とある日のねこや兼異世界食堂。今日も繁盛している様子。
〜〜〜〜♪
「いらっしゃいませー!…あ!」
扉を開けて誰が入ってきた。アレッタが迎えるがその顔からは少し驚きの表情が浮かぶ。しかし直ぐに笑顔になり、
「こんにちは。お久しぶり」
「はい!お久しぶりです!マスター!」
「ん?どうし…お、珍しいな平日でもないのに」
「たまたま近くに用事があったの。あと裏口から入ろうと思ったけど開かなかったわよ?建付けが悪いんじゃないかしら」
「…あ!そう言えば昨日バイトの子が言ってたなぁ。ショータが来た時問題無かったから忘れてた。修理しに来てもらわねぇと」
「それはそれとして久しぶりに食べて行ってもいいかしら?」
「…ああ勿論。アレッタさん頼む」
「はい、どうぞ!」
???
「……」
幻想郷のどこでもないどこか。宙に浮かぶビジョンから流れてくる幻想郷の様子を藍が真面目な顔で眺めている。彼女の仕事は本当に多種多様で実に多くの仕事を受け持っており、幻想郷の監視も彼女の仕事のひとつ。
「藍様~。紫様がお目覚めになりました~」
そんな藍の元にやってきたのは彼女の式神橙と、冬眠から覚めたばかりらしい紫。彼女は冬の間あまり積極的に動かず、こうして眠っている事がとても多いのだ。
「ふわ~…良く寝たわ」
「おはようございます紫様」
「おはよう藍。任せっぱなしにしてごめんなさいね」
「気にされる事はありません。これも私の仕事です」
「相変わらず真面目ね~。誰に似たのかしら?」
「恐れながら紫様かと」
「あらあら、嬉しい事言ってくれるじゃないの♪」
「紫様~!橙も頑張りました!」
「はいはい偉いわね橙」
橙の頭をなでる紫。笑う橙。それを見て微笑む藍。
「さてと、じゃあ私はちょっと出かけてくるわね」
「はい。お出かけですか?」
「ええ。お友達に冬眠明けの挨拶を、ね」
…………
「
その意味は仏堂の前ではなく、背後の入口の事である。一見なんのための様だがこれにはれっきとした宗教的意味がある。後戸は本尊の背後に設置されるのだが、そこには本尊の背中を守護する役割を持った神を安置している。つまり僧達がその神を祀るために作られた扉なのである。宗教上とても重要な場所であり、場所によっては本尊よりも重要とされている神もある程だ。祀られている神として有名なものとして東大寺法華堂の金剛神。二月堂の小観音。そして常行堂の摩多羅神等がいる。
幻想郷「後戸の国」
冠を被った長い金髪の女性
「……」
場面変わり、ここは幻想郷の「後戸の国」と呼ばれている場所。そこは大小様々な扉が四方八方無造作に重力に関係なく浮かんでいるという奇妙な場所。そんな場所の一ヶ所に玉座の様な大きめの椅子に座るひとりの女性がいる。
長い金髪の頭に冠を被り、服装はオレンジ色の狩衣に緑色のスカート、幻想郷ではあまり見ないロングブーツという組み合わせ。前掛けには北斗七星や星座が描かれている。そんな恰好の女性は両目を閉じ、頬に手を当ててまどろんでいる様に見える。
彼女の名前は
…ヴゥゥゥゥン
「こんにちは。隠岐奈」
とその時、空間に裂け目が現れた。出てきたのは八雲紫。裂け目は彼女の隙間が作った出口だった。笑顔で挨拶する紫。
「…紫か。もう眠りから覚めたのか?」
「ええついさっきね」
「いっそもう少し眠ってくれていても良かったんだが」
「あら、冷たい言い方ね。いつもの年始めの挨拶に来たのよ~?」
「世間はもう三カ月前に正月を終えて春を迎えている」
「まぁまぁ。あの子達はどうしたの?」
「舞と里乃ならあの能面娘のところへ舞踊の練習に出ている」
「ふ~んいいんじゃないかしら?貴女もいい天気なんだからたまには外に出たらいいじゃない」
