神を輓きずりし者達よ   作:Y-Romi | 和井 火戸見

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初めましての人は初めまして。Y-Romiと申すものです。

ばんえいウマ娘のスポ根小説。開幕です。


第一話 「北海道の空の元」

500キロの鉄のそり。200mの短いコース。2つの大きな山。きらびやかに輝く中央のGⅠレースとは全く違う、北海道の1大エンターテイメント、ばんえいレース。

 

ダートのコースに悠々と立つ彼女らは、ウマ娘であり、ウマ娘じゃない。

平均身長190cm、広い肩幅、地面を壊すような脚力。その剛力は山をも動かし、鋼の如き心で走り抜ける。

 

そう、彼女らは「ばんえいウマ娘」。それぞれの頂点を目指して走り続ける、崇高な物語の担い手。

 

「行ってきまーす!」

 

この世界に生きるウマ娘の運命は、レースの勝敗は、どんな頂を見渡すかは、まだ誰にも分からない。

それでも彼女たちは走り続ける。たとえどんなに大きな障害が待っていたとしても、最後に誰もが笑っていると信じて。

 

それでは、今、スタートを切りました。拍手喝采でお迎えください。

 


第一話 北海道の空の元

北海道帯広レース場で行われる、レースとライブを備えた一大エンターテイメント、ばんえいレース。中央(トゥインクルシリーズ)と比べたら少し規模は小さいけれど、長い歴史と根強い人気があり、いまだに客足が絶えない。

そして、私は今日、そんなレースに出るために「帯広トレセン学園」に入学する。

 

「はーい、みんなこっち向いてー」

 

ベテランらしい、女性の先生が黒板をチョークでカツカツと叩く。

 

「さて、入学おめでとうございます。今年も元気な新入生が多くて先生は嬉しいです」

 

幾度となくこの作業を繰り返しているのだろう。その人は軽く咳払いをしてから口を開いた。

 

「新しいクラスを持つたびにこれを聞いているのですが、皆さんはどんなウマ娘になりたくてここに入りましたか?」

 

考えたこともなかった。2か月前なら「知ったことじゃない」と言っていた所だが、学園に入った以上そうもいかない。

口元に手を添えながら、少し思考を巡らせる。想像もつかないというのが正直な感想だ。

少しばかり教室がざわついた所で、スラリとした長い手が上がる。

 

「はい、ウェルミングスさん」

 

その腕にふさわしい長身だ。彼女は後ろの席から向けられる羨望の眼差しを感じながら、はっきりとした口調で言った。

 

「私は、レースの頂点に立つウマ娘になりたいです」

 

何たる自信。他人事にしか思えないその言葉に驚きを隠せない私を無視して、先生は言う。

 

「なるほど、いい目標ですね。他には?」

 

「は、はい」

 

少し遠慮気味に、隣の席の子が手を挙げる。

 

「はい、シシカエデさん」

 

「ば、ばんえいレースをもっと盛り上げるようなウマ娘です」

 

先生は柔らかい微笑みを浮かべ「それもいいですね」と言い、ゆっくりと私たちを見渡す。

 

「・・・まあ何が言いたいかと言いますと、必ずしも勝つことだけが競走ウマ娘の全てではないという事です。確かに、他者を寄せ付けない勝利は素晴らしいものですが、ばんえいレースはただ勝つだけでは成り立ちません。「勝利の後に皆笑っているレース」。それを求めてレースに出てほしいな、と先生は思います」

 

教師らしく、ありきたりだが良い事を言うものだと思っていると、チャイムが鳴った。先生は軽く挨拶を済ませ、教室を出る。話の後に思ったが、きっとこの話も毎年やっているのだろう。

 

そんなことを考えていると、さっき手を挙げた横の子が話しかけてきた。

 

「えーっと、これからよろしくね?」

 

「あ、うん。こちらこそよろしく」

 

急に話しかけられると、いつも返答に焦りが出る。新しい交友関係を作るのは勇気がいる。

それにしても、可愛い笑顔の子だ。こんな虫も殺せなそうな子もレースに出るのか。あまり想像できない。

 

「どこ出身?」

 

