屋台の始まりは日本では江戸時代、東京が江戸と呼ばれていた頃である。嘗て東京が江戸と呼ばれていた頃、大火災によって町の殆どのものが焼失した時、修復のために多くの労働者が流入された。その労働者が食事を行うために広まったのが、店舗も持たずに道端で営業できる形態の店、屋台というものであった。それからは寿司や蕎麦、天ぷらやおでんに串焼きと様々な食べ物の屋台が誕生した。そしてそれは勿論、幻想郷にもある。
背中に甲羅を持った客
「ご馳走様~」
羽が生えている客
「美味しかったですよ」
時刻は夜。幻想郷のとある道の上に「八目鰻」と書かれた赤提灯を掲げた、香ばしい香り漂う手押し車式の小さな屋台。食事を終えたらしいのは一見人でない客達。
三角巾を巻いた少女
「まいど~♪」
そんな客に対応したのは三角巾を頭につけ、茶色い着物を着た屋台の店主らしい少女。その背中には鳥の様な蝙蝠の様な変わった形の翼が生え、三角巾の隙間からは動物の様な耳が覗いている。彼女もまた人間でないのは明らかだった。
「さてと、次の鰻を焼かなきゃ」
今の客が帰り、少女は次の客が来るまで減った食材の下準備をしようとしていた時、
長い灰色の髪の女性
「ごめんよ」
「はいいらっしゃ……あれ?アンタは」
挨拶と共に新しい客が屋台に入ってきた。腰まで伸びた長い灰色の髪をし、黄・茶・赤色の特徴的な配色のワンピースみたいな服に身を包んだ女性。
「確か…妖怪の山のネムノさん」
「久しぶりだなミスティア。食事いいかい?」
…………
「……ふぅ、やっぱ八目鰻っていったらここのが一番だべな♪」
「ありがとうございます」
ネムノというらしい女性は八目鰻の串焼きとおでんで一杯やりながらミスティアという店主とだべっていた。
「でも今日はどうしたのネムノさん。妖怪の山を降りてくるなんて珍しいね?」
「妖怪の山」
幻想郷に古くから存在し、多くの妖怪達が住んでいる一大拠点であり、幻想郷のパワーバランスを保つ上でも非常に重要な場所だ。古来より日本で伝わる天狗や河童、山姥という妖怪。さらには鬼と言われる種族まで嘗て住み着いていた事があったその場所は、幻想郷の人間はおろか、他の地に住む妖怪達にも恐れられている。しかも山に住み着く天狗や河童の様な妖怪はそこで独自の文化や技術を習得していた。そんな事もあり、妖怪の山は天然と人造(妖怪造?)が混合したある種天然の要塞と化していたのであった。
そしてそこに住むネムノという名の彼女もまた人間ではない。山中に住み、人を食うと言われる女性の妖怪の一種、山姥である。山姥は普段群れるのを嫌うだけでなく、自らの縄張りに入ってこられる事も快く思っていない。そんなネムノが山を降りてきているのがミスティアは不思議だった。
「ああ、普段なら降りてこねぇんだけどちょっとな。ちょいと今日は勉強ってやつだ」
「勉強?」
「んだ。…なぁミスティア、ちょっと聞きてぇんだが……うちって怖いか?」
「…へ?う~ん勿論怖がる人もいるでしょうけど…私はそんなには」
突然の質問にミスティアはやや驚きながらも思った通りに答えると、
「はぁ~~、やっぱそうなんだなぁ~~」
彼女の返答にネムノは落ち込み、盃を持ったままふさぎ込む。
「え?ご、ごめんなさい!…どうしたの?」
「ああすまねぇ。…なぁミスティア。うちらが住んでる妖怪の山ってよ、普段は人間は近づいたりしねぇだろ?」
