帝国のとある場所にて。ひとりの人物、いや魔族が取り押さえられていた。
「先代は!あの方は魔族の支配者にたるだけの力があった!帝国の属国になろうともその力を恐れ、従う事もできた!だが貴女は違う!加護も弱いまま戦おうとも強くなろうとも思わない!そんな者に我らを!魔都を治める資格は無い!」
「これ以上の戯言は冥府でやるんだな。連れていけ!」
衛兵らしき者達に怒り絶えぬ様子の魔族は連れていかれた…。
「まさか先代の頃からの重役がこの度の件に関わっていたとは…」
「ライオネル殿に感謝するべきですな。今後は兵達の鍛錬に一層力を入れていかねば」
「魔王様、あの様な者の言葉、気にされる必要はありません。どうか早くお忘れになります様…」
「……」
その数日後、こちらは幻想郷。この日も幻想郷は平和な一日だった。気温も快適湿度も快適。春のぽかぽかな陽気が人や妖怪はじめ、多くの者達を包んでいた。
永遠亭
しかし、ここにその陽気に飽きた者がひとりいた。
「……ひま」
「お師匠様~メディスンさんから薬草が届きました~」
「……ひま」
「あら良かった。今日届かないと明日の分が足りなかったところよ」
「これでお薬が作れますね!」
「……ひま」
「しかし人間は不便なもんだね。花粉で涙やくしゃみが止まらなくなるなんて」
「七日前に里に行った時もその患者さんばかりだったですもんね」
「花粉症の原因となる木は沢山あるのよ。スギやヒノキ、そろそろ白樺も危うくなってくるわね」
「……ひま」
「花粉症といえば鼻や目に症状が出やすいけれど頭痛なども併発するの。この時期は気温差が変わりやすいし、軽い風邪と間違える事もたまにあるから気をつけなさいね」
「はい!」
「は~い。といっても私ら兎は花粉症なんてならないけどね~」
「あら、非常に珍しいけれど兎もあるのよ花粉症」
「え?そうなの?まぁ私らは兎と言っても」
「ひまひまひまひまひまひまひま~!」
叫んだのは永遠亭の主にして彼女らの主君である輝夜だった。
「ひ、姫様?」
「暇~!退屈~!」
「なんか前もそう言ってなかったっけ姫様?」
「だって本当に最近なんにも起こらないんだもの~」
「私は今とても忙しいからそんなに暇でもないわよ」
「永琳は医者のお仕事があるもの。鈴仙やてゐも暇でしょ〜?」
「私はお師匠様の助手がありますからあんまり」
「私も子分の兎達と遊んでいるからあんまり」
「いや鈴仙はともかくてゐはそれ私とおんなじだから。いっそ前みたいに月から刺客でも来てくれないかしら。異変とまでは行かなくても何か刺激が欲しいのよ〜」
「はぁ、豊姫も依姫も頑張ってくれているんだからそんな事言わない」
実につまらなさそうに言った輝夜と刺客という言葉にため息しながら返事する永琳。以前輝夜と永琳にはある秘密があるという事を話した事があるだろう(メニュー10)。ふたりの秘密。それは輝夜の名字「蓬莱山」に絡んでいる。
この蓬莱という字に聞き覚えがあるだろう。藤原妹紅が嘗て飲んだ不死の薬「蓬莱の薬」。輝夜と永琳もまた、その薬を飲んで不老不死となった者なのだ。だが輝夜の場合、飲んだ理由はもっと単純なもの。育ての祖父母のもとから去り、月に戻った彼女は月の暮らしに飽きる様になった。そしてある時禁忌である蓬莱の薬を知り、飲めば死刑あっても地上に流刑になるという事を知り、敢えて永琳と自らの能力で薬を作り、自分で飲み、死ねない死刑となり、流刑となった。つまり退屈だったからと言っても過言ではない。計画通り地上への流刑となった輝夜だったが刑期が終わっても戻る事はなく、永琳を始めとした部隊が派遣されたが彼女は帰国を拒んだ。これに対して永琳は輝夜の望み、そして自らの責を感じて率いてきた隊を殲滅、輝夜をひとりぼっちにはさせないと彼女もまた敢えて薬を飲み、不老不死となったのであった。そして逃亡の末に辿り着いたのがこの幻想郷であり、出会ったのが迷いの竹林の主である因幡てゐ。ふたりの住処を守護する代わりに月の知識を教えるという契約を交わし、今日まで協力関係を結んでいるのであった。
「せめてあの扉がここに出てくれないかしら~」
