二番煎じの茶は甘い 作:不可思議可思議
※本作のいろはすは、入学前に七子ちゃんと出会っていたりして、原作と結構な相違点があります。……あとなんか若干八幡っぽくなってる気がするけど、多分気のせいです。
三年間の高校生活に向けて 1年C組 一色いろは
青春とは恋と友情で構成された素晴らしいものであり、我々新入生も新たな青春の一ページとなる。
みたいな話を入学式の時に聞いたけれど、私はそうは思えません。
青春なんてものは、他人の不幸を搾った蜜を啜り、罪の味は大人の味とか嘯くことで形成されるおぞましいオカルト。七つの大罪と百八の煩悩を煮詰めて構成された暗黒の闇鍋。
他所から見ればそれなりに輝かしい日常、素晴らしい青春を生きる中学生であった私には、青春なるものが良いものだとはとても思えない。
ラブレターは地獄への片道切符。廊下での告白は死刑宣告。陽キャの集いは魔女裁判。陰キャの孤独は蠱毒の虫。
だからこそ私は、ただ一人の尊敬している先輩のように、何時でも何処でも不変であり続け、青春という一枚絵には何も描かず、ただ一言、無粋に達筆に堂々と、名を残す。
一色いろは。
「あの、平塚先生って一年の現国は担当してませんよね」
放課後に職員室へと呼び出された私は、先日の授業で提出した作文の課題を、何故か平塚先生に読み上げられた。目も声も疲れた風で、聞かされてるこっちまで気疲れしてくる。
それにしても、他人に読み上げられるとまだまだ拙い文章だと思い知らされる。一年の現国担当の先生(そういえばなんて名前だっけ……)は、それを教えるために度々呼び出し、平塚先生に頼み込んだのだろうか。そう思うと、なんだか期待されてるみたいで、この疲れすら愛おしい。
「……どうやら私は、ここ数年のうちに問題児担当のイメージが定着したらしい。至極不本意だがな」
……あー、そっちですか。そんな感じですか。私、問題児枠ですか。
にしても何か楽しそうですね、平塚先生。流石はなーちゃん先輩が一目惚れして今もご執心なおっぱい美人教師。なんで独身なんでしょう、本当に。
「で、私も気になったから聞こう。なんだ、この地獄みたいな作文は。去年も似たようなのを二つ、三つ読んだぞ。毎年早々に打ち合わせでもしてるのか?」
「去年も私みたいな一年生がいたんですか? ならもうそれは、今どきの高校生の共通認識なんじゃないですかね」
というか去年の一年っていうと、なーちゃん先輩の代じゃないですか。悪夢の世代とか魔王の再来とか言われてる魔窟じゃないですか。
「君達のような高校生が今どきならドラえもんが完成する未来は潰えたも同然だな」
「将来安泰じゃないですか」
「私は君の将来が心配だよ」
ぐっさぁ。なーんてこと言うんですか。厨二病患者の扱いは病人同様に、アッサムのように優しく、蜂蜜のように甘く、ミルクのように暖かくするようにって中学二年生の時に教わらなかったんですかね?
「君より重症な生徒がなんというか、こう……、……あれでな。私としても早いうちに芽を摘んでおきたいんだ」
「私達は未来で世界を滅ぼす発明家か何かですか」
……ていうか、え、殺されませんよね?
そのラスボスの側近みたいな笑い方やめてくれませんかね?
