前回より沢山の方がお気に入りしてくださり、驚いております。ご期待に応えられる様なものを書けるようこれからも頑張ります。
博麗神社
ねこやの扉が白玉楼の蔵の中に現れてから更に七日が経ち、今日は扉が再び現れる日。ここは幻想郷で人里から離れた場所にある「博麗神社」。博麗大結界を管理する上で最も重要な場所であり、外の世界との境界が薄い場所であり、霊夢の家である。その霊夢は魔理沙と共にその神社の縁側で静かにお茶を飲んでいた。
「…なぁ霊夢。今日はどこに現れるんだろうなねこやの扉」
「…さぁね~。紫や妖夢からは出たら連絡来る事になってるし、そっちは大丈夫とは思うけど」
「そっか~」
「…てかなんでアンタもここにいんのよ?自分ちの方見ておけばいいじゃないの」
「だってよ~。ほんとにここに出たらお前がひとりだけで行っちまいそうだしな~」
「そそ、そんな事するわけないじゃな~い。そういうアンタこそ、ひとりで行っちゃうんじゃないの~?」
「そそ、そんな訳ないのぜ~」
「そ、そうよね~」
「「あはははは♪」」
そう言いながらお茶をすするふたり。いい意味でも悪い意味でも仲がよろしい様で。
「…まぁともかく、最初は片っ端から探してやる!って思ったけど、考えたら扉が現れてから誰かが使うまでの間に幻想郷中探すなんて効率悪すぎるし、疲れるだけよ。それなら待ってた方がまだマシ」
「相変わらず面倒が嫌い奴だな。私はアリスやパチュリーには伝えといたぜ。こういう扉が現れたら知らせてくれって」
「…アリスはまだいいとして紅魔館は大丈夫なの?アンタこの前また盗みに入ったばっかじゃない」
「大丈夫大丈夫♪私とあいつの仲だ♪きっと喜んで知らせてくれるって♪」
魔理沙は笑ってそう言うのだった。
…………
紅魔館
それから時間は過ぎ、時刻は夕方に差し掛かっていた頃だった。巨大な山のふもと、濃い霧が漂う湖のほとりにひっそりと建つ巨大な洋風の館がある。全体的に血の様な赤を基調とした色に染まり、窓が少ない。霧濃い中に立つその館は、夕焼けの光で不気味に赤色を強調している。館の名は紅い悪魔の館と書き、紅魔館と言った。
蝙蝠の様な羽が生えている少女
「……」
そんな館のベランダにひとりの少女がいた。水色がかった銀髪。太い赤い線が入り、レースがついた襟のピンク色のドレスを着ている少女。注視すべき点は背中から生えている一見蝙蝠を思わせる様な翼だろう。そんな少女は何やら思う事があるのか、ベランダに設置されたテーブルセットのチェアで紅茶を飲みながらどこかぼんやりとしていた。
ガチャッ
メイドらしき銀髪の女性
「失礼します。…レミリアお嬢様」
そこにやってきたのは青色の服に白いエプロン、白いカチューシャ、いかにもメイドというらしい恰好をした銀髪の凛とした女性。
「どうしたの咲夜?」
「お嬢様が何やらぼんやりとされている様子でしたから…気になりまして」
少女の名前はレミリア。女性の名は咲夜というらしかった。
「あらそう?ごめんなさい。少し考え事だけよ」
「何か気になる事でも?」
「ええ。もしかしたら…今日何か起こりそうな気がするのよね。何なのかは全然わからないんだけど」
「はぁ…」
普段レミリアがこんな事言うのはあまり無いのか、その言葉に咲夜はやや心配そうだ。
「そんな顔しないの。全く私が真剣な顔するといつもそうよね咲夜は」
「申し訳ありません。お嬢様が真剣なお顔でそんな事をおっしゃるなんて珍しくてつい」
「…それほめてるのかそうじゃないのかわからないんだけど。…まぁいいわ。そういえばフランは?」
「妹様でしたら遊び疲れてお休みになられてますわ」
「また?…ふぅ、夕食もまだだというのに誰に似たのかしらねあの性格」
「…ふふ♪」
「…何か言いたそうね咲夜?」
「いえいえ、何でもありませんわ。お茶、変えますね」
咲夜はレミリアの手元にあったカップにポットからお茶を注ぐ。
「それにしてもお嬢様。お嬢様の力をもってしてもわからないなんて…これまでの異変の様なものでしょうか?」
