神を輓きずりし者達よ   作:Y-Romi | 和井 火戸見

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北海道でのおやきは私たちで言う「今川焼」「大判焼き」「太鼓焼き」と同じらしいです。
この食物は名前がめちゃくちゃたくさんあって面白い。ちなみに私は大判焼き派です。


第四話 「勝利への最短の道」

机の上に置かれた金属を見ながら私は言う。

 

「これは?」

 

「え?、蹄鉄。」

 

そんなものは見たらわかる。それは分かるんだが、何故蹄鉄をくれたのだ?

 

「何で蹄鉄くれるんですか?」

 

「サドルの伝統、チーム加入特典として蹄鉄をプレゼントっていうやつです。」

 

私はなるほど、思いながら蹄鉄を持ち上げる。重みと質感を感じながらトレーナーに聞く。

 

「・・・蹄鉄プレゼントって宣伝すればメンバーも増えるんじゃ?」

 

トレーナーはそれを速攻で切り捨てた。

 

「そんなことしたら私の財布が死ぬ。」

 

私は蹄鉄を机に置き、前々から思っていた疑問を聞く。

 

「というか、西高トレーナーはスカウトしないんですか?」

 

トレーナーは良い訳をするかの如く、笑いながら言う。

 

「いや、そうなんだけど、事情がありまして。」

 

そう言った瞬間に後ろからバレットさんがトレーナーに覆いかぶさり大きな声で言った。

 

「なー、おやき奢ってくれよー、小倉あんの奴をさー」

 

「やかましいっ、ここ最近毎日買ってあげてるでしょうがっ」

 

バレットさんはトレーナーを指さしながら言った。

 

「こいつの事情ってのは、スカウトめんどくさいって言う至極単純な理由だぞ。」

 

「そういうこと言うんじゃないよ、いいじゃん新メンバーも入ってるんだしさぁ。」

 

私がクスクスと笑っていると、トレーナーは思い出したかのように言った。

 

「あ、そうだ。蹄鉄、基本的に自分で付けられないから付けるときには私に言ってな。」

 

「・・・え?、自分で付けられないんですか?」

 

確かにこの蹄鉄は私の知る蹄鉄よりも大きく重いが、それでも自分で付けられると思っていた。

 

「いや、自分で付ける子もいるけど、講習受けなきゃいけないんだよね。面倒なやつ。」

 

なんたること、そんなめんどくさい事をしなければいけなかったのか。

 

「トレーナーとかサポート科の子とかが必須事項だからそういう人に頼まないといけないんだけど・・・」

 

「サポート科・・・、あ。」

 

寮にて

 

「ラルバ、蹄鉄貰ったんだけど、打てる?」

 

「・・・急ですね。打てますけども。」

 

思った以上に簡単に請け負ってくれた。やさしいな、と思い少し笑う。

 

「でも、ばんえいの蹄鉄って打ちずらいんですよね。重いし、あと分厚い。」

 

「ああ、やっぱそうだよね。なんか、こんなの脚につけて走るのかって感じ。」

 

「・・・なんでか知ってますか?」

 

ラルバは一冊の本を手渡していった。

 

「蹄鉄はいわば「スパイク」です。ウマ娘の暴力的な脚力に耐えながら、確実な踏み込みを可能にするために金属製になっています、とかなんとかいろいろその本に書いてありますよ。蹄鉄の付け始めは走りずらいと思うのでその本お貸しします。」

 

私はうなづきながらその本をパラパラとめくる。すでに何度か読んだ形跡があり、いくつか付箋も貼ってあった。

 

「やっぱ、レースとか走りとかに詳しいよなぁ。」

 

ラルバはニヤニヤしながら「いつも言ってますね」と言った。

 

「うーん、やっぱ、そうだよなぁ。」

 

私がうなっているのを見てラルバが聞く。

 

「どうしたんです?、悩み事ですか?」

 

「いや、悩み事って言うか、何ていうか。」

 

私は意を決してベッドに座るラルバの方を見て言う。

 

「・・・ラルバ、サポート科の子もチームは入れるんだよね。」

 

「ええ、入れますよ。サポート科もトレセンのメンバーであることに違いはありませんしね。私の友人にも入ってるウマ娘が・・・、」

 

ラルバは話すのを止め、こっちを見て言った。

 

「ちょっと待ってください、何考えてるんですか?」

 

「いや、まあ、ご想像通りの事を。」

 

