南米の「アマゾン」、オーストリアの「ウィーンの森」、フランスの「オルレアンの森」、ドイツの「シュヴァルツバルト」、ケニアの「アツィナナナ雨林」、日本の「青木ヶ原」等など、世界には多くの森や樹海が存在している。それは幻想郷にも…。
「魔法の森」
それが幻想郷に唯一存在している森の名である。最も湿度が高く、人間が足を踏み入れる事が少ない原生林。地面まで日光が殆ど届かず、常に暗くじめじめしているために茸が際限なく育つ、人間にとっては最悪クラスの環境といっても過言でない。だがこの森には入る者に幻覚を思わせる特殊な茸が生えていたり、魔法の実験に使う材料も取れたりするので、魔法使いと言われる者達にとってはある意味いい住処ともいえる。実は霖之助が開く香霖堂はこの森の入り口に、魔理沙の家はこの森の中にある。そしてもうひとり、この森を居住としている者がいた…。
「全くよ~昨日紅魔館に行ってみたらパチュリーの奴、ねこやの扉見つけてたんだってよ!ひでぇぜ!知らせてくれって言ったのに~。ガクンと来たぜ~」
そこは魔法の森の中にある見た目洋風の小さな家。その家の中でまだ湯気立つ紅茶を前に文句を垂れているのは…魔理沙。といってもここは彼女の家ではない。この森に住むもうひとりの人物の家なのだ。
針仕事をしている金髪の少女
「……」
それが魔理沙の前にいるその人物。彼女とほぼ同い年位の少女。金色の髪でウェーブがかかっており、頭には赤いカチューシャ。青を強調している長めのワンピースの様な服に、肩には白いケープを羽織った様な恰好。そんな少女は何やら針仕事をしている。どうやら人形を作っているらしい。
「おまけにそん時レミリアや咲夜まで一緒に行ってたっていうじゃんか!レミリアはともかく咲夜までいるんだったらそん時私に知らせようって話になっても良かったじゃないかよ~」
先程から魔理沙はずっとその人物と会話している。まぁ話しているというより一方的に話しているだけに近い。
「……なぁ聞いてんのかアリス~?」
「…これだけ近い距離で話しかけられてたら聞きたくなくても聞こえるわよ。こっちに集中してて返事してないだけ」
「ちぇ~」
「………よし、これで終わったわ」
「毎回思うけどよくそんな細かい事毎日やってるよな~」
「私は人形師よ。これが私の仕事。貴女の魔法の研究と同じよ」
アリスというその少女は目の前の針仕事に区切りがついたのか、手を止めて紅茶のカップを手に取る。そういう彼女の周りには確かに人形が沢山あり、そのいくつかが窓ふきなり小さい箒やはたきを持って細かい場所を掃除したりしている。アリスは「人形を操る程度の能力」で、自分が作った人形を生きているかのように操ることができる。
「…それにしても魔理沙はともかくとして、あの飽きっぽくてめんどくさがり屋の霊夢までそこまで執着するなんて、そんなに美味しいのそのお店は?」
「お、やっとリアクション返してきたな。ああうまいぜ♪といってもまだ一回しか行ってないけどな」
「私からすれば料理よりもその鈴が気になるわね。…異世界と繋がる魔法の鈴か…」
「おっと、取らないでやってくれよ?私も確かにめちゃくちゃ気になるけど、取っちまったらもう二度とあの店と繋がらねぇみたいだからな」
「魔理沙じゃないんだからしないわよそんな泥棒みたいな事」
「おいおいひでぇな~。私は泥棒じゃねぇって。借りてるだけだ。その証拠に所有権までは取っていかないぜ?」
「…だったら去年取ってった魔法具も所有者である私にいいかげん返してほしいんだけど?」
「私は過去は振り返らない女だぜ♪」
自信満々の魔理沙にアリスはため息をつく。このやり取りももう何回目だろうか。
「まぁそれはさておいてだ。今日はまた七日目だよな。ほんとにどこに現れんのやら」
「…七日に一回幻想郷のどこかに現れる、か…。魔法の森は広いから貴女のいうその扉のひとつ位どこかに現れてそうだけど…」
「そうだな~。んじゃ今からちょっときままに探しにいくか。紅茶ご馳走様だぜ♪」