「扉…ああ異世界食堂の扉の事ね」
「そうそう。あ、そういえば酷いじゃない永琳~!私やてゐを置いて行くなんて!鈴仙に至っては二回行ってんのよ二回!」
「そう言えばそうだぞ!ずるいぞ!」
「だ、だってしょうがないじゃないですか、往診の帰りに偶然見つけてしまったんですから~」
そう、実はこの七日前、里に往診に出ていた鈴仙と永琳は永遠亭への帰りに偶然扉を見つけ、ねこやに来店していたのであった。その話についてはまた後日述べるとする。
「最初は連れてこようと思ったけれど…あのままにしておいたら里の人が入ってしまうかもしれなかったのよ。それにちゃんとおみやげ持ってきたじゃない」
「おみやげと実際に行くのとは違うの!妹紅だって行ったのに~私だって行きたいのに~」
「…そういえば幻想郷のあちこちにあの扉出てるみたいですけど迷いの竹林じゃまだ妹紅さんの家と私が落ちた洞窟だけですね」
「あ~アレ私が仕掛けた落とし穴ね。今思えば私が落ちておけばよかったな~手下の兎達も見つけてないからさ~」
「遊びに付き合わされるあの子達も気の毒ね」
「いやいや至って真面目にやってるよ~。見つけたら私らのもんだもんね♪」
「話がこじれちゃったけど私は今ヒジョ~に退屈なの!だから扉ここに現れてくれないかしらね~」
「そんな都合よく」
ヴゥーーーンッ!
突如、輝夜の和室に現れた扉によって鈴仙の声は中断された。
「あら!」
「ね、ねこやの扉!」
「え、これがそうなの!?やったー!お昼ご飯は食べちゃったけど早速行くわよ!」
「おー!」
「じゃ、じゃあ私も護衛で」
「だーめ!鈴仙はもう二回も行ってるでしょ!」
「アンタは留守番してろ。御守りは私に任せろ!」
輝夜とてゐは既に行く気満々の様子。この様子では誰が言っても止まらないだろう。
「……仕方ないわね。行ってきなさい」
「お師匠様~」
「強い守護もあるみたいだし、あそこなら大丈夫だと思うわ。これでこの子の機嫌が直るなら行かせてあげましょ」
「さっすが永琳♪」
「その代わりあちらに迷惑かけちゃ駄目よ」
「わかってるってば。じゃあ行ってくるわね♪」
「みやげ話期待してろ~♪」
そして輝夜が扉の取っ手に手をかけようとした時、
「その前にそのパジャマも着替えていきなさい」
「…あら?私とした事が着替えるの忘れちゃった(笑)」
…………
~~~~♪
優雅な着物に着替えなおした輝夜といつもの服装のてゐが扉を開けるとそこは自分が住んでいる永遠亭の純和風のものと全く違う、純洋風の部屋が目に飛び込んできた。
「へ~。紅魔館ほどじゃないけど中々綺麗じゃないか」
「月にも似た様な部屋はあったけど同じようなものは無いわね~」
そんなふたりの所へアレッタが近づいて来た。
「いらっしゃいませ!ようこそ洋食のねこやへ!」
「ねぇ、ここって幻想郷に現れたっていう食堂よね?鈴仙から聞いたわ」
「はい、ここは異世界の料理屋です!お客様はレイセンさんのお知り合いですか?」
「そうよ。幻想郷に異世界の扉が現れたって聞いてずっと来たかったんだから♪あ、私はあの有名なかぐや姫、蓬莱山輝夜よ。宜しくね」
「私は因幡てゐ。幸運を呼ぶ縁起のいい素兎だ!」
「アレッタといいます!宜しくお願いします」
「おや~?アンタにも角が生えてるね。ヤギの妖怪かい?」
「あ、いえ。私は魔族なんです」
「マゾク?へ~貴女がそうなんだ。永琳が言ってたよ。幻想郷では珍しい種族がいるって」
「あ、エイリンさんの事もご存知なんですか?」
「そうよ〜。永琳は私の師匠兼従者兼家族だからね。あ、鈴仙もてゐも家族よ」
「そうなんですか〜」
すると店主もいつもの様に顔を出す。
「いらっしゃい」
「こんにちは。貴方がこちらの主かしら?」
「ふてぶてしい顔だね〜中々」
「はは、よく言われます。とりあえず空いているテーブルにどうぞ」
…………
言われて輝夜とてゐはテーブルに着いた。メニューとお冷を持ってきたクロ。
(メニューとおしぼりになります)
「あら、頭の中に声が。あ、貴女が永琳が言ってた不思議な会話をする人ね」