「…まぁ確かに妖怪だらけのあの場所に自分から入ろうとする人間なんてね。霊夢さんや魔理沙さん達は別だけど」
「あああのやたらめったら血の気の多い巫女か。まぁそれはとにかくそうだろ?でもそれってよ。妖怪の山そのものを恐れてるんであって、そこに住んでるうちを恐れてるんじゃねぇよな?」
「…そうなのか、な…?」
ミスティアは返答に困る。元々山姥は山で迷った旅人を自らの家に招き入れ、食事や宿泊などでもてなし、気が緩んだ人間を食うという凶暴な妖怪なので、人々からすれば恐怖の対象であるのは明らかなのだが。
「いいんだいいんだよくわかってっから。おまけに最近は人里に妖怪が現れる事もたま~にだけんどあるし、前からあるもんじゃ妖精もいる寺子屋なんかもあるしな。それもあって人間が妖怪を恐れる事が前ほど無くなっちまった。そこでこのままじゃいけねぇって思ったうちは考えただ。妖怪の山の麓で料理屋をやろうってな」
「料理屋を?」
「んだ。これでもうち料理が趣味なんだ♪食材なんかも全部自分でこしらえたりしてるし、あと食べてもらって喜んでもらうのも好きなんだべ♪まずはそこで妖怪達の間で有名になって、その噂が人の間にも流れる様になったら人間も食べにきてくれるかもしれねぇだろ?そんな美味い店なら行ってみようってな。そこで来た人間らにうちの怖さをもう一度教えてやろうって思ってよ」
喜んでもらうのが好きなら結局怖くならない様な気がするなぁ、と一瞬ミスティアは思ったがそれは言わない事にしておいた。
「…あ、もしかして料理の勉強ってそのために?」
「そういうこった!どうせやるなら本格的にやろうって思って色々品を考えてるとこなんだ。昨日も里の
「美宵ちゃんも料理上手だもんね」
「んだ。あそこの煮込みもここの料理と同じで絶品だったべ!アレくらいのもんを作れるようになりてぇもんだなぁ」
なんかもう目的が違ってきてるなぁ、とミスティアは再び思ったがこれも黙っておくことにした。
「あ、焼き台の炭を足さなきゃ。ちょっと待ってね」
そう言うとミスティアは屋台の裏側に置いている予備の炭を取りに行った……その時、
「……え!な、ナニコレ!」
屋台の裏側から彼女の驚いた様な声がし、ネムノは思わず立ち上がって彼女も裏に回る。
「どうしただミス……!」
そして彼女も驚いた。屋台の真裏、ほんの少し離れたところに見た事もない扉が出現していたのだ。
「な、なんであんなとこに扉があんだ?」
「店開けた時はあんなの無かったんだけど…」
思わずふたりはその扉に近づく。その扉には猫の絵とそれにある文字が書かれていた。
「…洋食の…ねこや?」
「聞いた事ないね…。なんで扉だけなんだろ?」
突然現れたその扉に驚くミスティア。一方のネムノは、
「…洋食か。確か外の世界の料理だべな。……入ってみっか」
扉に入ってみようと考えた。
「で、でも大丈夫?危険じゃないかな?」
「確かに見た事もねぇもんだけど、…なんっていうかどうも悪いもんじゃねぇ気がすんだよな」
ネムノがそう言うとミスティアも少し考え、
「……じゃあ、私も行ってみようかな」
「でもおめぇ店どうすんだ?」
「大丈夫。ちょっと待ってね」
そう言うとミスティアは屋台の火を消し、何か紙に書いてからまた戻ってきた。
「お待たせ。もう大丈夫」
「よし、なら…行ってみっか」
そしてネムノが扉を開け、ふたりが入ると同時に扉は消えた。
?
