神を輓きずりし者達よ   作:Y-Romi | 和井 火戸見

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pixivに連載している方には5話ごとにキャラの情報とか載せてたんですけど、こっちは毎回設定紹介Q&Aがあるので、そっちで消化する予定です。どうせ途中でネタ切れ起こるだろうし。


第五話 「刻み。」

「選抜出るの?、今年の?」

 

練習終わり、トレーナーは驚きの声を上げた。

 

「はい。言ってなかったんですけど。」

 

トレーナーは煙草の火を消し、携帯の灰皿に入れた。

 

「そっか、出るのか―・・・」

 

トレーナーは少し悩んだ後、ボードに何か書き込んで言った。

 

「今年は豊作らしいから、結構しんどい戦いになると思うけど、自信は?」

 

「分からないです。どうなんですかね。」

 

トレーナーは少し空を見上げた。その横顔は、何を考えているのか見当もつかない。きっとこの人には「勝てる勝てない」なんてないんだろう。あるのは「自分ができるだけのことをする」の1点だけ。それを信じて、私たちは皆ここにいる。

私がそんなことを考えていると、トレーナーは言った。

 

「明日、レースを一本やる。相手は・・・」

 

トレーナーはタイヤを片付ける後ろ姿に向けて指をさし、言った。

 

「ちょうど良い、アイツだ。」

 

私は思わず顔が引きつり、「ホントにやるんですか」という顔でトレーナーを見た。

 

「・・・ココロの走りは一回見といた方が良い、と思う。」

 

トレーナーは苦笑いを浮かべながら言った。肝心の彼女からは普段通りの元気な声が聞こえてくる。

 

「うわぁぁぁぁ‼‼、ここめっちゃ蟻いる‼‼、ここめっちゃ蟻いる‼‼」

 

暴脚、ココロゴウ

 

「コース全部借りれるのはこの時間だけだから、ちゃっちゃかやるぞ。」

 

障害はある程度登れるようになったが、レースとなると話は別だ。障害同士の間も大きいし、何より200mもある。そう簡単に走れる距離じゃない。

 

「ココロ先輩、お手柔らかにお願いします。」

 

「嫌だ‼、本気で行くよ‼」

 

やっぱりこの方頭がおかしい、覚悟を決める以外ないようだ。私は歯を食いしばりスタート地点に立った。

 

「ココロはああ言っても本気じゃない。だが、いい具合に火が付いたな。」

 

「どっちが?」

 

「どっちも。」

 

バレット先輩が旗を上げた。私は足に力を入れる準備をする。

 

「位置についてー、よーい」

 

旗が振り下ろされる音と共に、私は一気に駆け出す。ココロ先輩の足腰の強さは尋常じゃない、スタートに失敗したら即座に置いて行かれる。

まずは第一障害、つまづくわけにはいかない。

私は坂に足を掛けた。体重とそりの重さを考え、若干溜めてから一気に推進する。

 

「フッ・・・‼」

 

坂の頂上に上がり、傾斜を利用して加速する。駆け出せるか。

 

「・・・よいしょっと。」

 

私より少し遅く第一障害を越えた先輩が、2歩3歩歩いたところで止まる。

 

「・・・え?」

 

止まった?、何故?

 

「え?トレーナー、「刻み」教えてないの?」

 

「あれは言葉で伝えるより体感する方が早いんだろ。」

 

「普通に忘れてた説もありうるけどね。」

 

ココロ先輩の息の音はどんどん離れていく。これは勝てるんじゃないか?

そう思いながら第二障害の前で止まる。第二障害は「溜める」、確かあのレースでもそうだった。

 

・・・まだ、まだ上がれない。全然体力が残ってない。

ガシャガシャという音が少しずつ近づいてくる。足音に余裕がある感じがある。

 

「並んだ、さすが「暴脚ココロ」、速い。」

 

「ゴッドちゃんは体力と言うより、気力が切れちゃった感じだ。」

 

おかしい、息が全然整わない。全力ダッシュの後に急に止まってしまった感覚に似ている。

横を見ると、いつの間にかココロ先輩が立っていた。まずい。かなりの距離があったはずなのに。

 

「フゥゥゥゥ・・・・・・」

 

息に余裕がある。目の前の山を登ることに何の迷いもない。

 

「お、行った。」

 

恐ろしい程に速い。これがレースか。

 

