幻想郷食堂   作:storyblade

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メニュー9「ジャージャー麺&生春巻き」

幻想郷には昔から様々な妖怪が生息しているが、中には個体数が多くそれらが集まりを成して暮らしているいくつかの代表的な種族がある。

ひとつは「鬼」。嘗て妖怪の山で暮らしていたが今は地底に拠点を移している種族で、幻想郷の妖怪の中で最も力に優れ、最強ともいわれる種族。その上揃いも揃って酒豪な者が多い。

ふたつは「天狗」。妖怪の山で暮らす鴉天狗や白狼天狗等の種族の総称。力は鬼に劣るがその見聞力と足の速さでは右に出る者はいない。

そしてみっつめは…。

 

 

妖怪の山 滝裏の洞窟

 

 

ここは妖怪の山にある巨大な滝の裏に掘られた洞窟。中はかなり奥まで続いており、所々に明かりが置かれ、更に幻想郷では珍しい機械みたいなものが置かれている。

 

帽子を被った青色の髪の少女

「ん~~~~……」

 

そんな洞窟の中にひとりの少女がいた。ツーサイドアップの青い髪に緑の帽子を被り、大量のポケットが付いた水色の服、背中には大きなリュックを背負い、胸元に鍵を付けている。そんな少女は何やら腕を組んで考え事をしている。

 

「……あ~だめだ~。幾ら考えても浮かばない~」

 

そう言いながら寝転がり、手足をバタバタさせてわめく少女。

 

「も~この私がなんにも思い浮かばないなんて~!…でも考えれば私達って発明なんかは得意分野だけどあっちの方は未経験だもんなぁ~」

 

何やらいいアイデアが浮かばないのが悔しい様子だった。

 

緑の髪の少女

「……全く何をわめいてるんだい?」

 

とその時、洞窟の入り口からもうひとり少女が顔を見せた。緑色のセミロングの髪で、服装は目の前の少女と似た様な形の迷彩柄の服。腰に茶色い長い鞄をつけ、胸元にはこれまたもうひとりの少女と同じく鍵を付けている。

 

「…ふぇ?げ~アンタか。なんでここにいるのさたかね?」

 

「どうしたのさ?はないだろうにとり。山を散歩してたらアンタの大きな声が私の耳に響いたから来てみたんだよ。それに聞きたいこともあったしね」

 

「そんなに大きな声だったかい?ちょっと今大きな悩み事ができて。ところで聞きたい事って何だい?」

 

河童(カッパ)の連中が何やら作業してたんでね。何やってんだろって思って。あれってアンタのとこの奴らだろ?」

 

するとにとりと呼ばれた少女は立ち上がり、姿勢を正した。

 

「ふふん、山童(ヤマワラ)のアンタにはわかんないか♪いや実はね、あれは私達河童にとって一大事業の始まりなのさ!」

 

「最初の一言は余計だ。…一大事業?河童の?」

 

にとりと呼ばれた少女。彼女は人間ではなく「河童(カッパ)」と呼ばれる種族である。鬼や天狗と同じく日本に古くから伝わる妖怪で、主に水場を拠点とする。特徴的なのはその科学力と分析力であり、にとりをリーダーとする彼らは外の世界の情報や独自の文化も取り入れて発明なども行っている。この洞窟に置かれている機械も彼女らの作ったものだ。

対してそのにとりにたかねと呼ばれた少女は「山童(ヤマワラ)」という妖怪。元々は河童と同じものであったが、水場に戻らずに地上で暮らすことを選んだ妖怪らしい。山童も河童と同じく、妖怪達の開発や建築を受け持っている。

 

「いや実はね。最近キュウリのより良い栽培方法の情報を掴んだんだけどさ」

 

「…キュウリの良い栽培方法?」

 

河童の好物がキュウリというのはここでも変わらない様だ。

 

「そう。地面に畑を作るわけでもなくそれよりも小さいスペースで、しかも屋内でできる方法なんだ!植物工場ともいうかな。中に作るから野分(台風)とか大雨とかで邪魔されず作物が作れるんだ」

 

「へ~それは中々興味深い話ね」

 

