「よぉ、今日のスイーツ持って来たぜ」
とある日のねこやの朝。エレベーターが鳴り、やってきたのは同じみフライングパピー店長。
「おはよう。今日もありがとな」
「なんのなんの。うちのケーキが喜ばれんのならこれ位ってね」
言いながら冷蔵庫にケーキを入れていく店長。
「そういやまた最近、うちの新作を気に入ってくれた異世界の人がいるらしいじゃないか」
「…あああの人か。そうだな、確かあの人も僧侶さんだっけか」
「そうなのか?そいつは偶然だな。ラムレーズンといい、うちの商品はそういう人に好かれやすいのかな?ははは」
そんな会話をしながらこの日の準備も進んで行った。
「信貴山縁起絵巻」
平安時代末期に作られた著者不明の絵巻物。「源氏物語絵巻」「鳥獣人物戯画」「伴大納言絵詞」と並ぶ四台絵巻のひとつで日本の国宝であるその絵巻物の中に、生没年不詳のひとりの若き僧の名が出てくる。名を「命蓮」。幼い頃に信貴山で修業を積んだ同時代中期の僧。毘沙門天から与えられたその力で天皇の命を救ったとされる伝説の聖人。命蓮は一度も故郷に帰らず、毘沙門天と虎を祀る寺にて死ぬまでひたすらに仏道に励んだとされている。そしてそんな彼にはひとりの姉がいた。
幻想郷「命蓮寺」
尼僧
「見れば、月あかりの中、六人のお地蔵様がだんだん遠く小さくなっていくところでした…」
季節は春目前となりかけた頃。幻想郷のここ命蓮寺では子供達を前に読み聞かせが行われていた。子の語彙力や想像力、感性を豊かにし、その素質を伸ばすためであると同時にお寺に慣れ親しんでもらうために定期的に行われている恒例行事。読み聞かせているのはひとりの女性。金髪に紫色のグラデーションがかかった長い髪に金色の目をしている彼女は見た目坊主では無いがこの命蓮寺のれっきとした尼僧である。気づかれたと思うがこの命蓮寺は先述の僧命蓮から取った名前であり、彼女こそ命蓮の姉、名を白蓮という。弟から法力を学び、こうして同じ仏門に入った。最も彼とは年齢や時代が合わない様な気がするがその話はまた後程述べる。
「…そして心やさしいお爺さんとお婆さんは、それからも二人で仲良く暮らしましたとさ。めでたしめでたし」
パチパチパチパチ!!
そしてやがて、子供達の拍手と共に本日の読み聞かせは無事に終わった。
…………
「「「和尚様!さようなら~!」」」
「はい。さようなら」
子供達は元気に帰っていった…。
「ふぅ」
「お疲れ様です聖様。今回も良かったですね」
「ありがとう響子。そうね。皆しっかりとよく聞いてくれていました。あの子達にも慈愛の心が伝わっている事を願いましょう」
「勿論です。聖様の説法はとても心に響きますから」
「お世辞でもそう言ってもらえて嬉しく思います」
「お世辞なんかじゃないです!私だけじゃなく村紗達だってそう思ってます!」
「…ありがとうございます響子」
寺の寺務員であり、修行僧でもある響子からそう言われて感謝を述べる聖だが…その表情はどこか浮かない。
「…どうされたんですか聖様?」
「ねぇ響子。貴女もここに通う様になって結構経ちますね」
「ええそうですね。妖怪のためのお寺があるなんて半信半疑だったですけど、でも今は人にも妖怪にも慕われる唯一のお寺ですもんね♪」
「慕われる、か…」
「…聖様?」
「…響子。最近私、ふと思った事があるのです。このままでいいのでしょうか、と…」
「それはどういう…?」
聖の思い詰める顔に響子は尋ねる。
「貴女には以前お話したことがあるでしょう?私の昔の事」
それは聖が弟と共に生きていた時代の話。ふたりはとても仲の良い姉弟であった。しかし命蓮は不運にも姉より先にこの世を去ってしまう。弟の死を深く悲しんだ聖はショックから死を酷く恐れる様になり、今まで学んでいた仏の力よりも強い力を望む様になった結果、人間で無くなると知りながらも魔術、不老長寿と若返りの力に手を伸ばした。その後彼女は己の修業も兼ねて妖怪を利用し、時には退治して回った。人間で無くなっても彼女は多くの人々から人望を得ていたのだが、自分も含めた人間に日々排除される妖怪達を見てある時ふとこう思う様になった。
