神を輓きずりし者達よ   作:Y-Romi | 和井 火戸見

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改めて読むと無駄が多い気がする。今の自分なら書かないような疎い表現が多くて面白いですね。第一章終わった時に全部修正しますが、これはこれで味があっていいのではないでしょうか。


第九話 「砂塵と障害を終えて」

「さあ、帯広競馬場第3レース。引き続き実況は紫坂、解説は石原さんがお送りします。」

 

実況の声が響く。遠く離れていても結構聞こえるものだ。

 

「今回の1番人気は、3枠3番、学園内選抜レース2着のゴッドドラッガー。どうですか石原さん。」

 

1番人気?、いつの間にそんなことになっていたのか。第一あの人たちも知っていたのなら教えてくれれば良かったのに。

 

「えー、そうですね。非常によく鍛えられています。坂をしっかり登ることができるなら勝利も十分狙えると思いますよ。」

 

…それにしても、皆顔が強張っている。緊張とその他諸々の感情が混ざり合っているのだろうか。実況が2番人気以下の娘の紹介をしているのを聞きながら、私は深く息を吸う。

 

ついにここまで来た。初めて見たあのレースから、ここまで。あの憧れの帯広に。

 

「スゥゥゥ……フゥゥ……。」

 

気合は十分。程よく緊張もしている。良い。

 

「さあウマ娘が続々とゲートに入ります。」

 

私は500kgのそりを付け、体に掛かる負荷を感じた。いつものように、踵をトントンと鳴らす。

 

「ゲートイン完了、帯広レース場第3R、最初の勝利を勝ち取るのはどのウマ娘だ。今、スタートしました!」

 


 

一般的に、レースは「自分対他のウマ娘」とされている。

だが、相手を意識するだけでは勝てない。

まずは「自分のレース」をしなければいけない。いつだって、最初に相手になるのは自分なのだ。

 

「さあ、まばらなスタートです、4番アイーダジャンク出遅れたか。」

 

出遅れは厳禁、第一障害までは止まらない。

 

「さあ1番人気ゴッドドラッガー、先頭で障害に足をかけた!」

 

第一障害では、息を入れながら登る。ここでは躓かない。

…それにしても、コースの水分量が少ない。そりを引くのにも力がいる。

 

「さあ続々と第一障害を越え、次の障害まで刻んでいく。」

 

第一障害を抜け、直線に入ると砂塵が舞った。いつの日か行った鳥取砂丘を思い出す。

息も絶え絶えだ、ゆっくりと刻まなくては。ふと横を見ると、青ざめた顔のライバルが、息切れしながら止まっている。

 

(これは慎重にいかなくては...)

 

フェーズ1 砂地

 

ばんえいには「バ場水分」というものがある。普通のレースとは違い、水分量をパーセントで表示するのが特徴だ。バ場水分が多いと滑りやすく、前に進むのが楽になる。逆に、水分量が少ないとそりや足が砂に埋もれ、前に進むのに力がいる。砂漠の上をダッシュするのと、コンクリートの上を走るのどっちが楽か考えてみればすぐにわかる。踏み込みの楽さは言うまでもない。

水分量が多いと「軽バ場」、具体的には3.0%より上、水分量が2.0%より少なく、乾いていると「重バ場」。

 

では今日の水分量は?

 

2%か、はたまた1.5%か。

 

正解は「0.8%」。砂塵舞う、難攻不落のコース。

 

しかし、重バ場の帯広で最も気を付けるべき場所は直線じゃない。

 

フェーズ2 砂丘

 

「砂が、滑る…」

 

踏み込みで超える以上、最も大事なのは足である。しかし、乾いた砂によって上昇エネルギーは半減されてしまう。よほどの体力がなければ登れない。

 

「さあゼッケン7番ジャムサンド第二障害に足をかけた!」

 

こんなコースで溜めをおろそかにするのは論外。途中で足を折ってしまう。

 

「さあ後続の馬もどんどんと続いていく!、おおっと、ジャムサンド一度戻った、体力は大丈夫か。」

 

…思い出せ、選抜の時の、「あれ」を。化け物か怪物の、あの形相を。

あの身の毛もよだつような大声を、あの肌身に迫る「死」の恐怖を。

 

よし、行ける。

 

「来た来た来たっ!1番人気ゴッドドラッガー!、スムーズに障害を上っていく!」

 

いつも以上に走りずらい、いつも以上に足に力が入らない。

だが、走れる。足が動くのならば走れる。意識があり、前進する気概があるのなら、いつだろうとどこだろうと走れる。

 

「登りきったゴッドドラッガー!、先頭に食らいついていくか。」

 

ああ、いつも思う。頂上は眩しい。世界のどこよりも空に近い気がする。

だが、晴天に見惚れている場合ではない。勝つのだ、そのためにここにいるのだから。

 

「…さあ、前へ。」

 

フェーズ3 砂塵

 

土煙が舞う。一寸先は闇、という言葉があるが、それに近い感じだ。

砂塵の中は体力切れと気力切れを誘う、まさに「砂地獄」

 