「だろう♪しかも木からできる作物以外なら殆どのものができるんだ。それで今回試しにキュウリの工場を作ってみようって思ってね。もうそれを建設する場所も見つけてあるし、資材も確保してるよ。今部下の河童達に下地を作らせてるとこさ♪」

 

「私が見た連中はそれかい。…しかし天気とか災害とか気にしなくても作物を作れるってのはいいね。こりゃいい儲け話になりそうなニオイがするよ♪」

 

「おっと!まずは私達の目標を達成するのが先だよ」

 

たかねの目が$マークになる。どうやらにとり以上に彼女はビジネスも重視しているらしい。

 

「…ん?けど変だねぇ。アンタの今の話じゃ場所も資材も工事建設も問題ないんだろ?何に悩んでんのさ?」

 

確かに今の話だけでは特に何も問題ない様に見える。

 

「…そう、そこに関して問題は何もないんだよ。その後が問題なんだ」

 

「…ふ~ん。で、その問題ってのは?」

 

にとりの声にたかねは息をのむ。彼女の様子からきっとよほどの問題なのだろうと思っていると、

 

「キュウリを美味しく食べる方法が思い浮かばないんだよー!」

 

「…………は?」

 

叫ぶにとり。きょとんとするたかね。

 

「私達にとってキュウリは外せないもの。それを今まで以上に量産できるのは嬉しい事なんだけどさ~。でも沢山食べれるって事は当然飽きやすくもなるわけじゃん?」

 

「…いやでもキュウリは河童の好物なんじゃ」

 

「どんな好物でも毎日毎食ずっと続いたら食べたくなくなるじゃん?」

 

「…じゃあそっちの専門家に聞けば?」

 

「聞いてみたよ。でも揃いも揃ってキュウリは冷やして食べるか、漬物にするかの二択しかパッと思いつかないって言ってたんだよ~」

 

「……確かにキュウリといえば私もその方法しか浮かばないわね」

 

「だからそれ以外の食べ方を考えてるんだけどさ~。どうも思いつかないんだ。同じ瓜の冬瓜とかだったら煮ても美味しいのにな~。でもきゅうりをただ煮たり焼いたりってのもな~」

 

「まぁそれは私もあんまり………!」

 

とその時たかねが声を止め、何やら集中した。

 

「どうしたのさ?」

 

「……いや、なんだろ。洞窟の奥の空気が変わったような…」

 

洞窟はまだ奥に続いている。

 

「へ?気のせいじゃないの?」

 

「私を誰だと思ってるんだい?山童だよ。川ではアンタ達には勝てないけど山や森なら私の方が上さ」

 

「ふ~ん…。じゃあ一応見に行ってみるかい?」

 

にとりとたかねは揃って洞窟の奥に向かって歩きだした。

……そして一分程歩き、洞窟の行き止まりに差し掛かったふたりの前に、

 

「「……え!?」」

 

あの木造りの扉があった。洋食のねこやと書かれた猫の看板がついている扉が。

 

「な、なんでこんなとこに扉が?こんなの作ってないし知らないよ!」

 

「先ほどの空気が変わった様に思えたのはこの扉だったんだね…。でも何故こんな場所に?しかもついたった今現れた様な感じがしたよ」

 

「……洋食のねこや、って書いてある。…にしても良くできた扉だな~。綺麗に組まれてるし、無駄も無い。こんな扉そこらじゃ見かけないよ」

 

「気になるのそこかい…。でも確かに丁寧に作られてるけどね。とまぁそれはさておき、これどうするかだが…」

 

ふたりは扉を前にどうすればいいか迷っていると、にとりがやがて口を開いた。

 

「………入ってみようか」

 

「大丈夫なのかい?私達だけで。微かだけど妖力みたいな力を持ってるみたいだし」

 

「洋食って書いてあるのがちょっと興味あるんだよね~。おまけにねこやってまるでお店の名前みたいじゃない。たかねは文とかに知らせておいてよ」

 

ひとりで行くというにとりに対し、たかねは、

 

「……はぁ、私も行くよ。何かあった時のためにアンタだけじゃ不安だからね」

 

「あそう?んじゃ行ってみようか」

 

そう言ってにとりはドアノブを引いた…。

 

