神を輓きずりし者達よ   作:Y-Romi | 和井 火戸見

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ここが節目です。この後受験戦争を乗り切り、以来投稿頻度が落ちます。モチベの低下が主な原因。今から持ち直せるでしょうか。
・・・感想とか評価とかくれると、ありがたいかもしれない。


第二十話 「秋のばんえい感謝祭」

秋の終わり。冬の始まり。帯広トレセンからのお知らせです。

 


 

北海道の冬は足が早い。10月の下旬になると、もう冬の気温になる。ドアを開けたら冷たい風が吹いてくるのが目安だ。

そして、冬の初めが来ると、とあるイベントが来る。

 

秋のばんえい感謝祭

 

「おはよう、ウェル」

 

「ああ、おはよう」

 

寒い朝が来る。札幌の雪まつりが有名だが、気温だけで言えば帯広の方が低い。刺すような冷え込みを耐え忍びながら、私は大きくあくびをする。

 

「楽しみだな、学祭」

 

そう。今日は帯広トレセンの学祭。その名も「ばんえい感謝祭」。中央に負けず劣らず様々な催しが行われるこの学祭を、人一倍、いや数倍は楽しみに待っているウマ娘がここに一人。

 

「いやぁ、この日をどんなに待ったことか」

 

「2週間くらい前から言ってたもんね」

 

彼女の尻尾はバタバタと音を立てている。起こる風が手に当たり、冷たい。

 

「で、どこから回る? 屋台いろいろあるし、広場で企画もあるっぽいけど」

 

「ああ、私ルート考えてきたよ」

 

ウェルはスマホを取り出し、LANEのメモを見せてくる。

 

「細かいな」

 

「いやぁ、一人でやってたら盛り上がってさ。寝る前に書いてたんだけど」

 

正直なところ、彼女がこんなにも祭りに全力だとは思わなかった。もっとクールな感じで楽しむのかと思ったのだが。

 

「あれ? カエデも誘うって言ってなかったっけ?」

 

「ああ、カエデは先客がいたよ。エルドラドファクトさんに誘われてたんだってさ」

 

「ああ、そう」

 

少し残念に思いながらも、続々と開店の準備を始める屋台を眺める。あと5分ほどで開場だ。

焼きそばのソースの臭いを吸い込みながら、私は伸びをする。

 

「じゃあ、今日くらいはめいっぱい楽しませてもらいますかね」

 

「うん、私も」

 

ウェルの返事のすぐ後、空に向かって空砲が鳴る。白い煙が弾け、スピーカーから大きい声が響き渡る。

 

 

「ばんえい感謝祭! 開幕です!」

 


 

私たちが高等部校舎内の展示を見終わり屋台の通りに出ると、見慣れた顔が目に入る。

 

「先輩、何してるんですか?」

 

「見たら分かんだろ、おやき売ってるんだよ」

 

先輩はハチマキを巻いて、ひたすらおやきを焼いている。既製品を売るのではなく、生地から作るのか。

 

「お? その後ろはご友人かい?」

 

先輩はあんこを生地に投入しながら言う。

 

「ああ、ウェルミングスです。初めまして、先輩」

 

「お、エゾさんの言ってた期待の新星」

 

「え? 会長と仲良いんですか?」

 

先輩は既に焼きあがっているおやきを慣れた手つきでひっくり返し、返事も返す。

 

「まあ、知り合いくらいの仲だな。たまに話すくらい。ん、4個で480円」

 

先輩はおやきを紙袋にてきぱきと入れて、小銭を受け渡す。

 

(くだん)の会長は、中庭にいるよ。行って挨拶してきな」

 

先輩は私におやきの袋を渡しながら言った。私は会釈を返して袋を開ける。

 

「あれ? 一個多い?」

 

「会長に渡しといてくれ、差し入れだ」

 

ウェルの一瞬の笑いを耳に挟みながら、私達は中庭に足を進めた。

 


 

「会長?」

 

「ああ、ウェルミングス。学祭、楽しんでるかい?」

 

「いや、楽しんでるんですけど」

 

私達は驚きを隠しきれない。2つ目のおやきを飲み込み、やっとのことでウェルが声を出す。

 

「なんで会長が売り子なんですかね?」

 

エゾオウ会長は蹄鉄のおみやげをせっせと売りさばいている。

 

「毎年こうだからね。トラブルとかは別の方々が処理してくれるし、私は暇なんだよ。ただ待つのも性に合わないし・・・」

 

