扉を開けると、

「(いらっしゃいませ)」

何時もの様に挨拶する店主とクロと、

こいし
「いらっしゃいませー♪」
さとり
「いらっしゃいませ」
燐・空
「い、いらっしゃいませ~」

そこにはクロと同じく給仕の姿をしたこいし。姉のさとり。そして燐と空がいたのであった…。


メニュー29「フレンチトースト&コーンポタージュ」

事の発端は、とある日のねこやの朝。この日も開業する異世界食堂の準備に勤しむ店主達。しかしその光景はいつもと少し違っていた。

 

(……アレッタ。……遅いね)

 

「そうだな。もうとっくに来てて良い筈なんだが…」

 

開店までもう二時間にさしかかるのにいつもクロより早く出勤する事が多いアレッタの姿が無かった。普段のまかないの時間も過ぎている。こんな事は初めてである。

 

~~♪

 

「お?おはよう遅かったな…ってあれ?」

 

(貴女は…)

 

「おはよう。こんな早くに御免なさいね」

 

扉が開いてアレッタが来たと思ったふたりだったが…そこに現れたのはアレッタではなく彼女の主でもあるサラだった。

 

「お、おはようございます。珍しいですねこんな時間にお越しなんて。ですがまだ」

 

「いえ、残念だけど今回はお客じゃないの。ちょっとアレッタの件で」

 

(アレッタに何かあったんですか?)

 

「ええ実は…」

 

~~~~♪

 

とその時、再び扉が開いた。

 

 

…………

 

旧地獄「地霊殿」

 

 

時間はサラがねこやに現れる前にまで遡り、こちらは幻想郷。そしてここは幻想郷の旧地獄の都、旧都中央に存在する「地霊殿」。内装は赤や紫を基調とし、大小様々なステンドグラスで飾り付けされた西洋風の巨大な屋敷。

 

さとり

「……」

 

その屋敷の執務室でこの屋敷の主人である古明地さとりが無言で朝食後の事務作業をしている。見た目は幼いが彼女もまた妖怪にして、この旧都における最大級の実力者のひとりであり、妹であるこいし曰く「お姉ちゃんの知り合いって言えば誰も逆らわないらしい」と言われる位畏敬の対象となっている。そう言われる理由に彼女の能力が関係している。

 

「心を読む程度の能力」

 

サトリという妖怪である彼女は他者の心を読む事ができる。だがこの力のせいで彼女は他の妖怪や妖精はおろか、怨霊の類すらからも良く思われておらず、遠ざけられている。故にこの館で生活しているのは彼女と妹のこいし、ペットで従者でもある火焔猫燐と霊烏路空、そして動物達のみである。一方の彼女も自分の力は自覚しており、滅多に外に出る事もなく半分引きこもりみたいな生活をつい最近まで行っていたが、今は宴会や地上に出る事も少なからずある。

 

コンコンガチャ!

 

「お姉ちゃん遊ぼ~♪」

 

そう言いながら無言のさとりが仕事している部屋にノックと共に入って来たのはこいし。

 

「…こいし、ノックをするのはいいけど返事をしてから入ってきなさいね?」

 

「じゃあやり直す?」

 

「…必要はないわ。このまま続けなさい」

 

「わかった~。じゃあお姉ちゃん遊ぼ~よ!」

 

「駄目。私はお仕事中。お燐やお空と遊びなさい」

 

「だってお燐はお花にお水あげてるし、お空もペット達の毛づくろいしてるんだもん!」

 

「じゃあもう少し待ってなさいな。仕事が終われば遊んでくれるわよきっと」

 

「む~お仕事なんて夜でもできるじゃない!遊べるのは朝とお昼しかないんだよ~?」

 

「ならお昼に遊べばいいでしょう。それなら外に行きなさいな」

 

「だって今の季節は寒いって皆お外に出たがらないんだもん~」

 

書類に目を通しながらそう言うさとりに文句を言いながらさとりのベッドにドサッとダイブするこいし。そんな妹にやや呆れながらも苦笑いを浮かべる姉。

 

「あ~退屈だな~。またあそこに行けないかな~」

 

「あそこ?」

 

「ねこやだよお姉ちゃん。少し前にチルノちゃん達やフランちゃん達も行ったって言ってたの!」

 

「ああ…以前貴女が行ったという外の世界の食堂ね。そういえば最近勇義さんや萃香さん達も行ったって聞いたわね」

 

「暖かいし美味しい物食べられるしとってもいいところなの!アレッタお姉ちゃん達に会いたいなぁ~。今度はお姉ちゃんもお空もお燐も行こうよ!」

 

「はいはい。その扉が現れたらね」

 

 