(全ての妖怪が悪いわけではないのかもしれない。ならば人間だけでなく不当な迫害を受ける妖怪も守らなければならない。人も妖怪も、神も仏も全ては同じだ)
それからの彼女は人も妖怪も平等に扱う絶対平等を訴える様になった。その甲斐もあって最初は彼女を敵視していた妖怪達も次第に彼女を信じる様になっていったが…、
「でも人々は聖様を許さなかったんですよね…」
だが当然というか、妖怪とは反対に当時の人々は聖のそんな思想を許さなかった。「妖怪に味方する悪魔」等と人々は彼女を責め、結果彼女は魔界への封印というあまりに大きな仕打ちを受けたのであった。命蓮と一緒に暮らした時代ははるか昔となる程幾年の長い月日が流れたある日、彼女は思わぬ形で復活する事になる。昔彼女によって助けられた妖怪達が旧地獄に封印されていた船、「星蓮船」によって脱出し、彼女を救おうと動き出したのであった。妖怪らの尽力や霊夢達の協力(本人はそんなつもりは全く無かったのだが)によって聖は無事解放されたのであった。
「急に思い出したらなんて酷いことしたんだろうって思えてきました!聖様は何も悪い事してないのに!」
「仕方がありません。皆の気持ちもわかります。そして私は妖怪達も来れる場所を作りたいと思い…」
「星蓮船を使ってこの命蓮寺を建立したんですよね確か。そのおかげで今では幻想郷で一番人にも妖怪にも慕われる場所です!」
「…ですが、人と妖怪の溝は相変わらず変わりません。私は目覚めた時、目の前にいた霊夢に言いました。「昔から何も変わっていないのだな」と」
その言葉の通り、目覚めた彼女が見たのは人が妖怪を恐れ、時には排除している昔となんら変わらない風景であった。
「この幻想郷では致し方ないという事はわかっているのです。ですが…ほんの僅かでもこのまま人と妖怪が何も変わらない、変えられないならば…私を必死で封印から解き放ってくれた村紗達に申し訳無い気がして」
「聖様…」
「「「それは違います!!」」」
するとどこかで聞いていたのだろう、大きい声で止めたのは聖を慕う命蓮寺の者達。
「聖様!そんなふうに自分を責めないで下さい!」
「私達は人と妖怪の間を何とかしてほしいと思って聖様を助け出したんじゃありません!聖様だからお助けしたかったんです!昔私達を助け、唯一味方してくれた聖様を!」
「むしろ謝るのは私達の方です。もっと早くお助けしたかったですけど…弱い私達では無理でした。間欠泉の件とぬえの力でやっとでした。お待たせしてごめんなさい聖様」
「うん」
村紗や一輪、小傘やナズーリンの必死さが伺える。
「聖」
すると奥からもうひとりの人物が出てきた。命蓮寺の本尊である毘沙門天(の代理)にして修行僧のひとりである虎丸星だ。
「貴女の教えは確実にこの幻想郷に影響を及ぼしています。人にも妖怪にも。そうでなければここの皆はおろか、依神姉妹やぬえといった者達もああしてここに修業しにきたりしないでしょう。もっと自信を持ちなさい」
「虎丸…」
「…そうして見ると嘗ての命蓮を思い出しますね」
「弟ですか?」
「毘沙門天様も仰っていました。彼も今の貴方みたいに時に、いえ貴女以上にいつも悩んでばかりだったと。だからこそ彼は多くの者に慕われたのですけどね」
「そうですか。弟が…」
「違う種族、ましてや人と妖怪の互いの理解等そう簡単に成しえるものでは決してありませんよ。焦ってはいけません。神霊廟の方々もそう言っています。最近の貴女はそうでなくとも最近頑張りすぎです。ほんの少し肩の力を抜いてもいいと思います」
星のその言葉に頷く一同。
「…ありがとうございます皆」
「あ~あ、こういう時ねこやに行けたら聖様も休めるんだけどな」
「そう言えばあそこは色々な人がいるもんね。あそこなら聖様も色々考えられるんじゃない?」
「それじゃあ休憩にならないでしょ。まぁでも確かにゆっくりは出来るかもね~」
「扉…ダメだと思うけど私のダウジングでわかるかな。………あれ?」
そう言いつつナズーリンがロッドを出すと…何故か仏壇の前を指し、そして、
ヴゥゥゥゥゥゥゥン!
