「はい!とっても美味しいです」
夜のまかないで何かを試食しているアレッタ。その味はとても好評の様だ。因みにクロは言わずもがなチキンカレーだ。
「そうか、そりゃ良かった」
「今回はどうしてこのお料理をまかないにしたんですか?」
「ああちょっとアレンジっつーか、実は今迄トマトを卸してくれてた農家の人が近々閉業する事になってな。今回はその人が紹介してくれたトコのトマトを使ってみたんだ」
「へ~そうなんですか」
「なぜ止めてしまったの?」
「ん~跡継ぎ問題ってやつだな。畑を継いでくれる人がいなかったんだよ。爺さんの頃からの付き合いなんだがその人も歳だしな。引退ってやつだ」
「残念ですね」
「まぁ時の流れってやつだな。仕方ないさ。そうだ、折角だから次の異世界食堂の日替わりはこいつにしよう」
「わ〜それはいいですね!」
どうやら次の日替わりのメニューが決まった様だった。
男の子
「父ちゃん大丈夫?」
ガタイのいい父親
「全然心配すんな!こんくらい…アテテ!」
女の子
「父ちゃん!」
焦げ茶色の髪の母親
「無茶すんじゃないよもう!」
異世界のとある場所。森の近くにある木造のあまり大きくはない一軒の家。その中に一つの家族がいた。夫婦、男の子と女の子のふたりの兄妹の四人家族の様だがよく見ると父親らしき男性の足が粗末な布と木で固定されている。
「す、すまねぇ」
「その足じゃ明日から暫く木こりの仕事は無理かねぇ…」
「馬鹿言ってんじゃねぇよ少しおぼつかねぇが立ったり歩く位ならできらぁ。上半身が動かせれば斧は振れるぜ」
「無茶しないで父ちゃん!俺が頑張るから!」
「アタシも縫物頑張る!」
「おめぇら……グス、いいガキを持って俺ぁ幸せだぜ。よっしゃ、んじゃ行くか!」
「待ちなよ!そんな怪我で行くってのかい?そんな事よりその金はアンタの薬代に」
「いやいや何言ってんだ母ちゃん。今日は月一のあの日なんだぜ?こいつらだって楽しみにしてんだ。俺のためにこいつらの一番の楽しみを駄目にできねえよ」
父親は怪我をしているに関わらずどこかに行く気満々の様だ。そして子供達も父を心配する気持ちも強いがそこは子供、子供らしく行きたい気持ちもある事を母親もわかっている。そして、
「なぁいいだろ母ちゃん?頼むよ、こいつらのためにもよ」
「………はぁ、わかったよ。でも決して無茶はしないでおくれよ」
「おう♪じゃ行くぜお前ら!」
…………
幻想郷 人里
「お師匠様、本日もお疲れ様でした!」
一方その少し前、こちらは幻想郷の人里。その中を歩くふたりの女性。ひとりはいつものセーラー服らしい服装に身を包み、耳だけうまく見えない様に隠した永遠亭の住人、鈴仙・優曇華院・イナバ。
そしてもうひとりは赤と青のツートンデザインの服と同じ配色のナース帽を頭にかぶった脚まで伸びる長い銀髪が特徴の女性、八意永琳。
ふたりは今、週に一度の人里での往診を終えたばかりだ。
「お疲れ様、優曇華」
「この時期は体調を崩される人が多いですね毎年。お薬を多めに持ってきて良かったです」
「冬の寒さと春の暖かさが切り替わる不安定な時期ですからね。貴女も体調管理には気を付けないと駄目よ」
「勿論です!お師匠様の弟子たる私が体調崩したら本末転倒ですもんね!」
幻想郷にやって来て以来、永琳は自らの能力である「あらゆる薬を作る程度の能力」により、薬師兼医者としての生活を送っている。多くは永遠亭にて直診と置き薬の販売だが、鈴仙では荷が重い事や今の様に多忙な時は一緒に往診に赴いたりもするのだ。
「でも少しお腹空いちゃいましたね」
「もうお昼回ったものね……あら」
永琳は一本の見事な桜に目をやり、ふと佇む。
「……」
「どうしましたお師匠様?」
「…桜を見てたらふと思っちゃって。私が地上に来て幾度目の春かしらねって」
月での永琳は「月の知識」とも言われる程の賢者であった。