~~~~ガチャ!

 

 

「さ、さとり様大変です!あ、こいし様も!」

 

すると廊下を走って来る音がしたと思ったら扉が勢いよく開かれた。入って来たのは燐。

 

「お燐、貴女ノックもせず…。どうしたの?」

 

「そ、それが中庭の花に水を上げてましたら、急に見た事無い扉が現れたんです!今お空に見張らせてるんですけど」

 

「!…それってどんな扉かしら?」

 

「えっと木の扉で猫の形をした看板がかかった扉です。ほんとに幻みたいに突然現れて…」

 

それを聞いてパタンと本を閉じるさとり。

 

「……わかったわ。こいし…ってあら?こいし?……もうあの子ったら」

 

 

…………

 

地霊殿内 中庭

 

 

地霊殿の中庭。そこは大小様々な植物が生い茂り、大きなステンドグラスがドーム状の天井を形成している。

 

「お空~!扉どこにあるの~?」

 

「え?あ、こいし様!あ、あそこです」

 

そしてこいしは既に中庭にやって来ていた。お燐に頼まれて見張っているもうひとりの従者で、ペットでもあるお空が指差した先に、木々に隠れる様に存在している扉が確かにあった。するとそこにさとりと燐も来る。

 

「ほらあれですさとり様!」

 

「あれが…。本当に突然現れるのね。貴女達も気づかなかったなんて。…ああお燐、お空。貴女達を責めてる訳じゃないから」

 

「そ、それでどうしましょうかさとり様!」

 

「そうね…。あれがそのねこやという場所に繋がる扉なら、行った者は皆危ない所ではないと言っているみたいだけれど、なんの準備もしないまま行くのはちょっとね」

 

入るか入らないかを扉に背をむけながら考えるさとり、燐、空。さとりとしては自らの能力の事もあり、迂闊に入る事に抵抗があった。向こうの者からすれば自分達は異世界の者。どんな風に思われるかという考えもあった。それを妹のこいしに伝える事も。もし外向けは良くても心ではどんな風に思われているか…。

 

「…あれ、こいしは?」

 

「あ、あれ?ついさっきまで…」

 

「こいし様~?…あ!」

 

「~~♪」

 

見るとこいしは…既に扉を開けて入っていったのであった。そして時間はあの時となるのである…。

 

 

