神を輓きずりし者達よ   作:Y-Romi | 和井 火戸見

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さーて、第一章で最も後悔の残る場所。出来は悪くないが他がよくない。
あと1話当たりの長さが思った以上に少なかったので、まとめました。


第十六話&第十七話 「先人談義 その一、その二」

「先輩方の次の目標レースは何です?」

 

コースに向かう途中、ラルバがスポーツドリンクを渡しながら言った。

普段より甘めに作られたそれを貰いながら、ココロさんが口を開く。

 

「私はばんえい菊花賞かなー、グランプリの投票はかすりもしなかったし、いい加減大きい舞台出たいよ」

 

「グランプリの投票はシニアの中でも更にベテランが有利だもんな」

 

バレットさんはスポーツドリンクを喉に流し込んで、ラルバにそれを返しながら言う。

 

「私は北見記念。前半の重賞はあんまし出れなかったから、これからの重賞はとりあえずたくさん出る」

 

「先輩ばんえいグランプリ3着でしたもんね」

 

実はこの人、人気投票で5番手なのだ。ひょうひょうとしているが、確かな実力とその性格に魅せられたファンがいる。

 

「いや、悔しいってのもあるけどな。私にもいろいろあんだよ」

 

「・・・?」

 

私は首をかしげる。普段見せないような表情に不思議な感覚を覚える。

 

「というかゴッド、お前ナナカマド賞で頭がいっぱいかもしれないけどな。ナナカマド賞超えた後も忘れんなよ」

 

「後?」

 

「ジュニア級の二冠目。『甲子園』だ」

 

[chapter:ばんえい甲子園]

「ああ、ヤングチャンピオンシップの事だよ」

 

「なんで甲子園なんですか?」

 

煙臭いトレーナー室で、私はたいやきをかじりながら言った。

 

「地域ごとにブロックで分けて、それぞれの上位者が出れるレースだから」

 

「・・・なるほど、確かに甲子園ですね」

 

野球はほとんど興味がないが、甲子園のシステムくらいは把握している。

 

「つまり、今までよりもハイレベルな戦いという訳だ。ナナカマドもやってないうちにその後の話なんてしたくないけどな」

 

「それもそうですけども」

 

私はたい焼きを牛乳で流し込み、タオルを肩にかけた。

 

「休憩終わったんで、練習行ってきます」

 

「ん、行ってらっさい」

 

トレーナー室を後にすると、冷たい風が頬に当たった。

 

「寒そうだな、ゴッド」

 

「バレット先輩は何で半袖なんですか」

 

高い背だろうと、寒さは防げないだろうに。

 

「こんなに寒いとなんか温かいものでも食べたいですね」

 

「・・・あったけぇもの」

 

バレット先輩は少し悩んだ後、近くにいたラルバに声を掛けた。

 

「ラルっち、今晩予定ある?」

 

「いや、ないですよ」

 

ラルバはドリンクを並べ終え、立ち上がりながら言った。この娘は最近背が伸びている気がする。

 

「おし。後輩組、今晩の外出許可取ってこい」

 

「ええ、夜間外出って手続きめんどくさいんですけど・・・」

 

手順が多いのだ。書類も2枚くらい書く必要があるし、何より寮長の部屋に行くのが緊張する。

 

「どうせ明日日曜だし良いじゃねーか。帯広駅で飯おごっちゃる」

 

「え、先輩のおごりですか」

 

バレット先輩は大きい胸板に手を当てながら言った。

 

「おうよ。最近レースの調子が良いかんな。ラーメン一杯くらいなら出せる」

 

「まあ、奢りならいいですよ」

 

ラルバがしぶしぶ言った。やれやれという顔をしている。

 

「・・・で、どこのラーメン屋ですか?」

 

「あー、行けば分かるよ。じゃあ、7時に帯広駅前に集合!」

 


 

「・・・先輩、なんですかその恰好」

 

「え? 洒落てるだろ?」

 

先輩のセーターには「I ♡ 帯広」とでかでかと書いてある。

 

「たぶんですけど、それダサいですよ」

 

「うっそぉ!?」

 

私等が会話していると、ラルバが遅れてやってきた。

 

「待たせました。すいません」

 

「・・・オシャレやなぁ」

 

鮮やかだが優しい色の緑のワンピ、羽織られる綺麗な白のカーディガン。

 

「ラーメン食べるにはあまりよろしくない格好だけどな」

 

それもそうだ。だが、ラルバは平然としている。

 

「で、どこのラーメン屋さんですか?」

 

「ああ、あともうちょっとで来ると思うんだけど・・・」

 

「来る?」

 

来るとはどういうことだ。まさか移動式だとでもいうのか。

 