「…さぁ。まぁ気にしなくてもいいわよ。もしかしたら私の勘違いかもしれないし、最近の幻想郷は特に目立った異変も無いし、もしかしたら何かあってほしいって私が思ってるだけかもね」
「かしこまりました。それでは私はご夕食の準備をしてきますね」
「ええお願い」
咲夜は挨拶をし、ベランダから繋がっているエントランスへの扉を再び開けた。
ガチャッ
「…!お、お嬢様!」
「!」
自分を呼ぶ少し動揺した様な咲夜の口調に、レミリアも何事かと咲夜のもとに近づく。すると、
「…ええっ!」
そしてレミリアもまた驚いた。紅魔館の巨大なエントランスホールには大きな聖母像があるのだが、その聖母像の真ん前に……木造りの扉が立っていた。そんなものは勿論今の今まで無かった。
「こ、この扉は一体…!…洋食のねこや…?」
「…咲夜。ここは私だけでいいからパチェ達を呼んできて。フランは寝させておけばいいわ」
「ですが…」
「大丈夫よ。なんというか…奇妙だけど悪い気は感じないわ。早く呼んできて」
「…承知しました」
言われて咲夜は他の者を呼びに走った。レミリアは扉を前に思った。
(……どうやらこの扉の事みたいね。私が気になってたのは…)
…………
そしてあれから少し経って、扉の事を知った他の住人らしき者達が集まってきていた。
紫色の髪の落ち着きある少女
「……かすかに魔力を感じるわね。でも…こんな魔力は私は知らないわ」
翼が生えた赤色の髪の少女
「パチュリー様でもご存じないなんて!」
茶色い髪で中華風の服を着た女性
「し、しかもなんで紅魔館の中に突然…!?言っときますけど私は門番サボってませんよ!」
扉に手をあてて調べているのは長い紫色の髪をした、紫と薄紫の縦じまが入ったゆったりとした服と、月の飾りがついた帽子を被った少女。
慌てているのは赤い髪で白いシャツ、その上に黒い上着を着た少女。頭、そして背中には小さな蝙蝠みたいな翼がある。
そしてもっと慌てているのは茶色い髪で、緑色のチャイナドレスみたいな中華風の服を着た女性。台詞からして門番らしかった。
「わかっているわよ美鈴。私もついさっき気づいたのだから。お嬢様に声をかけるまでは確かに無かった。そして次にエントランスに戻った時にはあった。そんな短い時間で突然現れるなんて…」
「以前紫のスキマが開いた瞬間でも何かしらの気配を感じていたわ。でも今回はそれも無かった。つまりパチェのいう通り、本当に私達が知らないものって事ね」
すると扉を調べていたパチュリーという少女が口を開いた。
「……でもこの扉について少し心当たりがある。先日魔理沙が本を盗んでいった時に私に言ったの。「もし猫の看板がある扉を見かけたら私か霊夢に速攻で教えてくれ」って」
「ああ、先日本を取っていった時ですね。あれは美鈴が昼寝していたのと小悪魔、貴女が本に埋まって気絶していたせいでもあるけれど」
「す、すいません咲夜さ~ん」
「あれは魔理沙さんが本を本棚から抜き取ったのが原因ですよ~」
紫の髪の少女がパチュリー。赤い髪の少女が小悪魔。咲夜に謝る茶色い髪の女性は美鈴というらしい。そしてどうやら魔理沙はただ頼んでいったわけではないらしい。
「という事は…霊夢や魔理沙はこの扉の事を知っているという事かしら。…それでどうするのパチェ、知らせる?」
「……………私が知らないものを魔理沙が知っているという事も、従うのもなんかムカつく。無しね」
レミリアの言葉にパチュリーは少し考えた結果、却下した。どうやら魔理沙の頼みは不発に終わった。そして、
「…でもこの扉には興味があるわね」
「ま、まさかパチュリー様。行ってみる気じゃ…」
「ふふふ。パチェならそう言うと思ったわ♪」
「レミリアお嬢様!?」
小悪魔と美鈴が心配の声を上げる。どうやらレミリアとパチュリーは興味津々の様子だ。
「当然よ。パチェが知らないものよ。そんなの興味出ない訳ないじゃない♪」
「お嬢様。パチュリー様。お言葉ですがむやみに入るのは危険かと」
「何を言っているの咲夜。貴女も一緒に行くのよ。それならいいでしょ♪」
「…はぁ」
(全く…お嬢様はこう言うと聞かないんだから)
レミリアの言葉にため息をはく咲夜。彼女が引く気が無いのは長い付き合いからわかった様だ。