「でも人って感じじゃないね。耳も違うし、アンタもマゾクってやつなの?」
(いえ、私は違います)
「ふ~ん、まぁいいや」
「ねぇねぇそんな事よりもおススメ教えてくれないかしら?お昼は食べてきたけれど、ここはお菓子も凄く美味しいんでしょ?」
~~~~♪
小さい翼と角を持つ少女
「こんにちは…」
そんな会話をしていると再び新たな来店者がやって来た。一見短い赤い髪の少女だが、よく見るとその髪から小さい角、そして背中から小さい翼が見える。そしてこれも小さいが小さい尻尾も生えている。
「あ、いらっしゃいませラスティーナ様!」
「こんにちは、アレッタ」
「おおラスティーナ様!」
「あ、ライオネルもこんにちは。…この前はありがとう」
「いえいえなんのなんの。あんな馬鹿者抑えつけるのは大した事ではありませんよ。また何時でも呼んでください!」
そう言って食事をしていたカツ丼ことライオネルは退店していった。
「す、すっごいな今の人。いや人じゃないか、なんなのアレ?」
「確か…ライオン?っていう動物の頭だったけど」
「…ラスティーナ様?」
「い、いえ大丈夫よ。……アーデルハイド様達は本日は?」
「あ、つい先程帰られました」
「そう、入れ違いになってしまったのね」
すると、
「ねぇねぇ貴女、よかったら私達と一緒にお茶しましょうよ♪」
「姫様?」
「ひとりだけで食べるのもつまらないじゃない。ねぇいいでしょ?」
少し驚いたてゐに対し、輝夜は随分乗り気の様だ。
「……宜しいのですか?」
「勿論よ。私も鈴仙や永琳と同じく異世界の人と交流してみたいしね♪」
「はぁ、こうなったら姫様は止まらないからなぁ」
言われて赤髪の少女は誘われる形で輝夜、てゐのテーブルに座った。
「ありがとうございます」
「いえいえどういたしまして~」
「…あの、先程貴女、異世界と仰ってましたが…もしかして最近こちらに来られる様になった世界という?」
「そうそう。幻想郷っていう世界から来たのよ。私は蓬莱山輝夜。宜しくね」
「因幡てゐだぞ」
ラスティーナ(モカチョコレートパフェ)
「やはりそうなのですか…。あ、自己紹介が遅れてしまいました。魔都に住んでおります、ラスティーナと申します。恥ずかしながら現代の魔王を務めております。お見知りおきを」
その言葉にふたりは反応する。
「まぁ…魔王様?」
「なんかの本で読んだ事あるよ!確か「この世の全ては私のもの」みたいな事言いながら町を襲ったり国の王女様を攫ったり、勇者ってやつとの戦いじゃ「世界の半分をあげるから降参しろ」と言いながら負けると思いきや、最後は竜になるやつでしょ~?」
「…竜?い、いえ私はそんな事はできません。それに王女様を攫ったりも町を襲ったりもしません!」
「あ、そうなんだ。な~んだ魔王なんて言うから驚いちゃった。でも全然強そうじゃないね。魔王なんていうからもっと強そうな奴と思っちゃったよ」
「こ~らてゐ。それは失礼よ」
「ふふ、気にされなくていいですよ。私自身もそう思いますし最も弱い魔王なんて言われている程ですから」
「まぁ姫様もこんなんだけど一応月のお姫様だもんね」
「間違っては無いけれどな~んか気に障る言い方ね~」
「月の…姫?」
「ええ話せば長くなるんだけど…」
…………
輝夜は自らの出生と存在について話した。
自分は人の手によって育てられたが実は遥か天空に浮かぶ月の生まれである事。
禁忌である「蓬莱の薬」を飲み、不老不死となった事。その罪から一度処刑されるも死にきれず、星に流刑にされた事。暫くして迷いの竹林に住んでいるてゐと出会い、住処である永遠亭を追手から守る代わりに自分達に月の知恵を授けるという契約を結んだ事。
そしてそこが幻想郷という人の世と切り離された世界である事。
「とまぁそんな訳なのよ♪」
「……」
「どしたの?」
「ああいえ…。お話のあまりの内容で驚いてしまって。不老不死の薬とか、月の方とか。…ですがそんな事になったのに、随分落ち着いている、というより明るくしてらっしゃいますね?」