目の前にいきなり扉が出現した。
「「「出たーー!!」」」
「…ワタシハサイキョウ~」
「こ、これが噂の扉ですか…。驚きました」
「私も今の今まで感じませんでした…」
「び、吃驚です~!」
まるで導くかの様に現れた扉は静かにそこに立っている。
「聖様、行かれたらどうですか?」
「え、でも…」
「お寺の事は私達がやっておきますから、さっきも言った様にたまには肩の力を抜いてきてください」
「あ、でもおみやげは持ってきていただけると嬉しいです♪」
「何も心配いらない。……おみやげはチーズが良い」
何やら個人的理由も含んでいるが、聖を気遣う気持ちは全員本物である。
「……わかりました。皆の気持ちを受け取り、ありがたく行かせて頂きます」
「そうだ。星様や響子も行って来たら?」
「わ、私もですか?」
「いえ、聖が行くのなら私は」
「師匠も最近物忘れや無くし物が特に多い。師匠も疲れている証拠」
「ふぐ!」
目を細くして睨む弟子にうろたえる師匠。
「………はぁ、わかりました。では聖の護衛として私も行きましょう」
「じゃ、じゃあ私も行きます!」
「あ、それではちょっと待っていてください。着物を変えてきます」
「着替えるんですか?」
「作務衣では不向きですからね」
そう言って自身の部屋に戻っていった聖。…そして暫くして衣装を変えて戻って来た。白黒のドレス姿に表地が黒・裏地が赤のマントをはおり、ブーツを履いている。
「お待たせしました。それでは参りましょうか」
「ナズーリン、他の者も留守番頼みますよ」
「うん」
「は~い♪」
「おみやげだけ宜しくお願いしますね~♪」
「い、行ってきますね!」
~~~~♪
聖、星、響子は扉を開け、ねこやに入って行った。
…………
扉を開けた先で聖達が見たのは木をベースにした洋風の建物の中で、様々な種族が仲良く食事をしている風景だった。人間は勿論、耳長のエルフ、トカゲの様な人間、掌位の妖精…。
「これは…」
「ひ、聖様!星様!見たこと無い人や妖怪がご飯食べてますよ!」
「落ち着きなさい響子。…しかしナズーリン達から聞いてはいたものの実際目にするまでは中々信じられませんでしたが、本当だったのですね」
目の前の光景に驚く三人。そんな彼女らのもとにいつもの様にアレッタが近づいてきた。
「いらっしゃいませー!ようこそ洋食のねこやへ!三名様ですか?」
「え、ええ。あの、ここは外の世界の食事処と身内から伺ったのですが…」
「はい、ここは異世界にある料理屋です!私はこちらで働いているアレッタです。宜しくお願いします!」
元気な彼女の顔に聖も綻ぶ。頭から見知らぬ角が生えている事から彼女もまた人間でない事はわかるが、聖らは気にしない。
「ええどうも初めまして。異世界の方。私の名前は聖白蓮。古き時代の僧侶です」
「虎丸星と申します。聖の友人であり、幻想郷にある命蓮寺で毘沙門天の代理をしております」
「みょ、命蓮寺で修業している山彦の幽谷響子です!初めまして!」
「ミョウレンジ…じゃあナズーリンさん達のお知り合いの方々ですね」
すると今度は厨房から店主も顔を覗かせる。
「いらっしゃい」
「あ、はい、こんにちは。その格好…貴方がこちらの店主様ですか?」
「ええ。ようこそ異世界食堂へ」
「異世界食堂…。成程、確かにその呼名に相応しい光景ですね」
「人間が…えっと妖怪?にお料理出してるんですか?」
「ええ皆さんこちらのお客様ですよ。とりあえずお席にお座りください」
「ありがとうございます」
「どうぞ!お好きなお席に」
金色の髪の女性
「あの…ちょっと失礼、そちらの方」
とアレッタが案内しようとしたその時、傍の席に座っていたひとりの女性が話しかけてきた。金色の長い髪を整え、深緑色のローブを纏った右目に泣き黒子がある女性。
「?はい。なんでしょうか?」
「貴女から強い聖なる力を感じます。僧侶との事ですが…もしかして最近繋がったという異世界の方ですか?」
「異世界…幻想郷の事でしょうか。はい、そうですね。神ではありませんが仏に仕えております僧侶です」
聖の答えに女性の表情がふっと柔らかくなる。
「でしたら…もしよろしければご一緒にお茶しませんか?司祭としてより見聞を広めるため、他の世界の方と一度交流してみたいと思っていたのです。…如何でしょう?」