…………

 

~~~~♪

 

 

「こんにちは~♪」

 

「え?」

 

(…あ)

 

「おや、君は確か…こいしさんでしたっけ?」

 

「うんそうだよ!久しぶりだねおじちゃん!クロお姉ちゃん!」

 

(はい。お久しぶりです)

 

勢いよく扉を開けて入って来たこいしとそれを追いかけてきたさとり。そして空と燐も続く。

 

「こ、こらこいし。少し待ちなさいってば」

 

「ほ、本当に別の場所に繋がっちゃった…!」

 

「驚きだね…!」

 

「お姉ちゃん、お空もお燐も。ほら、ここの店主さんとクロお姉ちゃんだよ!前に来た時に美味しいもの食べさせてくれたの♪」

 

「そう…この方々が。…突然失礼致しました。初めまして、外の世界の方々。私は地霊殿の主、古明地さとりと申します。先日は妹のこいしが大変お世話になったそうで」

 

「は、はぁ、ご丁寧にどうも。初めまして。このねこやの店主です」

 

(…クロと申します)

 

「…あ、あれ?今頭の中に声がした様な」

 

「クロお姉ちゃんはこうして喋るんだよ。ちょっと恥ずかしがり屋さんなの!」

 

「はぁ…。あっ、あたいらも自己紹介した方がいいのかな。あたいは火焔猫燐。猫っぽいけど化け猫じゃないよ。火車だからね?マタタビに弱くないからね?」

 

「…危ない人間じゃないみたいだね。私は空。霊烏路空だよ!地獄鴉であり八咫烏でもあるんだ。人間みたいだけどこいし様に免じて貴方達も特別にお空って呼んでいいよ」

 

(宜しくお願いします)

 

「……?ねぇおじちゃん。アレッタお姉ちゃんは?」

 

「ああそうだった。その話の途中だった。アレッタがどうかしたんですかサラさん?」

 

「ええ実はね…」

 

 

…………

 

サラの自宅

 

 

コンコン「アレッタ~?今日はねこやの仕事じゃないの?」

 

いつもはこれより早い時間帯に出ている筈なのだがまだ中から気配がする。

 

「入るわよ?」ガチャ

 

そう言ってサラが扉を開けるとそこにはまだベッドにいるアレッタがいた。ただその表情は少し辛そうに見える。

 

「!アレッタ…大丈夫!?」

 

「…サラ、さん…?おはよう…ございます。…どうしたんですか?こんな早くに…」

 

「もうとっくにねこやに出かけてる時間なのに貴女がまだ起きてこなかったから心配になったのよ。それより大丈夫?…結構高い熱ね」

 

「…え!も、もうそんな時間なんですか!?大変…急いで起きないと…!」

 

自分が遅刻している事に気づいたアレッタは慌てて起きようとするがその力は弱々しく、ふらふらしている。

 

「そんな身体で行ける訳ないでしょう。余り眠れてもいないみたいだし」

 

「だ、大丈夫です。それに今日は」

 

「今日は仕事休んでゆっくりしていなさい。私も家にいるつもりだから家の仕事も大丈夫よ」

 

「でも…」

 

「貴女は頑張り屋さん過ぎなのよ。いいから休んでなさい。後で何か温かいものとお薬持ってきてあげるから」

 

尚立とうとするアレッタを半無理やり寝かせるサラ。折れる気が無い彼女に遂にアレッタも甘えるしかなかった。今は違うとはいえ、つい最近まで貧しい生活を送って来たアレッタ。異世界食堂で働き始めてからはその客である赤の神から店と同じく自らの財宝の一部であると見定められ、小さきながらも加護を受けて大きな災いを受ける事は無くなった。しかし彼女も魔族とはいえ生き物、疲労を感じたり病気になる事は仕方がない。

 

「……わかりました。申し訳ありません。…じゃあ、あの、サラさん、ひとつ大事なお願いが…」

 

 

…………

 

「…という訳でアレッタが普段使っている扉から来たのよ」

 

「そうだったんですか。それはお手間をおかけしました」

 

「アレッタお姉ちゃんお風邪なの?大丈夫?」

 

「ええ、疲れが出たんだと思うわ。熱はあるけどゆっくり休めば数日で治るわよきっと」

 

(良かった…)

 

「だから申し訳ないけど今日はアレッタはお休みさせてもらうわね?」

 

「わかりました。…ああそうだサラさん。それならちょっとアレッタに持って行ってほしい物があるんですが」

 

「アレッタに?」

 

「ええ。すぐ用意するんでちょっと待ってくださいね」

 

 

…………

 

~~♪

 

サラは扉を開けて帰っていった…。

 

(アレッタ…早く治るといいね)

 

「ああ」

 

「アレッタお姉ちゃん、会いたかったなぁ」

 

「こいし。アレッタさんって?」

 

「前に言ってた私の新しいお友達だよさとりお姉ちゃん!」

 

「そう。良かったわね」

 

「…さて、となると今日は中々忙しくなるな。悪いがクロさん、宜しく頼むな。俺も配膳手伝うから」

 

(うん)

 

何やら気合を入れる店主とそれに応えるクロ。

 

「おじちゃんもクロお姉ちゃんも今日は忙しい?」

 

「ん?はは、いやいや大丈夫さ。それに忙しいのは職人としてありがたい事だからな」

 

心配そうな表情を見せるこいし。それに笑顔で対応する店主。するとそんなこいしを気遣ってか姉であるさとりがふとこんな事を言った。

 

「…成程、今日は普段より随分と沢山のお客様が来られるんですね」

 

「…え?」

 

「さとりお姉ちゃんは心が読めるんだよおじちゃん。ねぇねぇそれより今の話本当おじちゃん?」

 

「あ~…えっと…はは、参ったな」

 

