「………よし、厨房周り、客席、全部チェック終了」
とある日のねこやの夜。この日の営業も無事終了。スタッフ達も全員帰路につき、店主が最後のチェックを済ますといういつもの流れ。最後にカレンダーを見て新たな予約を確認する。
「えっと次の予約は明後日と四日後と…………ああ、そう言えばもうこの日か」
カレンダーを見た店主はそんな事をつぶやいた。
…………
数日後、こちらは幻想郷。季節は春の終わりに近づいていた。桜は葉桜となって暫く経ち、温度も少しずつ上がり、もう間もなくで夏の始まりである梅雨の時期がやって来るだろう。
「ったくなんで私がこんな事…」
「文句言わないの。毎年飲み頃を嗅ぎつけてるかのように来るんだからこれ位手伝いなさい」
そして博麗神社の主である霊夢は魔理沙と一緒に梅酒造りの作業をしていた。毎年梅雨が本格的に始まる前の恒例行事である。最も自分達が飲むためなのだが。
「今年の梅も無事に育って良かったわ。小鈴ちゃんのとこで家に引きこもっている間用の小説の纏め借りもしてきたし、準備万全ね♪」
「ほんと気楽な奴だよな~」
「うっさい。アンタもこの時期はキノコ探ししかしてないくせに」
「キノコといえば湿気!森がいつも以上にジメジメするから最適な飼育環境だぜ。この時期しか取れないキノコもあるんだからな♪イクチも大きく育つし」
「そのイクチってちゃんとしたものでしょうね?どんなに美味しくても蛞蝓に溶かされた蛇なんて敬遠するわよ」
「当り前だ。この魔理沙様はキノコの申し子。あの三妖精とは違うぜ。あ、そういや食べ物で思い出したけど昨日鯨呑亭行ったら美宵の奴が考え事してたんだよ」
「美宵ちゃんが?ふ~んどんな?」
…………
同時刻、人里を丁度見下ろす様にある高台。
マミゾウ
「もう春も終わりじゃな。…寂しいのぉ」
黒髪の黒いワンピースの少女
「毎年通りだわ」
「季節の変わり目はいつも惜しく感じるんじゃよ。特に春は花見ができんからな」
「花見なんてしょっちゅうやってるじゃん」
「ふぉっふぉっ、まぁそうなんじゃがな♪」
そこにふたりの人物、いや妖怪がいた。
ひとりは化け狸の頭領である二つ岩マミゾウ。
そのマミゾウと談笑しているのは胸元に赤いリボン、黒いワンピースと黒いソックス、赤い靴という服装の少女。肩までの左右非対称な形の黒髪と目は赤色。特徴は背中から生えている赤い鎌をイメージさせる右翼と青い矢印を思わせる左翼という奇抜な両翼。
「それはそうと今年はゲリラ雷雨が無ければいいのぉ」
「ゲリラ?」
「外の言葉で「奇襲が得意な小さい部隊」という意味だそうじゃ。ゲリラ雷雨じゃから云わば奇襲する雨という訳じゃな。結構な勢いらしいから遭遇したらずぶ濡れになるらしい」
「へ~奇襲の雨か、面白いじゃん。人間が慌てふためきそう♪」
人間が困ると聞いて楽しそうに少女は笑う。その様子から彼女もまた悪戯好きなのがなんとなく想像がつく。そして人でない事も。彼女の名前は封獣ぬえ。その正体は日本に古くから伝わる妖怪「鵺」。ただその姿は伝説によって様々。例としては頭が猿、胴体が狸、手足が虎で尾は蛇と複数の動物が融合した様な姿が知られているが、それ以外にもあるとされ、雷を操れたり鳥の姿をしていたりと地方や場所によって様々な姿をしている。それも彼女の能力「正体を分からなくする程度の能力」により、見る者によって姿かたちが別のものに見えるからとも言える。
「そのゲリラ雷雨ってやつのせいにすれば多少の異変なんかも案外バレないんじゃない?野分真っ青な大豪雨の幻でも起こそうよ。雷なら簡単よ♪」
「面白そうじゃがあんまりおススメはできんな。聞いた話じゃとほんの数分、数秒程度でゲリラ雷雨は終わるらしい」
「な~んだそんな短い時間じゃ無理ね」
残念そうな顔のぬえ。