そう言って魔理沙は自分の箒に乗って飛んで行ってしまった…。
「……やっと静かになったわね。さてと、私もちょっと散歩でもしようかしら」
そう言ってアリスは立ち上がった…その時、一体の人形がアリスの肩をつつく。
「どうしたのシャンハイ?」
シャンハイと呼ばれたその人形はアリスを窓に誘う。
「外を見ろって?何か見えるの?………!」
窓から外を見たアリスの目に、いつもと違う光景があった。森の木々の中、光が当たっていない部分に隠れる様に、ひっそりと立つ扉があった…。
…………
「……洋食のねこや。これが魔理沙が言っていた扉なのかしら?」
そしてアリスは扉の前に立っていた。「洋食のねこや」と書かれた猫の看板が掲げられた扉の前に。
「…微かに魔力を感じる。魔理沙の言ってた通り本当に突然現れるのね…。さて、どうしようかしら。魔理沙には見つけたら教えてほしいって言われてるけど…」
アリスは一瞬魔理沙に伝えようとも思ったが、
「……まぁいいか、伝えようにも当の本人は自分で探しに行っちゃったものね。こんな直ぐ近くにあったのに確認不足の罰ということにしときましょう」
どうやらここでも魔理沙の頼みは不発に終わった様であった。
「とは言ってもいつまでもここに残しておくのは気持ちが悪いし…。確か誰かが入ると消えてしまうのだったのよね。危険は無いって言っていたけど……ハァ、しょうが無いわね」
少し考えた後、自分で行くことを決めたアリスは腰に魔導書を携え、ドアノブに手をかけ、ゆっくりと引いた…。
…………
~~~~♪
アリスが扉を開けると鈴が鳴り、暗い森の中とは全く違う温かい光が溢れてきた。
「……」
そしてアリスの目に飛び込んできたのは何かを食べている多くの、様々な種族でにぎわう光景。食事時なのかかなりの賑わいだ。
「これは…」
その光景にやや呆然とするアリス。
「あ!い、いらっしゃいませ~!」
とその時、両手に空の器を持って忙しなく動いている給仕らしい角が生えた少女がアリスに気づいた。
「直ぐにお伺いしまーす!少々お待ちくださいね!」
(…今の人?じゃないわね。…あの耳の尖ったのは妖精?それとも小説で読んだエルフという種族かしら?…他にも小人?それにあの頭に角が生えているのは…まるで鬼みたいね。でも幻想郷にあんな姿の種族はいないし…魔理沙の言った通り、ここは本当に幻想郷とは違う場所なのね…)
店内を見渡すと人間の他に見た事無い種族も沢山いる事に、アリスはここが幻想郷でない事を改めて判断する。
「お待たせしましたー!」
すると先程の少女がアリスに近づいてきた。
「ようこそ!洋食のねこやへ!」
「あの、貴女その頭…」
「あ、はい。私、魔族なんです」
「魔族…」
(これも聞いた事ない名前ね…)
「あの…知り合いからここって異世界にある食堂って聞いたんだけど?」
「はい!ここは異世界にある料理屋です!…もしかして、貴女も幻想郷という世界の方ですか?」
「ええそうよ。私はアリスっていうの。宜しくね」
「アリスさんですね!私はここで働くアレッタです!宜しくお願いします!…肩にいるのはお人形さんですか?可愛らしいですね!」
「ありがとう」
互いに挨拶を交えたアリスとアレッタ。しかしアレッタがハッと気づく。
「それではお席に…あ、ど、どうしよう。今はお昼時で空いている席もカウンターも全部…」
見ると確かにどの席も埋まっている様だ。
「大変な時に来ちゃったみたいね。なんだかごめんなさい。もし無理そうならお暇するわよ?」
「いえいえそんな!えっと…」
アレッタがどうしようか迷っていると、
「…あの、もしよかったら、ご合席なさいませんか?」
その時、入り口から比較的近い席に座っていたある女性が声をかけてきた。青い目の白い髪で赤いドレスを着た美しい上品そうな女性。一緒に座っているのは共に薄い褐色の肌で黒髪の青年と女性で、そちらはまるでアラブの貴族の様な姿格好をしている。
「お、おいアディ、いきなりそんな」