「えーっと、札幌」

 

彼女は十勝の方で生まれたらしい。取り留めのない話をしながら少しづつ打ち解けていると、彼女はおもむろに言った。

 

「二人でレース、出られたらいいね」

 

「・・・出られたらいいね?」

 

初めまして500kg

どうやら、誰でも簡単にレースに出れるものでもないらしい。

 

「能力検査?」

 

「そう、そりを引いて100mを2分以内に走れば合格」

 

先生に聞いたところ能力の試験があり、それに合格しなければトレーナーが付くどころか模擬レースにも出れないらしい。

 

「大丈夫よ、障害もないし。8割受かるから」

 

「もし受からなかったら・・・?」

 

「サポート科か普通科に移動になるわね」

 

なんという恐ろしい世界。地方レースだと思い舐め腐っていた自分を殴りたい。

 

「特別講習が毎日やってるから、そんなに心配しなくても大丈夫よ。毎年落ちるのは講習をサボってたり、バ体に恵まれなかった子達だから。あなた190はあるでしょう?」

 

「ああ、まあ、はい。」

 

はっきりしない返事をして職員室を後にする。気分が重い。昔から試験の類はあまり好きではないのだ。

小さいため息を吐いていると、廊下で先ほどのウマ娘の子が待っていてくれた。

 

「能力検査、大丈夫そう?」

 

「ハハ、まあなんとか・・・」

 

どうやらこの子の名前はシシカエデと言うらしい。私より少し小さいが、この子も試験を受けるのだろう。どうせなら二人で受かりたいと思い、思い切って声をかける。

 

「あのさ、特別講習が放課後にあるらしいんだけど、いっしょに行かない?」

 

彼女はぽかんとした顔をしたが、すぐに思い出したらしい。

 

「あ、あれか! 黒板に貼ってあったやつか!」

 

彼女は即座にスマホを確認して、すぐに言った。

 

「今日の放課後でしょ? いいよ!」

 

何の曇りもないきれいな目。中途半端に捻くれた私とは違うな、と思い、少し笑う。

 

「ありがと。どうせなら二人で受かろうね。」

 

「うん!」

 


 

「・・・なんですか? これ」

 

そうつぶやいた私に対して、教官はさも当たり前かのように言った。

 

「何って、鉄そり」

 

「そうじゃなくてですね。・・・これ何キロあるんですか?」

 

ウマ娘である教官は凄まじく広い肩幅を揺らしながら、中の重りを確認した。

 

「えーっと、試験用だから500kgだね」

 

「500って・・・、引けるんですか?」

 

「それを今から鍛えるんでしょうが」

 

教官はざわつくウマ娘達に向かってハキハキとした声を上げる。

 

「注目! 実際にそりを引く前に説明をしますので良く聞いてください!」

 

集まったのは15人ほど。まだ初日だし、この講習の存在を知らない子の方が多いのだろう。思っていたより少ない。

 

「500kgのそりを安定して引くには技術がいります。何も考えないで引いたら10mで体力が持っていかれます」

 

話を聞いていると、前の方に背の高いウマ娘がいることに気がつく。どこかで見たことがある立ち姿だ。

 

(あれは・・・)

 

「必要なのは足腰! 筋肉量の多い下半身を意識して地面を強く踏みしめれば、100mくらいなら安定して走ることができます!」

 

カエデが必死にメモを取っている。持ってくるべきだったと軽く後悔していると、教官は遠くに置かれているそりを指さした。

 

「説明は以上、何事も経験。1グループ3ウマ娘でペアを作って、交代で引いてみる」

 

何故大人というものはグループにさせたがるのだろうか。一人足りないぞ。

仕方がないから辺りを見回していると、さっき前に立っていたウマ娘の子が話しかけてきた。

 

「グループ、入ってもいいかな?」

 

「もちろん!」

 

「ええ、どうぞ」

 

「感謝する」

 

どこかで見たと思っていたが思い出した。彼女はウェルミングス。朝の時間に「頂点に立ちたい」と言い放ったウマ娘だ。

 

「よし、じゃあグループ決まったらこっち来なー。」

 

