神を輓きずりし者達よ   作:Y-Romi | 和井 火戸見

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比較的昔に書いた作品だからちょっと拙い部分が多い2話。設定の脆弱さが出ている。


第二話 「能力試験」

同室

 

「ラルバ、筋力トレーニングって何したらいいの?」

 

「筋力トレーニングですか。そうですねぇ」

 

同室のサポート科の子。名前はグランドラルバ。膨大な知識とすさまじいレース愛を持つ子だ。

 

「基本はスクワットとランジですかね。いろいろバリエーションはありますけど、最初は基本的なやつでいいと思います。えーっと、確かこっちのほうに・・・」

 

ランジとスクワットという言葉をメモ帳に書き込み、ラルバが本棚から取り出した本をパラパラとめくる。

 

「あとは、そりの重さを減らして長時間引きずるのもいいと思います。スタミナ付きますよ」

 

やはりこの子はレースへの造詣が深い。トレーナーのようだ。

 

「初めて会った時も思ったけど、ラルバってレースめっちゃ詳しいよね」

 

「えへへ、そうですか?」

 

初めて会った時、といってもつい先日の事だが・・・。

 


 

4日前

「寮、初めてだな」

 

地方レースといえど、トレセンはトレセン。なかなかに大きい寮の扉を開けると、背の高い寮長が名簿を確認し、私の部屋を教えてくれた。

 

「仲良くするんだよ、3年間一緒の部屋だからね」

 

そんなことを言われて、内心浮き立ちながら言われた部屋の前に立つ。

すでに同室の子は中に入っているようで、扉の奥から物音がした。

部屋に入る前に静かに息を吐く。柄にもなく緊張しているらしい。

 

「失礼します・・・」

 

「あ、どうぞー」

 

その子はベッドに腰掛けながら、スマホをいじっていた。佇まいは物腰やわらかだが、大柄な子だ。ジャージに書かれている名は「グランドラルバ」

若干気まずい雰囲気のまま、二人とも軽い自己紹介を終えたところで私は自分のベッドの方に視線を向ける。

 

「その段ボールがあなたのですね、さっき寮長が持ってきてくれましたよ」

 

「あ、これか」

 

真っ白なシーツの横に置かれていた段ボールには、トレセンに出発する前に自分で詰めた日用品が所狭しと入っていた。きっと親が勝手に追加した分もあるのだろう、あきらかに量が多い。あいかわらずのお節介だ。

段ボールを開け、中身を出しているとラルバさんに聞かれた。

 

「レース科の方ですか?」

 

「え? ああうん。そうだよ」

 

「言ってなかったですっけ、私サポート科です」

 

サポート科。だから本棚に入っている本のラインナップがこんな感じなのか。

 

「いろいろお力になりますよ、何か気になる事あったら言ってくださいね」

 

ラルバさんは笑顔で言った。天使のようなその顔を見て、私も思わず笑う。

 

「ハハッ、ありがとうございます。えーっと、ラルバさん」

 

私がクスクスと笑いながらそう言うのを聞いて、ラルバさんはクッキーを口に入れながら言った。

 

「ラルバで大丈夫ですよ。同室なんですから」

 

今更ながら私はこの子と3年間を共にすることを理解し、うれしく思いながら言った。

 

「あ、そうか。じゃあ3年間よろしくね、ラルバ」

 

「はいっ、よろしくお願いします」

 


そんなことを思い出していると、彼女はおもむろに言った。

 

「私、子供の頃は走るつもりでトレセンに行こうとしてたんですよね」

 

「え? そうなの?」

 

私は本をめくる手を止め、聞き返す。

 

「レースがすっごい好きで、私も帯広記念でるぞって思ってたんですけど骨折しちゃってトレセン入れなかったんですよね」

 

彼女は笑顔を保っているが、そうとう辛かったんだろう。目が笑っていない。

 

「ああ、もちろん今は治ってますよ。ただ、ばんえいレースのハードなトレーニングに耐えられるほど頑丈じゃないんですよね、お医者さんに止められちゃって」

 

彼女は頭をかきながら、苦笑いで言った。

 

「・・・それでも、あきらめられなかったんですよね。レースに出る夢はついえたのに、レースのこと以外を考えることができなかったんです。心の隅々までレースに毒されてたんですよ」

 