「いいじゃないシャリー。困っている方を放ってはおけないわ」
「まぁまぁ兄上、そんな心配しなくても大丈夫だって」
「し、しかし初めて会う者なのに…」
「大丈夫よ。あの方は悪い方には見えないもの」
「私もそう思うな~」
「むぅ…。ふたりがそう言うのなら」
言葉の様子からどうやら女性ふたりは前向き、男性はやや慎重な性格の様だ。やがて女性に押される形で男性は折れた。
「…大丈夫?そちらの方はちょっと心配してるみたいだけど?」
「ああ大丈夫大丈夫。この人が心配性なだけだから」
「どうぞ、ご遠慮なくお座りになってください」
「皆さんありがとうございます!それじゃどうぞ!直ぐにお水とおしぼりをお持ちしますので!」
言われてアリスは女性の隣の席に座った。
「何か邪魔したみたいでごめんなさい」
「いや、気にしなくていい。それよりも俺の方こそ悪かった」
「兄上は義姉上の事になると心配しすぎなんだよね~」
「ら、ラナー!」
「ここじゃ初めての顔だね。もしかして貴女、今日がここに来るの初めて?」
「ええ、まぁね」
アーデルハイド(チョコレートパフェ)
「そうなんですか。あ、申し訳ありません。自己紹介が遅れてしまいましたね。アーデルハイドと申します。シャリーの妻です」
シャリーフ(コーヒーフロート)
「ア、アディの夫で砂の国第一王子、シャリーフだ。宜しく頼む」
ラナー(クリームソーダ)
「そして私は妹のラナー。宜しくね♪」
三人はアリスに自己紹介した。それと一緒にクロが水とおしぼり、メニューを持ってきた。
(いらっしゃいませ。サービスのお水とおしぼりです)
「! えっ…!」
(ご注文がお決まりになりましたら仰ってください)
呆然とするアリスを背にクロは離れていった。
「不思議な方でしょう?私達も時々吃驚しますから」
「まぁ慣れてしまったらなんでもないから気にしないで大丈夫だよ」
言われてアリスはそうする事にするが、今の会話でひとつ気になった。
「貴方、第一王子ってもしかして次期国王って事?そんな人まで来るのこのお店」
「兄上なんかで驚いちゃいけないよ?義姉上の御祖父様なんて皇帝陛下だった頃からここの常連だったらしいからね」
「なんかとはなんだ、なんかとは」
「御祖父様が皇帝という事は…貴女皇女殿下なの?それにしては随分フレンドリーね」
「うふふ、ここでは身分とかは関係ありませんわ。皆気軽にお話していますから。貴女もどうかお気になさらないでくださいね」
確かに周りを見ると誰もが気軽にあだ名で話している。なのでアリスもそれに従う事にした。郷に入っては郷に従えというやつだ。
「それにこちらのお店は、私達にとって特別な場所ですの」
「ふたりが出会ったのも結婚披露宴もここでやったんだよ。ケーキカットの時の兄上ったらドキドキしてたもんね〜」
「あ、あれはカット用の剣を店主がいきなり出してきたから…」
「ふたりが夫婦なら私がここに座るのはおかしいんじゃない?隣同士で座った方が」
「あ、そこ気になる?私もそうしたらって言ったんだけどね~。兄上が正面から義姉上の顔が見たいっていうんで~♪」
「お、おいラナー!さっきから何を言ってる!」
真っ赤になって反論するシャリーフと突っ込むラナー。やや控えめに赤くなって微笑むアーデルハイド。どうやらかれらの家族仲は至極良好の様だ。
「じゃあお言葉に甘えておくわ。ああ、御免なさい。私も自己紹介しないと。アリス・マーガトロイド。魔法も使えるけど、本業は人形使いよ」
「アリスさん、と仰るのですね。よろしくお願いします」
「人形使いって何?」
「人形を操ったり作る仕事、と思ってもらったらいいわ。最も私の場合見せる芸人でも誰かにあげるわけでもないけどね」
「もしやその肩に乗せている人形も其方のそれか?」
「ええそうよ。シャンハイ」
そう言うとアリスの肩に乗っていたシャンハイが浮かび上がった。更に細かい動きを見せる。
「まぁ!」
「に、人形が浮かび上がった!」
「私は人形をただ操るだけでなくこんな細かい事もできるの。この子はシャンハイ。私の作った子で一番かしこい子よ」