「だって昔の事くよくよ考えても仕方ないじゃない?大事なのはこれからの事よ。皆死んでしまっても私達は生き残っちゃうんだから少しでも暇をつぶすために楽しく生きていく様にしなきゃ♪」
「そ、そういうものなのですか?」
「そういうものよ?じゃあ今度は貴女の話を聞かせてくれるかしら?」
「私のですか?」
「私だけ話しちゃ不公平じゃない?だから貴女の事も教えてよ♪」
「お腹はちょっと空いてるけど仕方ない、私も付き合ってやるぞ」
「は、はぁ。では…」
…………
昔、異世界の帝国のある都でふたりの人物による会合が行われた。
ひとりは砂の国の皇太子、シャリーフの妻アーデルハイドの祖父にして先代皇帝ヴィルヘイム。
もうひとりはラスティーナの母にして「魔獣王」と恐れられた先代魔王アルティーナ。
ヴィルヘイムはアルティーナに言った。「この都をお前達にやる。自由に統治もしてよい。代わりに余に臣従せよ」と。
当然アルティーナは鼻で笑った。この都は自分達が自分達の力で手に入れたもの。何故そんな必要が、自分よりも遥かに弱い人間にそんな事を言われるつもりは無い、死にたいのか?と言おうと思った。
ヴィルヘイムは言った。「余に何かあれば帝国そのものをくれてやるから仇を取ってほしい。そう周辺国や六神官にも伝えておいた」と。
アルティーナは眉間に皴を寄せた。今ここで目の前の男に手を出せば周りの国々全てが自分と自分が治める民に向かってくる。流石にそれは避けたいところだった。再び問いかけた。「何故我に臣従を?」と。
ヴィルヘイムは言った。「余は其方を買っている。力も賢さも。そこらの逆賊じみた臣従よりもよほどな。この国を見て回って驚いた。かなり有能な部類の王が治めてると。それが其方という訳だ。余はこう見えて結構敵が多くてな。グダグダと言って臣従しない逆賊じみた奴を山ほど抱えている。そいつらを征伐せにゃならん。そのためには其方の国の力が必要だ。魔族だろうとそんな奴等よりはよほど頼りになる。臣従が嫌ならそう見せかけるだけで事実上同盟でもよい。どうだ?」
アルティーナは笑った。ふざけていると同時に面白い、こんな人間もいるのだと。暫く考えた後、
「汝、アルティーナよ。このヴィルヘルムの名において汝と汝の子孫を帝国に仕える臣下と認め、この都とその周りを領地として与える。以後、我が帝国に忠義を尽くせ」
この言葉と共に帝国と魔族の治める国「魔都」の同盟は成った。
……そしてそれから数十年、当時の王はふたりともこの世を去り、現在の皇帝はアーデルハイドの父、そして魔王はアルティーナの一人娘であるラスティーナが継いだのだが…。
「「…最弱王(ぉ~~)?」」
「…はい。私達魔族は魔族の神から加護を与えられて生まれてきます。ただ…その加護というのが曖昧でして、強い加護を得た者もいればそうでない者もいます。強い加護を得た者はその力から各々魔王を名乗る者もいます。お母…先代の子である私もまた跡を継いだのですが…見ての通り私の加護は小さい角や翼、尾が生えているだけで力も母とは比較にならない程弱いものです」
「ん~…確かにまだ紅魔館のお嬢様とかの方が強そう」
「一時は私もそれで悩んでいました。私の様な弱き者が魔王で良いのか、跡を継いでもいいものかと。でも…私の友達の方が言ってくださったんです」
(御父様が仰っていました。ラスティイナ様はとても頭が良くて賢い。きっと魔都を正しく治めてくれると。それに私は戦いの技は殆ど知りません。剣どころか短剣すらまともに使えません。魔術も使えません。それでも皇女です。王族であっても強くあることは良いことだと思いますが、強くある必要があるのかと言われるとそれは違うと思います。それよりも国を栄えさせることが出来る王こそ大事だと、私も御爺様からそう教わりました)
「いいお友達ね」
「ええ本当に。嬉しかったです。立場上気軽にこんな相談ができる者も近くにおりませんし。それから私は武よりも知の方に力を入れる事にしました。母から受け継いだ魔都をもっとより良い場所にするために、力だけに頼らない方法を見つけるために」
「まるで幻想郷に来たばかりの姫様達みたいだね~。あん時は私達も付き合わされる形で色々やったよ。今はまぁいい思い出だけど」