彼女は本棚の棚の下からガーナのチョコレートを出し、アルミをはがしながら続ける。

 

「私は、1着をとれません。でも、1着を取る手助けはできます。それは、レースに勝つのと同じくらい大事で、素晴らしいことだって思うんです」

 

チョコレートを食べながら彼女は静かにつぶやいた。そしてすぐにいつもの笑顔に戻り、こっちを見ながら言った。

 

「そういえばこの前に聞きそびれたんですけど、なんでトレセン入ったんでしたっけ?」

 

「え? 私?」

 

そう言われて、私は思わず窓の外を見た。空はいつもと同じように輝いている。

 


 

「・・・子供の頃、レースを見たんだよね。ばんえいの」

 

「レース?」

 

チョコレートを飲み込み、彼女は不思議そうに聞く。

 

「うん。親に連れてこられた帯広レース場でちょうど大きいレースがあってさ。全然ばんえいの事なんて知らないクソガキだったから、最初は「おっそ」って思いながら見てたんだ。だけど、姿がはっきり見えてから衝撃を受けてさ」

 

今でも覚えてる。雪の残るレース場で、息を荒げながら自分の倍くらいの重さのそりを引きずるウマ娘達。感動なんてもんじゃない、あれを言い表す言葉をいまだに見つけられない。

 

「幼心ながら「やっべぇかっこいい!」ってなっちゃったね、あれは」

 

彼女は2枚目のチョコレートのアルミをはがしながら「分かります」と言って笑った。

 

「その後レースになんて行く機会なかったからばんえいの事も一時期忘れちゃってたんだけど、進学先どうしますか?って言われた時に思い出してさ。とっさに「トレセンで」って言って入ってきたんだ」

 

本当は、忘れてたわけじゃなかった。鮮明に頭にこびりついて離れなかった。でも、それを言うことは何故かできなかった。

 

「・・・まあ、そんな劇的な動機ってわけでもないんだけどね」

 

彼女は一通り聞き、椅子に大きくもたれかかって言った。

 

「良いですねぇ、レースの思い出かぁ」

 

「後は名前だね。この名前だったから、親にも反対されなかったよ」

 

彼女はチョコレートを食わえ、不思議そうな顔をして言った。

 

「え、名前?」

 

そう、名前。誰しも自分の名前の意味なんて考えない、でも私はトレセンに入る前から、ばんえいレースに運命的なものを感じていたのは確かだ。

 

「ゴッドドラッガー。『神を輓きずる者』」

 


 

「お、さらに速くなったね」

 

「ゼェッ、ゼェッ、そ、そう?」

 

最初は亀のような速さだったそりも、試験には余裕で合格できる程度の速度にはなってきた。日頃のトレーニングの成果だろうか。

 

「ここ最近頑張ってるもんね。」

 

アンクルウェイトを外しながらカエデが言う。「お前もやろがい」というツッコミを抑えながら水を飲んだ。

 

「能力試験前、最後の講習か。結構みんな来るもんだな」

 

今日来ているのは40人近く。さっきの整列時の声は圧巻だった。

 

「初回から全部来てるのうちらだけだけどね」

 

試験まであと3日。今日は最後の講習の日だ。

 

「注目! 3日後の試験はレース形式で行う」

 

先生が手をたたいて、唐突に言った。

 

「レース形式?」

 

「そうだ。一斉にスタートして、ゴールタイムで試験の合否を決める。一回一回やってたらきりがないからな」

 

先生はさっき以上に声を張っていった。よほど大事なことらしい。

 

「勘違いするなよ!、これはレースではないから、競い合う必要はない! 各々自分のペースで走る事! なお、誰と走るかは後で寮に張り出しておくから、各自確認するように!」

 

それに付け加えるように先生は言った。

 

「ただ、各試験1位のものは選抜レースに出走できる可能性がある。以上、解散!」

 

そう言って、あとは普段通りの練習になった。

 

「・・・レース形式なんだ」

 

私がつぶやく横で、ウェルが神妙な面持ちをして、珍しい弱音を吐いた。

 

「いや別にいいけど、緊張するな。大丈夫だろうか」

 

カエデは、いつもと同じ何食わぬ顔でそりを引いていた。

 

「いいじゃない、みんなで走ったほうがきっと楽しいよ」

 