「あ、来た」

 

車輪がガラガラいう音がする。そのまさかだった。

 

「屋台のラーメン屋、しかも手動ですか」

 

ラルバの問いかけをよそに、バレットさんは店主さんに声をかける。

 

「おいっす。姐御、元気?」

 

「おお! バレット! 久しぶりだな!」

 

軽快なその声に誘われるがままに、私たちも中に入る。

 

「いらっしゃい。後輩さんかな?」

 

軽い会釈と共に自己紹介を済ませる。その背の小さめなウマ娘の方は、笑いながら言った。

 

「アタシはトレミーカペラ。まあ何とでも呼んでくれ」

 

何と言うか、初対面なのに頼りになる感じの人だ。信用できる感じがにじみ出ている。

 

「姐御って感じがするだろ?」

 

「確かに。でもそれだとヤクザ用語ですよ」

 

姐御、というには威厳が無い感じがするが。

私が胸の内で笑っていると、ラルバが言う。

 

「屋台のラーメン屋ですか?」

 

「屋台っていうか。まあそうだな。移動式ラーメン屋だ。一時駐車が可能なところでちょっと止まってを繰り返してる」

 

「なるほど・・・」

 

噂ではかねがね聞いていたが、実際にあるとは。

 

「んで、ご注文は?」

 

「チャーシュー麺固め薄め油少なめ」

 

「とんこつしょうゆ、ほうれん草と味玉トッピングで」

 

「味噌ラーメンネギと海苔多めで」

 

「はいよっ」

 

むかしの話

 

「あ、そうだ姐御。姐御がばんえい甲子園出た時の話をこいつらに聞かせてやってくれよ」

 

バレットさんは厚切りのチャーシューを噛みちぎりながら言う。

 

「ええ、そんな昔の話を」

 

「・・・出たんですか?」

 

「おお、出たよ。3着だったけど」

 

確かに、肩幅とオーラは元ばんえいウマ娘であることを雄弁に語っている。

 

「なんならばんえい記念の優勝ウマ娘だからな」

 

「!?」

 

これまた予想外。ウマ娘は見かけによらないものだと本当に思う。

 

「・・・想い出って何かあります?」

 

「現役の事なんて全然覚えてないけど。唯一あるとするなら、それこそ甲子園かな。いやー、楽しかった」

 

トレミーさんは笑いながら言った。その笑顔は一点の曇りもない。

 

「猛者中の猛者が「北海道一」を決めるために全力を尽くす。あのレースは本当に盛り上がった」

 

私はほうれん草を口に入れ、無言で話を聞く。

 

「・・・なあ少女。アンタ等はこっからいろいろあるさ。本当に、いろいろさ」

 

「?」

 

「そういう時、別に諦めても良い。だけど、再挑戦だけは忘れないようにな。これは人生の先輩としての言葉だ」

 

私等はスープを飲み干し、バレットさんの会計を見ながらさっきの言葉の真意を考える。

辛い事、悲しい事、嬉しい事。様々あるのだろうか。

そんな時、諦めても良いと言ってもらえると楽になる気がする。

再挑戦、もう一度障害に足を掛ける気概。

 

「・・・トレミーさん、また来ます。ごちそうさまでしたー」

 

「はいよー、また来てな」

 

私はのれんの外に出る。再び帯広駅の前に出る。

 

「・・・じゃあ、トレセンまで競争」

 

「は!?」

 

「一番遅かったやつがたい焼き奢りっ」

 

バレットさんが駆けだすのを見て、私たちも走り出す。

 

「ラーメン食べた後だとっ、お腹痛くなるんですけどっ」

 

「やかましいよっ、こっちだって後悔してるっ、ああしんどい」

 

痛む脇腹を抑えながら、私達は大きく笑った。

 

 

 


短かったので前編と後編まとめてお送りします。


 

 

第十七話 「先人談義 その二」

 

「あの、ナナカマド賞近いんですけど、こんな遊んでいいんですか?」

 

「何を、遊びに来てる訳じゃないぞ。レース見学だよ」

 

今日はBG2、岩見沢記念。クラシック級以上のウマ娘が出れるレースだが、経験がものを言うばんえいではシニア級のベテランが出ることが多い。

 

「・・・バレットさんは出なかったんですか?」

 

「おお、北見記念の方にしたからな。このレースも悪くないんだが」

 

バレット先輩は新聞の出走表を見つめながら串に刺さるザンギをかじる。

 

「荒れるようには見えねぇな。たぶん人気通りに進むんじゃねぇか?」

 

「先輩賭けてるんですか?」

 

私が冗談半分に言うと、先輩は新聞の間から2枚バ券を出した。

 

「単勝、1番と4番」

 

