神を輓きずりし者達よ   作:Y-Romi | 和井 火戸見

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やるきがでないと書けないので書くスピードがマジでいったりきたり。ちなみに最新話は1か月とちょっとぶりになります。遅っ。
次回はがっつりレース回になります。乞うご期待。


第二十三話 「大戦には華がいる」

朝霞が幅を利かせる早朝の練習。何やら見慣れない服を着ている二人の姿があった。

 

「おはようございます」

 

「おー、おはよう」

 

「おはよう!」

 

ココロ先輩とシャドーの妹、サイレス先輩。私は二人の着ている不思議な服をまじまじと眺める。

 

「これが気になるかい?」

 

サイレス先輩は黒と紺のふりそでを見せつけながら言った。

 

「これは勝負服、久しぶりに出してみたんだ」

 

私は感動を抑えつつ衣装をじっくりと見る。これが噂の勝負服とやらか。中央の彼女たちと何ら変わらない完成度だ。こういったところで手を抜かないのはURAもNAUも同じらしい。

 

「まあサイレス先輩が黒の振袖なのはすごい分かるんですけど」

 

私は右横で怪しげなポーズをとるココロ先輩を見る。

 

「赤と緑のボーダーのジャケットに黒の中折れ帽・・・」

 

引っかかる。どこかで見たことがある。どこかで。

私が悩んでいるそぶりを見せると、サイレス先輩が横から言った。

 

「ヒント、80年代の代表ホラー」

 

「あ、」

 

「分かった?」

 

「・・・なるほど、っぽいですねー」

 

「エルム街の悪夢」のフレディ・クルーガー。なるほど、趣味が悪い。

 

「何? その顔」

 

「いや、先輩らしいな、と」

 

私は準備運動を始めながら言う。気温は低いままだ。

 

「ゴッドもA-1キープしてるでしょ? じゃあ多分イレネー記念出るときに着るね」

 

ココロ先輩は中折れ帽を被りなおしながら言う。

 

「あ、はい。まだまだ先ですけど」

 

A-1とは賞金獲得順に与えられるクラスのことだ。A-2、B-1、B-2と進んでいく。重量がそれぞれ異なったり、出走できるレースも違ったりする。私は一応ここしばらく上位に入ったままだ。

 

「いやぁ、入ってきたときはあんなに頼りなかった子が、ジュニア級の筆頭になるとは」

 

サイレス先輩はしみじみと言った。

 

「初の後輩の勝負服を見るのがこんなに早くなるとはねぇ」

 

「・・・? どういうことですか?」

 

私は聞き返す。ココロ先輩は白くなる息を眺めながら静かに続ける。

 

「イレネー記念に出れるのはたった10人。体も心もばんえいウマ娘としてはまだまだ未熟なジュニア級のウマ娘にとって、その少ない枠数はあまりにも残酷だ」

 

サイレス先輩が何も言わずに頷く。

 

「私は出れなかったからなー、イレネー記念」

 

「え」

 

「あと少しのところで出れなかったのよ。だからこの勝負服も本番じゃまだ使ってない」

 

サイレス先輩はクルリと回りながら言う。その軽快な動きとは裏腹に、どこか空気が重くなった気がする。私は息を飲んだ。

 

「・・・いろいろ私も思うところはあるけど、どの世代にも共通してるのは「BG1」の貴重さ。ジュニアもクラシックもすごい少ない」

 

ココロ先輩は空を仰ぎなら続ける。私も同じように空を見た。

鳥が空を飛んでいる。澄んだ青空の景色は未だ遠く、焦がれる。

 

「だからこそ。だからこそ。その一つの大舞台、一世一代の大勝負は全力を出し切って終わりたい。その思いの表れが「勝負服」なんじゃないかって思うよ」

 

先輩のジャケットが風で揺れた。力強く、どこか儚げな先輩の姿を、私は改めて眺める。

ウマソウルパワー、という都市伝説がある。ウマ娘の勝負服がどんな走りずらそうな形状でも本来以上の能力を出すことができるのは、極限状態で勝負服が引き出した「ウマソウルパワー」が全身を更なる段階へと持っていくからという話だ。あくまで都市伝説の域を出ないが、先の話を聞くと満更間違いでもない、というか事実な気がする。