「へ~こんな魔法もあるんだね~」
シャンハイはちょこんとテーブルの上に着地し、丁寧に座りなおした。その仕草にアーデルハイドは特に感激した様で目を輝かせている。
「なんて可愛らしいのでしょう」
「私も勉学中に魔法の本は色々見たけど、こんな魔法は見た事無いな。どこの国生まれなの貴女?」
「…そういえば先程アレッタが其方に言っていたな。確か…ゲンソウキョウ?とか。失礼ながら聞いた事がないのだが…」
「私も存じませんわ。どちらにある国ですの?」
「…いいえ、国名ではないわ。私は幻想郷、貴方達とは別の世界の存在なの」
…………
「…という訳よ」
「幻想郷…。私達でも、店主様の世界でも無い世界…」
「正確には元々妖怪や神々が住んでいた場所なのだけれど、人間と住む世界を違えようとして別たれた世界よ。最も人間も一部住んでいるけれど」
「俺達の世界で言えば人間と魔族やエルフが共存している様なものか」
「もしかして私達凄い人に会ったんじゃ…?」
「それこそ気にしないで。私はただの人形師のアリス。それだけ。貴方達もさっき言ったじゃない。立場なんて気にするなって」
やや恐縮するような表情を見せたアーデルハイド達にアリスは、静かにそう話した。
「そうですね。アリスさんはアリスさんですね」
「うんそうだね」
「ああ。異なるものが出会う事で新しいものが生まれたりすることもある。例えそれが違う世界に生きる者同士でもだ」
三人の表情から緊張が消え、彼らにも笑みがこぼれた。
(お客様、ご注文の方はお決まりですか?)
とそこにクロが注文を聞きに再びやってきた。
「え?…あ、ごめんなさい。話し込んでいてすっかり忘れていたわ」
「そういえば俺達も食後のそれを頼むのを忘れていた。いつもの…ああでも俺達のはまだいいとして、アディはチョコレートパフェは食後にはやや多いかな?」
「今日はご飯もこっちで食べたからね」
「そうですね…何か他のものにしましょうか。アリスさん、失礼ながら一緒に見させて頂いても宜しいでしょうか?」
「ええどうぞ」
アーデルハイドはアリスと一緒にメニューを見る。
(食事の時間は少し過ぎてしまったし、私もデザートに……あ)
多くのデザートの写真と名前が並ぶ中でアリスの目に「新商品」というタグが付いているあるメニューが止まった。
(柔らかいチョコレートをチョコレートケーキで包んだ焼き菓子…)
「…じゃあこの「フォンダンショコラ」をお願い。紅茶もセットでもらえるかしら?」
するとアーデルハイドも、
「私もそれに致しますわ。あとお紅茶を頂けますか?」
(承知しました)
注文を受けたクロは店主に報告しに行った。姿は見えないが奥から「はいよ」という声が聞こえたので伝わっただろう。
「貴女も同じもので良かったの?」
「はい。私チョコレイトが大好きなんです♪」
アリスは発音がちょっと気になったがそれは言わないでおいた。
……店主調理中……
…………
やがて少し経ってから彼らの所にアレッタとクロが注文を運んできた。
「お待たせしました~!コーヒーフロートとクリームソーダです!」
シャリーフの前にはコーヒーフロートが、ラナーの前にはクリームソーダが置かれた。そして、
(お待たせしました。フォンダンショコラです)
アリスとアーデルハイドの前に置かれたのは、雪化粧の様に粉糖で飾り付けされた、小さい丸い筒型をしたチョコレートケーキ。添えられているのは白いホイップクリームと赤いベリーのジャム。赤と白、そして茶色だけと非常にシンプル。そしてセットの紅茶。
(ホイップクリームと、こちらのベリーのジャムをつけてお召し上がりください)
「それではごゆっくり!」
アレッタとクロは離れていった。
「…これがフォンダンショコラ。確かに幻想郷にはないケーキね」
「とても可愛らしい見た目ですね。美味しそうです」
「ふむ。見た目はチョコレートケーキとさほど変わらない様に見えるが…」
「中に柔らかいチョコレートを包んだって書いてあったね」
