神を輓きずりし者達よ   作:Y-Romi | 和井 火戸見

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ばんえいウマ娘、まずしっかりストーリー組んだ作品が少ないうえに、ここまでしっかりステップレースとか作ってる作品はそうそうない気がする。
あとこの回ちょっとレース描写上手い。お気に入り。


第十五話 「青雲賞」

暗い空が揺れている。パドックの中から、風で砂埃が舞うのを見る。観客席はいつもより少し多い。

今日は特別競走「青雲賞ジュニア級オープン」。ナナカマド賞のトライアルレース。

 

「・・・ちょっと空気が冷えるね。手袋付けても良いくらいかも」

 

手をさすりながらカエデが言う。さすがの彼女も緊張するようだ。

 

「パドックでちょっと多めに動くかな」

 

「そうだね」

 

体が強張るのも無理はない。今日の結果でジュニア級初の重賞「ナナカマド賞」の出走権がほぼほぼ決まる。入着すれば出られる。今回は8枠10番まで揃っているから、私たちのうち半分が本番には行けない。

 

だが、私たちの呼吸がおぼつかない理由はそれだけじゃない。

 

「・・・ジュニア級の「今のところの」最強が決まるもんな」

 

ウェルがパドックに入ってきた。彼女はゴーグルをつけている。

 

「私たち3人と、あとファクト。他にも粒ぞろいのメンバーだね」

 

そう、私たち3人だけという訳でもない。彼女、エルドラドファクトもいる。

この戦いは「ジュニア級」としての最初の戦いなのだ。これから首を狙い合う同期との最初の戦い。

私はラルバに新調してもらった蹄鉄を確認し、観客席のチームメイトに目配せをした。

 

「ここを勝って、ナナカマド賞も勝てばまず一冠。ヤングチャンピオンシップを勝って、イレネー記念も勝てば三冠」

 

呪文のようにつぶやく。集中するためのルーティンのようになっている。

結局の所「三冠」といっても大分地味なことの繰り返しなのだ。ばんえいは「積み重ね」の戦い。

 

塔の台座は完全になった。ひびの入る余地はない。

さあ、青雲の元、レンガの一つ目に手を掛けよう。

 


 

「さあ帯広競馬場第11R、ジュニア級オープン青雲賞。今、ファンファーレが鳴り響きました」

 

トランペットが鳴り響く。ゲートは狭いが、その分音が少し反響して大きく聞こえる、気がする。過度の集中による錯覚だろうか。

 

「全員ゲートインが終わりました。ジュニア三冠初戦の出走権は誰が手にするのか!」

 

ああ、身がすくむ。ここまで来て震えて堪るか。

 

「さあ、ゲートが開きましたっ!」

 

ガコンッ!

 

いつも通り、私たちはゲートの外に出る。ライトの光が目に入る。

 

「先頭はキャシーネイビー! いつも以上に良い顔をしております!」

 

第一障害までが長い。前に比べ、更にそりが重くなったからだろうか。

 

「そして2番手にジャグラーデイ、その後ろほとんど差が無くゼッケン6番マーシャルガズン」

 

いつも通りだ。だが、ウェルが前方に出ていない。カエデは差しでいつも通りだから良いが、こうも普段と違う戦法でこられると心配になる。不気味だ。

 

「ここまでが先頭集団。中段にはゼッケン3番エルドラドファクト、並んでゴッドドラッガー」

 

海辺で競り合った黄金郷がこれ見よがしと立っている。

横顔は、私を睨みつけたりなんかしない。見ているのは先頭だけ。ゴールの首を刈ろうと、一心に前だけ見ている。

 

「全員第一障害を難なく越えました。今日で一番きれいな並びです」

 

今日の水分量は1.6%。悪くはないが、体力的にはどうなんだろうか。

先頭の黒鹿毛のウマ娘は、すでに直線の半ばに入っている。気を抜いたら置いていかれそうだ。

だが、焦ってはいけない。私は足を砂に沈めた。夜の帯広に私の足音が響き渡る。

 

「ここで先頭は入れ替わりました、後方から上がってきたエルドラドファクト」

 

少しずつだ。微妙な水分量だからこそ慎重に。

多少なりとも体力に懸念があるのなら、落ち着いて止まるしかない。

 

「さあ第二障害前に先頭が付きました。後続も続々と続きます。差はほとんどありません」

 

今の私に先頭を走る彼女のような体力は無い。きっと、ここにいるウマ娘の多くが私の持っていない物を持っている。

だが、仕方が無い。割り切るしかない。私は「私の持っている物」のみで戦う。

 

「さあ横一線、最初に抜け出すのは誰か!」

 

深く、長い時間をかけて息を吐く。

足の残りエネルギーは45%程。勁を全力で意識して、障害を登ったらきっと15%ほど。

 

「こりゃあ、しんどいなァ・・・」

 

時間をかけて登るのは無理だ。きっとここで足を折ったら、間違いなく出遅れる。

単純なスピードでウェルやカエデには勝てない。先頭で駆け出すのは必須条件。

 