「つい今まで冬眠してた奴に言われても説得力はないぞ」
「ぶ~」
お互いにからかい合う紫と隠岐奈。一見何でもない仲のいいふたりの女性のやりとりだがその実力は決して侮れない。
全ての事象を根底から覆すとされ、自身の様な大妖怪か、力の重圧に耐えられる者で無いとその力は扱えないとされる境界を操る程度の能力を持つ八雲紫。
片や自らその気になれば幻想郷を簡単に作り直せると豪語し、新たな妖怪をも創造出来ると言う摩多羅隠岐奈。
どちらもこの幻想郷の中でも屈指の力を持つ者であり、賢者と呼ぶにふさわしい知識を持っているのである。そんなふたりがこうして同じ空間にいるのは珍しい事であり、同時に何かを話し合う時でもある。
「まぁそれは置いといてだ。……ところで紫。お前、あの扉についていい加減何かわかった事はないのか?」
「扉って?」
「とぼけるな。例の外の世界の食事処に通じるという扉だ」
「わかっているわよ。ねこやの扉ね」
「そうだ。数ヶ月前から突然現れた扉。調査について何か進展はないのか?」
「ん~目立った進展はないかしら…。そちらは?」
「…私も同じだ。そうでなければこんな質問はしていない。情けないがな」
「そう」
ふたりが話しているのはねこや、異世界食堂の扉であった。異世界食堂の扉が表れる様になって既に約半年が経過していた。幻想郷の知恵者達は各々出来る範囲で扉について調べていた。何故現れたのか。何故外の世界と繋がるのか。そして何故異世界の者と接触できるのか。しかし未だに有力な新しい情報は掴めないでいた。
「そもそもどうして幻想郷に現れる様になったのも謎なのよね。あのお店自体は昔からあったらしいんだけど」
「オカルトボールや紅魔館や守矢の者達が外や別の次元からやって来る例は過去何度かあったが…どれも一回きりだ。しかし今回のそれは違う。現れる場所も不特定で日毎に数も増えている。このまま放っておいたら今以上の異変になりかねないぞ」
「そうね~」
「他の知恵者達も少なからず警戒している。もっと突っ込んだ調査をするべきではないのか?」
のんびりしている紫もあの扉が孕む危険性は十分に理解しているつもりだ。彼女はこの幻想郷を誰よりも愛する者なのだから。…しかし、
「でも私の個人的見解だけれど…あの扉からは先のそれらみたいな脅威はどうも感じられないのよね」
「その店には強い力を持つ存在もいるらしいが?」
「ええ…あの場所を守る者と加護を与えた者。どちらもかなり強力な存在だわ。最もこっちへの関心は全く無いっぽいんだけど…」
「そやつらがいつこちらの方に目を向けてくるかもしれんとは思わんのか?もしくはその店をやっている人間がこっちに来ない可能性は本当にないのか?」
「…その心配は多分無いと思うわ。あの扉のドアベルは異世界やこちらとあの店を繋ぐ能力はあるけど、命ある者の行き来は出来ないらしいから」
「それはその店の者の話だろう?虚言を言っている可能性もある」
隠岐奈はまだ納得しきれていない様だ。無理もないかもしれない。これまで幻想郷は何度か外からの干渉を受ける異変が起こってきた。特に無縁塚や博麗神社の本殿等は外との境界が弱く、異変に関係なく今こうしている間にも何か流れてきている。最もそれらは物質であるが。しかしあの扉は少し事情が違う。どこにでも現れる。そして例え向こうからは来れないとしても、こちらから行けるという事に複雑な問題があるのだ。
「お前は行った事があるのだろう?」
「ええ二回ほど。もし見つけたらまた行きたいとは思うけれど」
「呑気な奴だ」
そんな会話をしながらふと周囲に目を見やる紫。すると、
「…あら?……ねぇ、そんなに心配なら、貴女も行ってみる?」
「何?…!」