古くは都の建造に始まり、始まりの頃から長く月の使者を務め、月を治める多くの者達の教育を行った。今の文明では造れないオーパーツを造りあげたり、更には月の公転にも影響を及ぼしたり、果てには太古の月と地球を複成したりとその知識と技術は月の民でも群を抜いており、おまけに大部隊をひとりで殲滅できる程戦闘能力にも優れている。そんな彼女を慕う者はとても多く、長く月に反映を齎すと思われていた。
……だがある時、教え子である輝夜の願いを聞き入れて蓬莱の薬を作り、結果輝夜は追放された。この事が永琳の心に傷を与えた事は想像に固くない。自責と償いの意味も込めて永琳もまた輝夜と同じ不死となり、自ら率いてきた隊を自ら殲滅し、ふたりは追われる身となった。
「思えば貴女とも一緒に暮らし始めてもう久しいわね」
「そうですね。あっという間だったと思います」
長い逃亡の末、幻想郷にたどり着いた永琳と輝夜はてゐ達兎達の協力で永遠亭を造り、そして同じく月から逃げてきた鈴仙とも暮らし始め、やがてある行動を起こす。秘術「地上の密室」によって偽物の月を作り、幻想郷と本物の月の繋がりを消して輝夜を守るというものだった。しかし本来の月の姿で無い事に気づいた霊夢や紫達はこれが何者かによって起こされた異変だと気付き、手掛かりである月が消えない様夜を止めて異変の解決に動き出した。これは後に「永夜異変」と呼ばれる様になる。やがて霊夢達と永琳達は相まみえ、輝夜の「永遠と須臾を操る程度の能力」によって霊夢達が起こした終わらない夜を解除、そして博麗大結界によって月からの干渉は無いと知らされた永琳達も術を消滅、お互いは漸く和解に至ったのである。以降は隠れ住んでいた彼女らも幻想郷に馴染もうと今まで以上に外との接触を試みている。この里への往診もその一環。
(今月への帰参が許されても、私はそのつもりはありません。このまま地上で生きてゆきます…)
(ならば私も地上に残り、共に永遠の時を生きていきましょう。もう…貴女を決してひとりにはさせません)
「私はあの子を守り、共に生きていく事を選んだ。どんなに時が経とうとも後悔しないし不変よ。豊姫や依姫達を最後まで見てあげれなかったけど、あの子達は優秀だし心配はいらないわ」
「少なくとも私はずっと姫様やお師匠様と一緒にいます!」
「……ありがとう優曇華」
あまり素直には言えないしが弟子の様な存在であり家族である鈴仙。いたずらが過ぎる事もあるが姫を守るために動いてくれるてゐ。ふたりには感謝している。
「さぁ帰りましょうか。私達の姫のところにね」
「はい!それにお腹もすきましたものね。早く帰って作りましょう」
「…そういえばあの子は今日は確か妹紅のところだったかしら」
「はい。「美味しい筍食べさせてもらいに行ってくる~♪」って言ってました……あ!」
そんな話をしながら永遠亭に向かって歩き始めた…その時、突然鈴仙が立ち止まった。
「どうしたのよ、今度はそんな大声出して」
「あ、あれ見てください!」
「あれ?……え」
里の路地裏に入る辺りを指さす鈴仙。何事かと永琳も促されて覗くと…そこには不自然に立っている猫の看板がかかった木製の扉があった。それは何か鈴仙は知っていた。
「あれ、ねこやの扉ですよ!」
「ねこやって…以前貴女が行ったって言う異世界の食堂の事ね」
「はい!」
「どうしてこんなところ…ああ確か扉が現れる場所は定着していないのだったわね」
「はい、私が前に見た洞窟にはもう現れませんでした」
「そう考えるとここに現れたのも全くの偶然、と考えて良いでしょうね。でも…ちょっとまずいわね」