ひたすら詰め寄るこいしにこれは打ち明けて落ち着いてもらうかと店主は説明する事にした。なんでも今日はランチタイムにハーフリングの団体客が来るらしい。ハーフリングは見た目人間の子供とあまり変わらない小人の様な種族。好奇心が高くて一ヶ所に留まる事が少なく、旅をしながら暮らしている。それだけなら可愛らしいのだが問題はその見た目以上に大変な大食いである事。「貯蓄をしない」「お金があるだけ料理を食べる」と言ってねこやに来た時はいつもより忙しく、それが大勢で来ると大変忙しくなる。前にクロがまだいなかった頃に来た時はおかわり自由という点もエンジンになって10人程で店のライスやパン、味噌汁も綺麗に食べ尽くした。普通なら来店する日は不明なのだが、今回は知り合いのハーフリングが「次は一月後に沢山連れてくるから」と予約していたのだ。幸いそれのおかげで十分な量を用意したのだが、アレッタという貴重な戦力が今回いないので実は結構辛いがそれは黙っていた。と言ってもさとりにはわかっていたのだが、先程ふっと言ってしまった申し訳なさか、店主を気遣ってか口には出さなかった。

 

「という訳で少し大変ではありますかね。まぁでも心配はいりませんよ。こんな事はたまにありますし、ひとりでやってた頃に比べれば全然楽になりました。クロさんもいますからね」

 

(任せて)

 

「ああそれよりもすいません、話ばかりしてしまって。まだ準備中ですが折角来られたんですから何か」

 

すると店主が話している途中でこいしが驚く事を言い出した。

 

「じゃあこいしがお手伝いする!」

 

「「「(「……え?」)」」」

 

店主、クロ、さとり、そして店の中を今まで見渡していた空や燐まで一緒に声を合わせた。そして慌てるのは当然彼女ら。

 

「な、何を言っているのこいし!」

 

「そそそ、そうですよこいし様!」

 

「こいし様が食堂のお手伝いなんて無理ですって!」

 

「普段やっている遊びじゃないんですよ?ちゃんとしたお仕事ですよ!?」

 

「食堂なら例えばちゃんとお客様をおもてなしして、注文に応えたりしないといけないの。失敗はできないのよ?貴女にできる訳ないでしょう?」

 

「む~そんな事ないもん!アレッタお姉ちゃんみたいな事は出来なくてもこいしだって出来る事がきっとあるもん!」

 

「いや、でも…こいしさん、気持ちはとても嬉しいけどちょっと流石に難しいかな」

 

「や~だ~!」

 

店主やさとりは止めるがこいしはがんと言って聞かない。それでも止めようとするその場の者達。その中でクロが、

 

(………マスター。お手伝いしてもらったらどうかな?私が教えるから)

 

「クロお姉ちゃん!」

 

「え?いやしかし…」

 

(まだ少し時間はある。難しい事は無理だけど、お水やおしぼりやメニューを出したりはできると思うよ?)

 

「う~ん、まぁ、こいしさんでもそれ位ならできるかもしれないが…こいしさん程幼い子を働かせるのは…。それにご家族の皆さんの意見もある」

 

「大丈夫だよおじちゃん。私これでもおじちゃんよりずっと長生きだもん!前に言ったでしょ妖怪だって。さとりお姉ちゃんお願い!!お空もお燐も!」

 

「こいし様…」

 

「でもこいし様…」

 

「……」

 

空も燐も、そしてさとりも何も言えない様子。

 

 

(人の心なんて見ても落ち込むだけで良い事なんて何一つ無いもん)

 

 

心を読む事の残酷さを知ってからはサトリでありながら自らの第三の眼を封印したこいし。以後の彼女は自由気ままに毎日をただ過ごすだけとなってしまった。姉や空や燐と過ごす事で少しずつ本来の明るさが戻ってきているがまだ完全ではない。姉のさとりはそんな彼女がここまでやる気になっている様子を見るのは久々であった。

 

「………はぁ、わかりました」

 

「さとりお姉ちゃん!」

 

「さとり様…」

 

「いいんですかさとり様?」

 

「ここまでやる気になっているんだから仕方がないでしょう。店主さん、そしてえっとクロさん?こいしの事、今日一日お願いできますか?」

 

さとりとクロの言葉で店主もついに、

 

「……わかりました。ならこいしさん、お昼の時間だけ手伝ってもらえますか?そこさえ終われば後は大丈夫ですから」

 

「うん!」

 

喜ぶこいし。するとさとりが、

 

「…お燐にお空。私達も手伝いましょう」

 

「ええ!?」

 

「わ、私達もですかさとり様!?」

 

「い、いやいやえっと、さとりさん、でしたっけ?そこまでしていただかなくても」

 

「この子だけを手伝わせるなんてできません。ご迷惑じゃなければ私達もお手伝いさせてください。こう見えて色々できますので」

 

「わ~い!皆でお手伝いだ~♪」

 

「えっと…空さんと燐さんでしたっけ。おふたりは宜しいのですか?」

 

「う、うん。もう断れる雰囲気じゃないしね」

 

「さとり様やこいし様がやるって言ってるのにあたいらだけやらない訳にはいかないよ」

 

「…わかりました。それじゃあすみませんが、少しだけお手伝いお願いします。クロさん、悪いがさっき言った通り最小限の範囲でいいからできる限りの事を教えてあげてくれ」

 

(うん)

 

「…あ、とはいっても服どうするかな…。お燐さんとお空さんはサイズは多分あるがその翼とかがな。あとこいしさんとさとりさんに合うサイズは…」

 

(大丈夫。私に任せて。先にシャワーさせてくるね)

 

 

…………

 