「ミスティア~、熱燗~……あれ、どこにいったのかしら?……ん、手紙?」
(少し離れますので好きに食べてください。お代は半額で構いませんので)
「………なんかわかんないけどラッキー♪」
…………
~~~~♪
扉を開けたネムノとミスティアの目に飛び込んできたのは…温かい光を放つどこかの家の屋内らしき場所。そしてそこで数人の見た事もない者達が何かの料理を食べている様子だった。
「えー!!」
「な、なんだべここは…?」
「人間と妖怪が一緒にご飯食べてる…」
「あ、いらっしゃいませー!」
暫し呆然とするふたりの所に来たのは山羊の様な角を生やした黄色い髪の少女。
「初めての方ですね。おふたり様ですか?」
「え?あ、ああ。…い、いや、てかなんなんだべここは?おめぇも妖怪か?」
「いえ、私は魔族なんです。あ、ヨウカイという事はもしかしてお客さん方、幻想郷の方ですか?」
「う、うん。……あれ?なんか今の言い方、まるでここが幻想郷じゃない様に聞こえるんだけど?」
「はい。ここは洋食のねこやっていう、異世界にある料理屋です」
「…えぇ!」
「い、異世界だって!?」
異世界という言葉に驚くふたり。
「そして私はここで働いている、アレッタです!宜しくお願いします!」
「あ、ああどうも。アレッタだな。あ、うちは坂田ネムノってんだ。ネムノって呼んでくれてかまわねぇべ」
「私は夜雀のミスティア・ローレライ。私も気軽にミスティアって呼んでよ」
夜雀とは日本に伝わる雀の妖怪の事である。
「ネムノさんにミスティアさんですね!では空いているお席へどうぞ!」
アレッタにそう言われてネムノとミスティアは流されるまま空いている席に着く。
「なんなんだろうここ…。あのアレッタって子は異世界の料理屋って言ってたけど…」
「てことはあの連中は異世界の住人なんか…?でも看板は日本語だったしなぁ…」
獅子の頭を持つ者や、爬虫類の様な姿の者、隣のテーブルに座る尖った耳を持つ者を見てふたりはとりあえずここが幻想郷ではない事を認識する。
「いらっしゃいませ」
するとふたりのところにコック姿をした男性が挨拶をしにやってきた。
「に、人間!?」
それが人間であった事にミスティアが驚く。
「ええ。私がこの店、洋食のねこやの店主です」
「人間が妖怪…あ、じゃなかった、えっと魔族だっけか。人間以外の奴にも料理を出してるんだべか!?」
「はい。ここはお客さんみたいな、人でない方々にも料理をお出ししています。ようこそ異世界食堂へ。給仕から聞きましたが、幻想郷から来られた方ですね?」
「あ、ああ。てかなんなんだべ、異世界食堂ってのは?」
…………
店主はネムノとミスティアに簡単に説明した。
「……それじゃあここは外の世界にある料理屋なのね。そしてあのお客さん達は異世界の人達って訳か」
「でもそういう事なら頷けるべ。んでもって博麗の巫女や紅魔館の連中も来てたんだなぁ…。通りであのアレッタって子が幻想郷の事を知ってたわけだ」
「そんな訳なんで、お客さん達も良かったら食べてってください。お代は紫さんから十分すぎる位頂いてますから」
すると店主にネムノがある質問をする。
「……あの、店主さんだっけか。その前にひとつ聞きてぇんだけど」
「はい、なんでしょう?」
「アンタ人間だろ?人間以外の奴に料理を出す事に抵抗とかねぇのか?うちが知ってる人間てのは大抵臆病な奴が多いもんだが」
幻想郷には人里という人間達が住む集落がある。そこに住んでいる人間は一部を除いてほぼ全てが妖怪を恐れている。妖怪とは人間の恐怖心から生まれた存在。暗闇に潜むもの、水の中にひそむもの等など。妖怪にとっては人間と人里はある種生命線であり、基本恐れられなければならないと同時に、無くてはならない存在でもあるのだ。そうでなければ妖怪自信の存在が成り立たない。だから妖怪は気づかれない様に人間を守っているという裏の話がある。それはさておいてともかく臆病で恐がりな人間が異世界とはいえ、自分とは違う者達に笑って料理を提供しているのがネムノからしたら不思議に見えた様だ。