冷静に分析しつつも永琳は少し悩んでいた。路地裏とは言え扉は見ての通り堂々と立っている。これでは里の人間に見つかるのも時間の問題。この扉は異世界と繋がっている。一応以前文々。新聞にて入るなと注意書きはされたが、もし里の人間が誤って入って異世界と接触したら問題になるだろう。だが霊夢を呼ぶ時間は無さそうだし扉を隠す事も出来そうにない。以前知ったが扉は誰かが入れば出て来るまで消えているらしい。ならばここは入った事がある鈴仙に入らせようかと思ったところ、
「お師匠様も一緒に行きましょう!」
鈴仙が永琳にそう言った。
「な、何を言い出すのよ?」
「最近のお師匠様は御疲れのご様子です!ですからさっきみたいなノスタルジックな気持ちになられるんです!たまにはお師匠様も休息を取られるのも大事だと思います!」
「…どこでそんな言葉覚えてきたの。それに私は疲れてなんか」
「どうせ扉を消すために私だけ入らせて自分はさっさと帰ろうと思ったでしょう?」
「ええそうよ。ゆっくり食事してきたらいいわ」
「私だけ美味しいもの食べてこいって仰るんですか?こんな気持じゃ美味しいものも美味しくなくなっちゃいますよ!」
鈴仙は妙に張り切っていた。
「私知ってるんですからね?先日様患者が立て続けに来た日の夜、目を押さえていた事。いいですか?不老不死とはいえお師匠様だって疲れもするしたま~〜には失敗もします。休める時は休まないといけません!医者が過労で倒れたら本末転倒なんでしょう?」
「……言うわね」
「あ、すいません。兎に角!一緒に行ってくれるまで私はてこでも動きませんからね!」
腰に手を当ててそう言い切る鈴仙。永琳に対してこんなはっきり言う彼女はあまり見る事が無い。不器用であるがそれは師を重んじての事。それは永琳もわかっているらしく、
「……はぁ、わかったわ。私も行きましょう。でもあまりゆっくりはしないわよ?帰ってやる事もあるのだから」
「はい!」
遂に永琳は折れ、答えを聞いた鈴仙は金のノブに手をかけた。
…………
~~~~♪
扉を開けた先には永琳にとっては初めての、鈴仙にとっては二回目の変わらぬ風景が広がっていた。
「…これが外の世界の食堂。中々綺麗なところね」
「久しぶりですね~」
「あ、いらっしゃいませ!ようこそ洋食のねこやへ……あ、えっと確か、レイセンさんでしたね!」
(お久しぶりです)
「御無沙汰してます!お師匠様、こちらのおふたりはアレッタさんとクロさんと言いましてこのお店の給仕さんです」
「そうなのね。こんにちは。以前うちの優曇華がお世話になったそうで」
「いえいえ!初めまして!あ、私はアレッタといいます」
(………クロと申します)
クロは永琳を見て一瞬思う表情を見せたが直ぐに戻した。以前会った妹紅と同じ、不老不死の力を感じたのだろう。
「ご丁寧にどうも。私は八意永琳。迷いの森の永遠亭にて薬師をやっているわ」
「クスシさん…ですか?」
「薬師というのはお薬を作る人の事よ」
「お師匠様は幻想郷一番の薬師でお医者様なんです」
「(へ~)」
すると店主も奥から顔を見せた。
「いらっしゃい。えっと…レイセンでしたね」
「店主さんどうもこんにちは!今日は私のお師匠様を連れてきました」
「それはありがとうございます」
「貴方がこちらの主ね。前はうちの優曇華が世話になったみたいでごめんなさいね」
「いえいえとんでもないです。ようこそ異世界食堂へ」
~~~~♪
「「こんにちは~!」」
「あ、こんにちはカイくん!ボナちゃん!」
「「うん!」」
とその時扉を開けてふたりの子供が元気にやってきた。先程の子供達で男の子がカイ、女の子がボナ、というらしい。
「…あれ?ヘルマンさんとエレンさんは?」
「父ちゃんと母ちゃんは」
「よ!久しぶりぃイッテテテ!」
続いて父親と母親が連れ立って入って来たが…よく見るとエレンという女性がヘルマンという男性に肩を貸している。
「ちょ、無茶すんじゃないって言っただろ。もうアンタも子供なんだから」
「!…どうされたんですかヘルマンさんその足?」