~~~~♪

 

 

「いらっしゃいませ~♪」

 

「…おお!今日はアレッタではないのか?」

 

「アレッタお姉ちゃんはお風邪でお休みなの、じゃない、なんです!だからこいし達がお手伝いしてるの、じゃないしてるんです!こちらのお席にどうぞ!」

 

それから数時間後、店内で働く彼女らの姿があった。こいしは来店した客に挨拶と席に案内するのが主な役割でたまに水とおしぼりを持っていったりしている。言葉使いを間違える事はあるがそこは彼女の元気と人柄で許してほしい。

 

「ご、ごご、御注文は何にしましょうか?」

 

「オムライス、オオモリ。オムレツサンコ、モチカエリ」

 

「こちらサービスのお水とおしぼり、ああそれとメニューになります!」

 

「ああありがとう」

 

空と燐は同じく水とおしぼりとメニュー、見た事無い客に少し驚く事はあるが料理を運ぶ等いわば配膳役で意外と手慣れている。因みに空が普段から付けている制御棒や像の足は外している。

 

(マスター、カツドン大盛り2杯とテリヤキチキンおかわり、注文頂きました)

 

「はいよ」

 

「…ご馳走様。ほい勘定。アレッタに宜しくな」

 

「…はい、確かに。ありがとうございました」

 

さとりは地霊殿の仕事でやった事があるのか、勘定等の計算をしたりしている。また心配だった彼女らの服はクロが自らの魔法で用意したもので、色はクロと同じく黒一色である。丁度お昼時なので客は多いが人数が多いのでなんとかなっている。

 

「ふぃ~、結構大変だね」

 

「これをひとりでやってるネムノ達は感心するよ。でもこれ位ならうちらでもなんとかなるね」

 