紫はそう言いながらある方向を指さす。その先には…話題に上がっていた扉が浮かんでいた。地面に立っているのではなく、周囲の扉と同じく浮いている感じだ。この後戸の国は彼女の空間。そこに起こる事象は全て把握しているつもりだが、いつ出現したのか把握できなかった。ずっと座りっぱなしだった隠岐奈も驚いたのだろう、椅子からゆっくりと立ち上がる。
「この私が全くわからなかったとは…」
「気にする事ないわよ。私もたまたま見かけてばかりだし」
「しかしまさかここにまで出てくるとは…やはりこの扉には何かある様だな」
「折角だし、貴女もどう?」
顎に手をあてて暫し考える隠岐奈。
「……………仕方があるまい。虎穴に入らずんば、ともいうからな。私も付き合おう」
「そうこなくちゃ♪私もついてるわね、冬眠明けでいきなり店主さんのブイヤベースが食べれるなんて♪」
「…やれやれ全く」
…………
〜〜〜〜♪
紫が扉を引き、ねこやへの扉を開けた。時間が昼時という事もあり、今日も賑わっているらしい。
「ここも久しぶりね」
「…ここが例の店か」
「そう、異世界食堂よ。ほんとは洋食のねこやっていうんだけど」
「……明らかに幻想郷の者達では無い者だ。本当に異世界と繋がっているのだな。実際にこの目で見るまでは半信半疑だったが」
「そう言ったじゃない」
その時アレッタが近づいてきた。
「いらっしゃいませ〜!…あ、ユカリさん!」
「こんにちはアレッタ。冬眠明けにまた食べさせてもらいに来たわ」
「ありがとうございます!」
「あと今日は知り合いを連れてきているの。…隠岐奈、彼女はアレッタ。ここの給仕よ。異世界の者だけど、いい子だから大丈夫よ」
隠岐奈はアレッタを少しの間見つめる。やがて邪悪な気は無いと察したのか気を緩めた。
「……ふむ、そうか。幻想郷の秘神、摩多羅隠岐奈だ。初めてお目にかかる、異世界の者よ」
「は、はい!宜しくお願いしますマタラさん」
「隠岐奈でいい。…あとあの給仕か、紫」
隠岐奈の視線の先には…クロがいた。そのクロは別の接客をしている。周りに気づかれない様テレパシーで会話する。
(あんな者がもし幻想郷に来たら…中々の事態になるぞ)
(…そうかもね。でも大丈夫よ。さっきも言った様にこちらのお店とお客に何もしなければ危なくないわ)
「…あの、どうかされましたか?」
「いいえ。なんでもないわ」
すると厨房からの店主がいつもの様に顔を出す。
「いらっしゃい」
「こんにちは店主さん」
「…お前がここの店の人間か?」
「ええそうです。貴女も幻想郷の?」
「ああ…。摩多羅隠岐奈だ。世話になる」
「ええどうぞ。好きなお席に…って言っても今丁度昼時だから相席か…」
「…失礼。こちらでどうかしら?」
その時、近くのテーブルから店主の声を妨げる声が上がった。見るとその先には…既に食事を終えたらしいひとりの客が。それは先程店主に話しかけていた女性だった。
「良かったらこちらをお使いになったら?私も丁度食事を終えたし」
「いいのかしら?」
「ええどうぞどうぞ」
女性はテーブルに誘う。すると、
「……ご婦人。ちょっとの間だけ、私達とお話でも如何かしら?」
「……うむ。私もできれば願おうか」
紫と隠岐奈は女性に近づくと、突然女性と話がしたいと言い出した。
「……そちらがお望みなら。アレッタ。悪いけど食後の紅茶でもいただけるかしら?」
一方女性の方もふたりのお願いを承諾した。
「アレッタ。こちらの方の御食事代は私が立て替えてさせていただくわ。あと私と隠岐奈にもお茶をお願いできる?」
「は、はい!」
アレッタが店主に伝えに行き、クロが女性の食器を下げる。紫が女性の正面に座り、隠岐奈が紫の隣に座る。隠岐奈がほんのちょっと嫌そうな表情をしたのは気のせいか?