「人は見かけによらないとはよく言うが、君はその典型例のような性格をしているな」
「はあ。そんなにモブっぽい顔してますかね、私。我ながらけっこう可愛い方だと思ってるんですけど」
ピクリと、平塚先生の口角が上がった。
っべー、ふざけ過ぎましたね。
「……ああ、テンプレートを使って描いたみたいに整った顔だな。歪められたくなければ真面目に聞け」
「はい」
ちょっとちょっと、目がガチなんですけど。二回ぶん殴られた仏みたいな顔じゃないですか。女性がしていい顔じゃないですよ。
「課題は書き直せ。提出期限は融通を効かせるよう伝えておく」
「はい」
「しかし君の無駄口は私の希少な時間を大幅に削った」
「教職じゃ婚活する時間も希少ですも、いやごめんなさいほんとごめんなさい出来心だったんですごめんなさい」
「……君と話してると、どこぞの乱れ髪小説家志望を思い出すよ」
「私、髪は結構気を使ってる方だと思いますよ? 時間には余裕があるので。人は私を髪の毛座の女と呼びます」
「蠍座の女みたいに言うな。本当なら蔑称だろうそれ」
「いやですねえ、子犬座の女なんて照れますよー」
「言ってないし、子犬座の女がどんなかは知らないが君は精々とかげ座だ」
「ぐっはあ!?」
とかげって! 八十八ある選択肢の中からよりにもよって!
「よくもまあそんな人を傷つけられることを言えますね!?」
「君には言われたくないがな! あと乗っかった私も悪いが話を真面目に聞け!」
「はーい」
平塚先生はうんざりしたような様子で、おっぱいに圧迫されて変形してるタバコを胸ポケットから取り出し、一本咥え、百均ライターで火をつける。ふぅっと吐き出す仕草はとても様になっていて……。
「おっさんくさい。ついでにタバコ臭いです」
「真面目に聞け!」
「はい」
そんな真面目な目をされたら、私もふざけにくいじゃないですか。
「たしか、君はまだ部活に入っていなかったな」
「なんで私の部活事情を知ってるのかはひとまず置いておいて、まあはい」
どっかの運動部のマネージャーでもやろうかと思ってましたが、まだどこかにするかは決めきれていないですね。
「……友達とかはいるか?」
「生憎と、私は平等主義でして。誰かを特別扱いするとか、特別な人じゃないと出来ないんですよ」
「つまり、いないということだな?」
「ま、まあ、いないと言って言えないこともありませんね」
私、職員室で何言ってるんだろう。というかこの先生、生徒になんてこと言わせてるんだ。
「……彼氏とかは、いるのか?」
「心に決めた人がいるのでごめんなさい」
「ナンパじゃない! 私をなんだと思ってるんだ!?」
「違ったんですか? 平塚先生は数多の年下女子を落としたと噂で聞いていたのですけど」
「……やっぱり真面目に話を聞く気ないな?」
「先生が本題に入らないからじゃないですかー」
気まずそうに顔を逸らす平塚先生、超キュート。写真撮ってなーちゃん先輩にプレゼントしたいくらいですね。
「では、ついてきたまえ」
「ナンパでしたらもっといい人を紹介しますよ?」
もう既にベタ惚れ中で、告れば即OKでそこそこに優良物件な人。
「……ついてきたまえ」
「あ、はい」
平塚先生は感情のすっぽ抜けた顔で、タバコを灰皿に押し付けながら立ち上がる。マジにならないでくださいよー、冗談じゃないですかー。
春真っ只中だというのに寒さが残る夕暮れ時。薄暗い廊下に向かい合う、自販機と少女。私なら暖かいミルクティーでも買いたいところですが、少女は違う。寒さなんて全く感じていないと言わんばかりに、その指は最上段右端のファンタグレープへと向かう。
小学生程の身長とはいえ、腕を目一杯伸ばせば普通に届く位置。だというのに、無意識に背伸びして爪先をプルプルさせているその姿は超キュート。