「美鈴、小悪魔。貴女達は念のために残りなさい」
「で、でもお嬢様…」
「大丈夫よ。私達が揃えば怖いものなんて無いわ。ふたり共、フランをお願いね」
「は、はい!承知しました!咲夜さん!おふたりをお願いします!」
「貴女に頼まれなくても私の命に懸けて守るわ」
「じゃあちょっと行ってくるわね」
レミリアはゆっくりとその扉を引いたのであった…。
…………
~~~~♪
「「「「「!」」」」」
扉を開いて聞こえたドアベル。そしてレミリア、咲夜、パチュリーの目に入ってきたのは…見た事も無い部屋で、見た事無い者達が気ままに食事している異様な光景。
「…なに、…ここ?」
「…私達が知る場所ではないですね…」
パチュリーと咲夜も驚いているらしく言葉少ない。そして扉越しに見えている美鈴と小悪魔は呆然としている。その間に一番後ろにいた咲夜がパタンと扉を閉めた。
(いらっしゃいませ)
そして入ってきたレミリア達の頭に声が聞こえた。
「!頭の中に…声が響いてる」
「これは…テレパシーね」
「あ、いらっしゃいませー!」
続けてレミリア達に気づいて近づいてきた者がいた。
「ようこそ!洋食のねこやへ!」
「…洋食のねこやって…。というかその頭…。貴女、鬼?」
咲夜はアレッタの頭の角が気になった。
「オニ…?ああいえ、私は魔族なんです」
「…魔族…?」
「幻想郷には色々いるけど…魔族っていうのは聞いた事無いわね」
「幻想郷…という事は、皆さんもレイムさん達のお知り合いの方ですね!私はここで働いている、アレッタと言います。宜しくお願いします!」
挨拶と共に深々とお辞儀をするアレッタ。そんな彼女を見てレミリア達も挨拶をする。
「アレッタ、ね。ならば私も自己紹介しなければならないかしら。永遠に赤い幼き月、そして幻想郷で最も強く、賢く、偉大な吸血鬼、レミリア・スカーレットよ。覚えておくといいわ」
レミリア・スカーレット。彼女は人間や妖怪の類などでなく、吸血鬼と言われる種族である。そして見た目よりもずっと長寿であり、これでも500歳である。最も幻想郷ではそれ以上に生きている者も少なくないのだが。
「最も強くて賢い!すす、すごい方なんですね!」
「気にしなくていいわ。半分以上は大げさだから。…パチュリー・ノーレッジ。…魔法使い」
「レミリアお嬢様の瀟洒な従者、十六夜咲夜ですわ。紅魔館のメイド長をしております。宜しくお願いします」
「はい!宜しくお願いします!」
レミリアの過大自己評価はともかくとして、吸血鬼である事を聞いても全く動揺しないアレッタの表情を見て、レミリア達も思わず力がやや抜ける。どうやら彼女の笑顔には見る者をほっとさせる効果があるらしい。
「…ところでアレッタ、といったかしら。霊夢の名前を知っているという事は…もしかしてあいつもここに来たのかしら?」
「はい!レイムさんやマリサさんはお元気ですか?」
「…うんざりするほどね」
魔理沙に本を盗まれたばかりのパチュリーは辟易とした表情だ。続いて咲夜が質問する。
「失礼ながらアレッタさん。ここはどういう…。表の看板に「洋食のねこや」とあったり、一見、食事をする場所の様に見えますが?」
「はい。ここは洋食のねこやっていう、異世界の料理屋です!」
異世界という言葉にパチュリーが反応した。
「…異世界?ここは異世界なの?でも表の看板には私達でも読める言葉が書いてあったけど?」
「え、えっと、レイムさんの話だと…」
すると厨房の窓から店主が顔を出した。
「いらっしゃい。アレッタさん、とりあえずお客さんを席へ案内して」
「ああすみません!それでは一先ず、お席へどうぞ!」
「…いかがなさいますお嬢様?」
「…折角だからここは郷に従いましょう。戦いになる様な雰囲気も無いし」
「……」
三人は案内されたテーブルに座る。するとそこにいつもの様にクロが水とおしぼりを持ってきたのだが。
(サービスのお水とおしぼりです)
再びレミリア達の頭に響くクロの声。そして彼女の姿を見たレミリアの顔に動揺が走る。
「!!」
(どうかされましたか?)