「お急ぎだったかしら?だとしたら御免なさいね」
「いいえ。大丈夫よ」
「良かった。ああ自己紹介しなくちゃ。八雲紫よ。宜しく」
「摩多羅隠岐奈だ」
「ヤクモさんにマタラさんね。初めまして。私は暦。
「…余計なお世話かもしれないけれど、食べていたの揚げ物だったわよね?その御年で揚げ物なんて大丈夫なの?」
「ふふ、これでも身体は強い方だし、それにこちらのロースカツは美味しいの。先代店主のにはまだまだ敵わないけれどね。…それで、私とお話って?」
女性は柔らかい口調だが、その目はどちらかといえば少々真剣なものであった。一方紫と隠岐奈もやや真剣な表情をしている。
「時間をかけるのも惜しい。単刀直入に聞こう。……其方、何者だ?」
先に静かに話しかけたのは隠岐奈だ。声は小さく、周りに聞こえない様配慮している。
「其方から…あの黒い給仕と同じ力を感じる。比べ物にはならないがな。だがその服装は他の異世界の者達とは違う。間違いなくこちらの世界の物だ。何故だ?外の世界の者である筈の其方が、何故異世界のそれと同じ力を持っている?」
「……」
「こらこら隠岐奈。あまり詰め寄らないの。御免なさいね。…でも、もし良ければ聞かせてほしいの。貴女は…どういう人なのかしら?」
「……入って来た時に私達とは違うものを感じたけど、やっぱり貴女方がそうなのね。また別の世界に繋がったという話は聞いたけど、こうしてお会いするのは初めてだわ…」
そう言うと女性は襟を正し、打ち明けた。
ヨミ
「私は山形暦。嘗て異世界で生まれ、今はこの世界で生きる者。向こうでは「ヨミ」と呼ばれていた…」
…………
異世界にて数百年もの長きに渡って続いた人間と魔族の戦争「邪神戦争」。世界を荒廃させ、双方共に凄まじい犠牲を出す終わりが見えない戦争だったが、ある者達が現れた事でそれは変わりつつあった。
今は生きる伝説と言われる「四英雄」
ハーフエルフにして剣神「アレクサンデル」
あらゆる魔法に精通する大賢者「アルトリウス」
光の神(白)の加護を強く受けた聖人「レオナルド」
そして…英雄「ヨミ」
ヨミは他の三人とは違った生まれだった。
西の大陸の山国、そこに生息する鬼(オーガ)の中でも最も強く最悪と呼ばれた固体の精を使い、闇の神(黒)の加護を最も強く受けた巫女の腹から生まれた存在。それがヨミであった。ヨミはある目的だけで生み出された。「魔王殺し」。アレクサンデル、アルトリウス、レオナルド、彼らと同等以上の力を持ち、愛刀を振るってただ魔を狩るだけの存在として生み出された彼女。やがて最も強い魔王とその魔王が最後の悪あがきとして召喚した嘗て6柱によって倒された邪神の不完全体をも打ち倒した。……しかし、
「私は…邪神が生み出した時空の裂け目に飲み込まれてしまったの。そして…この世界へやって来た」
次に気が付いた時、ヨミは今までいた世界ではない、この世界にいた。共に戦っていた三人の事は気になったが邪神は間違いなく倒したし、自分の役目も終わった。もう死んでも悔いはない…。とそんな彼女に声をかける者がいた。
(何があったのかわからねぇけど、戦争はもう終わったんだ。お嬢さん凄く美人なんだし、生きていれば何かいい事あるよ。腹減ってんだろ?いい肉手に入ったし、ご馳走するよ)
最初は男が何故自分に優しくするのか意味がわからなかった。しかし、不思議と悪い気はしなかった。身寄り等当然無いヨミは誘われるまま彼と共に暮らし始め、彼の店を手伝った。そしてやがて男はある店を開いた。
「彼の名前は山形大樹。このねこやの前店主で、私の亭主で、今の店主の祖父よ」
「貴女の御主人がこちらの前の店主?」
「しかも今の店主の祖母…。失礼な事言う様だが…彼からは何も力を感じないが」
「それは私も少し心配したわ。私から生まれた子に私の様な力が継承されないかって。幸い何も無かった時はホッとしたわ」
「…しかし、だとすれば其方もここの店の始まりに関わっていたのだろう?異世界食堂とやらが生まれたのは何故だ?」
「それは…」
暦は再び話始めた。
洋食のねこやが開店して幾年月が経った頃、大樹ととある店に立ち寄り、そこで彼女はあるものを見つけた。古ぼけた鈴であったが、彼女はこの鈴を見た時にふと感じるものがあった。
(この鈴は…私達の世界のもの?)