 

…………

 

 

~~~~♪

 

 

にとりとたかねが扉を開けると…そこには複数のテーブルと暖かい光が溢れる、今まで見た事がない場所が広がっていた。テーブルには二、三人位の人間が座り、何かを食べている様子が見える。

 

「ひゅい!?に、人間!てかなにココ!?」

 

「こ、こりゃあ……ご飯どころ、かな…?」

 

目の前の風景に困惑するふたり。

 

(いらっしゃいませ)

 

「!」

 

「い、今頭に声が!?」

 

驚いているにとりとたかねのところに黄色の髪から山羊の角が覗く少女が近づいてきた。

 

「あ、いらっしゃいませー!おふたり様ですか?」

 

「あ、ああ。ってそうじゃなくて…あの、なんなんだいこの場所は?」

 

「はい!ここは洋食のねこやっていう、異世界にある料理屋です!」

 

「あ、やっぱり思った通り洋食屋なのか…。い、異世界~~!?」

 

「はい!そして私は、ここで働いているアレッタです!宜しくお願いします!」

 

満面の笑顔で挨拶したアレッタ。そんな彼女を前にふたりも気が抜ける。

 

「挨拶されたら返さなきゃね。私は山城たかね。山童だよ」

 

「私は河城にとり。山に住む河童さ。それで君は何?その角は鬼かい?」

 

「タカネさんとニトリさんですね!いえ私はオニじゃなくて魔族……あ、もしかしておふたりもレイムさんやマリサさん達のお知り合いですか?」

 

「あの乱暴巫女や白黒魔法使いを知っているのかい?ん~まぁそんなもんかな」

 

「あの…アレッタだっけ?もうひとつ聞きたいんだけど」

 

とその時、別の席からアレッタに注文の声が入った。

 

「あ、はーい!…すみません!マスターにお伝えしますからとりあえずお好きな席にどうぞ!」

 

するとアレッタはその客に対応しに行った。

 

「…どうする?」

 

「…とりあえず罠って感じはしなさそうだし、適当に座ろうかね」

 

そしてにとりとたかねはテーブルのひとつに座った。そしてここでも、

 

「このテーブルや椅子も綺麗に組まれてるね~」

 

「あれは…電気かね?にしてもいたずらに光っているだけでなくあんな暖かい光の電気は初めてだね。まるで灯篭の様な明るさだ」

 

「隣の方はもっとすごいんだろな~。見に行きたいけどな~」

 

開発者らしい会話を繰り広げるにとりとたかね。そこにクロがお冷、そしておしぼりを持ってきた。

 

(いらっしゃいませ。サービスのお冷とおしぼりです)

 

「! あ、ど、どうも…」

 

(間もなく店主が参りますので少々お待ちください)

 

そう言って下がったクロの背中を見ながら、

 

「…なぁたかね。今の声ってさっきの声と同じだよね?」

 

「…多分ね」

 

そんな事を考えていると、ふたりの元に店主がやってきた。

 

「いらっしゃいませ」

 

「ひゅい!」

 

「…え?」

 

「ああ全然気にしないでいいよ。こいつ人見知りが激しいだけだから。それより、アンタがこの、ねこやっていうとこの主かい?」

 

「ええ。私がこのねこやの店主です。お客さんみたいな方々には異世界食堂なんて呼ばれてます」

 

「…異世界食堂…?」

 

 

…………

 

「……てな訳でして」

 

「…七日に一回、異世界に通じる外の世界にある食堂の扉。…嘘みたいな話だね」

 

「でも凄いよ!そのまま聞いたらとんでもないテクノロジーだよ!」

 

話に興奮するにとり。

 

「はは、俺も先代から聞いた時は眉唾もんでした」

 

「…で、私らの妖怪の山、正確にはうちら河童の洞窟に現れたのはアンタの仕業じゃないって事なんだね?」

 

「ええ。どこに現れるのは私達にも全くわからないんです。火山の中や地底なんかにも現れてるみたいで」

 

「ふ~ん。な~んか便利なような不便なような」

 

「でもそれが本当なら…うちらにはお手上げだね。霊夢や妖怪の賢者に任せるしかないか」

 

にとりとたかねは扉の件について考えるのをやめた。

 

「まぁそんな訳ですんで、よろしかったらお客様方も食べて行ってください。お金の方は大丈夫ですんで」

 

「そうだね~…」

 

するとここでたかねが少し考えた後に店主にこんな事を言った。

 

「……んじゃさ店主。ひとつ相談があるんだけど、キュウリを使った料理って何かあるかい?漬物とか以外で」

 

「…へ?」

 

その言葉にきょとんとするにとり。

 

「キュウリですか?」

 

「ああ。こいつがまた面倒な事で悩んでてね。思いつかなくて仕事も捗らないらしくてさ。なんか無いかね?和食でも外の世界の料理でも思い当たるものなら何でもいいんだけどさ」

 

この言葉に店主は暫し顎に手をあてて考え、

 

「……かしこまりました。少々お待ちください。それをお二人分で宜しいですか?」

 

にとりとたかねは頷く。それを見て店主は調理場に戻っていった。

 

「…どしたのさ?」

 

「か、勘違いすんじゃないよ。私としてはアンタの計画をさっさと進めてうちらの方でも実用化にこぎつけたいだけだ。それに工事が早く終わらないと騒がしいからね」

 

たかねは照れを隠しながらそう言い放った。

 

「…はいはいわかってますって♪」

 

にとりは笑って返す。お互い考え方で反発する事もあるがケンカするほど仲がいいともいえる。

 

「それはそうとさっきの人間の店主、キュウリを使った料理ってなんか自信ありげだったけどどんなもんかね~」

 

 