「はは、勿論最初にここが異世界に繋がってるなんて聞いた時は驚きましたよ。あちらの方々を初めて見た時も当然驚きました。でもうちの先代が「料理屋ってのは飯と人が良ければそれでいい。それが違う世界だろうと違う種族だろうと料理屋のやることは上手い飯を出して喜んでもらうだけ」って言ったのを聞いて、そういうもんかって思ったんです」
「…まぁ私も屋台やってるからその気持ちはわかるけどね。お客さんは妖怪ばかりだけど」
「だからうちに来てくれた方は全てお客さんとして接してます。ああ勿論迷惑な客はお断りですけどね」
店主の答えにネムノは、
「……わかった。こまけぇ事聞いて悪かったな。そういう事なら折角だし食べてってもいいかい?」
「私も食べていくわ。洋食食べるなんて滅多にないし♪」
「わかりました」
(こちらサービスのお冷とおしぼり、それとメニューです)
するとクロが返答を待ち構えていたかのように、メニューとおしぼりとお冷を出した。ふたりもこれまでの皆と同じ様にクロのテレパシーに驚いたがその前に彼女は離れ、店主は隣のテーブルに移った。
「………異世界には不思議なやつがいるんだな」
「それを言ったら私達もでしょ?」
「はは、ちげぇねえ」
そう言いながらメニューを開くネムノとミスティア。
「うわ、すげぇ数だなぁ。食べてくのを決めたのはいいがどれにすっかね~」
「どうせなら食べた事無いものがいいな~」
ふたりが出されたメニューに暫し目を通していた…すると、
「トーフステーキやライスバーガー以外の新しい料理ですって!?」
隣のテーブルに座っていた女性が店主との会話で驚いた声を上げた。緑色の服を着た、やや切れ長の目で尖った耳、長い金髪をした女性。
その女性の向かいに座るのは見た目は全体的にやや赤めの服を着て、短い茶色い髪にターバンみたいな鉢巻みたいなものを巻いている少女。見た目はミスティアと同じくらいだろうか。
「ファル~。落ち着いて」
「あっ。…ん、んん!…聞かせてもらおうじゃない」
「はは。実はエルフの方々にも召し上がってもらえるようなメニューを新たに追加しようと思ってたんですが、最近自分の中で納得できるものができたんで、良かったら試食してもらえませんかと思いまして。お代は結構なんで」
するとその女性は、
「……そうね。そういう事なら頂こうかしら。ああでもお代はしっかり払わせてもらうわ。食べておいて払わないというのは気持ちが悪いから」
照れくさいのか素直じゃないのかピシッとした表情で返した。
「ねぇ!私も食べてもいい?」
「ええ、勿論」
同じく食べたいという相席している少女。更に、
「…なぁ、うちもアンタが言ったそれもらっていいか?」
「私も食べてみたいな。新しい料理って興味あるのよね♪」
横から聞いていたネムノとミスティアも店主に新しい料理とやらの注文を申し出た。
「はい、構いませんよ。多くの方の意見を聞きたいですし。かしこまりました。少々お待ちくださいね」
そう言って店主は厨房に戻っていった。
「楽しみだねファル!店主さんの新しい料理!」
「え、ええそうね。…貴女達、今日が初めて?」
「ああそんだ。坂田ネムノってんだ」
「私はミスティアっていうんだ。ミスティアって呼んでね」
するとふたりも自己紹介する。
ファルダニア(トーフステーキ)
「ご丁寧にどうも。私はファルダニア。エルフよ。ここではトーフステーキで通ってるわ」
アリス(ライスバーガー)
「私はアリス。両親はハーフエルフだけど私もエルフだよ。宜しくね!」
「ファルダニアにアリスだな。こちらこそ宜しくだべ」
「……ところで貴女、随分変わった話し方するのね?」
「そうか?生まれた頃からこんなだし、気にしねぇでくんろ」
「ねぇねぇそれよりもエルフやハーフエルフって何なの?幻想郷では聞いた事ないね」
「貴方達エルフを知らないの?…それにゲンソウキョウって何?どこかの町の名前?」
ここでもふたつの世界のやりとりが始まった。
……店主調理中……
…………
「…私達の世界でも店主の世界でもない、もうひとつの世界…。そんなものがあるなんて…」
「すごい!すごいねファル!」
「正確に言えばさっきの店主さんと私達の世界は同じなんだけどね。でもお互い行き来はできないって事」
「そういう訳だ。だから人間は見慣れてるし、うちらからしたらアンタらやあの頭が獅子みたいなやつやトカゲみたいなやつの方がよっぽど驚きだべ」
するとファルダニアがふたりにある事を聞いた。