しかし、輝夜は明るかったラスティーナの表情が再び曇った事に気づいた。
「どうしたの?」
「え?」
「なんかあるなら話してみなさいよ。言ったでしょ?もっと異世界の人と話したいって」
「……いえ、これは秘匿にしている話ですので」
「別の世界に住んでいる私達に話しても周りにはバレないでしょ?」
「それは…そうかもしれませんが」
「長い話になりそうなら食べながら話そうよ~」
「まぁまぁいいじゃないの。ご飯食べながらだとお料理に集中できないじゃない。さぁどうぞ」
「………ありがとうございます」
…………
ラスティーナは再び小さい声で話始めた。
実は数日前、魔都にてとある出来事があった。その日は領主ラスティーナが民衆の前に立ち、演説を行っていた。内容は今後の魔都の発展計画と帝国をはじめ、周辺国との関係の強化を図るもの。この様な事は多くないがより多くの民衆と触れ、そして自分で話したいという彼女の希望であった。多くの者はそれを歓迎した。
……が、事件は起こった。演説が終盤に差し掛かった頃、ラスティーナの背部から突如襲い掛かる刃があったのだ。高度な隠密技術を用いていたらしく近辺の警護の目をすり抜け、犯人は一瞬の隙に襲い掛かった。が、刃は彼女に届かなかった。犯人の首を飛んできた短剣が貫いた。投げたのは今回の警護のためにラスティーナから密かに依頼されていたライオネル。歴戦の猛者であるその目と気配察知で周りの者よりも早く動いた。事件後すぐに犯人を調べ上げ、その裏で動いていた者を暴く事が出来た。黒幕は数十年前、アルティーナが帝国の属国になる決断をした事を強く反対した一族の末裔。同盟とはいえ彼らは帝国の属国になる事をよく思わず、ラスティーナを狙ったのも弱く頼りない彼女に変わって支配しようと忠誠を誓うふりをして暗殺を目論んだのだった。この事は影響を考え、周辺国には決して伝わらない様にした。
「ふ~ん、貴女も大変だったのね」
「ライオネルってあのライオン頭の人?」
「はい。彼は私よりもずっと強いですから。ただ…私は刺客の気配すら気づけませんでした。私が弱かったから、私にもっと…母の様な力があればあの様な事はなかったのではないか。そう思いました」
「それは犯人を責めるべきなんじゃないの?従わなかった方が悪いでしょ?ましてや暗殺なんて」
「確かにそうかもしれません…。ですが魔族は本来力を重視する種族です。実際母が統治していた時は母の力を恐れ、反逆の様な事はありませんでした。私を狙った者達も弱い私ならなんとかなると思ったのでしょうね…」
アーデルハイドとの交流で一度は悩みから解放されたラスティーナだったが、自らの命、しかも同族の魔族から狙われた事が彼女の心を暗くしていた。
「都と民を治める者としてやはり知だけでは難しいのでしょうか…。どうすれば母の様な強く賢く、民から慕われる様になれるのか」
そんな彼女を見ていた輝夜が言った。
「無理にお母さんの様になる必要なんて全く無いし、別に変わらなくていいと思うわよ」
「…え?」
「だって私なんて永琳みたいに頭も良くないし、鈴仙みたいにたいして強くもない。てゐみたいに沢山の部下(兎)に慕われてないし、貴女みたいに貴族として礼儀正しくもないわ。正直なんで姫なのかしら?って思った事もしばしばよ。そんな私でも日々のんびり過ごせてて、永遠亭の皆は仕えてくれてるのよ?私からしたら「え~我儘~」て感じよ貴女」
「…我儘ですか?」
「そうよ。武術もやりたい頭も良くなりたい民も領土もしっかり治めたいなんてそんなのすんごい我儘だと思うわプンプン。貴女のお友達も言ったんじゃないの。皇女だからって強くなる必要はない、自分の良い点を磨けって。貴女頭は良いんでしょ?だったらとことん賢くなればいいのよ。戦うのも向いてる人に任せて。分からず屋とか古い考えに縛られた連中を説き伏せてやればいいのよ」
「ですが…どうすれば」