 

「・・・ココロってそんなキャラだっけ?」

 

数瞬の沈黙を破ってサイレス先輩が声を出した。

 

「んや、今はちょっとおセンチな気分だからね」

 

先輩は大きく伸びをする。

 

「そういえばゴッド、勝負服のアイデア決めた?」

 


 

「私も決めてない」

 

コースに向かう途中、カエデは紙パックのストローを噛みながら言った。

 

「そんなすぐアイデアなんて出ないよねぇ。どうしようか」

 

「私は決まったぞ」

 

後ろからウェルの声がする。どこかで似たような経験をしたと思いつつ、詳しく話を聞く。

 

「何にしたの?」

 

「黒のフロックコート」

 

「何それ」

 

「・・・秘密」

 

彼女は笑いを浮かべながら、私達より足早に練習場へと向かって行ってしまった。

 

「でもカエデはイレネー記念確定で出るでしょ? やっぱり必要でしょ」

 

「うーん、いろいろアイデアは考えたんだけどなー」

 

私はバッグからノートを取り出し、箇条書きにされた文章列を見る。

 

「洋服か和服なら和服だよね」

 

「それは、まぁ」

 

カエデはゴミ箱に飲み終わったオレンジジュースを投げ入れ、笑顔で言う。

ぶっちゃけ、私にはまだそこも決められていない。果たして自分に何が似合うのかもいまいち分かっていないのだ。

 

「どうしよっかなー」

 

「じゃあさ、聞いてみたら?」

 


 

「私の勝負服?」

 

バレット先輩はタイヤを運び終え、息を整えながら言う。垂れる汗が眩しい。

 

「昔使ってたダンス衣装ベースにしたやつ。黒で、へそと肩が出てるやつ」

 

「露出多いですね・・・、寒そう」

 

私が肩をさすりながら言うと、バレット先輩は笑いながら腰のロープを外す。

 

「運動量多めだからそんな気にならないのよ。まあパドックはキツいけど」

 

「なるほど。そんなものですか」

 

私がメモを取っているのを見て、先輩は首を伸ばしてくる。

 

「勝負服。もうそんな時期か」

 

「はい、一応アイデアだけ出しておけって。先輩はどうやって決めましたか?」

 

「私? 私は、一番思い入れのある衣装がこれだったから。即決」

 

先輩はどこからかスマホを取り出し、写真を私に見せる。そこには、どこか幼い黒鹿毛のウマ娘。

 

「これ私なんだ。一番いいとこまで行ったダンスの衣装」

 

「え、これ先輩ですか?」

 

髪型が違うせいで分からなかった。なんと。

 

「伸ばし始めたのはトレセン来てからだから。こんときゃまだ青いガキンチョよ」

 

先輩はそう言うとスマホをしまい、鼻で笑う。

 

「そうだな・・・、まずは自分がどんな服を着たいか考えると良い。どんな衣装なら力を出し切れるか」

 

「それが分からないんですよねぇ」

 

私は悩む素振りを見せ、自分のスマホを取り出す。

好きな漫画のキャラの服は、背が高すぎる私には似合わない。ファッションも趣味も中途半端にしかない私には、憧れが見当たらない。

 

「・・・ゴッドはここ来る前、何して過ごしてたんだ?」

 

「実家でですか。ええと」

 

私は記憶を辿る。色が薄い記憶を掻き分けて、どうにも地味な日々を思い出す。

 

「日がな遊んでましたけど、母親も父親も働いてたので、家に一人でいることが多かったですね。本とテレビに育てられた気がします」

 

あの頃。何もしていなかったあの頃。どうしようもないほど孤独で、でも叫ぶ必要も意味も知らなくて。

 

「だから何を着たいか全然わからないんですよね」

 

「なんかないかなー、思い出とか」

 

「思い出・・・」

 

そう言われて私は目を瞑る。朧げながら浮かんでくるのは、あの雪景色。幼き頃訪れた帯広レース場。

そうだ、あの後ろ姿。障害の砂を踏む、模様のついた白い服。あの痺れるアイヌ模様の服・・・。

 

「憧れか・・・」

 

バレット先輩は悩む私の顔を見ると、何も言わずに練習に戻っていってしまった。私は軽くお辞儀をして立ち尽くす。

 

(私はあの後ろ姿になりたかったのか・・・?)