働くのが好きというのも困りものだ、祭りの時くらいはのんびりすればいいのに。

 

「あ、後ろの君はゴッドドラッガー君。重賞制覇おめでとう」

 

「あ、ありがとうございます」

 

どうやら私のことを知っているらしい。嬉しい限りだが、少々こそばゆい感じがする。

私が慣れないような笑みを浮かべていると、会長は大きく伸びをして言った。

 

「いやぁ、広場で漫才が始まっちゃったせいで、お客さんが全く来ないんだよねぇ」

 

ウェルは苦笑いで袋からおやきを差し出す。

 

「これ、ストームバレット先輩から、差し入れです」

 

「あ、バレットちゃんからか。ありがとう」

 

会長はおやきを咥えながら重そうな蹄鉄をテーブルの上に置く。ゴトンと鈍い音が鳴る。

 

はっへふ?(かってく?)

 

「いや、私たち自分のあるので・・・」

 

ほへほほうは(それもそうか)

 

会長はおやきを飲み込み、思い出したかのように言った。

 

「そういえば、今コースでレースやってるらしいね、ちょっと行ってみようか」

 

「売り子は?」

 

「一時休店」

 

会長ははちまきを外し、店の外に出た。

 

「そんな適当でいいんですか?」

 

「良いの良いの、祭りなのに規律守ってたら面白くないでしょ」

 

「会長が言っていい言葉じゃないでしょうそれは」

 

2人の馴れ合いを後ろから見ながら、ゆっくりとコースへ足を進める。

会場に近づくにつれて、段々と歓声が聞こえてくる。思った以上に盛り上がっているようだ。

 

「・・・お、やってるやってる!」

 

激熱! 人間ばんバ!

 

「さぁ盛り上がってまいりました! ばんえいウマ娘VSトレーナーと一般人チーム!」

 

話には聞いていたが、すごい光景だ。500kgのそりを引くウマ娘に対するのは、8人で300㎏のそりをひく人間チーム。

 

「今現在の勝敗は人間チームが4勝、ウマ娘チームは3勝となり、人間チームが勝ち越しとなっています!」

 

実況の声が響く。ちょうどレースが終わったようだ。

 

「えー、負けてんの?」

 

会長が受付で働く寮長に話しかける。

 

「負けてるんですよ、今年はトレーナーの皆さんが気合入ってて」

 

西高トレーナーも出てるのだろうか、いや、あの人に限ってそれは無いか。

 

「景品は「特別人参ケーキ15kg」です! さあどちらの手に渡るのか! では第8戦! どのウマ娘が来るのかー!!」

 

エゾオウ会長は寮長と軽く言葉を交わし、バックヤードに消えていった。

 

「え、何、会長出るの?」

 

「出るんだろうね、あの人の事だから・・・」

 

堅実で質実剛健な人かのように見えて、それなりにノリが良いようだ。皆に慕われるリーダーになるには多少なりともユーモアが必要なのだろうか。そんなことを考えていると、実況から驚きの声が響く。

 

「さあ! 第8戦の相手は、この方です!!」

 

特設された控室から、ジャージに着替えた会長が出てくる。早い着替えだ。

それにしても少々気が早い気がする。計10戦やるのだから最後の隠し玉的な登場でも良かったのでは?

 

「対する人間チームの佐川さん、調子と意気込みは?」

 

声を荒げているのは別のチームのトレーナーの方。いかにも体育会系という見た目だ。

 

「最強だろうと何だろうと、ぶったおしてやりますよー!!」

 

それえを聞いたウェルが小さく呟く。

 

「いくらなんでも無理があるんじゃ?」

 

「まあ会長が舐めプしすぎるって可能性もあるし」

 

「それはない、断言する」

 

ウェルは若干の笑いを含めながら言った。

 

「あの人は、絶対に手を抜けないんだ、兎どころか毛虫にも全力になっちゃうんだよ」

 

「それは、病的だね・・・」

 

その徹底した感情があったからこそあの座に座っているのだろうが、それはそれで考え物の気もする。

 

「さあ、第8回戦、スタートしました!」

 


 

「さあ先頭はエゾオウ! 人間チームは早くも悲鳴を上げている!」

 

なんだあれ、速すぎだろ。

 

「それにしても速い速い! エゾオウ速い! すでに直線の真ん中に来ている!」

 

流石というか、何というか。映像で見るのとリアルで見るのとでは訳が違う。言葉が出ない。それは私だけではないようで、皆唖然としている。

 

「本当、しびれる強さだ」

 