「…ねぇ、ひとつ聞いていいかしら?そういう事なら貴女達…「トーフ」や「ショウユ」って知ってる?」
これにきょとんとするネムノとミスティア。
「へ?勿論知ってるだよ?」
「料理には欠かせないじゃない。特に私達は和食中心だからね」
「…そう」
その言葉にファルダニアはやや思うような表情をした。
「……あの、どうしたの?」
「ファルはね、ここの料理に出会って旅をする事を決めたんだって」
「…料理に出会って旅に?」
するとファルダニアは経緯を話し始めた。
「…私達エルフは森と共に生きる種族。そして森に住む動物も家族と思っている。だから動物の肉や魚、それから生まれる卵や乳といったものを基本食べない。動物以外で命あるものを食すのは野蛮な行為と思っているから。ああでもその考えを他の種族に押し付けたりはしないわ。皆それぞれ食べるものが違うのはよくわかってる。あくまでもエルフがそういう考えなだけ」
「あ~よかった。私は鰻の屋台してるから怒られると思った」
「でもそれだとそれらの食材のみ豊富に含まれている栄養が取れにくい。だからエルフは一生懸命考えてそれに頼らずに生きていくための必要な食事を取れる様に研究してきた。結果多くの失敗もしてきたけど、何とか動物に頼らずに生きていくための調理法や料理を生み出したわ」
「そうなんか。勉強熱心だな。偉いと思うべ」
「だから他の種族、特に肉や魚を頻繁に食べる人間なんかに負けないって思ってた。……ここの料理に出会うまでは。トーフという未知の食材、その味付けに使われているポンズっていうソース、それと一緒に食べるダイコンという野菜のすりおろし。全てにおいて物凄い完成度だった。付け合わせの野菜までも。人間の作るものなんてエルフに及ばないって思い続けてた私の概念をあれが簡単に覆した。初めて食べた時の衝撃は今でも覚えてる」
「豆腐ステーキか~。豆腐をそんな使い方はしたことないなぁ…」
「エルフの先にいるって思い知らされて悔しかった。でも物凄く美味しかった。そして決めた。人間にも、このねこやにも負けない位の料理を作って見せるって。だから私は旅に出たの。自分の知らない世界の食材と料理に出会う旅に」
「私は一緒に旅してた皆とはぐれてたところをファルに助けられたんだ。そして今は一緒に旅をしてるの」
「そういう訳か…。アンタ凄ぇな」
「うん。凄い勉強熱心だと思う」
「…でもまだまだよ。あれから各地を回って、色々な食材や料理に出会ってきたけど、全然追いつける気がしない。一番知りたいトーフステーキのトウフやショウユの作り方もまだわからないから」
「……ほんなら」
「お待たせしました~!」
ネムノがファルに何か言おうとしたその時、店主とアレッタがワゴンで料理を運んできた。店主がファルダニアとアリスに、アレッタがネムノとミスティアに。
「お待たせしました。ハンバーグステーキです」
ネムノとミスティア、ファルダニアとアリスの前に置かれたのは…鉄板の上でジュウジュウと音を立て、香ばしいにおいを放つ大きなハンバーグ。その横には付け合せのじゃがいもと人参。ハンバーグの上には大葉とたっぷりの大根おろし。そして色と香りからしてポン酢の入った器。あと白いライスとスープの器が一緒に置かれた。
「これは…」
「ふわ〜」
「…一応聞いておくけど、私達が肉や乳や卵を食べられないのは知っている筈よね?」
ファルダニアはやや強い口調と目つきで言うが、
「ええ。勿論知ってますよ」
自信有りげに目を細め、微笑を浮かべて店主は言った。ファルダニアはその顔にやや不機嫌になるが自分もこの店とは結構付き合いがある。店主が自分達の食の習性を知らない筈はない。嫌がらせをする様な人間で無い事も知っている。なのにこれを出した。とするとこの料理にも何か秘密があるのか?そんなことを思っていると、
「……ねぇファル。これ肉も魚も、乳も卵もにおいしないよ!」
アリスに指摘されてファルはその料理に鼻を近づける。すると気づいた
(……どういう事?ハンバーグって…人間が食べるあの肉の塊の料理の筈。見た目もそのものなのに、アリスの言う通り獣のにおいが全くしない…!)
そしてファルダニアは気づいた。
(寧ろ…トーフステーキに近いにおいがする!)