~~~~♪

 

 

とその時、ねこやの扉の鈴が再び音を立てて開いた。

 

「こんにちわ~!」

 

挨拶を大声で言いながら入ってきたのはひとりの少年。年恰好はにとりやたかねと同じ位。尖った耳と青い髪を一部三つ編みにしている。

 

「いらっしゃいませー!」

 

「…お、イルゼガントくんいらっしゃい。今日もいつものやつかい?」

 

「う~ん、ゆっくりしたいんだけど今日は持ち帰りの方でお願いします。まだ研究が残ってるんで」

 

「はいよ。少々お待ちください」

 

そう言うとイルゼガントと呼ばれた少年はカウンター席に着く。そこにクロがレモン水を持ってきた。

 

「ありがとうございます」

 

(いえ)

 

「ああそういえば店主さん聞いてよ!やっとうちの薬草園にあった植物から砂糖とほぼ同じものを作る事ができたんだ!塩はまだだけど」

 

「へ~それは良かったですね」

 

「これでわざわざ店主さんからもらわなくてもウジキントキに使うあんこ?を作る砂糖を用意できるよ。今煮たててるとこさ♪」

 

「え?でもそれじゃ火つけっぱなしなんじゃ?」

 

「ああそれなら大丈夫。うちのゴーレムがついてくれてるから。指先の器用さなら人間も」

 

とその時、

 

「「ゴーレムだって!?」」

 

別の席に座っていたにとりとたかねが少年に詰め寄った。

 

「うわ!吃驚した」

 

「ねぇねぇ、その話詳しく聞かせてもらっていいかな~?ゴーレムってあれよね?動く人形だよね?」

 

「材料は何?泥?石?はたまた金属とかだったりして?」

 

「動力は何?電気?はたまた魔法みたいなもの?」

 

好奇心に満ちた目で自分を見るふたりの姿に少年も流石にタジタジになる。

 

「あ、あの~アレッタさん、この人達は?」

 

「え、あ、はい。実は…」

 

アレッタはにとりとたかねがとりあえず自分達とは違う別の世界の住人である事を伝えると…、

 

イルゼガント(宇治金時)

「へ~!僕達とは違う世界の人達か~!面白い!僕はイルゼガント。空中に浮いてる島で暮らしているエルフさ!」

 

少年の方も目を輝かせた。

 

「へ~エルフか~。エルフってったらあれでしょ?耳が尖がってて魔法みたいなもんが得意で長寿な奴でしょ~?」

 

「う~んまぁ間違ってはいないけど僕はどっちかと言えば魔法よりも何かを作ったり研究してる方が好きかも」

 