今より1000年程前、異世界にて最も反映した種族、エルフとも言われる耳長族。彼らは自らの力を使い、自分達の世界どころか大樹達の世界にも進出しようとしていた事があったという。この鈴はそのために彼らが作ったものであった。しかし世界の防衛機構か、強欲が招いた罰か、優れた魔力を持つエルフも今までかかった事が無い疫病にはかなわなかった。彼らは異世界からの退却を選ぶしかなく、鈴だけがどういう訳かこちらの世界に取り残された。鈴を処分するべきか…そんな時に大樹が笑って言った。
(じゃあそれを使って向こうの連中も客として迎えてみればいいじゃねぇか。知り合いに会えるかもしれないだろ?俺も暦の世界の事少し興味あるしさ♪)
…………
「そうして約30年前、始めたのが異世界食堂よ」
「そういう経緯だったのね…」
「……」
紫は頷き、隠岐奈は目を閉じて考えている。
「初めての客は私が一緒に戦っていた仲間だった。酷く驚いていたわ。ふふ、まぁ当然よね。死んだと思っていた仲間が異世界でこうして生きていたんだもの」
「其方はわからないか?何故あの扉が我々の幻想郷にも繋がったのか」
「…御免なさい。それは私にもわからないわ。私は力を失いかけていたあれに少し力を与えただけだから…。あれを作った当時のエルフがこの世界だけでなく更に別の世界にも干渉しようとしていたのかもしれない可能性はあるけれど…でも今の彼らにもうそんな力は無い筈よ。エルフは著しく衰退してしまったらしいし、何より向こうの他の者達がそれを許さない」
「…そうか」
「確認しておきたいのだけれど、貴女方に幻想郷に干渉する気は無いのね?」
「勿論よ。そんな気は全く無いわ。私ももうあの世界に戻る気は無い。大樹と生きたこの世界で死ぬと決めている。鍵もあの子に渡してあるし」
「鍵?」
「異世界食堂を終わらせる力を持った鍵よ。このお店の運命はあの子に委ねてある。逆に貴女方の方からこちらの世界や彼らの世界に干渉する気はあるの?」
「無い。我々は如何なる世界にも干渉しない」
「…そう。良かったわ」
暦は忙しなく動く自らの孫を眺めつつ、
「あの子は大樹と同じで根っからの料理人なの。悪く思わないであげてね。…あらいけない、すっかり話し込んでしまったわね。もういいかしら?」
「ええどうも。お話できて良かったわ」
「…私もだ」
「こちらこそ。では、ごきげんよう、異世界の方々…」
そう言って一礼すると暦は席を離れていった。
「…まさか外の世界に異世界の者が住み着いていたとはな」
「私も気づかなかったわ。藍や橙の事は言えないわね」
「それは私も同じだ。まだまだだな」
「…でも人間、いえ正確には純粋な人間では無いのだけど危険な者でなくて良かったわ。そしてあの異世界を繋げる鈴、あれが悪意ある者に渡ったらどうなっていたか」
「普通の人間にはどうしようも無いものらしいが、それは確かに言えるな。そして…少なくともあの者から嘘は感じられなかった」
「何故幻想郷と繋がったのかはわからなかったけど…少しは進展したって思って良いのかしらね」
お互いに自らの未熟さを反省する紫と隠岐奈。そして暦の話に邪悪なものは含まれていない、信じられる様な気がした。
「あ~話し込んでたらお腹空いちゃったわ。何か頂きましょ」
「…お前は、と言いたいところだが、私も話し疲れて少し空腹だ」
紫は注文するためにアレッタを呼んだ。
「アレッタ、今日もいいお魚入ってる?」
「はい勿論です!」
「じゃあ私はいつものを頂くわ。あとパンと白葡萄酒もお願いね」
「ブイヤベースですね!畏まりました!」
「隠岐奈もどう?私のおススメはブイヤベースっていう魚のスープよ」
「ふん。自分の食べたいものは自分で決める」
そう言うと隠岐奈はメニューを広げる。
(私もスープにしようか。見た所聞き慣れない料理が多いが……ん?)