すると同じくその料理を眺めていたネムノもあることに気づいた。
「……これ、もしかして豆腐だべか?」
「はは、わかりましたか。これは和風ハンバーグ。または豆腐ハンバーグともいいますがね。ファルダニアさんがいつも召し上がっている豆腐ステーキと同じ、豆腐を使った料理ですよ」
「!!」
「普通のハンバーグならつなぎにパン粉や牛乳や卵を使うんですが、これのつなぎに使っているのはライスバーガーのきんぴらにも使っている蓮根をすりおろしたもの。そしてほんの少し豆乳を使ってます」
「へ~蓮根をつなぎにしてるんだ」
「豆腐ステーキと同じで特製のポン酢、大根おろしと一緒に食べてください。あとこちらもライスがよく合いますよ。それではごゆっくり」
そう言って店主とアレッタは下がっていった。
「ほあ~…こんなん見た事ねぇべ」
「うん。紅魔館とかじゃ出そうだけどね」
「ねぇねぇ早く食べようよファル!」
「え、ええそうね…」
そう言うとファルダニアはナイフを音立てるハンバーグに入れる。店主の言った通り肉を使っていないので切った瞬間肉汁は出ないものの、豆のにおいがふわっと香る。
(切っても肉も卵もなんのにおいもしない…。本当に使ってないのね…。それと確かにライスバーガーのきんぴらというのに使われてるレンコンという野菜の香りがする。でも問題は味…と言いたいけど…悔しいけどもう美味しくなさそうとは思えないわね…)
ファルダニアは切ったそれをまずそのまま口に運ぶ。熱々で外は香ばしくカリカリに焼かれた食感。中はふわっと柔らかい。あと歯ごたえをよくするために加えてあるのか細かく切られた蓮根の歯ごたえを感じる。
「トーフをそのまま使ったステーキとは違い、野菜や香辛料と一緒に混ぜて焼く事で、肉に近い味と食感を生み出してる…」
「熱々で美味しいねファル!」
「これは…確かに豆腐だべ。豆の香りといい、噛んだ風味といい」
「うん。肉じゃないけどその分あっさりして食べやすいね。蓮根の食感もいい」
次にポン酢と大根おろしを一緒に合わせて食べてみる。鉄板の上でポン酢がいい香りを放ち、ますます食欲をそそる。更に大根おろしが適度にそれを吸って豆腐のハンバーグとよく絡む。
「こりゃあうめぇ!」
「美味し~!やっぱりポン酢と大根おろしの組み合わせは抜群だよね~♪」
「トーフステーキよりも味がしっかりしててライスにもよく合うよ!」
ネムノ、ミスティア、アリスが感想を言う中、ファルダニアは無言で食べ続けるが、
(…またまたやられたわ。そしてやっぱりこのポンズ…。いえ正確にはそれに使っているショウユというものがいけないのよ…。これさえあれば色々な料理がおいしく食べられるのに…!)
心中でそんな事を思っていた。
「温めた豆腐っていうと湯豆腐や田楽なんかが思いつくがこんな使い方もあんだなぁ。今度うちで作ったやつでやってみっかな♪」
このネムノの言葉にファルダニアの手が止まる。
「……え?ちょ、ちょっと貴女、今の言葉どういう意味?自分で作ったって…!?」
「へ?ああそういや言いそびれてたべ。うちは自分が食べるもんは全部自分で作ってんだ。豆腐とか醤油とか使う野菜とか。まぁ肉とか魚とかは採ってくるしかねぇんだけど」
「それ本当!?」
思わず立ち上がるファルダニア。
「お、おお。良かったら教えてやるよ?作り方」
「是非お………」
するとファルダニアは再び座りなおした。
「…どした?」
「…ごめんなさい、遠慮しておくわ」
「え~どうしてファル?凄く知りたいんじゃないの?」
「ええ確かに喉から手が出るほど知りたいわ。……でももし今ここで異世界の貴女に教えてもらったら、それは私自身の負けを意味する気がする。私にミソやトウニュウを教えてくれた人達は自分で編み出したと言っていた。だから私は…私自身の手でそれを掴みたいの!」
そう言ったファルダニアにネムノは彼女の頼みを聞き、教えない事にした。
「アンタ根っからの料理人だな!応援するべ!ああでも何が必要かだけでも教えとこうか?それ位なら構わねぇだろ?」
「…そうね。お願いするわ!」
そう言ってネムノとファルダニアは話し始めた。