 

そうとも言える。だが、それだけではない。あの姿は私をここに連れてきたきっかけではあっても、私が走る動機にはなり得ない。・・・はずだ。

 

だが、「あれ」になれるかもしれないと思うと、気分は悪くなかった。

 

「アイヌ・・・、アイヌか」

 

私が幼いうちに亡くなってしまった曾祖母は、確かアイヌの人だった。私の知るアイヌは本当にそれだけだ。それ以上もそれ以下もない。

私はスマホで民族衣装について調べる。確か記憶の中のあのウマ娘は装飾された白の「アットゥシ」を着ていた。

 

(ふむ・・・、渦巻きの文様は魔除け、北海道に伝わる伝統的な衣装・・・)

 

私はノートに絵を描き始める。バレット先輩にならって内側はサラシにして、上から白のアットゥシを羽織る形に、ズボンはゆったりと。髪は結ぶ形にして・・・、

ものの数時間。コースのはずれのそりの上で、私はスケッチを走らせる。絵は人並みくらいにしか描けないが、このさいどうだっていい。帯広の景色にどんな私が立つのか。どうやったらあの後ろ姿に近づけるのか。ウマソウルはこの服で引き立つのか。ただひたすらにそれを考える。考えて、描いて、描いて、考えて・・・。

 

「・・・出来た」

 

日が沈み始めたその時間。私はゆっくりと腰を上げた。

 


 

「やっほーゴッド。眠そうだね」

 

「夜更かしは肌に悪いんだよねぇ・・・」

 

私はあくびをしながら答える。昨晩は寝る時間が遅くなってしまった。

 

「そういえば、勝負服の希望そろそろ提出だよ。ゴッドは出した?」

 

「ああ、昨日の夜にトレーナーにメールで送ったけど」

 

「どうだった?」

 

カエデは机の上から腰を下ろして身を乗り出す。

 

「まあ多分大丈夫だと思うってさ。意外だって言われたよ」

 

私は昨日修正に修正を繰り返した衣装案を見せる。カエデは驚きの声を上げた。

 

「なんだっけこれ、アイヌのあれだよね」

 

私は頷き、スマホをしまう。

 

「・・・カエデはウマソウルパワーの都市伝説って信じる?」

 

「ああ、有名だよね」

 

カエデは椅子に座り直し、頬杖をついて続ける。

 

「うーん。気合が入るってのはわかるけど、未知のエネルギーってのは正直話が飛びすぎかなって思う」

 

私はくすくすと笑う。それもそうだ。ウマソウルなんてまともな考えでは信じられない。

 

「・・・とはいえ」

 

「とはいえ?」

 

私は聞き返す。カエデは少し笑いながら言った。

 

「自分が本気(マジ)になれる服ってあると嬉しいよね、ふふ」

 

私はゆっくりと頷く。そうだ、私たちの大戦の準備は着々と進んでいるのだ。彼女の言葉は、私にそう思わせた。

 

「・・・イレネー記念、楽しみだね」

 

私は外の景色を見ながら静かに言う。

 

「だねぇ」

 

彼女は伸びをしながら答える。

冬は、まだ始まったばかりだ。

 




設定紹介Q&A

Q.勝負服ってどんな感じ?

A.地方でもはそこは気合入れる。

NAU、National Association of Umamusume racingでNAU。地方レースの勝負服は彼らが一律管理してます。そのクオリティは中央と遜色なく、背の高いばんえいウマ娘でも大抵の要望に応えてくれます。

バレットさん・へそ出し肩出しのダンス衣装
ココロさん・フレディの衣装をおしゃれにアレンジ
シャドーのサイレスさん・黒と紺の振袖。サラシがかっこいい
シャドーのゲイザーさん・紺と黒の振袖。妹と色違い

ちなみに北国だけどへそ出しとかする奴は毎年一定数いるとかいないとか。
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