「給仕、この変わった名前の料理は何だ?」
「あ、はい。えっと…確かタイ?という国の料理です。私も一回だけ食べてみましたけど…酸っぱくもあって辛くもあって不思議な味がしました」
「ふむ、何やら変わっている料理の様だが……少し興味あるな。ではこれを頂いてみようか。あと合う酒も頼む」
「はい!少々お待ちください!」
……店主調理中……
…………
そして暫くして…、
「お待たせしました!お料理をお持ちしました!」
「ありがとう。もうお腹ペコペコよ♪」
「こちらユカリさんのブイヤベースです。本日のお魚はメバルとテナガエビ、そしてアサリです。付け合わせのパンと白葡萄酒と一緒にお召し上がりください!」
「…確かに幻想郷では見ない料理だな」
そう言って最早紫の「いつもの」になりつつあるブイヤベースを出し、次に、
「そしてオキナさんご注文のお料理、「トムヤムクン」です!」
隠岐奈の前に出されたのはブイヤベースと同じく赤色系のスープ。具は見える限りブイヤベースにも使われているエビやアサリ、そして肉団子の様なものが別に入っている。だが特徴はその香りで強い独特な香りがする。付け合わせは白いライスと同じく白ワイン。
「これは嗅いだ事が無いにおいだな…」
「こちらはライスの方が合うとの事でお持ちしました。本当はタイマイというライスが良いらしいんですけど、こちらも美味しいですよ。お酒は同じく白葡萄酒をお持ちしました。一緒にお召し上がりください。それではごゆっくり!」
そう言うとアレッタは下がっていった。
「本当に香りが強くて特徴的ね」
「だが料理として出しているという事は少なくとも不味くはないんだろう。頂くとしようか」
「じゃあまず乾杯しましょ」
白ワインを互いにグラスに注いで「カチン」と鳴らしてから一口飲み、隠岐奈は銀色のスプーンでスープをひとさじ掬う。まだ湯気が立って熱いスープに息を吹きかけて口に運ぶと…まず感じるのは香辛料から来る辛さ。唐辛子を強く感じる。そしてそのすぐ後になんとも言えない酢ではない酸味が来る。そう言った風味の沢山の香草が使われているのだろう事がわかる。それだけでなく柑橘系から来る爽やかさとまろやかさもある。実に複雑な味わいだ。
「これは…味も特徴的だな。辛さと酸っぱさが一緒にやって来て、少なくとも幻想郷では味わったことが無い味だ」
「きっと外の世界の材料をふんだんに使っているのね。私もいただきましょう♪」
そう言って紫が自らのブイヤベースに取り掛かる中、隠岐奈は具のひとつである肉団子を食べる。味わうとそれは肉ではなく海老の風味、団子は海老の団子である。
「…ほお、肉ではなく海老の団子か。この濃いスープの中でも味わいが消えていない」
「こちらのお魚はどれも美味しいのよね~。きっといい漁師とお知り合いなのね」
「次は米と合わせてみるか…。少々行儀が悪い気がするがこうして…」
スプーンでライスをひとさじ掬い、それをトムヤムクンのスープに少し浸す。それをそのまま口に運ぶ。口の中でスープの酸っぱ辛さとライスの甘みがこれまた複雑に合っている。
「……悪く無い。最初は不思議な味で少し困惑したが、どういう訳か食べ進めると段々美味く感じてくるな」
そう言うと紫が別のスプーンで、
「ねぇ隠岐奈。ちょっとひとさじ頂戴。じゃあこのお野菜と一緒に」
「あ、おい」
「……!……う~ん、私はちょっとコレ苦手かも。特にこの緑のお野菜がちょっと…」
「そうか?私は平気だぞ。ふっ、やっぱり私とお前は合わないな。ははは」
パクチーを少し敬遠した紫に笑いながらそう言った隠岐奈であった。
……少女食事中……
…………
「ありがとうございました!(した)」
「おみやげありがとう。あの子達も喜ぶわ」
「いえいえ。また皆さん一緒にどうぞ」
「…店主」
「はい?」
「………いや、いい。コホン、これからも精進するがいい。その、もし機会あれば、今度は弟子達を連れてくるかもしれんからな」
「ふふっ」
「? ええどうぞどうぞ。またのご来店をお待ちしております」
~~~~♪
「…何だったんでしょうねマタラさん?」
(…さぁ)
「ほらほら、仕事仕事」
そしてまた其々の仕事に戻ろうとしたその時、
~~~~♪
長い桃色の髪でスカートを着た少女
「お〜…わ〜…」
竹を持った烏帽子を被った少女
「わ〜ナニコレナニコレ〜!」
葉を持った烏帽子を被った少女
「弁々達の言った通り…ほんとに来ちゃった」
白い洋服で赤い髪の少女
「でもコンサートやるにはちょっと狭いかしらね〜」
メニュー39
「サンドイッチ」
次回も新キャラです。期間は縮まりませんが頑張って書きますのでお楽しみに。
編集時間が欲しい…。
こんにちは、storybladeです。幻想郷食堂をお読み頂きありがとうございます。突然ですがアンケートです。先代博麗の巫女や魂魄妖忌の回があれば読んでみたいと思いますか?公式設定が少ないのでオリジナル要素を含んでしまいますがどうでしょうか?ご意見お願いします。期限は今月一杯です。
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あれば読んでみたい
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不安なので読みたくない