「ああ店主さんか、すまないねお騒がせして。薪の切り出しの時に足を痛めたらしいんだよ。だから今日は止めとけって言ったのに…」
「お薬とかは無いんですか?」
「でもアレッタちゃん、うちの家系事情じゃねぇ…。薬草もたまたま切らしちゃっててさ。今日だってこの日のために貯めてた金を薬に使おうって言ったんだけど、この子らに使ってやりたいって聞かなくてね」
「「父ちゃん…」」
ヘルマン一家の経済状況は決して楽とはいえない。家具も必要最低限のものしかなく、化粧品も全て手作り。今着ている服も彼らの持っている中で一番立派なものであり、洗濯する必要を出さない様極力汚さないように注意しながら着ている程。そんな一家が異世界食堂に来る様になったのはねこや店主が先代の頃、ヘルマンとエレンが結婚する前からの事。その頃はまだ食べた事も無い様な甘味を食べる事もあったが結婚し、子供ができてからは贅沢はしていられなくなった。それでもこの店の料理を自分の子供達にも味合わせてやりたいと、節約に節約を重ねて月に一回は何とか来れる様にしているのだ。そんな状況だから高い薬も買えず、薬草等で応急処置をするしかないのであった。
「失礼、ちょっと診せてもらえるかしら?」
すると暫しその場を眺めていた永琳がふたりに近づいてきた。
「アンタは?」
「ああごめんなさい。私は薬師…医者よ。ご主人のその怪我、私に診させてもらえる?」
「ほ、本当かい!是非…あ、でもうちはお金が」
「心配しなくてもいいわ。お金はいらないから」
「か、金がいらないだってぇ!?アンタ正気か!?」
「ええ私がしたいだけだから気にしないで。優曇華、道具をこちらに」
「はい!」
「アレッタさん、椅子を」
…………
それから少しの間、永琳によるヘルマンの診察が行われ…、
「……うん。少し腫れているけれど骨には異常無さそうだから大丈夫よ。しっかりした身体をしているのが幸いしたみたいね」
「良かった…」
「「せんせ~、父ちゃん大丈夫?」」
「ええ大丈夫よ。安心して。より早く治る様お薬も出しておきましょう。痛み止め残っていたわよね優曇華?」
「はいまだあります」
「ありがてぇけど薬なんて高いんじゃ…」
「言ったでしょう、お金はいらないわ。そのお金はお子さん達のために使ってあげて」
「…かたじけねぇ!」
「お医者様…ありがとうよ。感謝しきれないよ」
すると奥から店主も、
「あの~これ余ってた湿布なんですけど、これも良かったら使ってください。使い方は後で説明します。お代は結構なんで」
「…全く本当にいい人ばかりだね。ほら、お前達もお礼を言いな」
「「ありがとう!」」
「いえいえどういたしまして」
かくして診察は問題なく終わった。すると
「そうだ先生!先生らもここのメシ食いに来たんだろ?だったら先生らのメシ代、俺らに出させてくれねぇか?」
「え?いえ…でも」
「私も父ちゃんに賛成だよ。これ位はさせておくれよ?お前達もいいだろ?」
「うん!俺もアイスクリーム我慢する!」
「あたしもコーラ、黒くてシュワシュワ我慢する!」
「よっしゃ偉い。あとアンタが言い出したからには今回ビール我慢するんだよね?」(ニコ)
「お、おう勿論だ!」
どうやら一家揃って永琳と鈴仙にご馳走したい様だ。
「……わかったわ。ご厚意にあやかりましょう。優曇華もそれでいいわね?」
「勿論です!」
彼らの気持ちを無下に断るのも失礼に思えた永琳と鈴仙は御馳走してもらう事にした。
「まぁつっても俺らとおんなじになっちまって悪ぃんだが。ああ因みに今日の「日替わり」はなんだい?」
「今日はふたつから選んでいただけまして「ハヤシライス」と「オムハヤシ」ですね。どちらもミニサラダとスープが付きますよ」
「お、そうかい。じゃあ選ぶからちょっと待ってくれるか?」
そう言って改めて一家組、永琳と鈴仙組に分かれて席に着き直す。
(…アレッタさんだったかしら。ちょっといい?)