「!?」

 

「そんな驚くかよ」

 

私はザンギの一本を貰いながら話を聞く。

 

「未成年の賭博は法律で禁止されてますよ」

 

「私別に未成年じゃないもの、今年で21」

 

「!?」

 

私は思わず声を上げる、衝撃も衝撃だ。

 

「シニア級4年目。現役7年目。もう学業は収めてるから引退したら卒業できる」

 

「マジですか、酒も飲めるんですか?」

 

「規則違反だから」

 

私は笑いながらザンギを飲み込み、レースのファンファーレを聞く。

 

「岩見沢記念。帯広でやるのもなんか変な感じですね」

 

「仕方ない、もう岩見沢はやってないから」

 

しかし場所が変わったとしても、重要なレースであることに間違いはない。BG2で四市記念競走の一つなのだ。

血は滾るし、未だにこれら四つのレースを全て制そうと意気込んでいるウマ娘は多い。

 

「さあ今ゲートが開きました!」

 

そりの音が響きながら進んでいく。やはり大迫力だ。

 

「・・・そういえば、なんでばんえいはベテランの方が有利なんですか? 体力の差?」

 

「ああ、あー、それもあるが」

 

レースはどんどんと進み、第二障害前の直線に入る。砂埃が立つ。

 

「まず、そりの高重量に対する慣れが違う。どの程度で進むかが分かるというのは結構大きい」

 

「なるほど・・・」

 

今日の水分量は少なめ。しんどいはずだが、流石にシニア級の猛者たち。よどみないレース展開だ。

 

「あとは技術。レース中の体力配分、勁、姿勢。ありとあらゆる物を経験で培えるから、ばんえいのシニア級は強い。お、やっぱり4番行った」

 

障害を鋭い眼光で見つめ、足を前方向に「上昇」させる。先に出たのは黒鹿毛のゼッケン4番。すさまじい気迫だ。

 

「先輩、いくら賭けたんですか!」

 

「1番と4番にそれぞれ1000円ずつ! 倍率は2.4倍! 私のおやつ代が消えそうだ!」

 

盛り上がってきた。重賞だからというより、シンプルに熱いレース。

4番は止まらない、そのまま最終直線、さあ行くか。

 

「おおっとここで後方から8番! 一気に上がってきましたゼッケン8番!」

 

「!?」

 

何と、4番の娘は息切れで速度が落ちている、後方から一気に障害を上がってきた芦毛の8番、速い。

 

「おいおい嘘だろ、まて、待って、あ、ちょっと」

 

「ヤバいです、でも4番も残り少しですよ!」

 

私は新聞を見る。芦毛の8番はシニア級6年目。この中でも最も経験値が多い、これは、

 

「・・・まずいかも」

 

ザンギの串を口にくわえながらバレットさんは言う。確かに、8番の勢いは強まるばかり、どんどん背後から迫ってくる。

 

「ひょっとしないでくれよ、まだ終わってないんだ」

 

「今頭がゴールに入りました、あと少しです」

 

魂が揺れ動く。気迫が燃え出す。

先頭駆ける彼女の目に、再び火が付いた。

 

「おお! 行った!」

 

「おっしゃぁぁ!! 行け、突っ込め!!」

 

周りの声援に押されながら、一着が決まった。

 

「おしっ、2400円取った!」

 

「プラスマイナスに換算すると400円ですけどね」

 

「うるさいな、ザンギ代取るぞ」

 


 

「・・・最終直線、あれって何だったんですか?」

 

「あれって?」

 

私はウイニングライブを見終え、イレネー像の前でバレットさんに聞く。

 

「さっきまでエネルギー切れ寸前だったのに、急に復活したやつです。たまにレースで見る光景ですけど」

 

完全に、底の底まで使い切ったはずのエネルギー。それが再び稼働する。

不思議な現象だ。ウマ娘にもそういう「限界の上」があるのだろうか。

 

「ああ、あれな。理屈は分かんねぇけど、長くレースをやるとあるんだよ。自分の持つ体力の限界の更に上が見えるやつ」

 

バレットさんはイレネー様の足を見上げながら続ける。

 

「だが、あれは神だとか奇跡の力じゃないと私は思ってる。すり減らしたウマ娘の体の「更なる果て」だ」

 

私は首をひねる。言葉で理解できるほど簡単じゃないようだ。

 

「・・・じゃあ、本人に聞けばいいんじゃないか?」

 

「え?」

 

「上限」

 

「・・・で、何しに来たの?」

 

「いや、今日のレースの感想を言いに」

 

どうやらバレットさんとこの方は知り合いらしい。気さくに話している。

 

「いやぁ、儲けさせてもらったよ。あとでホットしるこ奢ってやるよ」

 