そういうものだろうか。私だけ実感が湧かないままいつも通りの講習を終えた。

 

「今日はゆっくり寝ろよー」

 

そんなことを聞きながらぞろぞろと帰ると、寮の廊下に大きな紙が貼ってあった。

 

「お、出走表出てる」

 

私の後ろからウェルが声を出す。

 

「私は、どれどれ・・・」

 

学年全員が書いてある表だ、当然数も多く、探すのに骨が折れる。

 

「あ、あった。第12R、2枠2番。ゴッドドラッガー」

 

「12Rって、その日の最後のレースだな。私は3Rだから昼だけど、12Rは普通に夜だぞ」

 

よく見ると、20:45スタートと書いてある。

 

「げっ、なんでこんな夜遅くなんだ」

 

私がそう言うと、ウェルは「ナイター競走なんだから、そういうものだ」と言った。

 

「それもそうなんだけど」

 

「準備運動出来て、終わった後に風呂場貸し切りにできるんだから。いいじゃんか。物は考えようだよ、そんじゃ、おやすみ」

 

おやすみ、と言いながらウェルと別れる。とりあえず明日明後日は早く寝ようと思いながら自室の扉を開けた。

 


 

前夜

「明日試験ですよね」

 

「え? そうだけど」

 

ラルバは何かが入った缶を取り出し、私に渡した。

 

「これは・・・?」

 

「クッキーです。私も期待しているので餞別です」

 

中に入っていたのは甘そうなチョコレートクッキー。お礼をしてさっそく1枚かじりながら、窓の外を見る。

 

「・・・最近、空がきれいだなって思うことが増えたんだ」

 

「そうなんですか?」

 

私は少し曇った夜空を見上げながら続けた。

 

「いつも同じじゃない、いつも同じくらい美しく、同じくらい儚い。夜空も、快晴も、曇り空も、全部違って全部良い。こういうのって良いなぁって思うことが増えたんだよね」

 

私がそういうのを聞いて、ラルバはニヤニヤしながら言った。

 

「・・・本でも読みましたか?」

 

「読んでないよ、あとそういうの言われると急に恥ずかしくなるからやめて」

 

そう言って、二人で笑いあった後、ラルバが思い出したかのように1枚の封筒を取り出した。

 

「あ、これ。郵便に届いてたっぽいですよ」

 

「・・・手紙?」

 

あて先は自分、送り主は母だった。

雑に中身を確認しながら言う。たいして興味もないし、今更手紙と言うのも分からない。

 

「お、応援してるってさ」

 

内容はいたってシンプル。普通の親が書きそうな手紙だ。なんやかんや考えが古いからな、と思いながら手紙を机の中にしまう。

 

「もっとちゃんと読まなくていいんですか?」

 

軽くしか読まなかった私に対して、ラルバが言う。

 

「良いんだよ、私こういうの読むと気負っちゃうから」

 

「そういうものですか」

 

ラルバは自分には手紙が来ないから分かんないなぁと言って笑った。

 

「・・・ん?」

 

封筒に、写真が入っている。

 

「なんだろ、これ」

 

おもむろに取り出すと、幼いころの自分が写っていた。

 

「・・・あ、ここレース場だ」

 

写っていたのは、私がトレセンに入学するきっかけになった、あのレースを眺めている私だった。

 

「めちゃくちゃ笑顔ですね」

 

横からラルバが写真を覗き込んで言う。

 

「・・・やっぱ、良いな、こういうの」

 

「レースですか?」

 

「そうじゃなくてさ、笑顔っていいなって」

 

私がそう言うと、ラルバはまたニコニコしていった。

 

「やっぱりなんか詩集とか読みましたよね?」

 

「読んでないよ‼」

 

二人の笑い声が部屋に響いた。気合は十分。走ろうじゃないか。この笑顔のために。

 


 

「いやぁ、緊張するなぁ」

 

大きく伸びをしながらカエデが言う。そう言いつつも余裕がありそうな彼女にウェルが言った。

 

「カエデは確か4Rだったか。私の次なのか」

 

「うん、そうだよ。一足先にがんばってね、ウェル」

 

「カエデもウェルも陽が昇ってるうちに終わるじゃんかぁ、いいなぁ」

 

そう言うと、カエデが笑いながら「夜のレースも楽しいよ」と言った。

 