「ど、どうします聖様?」
聖は顎に手を当てて少し考え、
「……いいですよ」
「良いのですか聖?」
「ええ。私も異世界の神仏について興味があります。お話を聞かせていただきたいです」
相席をする事になった聖達。女性の横に聖が、その前に星と響子が座る。
「お冷やとメニューです!お決まりになったらお呼びください」
「ありがとうございます」
「私はいつものを。あ、お出し頂くのは皆様と同じ時で構いませんわ」
「畏まりました」
そう言って暫し離れるアレッタ。
「私共のことはお気になさらずとも良いのですよ?」
セレスティーヌ(パウンドケーキ)
「いえ、ご無理を申したのはこちらですから。あ、ご挨拶が遅れてしまいました。私、セレスティーヌ・フレグランと申します。光の神の僧院にて院長を務めております」
「これはご丁寧に。聖白蓮と申します。幻想郷にある命蓮寺の僧です」
「虎丸星と申します。虎丸とも星とも好きな方でお呼びください」
「や、山彦の幽谷響子です。は、初めまして」
「宜しくお願い致します」
「それにしてもセレスティーヌ殿は見たところまだお若いのに長とは…御立派ですね」
「とんでもありません。…見た所貴女、そして隣の方は人では無い様ですが、どういった種族なのですか?」
セレスティーヌの言葉に星は毘沙門天という仏神(代理ではあるが)、響子は山彦という妖怪だという事を説明する。山彦は知っての通り遠い山に声がぶつかるとそれが自分の所に跳ね返ってくるというものだが、それは彼女らの仕業であると話した。
「山彦にその様な種族が関わっていたとは驚きです…。そしてトラマル様は神であられたのですね。知らぬとはいえ、御無礼を致した事をお許しください」
「いえいえ私は代理ですのでそれこそお気になさらず。普通に接してもらえると助かります」
「…ところでセレスティーヌ様。貴女の仕える光の神とは?」
「はい。光の神とは…」
異世界で最も偉大な存在とされる「赤」「青」「金」「緑」「白」「黒」「万色の混沌」からなる「七色の覇王」の一柱。セレスティーヌが仕える光の神はこの中の「白」と同じとされ、生物の成長を司り、かつ最も慈悲深い神で人間を最も好むと言われている。そしてセレスティーヌはその光の神を崇拝する院の院長であり司祭、しかも最若年で高位になった秀才であった。
「七色の覇王。私共の「天」の様なものでしょうか」
「そしてこの店は「赤」こと火の神と「黒」こと闇の女神の加護を受けている場所でもありますわ」
「火の神に闇の女神…あれ?でもそうなら異教のセレスティーヌさんは来て大丈夫なんですか?」
「ええ問題ありませんわ。私以外にもほら、あちらの僧は「金」こと空の神に仕えておりますし、あちらの人魚は「青」こと水の神。そして先程のアレッタさんは魔族の神にして、嘗て神々が打ち倒したという「万色の混沌」を崇拝しております」
「…その「万色の混沌」とは?」
聖の質問にセレスティーヌは説明する。
同じ七色の一柱とも、そうでもないともされるそれは知性はなく、形も定まらず、地の底から現れて地上の生物を食らい尽くし、同時に新たな生き物を生み出し、また地の底に帰っていく。生命の始まりと終わりを司る存在であるという。過去に何度も出現したとされているが今から約3万と少し前に残りの六柱によって滅ぼされた。しかし唯一神として崇拝する魔族によって復活を計画され、四英雄を始めとする復活を阻止せんとする者達との間で激しい戦争が起こった。後に「邪神戦争」と呼ばれたそれは多くの犠牲を出しながらもなんとか復活を阻止する事ができたのである。
「実は私の先代も四英雄のひとりでしたの」
「貴女の世界でもその様な事があったのですね…。ですがそれでは魔族への糾弾や弾圧は結構厳しかったのではないですか?」
「…確かに戦争直後はそれもあったと伺っています。実際今でもそう言った目で魔族を見る方もいます。ですがその戦争ももう70年以上も昔の事。何時までもそんな事を申していても仕方がないと先代や同じ戦友であるアルトリウス様始め、多くの方が述べております。実際私共の国や地域でも魔族と共に暮らされている方は多いですよ」