(はいなんですか?……畏まりました!)
…………
「キレイな水ね。……これは柑橘…檸檬の果汁が入っているのかしら?口がさっぱりしていいわね」
「いやまさか今日この日に偶然お医者様がいるなんてね。しかもタダで診てくれるなんて…」
「な、俺が言う通り来て良かったろ?」
「怪我人が何言ってんだい全く調子いいね。あ、良かったらおたくらの名前を教えてくれるかい?」
「八意永琳よ」
「鈴仙・優曇華院・イナバです。鈴仙って呼んでください」
ヘルマン(日替わり)
「変わった名前だな。俺はヘルマンってんだ。カミさんがエレン。チビ達がカイとボナだ」
エレン(日替わり)
「宜しく頼むよ。…にしてもうちらもあんまり来れないとはいえ、こことは付き合いそれなりだけどおたくらは初めてだねぇ」
「ええ。私達は最近来るようになったから」
カイ(日替わり)
「なぁ、お姉ちゃんは兎の獣人かなんかか?」
「え?いえいえ私は月の兎です」
ボナ(日替わり)
「お月さんに兎さんなんているわけないじゃない。変なの~」
「こ~ら失礼言うんじゃないよ!…ほんとすまないね煩い奴等で」
「いえいえとんでもないです!」
「子供が元気なのはいい事よ」
「ねぇねぇ父ちゃん!早く何食べるのか決めようよ!」
「お腹空いた~!」
「たくぅおめぇらは。ま、いっか。そんでどっち食いたいんだ?ハヤシライスとオムハヤシのふたつ好きなやつから選べるって言ってたな」
「確かハヤシライスっていうのは見た目カレーライスってのに似た料理だね。昔一回だけ食べた事あるよ。味は違うけどね。オムハヤシっていうのは知らないけど…名前だとあの青尻尾族が食べてるオムライスってのに似た料理じゃないかねぇ」
「カレーライスってあのおっちゃんが美味そうに食ってたやつだろ?じゃあ俺そのなんとかライスってやつにする!」
「アタシは黄色いふわふわなやつ!」
「カイがハヤシライスでボナがそのオムハヤシってやつだね。父ちゃんは?」
「がっつり食えんのはハヤシライスの方だから俺もハヤシライスにするぜ」
「じゃあ私はボナと同じやつにしようかね。先生らはどうするんだい?ゆっくり決めてくれていいよ」
「いえいえあまり待たせたらお子さんに悪いわ。…では私はハヤシライスというのにしようかしら」
「じゃあ私はオムハヤシっていうのでお願いします」
「わかった。アレッタちゃん!日替わりのハヤシライス3つとオムハヤシ3つずつ。あといつもみたいにスープとサラダ先に貰えるかい?」
「畏まりました!」
(お待たせしました)
既にクロがスープとサラダを人数分ワゴンで運んできていた。
(本日のスープは「サーモンとハクサイのミルクスープ」です)
永琳と鈴仙の前にも本日の日替わりのセットであるスープとサラダが置かれる。サーモンという身が紅色の魚の切り身と小さく切られた白菜が具の白濁色のスープ。サラダはレタス、パプリカ、プチトマトといった野菜とゆで卵が食べやすいサイズにされ、小さい小鉢の皿に飾られている。
「お料理も直ぐにお持ちします。スープはおかわりできますのでお気軽に言ってください!」
「ありがとうよ」
「じゃあ食うか!」
「「いただきます♪」」
「私達も頂きましょうお師匠様」
「ええ」
ヘルマン達に並んで永琳と鈴仙も手を付け始める。まずはスープから。「サーモンと白菜のミルクスープ」。仄かに湯気が立つ白いスープを掬い、口に運ぶと温かみと共に円やかな乳と僅かな塩気を感じる優しい味が広がる。黒い粒は胡椒だろうか。サーモンの切り身はスプーンで簡単にほぐれる程柔らかく、噛むと鮭に近い濃い魚の味がする。因みに鮭とサーモンは同じサケ科だが生活環境が海水と淡水に分かれる。一緒に煮込まれている白菜もまたとても柔らかく口の中で溶ける様。これ一品でも立派なメニューになりうるクオリティ。