彼女がこの幻想郷、正確には地上にやってきたのは村紗や小傘らが聖の復活を目論んだ頃。最初は彼女らを邪魔しようと思ったが聖の復活は自分にも益があると知り、自らの行いを反省。聖はそんな彼女を許し、以降は命蓮寺で暮らすようになったがやはり悪戯好きな性格は中々消えず、異変とまでは言えないものの小さい問題を起こしたりしてそれに慌てる人間を眺めたりその解決に動く霊夢らを見ながら呑気に暮らしている。
「さてと、それでは一飲みして来ようかの」
「鯨呑亭行くつもりね?それなら私も行くわ」
………
人里「鯨呑亭」
「美宵~邪魔するぞい。…おや?」
「う~ん…どうしよっかなぁ…」
「酒も飲まずずっとよく考えられるねぇ~」
マミゾウが鯨呑亭の扉を開けると美宵が腕を組んで何かを悩んでいた。その横で鬼の萃香が既に一献始めていた。夕餉前だというのに妖怪である彼女らが入るのももう慣れているのか何も言わない。
「お~い美宵ちゃん」
「…あ、マミゾウさんにぬえさん」
「お~おふたりさんも来たか~。先に始めてるよ〜ん」
「萃香も来とったか。美宵、何か真剣に悩んどる感じだったがどうかしたか?」
「それは飲みながら聞くとしようよ。てな訳でお酒とつまみお願いね♪」
………
そんな感じで美宵が厨房、カウンターで萃香とマミゾウ、ぬえの三人で飲んでいると、
「新しい品書き?」
「ええ、今回は私が考える事になったんです」
「さっき悩んでいたのはそれだったのか」
「客の私らからしたら嬉しい話じゃあるけど…でもなんだって急に?」
ぬえの質問に美宵はこんな事を言った。
「実は…ねこやがちょっとした原因になってまして」
「ねこや?」
「異世界食堂の事だよ。「洋食のねこや」っていうんだってさ」
「ああ外の世界にあるっていう飯屋のことだね。そう言えば命蓮寺の皆も行ったっていってたっけ。てか考えればあそこで、というかこの中で行ってないの私だけじゃない!皆ズルい!」
「落ち着けぬえ。しかしそのねこやが原因とはどういう事じゃ?」
「実は…」
美宵によると最近鯨呑亭に来る客の中でねこやの事が少なからず話題になっているという。以前文々。新聞で取り上げられた美味への扉。しかしその先は大きな危険が伴うという。その事は霊夢や慧音によって伝わり、入ろうとする者は今の所見つかっていないのだが、それでも今まで食べた事が無い未知の美味。気になるといえば気になるのが人かもしれない。
「どんな美味があるのか」
「食べてみたい」
そんな会話が店でもちらほら出始める様になった。しかし危険な場所には行きたくない。そこで一部の客から「今まで食べた事ない様な料理」を食べたいという話が店主や美宵にかけられたらしい。店主が自分は年齢も年齢だし、若い美宵にそっちの方を任せたという事だった。
「そういう事じゃったか。まぁ食べた事ないもんって言ったら確かにねこやの飯は相応しいの」
「でも外の食べ物じゃ幻想郷じゃ手に入らないものも多いんじゃないの?」
「そう、そこが悩みどころなんです。幻想郷で手に入る食材で作れるものがあればいいんだけど」
「それじゃ紅魔館のメイドにでも教えてもらったら?そういう料理多そうじゃない」
「咲夜さんの事ですか?でも素直に教えてくれるとは思えませんし、第一あそこ苦手なんですよ」
「それなら鈴奈庵に行けばいいんじゃないか~?あそこなら外の世界のメシの本なんかもあるかもしれないじゃんか?こっちの材料で作れるものもあるかもしれないだろ~」
「それもありなんだけど…作ったら作ったらでちゃんと味が正しいか分からないじゃない。仮にも居酒屋の看板娘としてはちゃんとしたもの作りたいし」
「マミゾウは外出身じゃない。味わからない?」
「儂はどちらかといえば酒がいいのお…」
すると萃香が、