「凄いですね…まるで命蓮寺の様です」
それを聞いて少し考える表情を見せる聖。
「…セレスティーヌ様。少し私のお話を聞いていただけませんか?」
…………
「…という訳なのです」
「その様な事が…。では聖様は…1000年以上前の世界の方なのですね」
「幻想郷は人と妖怪のバランスが極めて重要な世界。それは重々わかってはいるのですが…そちらの世界の様に、人とそうでない種族がもう少し歩み寄れる方法はないのでしょうか…」
「「聖(様)…」」
するとセレスティーヌは、
「……申し訳ありません。私はヒジリ様やトラマル様と比べればまだまだ若輩者。おふたりでさえ無し得ていない事。私にも…わかりません」
「いえいえ!とんでもないです。私もついつい弱音吐いてしまって申し訳ないです」
「ただ…しいて言えば…趣味のようなもの、と考えてはどうでしょうか」
「…というと?」
趣味という思いもよらない言葉に聖のみでなく星や響子もポカンとしている。
「例えばこの私。本職は司祭として多くの弟子を育て、後々の子供達に神の教えを説く事をしています。ですが…その片隅で悪魔のケーキの研究をしております」
「あ、悪魔の…」
「ケーキ…?」
「このねこやで頂いた他に類を見ない美味の菓子です。光の神は禁欲の神でもあります。ですが私は…それを頂いて決めました。神の試練を乗り越えるためにまずその菓子の正体を見極め、飽きるまで味わい尽くさねばならないと…!」
やや流暢になった様なセレスティーヌ。
「何度も何度もこれを我慢しようとしました。酒や煙草を好んでいた歴代の先代や師たちを軽蔑したものですが…無理でした。勿論、神への忠誠も決して忘れません。ならばどうすれば良いかと思った時、どちらも諦めなくても良いと結論づけました。世に神の教えを説きつつ、それと相反するケーキの研究を趣味としつついつかやり遂げてみせると!」
「は、はぁ」
「そしてこちらのお店。お店自体は今から50年程前にできたものだそうですが、異世界食堂は30年程前に開かれたそうです。最初はお客も殆ど、日によっては全く来られなかった日もあったそうですが、今の店主さんによると先代の店主様は決して焦る事は無かったそうです。「あくまでも趣味だからゆっくりのんびりやっていけば良い」と。そこからゆっくり扉が増えていき、ゆっくりとお客を増やしていったんだとか」
「いらっしゃいませサラさん!今日はご機嫌ですね?」
「今回の遺跡はすっっごい久々にアタリだったの♪てなわけでアレッタ、メンチカツに今日はライスで。おみやげにメンチカツサンドと一番大きいクッキーアソート缶ね!」
〜〜♪♪
「カツ丼大盛り!急ぎで頼むぜ!」
「相変わらず今日も声が煩いなお前は」
「この後連戦なんでな。気合入れてんのさ」
そして一方こちらではと言うと、
「…ほ〜こいつは食べた事無い貝だね。ほんの少し苦みもあって、でも濃い味わいで美味いよ。ビールともバッチリだ♪」
「そうじゃろうそうじゃろう!このカキフライもあと少しでシーズン終わりじゃ。たらふく食うぞい!」
「ところでそっちのユーギってのと違ってお前さんはオウガにしては随分ちびっこいのお?」
「なにお〜!おっちゃんよりはデカいぞ〜!」
真っ昼間からビールとカキフライを嗜む幻想郷の鬼ふたりと異世界のドワーフふたりや、
「ではタツゴロウ殿は人でありながら悪霊の類も斬れるのですか?」
「うむ。我が愛刀に知り合いの魔術師から魔法をかけてもらっているのでな」
「異世界の魔法とはまた興味深いですね!是非取材を」
「おまたせしましたーテリヤキチキンです!」
「あやや〜!と、鶏肉!」
鴉天狗と白狼天狗、そして異世界の剣豪が仲良く?食事していた。しかし聖達を気にしていない様だ。
「旧地獄の鬼や妖怪の山の天狗…!」
「あの鬼や天狗さえも普通に人や他の種族と食事するとは…」
「先代様や今の店主さんが趣味として数十年、ゆっくり急がずされてきた結果ですよ」
聖はそんな店内を暫し無言で眺め、
「…………ありがとうございます。セレスティーヌ様」
「……いえいえ」
セレスティーヌに礼を述べた。彼女の表情から何かを感じ取ったのかセレスティーヌもゆっくりと返した。