「あんなに興奮してるファル久しぶりだよ」
「似たもの同士ってやつかな」
ミスティアとアリスはそんなふたりを笑って見つめていた。
……少女食事中……
…………
「すっかり長居しちまった。でも美味しかったべ!」
「うん!また食べに来たい位!」
「それは良かったです!」
(ここの扉は七日に一度現れますからまた来て下さい)
「…ほんと私が少し近づいたと思ったら、店主、いつも貴方は何歩も先に進んでいるんだから。心が折れそうよ…。まぁ折れないけど」
「はは、私もしがない料理人ですから、ファルダニアさんと一緒で日々の精進は欠かせないんですよ」
するとファルダニアは今度はネムノを指さし、
「…ネムノって言ったわね。悔しいけど…今の私はきっと貴女にも及ばないわ。でも、見てなさい。必ず追いついて、追い越してみせるから!」
笑いながら半分宣戦布告らしい事を言った。
「おう!うちも負けない位うまいもんを作るべ!」
一方のネムノもそう言い返した。
「ほんと似たもの同士だね」
「…やっぱりネムノさん、目的が違ってるんだよなぁ」
そんな交流をしながら、彼らは再会を約束して別れた…。
…………
~~~~♪
ネムノとミスティアが扉を開け、元の場所に戻ってきた。そして扉はゆっくりと消えていった。
「不思議な場所だったな~」
「けんど楽しかったべ。面白いもんも見れたし飯も美味かったし、ますます喜んでもらえる店造り頑張らねぇとな♪」
「私も何か新メニュー考えようかな~。…あ、そう言えば店どうなったかな?」
思い出したミスティアが屋台に駆け寄ると、
「ZZZ…」
酔っ払ったのかお腹が一杯になったのか、机で眠っているものがいた。それは、
「…あ!」
「れ、霊夢さん!」
それは霊夢だった。
「…う、…うん?…ああミスティア、あれ、アンタ確か妖怪の山の山姥じゃないの。なんでこんなとこにいんの?」
「それはこっちの台詞だべ」
「私は仕事終わりで一杯やろうと思って来たんだけど、肝心の店主がいないからさ。でも半額で良いって書いてあったし、勝手に食べさせてもらってたのよ」
見るとおでんも八目鰻も綺麗に無くなっていた。
「それはそうとアンタ、特にミスティアどこに行ってたのよ?店ほったらかして。まぁ妖怪しか来ないこの店から盗む人間なんていないけどさ。料理がまだ熱かったから多分アンタがいなくなってから直ぐに私が来たと思うんだけど?」
「あ、そうだった。私達、実は異世界食堂に行ってきたんだ。霊夢さんも知ってるでしょ?あ、良かったら霊夢さんも一緒に食べる?おみやげ貰ったんだ♪」
その言葉に霊夢があと一分早く来ていたらと後悔したのは言うまでもない…。因みにその後、ネムノは妖怪の山にとある小料理屋を開くことになるがそこに和風ハンバーグが載ったかは定かではない。
…………
一方その頃、こちらでは、
「…ねぇファル~。もう夜遅いよ~?」
「ええわかってるわ。アリスは先に寝てなさい」
(…ダイズというのはエルフ豆で代用できるとして、海藻のコンブ…キノコのシイタケ…果実のユズとスダチ…聞いた事ないものばかりだわ…。やっぱり海の向こうにしかないのかしら?そもそもどんな姿をしているのかしら…)
紙と筆を手にますます悩むひとりのエルフがいた。
メニュー8
「フォンダンショコラ」
肉を使わない豆腐と蓮根のハンバーグのレシピを知ったので話を考えてみました。幻想郷組は漢字で、異世界組はカタカナで材料書いてます。
こんにちは、storybladeです。幻想郷食堂をお読み頂きありがとうございます。突然ですがアンケートです。先代博麗の巫女や魂魄妖忌の回があれば読んでみたいと思いますか?公式設定が少ないのでオリジナル要素を含んでしまいますがどうでしょうか?ご意見お願いします。期限は今月一杯です。
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あれば読んでみたい
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不安なので読みたくない