「そんなの私にはわからないわよ。貴女の国の事なんだから貴女が自分で考えて決めないと。でも忘れちゃいけないのは自分だけで決めたら駄目よ。多くの人と話し合って色んな考えを柔軟に取り入れていく事が大事。領主なんだから貴女が「皆集まれ~」って言えば多くの人、魔族だっけ、が集まるでしょ?皆で話しあったらいいのよ。これはどう思うか、こういうやり方は正しいか、他に何か意見はないかってね。そして良いとこ悪いとこを指摘し合えばいい方法が見つかったりするんじゃないかしら?って永琳も言ってたんだけどね~」
「……」
「まぁでも私は結構、貴女のそういう我儘なところ嫌いじゃないわ」
「え?」
「貴女も魔王って言っても女の子だしお姫様なんでしょ?なら少しは我儘な方がいいのよ。悪い事はしたら駄目だけど、少しの我儘は女の子の特権みたいなもんよ。重い事ばかり考えてちゃいけないわ。時には自分が楽しまなきゃ♪」
凄く明るい表情で輝夜は言った。月にいた頃から我侭放題な箱入り娘として育ち、天然気味で世間知らず。人見知りせず、天真爛漫。更に好奇心も旺盛。それが蓬莱山輝夜の幻想郷での姿。一見すると人によっては非常に厄介な人物とみなされる事も多い。嘗ての月でもそうだった。しかし部下である鈴仙のために時には異変を起こしたり、失敗を自ら慰めたり、妹紅のためにイベントを考えたり(半分は自分が楽しむためだが)など知る者しか知らない優しさを併せ持つ彼女だからこそ師である永琳始め、鈴仙やてゐは付き従っている。嫌がりながらも妹紅も友達だと思っている。もし輝夜が変わってしまったら皆困惑するだろう。輝夜はこのままで良いのだと誰もが内心思っている。
「まぁ時には行き過ぎて迷惑をかける事もあるけどね~」
「あらそう?いいじゃない。時には刺激も必要よ刺激も♪」
「…ふふ、仲いいんですね」
「そりゃそうよ家族だもの」
「家族か…。私には家族は母だけでしたからちょっと羨ましいですね」
「貴女もお友達みたいに早くお相手見つけなさいな。そうすれば家族も沢山出来るわよ♪」
「ふぇっ!か、からかわないでください」
からかうような輝夜の言葉に慌てるラスティーナ。
「ねぇ~そろそろ何か食べようよ姫様~」
「あ、そうだったわすっかり忘れてた。ご飯屋さんに来たのに何も食べないなんていけないわね」
するとラスティーナが、
「あ、もしよろしければカグヤ様とテイ様の御食事代、私に支払わせて頂けませんか?お話を聞いていただいたお礼で」
「まぁほんと?やった~♪」
「いいとこあるじゃないか人間♪あ、違う魔王だった」
という事で輝夜とてゐはメニューを見てみるのだが…、
「…う〜ん悩むわね〜」
「聞いた事無いものばかり〜」
「おふたりはどんなものを召し上がられますか?」
「基本的に和食よ。ただお昼ご飯はもう食べてきてるのよね。でもちょっと小腹も空いてるから食べれるといえば食べれるわよ。食べた事無い甘味が食べてみたいわね♪」
「私も甘味がいいかな。幻想郷でも食べれない様なものがい」
「あと喉の渇きも癒せるものならもっと嬉しいわね」
ふたりの注文を聞いたラスティーナは顎に手を当ててあるメニューのページを開く。
「でしたらおススメしたいものがあります!私もお友達も大好きなお料理なんですよ。こちらでしたらおふたりのご希望をきっと満たせるかと」
「ふ〜ん。見た目確かに美味しそうだけど。……じゃあ私はこれにしよっと。色々乗ってて美味しそうだし♪」
「私は……あら」
「どうしたの姫様?」
「いいえ何でもないわ。じゃあ私はこれにしようかしらね♪」
「私はここでいつも注文しているものがありますので。ではご注文しますね」
言われて頷く輝夜とてゐ。ラスティーナはアレッタを呼ぶと自分達の注文を頼んだ。
……店主調理中……
…………
「お待たせしましたー!」
そしてアレッタが三人の注文を運んできた。が、
「お料理をお持ちしました~」(いいなぁいいなぁ)
「ありがとうございます。…どうしました?」
「は!失礼しました。ではまずこちら、「モカチョコレートパフェ」です」