一緒のサラダはシャキシャキッとしたレタス、甘みとほんの僅かな苦みあるパプリカ、プチッと弾けた後に甘さが広がるプチトマトの新鮮さが心地よい。かけられているドレッシングというものもサラダの味をより高める。
「…美味しいわね。優しい味わいだけれど塩気もちゃんとあるし、具もきちんと下処理されてるわ。胃腸にも優しそうだし、これなら病人でも食べられるわね」
「野菜も凄く新鮮で美味しいです。このかかってるの初めての味ですけど野菜ととても合います」
「ここは前菜でも凄く美味しいからね。毎回美味い物食べてるって気持ちになれるんだよ」
「お祭りのご飯よりも美味しいの!」
「これでパンがあればもっといいんだけどな!」
「我儘ばっかり言ってるんじゃないよ。全く怪我した癖して食欲は変わらないんだから」
「父ちゃん子供~」
明るい食事会は続く…。
……短めの店主調理中……
…………
そして、ほんの少ししてからアレッタとクロが料理を運んできた。
「お待たせしましたー!」
「やった~早く早く!」
「もうお腹ペコペコだよ~!」
「ふふ、ごめんねカイ君ボナちゃん。ではこちら本日の「日替わり」ハヤシライスと」
(オムハヤシになります)
カイ、ヘルマン、そして永琳の前に出された本日の「日替わり」のメニューのひとつであるハヤシライスというもの。ひとつまみの香草をかけられた白米の上に、茶色いとろみがあるスープ状のものが皿の半分を占める位にたっぷりかけられている。スープの中には牛肉、玉ねぎ、そして小ぶりのキノコの薄切りが見える。初めて見るものだが食欲を刺激するなんともいい匂いがする。
一方ボナとヘレン、そして鈴仙が頼んだのはもうひとつのオムハヤシ。印象的なのは何かを包んでいるらしい実に柔らかそうなとろとろな卵。見てはいないが中には米があると思われる。そしてそこにハヤシライス程ではないが同じ茶色いスープがたっぷりとかけられている。こちらは見た目ソースの様に使っているらしい。
「それではごゆっくり!」
「っしゃ!食おうぜ!」
「はいよ」
「「いただきます!」」
「いいにおいね」
「はい。美味しそうですね!私達も食べましょう。どうぞお師匠様から」
「それではお言葉に甘えていただくわね」
鈴仙に促され、永琳はハヤシライスに取り掛かる。白い米と横の茶色いスープをバランスよく一匙のスプーンに乗せ、上品に口に運ぶ。極々弱い酸味と甘み、そして濃厚なコクを感じた。酸味と甘みは恐らくこのスープに溶け込んでいる食材のものだろう。そして何かわかった。薬を調合するために永琳は様々な薬草や香草、そして食材を口にしてきたので味覚は鋭い。これは以前紅魔館の催しで食べた事があるトマトという野菜だ。それがこのとろみあるスープにたっぷりと溶け込んでいる様だ。同じくその時に飲んだ赤葡萄酒。そして牛酪の風味も微かに感じる。酸味やコクはこれのものだろう。一緒に煮込まれている牛肉も歯でほぐれる程柔らかく、味もしっかりとある。肉の脂もしっかり溶け込んでいるに違いない。玉ねぎやきのこの歯ごたえや味もこのスープの中で存在を消していない。複雑だがとても美味である。
「…色々な食材の味がして複雑な味わいだけれどとても美味しいわね。お米との相性もとてもいいし味わい深いわ」
「私も頂きますね」
永琳の言葉を聞いて鈴仙もオムハヤシにスプーンを入れる。思った通り卵は非常に柔らかくてすんなりとスプーンが入り、中にはうっすら黄色がかった米があった。茶色いソースと一緒にスプーンで掬い、口に運ぶ。卵は舌の上でほろほろに溶ける絶妙な火の通り加減。そしてこの米だが所謂バターライスというもので噛むと米の歯ごたえと一緒にコーティングしている牛酪の香りが鼻から抜け、濃厚なコクを感じる。そして何よりこのソースとの相性も抜群であり、卵、バターライスと見事に調和している。
「とても美味しいです!前に妹紅さんのところで食べたビーフシチューというものに近いものを感じます!」