「さあすごい砂埃の中で、ゼッケン2番カイロマウンテン現在先頭だが止まっている。」

 

しかし行くしかないのだ。砂の中だろうと、たとえそれが溶岩の海だろうと針山だろうと。そこを踏まなければゴールに行けないのなら踏むしかない。

 

「やはり来たぞゴッドドラッガー、先頭との距離をグングン詰めていく!」

 

あと何歩か。それもよく分からない。

いや、あと何歩かなんてどうでもいいか。私の目的は「相手に追いつくこと」ではなく「相手より先にゴールすること」なのだから。

 

「ゴッドドラッガーとカイロマウンテン、ゴール寸前で並んだ!、さあここからは根気勝負だ!」

 

その通り、ここからは、並んでからは根気勝負。もう一歩、あと一歩。

 

いつだってレースは前に貪欲に進む者が勝つのだから。

 

「ゴッドドラッガー今先頭で、ゴォールインッ!」

 


 

「ゴッドー、1位おめでとう。」

 

「カエデ、ウェル、来てたんだ。」

 

二人は、そこで売っていたと思われるたい焼きをかじりながら言った。

 

「いやぁ、負けてられないねぇ、ねぇ、ゴッド。」

 

「ああ、でもまあ今はとりあえず、おめでとう。ゴッド。」

 

私がありがとうとつぶやくと同時に、後ろからチームのみんなが走ってきた。

 

「ゴッドー、こっちが先だろうがー!」

 

「いいんだよお祝いに前も後ろもあるか!」

 

いつも通りの馴れ合いを見ながら、私は言う。

 

「…トレーナー、先輩。勝ちましたよ。」

 

「…ああ。」

 

私が満足した顔で頷くのを見て、バレットさんが口をはさむ。

 

「うおーい、まだ満足するには早いぞー。」

 

皆で首をかしげていると、ウェルが言った。

 

「…あ、ウイニングライブ。」

 

それを聞いたバレットさんは頷き、ブイサインをしながら言う。

 

「私との練習の成果。見せてきな!」

 


 

「…いつのまに練習してたんですか。」

 

「何このクオリティ…」

 

野外ステージで軽快なリズムとともに異様にキレキレなダンスを踊る、ゴッドの姿。

 

「へっへーん、どうせ勝つだろうしと思って仕込んでおいた。」

 

バレットが自慢げに言う。確かに最近連れ出しているなとは思っていたが、こんなことをしていたとは。

 

「観客も唖然としてるな。デビュー戦のダンスはガッタガタになるのが良いのに…」

 

新人生のあの自信なさげなダンスが良かったのに、こんなダンサー顔負けのキレキレダンス。いくらバレットがダンス上手だとしても、こんなに上手くなるのだろうか。

 

「にしても、スウィングなんだね。ゴッドっぽくないイメージ。」

 

「私が決めたからな。」

 

みんな一斉にバレットのほうを向く。曲が自由とはいえ、勝手に決めるのはないだろう。

 

「よくないでしょバレットそれは。確かにかっこいい曲だけどさ。」

 

「いいんだよ、てかこんなん話してるうちにダンス終わっちまったぞ。」

 

結構な量の拍手喝采を浴び、照れながらゴッドが退場する。

それを見ながら、カエデが聞く。

 

「というか、バレット先輩ダンス上手いんですか?」

 

「うん。ガキの頃は大会とか出てたよ。」

 

私は「そういえばそうだったな」と思い、バレットに聞いた。

 

「どこまで行ったんだっけ?」

 

「えーっと、北海道大会?」

 

二人から驚きの声が上がる。

 

「マジですか、全然見えない。」

 

「いっつも小豆ばっか食べてる先輩だと思ってました。」

 

「私が言えたことじゃないが君等結構失礼だぞ?」

 

私たちが雑談しながら盛り上がっていると、着替えたゴッドが帰ってきた。

 

「ただいま帰りましたー、って、なんで盛り上がってるんですか。」

 

文句を言うゴッドをよそに、私は車のキーを手に取る。

 

「よし、帰るか。」

 

「…ですね。」

 

和気あいあいと、みんな車に乗り込む。

デビュー戦に勝ったからといってうかうかしてはいられない。まだたくさんの勝負が待っている。

 

でも、今日くらいは、このくらい緩やかでも良いな、と思った。

夏はまだ始まったばかりなのだから。

 




設定紹介Q&A

Q.ウイニングライブってどうなってるん?

A.独自設定

シンデレラグレイでオグリが笠松音頭を踊っているのを見て、私は思ったわけです。
「地方のレースでは比較的自由に曲が決められるのでは?」
ラジカセが置いてあったということはCDとかそういうことなんじゃないか。
ということで帯広レース場では、ウイニングライブは任意。更に曲は自由です。

踊るウマ娘は大体半数くらい。任意とはいえ、中央あれを見ているウマ娘が多い分、みんな結構ノリノリだったりする。

だがエゾオウ会長はライブはやらなかった。
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