それよりも、まずい、置いて行かれる。

 

「あ、釣られた。」

 

足が重い、にも関わらず踏み出してしまった。もう後戻りはできない。腹をくくり、2歩目を踏み出す。

ココロ先輩はすでに登り切ろうとしている。追いつかなくては。

 

「ゼハァ・・・!?」

 

息切れ・・・!、しくじった。単なる体力切れじゃない、踏み込みに集中してなかった。上がろうとするエネルギーに変換できてない、まずい、まずい、すさまじくまずい状況だ。

 

「あっちゃー、やっちゃったね。膝を折っちゃった。」

 

膝小僧に土がべったりつく。それは全然問題じゃない、ここからどうする、立て直しが効くか。

ココロ先輩はすでに障害を越え、ゴールに向かって走っている。さすが暴脚ココロ、届かない。

 

「ッッッアァ‼‼」

 

私は残るエネルギーを総動員し立ち上がり、足を前に出す。置いて行かれるな、一気に踏み込め。

私は障害の上に立ち、大きく息を吐いた。まだ、まだ残ってる。ここから、走って・・・走って、はしって・・・、あっ

 

途端に足に力が入らなくなる。水道の蛇口を止めたみたいに、足からエネルギーが消える。

 

ドサッ、という鈍い音と共に、天地がひっくり返った。

 


 

目が開いた。鉛のように重い体とまでは言わないが、体調は良くない。

 

「起きたな、調子はどうだ?」

 

天井、じゃない、空だ。うっすらと雲がかかった空が視界に広がっている。

 

「トレーナー、何があったんです・・・?」

 

「脱水症状。無理をさせたな、申し訳ない。」

 

トレーナーは私に水を渡しながら言った。その顔からは普段のヘラヘラした感じが消え、本気の心配が読み取れた。

 

「いえ、大丈夫です。勉強にもなりましたし。」

 

私がそう言うと、奥からココロさんが走ってきた。

 

「大丈夫かぁぁぁ!!」

 

「大丈夫です、ご迷惑おかけしました。」

 

体を起こしてから、一気に楽になった。さっきまでの不調が嘘のようだ。

 

私は水を少し飲み、トレーナーに言った。

 

「・・・体力って無尽蔵じゃないんですね。」

 

トレーナーとココロさんはそれを聞くと、少し笑っていった。

 

「そう、そうだよ。ウマ娘だって無敵じゃないさ。」

 

ココロ先輩は私が無事なのを確認して、トレーニングに走っていった。いつものアラレちゃんポーズだ。

 

「じゃあこっからは座学だ、メモは・・・、取んなくていいか。」

 

トレーナーさんは立ち上がり、コースを踏みしめながら言った。

 

「ばんえいにおいて何が一番必要か分かる?」

 

「・・・体力?」

 

「ああ、70点正解。」

 

トレーナーさんは笑いながら第二障害を見て言った。

 

「正解は「気力」、第二障害を登る気概。」

 

納得だ。ゼロに近い体力で見上げる第二障害は、絶望そのものだった。

 

「んで、その気力を保つためには体力の温存が必要なのです。」

 

「・・・止まるんですね?」

 

ココロさんがやったあれだ。第一障害を越えた後、足を止める。止めつつ、少し歩いて、止まって、ゆっくり歩いて、を繰り返す。

 

「そそ、あれを「刻み」って言う。ばんえいの基本技術だ。」

 

「刻み、ですか。足を刻むってことか。」

 

次の一歩のための、楽する一歩。次の全力のための、手抜き。

 

「・・・私が言わなくても、ココロ先輩からいろいろ学べたかな?」

 

「勿論です、やっぱり先輩ってすごいです。」

 

トレーナーは煙草を取り出しながら「そうよなぁ」と呟く。私はそれを見て、息を吐きながら言った。

 

「選抜レース、絶対負けません。」




設定紹介Q&A

Q.ウマ娘版のばんえいのルールって何か特別なのあるの?

A.いくつかある。

「手をついて登ってはいけない」 ひざを折った拍子に付いてしまったとか、躓いてしまったとかで付くのは基本的にOK。ただ、障害とかをそれで上った場合降着となる。

「罵倒、挑発などの行為」 ばんえいはゆっくり進むのでレース中に会話とかまあ出来ないことはないんですけど、だからってこういうことしちゃ駄目ですよ、と。これも降着になったりする。
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