「中央レースでは夜のレースやんないんだっけ」

 

「ああ、ナイター競走な、えーっと、大井レース場だっけ?」

 

何故試験前だというのにこんなにもリラックスした会話ができるのだろうと思っていると、第1Rが始まった。

 

「お、みんな一斉に出た」

 

先頭をグングンと進む子、そりを引きなれてないようで、進むのに時間がかかる子。色々いた。

 

「あの子めちゃくちゃかっこいいね。凛としてる」

 

談笑を続けながら、残り30秒。先頭の子はもうゴールに差し掛かり、後続の子はあと20mというところだ。

 

「ゴール! 一着はキタカゼスパロー! 残り10秒!」

 

「お、一着だね。すっごいな」

 

そうして、第1Rは終わった。合格は10バ中、8バ。

 

「これなら心配なさそうだね、良かったぁ」

 

そんなことを言いながら第2レースも終わり、とうとうウェルのレースになった。

 

「ウェル大丈夫かなぁ、緊張して転んだりしないといいけど」

 

「ウェルなら大丈夫でしょ、1着取っちゃうかもよ」

 

そして、ゲートが開かれた。

 


 

スタートは上々、問題ないようだった。

 

「先頭だね、このままいけるかなぁ」

 

カエデが心配そうに言う。先頭をキープしたまま、ぐんぐんスピードを上げていく。日頃のトレーニングの成果が分かりやすく表れていた。

 

「大丈夫、ウェルならいけるはず」

 

がしゃがしゃという音が響きながらも、ウェルの気迫はこちらまで伝わるほどにあからさまで、見る者を圧倒しつつあった。

 

「・・・やっぱ、レースの事になると気合入るよね、ウェルって」

 

「・・・うん」

 

見ていて疲れるような激しい呼吸、何のためらいもなく次の一歩を踏み出すその姿勢。目を奪われるものだったが、どこか違和感があるような気がした。

 

「なんか、走りずらそう?」

 

「え? そう?」

 

一歩一歩に若干の迷いやためらいが感じられる。そんなことを考えていると、彼女の口が少し動いたような気がした。

 

(これじゃない)

 

その声の後、ウェルは明らかに減速した。スタミナが尽きたのだろうか、後続がどんどん差を詰めてくる。減速しつつも確実に前に進んではいるから、まだ分からない。

 

「あー、抜かされちゃった。でも、あと25m、まだいける?」

 

「・・・うん、どうだろ」

 

それにしても、これじゃない?、どういう事だろうか。後で聞いてみようと思いながら、レースは終盤に差し掛かろうとしている。

 

「ラストだよ! ウェル! 気張って!」

 

「気張るって、え?」

 

大声を張り上げるカエデにツッコミを入れながら、レースは終わった。

 

「ゴール! 一着はバニラベイリーズ! 残り16秒!」

 

「あー、2着かぁ、惜しかったねぇ。」

 

「うん、でもめっちゃ速かったよね、やっぱしすごいわ」

 

レースを終えたウェルがこっちにピースしているのを見て、こちらも手を振る。

 

「まあ、試験は余裕合格だしいいでしょ。選抜出れないのは残念だけど」

 

「よーし、次は私かぁ、がんばるぞー」

 

大きく伸びをする彼女に、私はがんばれーと言って送り出す。まだレースまでは時間があるのだが、彼女なりの準備があるのだろう。戻ってきたウェルと一緒に見送る。

 


 

「ウェル、なんか走りずらそうだったけどなんかあった?」

 

私がそう言うと、ウェルは苦笑いをしながら「ばれてたか」と言った。

 

「いや、走りずらいというか、集中できなかったんだよな。なんか」

 

「悩み事?」

 

「・・・トゥインクル・シリーズは特別なレースだよな。ばんえいとは違う」

 

ウェルはそれだけ言って、話をそらすように水を飲んだ。

 

「お、ほらカエデのレースだぞ。応援しなきゃ」

 

どうも腑に落ちない状況だが、無言で頷く。誰しも触れられたくない部分はあるものだ。

 

「始まった」

 

本日4度目のガシャンと言う音。周りと圧倒的な差をつけて、カエデは駆けだした。

 

「やっぱ、速っ」

 

「何度見てもすげーよな、あれ」

 

あっというまである。他のウマ娘は驚きの表情で先頭を駆ける彼女を見ている。

 