取り合えずアリスが手元にあるフォークでケーキを切ってみる。すると、
「…わぁ」
アリスはその瞬間驚いた。ふわっという柔らかい感触でアリスがケーキを切った瞬間、切り口からとろ~っとチョコレートのソースが流れてきたのだ。アーデルハイドも自分のチョコレートフォンダンを切ると同じ様にチョコレートが流れてきた。
「まぁ!中からこんなに柔らかいチョコレイトが」
「これは…アディが好きなシュークリームみたいだな」
「でも包んでから焼いたって書いてあったよ。どうやって作ってるのかな?」
アリスはまずそのチョコレートソースだけちょっと舐めてみる。味は甘めを抑えたほんのりビター。
「中のチョコレートソースはちょっとビターね」
次に周りのケーキを小さく切り、そのチョコソースにつけて一緒に食べてみる。チョコレートケーキはやや甘めにしてあり、それが中の甘さ控えめのチョコソースと組み合わさって無駄に甘さを強調するわけでなく、食べやすくしていた。
「……美味しい。成程ね。同じチョコレートでも味をほんの少し変えてることで一緒に食べても甘すぎず、互いの良い部分を引き立ててるわ」
「はい。チョコレイトパフェのそれよりも甘みはちょっと控えめですが…周りの生地と一緒に食べる事で、より良い味に仕上がりますね」
続けてアリスはホイップクリーム、アーデルハイドはジャムにつけて食べてみる。チョコとクリーム、そしてジャム。こちらも勿論組み合わせとしては抜群である。
「凄くシンプルなのに組み合わせで色々な味わいができて面白いわね」
「ええそうですね。……はいシャリー。あーん」
そう言ってケーキをシャリーに差し出すアーデルハイド。
「ちょ、ちょっとアディ!アリス殿の前で」
「ふふ、いいじゃない。早く、チョコレイトがこぼれますわ」
そう言われたので仕方なく?ケーキを食べさせてもらうシャリーフ。何故顔が真っ赤なのかは聞かずともわかるだろう。ラナーは苦笑いでやれやれという感じだ。
「見てるこっちが恥ずかしいわ。ごめんね、アリス」
「気にしなくてもいいわよ。いい家族ね」
「あはは、まぁね。アリスは家族は?兄妹とかいるの?」
ラナーの質問にアリスは首を振った。
「いいえ。私には家族はいないわ。森の中でひとりで暮らしてるの」
彼女には人形の家族こそ沢山いるが親兄弟の様な家族はいない。だからこういう状況に不慣れなのは否めない。
「…そうなんだ。寂しくない?」
「全然。人形達もいるし、それに…ちょっと騒がしいけど茶飲み友達もいるし」
アリスの頭にはふたりの魔女が浮かんだ。内ひとりにはおそらくここに黙って行ったことがバレた時、また先程みたいに愚痴を聞くのだろうな、と苦笑いしながらアリスは目の前のフォンダンショコラに再びフォークを入れながらある事をアーデルハイドとシャリーフに聞いた。
「ところで貴方達、お子さんはもう?」
「「…え!!」」
アーデルハイドもシャリーフはその質問に真っ赤になる。
「あ~、残念だけどその予定はまだ無いんだ~。ふたり共押しが弱いんだよね~」
「え、えっと…あの…」
「お、俺達にはまだ早すぎる!」
「な~に言ってんの兄上?父上も早く孫の顔が見たいって言ってたじゃないか」
「し、しかし俺はまだ王子の身だし、こういうのは即位してからでも遅くはないだろうし…」
シャリーフは必死に言い訳し、アーデルハイドは恥ずかしさからか俯いてしまう。それを見たアリスは苦笑いしながらある事をふたりに提案した。
「ふふ、御免なさいね変な事聞いて。……そうだ。今日のお礼と言ってはなんだけど、もし貴方達に子供が生まれて、その時また会えたら、私から人形をプレゼントしてあげるわ」
この言葉に恥ずかしさで俯いていたアーデルハイドがパッと顔を上げる。
「まあ!それは本当ですか?」
「ええ。私達の世界、正確には外の世界の風習なんだけれど、男の子が五月人形、女の子が雛人形といって、特別な人形を贈るというのがあるのよ」