「貴女達、気を抜いてはいけません。まだ予約しているお客様が来られていないのですから」

 

「「は、は~い!」」

 

すると噂をすれば、

 

~~~~♪

 

「「「「「こんにちは~!」」」」」

 

扉が開けたと同時に、多くの小さい客達が来店した。

 

「あ、いらっしゃい。ピッケさんにパッケさん。お待ちしておりました」

 

ピッケ(クリームコロッケ)

「うんこんにちはおじさん!皆連れてきたよ!」

パッケ(クリームコロッケ)

「今日も日替わり定食とクリームコロッケお願いね!」

 

…………

 

「「「ライスおかわり~!」」」

 

「「「パンもっとちょうだ~い!」」」

 

「「「スープおかわり~!」」」

 

(承知しました)

 

「「「は~いただいま~!」」」

 

それから再び数時間後、店内の一部のスペースから凄まじい量のおかわり希望の声が響く。先にも述べた様にねこやの料理はメイン料理を一回でも頼めば、他のものはおかわり自由。幾らでも食べれる事ができるのでこれを望んで、しかも二十人位のハーフリングがどんどんと食べているのだ。勿論客はハーフリングだけでなく他にもいるので配膳にさとりもこいしも参加していた。

 

「ひ~さっきから動きっぱなしだよ~!」

 

「ほんとあんな見た目なのに凄い食欲だね~!」

 

「「お待たせしました」~!」

 

「!こ、こいし様、さとり様も、ここはあたい達がやりますから!」

 

「大丈夫よお燐。私もこれ位はできるわ」

 

「はいどうぞ!」

 

「ありがとう♪今日はアレッタお姉ちゃんじゃないんだね」

 

「アレッタお姉ちゃんはお風邪でお休みなの!」

 

「そうなのね~。あ、私もパンをおかわり!」

 

「は~い♪おじちゃ~んパンおかわりお願いしま~す」

 

「……」

 

こいしは店主に注文を伝えに行く。その様子を見たさとりは妹の楽しそうな表情に安心する。そして彼女自身もこの店の雰囲気に驚いていた。自分達がここに来てからほんの数時間、様々な人間や種族が来店している。人間、妖精、魔族、魔族よりも魔物と言える者達も。しかしそのどれもが満足した表情をしていた。少なからず心を読んだりしたが邪悪な感情は殆ど感じなかった。誰もがただ純粋にこの店の食事を楽しみに来て、満足して帰っていくのだ。種族違いの争いも何も起こらずに。とても平和な風景。弾幕の争いも無い。

 

(こいしの言った通りいい場所ね。…もっと早くここを知っていたら…私もこいしも違ってたのかしら)

 

「お嬢ちゃん、こっちもおかわりお願いします!」

 

「あ、はい。只今」

 

 

…………

 

~~♪

 

「「「「ありがとうございました~♪」」」」

 

そしてそれから更に数時間後、店内の最後の客が帰っていった。お昼の時間が過ぎると夜まで少しゆっくりになるらしく、他に客はいない。

 

「つ、疲れた~~」

 

「最初の忙しさなんて大したこと無かったね…。クロさん全然疲れてない様に見えるよ?」

 

(私は大丈夫です)

 

「さとり様とこいし様は疲れてないんですか?」

 

「ちょっと疲れたけど私は配膳はあまりしていないから。こいしは大丈夫?」

 

「私もちょっと疲れたけど大丈夫だよ!お空、お燐、どうもお疲れ様!」

 

「「こ、こいし様~」」

 

こいしの言葉に涙する燐と空。するとそこに店主が来た。

 

「皆さん、クロさんも、ありがとうございます」

 

「食堂ってほんと大変なんだね…。こんなに忙しいなんて思わなかったよ」

 

「本当にお疲れ様でした。後は俺達だけでも大丈夫です。この後バイト代もお支払いしますのと、お礼として良かったら何か食べて行ってください。タダにしますんで」

 

「うん、もうお腹ペコペコ。あ、それなら前に食べたものがいい!フワフワなの!」

 