「そうなんだ~なら気が合うかもね♪ああうちは河城にとり。河童っていう妖怪だよ」

 

「私は山城たかね。開発設計ビジネスとなんでもごされの山童だよ」

 

いつもの人見知りはどうしたという位、にとりも活き活きしている。

 

「宜しく~!でもカッパとかヤマワラって何?僕はこれでも数百年以上生きてるけど聞いた事無いなぁ」

 

「あ、それはね~…」

 

にとりとたかねは自分達がどういう存在なのか説明すると、イルゼガントはますます興奮した。子供ながらの好奇心かそもそもなのか、新しい事には彼も非常に貪欲らしい。

 

「へ~君達は人間じゃないのか!じゃあその帽子の下にはお皿があるの?見せてもらっていい!?」

 

「あ、そこは突っ込んでもらわないと助かるかな~。ねぇねぇそれよりもゴーレムの事教えてよ!うちらの知り合いには土偶や人形動かす奴はいるけどゴーレムはテンション上がるんだ♪」

 

「私もゴーレムじゃないけど自分で着て動かす機械鎧みたいなもん作ってるから興味あるんだよね♪」

 

「うんいいよ!代わりに君達の話も聞かせてね♪」

 

それからイルゼガントのお持ち帰りの注文が届くまで三人は互いの事を夢中で話し合った。

 

「…という訳で内部構造は機械が中心だけど細かい動きをさせるために外郭や細かい部分は木なり鉱石なり使ってるんだ」

 

「確かに全部が金属だと重いからね。私のアーマーも使いきりみたいなもんだから無駄な部分は省いても問題ないね」

 

「成程成程。その人工知能って奴で自立して動いてるんだね~♪それを今うちで作ってる工場でやれればいずれ全部オートメーション化できるかな」

 

「オートメーション?…まぁいいや、それよりもデンキか。雷や魔法でそっちは代用できるとして…」

 

動物好きな者同士が直ぐに友達になる様に、互いの持つ技術や未知の技術が彼らを笑顔にしていた。

 

(…認め合うのというのは、やっぱりいい)

 

「はいそうですね!」

 

そんな彼らを見てアレッタとクロも笑い、

 

「ふむ…。世界を跨いだ学者同士の交流か…」

 

「良いものだな。若さというのは」

 

「いやいや、あの少年の方が儂らよりも長生きだぞテリヤキ」

 

「……ああそうだった。見た目は老いぼれなのに拙者らの方が若いとは。ふふ、珍妙なものだなロースカツ」

 

彼らをカウンターの端の席から見守っていた異世界食堂の最も古い常連のふたりは苦笑いをした。

 

 

 

 

……店主調理中……

 

 

 

 

…………

 

そうこうしている内にイルゼガントは注文したお持ち帰り、そしていつもの差し入れである塩を持って帰っていった。

 

「面白かったな~♪」

 

「そうね。まさか異世界の技術の話を聞けるとは思わなかったわ♪」

 

にとりとたかねも満足している様子だ。とそこに、

 

「お待たせしました~!(お待たせしました)」

 

アレッタとクロが料理を運んできてふたりの前に差し出した。

 

(ご希望のキュウリを使ったメニューをお持ちしました)

 

「ジャージャー麺と、こちら生春巻きです!」

 

まずふたりの真ん前に出されたのは…見た事が無い麺の料理。ほんの少し黄色い麺の上には赤みがかっている黒いタレの様な、或いは味噌の様なものがたっぷりとかけられ、その横には同じ位たっぷりどんと乗ったキュウリの千切り。ほんの少し白髪ねぎも乗っている。

その横に置かれたのは何やら白っぽい透明な膜か紙の様なもので包まれたもの。中には葉野菜と人参、湯がかれた様な小エビ、そしてこちらもキュウリ。傍につけダレらしき小皿も置かれた事からこれに付けて食べるのだろうと想像できる。

 

「確かにキュウリがあるね…しかもどっさり。これが異世界、違った外の世界の料理かい」

 

「こんな麺は初めて見たけど…なんだい?野菜を包んでるこの透明な紙みたいなものは?」

 

するとアレッタが説明した。

 