「……何でも無いわ。ちょっと主と話がしたいので呼んでもらえるかしら?」
(承知しました)
クロはお辞儀だけして席を離れた。
「どうされましたお嬢様?」
「…いいえ」
(…今の給仕、物凄い力を感じた…。それも…私達に近い力。…一体何者なのかしら…?)
「……」
パチュリーはレミリアの険しい表情から何かを感じている様だったが、彼女を気遣ってか黙っていた。するとそこに店主が挨拶にやってきた。
「いらっしゃいませ」
「貴方がこのお店の主かしら?」
「ええ。私がこの異世界食堂の店主です」
「…さっきアレッタという給仕もそんな事を言っていたわね。なんなの?異世界食堂って」
…………
店主はレミリア達に、この店の事を霊夢達との話も含めて簡単に説明した。
「……異世界、いえ正確には幻想郷の外の世界にある食堂。そしてその店の扉が七日に一回、幻想郷に現れるようになったと…」
「ええ。何故かは霊夢さんや紫さんにもわからないらしいんですけど」
「幻想郷の管理者であるあのスキマ妖怪にわからなければ誰にもわからないわね。…悔しいけど」
「ですがその扉がどうして紅魔館の中に…」
「魔理沙は最初、香霖堂の近くに現れたと言っていたわ。そして次は白玉楼にとも」
「という事は、日によって…扉が現れる場所が違う?」
「そう考えると合点がいくわね。でも扉の数がひとつとは限らないし、結論を出すのはまだ早いかもしれないわね」
「私達の世界でも扉の位置は決まってましたし…」
レミリアも咲夜もパチュリーも考え悩む。混じってアレッタも。だがそんな彼らを元気づけるかのように店主は言った。
「まぁうちは扉がどこに現れても関係ないですがね。ただただ来られたお客様をお迎えするだけです」
「…人間にしては図太い神経ね。霊夢と互角だわ」
「はは。さて、折角ですからお客様も何か召し上がっていかれませんか?お金なら紫さんから頂てますから大丈夫ですよ」
「…どういたしますお嬢様?」
「…紫に借りを作るみたいなのがちょっと嫌だけど、折角だから頂いていきましょう。品書きを貰えるかしら?」
「かしこまりました。すぐにお持ちしますんで、注文が決まりましたら言ってください」
そう言って店主は厨房に戻っていこうとすると、
「あああと最後に、ひとつ教えてくれるかしら?…あの黒い髪の給仕だけど…誰?」
レミリアは銀髪の女性客に対応しているクロを指さした。
「…もしかして、うちの給仕が何か失礼な事でもしましたか?」
「いえ、そういう事じゃなくてただ誰なのかって事」
「彼女はうちのお客さんの知り合いらしいです。クロさんって言って、どこか辺境に住んでいるらしいんですが…それ以上はすみません、知らないんです」
「……そう」
店主の表情から本当に知らないんだと察したレミリアはそれ以上つい追求しない事にした。そして少ししてアレッタからメニューを渡され、さぁどれを選ぼうかとしていたその時、
「…レミィ。悪いけどちょっとここ離れていいかしら?」
「…パチュリー様?」
「どうしたのよパチェ?」
「ちょっと、ね。出ていったりはしないから安心して」
するとパチュリーはひとり席を離れ、とある席に移ったのだがその話はまた後程。とりあえずレミリアはメニューを開いて見てみるのだが、
「洋食屋らしいけど…私達は洋食に慣れているから見慣れたものが多いわね…」
基本的に和食ものが多い幻想郷の中でも、紅魔館の食事は洋食が基本だった。因みに食事は咲夜が作っており、彼女の料理は幻想郷でも美味しいと有名である。
「海の魚という手もあるけどどちらかと言えばお肉がいいわね…」
「お嬢様、お野菜もちゃんと召し上がって下さいね?」