ラスティーナの前に置かれたのは白と茶色と黒色を主体とした、彼女の「いつもの」であるモカチョコレートパフェ。見た目下から黒のチョコレートアイスや茶色のモカアイスの層が段々に重なり、上にはチョコレートソースがかけられた白いソフトクリーム、横に葉型の焼き菓子や茶色いアイスクリームや細かいチョコレートやらが添えられている。
「それ、なんか黒いけど焦げてるんじゃないの?」
「ふふ、私も最初はそう思ったんですけど全然違うんです。見た目と違ってとても美味しいんですよ」
「ふ~ん、アリスが食べたっていうチョコレートってやつかしら?」
「こちらの「プリンパフェ」はどなたですか?」
てゐが注文したのはプリンパフェというもの。下から黄色と濃い飴色の見た目いかにも柔らかそうなプリンの層と小麦色の小さい焼き菓子が重なり、その上に薄くホイップクリームを敷き、最後に堂々とプリンが乗っている。その横にもホイップクリーム、更に様々な薄切りの果物が添えられている。プリンアラモードを愛するヴィクトリアのお墨付き新メニューである。
「私だよ!…すっごく柔らかいなこの黄色いやつ!」
「まるで満月みたいね」
「そして最後にこちら「ストロベリーパフェ」です!」
最後に輝夜の前に出されたのはストロベリー、苺のパフェ。一番下から白いミルクアイスクリーム、赤く柔らかいストロベリージャム、プリンパフェと同じ積められたフレーク、その上に再びミルクアイスが乗り、その上にピンク色のストロベリーアイスという感じである。横にはホイップクリームと薄切りの苺と細い焼き菓子、中央に丸ごとのひとつの苺と、苺を存分に楽しめる一品。
「これは凄く可愛らしいわね」
「華やかだね~」
「それではごゆっくり!」
「それじゃあ早速頂ましょうか♪」
「いただきま~す!」
「わが魔族の神よ。今日も我らの生きる糧を…」
「おおすごくプルプルしてる!」
ラスティーナが祈りをささげている中、てゐは自らのプリンパフェに既に取り掛かっていた。寒天や心太より柔らかいそれはスプーンがすんなりと入り、さっくりと切れた。口に運ぶと、
「すんごく美味しいし柔らかい!和菓子とは違う!甘いけどこの黒いものがほんのり苦くてこの黄色いやつの甘さを引き立ててる」
「そちらがプリンといいまして卵を使っているそうです。あとその黒いソースはカラメルというらしいですよ」
「へ~卵焼き、いえ茶碗蒸しみたいなものかしら?カラメルなら知ってるわ。確か砂糖を焦がして作るのよね」
卵の濃い味と甘さ、カラメルのほろ苦さのプリンの味に満足したらしいてゐはその周りのものとも一緒に食べる。雲のように柔らかいホイップクリーム、シャキッとした林檎やまろやかなバナナ、ねっとりと濃厚な甘みが広がるメロン、そしてトウモロコシ香るサクサクのコーンフレーク。そのどれもが初めてで楽しく、全てがプリンと合っていた。
「この緑の果物も凄く甘いし、ポリポリしたものも旨いな!いろいろな味と食感がして楽しいよ。外の世界にはこんなお菓子もあるのか~」
「私もいただこっと♪」
輝夜もまた自らのストロベリーパフェに取り掛かる。まずはたっぷりの苺をひとさじ掬い、食べてみると口の中に苺の強い甘酸っぱさを含む果汁と香りが広がる。
「…ふわぁ、すっごく美味しい。こんな濃い味の苺食べたこと無い」
苺の味に驚きつつも次にスプーンを入れたのは桃色のストロベリーアイス。ミルクアイスをベースに苺の果肉と果汁をたっぷり混ぜて作られたそれは冷たさと共にこちらも強い甘みと甘酸っぱさが広がる。
「氷苺とはまた違った冷たさと甘さで夏とかにうってつけね。美味しいわ♪幻想郷でも作れたらいいのに~」
「その真ん中の赤いのはなんだろ?煮凝り?」
「それはジャムといって果実を煮詰めて作ってるんですよ」
たっぷりの苺をたっぷりの砂糖やレモン果汁で煮詰めて作る苺ジャムはミルクアイスと一緒に食べると乳の味と濃厚な苺ジャムの味が舌の上で見事に合っている。
「このジャムっていうのも美味しいけどこの白い冷たいものが美味しいわね!色々な味に合いそう……そうだ!ねぇラスティーナ、ちょっとだけもらうわね♪」
そう言うとラスティーナのモカチョコパフェからモカアイスを一匙スプーンですくい、ミルクアイスと合わせる。これも勿論合う。