「さて、すっかりお話が長くなってしまいました。セレスティーヌ様をお待たせさせてしまいましたし、私達も早く何を頂くか決めましょうか」
「そうですね。といっても何がいいのかな。皆におススメのもの聞いて来ればよかったな」
「昼は超えましたし、何か軽食か菓子が良いですね」
「でしたら「パウンドケーキ」や「アイスクリーム」は如何でしょう?私や弟子がこちらで最も好んでいる菓子です。私はパウンドケーキですが嬉しい事に最近ふたつの種類から選べるようになりましたの。弟子達はアイスクリームもオススメとか」
「そうなのですか…でしたら私は…おや?こちらのパウンドケーキとやらはラムレーズン、というものと本日からの新商品がありますね」
「なんですって!」
と言ってメニューに目を向かせるセレスティーヌ。
「あ…も、申し訳ありません」
「ふふ、いえいえ。でしたら私はこちらのパウンドケーキを頂きましょうか」
「私達はどうしましょう星様?」
「そうですね…でしたらセレスティーヌ殿オススメのこの、アイスクリームとやらにしましょうか。…ほお、こちらはみっつ種類がありますね。では私はこちらの牛の乳と…このチョコレートというものにしましょう」
「じゃあ私は白いのとこの木の実を使ってるこっちにしようかな?」
其々注文を決め、アレッタに伝えた。
……店主調理中……
…………
「お待たせしましたー!(した)」
暫くしてアレッタとクロがトレーに聖達が頼んだデザートを持ってきた。
「こちらラムレーズンのパウンドケーキのティーセットと、新商品の塩キャラメルのパウンドケーキのティーセットです!」
(バニラとチョコレートのアイスに紅茶のセット。こちらはバニラとストロベリーのアイスクリームと紅茶のセットになります)
パウンドケーキのティーセットとアイスクリームのティーセット。
聖は本日からの新商品という塩キャラメルのパウンドケーキ。ナッツが降られた外側は適度に茶色く焼かれ、内側は黄色でその中に薄茶色い生地が模様を描いている。セレスティーヌが頼んだラムレーズンというそれも似ているがこちらは生地の中に黒色のレーズンがポツポツと浮かんでいる。どちらも白い皿の上に2枚、ホイップクリームと共に置かれている。
一方星と響子が頼んだアイスクリーム。星は真っ白なバニラと、焦げ茶色をしたチョコレートというアイスクリームの組み合わせ。響子は同じくバニラにこちらは桃色の中にポツポツと赤色を含んだストロベリーという木の実のアイスの組み合わせ。それが涼しそうな硝子の器に乗っている。
「いい匂いですね。焼き菓子の様ですが」
「これが新商品のパウンドケーキですか…」
「こちらは氷菓子でしょうか?」
「キレイ…」
「パウンドケーキはホイップクリームと一緒に食べても美味しいですよ。紅茶にはこちらのお砂糖をご使用ください。それではごゆっくり!」
「ええありがとうございます。…さて、セレスティーヌ様をお待たせしちゃいましたし、頂きましょうか」
聖、星、響子は食前の挨拶を、セレスティーヌは神への感謝の祈りをささげ、まず紅茶というものを飲んでみる事に。
「お砂糖を入れるお茶なんて変わっていますね」
「中々良い香りがしますね。色合いではほうじ茶や番茶に近いですが」
「……は~、緑茶とはまた違う渋さの中に砂糖の甘みが合いますね」
紅茶で落ち着いた聖はケーキに取り掛かる事に。フォークをケーキに入れると僅かに弾力があるもサクッと入る。一口サイズに切って口に運ぶと、まずキャラメルというものの香り。砂糖をゆっくり煮詰めながら作るキャラメルは強い甘みと焦げの香ばしい風味が味わえる。焦げは悪く聞こえるが最適なそれは逆に旨味になる。それがケーキ生地の甘さととても合う。更にそれにほんの僅かな塩を加える事で甘く、それでいてしょっぱさもあるが嫌なものでは決して無い。外のナッツのカリカリ感も面白い。
「…驚きました。このケーキというしっとりとした生地の食感と優しい甘み、それがこの茶色いキャラメルという砂糖の甘さを強くしたような味わいと共にある僅かな苦み、相反する様ですが不思議ととても合っています。それに塩と名がついていますが…甘味にこれほどまで合うのですね」
塩が入っているデザートとはどんなものか少し気になったがいらない心配だった様だ。塩キャラメルの味を気に入ったらしい聖。