ラルバは全てを察したらしく、呆れたような顔で言った。

 

「・・・今週の木曜なら、空いてますよ。」

 


 

「・・・どしたん?」

 

「・・・疲れました。」

 

ラルバはベッドに倒れながら言った。普段見ることのない友人の一面を見て内心興奮しながら聞く。

 

「でもまあ、悪い人たちじゃなかったでしょ?」

 

「そうですけどぉ、そうなんですけどぉ!」

 

まあ、私の見学の時と同じように荒れていたのは確かだ。

 

「姉妹の先輩は筋肉の付け方についてめっちゃ聞いてくるし、嵐の先輩は私の髪とか耳とか触りながらあんドーナツ食べてるし、ココロ先輩は私にタイヤ引きやらせようとしてくるし、西高トレーナーもノリノリだったし。」

 

「結局タイヤ引いてたもんね。」

 

「もう一回骨折したらどうするつもりだったんですか・・・」

 

ラルバはむくりと起き上がり、ポッキーを取り出しながら言った。

 

「でもまあ、楽しかったです。ゴッドさんの言ってる事がなんとなく分かりました。」

 

私は笑いながら、ラルバからポッキーをもらい言った。

 

「で、入ってくれます?」

 

ラルバはしばらく唸りながら考えた後、絞り出すようにして言った。

 

「・・・お菓子一週間分奢ってください。」

 

私は笑いながら返事をする。

 

「もちろんいいよ、私じゃないけどね?」

 

「・・・じゃあ、後であのトレーナーさんにお願いしますか。」

 

トレーナー室にて

「へぷしっ、あー、風邪?、やだぁ。」

 


 

「さーて、障害だ。」

 

西高トレーナーはいつものジャージに身を包み、砂の傾斜の前に立った。

 

「障害。・・・でも、小さいですね。」

 

「いや、これ以上大きいと普通に死ぬから。」

 

西高トレーナーの横からバレットさんが言う。

 

「まずおさらいね?、第一障害と第二障害があって、第一が1m、第二が1.6m。結構な傾斜と滑る砂、さらには500kg以上の重り。小さいと思って油断しちゃあいけない。」

 

私は頷きながら、普段通り500kgのそりを付ける。

 

「最初から500いける?」

 

「・・・まあいけるんじゃない?。これ第一障害だし。」

 

トレーナーとバレットさんが話すのを聞きながら、障害の前で足を止める。

 

「息入れて、足にエネルギーがたまる感じをイメージしてー。」

 

言われるがまま、深く息を吐いてゆったりと吸う。

 

「いけると思った瞬間に、足に全身の力を突っ込む、前に進むことを意識して!」

 

私は深呼吸を終え、足を前に出した。

 

「フンッ・・・」

 

足が前に進もうと、この小さい丘を上がろうと全力で踏ん張っているというのに、進む速度はあまりにも遅い。初めてそりを引いた時と同じだ。あの時と違うのは、今ここで力を抜いたら一気に後ろに引っ張られるという事。

 

「まだ!、まだキープして!」

 

「イメージは火薬、足に小さい爆弾を入れて、一気に推進する感じ。」

 

相変わらず何を言っているのか分からないが、言われた通りに火薬と爆弾をイメージする。

 

「アガァッ‼‼」

 

グッと足が前に出て、小さい丘を私は越えた。あんな説明でも超えられるものなのか、不思議だ。

 

「おお、超えた。早かったね。」

 

西川トレーナーはドリンクを渡しながら言った。

 

「障害の最もきつい所は、体力を持ってかれる事。汗は滝のように出るし、吐いちゃう子も出てくる。」

 

「な、なるほど、ハァ、ハァ、た、確かに、ハァ、疲れ、ます、ね、ハァ」

 

「一回落ち着け。」

 

私が、そりに座ってばてていると、ランジを終えた二人が走ってくる。

 

「オッ、ゴッドちゃん、初障害?」

 

「めでたいねぇ。超えられたのか。」

 

二人は私のそりに腰掛け、ダンベルを渡してきた。

 

「下半身の筋肉も死ぬほど大事だけど、上半身の筋肉がいらないかって言われたら全然そんなことはないんだよ?」

 

「そうそう、良く分かってるじゃないか我が妹よ。鍛え上げられた上半身はブレない姿勢により、下半身の前に出ようとする力をフルで使える。よって、速く坂を上がるためにはダンブルを持ち上げるべし。」

 