「ゴール! 1着はシシカエデ! 残り24秒!」

 

相変わらずの強さ。惚れ惚れし、同時に恐怖を覚えた。

 

「・・・いつか戦うのかぁ、あれと」

 

「その前に試験、がんばってこいよ」

 

「まあ一回帰るけどさ」

 

時間は4時半。私のレースまで4時間はある。

 

「・・・そうだね、お風呂入って、準備体操して、考えようによっては私が一番有利」

 

それを聞いて笑いながら帰ってきたカエデと、「そうかぁ?」という顔をしたウェルと一緒に寮に帰宅した。

戦まで、のこり4時間。

 


 

本日のファイナルレース

「ギャラリー少なっ」

 

「いやまぁ、だって8時超えてるもの」

 

星空の元、閑散としているコースの周りを眺めながら、カエデとウェルに「行ってくる」と言う。

 

「勝てよー、ゴッドー」

 

ウェルはあくびをして、手を振った。

 

「勝ってくるよー、絶対」

 

笑いながら手を振って、ゲートに向かう。

 


 

腰にベルトを巻き、ずしりとくるこの感覚を確かめる。気迫に満ちた他のウマ娘の面持ちを横目に、大きく息を吐いた。私は手をじーっと見つめ、ブーツの踵を鳴らす。ゲートは狭く、息が詰まる感じがして早くゲートが開かないかとそわそわとした。

 

「全員入ったな、ゲートが開いたらスタートだ。集中して走れよ」

 

後ろから先生が言った。そして、走るフォームに体を変える。

 

「スタート!」

 

ガシャンという音とともに足を踏み出す。そりが重いが、何も問題はないスタートだった。

勿論、決して速くはない、歩いても余裕で追いつけるくらいの速さだ。でも私たちは知っている。ばんえいレースでそりを引く、私たちの姿がどれほどすさまじく、力強く、そして美しいか。

だから、走る。走らなければいけない。

 

「ハァ、ハァ、ゼハァ、」

 

息がさっそく荒くなってきた。さっそくと言っても、もうすでに40mは走っている。己の全身全霊をかけて、普段出すことのない全力を出しているのだ。無理もない。

横から、別のウマ娘の息と、足音が聞こえる。先頭から少しずつ下がっているのだろうか。

 

・・・先頭?

 

先頭を走っていたらしい。少なくとも置いて行かれることはないと考えたことで、心に余裕が生まれた。足を進めながら、息の仕方を整える。

吸うを2回吐くを2回。少しずつ余裕が生まれてきたとき、少し視界が開けた。

夜空が、広がっている。一点の曇りもない、大空には光る粒が点々としている。

 

「ゴッド―! 抜かれかけてるよー!」

 

「残り30ー! いけるぞー!」

 

コースの外の、数少ないギャラリーが声を張る。今日は都合上消灯時間が遅いんだっけか、ラルバも見ているのだろう。期待していると言っていたな、今日勝てば喜んでくれるだろうか。

 

喜んでくれるだろうか、喜んでくれるだろうな。

 

少しずつ、体全体に力がわたっていく。そりが少しずつ軽くなっていく感じだ。呼吸を変えたからだろうか、視界がどんどん広がっていく、クリアな世界が見えてくる。

 

「先頭キープ、抜け出し準備」

 

自分にしか聞こえないくらいのか細い声で、己を鼓舞する。残り15m、勝機は十分。いざ、駆けだすとき。

 

「ゴッドさん! がんばって!」

 

ラルバの声、やっぱり彼女も応援してくれている、いける、さっきより明らかに速く引ける。後続の息の音も小さくなっていく。足が自然と前に出る、心地いい。このまま、終わってほしい。このまま、先頭のまま。

 

「ゴール!1位はゴッドドラッガー! 残り19秒!」

 

一番前を駆けた私の視界には、普段とは比べ物にならないくらい大きく、美しい空が広がっている。

 

「・・・最高」

 

私のそりは、運命を引きずり始めた。

 




設定紹介Q&A

Q.そりの重さの設定教えてよ

A.真面目に考えてないです

考えてみると、スタートが500㎏なんて引けるわけない。とはいえこの後の展開的にウマソウルを信じるしか道はない。
・・・リアリティより作品としての面白さを優先するというわけです。
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