神を輓きずりし者達よ   作:Y-Romi | 和井 火戸見

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ココロさんは「パラノーマル・アクティビティ」が好き。私もあの映画好きですけど、僕はやっぱり「シャイニング」が好き。不気味さ、不自然さ。そんな明確な形のない概念で、恐怖を与え、人の心を動かす。そんな作品が作れたらいいですよね。


第十三話 「合同合宿、その2」

あまりにも柔らかい砂地を、蹄鉄で踏む。ここまでの重バ場帯広でもそうそう無い。

 

これは、しんどくなりそうだ。

 

プライド

 

「距離は、大体200m。障害は無いから刻みも無くて良い。それで、あっちのカエデのラインに先についたら勝ち」

 

ルールは単純。障害がない以上、単純な体力の勝負に成りそうだ。

 

「よーし、じゃあ位置について」

 

横一線に並び、重心を低く構える。横の彼女からは視界に入れずとも「絶対に勝ってやる」という圧がひしひしと伝わってくる。

 

「スタート!」

 

合図の声と共に、全身の力を込めて駆け出す。

 

(重ッ)

 

予想はしてたが、思う以上にしんどいぞこれ。エネルギーが砂に逃げていく感じがする。

 

「単純なスタミナだったらファクトの方が上っぽい」

 

「まあゴッドの良さはそこじゃないからな」

 

シャドー先輩の声が聞こえた気がした。私の良さ、とはなんだ。もっと具体的に言ってくれないか。

 

まあ良い、問題はそこじゃない。今は前に進むことが先決だ。

しかし相手が速い。砂浜の重バ場にも難なく対応している。さすがチームスハイルと言ったところか。

こちらが必死になって喰らい付いているというのに、知らん顔でスイスイ進んでいく。ちくしょうめが。

 

今の今まで「勝てる」と自分に言い聞かせてきたが、少し嘘がバレてきた。何となく、ほんのちょっぴりだが、負ける気がしている。

努力量だとか才能だとかで敗北の理由をつけることは簡単だ。この勝負だって、負けたらすべてが終わる訳じゃない。

 

じゃあ何で私は負けたくないのだろうか。

 

足を前に出す度、砂が足にくっつく。波の音と自分の息遣いしか聞こえない。

相手との距離が少しずつ、少しずつ離れていく。蟻の開けた穴が堤を決壊させるように、小さな弾みが大きく事態を揺るがしていく。

私は負けるのだろうか。このまま。憎らしい砂浜の地べたを舐めるのだろうか。

 

心にひびが入る音がし始める。自分の舌打ちの音と共に。

 

遡って、前の日

 

「ゴッド。明日のレース、いけそう?」

 

トレーニングを終えて汗を拭いていると、トレーナーは私に言った。

 

「さあ。どうでしょうね」

 

正直なところ、私にも一切合切分かりはしない。分かっていたらハナからレースになど出ない。

 

「そうだ、聞きたかったんですけど」

 

「どうした?」

 

「勝ちたいと、負けたくない、って何が違うんですか?」

 

多くの人は、この感情に違いがないと言うだろう。だが、何かが違うのだ。唐揚げと竜田揚げくらい差がある。

 

「うーん、そうだなぁ」

 

西高トレーナーは少し悩んだ後、口を開いた。

 

「勝ちたい、は相手を基準にしてて、負けたくないは自分を基準にしてる。ってニュアンスかな」

 

よく分かるようで分からない。「自分に勝ちたい」という言葉と同じくらいよく分からない。

 

「まあ衝動なんて時と場によって変わるさ。自分が納得できればそれで良いんじゃないかな?」

 

「そんなものですか」

 

トレーナーはへらへらと笑った。夏の日差しが傾き始める。

 

「・・・ゴッドは「プライド」って何だと思う?」

 

「プライド、ですか」

 

直訳すると「誇り、自尊心」。残念なことに、この言葉はそんな単純なものではない。

 

「何でしょうね。あまり考えないから・・・」

 

私は海を見ながら唸った。分からないのだ。自分にそう言った感情があることさえ曖昧なのだから。

そのまま5分程が経過し、トレーナーがそわそわとし始めた頃、明確な、私なりの答えが出た。

 

「意地、ですかね」

 

トレーナーは私の答えを聞いて、笑った。なぜかは分からないが、大きく口を開けて笑った。

 

「アハハッ、良いなぁ、意地かぁ!」

 

「どうしたんですか突然に気持ちの悪い」

 

笑いをこらえながら、トレーナーは私の背中を叩き、大きな声で言った。

 

「私の先生が同じこと言ってたからさ、思い出しちゃったよ」

 

「知りませんけど、フフッ」

 

釣られて思わず笑顔が漏れる。湿った風が心地いい。

 

「じゃあ明日、プライド(意地)。見せて来いよ」

 

「ええ、言われずとも」

 


 

・・・負けて堪るか。

 

・・・終わって堪るか。

 

「・・・諦めて、堪るかッ‼」

 

血反吐を吐き散らしても、肉が裂け骨が見えようとも、負けていないのならば終わりじゃない。

赤子でも知っている、そうさ、まだ終わっちゃいない。

 

「お、ゴッドがスパートかけ始めた」

 

「結構距離あるな、スタミナが持つと良いけど」

 

全身をフラットに、筋肉と動きを理解しろ。力の流動体は、砂浜にどう伝わる?