「あら、お残しするのは咲夜が私やフランの好き嫌いを克服しようとする時だけよ」
「…できれば御家でも好き嫌いしないでいただけると嬉しいんですけどね」
どうやら咲夜もそれなりに苦労しているらしい。そんな会話が繰り広げられていたその時、
「…やぁ」
隣のテーブルで食事を終えていた男性がレミリアと咲夜に話しかけてきた。襟の高いマントを羽織っている金髪の男性。その男性と一緒に食事をしているのは赤いケープを付けたブロンドの髪の女性。何故かふたり共、ひどく顔色が悪く見える。
「今日は良い夜だね。まさかまたこの店で同胞に出会えるとは…」
「…どなたかしら?」
ロメロ(ビフテキ)
「ああ失礼…。僕はロメロというんだ。宜しくね。新たな異世界食堂の御客人」
ジュリエッタ(ビフテキ)
「ジュリエッタと申します。ロメロの妻ですわ」
ふたりは自らの名前を名乗った。
「ご丁寧にどうも。十六夜咲夜と申します。…失礼ながらおふた方、随分顔色がお悪く見えますが、大丈夫ですか?」
「…ふふ。前にここの店主さんにも同じ事を聞かれましたわ」
「僕達は元々こうなんだ。体調はすこぶるいいから気にしないでくれ」
「レミリアよ。…あなた達、もしかして吸血鬼?」
「…え?」
レミリアがロメロとジュリエッタにそう尋ねる。咲夜は少しばかり驚く。
「まぁ、どうしてわかったのですか?」
「わかるも何もさっきそちらが同胞って言ったでしょ?それにあなた達から私と同じにおいがするもの。…血のにおいがね」
「…先ほどの同胞とはそういう意味だったのですね」
「そうさ。僕もジュリエッタも吸血鬼さ」
「まさか2回も他の吸血鬼の方にお会いできるとは思いませんでしたわ」
「…しかし僕も長く生きているが君の様な者は初めてだな。…君も吸血鬼の国に住んでいるのかい?」
「…吸血鬼の国?なにそれ?私は幻想郷の者よ」
「…ゲンソウキョウ…?」
…………
それから四人は聞き慣れない言葉について少しばかり話し合い、そして互いが別の世界に住んでいる事を知った。
「…という訳で、同じ吸血鬼でも私とあなた達は住んでいる世界が違うって事」
「驚いた…。まさか別の世界にも僕達と同じ種族がいたとは」
「本当ですわ」
「私達も驚きました。異世界にもお嬢様や妹様と同じ吸血鬼の方がいた事もですが…吸血鬼が人間を統治する国があるなんて…」
「最も僕はその国には住んでいないはぐれ者なんだけどね。そして傷つき倒れていたところでジュリエッタに出会い…」
「人間である彼女を吸血鬼にした、と?」
「ええ…」
そう。ジュリエッタは元々人間。しかし彼女はロメロと生きていくために自らのこれまでの人生を捨て、彼に血を吸われ、吸血鬼となる事を選んだのだった。
「貴女も随分思い切った事したものね。愛する者のためとはいえ、それまでの人生全てを捨てるなんて。後悔していないの?」
レミリアはジュリエッタにそう尋ねると、彼女ははっきり答えた。
「はい。後悔等していませんわ。私は…彼と生きる事を選んだんですもの」
「如何なる困難があっても、共に生きていくと誓ったんだ」
「「……」」
「それにこのお店にも出会えましたし」
「この店は僕達にとって思い入れ深いところなんだ。命を救われた事もあるし、とても美味いビフテキも食べられるしね」
そういうふたりのテーブルにはビフテキが乗っていたであろう空の鉄板があった。
「このお店のお料理はそんなに美味しいのですか?」
「少なくとも僕が生きてきた中で一番美味しいと断言できるよ。食事をするならビフテキだけど、お酒を楽しみながら食べるのはローストビーフがおすすめだね」
「私が人間だった頃も、ここのお料理を超えるものはありませんでした。それ以外にもこのお店には美味しそうなものがまだまだ沢山ありますから、じっくり見ていかれるといいですわ」
