神を輓きずりし者達よ   作:Y-Romi | 和井 火戸見

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前編後編で分ける必要はないのですが、書いてるうちに分けた方が収まりがよくなったので分けました。ちなみにこの後の16、17話は本当に分ける必要のない回になります。要修正。


第十二話 「合同合宿、その1」

「…海だ」

 

「…海だね」

 

潮の香りがあたりに満ちる。波の音が永遠に繰り返される。

 

「…どこの海?」

 

「…太平洋かなぁ」

 

ラルバはアバウトすぎる回答を絞り出した。千葉の海も太平洋なんだぞ。

 

「日本海だよ。さっき車の中で言ったじゃん」

 

後ろからぬっとトレーナーが現れる。彼女は謎の大きめの袋を大事そうに抱えている。

 

「トレーナー、そのデカい袋、何が入ってるんです?」

 

「後のお楽しみ。まず宿に荷物置いてきな」

 

怪しい笑顔。あの中に大量のヒキガエルとかアミメニシキヘビのはく製とかが入っていても不思議じゃない。

一抹の不安を覚えながらも宿に向かう。決して豪華とは言えないが、雰囲気は良い。

 

「少し古めですけど、いい宿ですね」

 

大部屋にリュックサックを置きながら私は言う。やはり海沿いの宿は良い。窓からの景色が他の場所とは一線を画す。

 

「あ、そっか。ゴッドとラルバはここ初めてだっけ?」

 

「そりゃあ今年入ったんで」

 

ココロ先輩は笑いながら言う。

 

「じゃあ、楽しみにしときなよー?」

 

・・・何もかもが不安だ。にっちもさっちも行かない。

「何がですか?」と聞きたい衝動を無理くり抑え、私は浜辺に出た。

知らぬが仏。待ち受けているものが何であれ、詮索しないほうが身のためだ。

 

「お、来たなお前ら。全員・・・いるな。OK」

 

「何するんですか?」

 

西高トレーナーは先ほどの袋の中から金属の棒と網を出した。

 

「ビーチバレー」

 

・・・カエルでもヘビでも無かったから良いものの、予想外だ。

何故ばんえいウマ娘をトレーニングのために海辺に連れてきておいて、最初にやるのがビーチバレーなんだ。

 

「この前試合見て楽しそうだったから。どうせ海行くなら、って」

 

鉄の棒を砂浜に突き刺して言う。自由人め。

 

「お前の私情かよ。そこはもっと嘘つけよ」

 

「うち等が成績出さなかったらこのトレーナー速攻クビだよね」

 

「うちの実家の12haの農場で強制労働の刑だね」

 

バレットさんの罵倒にシャドーの先輩が続く。ごもっともだ。

 

「・・・まあ良いじゃないですか、楽しそうですし」

 

「ラルっちもやる?」

 

「え、私もやるんですか?」

 

他のメンバーは既にジャージを脱ぎ、着々とコートを整備している。

いつも思うが、何でこの人たちは文句を言いつつも終始ノリノリなんだ。

 

「ゴッドー、ボール取ってー!」

 

私は袋からすでに空気の入った球体を取り出す。ウマ娘でも壊れないと評判のガチ競技用のボール。何でこんなものまで?

 

「よし、じゃあ負けたチームは後でランニング2倍!」

 

「はぁぁ!?」

 

ああ、くそ。やっぱり楽しいな。ここは。

 


 

日暮れ。海が少しずつ太陽の色に染まっていく。

 

「・・・負けちゃったねー」

 

「まあ手とか抜いてくれるような人達じゃないしね」

 

2倍走って疲れた足に、湿った砂が心地いい。

 

「おーい、そこのたそがれてる二人ー。風呂だってよー」

 

呼びつけられる声を聞き、少し震える足で宿に戻る。

 

休憩

 

「浴場、広いですね」

 

湯につかりながら私は言う。良い風呂だ。

 