「だったらまたねこやに行けばいいんじゃないか~?行けば教えてくれるかもしれねぇだろ~。教えてくれなくても味さえ覚えればあとは作り方の本、鈴奈庵や紅魔館の図書館で探せばいいじゃん」
「お、アンタにしてはいいアイデアじゃん。私行った事無いから私も行きたいわ♪」
「う~ん私もそうしたいとこなんだけどでも肝心の扉を見かけないのよ…」
すると今度はマミゾウが、
「…あ、そうじゃ。皆、この後ちょっと予定あるかの?」
…………
「という訳で私の所に来たって訳?」
マミゾウ、ぬえ、萃香、そして美宵の四人がやって来たのは魔法の森にあるアリスの家。その理由は、
「お主あの扉を呼び込む術を知っておるんじゃろ?下っ端の狸が言っておったぞ」
そう、アリスがパチュリーから教わったねこや、異世界食堂の扉召喚の魔法陣。あれを求めての事だった。
「呼び込むんじゃなくて、幻想郷のどこかに現れる扉を呼び寄せる魔法陣よ」
「まぁまぁ同じようなもんじゃないか〜。という訳でそれを使ってもらいたくて来たって訳さ。今日ちょうどその日だしな♪」
「私は行った事ないからこれを機に行きたいもんだわ♪」
「皆さん用があるのは私ですよ〜」
「簡単に言うけれどあれ結構大変なのよ?魔力も使うし」
「まぁまぁそう固い事言うな。美宵を助けるつもりでここは協力してやってくれんかの。それに里の飯のバリエーションか増えればお主も嬉しかろうて♪」
四人のきっての頼みにアリスもため息をつきつつも断るわけにも行かず、
「…はぁ、しょうがないわね。わかったわ。私は仕事があるし行けないから貴方達で行ってきなさい」
「やった~!」
「恩に着るぞ~♪」
「ありがとうございます!おみやげ貰ってきますからね!」
そしてアリスの召喚した扉で四人は異世界食堂に赴くのだった…。
…………
~~~~♪
真っ先に萃香が扉を開けた。ランチタイムをとうに過ぎているためか客はいつも以上にちらほらという感じだった。
「ビール♪ビール♪」
「へ~ここが噂のご飯屋さんなのねぇ」
「いらっしゃいませー!あ、皆さん!」
「おおアレッタ。元気そうじゃな」
「今日もお世話になるよ~♪」
「また食べにきました!」
「ありがとうございます!そちらは新しいお客様ですか?」
「ええそうよ。私は正体不明の妖怪、封獣ぬえ。…貴女、私が見えているのね?」
「え?は、はい勿論ですよ?」
すると店主も厨房から顔を出し、
「いらっしゃい。あ、皆さん」
「こんにちは!」
「…人間が種族関係なくご飯を出している店っていう噂は本当だったのね」
「そちらのお客さんもようこ……そ…」
一瞬動きが止まる店主。
「……マスター?」
「何よ人間。私の顔に何かついてんの?」
「あ、ああいえ失礼しました。ようこそ、異世界食堂へ」
「な〜オッサン、とりあえずビール大ジョッキで頼むよ~♪」
「儂も頼むぞい♪」
「もうおふたり共目的を忘れないでくださいよ~」
…………
「造りは紅魔館に似てるけど不思議な場所ね。…周りの人、いや妖怪かな。それも正体不明だし」
「まぁ初めて見る者からしたらそうじゃろうな。後言っておくがぬえ、ここでは妙な真似はご法度じゃ。何でも聞いた話じゃと昔食い逃げした奴とか店主を連れ出そうとした奴が二度とここに来れなくなったみたいでな」
「いや食い逃げは普通に二度と来たらだめでしょ。え~ひとつも悪戯しちゃダメなの~?」
「ちょっとぬえさん今回は私に免じて勘弁してくださいよ。ここには目的があって来てるんですから」
「そ~そ~、アンタのせいでこれなくなったらミッシングパワーですりつぶすからね?」
「いや萃香のそれはガチで恐いって。仕方ないわね、はいはいわかったわよ」
「お水とおしぼりとメニューをお持ちしました!」
「ああありがとうございます。あのアレッタちゃん、ちょっと店主さんを呼んでほしいんだけど大丈夫?」
「はい、少々お待ちくださいね」