「うん、これも美味しい♪はい、お礼に私も苺ひとつあげるわ」
「い、いえそんな」
「いいからいいから。ねぇラスティーナだったよね、私達もお友達になりましょうよ」
「…え?」
「見た感じ歳も近…って私はもう結構生きてるけど。貴女とは結構仲良くなれそうな気がするのよ。どうかしら?別々の世界に住んでるけど友達になっちゃいけないなんて理由ないでしょ?そうだ!今度私の家族やお友達も紹介するわ。鈴仙や永琳も、あと妹紅もきっと貴女のいいお友達になれると思うわよ。ね♪」
「……」
屈託も無い笑顔でそう言う輝夜。
「仕方ないな。私もなってやるよ貴女のお友達に」
「……ありがとうございますカグヤさん。それにテイさん」
「どうしたしまして〜。という訳でパフェ食べ合いっこしましょ♪」
控えめながらもとても嬉しそうにそう返事をしたラスティーナだった。世界を跨いでふたりの姫の友情が生まれた。尚その後、ラスティーナは輝夜の助言通り、出来る限り沢山の魔族、時には強き加護を持つ魔族とも恐れず対話・交流し、力による手段を選ばずに魔族がより発展していく方法を模索し続け、見事それを成し遂げていく事になる。弱くともその姿は母アルティーナに負けずとも劣らないものであった。
「そういえば姫様、その苺のそれを選ぶ時なんで止まったの?」
「え?……さぁ~♪」
(まさか赤色と白色がなんとなく妹紅を思わせたから、なんて言える訳ないわよね~)
……少女食事中……
…………
「(ありがとうございました)ー!」
「鈴仙達の言う通り中々美味しかったぞ。こちらの世界の飯屋もやるな♪」
「カグヤさん、ありがとうございます。またお茶してくださいね」
「ええ勿論よ♪あと私達と一緒の時はその敬語は少しづつ減らしなさいよ?堅苦しいのはだ~め」
「う、うん」
「おまちどう。皆さんのおみやげです」
「ありがとうございます。秘書が最近こちらのビターチョコレートというものがすっかりお気に入りになってしまいまして」
「これ前に鈴仙が持ってきたけーき?ってやつだね。美味しかったからね!」
「…ああそう言えば、おふたりは永琳さんと一緒にお住まいになってるってさっきこのアレッタさんから聞いたんですが?」
「ええそうよ?」
「丁度良かった。それなら…」
…………
~~~~♪
「只今~♪」
「今帰ったぞ~♪」
「あ、帰って来た!おかえりなさい姫様!あとてゐも」
「ほら、これ私らからのおみやげだぞ。有難く受け取れ」
帰って来た輝夜とてゐを迎える鈴仙。そこに永琳もやって来た。
「おかえりなさい。どうだった、異世界食堂は?」
「何の問題も無かったぞ!私がいるんだからまぁ当然だけどな」
「アンタがいなくてもあそこは何ともないと思うけどね〜」
「なんだと~!」
「ええ楽しい場所だったわ。茶飲み友達もできたし。…あ、そういえば店主さんから永琳に伝えてほしいって言われてたんだったわ」
「私に?」
「ええ。「おかげさまですっかり治りました。あの時は本当にありがとうございました。そう伝えてください」とあの方からって」
「…あらそうなのね。良かったわ」
幻想郷の医者、永琳は嬉しそうに微笑んだ。
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「日替わりのハヤシ」
次回は話中にあった永琳先生来店の回です。時系列的には今話の一週間前になります。お楽しみに。あと遅れてすみませんでした。
こんにちは、storybladeです。幻想郷食堂をお読み頂きありがとうございます。突然ですがアンケートです。先代博麗の巫女や魂魄妖忌の回があれば読んでみたいと思いますか?公式設定が少ないのでオリジナル要素を含んでしまいますがどうでしょうか?ご意見お願いします。期限は今月一杯です。
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あれば読んでみたい
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不安なので読みたくない