「そういえばココロ先輩、お楽しみって何ですか?」

 

髪を洗いながら先輩は言った。

 

「え、ああ。ご飯の後にね、今言うとつまんないから」

 

サイレス先輩が驚きの声を上げる。

 

「え、今年もなの?」

 

「今年もだよ?」

 

何が何だか分からないまま、私も髪としっぽを洗う。

 

「ゴッド、ラルバ。覚悟しといたほうが良い」

 

ゲイザー先輩の忠告を聞き、一抹どころか百抹の不安を覚える。

ちくしょう、落ち着かねぇぞ。

 

「まあゴッドはたぶん大丈夫。ラルバは・・・まあがんばって」

 

動揺するラルバを横目に風呂から上がる。砂だらけの髪の毛としっぽが大分すっきりした。

 

「晩飯は何でしょう」

 

そんなことを言いながらふすまを開けると、机の上に置かれた和食の横に、トレーナーが寝ころんでいた。

 

「刺身と白飯とお味噌汁。いいじゃないですか」

 

「美味そう」

 

畳にあぐらをかいて座る。やっと一息ついた。

 

「じゃあ、いただきます」

 

「「「「「「いただきまーす」」」」」」

 

元気のいい挨拶の後、味噌汁をすする。程よい塩分が染み渡る。

 

「あ、そういえばトレーナー。チームスハイルの姿が見えないんですけど」

 

「ああ、言ってなかったな。りっちゃんがバスの予約間違えてたみたいで。明日に遅れるって」

 

マジかよ。あの人も結構抜けているのだな。ウェルが聞いたらあからさまに嫌そうな顔をしそうだ。

 

「あ、刺身おいしい。マグロ久しぶりに食べたかも」

 

「姉貴、私のたくあん返して?」

 

「喰っちまったから元から無いのと同じ。諦めろ」

 

わちゃわちゃと飯を食う。こういうのも合宿の醍醐味だろう。

 

「・・・トレーナー。今日いなかったけど、何してたの?」

 

「そりのレンタル。業者と格闘してた」

 

お疲れ様で。この人ビーチボールの後すぐにいなくなったからびっくりした。

 

—その後、時間は瞬く間に流れ、1時間後—

 

「おし、ごちそうさん」

 

「ごちそうさまでしたー」

 

手を合わせ、空になった食器をまとめる。

おいしかった。結構お腹にも溜まるものだ。

 

「おし。じゃあ、やるか」

 

ココロ先輩がバッグから何かを取り出す。今日の最大の不安の種は一体全体なんなのか、と私は息をのんだ。

 

 

「・・・ホラー映画鑑賞」

 

 

なぁに考えてるんだこの野郎。

 

「え、嫌ですけど」

 

「拒否権は無い。何の映画かを選ぶ権利はあげよう」

 

ダメだ。周りの方々が目をそらしているのを見るに、去年もこんな感じだったのだろう。

 

「じゃあどれが良い? 『サイコ』『エスター』、私のおすすめは『透明人間』。邦画だと『着信アリ』とかが楽しいんじゃないかなぁ」

 

練習の時の比じゃない。何でこの人こんなに楽しそうなんだ。

 

「ココロはねぇ、ガチのホラーファンなのよ」

 

「一番好きな映画聞いたら『パラノーマル・アクティビティ』って答えて。びっくりしたよなぁ」

 

ちくしょう、拗らせやがって。仕方がない。

 

「じゃあ、そこの、パッケージがグロくないやつで」

 

見た感じ怖そうじゃない映画を選択する。これが怖かったら死ぬしかない。

 

「お、良いのを選んだね。エクソシストか」

 

嫌な笑顔。選択をミスったかもしれない。

 

「よーし、じゃあ見るぞー」

 

2時間後

 

「・・・死ぬ」

 

「死なないで」

 

ラルバがぴんぴんしているのが謎だ。ポップコーンをかじりながら平気そうに見ていた。

 