そして暫しして店主が彼女らのテーブルに。
「なんでしょう?」
「実はちょっと相談がありまして…」(美宵説明中…)
「……居酒屋で出せる新しいメニュー、ですか」
「はい。できれば私達でも作れそうなものがいいんですけど…」
「あと外でしか食べれないものがいいんだってさ〜」
「普通にここに来れば簡単なんじゃろうが、生憎こちらの事情でな。そういう訳にもいかんのじゃ」
「そんな事しようもんなら霊夢達が騒ぎ出すもんね~。まぁうちはそれも面白そうだからいいんだけど〜」
「でもうちはレシピをお教えできませんよ?」
「レシピ?ああ作り方ですか?それは大丈夫です。どんなものがあって味を確かめるだけですから!」
「忙しい所悪いが協力してやってくれんかの?」
彼女らの頼みに店主は折れた。
「わかりました。少しお時間を頂きますけど」
「酒飲みながら待ってるよ。あ、あとなんか適当に出して。この前食べたクシカツてやつでもいいからさ♪」
「はいよ。少々お待ち下さい」
そう言うと店主は厨房に戻っていった。
「どんなご飯出て来るか楽しみだね~♪」
「そうですね!」
「あの人間の店主、本当に全く怖がらないのね。人間ってったらもっと臆病なものなのに。特に私達みたいなもの相手じゃね」
「年の功なんじゃないの~?聞いた話だともう長い事やってるみたいだしねこの店」
「なんだか霊夢さんみたいな気質かもしれませんね店主さんって。色々な人達に懐かれてますし」
「ああ確かに」
「霊夢の場合は妖怪だけじゃがの。おっとこれは内緒じゃぞ♪」
その時クロがビールとおしぼり、お冷を持ってきた。
(ご注文のビール、そしておひやとおしぼりです)
「待ってたよー♪」
「…あ、あれ?今頭にテレパシーみたいなものが」
「これはクロさんの喋り方なの。その内慣れるから気にしなくていいよ」
(はじめまして。宜しくお願い致します)
「こちらこ………貴女……何?」
(クロと申します)
「い、いや名前じゃなくて…貴女も異世界のとやらの妖怪とかなんかの種族?」
(いえ、私は違います)
自分よりも正体が掴めず、更に力も上のクロを知り、ぬえは些か恐怖した様だ。そんな風な会話をしながら皆は料理を待った…。
……少し長めの店主調理中……
…………
そしていつもよりも少ししてから店主が料理を運んできた。
「大変お待たせしました。とりあえず幻想郷という世界でも作れそうなメニューをご用意してみました」
そう言って店主が出した料理はみっつ。
ひとつは黒い鉄製の底が浅い鍋に一口サイズの小さい料理が鍋一杯に敷き詰められ、こんがりと焼かれている。熱された鍋からは今もジュージューと音が立ち、食欲を誘っている。
ふたつは目は殻が剥かれた小さい小ぶりのエビが赤みがかったソースを纏っている。具は見た感じ海老の他は小葱がほんの少し見える程。唐辛子の香りがしている事と色合いから辛そうな料理であることが想像できる。
そして最後に茶色くこんがりと揚げられたなんらかの肉。パチパチと音を立ててこちらも作り立てなのがよくわかる。天ぷらとは少し違う醤油系の香ばしい匂いがする。
「右から「鉄板餃子」「エビチリ」そして「鶏のから揚げ」です」
「ほ~から揚げに餃子か」
「マミゾウは知ってんの?」
「こやつらは中国という国の異国料理じゃ」
「餃子の具は豚肉と白菜。エビチリは本来海のものを使うんですが海が無いという事で川エビで仕上げています。あと甘みを出すケチャップと豆板醤という調味料も使うんですが今回は砂糖や醤油や酒、唐辛子を利かせて少々辛味を引き立たせています。から揚げも柔らかく仕上げていますので美味しいと思いますよ。一応どれも幻想郷という世界であるだろう材料のみを使っています。あ、餃子はこちらの醤油とお酢をつけて、から揚げはこのレモンをかけてお召し上がり下さい。それではごゆっくり」