言われるがままに、ダートのコースに並べられたそりの前に行く。

 

「これが、鉄ぞりか。」

 

私の後ろでぽつりと声が聞こえる。彼女の体格なら引っ張ることだって造作もないだろうに。

 

「はい、じゃあこれ付けて。」

 

渡されたのは、金具のついた分厚いベルト。腰に巻くとずっしり来る。

 

「このベルトと紐がそりにつながっていて、それで引っ張ります。では、やってみてください!」

 

金具をそりにつけ、ベルトが腰に巻かれているのを確認し、土を踏みしめ歩みを進めようとする、のだが・・・。

 

「・・・遅いね」

 

「・・・遅いな」

 

動かない訳じゃない。しかし亀のような速さだ。これでは100mなんて以ての外だ。日が暮れてしまう。

 

「・・・次、良いかな?」

 

「ゼハァ、ゼハァ、い、いい、よ、ハァ、」

 

「大丈夫? はい水」

 

「ハァ、ハァ、ありがとうカエデ・・・」

 

もらった水を飲み干し、ウェルミングスさんがベルトを付けるのを見守る。

 

「彼女、何cmあるの?」

 

「さあ、2mはあるよね。」

 

そして、歯を食いしばる彼女のそりは動き始めた。

 

「おっ、動いてる。」

 

着実に、確実に。彼女のそりは歩みを進めた。見た目に違わぬ能力だ、羨ましい。

 

「おおー、速い!」

 

5分ほどたった後、カエデが拍手をしながら座り込む彼女に水を渡す。

 

「ハァ、ハァ。想像、以上に、ハァ、疲れるものだな、これは、」

 

クールな様相を保っていた彼女も、さすがに息が切れている。想像以上に疲れたようだ。

 

「よーっし、次は私か。がんばるぞー!」

 

気合いの入った声を出しながら、カエデはベルトを着けた。

 

「無理すんなよー、カエデー」

 

大丈夫だろうか。少し不安だ。

だが、彼女を心のどこかで軽視していた私は、想像を絶する状況を目にする。

 

「速っ!?」

 

「!?」

 

ウェルミングスさんも言葉を失っていた。目が大きく開く。

 

「あいつ私より10cm以上小さいのに、どういうことだ?」

 

私のそりが亀だとしたら、彼女のそりは兎か猫か。すぐさま30m程を走り抜けてしまった。

 

「ハァ、ハァ、フゥ。」

 

対して息もきれていない。あまりの衝撃で言葉を失っているうちに、彼女は先生に呼ばれていった。

 

「・・・やばかったね」

 

「・・・やばかったな」

 

嵐のごとく流れ出る情動がひと段落ついたところで、自分の事を考える。

 

「ウェルミングスさん、あなたはこの後どうする?」

 

「ウェルで良い。私は・・・、少しトレーニングを増やすかな」

 

そういう彼女の目は情熱に燃えている。私にとっても、決して他人事ではないのだ。私は深く息を吸った。

 

「聞いて聞いて! 選抜メンバー候補だって!」

 

「うん、だろうね」

 

「お前はなんでそんな引くの速いんだ?」

 

「さあ? 分かんないや」

 

「「分かんないのかよ」」

 

その後も交代でそりを引き続け、講習は終わった。

私の結果はどうしようも無かったが、たくさんの物を得られた。それに何より・・・

 

「今日は勉強になったし、楽しかったね」

 

「ああ、そうだな。私も気合が入ったよ」

 

「うん、いい経験になったし、楽しかったよ」

 

季節は春。無限に広がる北海道の空の元、私は大きく伸びをした。




設定紹介Q&A

Q.ばんえいウマ娘とは?

A.ばんえいレースに出場し、活躍するウマ娘達。

中央で活躍するようなウマ娘に比べ体が大きく、平均身長は190cm。小さくても175cm、大きいと2mは超える。肩幅の広さや強靭な足腰などを生かし、開拓時代から北海道の人々と共に共存してきた。
また、精神面の成熟も通常のウマ娘に比べて早く、慎重であり我慢強い。その代わり闘争や競争に対して敏感とされる
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