ウェルがぼそりという。その顔は欲しいおもちゃを見つけた子供のように純粋無垢で、らしくないが微笑ましい。

 

「しかし人間チームも負けていないぞ! 今追いつきかけている!」

 

いや、厳しい。ぬくぬくと刻みを入れて進んでいる会長とは違い、人間チームは常時全力だ。真ん中にある軽い障害だけで潰れる。

 

「会長、楽しそうだな」

 

「びっくりするぐらい余裕そうだね」

 

あの人に追いつきたくてここにいる者だって多くいるだろう。私の横にいる彼女が筆頭かもしれない。

しかし、私らとあの人とにはとてつもなく大きい壁があるような気がしてならなかった。

 

「さあエゾオウ、障害に足をかけて登っていく! ぐんぐんと差がついていくぞ!」

 

障害を登るその人を横目に、私はチュロスを食べ終わり、紙をクシャクシャに丸めてポッケに入れた。

 

「人間チーム、息切れか! 障害を登れない!」

 

そりゃあそうだ。機械のエンジンじゃないんだ、全力なんて永遠には続かない。いい具合にサボるという技術は、私達が誰よりも知っている。

 

「さあエゾオウ、障害を超えてゴールへと向かう! 着実な足取りだ!」

 

最終直線。会長の顔は子供のように笑っている。本当に楽しそうなレースだ、見てるだけで血がウズウズした。

 

「ゴールイン!! エゾオウ!! 圧倒的だ!!」

 

付近から惜しみない拍手が沸き立つ。流石最強のウマ娘、いろいろなことが勉強になった。私が後でメモする内容を頭の中で繰り返していると、ウェルが静かに語りだす。

 

「楽しんでレースをする、か」

 

「急にどうしたの?」

 

抽象的な意味も入るそのセリフに違和感を感じながら聞き返す。

 

「いや、いいレースってなんだろうな、って考えてて」

 

「うん」

 

「それは結局「楽しいレース」に行き着くのかな、って」

 

そう言われて、私は改めて考える。

ウェルは強いウマ娘である。それは肉体的な面でも精神的な面でも言える。だけど、いまいちレースを楽しそうにやってない。いつも必死そうだ。そう考えると、楽しむ心は確かに必要なのかもしれない。

 

「でも」

 

「ん?」

 

唐突に話を切断される。特別大きい訳ではない、それでも相当力強い声で。

 

「ナナカマド賞は、楽しかった、いいレースだった。負けちゃったどね」

 

彼女の瞳が怪しく光る。私を直視する。

 

「次のレースも、楽しいと良いよね。勿論、私が勝った上でだけど」

 

私は深く息を吸う。

この言葉に、どんな意味が込められてるかとか、どういう意図で言ったのか、とか。いろいろ考えることはあった。でも、私が言えることは結局の所一つだけ。

 

「私は、負けないよ。次も、その次も」

 


 

「あ、おーい! ゴッドさーん!!」

 

遠くから知っている声が聞こえて、ゆっくりと振り向く。

 

「あ、ラルバー!」

 

遠くの方の屋台の近くでラルバが手を降っている。

私達がそこに向かうと、そこには西高トレーナーと早川トレーナー、バレットさんがいた。

 

「あ、ゴッド。どうだった? 学祭は」

 

「楽しかったですよ、すっごく」

 

ウェルがブンブンと首を振る。本当に心から満喫した。

 

「おーい、おやき売れ残ったからやるよ」

 

バレットさんがそう言いながらおやきの入った袋を投げてくる。私はそれをキャッチして、中から一つを取り出して口に入れる。

 

「もう来年が待ち遠しい」

 

ウェルがそう言うので私たちはツッコミを入れる。

 

「「「気が早い」」」

 

「ハハ、確かに」

 

「・・・でも、気持ちはわかる」

 

祭りの終わり、普段の日常の始まり。それは、それほど嫌なものでもなかった。

 


 

一方そのころ

 

「シシ、そんなに気になるなら話しかければ・・・?」

 

「いや、前のナナカマド賞のあとから話しかけづらくて」

 

「良くない? 別に」

 

「良くないんだよぉ・・・」




設定紹介Q&A

Q.帯広トレセンってどこにあるんだよ

A.府中のトレセンもごまかしてるし、ねぇ?

位置的には帯広市の緑が丘公園とかかなー、と思って書いてる。しかしまぁ。そこら辺はノリで読んでください。ちなみに学祭のモデルは「銀の匙」から取ってます。
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