「じゃあもう一回乾杯しよ乾杯♪」
四人は其々の容器(萃香は既に大ジョッキ3杯目)を持ち上げて乾杯の音を鳴らし、食事に移る。
「そうだな~じゃあこの鉄板のやつからいこ」
萃香が箸をつけたのは鉄板餃子だ。今もほんの少し音がする鉄板から一口サイズの餃子をひとつ取り、言われた通り酢醤油にちょっとだけつけて口に運ぶ。今まで鍋で焼かれていたのでかなり熱いが萃香はあまり気にしていない様子。歯を当てた瞬間「パリパリッ」という高い音のすぐ後に「モチモチッ」という食感がする皮。多めの油で焼かれているらしくて香ばしい。その皮が破れると中からこれまた熱い出汁が流れ出てくる。豚ミンチ肉からの脂、みじん切りされた白菜の甘み。それに味付けの塩胡椒、生姜の風味がしっかりと利いていて、それが酢醤油ととても合う。
「おお美味い!皮がパリパリってして中の具もとても味が強くて!」
この濃い味が、餃子の脂と肉汁がビールを進ませる。
「ビールともすっごい合うね!幾らでも行けるよ」
「ほ~そうか。では儂は折角じゃからこのエビチリを試してみるかの」
マミゾウはエビチリを食してみる事に。添えられているレンゲでいくらかを自分の皿に取り、口に運ぼうとした時に強い香辛料の香りが鼻を通る。やはり辛い食べ物の様だ。口に海老を入れると真っ先に唐辛子の強い刺激が舌をピリリと刺激し、香りがより一層強くなる。店主の言った通り辛さは結構ある。
「これは中々刺激的な味じゃのう」
しかし嫌な感じはしない。咀嚼すると小ぶりな川エビながらも「プリプリッ」として歯を僅かに押し返す食感が活きている。当然だがしっかり処理されて臭みは無い。そして不思議な事に淡泊な海老と辛味が強くも僅かに甘みも感じる赤いソースが見事に調和している。
「この辛さが食欲を掻き立てる」
そこにビールを口に運ぶマミゾウ。勿論これも、
「うむ。やっぱり炭酸が効いたこの酒が合うな!飯と一緒に食ってもええの」
「……お~これも美味いな♪私はもう少し辛くてもいいぞ」
「じゃあ私はこのから揚げから食べてみます」
「私もこれにしよ~っと」
餃子とエビチリを堪能する萃香とマミゾウの横で美宵とぬえはから揚げから食べてみる事に。ひとつひとつは一口よりはちょっと大きめのサイズでずっしりしている。
「見た目は天ぷらや竜田揚げに近いけど…随分色濃いわね。焦げてんのかしら?」
「焦げてるのを出すとは思えませんけど。まぁ食べてみましょう……!」
ふたりは箸でもったそれを口に運ぶと、まず外側の衣の様なもの自体から醤油系のとても濃い味がし、「カリカリッ」「パリパリッ」という食感がする。噛むとその内側から「ジュワッ」とたっぷりの脂と弾むような強い鶏肉の弾力を感じる。脂と肉からも濃い味がする事から肉自体に味付けされいるらしい。噛みしめると更に脂が溢れ、そこから醤油と臭み抜きも兼ねているのか生姜が効いている。
「こ、これは…!」
「…凄く肉々しい味ですね。肉の味付けに使われてるのは醤油やお酒、あと生姜…。外の衣は…天ぷらとは違う。うっすら粉を付けているだけ…」
「これは間違いなく」
そこに先のふたりと同じくビールで流し込むふたり。勿論これも合わない訳ない。
「く~~思った通りすっごく相性いいわね♪」
「脂と肉汁で満たされた口の中をこのお酒がサッパリさせてくれますね。あ、あとこれかけてもいいって言ってたっけ」
そう言うと端にある黄色い柑橘から汁を絞り、から揚げにかけて食べてみる。この強い酸味を含む汁がから揚げの味を損なわないまま脂だけをサッパリさせ、そのまま食べるとは別の風味を生み出す。
「こうすると食べやすくなっていいですね♪」
「おおこっちも美味いな♪」
「なんかアンタ何食べても美味いんじゃないの?」