浅い踏み込みでは推進できない。深く、強く、地響きを鳴らせ。

 

「流れが変わったな。もしかするともしかするかもしれない」

 

波の音、声援の声、鳥の声、地面の轟き。森羅万象が私の後ろにいる。

 

「抜いたっ、ゴッドが抜いたよっ」

 

「ファクト! ここから行けるよ!」

 

さあ最終直線。体力も技巧も限界だろう?

 

 

ここからはプライド(意地)の勝負だ。

 


 

「かき氷ってこんなにおいしかったっけ」

 

宿の前のベンチに座りながら、カエデと談笑する。しゃくしゃくとブルーハワイの味が染みる。

 

「抹茶のかき氷にすればよかったのに」

 

「別にいいだろブルーハワイだって」

 

二人で笑っていると、同じようにかき氷を抱えて、先程の対戦者が近づいてきた。

 

「ファクトはイチゴ味なのね」

 

「シシは抹茶味か。美味しそうだな」

 

この二人の関係性はどんな感じなのだろうか。仲は良さそうだが。

 

「えーっと。ゴッドドラッガー・・・さん」

 

「良いよ呼び捨てで、同学年だし」

 

私はあなたに前のレースで鼻で笑われたのを覚えているからな、と冗談半分に言おうと思ったが止めておいた。気を悪くしたくない。

 

「・・・ゴッドドラッガー。今回は同着だったが、次は私が勝つ。「青雲賞」で決着を付けよう」

 

ナナカマド賞のトライアル。ジュニア特別『青雲賞』。ジュニア三冠を狙ってくるウマ娘が多く出走するレースだ。

 

「勿論、シシ。お前にも負けないからな」

 

「うん。頑張るよっ」

 

言うだけ言って、彼女は去っていった。私にも何か言わせてほしかった。

 

「カエデ、青雲賞って確かウェルも出走するよね」

 

「言ってたね。順調に勝ってるみたいだし」

 

思う以上に荒れそうだ。私はかき氷を食べ終え、西高トレーナーに声をかけた。

 

「トレーナー。練習メニューをもう少し厳しめに調整できますか?」

 

トレーナーはメロンのかき氷を飲み込み、私に疑問を投げかけた。

 

「何で?」

 

「青雲賞。今のままの私だと勝てそうにないんです」

 

カエデはもちろん、ウェルとも張り合えない。今のままあのレースに出たら、私のプライドはズタズタだろう。

 

「まあいいよ。ただ、自分で「無理だ」って思ったらすぐに言いなさいね」

 

「はいっ!」

 

プライドを守りきるために、多少の無理は承知だ。

 

「それにしてもゴッド。良い顔してるじゃん」

 

「・・・ハハッ、ですね」

 


 

おまけ☆

 

「何ー!? ゴッドなんかするのー!?」

 

「いや、トレーニングの調整を・・・」

 

「そりゃ良い! じゃあ先輩が今日のホラーを決めさせてあげよう!」

 

なんたること。エクソシストとパラノーマル・アクティビティでお腹いっぱいだ。今日も見るのか。

 

「今日はチームスハイルと一緒に見ることになってるんだ」

 

「え、本当ですか!?」

 

あのチームはホラーの耐性がなさそうだというのに、よくもまぁそんなことを。

 

「で、どっちが良い? そんなに怖くない奴と、普通に怖い奴と、えげつなく怖い映画」

 

私が答えを出す前に、トレーナーが答えた。

 

「えげつなく怖い奴で」

 

「じゃあ『コンジアム』に決定だ」

 

—その日、悲鳴を上げる新入生の3人が見れたという—




設定紹介Q&A

Q.ばんえいの重賞について教えてくれ。

A.だいたい同じような感じ。

「BG(ばんえいグレード)」で格付けが行われている。重賞は現在27レース。中央のG1レースの数と変わらないくらいの量。つまりは少ない。
その分、特別競走に世代最強角の馬が来ることもザラにある。大きいレースの数で安易に規模の判断はできないというわけです。
だが勝負服の存在はとても貴重。なんせBG1は年間に7レースしか行われない。しかも出れるのは10頭。それぞれの服に気合を入れて作られるため、出来は中央と何ら変わらないそうで。
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