昼時ならそんな可愛らしさは三色に穢された髪で相殺されてしまうけれど、薄暗い廊下では何もかもセピア色に染まり、その穢らわしさが意味を成さない。
「なーちゃんせんぱーいっ!」
「いろは? ……それに静って、どういう組み合わせよ。漫才でもするの?」
しゃがんでファンタとお釣りを取り出しながら、こっちに顔を向けて首を傾げて見せる。
「一色を部室に連れて行くところだったんだ。雪ノ下もまだいるな?」
「私は冷たい物が欲しくなって買いに来ただけだし、総下校時刻まではいると思うわよ。……でもいきなり披露する相手が雪乃はやめた方がいいと思うわ」
「今の気温何度だと思ってるんだ? あと私は一色と漫才をしに行くわけじゃない」
「気温が一桁にならないうちは夏よ、夏」
「君、京都出身だろうに……」
京都って、……暑いんでしたっけ? 修学旅行で冬間近の秋に行ったからそんなに暑いイメージないんですけど。
「だからほら、私にさっむいギャグの一つや二つ、披露して見せなさいな?」
「滑るのを前提にギャグを求めるな。というか君はどんな面白いギャグを見せられても笑わないだろ」
「あら、言われてしまったわね。私だって笑う時は笑うわ」
「悪いが、君の笑顔は想像もつかん」
……なんか、疎外感ですねー。なーちゃん先輩の恋路は全力で応援しますけど、内輪ノリを目の前で展開されるのは、なんかちょっと。
「人を機械か銅像みたいに。そうだ、いろは。あなたが私を笑わせてみせなさいな。爆笑してあげるから」
「なんですかその地獄みたいなフリ! やりませんからね!? 持ちネタの一発ギャグは自爆技の別称じゃないですからね!? あとなーちゃん先輩の爆笑はあまり見たくないです」
「……っていうギャグ? 悪いけれど、あまり面白くなかったわ」
「違いますよ! 勝手なこと言って勝手に滑らせないでください! 私の一発ギャグはクラスの男子には好評ですからね!? 絶賛好評発売中ですからね!?」
「それ、無理やり売りつけてるだけじゃないかしら。あなた相手だと童貞なら生ゴミでも買うでしょ」
「生ゴミは流石に酷くないですか!? 私のギャグはリサイクル可能です! 資源ゴミです!」
「結局ゴミじゃない。しかも童貞に女子のギャグを再利用なんて出来るわけがないわ。誤差よ」
「なーちゃん先輩の中の男子の評価、どんだけ低いんですか……」
「論じる価値なしってところかしら」
さいっあくなところに落ち着きましたね……。なーちゃん先輩のさっきまでのプリティーキュート属性どこ行っちゃったんですか。
「……いや、君たちの漫才はなかなか面白いと思うぞ? 人に聞かせられるかはともかく」
平塚先生もなんですか、その砂糖ぶっかけた苦笑いみたいな微妙な笑い方。
「そう。それは素敵ね。雪乃にも披露しましょ、いろは」
「嫌ですよ!? その人が誰かも知りませんが地獄を見ることだけは分かります!」
「私はだだっ滑ろうが気にしないわ」
「私が気にするんです!」
……あ。
「あー……」
ふとなんとなく時計を見て私が気付き、続いて平塚先生も気が付く。
直後にチャイムが鳴った。放課後なのだから、当然授業の終わりを告げる物ではなく、全校生徒の下校を促す無慈悲な合図。
「私はもう帰るから、雪乃によろしく」
「……いや、日を改めるよ。いいな、一色」
「はあ」
……というか私、まだここまで連れてこられた理由も知らないんですけど。やっぱり平塚先生が全部喋ってくれないから、どうしても無駄話が盛り上がるんですよ、きっと。
後書き。というか、悪夢の世代主要メンバー(一部抜粋)。
邪魅悪霊の自然保護区、葉山隼人。
唯我独尊の庶民派女帝、三浦由美子。
魔王の妹にして氷城の魔女、雪ノ下雪乃。
イケる屍、海老名姫菜。
傾国の美男子、戸塚彩加。
筆を構える三流剣豪将軍、材木座義輝。
孤高の暴風雨、川崎沙希。
縦横無尽の言霊弾幕、七五三七子。