「ああ「スフレパンケーキ」の事ですね。わかりました。さとりさん達も遠慮なく食べてってください」

 

「ありがとうございます。ただ、あまりご迷惑かけるのも悪いですから私達も同じもので良いですよ?あとお給金も結構ですから」

 

「いえいえ。…あ、じゃあ折角ですから「スフレパンケーキ」と新しいメニューをお出ししますね」

 

 

 

 

……店主調理中……

 

 

 

 

…………

 

服を着替え、店内のテーブルにて待つさとり達。

 

(大変お待たせしました)

 

「ありがとうございます、私達だけ。クロさんもお腹空かれてますでしょうに」

 

(大丈夫です。こちら「スフレパンケーキ」でございます)

 

こいし、そして空の前には以前こいしが来た時に朝食として食べたスフレパンケーキが出された。柔らかそうな白い円形のパンケーキ。白いクリームや鮮やかな色どりのジャムやベリーと、あの時食べた時とフルーツだけ違うがほぼ変わっていない。

 

「わ~い♪」

 

「わ~凄く柔らかそうだね!」

 

(そしてこちらが新しいメニュー「フレンチトースト」でございます)

 

そしてさとりと燐の前に出されたのは、厚く切られたパンがこんがりと焼かれたフレンチトーストなる料理。卵と牛酪のいい香りがし、甘い匂いを放つ光沢を持った薄茶色の液がかけられている。周りにはスフレパンケーキと同じ様にいくつものベリーやクリームも添えられている。

 

「わ~綺麗だね!」

 

「フレンチトースト…。初めて見るわね」

 

「ふわ~なんて甘い匂いにゃ~…。あ、猫じゃないからね!」

 

「これも美味しそう~」

 

(あとこちら、サービスのホットココアです)

 

「わ~いいただきま~す♪」

 

「いただきます」

 

「「いただきます!」」

 

最初に来た時の緊張感はどこへやら、燐と空も笑顔になっている。こいしと空はパンケーキにナイフを入れる。ふんわりとして、すんなりと切れる感触のそれを一口サイズに切り、生クリームや甘酸っぱいジャムと一緒に食べる。

 

「やっぱり美味しいや♪」

 

「す、すごく柔らかい!」(モグモグ)「ケーキだけなら甘さひかえめだけど、この生クリームと苺のソースと一緒に食べるととっても美味しいよ!」

 

「でしょでしょ!ねぇクロお姉ちゃん、この茶色いのは何?」

 

(それはチョコレートソースです)

 

「これもとても甘くて美味しいですね♪」

 

「わ、私達も食べましょうさとり様!」

 

「ええそうね」

 

こいしは久しぶりの、空は初めてのスフレパンケーキの味に満足している様だ。我慢できなくなったらしい燐に言われてさとりもナイフとフォークを取る。早速その分厚いパンにナイフを入れると、サクッとはでなくこちらもふわふわな感触。更に切れ目からパンに染み込んでいるらしい卵液が出て来る。まず何もつけずに食べると、

 

「! こ、これは…なんという…凄く甘くて、凄く柔らかくて、凄く美味しいです!」

 

凄いという感想を繰り返す燐。さとりもふわふわとしたパンを口に含む。まず感じるのは甘さ、多分沢山砂糖をつかっているのだろう。そして噛むたびに卵や牛乳、牛酪の風味が一層感じられ、鼻に抜ける。更に上にかけられている見た目蜂蜜の様でちょっと違う、茶色いソースがこのトーストに絶妙に合っている。

 

「…美味しい。そして確かに凄く甘いけど…でも決して嫌な甘さじゃない。卵、そして牛乳の濃厚な風味、そして牛酪の香り、色々な、見た目以上に複雑な味わいだわ」

 

「このソース…樹液みたいなにおいですけどこんなに甘い樹液があるんでしょうかね?まぁいいか!あとこのクリームやジャムを付けるともっと甘いですけど、これが不思議と何度でも食べたくなります!」

 

「落ち着きなさいなお燐。まぁ気持ちはわかるけど」

 