「スー・・・フゥゥゥゥゥ・・・」

 

横をチラリと見る。カエデはあと10秒。ウェルとエルドラドファクトはもう準備完了で、様子をうかがってる感じだ。

私は改めて上を見上げる。障害の奥には、夜空と薄い雲がかかっている。

 

さあ、山登りの時間だ。

 

「出たっ、最初に障害を登ったのはゼッケン8番ゴッドドラッガーだっ! 続いてエルドラドファクト、他数人も同時に出た!」

 

地球の裏側の青い雲よっ、私の背中を押してくれっ。

 

「さあゴッドドラッガー、頂上で止まりました。シシカエデは少し厳しいか」

 

カエデにしては少し溜めが少なかった。珍しいことだ。だが、彼女の足ならば絶対に後半巻き返してくる。

私は頂上で足を止めた。握りしめる手が小刻みに震えている。どういう事だろうか。

 

「おおっと!! ここで一気に上がってきたぞウェルミングス!! 先頭と並んだ!!」

 

何か、鋭い矛をこちらに向けられた感触。そりゃあそうだ。彼女(ウェルミングス)が最後まで後方にいるなんて有り得ない。

圧倒的なその自信と、彼女なりの「プライド」を引っ提げて、必死に首を狙ってくる。

役者は出そろい、闘争が始まる。第二障害後の直線に入った。

 

「さあ先頭はウェルミングス、続いてゴッドドラッガー、エルドラドファクト、シシカエデと続いています。後続は厳しいか」

 

少しずつ前との距離が全員詰まってきている。横一線になるのだろうか。

いつぞやの中央で見た「並ばない」とかいう展開にはさせない。520kgの重りがそれを許さない。

 

「さあ4人並んだ!! 4人同時に頭がゴールに入りました!! ここから止まらないで抜け出すことができるか!!」

 

横顔なんて見てる暇はない。息も絶え絶え、気を抜いたら血反吐が出そうなのだ。あと4歩程度だ、そんなもの私がゴールした後に存分に見ればいい。

前に、前に出ろ。足から大地に流れるエネルギー、私を前に進ませろ。勝利じゃない、ただ少しばかり前に出てくれれば良い。一歩一歩を、ただひたすらに積み重ねろ。

 

「ゴール!! 一着は!!」

 

ああ、気持ちが良い、青色の雲が夜空に見える。

 

「ゴッドドラッガー!!!!」

 


 

「お疲れ様。ライブ良かったよ」

 

「あ、カエデ。着替えてきたんだ」

 

長袖の制服の上にパーカーを羽織り、彼女は笑みを浮かべている。

 

「・・・今日は、負けちゃった」

 

「・・・うん」

 

彼女、何か焦っていた。障害前の溜めが後5秒長かったら、今日のライブで踊っていたのは彼女だったろう。

 

「いやぁ、負けたくないって思っちゃったんだ。ゴッドもウェルもファクトも、命を懸けてここに来てるのが分かって、すごいワクワクした。それで、初めて心の底から負けたくないって思ったんだ」

 

彼女の顔は、隠しきれない悔しさと、不思議な満足感が溢れている。

 

「うぉい、何二人でエンディングみたいにしてんだよ」

 

ウェルが走ってきた。息が切れている。

 

「なんで走ってきたの?」

 

私の問いかけを無視し、彼女は大きな声を轟かせた。

 

「・・・ゴッド! 次は負けねぇ!」

 

「・・・!」

 

彼女がこんなにも気持ちを出すのは初めてだ。激情を無理くり抑え、今ここに立っているのだろう。

 

「私も、次も負けないよ」

 

私はゆっくりと答えを出す。

飾り気のない言葉で良い。彼女は私に「答え」を求めてないのだから。

 

「・・・そういえば、エルドラドファクトさんは?」

 

「さっき帰っちゃったよ。今後のトレーニングの準備するとか」

 

彼女もいろいろ思うことがあったのだろう。気が早い事だ。

 

「・・・ゴッド、飯行こうぜ」

 

「あ、良いね。私も行く」

 

青い雲の行方は、ナナカマドの方角へ。私たちはそれの後ろをついていく。

 

 

「・・・今日勝ったんだから、ゴッドの奢りな」

 

「勝手に決めないでよ」

 

 

無限に思えるようなその時間を、私たちは笑いながら進むのだ。




設定紹介Q&A

Q.オープン?って何?

A.ざっくり言うと、賞金獲得額でつけられる格付けのこと。

A-1とあった場合、Aの部分が格付け、数字の部分は同じ格の中のランクだと思ってくれれば、大体OK。そして、それの中で一番高い水準が「オープン馬」。その馬が出れるレースなので「青雲賞オープン」の名がついてる。
・・・つまりあの同期の4人は全員がっつり勝ってるというわけです、ウェルさんとか別に全然弱くないじゃん、と。
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