「そちらはライスペーパーといって、ライスから作った食べられる紙です。なのでそのまま食べていただけますよ!」

 

「お米から作った…」

 

「食べられる紙…だって?」

 

(ジャージャー麺はよく混ぜて、生春巻きはこちらのタレにつけて召し上がってください)

 

「それではごゆっくり!」

 

そう言ってアレッタとクロは離れていった。

 

「……食べようか」

 

「……そうだね」

 

ふたりは箸を取り、まずは目の前のジャージャー麺という料理にかかる。混ぜて食べろとの事だが取り合えず麺だけを何本か掬ってみる。

 

「うどんよりも細いけど蕎麦よりは太いね」

 

そのまま麺だけを食べてみる。うどんよりも細く素麺よりも少し太い。蕎麦みたいな香りは無いがちょっともちもち感があって柔らかく、するすると食べられる。

 

「……うん。食べた感じうどんと同じ小麦だ。食べやすい麺だね」

 

麺を味わったふたりは今度は麺を乗っている味噌と一緒に食べてみる。味噌の中には少し大きめに切られた肉、椎茸、タケノコ、ネギ等が入っているらしい。とろみのある味噌だれを十分に絡めてズルズルッといく。

 

「……美味しいじゃん!」

 

「とろみのあるこの肉味噌がこの細い麺によく絡んでるし、椎茸やタケノコの歯ごたえもちゃんとある!」

 

ふたりはその味を堪能し、今度は言われた通り麺と味噌、そして大量のキュウリを混ぜて一緒にまたズルズルッと食べてみる。麺の食感と味噌の濃厚にキュウリのさっぱり感と歯ごたえが加わり、更に食べやすくなる。

 

「…成程、この味噌と麺だけだったらちょっと濃いけど、キュウリが入る事でちょっとさっぱり感が生まれるね」

 

「シャキシャキ感もしっかり残ってるし風味もちゃんと生きてる。これは一緒に食べて正解だね」

 

「作ってみたいけど…この麺の成分がわからないなぁ。うどんとかでもできるのかな?」

 

ふたりは暫しの間ジャージャー麺を堪能し、次は横に置かれた生春巻きにとりかかる。

 

「さてさて次はこっちの…生春巻きだっけ」

 

「なんで「春」巻きっていうんだろ?見た感じ春の食材って感じじゃないけど…まぁいいか」

 

五つほどあるそれのひとつを箸で掴んでみる。ライスペーパーという米で作られたらしい薄い紙に包まれた野菜と小エビ。見た目紙とか膜にしか見えないのでほんの少し抵抗はあったものの紙の様な食べ物といえば海苔もあるかと思い、まずはジャージャー麺と同じくそのまま食べてみる。

 

「……うそ。この紙ほんとに食べられる!」

 

「キュウリや葉野菜も凄く新鮮だし、小エビもぷりぷりだ♪それらを問題なくまとめているのがこのライスペーパーって訳だね」

 

今度はやや赤色をしたつけダレにつけて食べてみる。お酢ベースでごま油の香りやピリッとしたチリが効いている甘辛系のタレ。

 

「…これも美味しい。成程、このつけダレちょっとだけ辛いのがまたいい!」

 

「何もつけないとちょっとたんぱくだけど、これなら幾らでも食べれるわ」

 

「濃厚なジャージャー麺とさっぱりとした生春巻き。ベストマッチだね♪」

 

ふたりは暫しの間、外の世界の料理を満喫するのだった…。

 

 

 

 

……少女食事中……

 

 

 

 

…………

 

それから暫くして、にとりとたかねは料理を綺麗に食べ終えた。

 

「美味しかったね~」

 

「初めて見る料理だったけど何の心配もいらなかったわね」

 

大満足したらしいふたりの元に店主がやってきた。

 

「良かった。ご満足いただけたみたいですね」

 

「あ、人間の店主さん。十分満足さ♪」

 

いつしかにとりも店主に慣れてしまったようだ。

 

「無茶な注文言ってすまなかったね」

 

「いえいえ構いませんよ。異世界の方々でも私達の世界の料理は見た事ないものばかりですから、お客さん方みたいにリクエストみたいな形で注文されることも多いんで」

 