「ねぇお姉ちゃん。そのふれんちとーすとっていうの少しちょうだい♪私もスフレパンケーキあげる♪」

 

「はいはい」

 

「お燐、うちらもちょっと交換しよう!」

 

「え~ちょっとだけだからね~」

 

そんな感じで地霊殿の家族達の賑やかで、ちょっと遅い昼食は彼女らがおみやげを持って帰るまで続いた。

 

 

…………

 

一方、ねこやからサラが自宅に戻ってきていた。

 

コンコン…ガチャ「アレッタ」

 

「…あ、サラさん」

 

「ねこやにはお休みのお話してきたわよ。仕事のことは気にせずゆっくり休んでくれって言ってたわ」

 

「すみません…。…?サラさんそれは…あれ、このにおい…」

 

サラが持ってきたのはねこやで使っている小鍋。蓋を取ると中にはコーンの粒が浮いている黄色い騎士のスープ。アレッタが好きな「コーンポタージュ」だ。まだ少し湯気を放っていて甘いにおいが漂ってくる。

 

「店主から預かって来たのよ。アレッタに食べさせてあげてくれって。まだ温かいからこのまま食べられるわよ。今食べられる?」

 

…くぅぅ…

 

そう言い切る前にアレッタのお腹から小さな音が。思わず赤くなる。熱とは違う様だ。

 

「……」

 

「ふふ、食欲は問題ない様ね。…はいどうぞ」

 

そう言いながらサラは木の皿にスープを入れて渡す。一緒に入れた木の匙でスープを掬い、口に運ぶ。ほんのり温かい、コーンの甘さと風味が優しく、風邪をひいた身体に染み渡る。

 

「…美味しいです」

 

思えばねこやに初めて紛れ込んでしまった時もこのコーンポタージュを食べた。お腹が空いているとはいえ流石にあの時みたいに鍋をすっからかんにするほどがっつく事は無いがそれでもこのスープは何度食べても美味しいと思う。今まで色々なものを食べてきたが、この味は彼女にとってある種特別である。

 

(早く身体治して、また頑張らなくちゃ)

 

身体は少し弱っているがアレッタのやる気は衰えてなさそうだ。

 

 

…………

 

おまけ

 

 

その七日後、すっかり体調が戻ったアレッタは元気に出勤してきたのだが…、

 

「え〜この前こいしちゃん達来たんですか〜!?私も会いたかったです〜!しかも私の代わりに働いてくれたなんて〜!」

 

「何度も断ったんだが、どうしてもって言ってな」

 

(ふふ。アレッタの分まで張り切ってたよ、あの子)

 

「あ〜ん、私のバカバカバカ〜!」

 

「はは。今度会ったらお礼言っときな」

 

幼い魔族の子と妖怪の子の再会は果たして何時になる事やら…。




メニュー30

「ホットチョコレート」


皆さんこんにちは。storybladeです。遅ればせながら明けましておめでとうございます。
今年は元旦から大災害や大事故等、まさに龍が暴れている様な年明けとなってしまいました。皆さんは大丈夫でしたか?自分は幸い震災や事故に巻き込まれる事は無かったですが、自分の同僚のご家族が輪島にいて被災したそうです。幸い無事ではありましたが。
気が滅入る様な事ばかりですが、それでも毎日頑張って生きるしかないんですよね。という訳で今年も頑張ります。今年は自分の仕事の都合がまた変わり、昨年よりも投稿が遅くなる事も増えそうです。少なくとも月一回は投稿できる様目指しますので、気軽にお待ちいただければ幸いです。

今年も幻想郷食堂を宜しくお願いします。

こんにちは、storybladeです。幻想郷食堂をお読み頂きありがとうございます。突然ですがアンケートです。先代博麗の巫女や魂魄妖忌の回があれば読んでみたいと思いますか?公式設定が少ないのでオリジナル要素を含んでしまいますがどうでしょうか?ご意見お願いします。期限は今月一杯です。

  • あれば読んでみたい
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