「響子、私達も頂きましょうか」
「は、はい!」
星はバニラのアイスクリームから取り掛かる。匙がスッと入ったそれを口に運ぶと滑らかな舌触りと共に乳の濃厚さと品書きに書かれたバニラビーンズというものの強い甘みを感じる事が出来る。砂糖もたっぷり使っているらしい。響子はストロベリーというアイスクリームから。こちらは甘みもあるが爽やかだ。その正体は赤いつぶつぶで、冷たく凍って細かく切られた苺。勿論桃色の柔らかいそれにも苺の風味がある。どちらも口に含んでいるだけでゆっくりと溶けていく。
「苺の甘酸っぱさがとても美味しいです!こんな感覚のお菓子初めてです!」
「かき氷みたいな氷菓子とはまた違う味わいですね。濃い甘さで美味しいです。それにしてもお冷と言いこれと言い、これほどの冷たさを残すとは、よほど良い氷室を使っているのでしょうね」
「星様。このうえはーすってサクサクしててアイスと一緒に食べても美味しいですよ!」
「こらこら少し落ち着きなさい響子。……ほぉ、このチョコレートというものも食べた事無い味ですが美味しいです。甘さもバニラと比べてやや控えめで。こちらもこのバニラと一緒に食べてもよく合いますね」
星と響子はアイスクリームを楽しんでいる様だ。
「このホイップクリームという甘さ控えめの雲を思わせるものがこちらのケーキをまた違う感じの美味しさにしてくれますね」
「ええそうでしょう。ふた皿目は私もその塩キャラメルにしましょうか」
「おかわりするんですか?」
「ええ。飽きるまで味わい尽くさねばなりませんから♪」
それを聞いて笑うその場の四人。聖も。先程までの深刻そうに悩む姿は無く、彼女らにとって良き時間になった様である。
……少女食事中……
…………
「ご馳走様でした。皆さん」
「いえいえ」
「はい!おみやげのケーキです!」
「ありがとうございます。…うん、チーズケーキというケーキも入ってる」
「ナズーリンが妙にチーズとやらに拘ってましたからね」
(こちらブランデーケーキとアイスクリームです)
「ありがとうございます」
「セレスティーヌ様。色々お教えいただき、ありがとうございます、いずれまた」
「ええ私の方こそ。ヒジリ様もお元気で」
「皆様のまたのお越しをお待ちしております」
「はい。…店主様、こちらのお店、どうかこれからも続けて行ってくださいね」
「…?ええ、私が健康なうちは続けていきますよ」
それを聞いて安心した様に一度頷き、聖達は帰路に就いた。
…………
〜〜〜〜♪
「「「おかえりなさ〜い!」」」
「ただいま戻りました。何か問題はありませんでしたか?」
「うん」
「ただいま皆!おみやげあるよ」
「「「わ〜い♪」」」
「チーズもある。良かった…」
「……虎丸」
「なんですか?聖」
「……貴女やセレスティーヌ様の言われた通り、私は少し焦っていた様です」
その顔はどこかスッキリしたものにも見える。そんな彼女を見て星も安心した様な顔だ。
「何事も貴女にとって遅すぎる事はありませんよ、聖」
「ええ。ゆっくりのんびり。でも追い求める。私の理想を…」
「人も妖怪も神も仏も皆平等」という決して簡単では無い絶対平等主義。果てしなく長い時間かもしれないし、もしかしたら生涯叶わないかもしれない。それでも今回、その一端を垣間見る事が出来た聖人聖。彼女の目に曇りは無い。
メニュー36
「冬のタルトと春のタルト」
最近色々忙しくて編集に時間が割けなくてやっと出せた。すいませんでした汗。これからもこんな頻度になりますが次回も気長にお待ちください。
こんにちは、storybladeです。幻想郷食堂をお読み頂きありがとうございます。突然ですがアンケートです。先代博麗の巫女や魂魄妖忌の回があれば読んでみたいと思いますか?公式設定が少ないのでオリジナル要素を含んでしまいますがどうでしょうか?ご意見お願いします。期限は今月一杯です。
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あれば読んでみたい
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不安なので読みたくない