「……ふ~ん。なるほどね」
ふたりのその言葉に相槌を打つレミリア。
「…さて、すっかり話し込んでしまった。僕達はそろそろおいとまするとしよう。君達にもこの店で良い出会いがある事を祈っているよ…」
「貴女方にも闇の女神の祝福あらんことを…」
そう言うとロメロとジュリエッタは会計を済ませて立ち上がり、挨拶を済ませ、ふたりはねこやを出ていった…。
「……」
「いいご夫婦でしたね、お嬢様」
「…何?ああいうのに憧れているの咲夜?」
「いいえ、そうじゃありません。ただ…お嬢様や妹様も、いつかあのおふたりの様に…ご結婚される時もあるのでしょうか…」
咲夜はやや落ち込んだ様な表情をしている。そんな彼女にレミリアは言った。
「そんな顔しなくても、結婚なんて今は毛先ほども考えてないわ。私は今の、フランや貴女達がいる生活に満足してるから。第一私は500歳でもまだこんな身体なのよ?その時一体いくつになってると思ってるのよ?」
「そ、それもそうですね」
「……それにもし、仮にそういう時が今だとしても咲夜、貴女は一緒にいてくれるのでしょう?」
「当然よね?」という余裕ある表情で聞いたレミリアに、
「!…妖怪に比べて人間は非常に短命ですけれど、生きている間はずっと一緒にいますよ」
咲夜は笑ってそう返事した。
「さてと、早く食べるものを決めましょう。あのふたりはビフテキとローストビーフを薦めてたけど…」
「うちでは珍しくありませんね。一昨日もステーキを召し上がられましたし…」
「……そうだわ。ねぇアレッタ、もう一度店主を呼んでくれるかしら?」
「え?あ、はい!畏まりました!」
するとレミリアはアレッタにもう一度店主を呼んでもらい、こう注文した。
「先ほど別の客に聞いたんだけど、このお店のお料理は凄く美味しいのだそうね?なら貴方おすすめの、肉を使った一番美味しいと思う料理を頂けるかしら?ビフテキやローストビーフ以外で。人生で一番美味しいものを出すというからにはそれ位思いつくでしょう?あと血の様に赤いワインもお願い」
少し挑戦的な笑みを浮かべながらそう注文したレミリア。店主は少し考えるそぶりを見せながら、
「……承りました。少々お待ちください」
店主は少し考えた後、いつもと同じ表情で答え、厨房に戻っていった。
「お嬢様。あまり店主さんを困らせてはいけませんよ」
「あら?客のリクエストに応えるのがお店の仕事でしょ?」
500歳以上生きているとはいえ、まだまだ子供みたいな性格は消えそうにないらしい…。
……店主調理中……
…………
そして暫くして店主が直接料理を運んできた。
「お待たせしました。本日の肉料理のおすすめ、カルビ重です」
そう言ってレミリアと咲夜の前に出されたのは…蓋がされた黒塗りのひとつの重箱。そしてお椀。加えて数切れの漬物が置かれた皿。それと赤ワインのボトル。
「私の分までご用意してくださったんですか?」
「ここでは全ての方がお客様なので。うちの肉は和牛という訳にはいきませんが、いいやつ仕入れてるんでうまいですよ。それではごゆっくり」
そう言って席を離れる店主。
「…ビックリ箱みたいなつもりかしら。どんなものか見せてもらおうじゃない」
そしてレミリアと咲夜はそっと蓋を開ける。
「これは…」
まず開けた瞬間に感じたのは香ばしく焼かれた肉と、味付けに使われているらしいタレの強い香り。重という事なので下には米があるのだろう。その米が全く見えない位肉が敷き詰められている。その横には同じく香ばしく焼かれた緑色の野菜が添えられている。
「…凄くいい匂いです。ステーキソースやかば焼きのタレとはまた別の匂いですね」