もう一つのダンベルを渡しながら、先輩は言った。

 

「限界に挑戦することこそ至高だ、いっしょに高みを目指そう!」

 

バレットさんがダンベルを持ちながら言う。

 

「お前ら今何キロ持てるの?」

 

「それを聞くかバレットよ。」

 

「聞いちゃいますか、教えてあげよう。」

 

二人の先輩は謎のポーズをとりながら言った。

 

「片手で60kgだ。聞いて驚け。」

 

「嘘やん姉貴!?、私50なんだけど!?」

 

私は笑いながらそりの上に寝転がって空を見た。いつものように。

 

「しんどいけど、気持ちいです。障害。」

 

「そう?、私は障害しんどいだけだけど。」

 

私はむくりと起き上がり、奥を見つめた。第一なんかよりも全然大きい障害が見える。

 

「あれ、登りたいです。」

 

「第二障害?、本当ならもうちょっと第一に慣れてからやるんだけど・・・」

 

私は立ち上がり、大きく伸びをして言った。

 

「上がります、登りますとも。」

 

VS 山

 

頷いたトレーナーと共に、第二障害の前に行く。

 

「・・・デカい。」

 

「そう、1.6mってそんなに低くないよ。」

 

私は深く息を吐いた。油断なんてするつもりはない。

 

「登る前に聞くけど、ばんえいのレース見たことある?」

 

「あ、はい一応。ここで止まるんですよね?」

 

トレーナーは頷いて続けた。

 

「第二障害を休憩なしで超えるなんて絶対にできないから、皆一度ここで止まる。ここからは自分のスタミナと、周りの出のタイミングを見計らう必要がある、つまり、レースの山場。」

 

そう言うとトレーナーは私から離れて、私に登るように指示を出した。

 

「息を整える!、自分の120%を出せるように、エネルギーを脚に溜める!」

 

イメージは火薬。なるほど、何となくわかってきた。火のついた導火線のように、エネルギーが体の重心に入るように。

 

「フゥゥゥゥ・・・」

 

導火線が足に着火したと思った瞬間、足に溜まったエネルギーを「前進」と「上昇」のエネルギーに変える。爆発する火薬のように。

 

「フンッ‼‼」

 

第二障害は傾斜がきつく、距離がある。第一を小高い丘に例えるなら、第二障害は「山」だ。恐ろしいくらいにしんどい。

 

「焦らなくていい!、一番駄目なのは膝をつくこと!、しっかり踏んで前に!」

 

前に進む、息は絶え絶えだし、砂に自分の汗がぽたぽたと落ちる。

 

「上がってる!、あと2歩!、自分の限界値の遥か上を引き出して!」

 

私は上を見た。残り2歩と言われた通り、若干狭くなった視界に障害の奥が見える。

 

「グッッ、、、ハァァァ‼‼」

 

がしゃがしゃと、そりの音が響いた。足を止めても体が後ろに引きずられない。ここが頂上。

 

「フゥ、フゥ、フゥ・・・、ハァァァ・・・」

 

何て辛く、何と残酷で、なんと美しい景色か。たった1.6mなのに、目線はとても高くなったように感じた。空が近く感じる。地獄のような体力の削られ方だが、悪くない。すがすがしく、いい気分だ。

 

「おおー、第二障害を一発か。逸材かも。」

 

塩の強めのスポーツドリンクをもらいながら、私は汗を拭く。

 

「最高です。第二障害。」

 

「え?、だ、大丈夫?」

 

私は大きく伸びをして、障害の上から空を見上げた。

そこにある勇気の景色。障害の上は、王者の頂。空に近く、ゴールに近い、強者の場所。

私は笑って、思わずつぶやいた。

 

「やっぱり、ばんえい、サイッコー・・・」




設定紹介Q&A

Q.障害って何?

A.200mの直線であるばんえい競馬を面白くする為のもの。

第一障害、第二障害、最終直線の砂障害。
第一障害は最初の1mの山です。ここでストップすることもざらにあるので低いけど侮ることなかれです。
第二障害は後半の山場。高さは1.6m。一番盛り上がって一番書きがいのある場所です。ばんえい記念くらいの大レースになると、越えるまでの時間が長いのですごい盛り上がります。
砂障害は第二障害奥の最終直線に作られた高さ0.5mの傾斜です。地味ですが非常に大事。
ちなみに14話くらいまでこれを書いている人は砂障害の存在を知りません。愚かしいですね。
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