「アンタ本当に小豆好きね、久しぶりに会うんだからもっと他に言うことあるでしょう?」

 

私が先輩の後ろに背を丸めて隠れていると、その方はこちらに目を向ける。

 

「その娘は? 後輩?」

 

長い脚でこっちに近づいてくる。私は背筋を一生懸命伸ばし、言葉を絞り出そうとする。

 

「ああ、えっと、おつかれさまでした?」

 

「何で疑問形なの? いや、まあありがと」

 

バレットさんが自販機に向かって走り出してしまったため、私は一人で話さなければいけなくなった。

必死に慣れない初対面の人との会話を試みる。

 

「あの、最終直線の最後の事で話が聞きたいんですけど」

 

「うん」

 

「最後体力が切れかけてましたよね。私ならあそこで止まっちゃうんですけど、今日のレースでもう一回持ち直したと思うんです」

 

その方は無言で私の話を聞いている。その目はレース中となんら変わりなく冷静で、鮮やかだ。

 

「あれって何なんですかね・・・?」

 

私が遠慮気味に聞いたその言葉に対して、その人は少し考えてから口を開いた。

 

「・・・例えば、ここから札幌まで走ったとするじゃんか」

 

「・・・?」

 

「例えばの話だから。何なら別に東京でもいいよ」

 

私はおずおずと頷く。ちょっとよく分からないのが本音である。

 

「そして、疲れてもうヘトヘト、一歩も歩けない、となる。でも、そこに急にライオンが襲ってくる。君はどうする?」

 

「・・・走って逃げます」

 

私は首をかしげながら答える、この質問に何の意味があるのか分からない。

 

「そう。そうだね。君はもう限界であるはずなのに、走って逃げることができる。これは「恐怖」で眠る体力を引き出したからなんだ」

 

その方はニヤリと笑みを浮かべ、張った声で続けた。

 

「つまり、私たちの体には「上限の更にの上」がある。それは何かスイッチが入ったり、必死にならないと絶対にいけない領域で、そこが存在することを知らないと間違いなくたどり着けない」

 

分かってきた。「火事場のバ鹿力」というやつだ。緊急状態に陥った時に湧き出す新たな力。

私がメモ帳に書き込んでいると、ホットしるこを抱えたバレットさんが帰ってくる。

 

「おお、聞けたみたいだなゴッド」

 

「あ、はい。先輩より分かりやすいですよ」

 

私の返答に、二人は声を出して笑う。

 

「ハハ、学生時代のアンタによく似てるよ、良い後輩を手に入れたねストーム」

 

「楽しそうだな、それは誉め言葉として受け取っておいて良いか?」

 

私たちは缶のお汁粉を一口飲んで、空を見上げながら話す。

 

「・・・ジュニア級は全員が粗削り。言ってしまうと「素質で戦う」世界なんだ」

 

「ああ、それはある。急にシニア上がってから強くなるやつがいるのもそのせいだよね」

 

素質、と言われて真っ先に思いつくのはやっぱりシシカエデ。エルドラドファクトさんも相当才能に恵まれてる気がする。

 

「・・・だけど、技術ってのはあればあるだけ良い。ジュニア級だろうと技量でなぎ倒す戦いはできる」

 

バレットさんは私の頭をなでながら言った。

 

「ナナカマド賞、見てるからな」

 

「・・・はい!」

 

初の重賞、不安は尽きない。

だが、やることは理解している。

私は「私」を引き出すのみだ。

 

 




設定紹介Q&A

Q.トレミー・・・カペラ?

A.まあこのキャラの是非は一回置いておこう。

ちなみにカペラは「御者」という意味です。屋台を引く彼女はなるほど「カペラ」


Q.なんで馬券買ってるんだよ

A.バレットさんは成人だぞ。いいに決まってるだろ。

彼女は高等部デビューなので買えるんですよねー。
帯広トレセンは「現役ならば寮で生活していいが学業は収め終わっているので、引退した場合は寮を出て進学するかその他の道を歩め」というシステムなので、バレットさんは「校則違反」ではなく「規則違反」という説明をしたわけです。喫煙と飲酒はなしで、バ券を買うのは良いという寮の規則はちょっと分かりませんが。
ちなみに名簿上は寮に籍を置いた上で大学に進学したり、資格を取ったり、専門学校行ったりするウマ娘もいるにはいるらしいです(勿論寮から通える範囲ですが)。そういうウマ娘は学業とレースがどっちつかずにならないようにいろいろ頑張っているんだとか。でもバレットさんは遊び人気質で実力者なので、レースの賞金で生活してます。二十歳超えても衣食住を保証してくれる寮は偉大ですね。
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