「あのジャージャー麺?だっけ。あの麺ってうどんや蕎麦でもないよね?どうやって作ってるの?」

 

「ああ、知り合いから仕入れてる中華麺ですよ。だからうちの手作りじゃないんです。でもうちで仕入れてるやつは馴染みの中華料理屋も仕入れてるものなんで、味は保証しますよ」

 

「麺の作り方がわかればあの料理を再現できるんだけどな…」

 

腕を組んで考えるにとりとたかね。すると横にいたアレッタがふたりに質問した。

 

「でもなんでキュウリなんですか?」

 

「ん?ああ君達の世界には河童はいないのかな。実はね…」

 

にとりは河童という生き物(正確には妖怪)がキュウリが大好物な種族だという事。そして最近いい栽培方法を知ったのだが、それを飽きずに食べるためにキュウリのメニューや新しい調理法を探している事を伝えた。

 

(…頭にお皿…)

 

「にとりさんでしたっけ。意外かもしれませんが、キュウリもサラダや漬物以外に色々調理法があるんですよ。炒め物とか肉を巻いて焼いたりとか、薄く切って吸い物や味噌汁の具にしたりもします」

 

「本当かい?」

 

「へ~味噌汁の具は思いつかなかったね」

 

「まぁ火を通してちょっと食感は悪くなるんですが味は悪くないですよ。勿論生のままでも食材との組み合わせやアイデア次第じゃきっといろんな料理ができると思います」

 

「わかった。アイデアを考えるのは得意だから任せておいてよ♪」

 

胸をドンッとたたいて自信満々な表情を見せるにとり。

 

「あんだけ悩んでた癖に調子のいい事言って。…まぁいいか」

 

苦笑いしつつも悩みが吹き飛んだ様なにとりに安心するたかねであった。

 

 

…………

 

その後、幻想郷に帰ろうとするふたりに店主がいつもの様におみやげを渡したのだが、

 

「これ、おみやげです。キュウリサンドなんですが」

 

「…キュウリサンド?」

 

「はい。俺達の世界にイギリスって国があるんですが、そこのお茶会で必ず出されている軽食なんです。一回食べてみてください。あとこれもキュウリに合うんで差し上げます」

 

「ふ~んありがと」

 

「また扉を見つけたら来てくださいね!」

 

(ありがとうございました)

 

「ご馳走様~♪」

 

「今度はもっと知り合いを連れてくるよ♪」

 

「はい。またのご来店をお待ちしております」

 

 

~~~~♪

 

 

…………

 

その後…。

 

 

「この「まよね~ず」ってやつ、どうにかして量産できないかな~。生野菜に合いすぎるね。とまぁそれは置いといて発芽具合とそれに必要な水の量と温度、そして自動的に収穫する機能まで把握できればあとは…ポリポリムグムグ」

 

「これ…パンだっけ?キュウリとほんの少しの塩コショウでここまで合うとはね~。…う~んイルゼガントから聞いたゴーレムの内部構造を今作ってるアーマーにどう流用するか…。ミサイルや銃の発射口は金属しか無いとして可能な限り軽量化を図りたいし…シャキシャキモグモグ」

 

キュウリサンドと野菜スティック(マヨネーズ)を食しながら、幻想郷きっての科学者ふたりの研究はまだまだ続きそうだ…。やがてにとりはこの時イルゼガントに聞いた人工知能たるものを開発してキュウリ工場の効率化の向上に。たかねは自身が作っているアーマーの強化に成功するがその話はここでは余談である。




メニュー10

「苺のショートケーキ」


自分はジャージャー麺はキュウリタップリ派です。
先日のロスワ生放送で流れたこいしのMV、神曲ですね。でも一番好きなのは白銀の風。

こんにちは、storybladeです。幻想郷食堂をお読み頂きありがとうございます。突然ですがアンケートです。先代博麗の巫女や魂魄妖忌の回があれば読んでみたいと思いますか?公式設定が少ないのでオリジナル要素を含んでしまいますがどうでしょうか?ご意見お願いします。期限は今月一杯です。

  • あれば読んでみたい
  • 不安なので読みたくない
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