「まぁ良いではないか。それだけ美味いものが多いという事じゃしな♪」
するとそこにアレッタが小皿を持ってやってきた。
「皆さん、これマスターからなんですけどこれもどうぞ」
そう言って出したのは甘酢と特製タルタルソース。
「こちらのから揚げにこちらのふたつを一緒に合わせても美味しいですよ」
「へ~試してみよ」
言われてぬえが匙で甘酢とソースを取り、から揚げにそれを付けて食べてみる。甘酢のほのかな酸味と甘さ、そしてまろやかな特製タルタルソースがから揚げの肉汁と油と絡み合い、そのまま食べるのとはまた違う風味を生み出す。
「これも美味いねぇ♪」
「この白いタレ、色々なものに応用できそうだわ」
「あ~ズルいぞ私もやる!」
「これこれ料理は逃げはせんよ」
四人は存分に昼からしたら遅い、夜からしたら早い宴会を楽しんだ。
……少女食事中……
…………
「いや〜食べた食べた♪」
「みやげもありがたく頂いておくぞ♪」
「人間にしてはよくやるじゃない♪」
「はい!マスターのお料理はとても美味しいですから!」
(コクコク)
「参考になりましたかね?」
「はい。お店でも作れる様に頑張ります!ただ、あのビールと言うお酒が幻想郷で飲めないのが残念ですが」
「でしたらチューハイとかどうです?こちらも結構色々なものに合うとお客さんから高評ですよ。一番簡単なのは焼酎を炭酸水で割るだけらしいんで」
「へ~そうなのか!勇儀達にも教えてやらなきゃ♪」
「にしてもねえ、よく悪戯せんかったな?」
「当然よ。妖精達とは違うんだからね」
(本当はしようとしたんだけど…何でか上手く行かなかったのよね~…)
「偉いぞ~ヨシヨシ〜♪」
「こらーからかうなー!」
そう言ってアッカンベーするぬえだった。
この時出たみっつのメニューは後に美宵の手によって、更に量産に成功したにとりのマヨネーズを加える事でより味を再現する事に成功し、親父の煮込みと並んで店の看板メニューとなるのは遠くない未来の話…。
…………
「……よし、こんなもんかな」
それから数日後、営業終了後のねこや厨房。いつもの様に店主が鍋を振るっていた。空いている皿の上に盛り付け、今作った麻婆豆腐と餃子でこれから遅めの晩酌(因みにお茶)。
(この日に中華作んのももう長くなったな…)
…………
とある道、連れ立って歩く男女…、
(ねえ、マコくんは大学卒業したらどうすんの?)
(あ?あ〜…俺は…)
(考えてるふりなんていいよ。大樹おじさんのお店で働きたいんでしょ?)
(まだわからねぇよ。高校ん頃バイトしてたが継ぐってなったら爺さんが許してくれるかもわからねぇし)
(な〜に言ってんの。うちでバイトで働いてた頃からお父さんやお母さんが言ってたんだよ。マコくんには才能がある。うち継がせたい位だって)
(はは、お世辞でも師匠に言ってもらえたら嬉しいもんだ)
(正直うちの店に来てほしい気持もちょこっとだけあるけど…でもやっぱマコくんは洋食の方が似合うと思うな〜。大樹おじさんや暦おばさんも喜ぶよきっと)
(だといいんだけどな)
(……できれば私が一緒に)
(なんか言ったか?)
(何にも言ってないですよーだ!)
肩までの黒髪の少女はからかう様に舌を出した。
…………
(あれからほんと直ぐだったな…)
店主はお茶のコップを持った手を宙に浮かし、
「最近お前に似た子が来たよ。まだ子供だったがつい驚いちまった。……今度久々に会いに行くわ。……乾杯」
少し寂しそうに言うのだった。
メニュー44
「ミートソースと潜入捜査」
やっぱり居酒屋といえばから揚げと餃子は外せません(笑)
店主が誰の事を言ってるのかは分かる方は分かるかと。自分のしているゲームに原作キャラが成長したEXキャラというのがあるんですが、その中のひとりと店主の言ってる人が偶然にも似ていたらという設定で書いてみました。