「あの子達におみやげとして持っていきたいところだけれど…これは難しそうね。別のものにしましょう」
「そういえばハヤシってどういう意味なんですか?」
「マスターの話だと「ハヤシさんという人が作った」とか「ハヤシさんという人が良く食べてた」とか言ってましたよ」
「ねぇねぇ母ちゃん!その卵の部分ちょっとだけちょーだい!」
「あ~お兄ちゃんズルい!」
「こ~ら!…もう」
「いいじゃねぇか母ちゃん。ガキってのは元気でなんぼさ」
永琳と鈴仙のすぐ横でヘルマン一家は賑やかな食事となっていた。
「いい家族を持ったわね貴方」
「おうよ。俺の唯一の自慢だ。…まぁ、全員じゃないんだけどな」
「というと?」
「ああ、私らにはこの子らの他にまだ三人子供がいたんだけど…皆病やらなんやらでね…」
以前ヘルマンとエレンの間には五人の子供がいた。しかし今残ったのはカイとボナのみになってしまった。恐らく病なり事故なり、様々な事があったのだろう。
「そうですか…」
「亡くなったガキ達の分までこいつらを幸せにしてやる。そのなら俺はなんだってやれる。こいつらを守るためなら自分の命さえ全く惜しくねぇ」
「私も同じさ。この子らも、無くした子供も、私の宝だからね」
楽しそうに食事しているカイとボナに聞こえない様ヘルマンとエレンは永琳と鈴仙にそう言った。とその時、アレッタが何かを運んできた。
「お待たせしましたー!」
「…?うちら何も頼んでないけど?」
「こちら、エイリンさんからです」
カイとボナの前に出されてきたのは…
「食後に皆さんの分のアイスクリームもお持ちします」
「…え?」
「私達の事は気にしなくていいわ。知り合いに
「先生…」
「「ありがとう先生!」」
「どういたしまして」
「じゃあ余った金で俺もビールを」
「それは駄目よ。お酒は薬の効果を悪くするわ」
「てな訳でビールは来月に持ち越しだね父ちゃん。あとたまに飲むエールも禁止だよ♪」
「そりゃねぇぜ~」
渋い顔をするヘルマンを見て笑う一家と永琳、鈴仙。彼らの賑やかな食事は終えるまで続くのだった。
……少女食事中……
…………
その翌週…、
〜〜〜〜♪
「いらっしゃいま…あ、エレンさん!」
「ちょっと邪魔するよ」
「今日は皆さんは?」
「すまないね。今日は食事に来たんじゃないんだ。ちょっと店主を呼んでもらえるかい?」
「はい、少々お待ちください!」
そしてアレッタに呼ばれて店主がやって来ると、
「お呼びですか?」
「ああ悪いね直ぐに終わるから。ちょっと礼だけ伝えに来たんだよ。あの人の足だけどおかげさんで元通りさ。アンタとあん時の先生のおかげだよ」
「それは何よりです」
「カイ連れて張り切って切り出し行ってるよ。本当にありがとうね。ほんとならなんかお礼したいとこなんだけど…」
「いえいえ、是非また食べに来てもらえたら一番ですよ」
「そのうち必ず来させてもらうよ。あああと、何時になるかわからないけどもしまた先生が来たら伝えてほしいんだ。あの人と子供らからなんだけど……」
偶然にもそれはこの日、永琳の家族が来た事で予想よりも早く伝えられるのだった。
メニュー43
「居酒屋中華」
お気に入り登録してくださる方がどんどん増えていてとても嬉しいと同時に、投稿が遅れてすみません。今が多分今年一番忙しいかも汗。
こんにちは、storybladeです。幻想郷食堂をお読み頂きありがとうございます。突然ですがアンケートです。先代博麗の巫女や魂魄妖忌の回があれば読んでみたいと思いますか?公式設定が少ないのでオリジナル要素を含んでしまいますがどうでしょうか?ご意見お願いします。期限は今月一杯です。
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あれば読んでみたい
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不安なので読みたくない