「いやぁ、おもしろかったね!」

 

「ですね」

 

ラルバがホラー強いのは想定外だ。天使のような顔をしているくせに。

 

「いやぁ、ラルちゃんもっと怖がると思ったんだけどなぁ」

 

困ったように笑うラルバを見ながら、ゆっくりと体を起こす。

 

「しんどいです。もう寝ます」

 

布団に逃げようとする私を、すでにテンションが切り替わったバレットさんが呼ぶ。

 

「え、ゴッド。ブラックジャックやらないの?」

 

・・・だから、なんで、なんでブラックジャックとか、普通のゲームを、しないんだ。

 

「なんでカジノのゲームなんですか。ホラー映画見て寝る前にブラックジャックなんですか」

 

「え、やらない?」

 

「やりますっ」

 

ちくしょうっ、楽しいっ。

 


 

「お、スハイル来た」

 

バスが止まる。中からぞろぞろと、身長の高いウマ娘たちが出てきた。

 

「Wow...オーラすごいな」

 

「カエデがあの中にいるという事実が怖い」

 

それほどメンバーは多くないみたいだ。威圧感はすごいが。

 

「おーっす、にっしー」

 

「りっちゃん遅いよ。何でバス間違えるんだよ」

 

二人が笑い合う横で、カエデがひょこっと顔を出した。

 

「あ、ゴッドー!」

 

「おー。カエデ。大丈夫? 顔色悪いけど」

 

「夜行バスだったから寝不足で・・・」

 

ははぁ、なるほど。朝から車を走らせてきた我々とはまた違う方法をとったらしい。

 

「海辺歩いて元気出す! おしっ! がんばるぞっ!」

 

この子メンタル強いなぁ。さすがだ。

 

スハイルのメンバーが続々と宿に入っていくのを見ながら、トレーニングを始める。

 

「なんかしばらく見ないうちにカエデちゃん大きくなったね」

 

「そうですかね? 体つきとかは変わってないですけど」

 

バレット先輩は走りながら言った。

 

「そうじゃなくて、心的なあれよ。メンタルというか」

 

ああ、なるほどと思いながらランニングを続ける。確かに、カエデは少しづつ変わってきている。

強靭なフィジカルに精神面が追いついてきている。

でも、それは彼女だけじゃない。

 

「・・・まあ、私も成長しているか」

 

勝利の快感を知り、等しく同じように敗北の苦しみを知る。

ただひたすら同じ行動をすることの意味を知る。意義を知る。

 

『無知の知』

 

「知らない」を知る。ひたすらに、がむしゃらに「知る」という動作を繰り返す。

それが、私にとって「走る」ということであり「生きる」ということ。

 

ここに来て、それを知った。

 

「・・・何笑ってるの、ゴッド」

 

ランニングを終え、語りかけてきたトレーナーに向かって、私は笑顔で言う。

 

「・・・スイッチ、入ったかもしれません」

 

「お、そいつぁ良いや」

 

トレーナーは私の一言を聞くと、駆け足で帯刀トレーナーのほうに向かった。

 

「おしっ、取れたっ!」

 

歓喜の声をあげながら帰ってきたトレーナーに、私は聞く。

 

「どうしたんですか?」

 

「ゴッド。障害なしの模擬レースだ。明日」

 

驚く私の声は波の音に半分かき消され、微妙な間ができる。

 

「というか、誰とですか?」

 

「お前が前負けた、エルドラド。エルドラドファクト」

 

・・・VS、黄金郷。

 




設定紹介Q&A

Q.合宿って何するの?

A.浜辺でそりを引いたり、いろいろ。

走り込みとかは勿論のこと、そりを引いたり筋トレしたり。
ただ、彼女たちは泳ぐ経験がないので海では遊ぶに留まるのが関の山。とはいえ楽しそうではある。
ちなみに浜辺を散歩するばんえい馬とかがあるからこの話を書いてるけど、流石に山にはいかない。
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