「華やかさは薄いけどインパクトは強いわね。…いただきましょうか」
レミリアと咲夜はスプーンを取る。使った事はあまりないのでは?と感じた店主が箸の代わりに置いてくれたのだ。スプーンで肉の一切れを取り、口に運ぶとカルビ肉の濃い味と脂、そして肉にしみこんだタレの味が口に広がる。
「…!見た目こんなに薄い肉なのに…旨味がとても強いわ」
「はい。ロースやヒレとはまた別の味わいですね。そしてその味を引き立ててるのが…果物や野菜等色々な風味を感じるこのタレ…」
次にふたりは肉と、その下に広げられていたご飯と一緒に食べる。ご飯にも適度に肉とタレの旨味がしみ込んでいる様だ。
「…いいバランスね」
「肉とタレだけなら食べ続けるのはちょっと濃いですが、お米がそれを適度に和らげて食べやすくしてくれています」
「…野菜にも同じ味付けがされている。これなら嫌いな野菜も残さずに食べれそうね」
付け合わせのお椀は味噌汁でなくあっさりとしたお吸い物。漬物もさっぱりとした浅漬け。それがカルビ重の濃い味に飽きた口を休めてくれる。
「肉にはスープと思っていたけどこういうのも合うわね。…咲夜、ここにある味覚えて帰りなさいね」
「承知しました。……でもお嬢様。いつものお嬢様ならばあの店主さんを連れて行こうとされると思うのですが?」
長い付き合いの咲夜はレミリアの癖や性格も知っている。彼女の性格ならば覚えて帰るよりも連れていけと言われると思ったらしい。
「本当はそうしたいと思ったけど…なんかそれはできない。いえ、しちゃいけない気がするのよね…。もっと言えば…誰かに怒られそうな気がするのよ」
「それもお嬢様の御力によるものですか?」
「…さぁね」
レミリアはワイングラスを手にそう微笑んだ。実は彼女の思った通り、この店と店主、そしてアレッタには多くの者達の守護が既にかかっているのであった。因みに食後、咲夜は店主に調理法を伺おうとしたが「レシピは教えない主義なんです」と断られていた。
……少女食事中……
…………
その後、カルビ重を食べ終え、デザートのプリンと紅茶も食べ終えたレミリアと咲夜。
「…ふぅ。お腹も一杯になったわ。うちでのご飯は今日はいらないわね」
「お嬢様がお残しにならないのは久々ですわ」
「残す様なものが無かっただけよ」
とそこに店主とアレッタがやってきた。
「ご満足いただけましたでしょうか?お客さん」
「はい。とても美味しかったですわ」
「ですよね!マスターの料理はどれも凄く美味しいですから!」
「紅茶の味は咲夜に及ばないけど、この料理は褒めてあげてもいいわ。光栄に思いなさい」
どうやらレミリアも咲夜もカルビ重を気にいった様だった。
「……ただいま」
とその時、少し離れていたパチュリーが戻ってきた。
「パチュリー様」
「どうしたのよパチェ。別の席に行ったりして。しかも貴女にしては珍しく話し合ってたみたいだけど?」
「…ええ。中々有意義な時間だったわ…」
すると彼女はいきさつを話し始めた…。
メニュー5
「コンポート」
次回はパチュリー編です。
こんにちは、storybladeです。幻想郷食堂をお読み頂きありがとうございます。突然ですがアンケートです。先代博麗の巫女や魂魄妖忌の回があれば読んでみたいと思いますか?公式設定が少ないのでオリジナル要素を含んでしまいますがどうでしょうか?ご意見お願いします。期限は今月一杯です。
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あれば読んでみたい
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不安なので読みたくない