「それはとても素敵ですね!どんなお人形さんなんでしょうか?」
アーデルハイドはアリスの話に夢中になっている様だ。
「まるで随分前からの友達同士みたいだな」
「ほんとだね」
元帝国皇女のアーデルハイドは幼い頃、多忙な両親から離れて暮らしていた過去がある。そんな寂しかった彼女を見守っていたのは偉大な帝国を一代で築いた前皇帝であり、この異世界食堂に来るきっかけを与えてくれた祖父であった。しかしその祖父もそれから間もなくして亡くなり、更に彼女自身が流行り病に侵され、療養という名目で再び寂しく暮らす事になって彼女の心の傷は大きくなっていた。そんな彼女に光をあてたのは祖父と共に行ったこの異世界食堂、そしてそこで出会った者達であった。その後、彼女は病を克服し、更に運命の人とも出会えたのだった。
「病気が治って本当に良かったね、兄上」
「…ああ」
ふたりの少女の会話を優しく見守るシャリーフとラナーであった。
……少女食事中……
…………
その後、食事を終えた一行は揃って退店する事になった。
「ご馳走様。初めて食べたけどとても美味しかったわ」
「それは良かったです。またのご利用お待ちしております」
「ここの扉は七日に一度現れます!また来てくださいね!」
(ありがとうございました)
「今日は良い日でした。アリスさんとお会いできて、また新しい世界を知る事ができました」
「私も楽しかったよ♪ねえ兄上?」
「ああそうだな」
「こちらこそ楽しかったわ。違う世界の人と交流できるなんて思ってもみなかった」
「…アリスさん。その、またお会いできますか?」
手を差し出すアーデルハイド。
「今日会えたのが運命ならきっとまた会えるわ、アーデルハイド。シャリーフもラナーもね」
そう言って手を握り返すアリス。その場にいる全員が笑っていた。
…………
~~~~♪
アリスが扉を開けると、そこは先程と同じ魔法の森だった。入る時はまだ青かった空は今はオレンジ色になっている。そしてパタンと扉を閉めると、扉はゆっくりとその場から消えた。
「…もう魔力は感じない。本当に消えてしまったのね」
アリスはほんの少し残念そうなをしていた。自分でも不思議に思う。ひとりで暮らす事に寂しさも感じないし、自分の作った人形を人にあげるなんて考えた事も無かった。それを初めて言った場所で、ましてや初めて会った者にあんな約束をするなんて。
「……何れまた機会もあるわね」
そういうアリスの手にはおみやげのパウンドケーキがあった。
(多分近いうちに魔理沙も来るでしょうし、その時は出してあげましょうか。きっとまた愚痴を聞かされるだろうけどね、「何で呼ばなかったんだよ~」って。…でもたまにはあの子をからかうのも悪くないわ。いつもやられてる方だし♪)
悪戯っ気を含んだ笑いをしながらアリスは自分の家の扉を開いた。
…………
一方その頃、こちらでは、
「…ねぇ兄上。さっきの話、早く考えてあげてね?」
「…?何をだ?」
きょとんとしているシャリーフ。そんな彼を見てラナーは軽くため息をはいた。
(……ごめんねアリス。これじゃ、愛らしい甥っ子か姪っ子の顔を見れるのはまだ少し先みたい)
苦笑いしながらそんな事を思うラナーを知ってか知らずか、シャリーフの頭には「?」マークが浮かんでいた。
メニュー9
「ジャージャー麺・生春巻き」
最近私事が色々忙しく、投稿が遅くなりましてすみませんでした。
こんにちは、storybladeです。幻想郷食堂をお読み頂きありがとうございます。突然ですがアンケートです。先代博麗の巫女や魂魄妖忌の回があれば読んでみたいと思いますか?公式設定が少ないのでオリジナル要素を含んでしまいますがどうでしょうか?ご意見お願いします。期限は今月一杯です。
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あれば読んでみたい
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不安なので読みたくない