僕は――というより、僕を含むクラスメート、及びおじいちゃん先生は、学校の校庭に集まっていた。
ある意味窮地を救ったともいえる、あのどこからか響いてきた宣言の後。
白いピチピチのスーツに身を包んだ戦闘員達がクラスに突入してきて、言われるがままに連れ出されたのである。
校庭にいるのは僕達のクラスだけでなく、同学年の別のクラスもいれば、他学年もいる。
占拠した、という言葉に偽りはなく、どうやら本当に悪の組織が学校を襲撃してきたらしい。
今、僕達学校の生徒は整列して校庭に座らされ、その四方を囲うように配置された白スーツの戦闘員が、その動向を監視するため目を光らせている。
「オーゥ、シュウチャン、恐いネー!」
……いや、まあ僕の隣にも悪の組織の人がいるんだけどね。それも幹部級の。
悪の組織『ブラックマーベラス』の女幹部は、しかし変わらず、日本人が想像するような外国人チックな口調で僕の腕に引っ付いている。それを許しているのは、僕と接触していると比較的静かになることが分かったからだ。
まったく、そう言うのであればもっとそれらしい態度をしてもらいたいものである。
「――あー、あー、テストであーる。こちら『非モテ最強軍』総帥であーる。繰り返す、こちら『非モテ最強軍』総帥であーる」
いや、まあ言うて僕もそんなに怖くはないんだけど。
むしろ、その組織名を聞いて震えあがる人なんているのだろうか。
僕達生徒が座る眼前、校庭の開いたスペースには、移動された朝礼台とその上に立つ一人の男。
陽光を受けて、他の戦闘員よりも一際キラリと光る白一色の装束。同じく、テカリと光る禿げ頭。
悪の組織『非モテ最強軍』の総帥を名乗る男は、拡声器片手に声の確認を終えた後、僕達の方を向く。
「えー、生徒及び教員の諸君。諸君達には悪いであーるが、この学校は悪の組織たる我ら『非モテ最強軍』が掌握したのであーる」
途端、飛び交うブーイング。
勇気ある生徒と教員による決死の抵抗だ。
「禿げ頭ー!」とか「チビデブー!」とか一部罵声も飛んでいるのはほんのご愛敬。
「う、うるさいのであーる! 同士よ、黙らせるのであーる!」
壇上で顔を真っ赤にして、総帥の男は唾を飛ばす。
刹那、パァン、という銃声が校庭に響いた。皆、それに驚いてブーイングを止める。
誰かが打たれたわけではない、空に向けての発砲のようだった。
「お、おほんっ! さて、我ら『非モテ最強軍』は、とある崇高な目的のために動いているのであーる。この学校の掌握も、そのための一歩。……何、その目的とはなんであーるかと? ぐふふ、仕方がない、特別に教えてやるのであーる」
仕切りなおすかのように咳払いをすると、彼は演説をするかのように手を広げて喋り出す。
ちなみに、誰も合いの手は入れていない。ずっと一人で話しているだけだ。
「その目的とは――学生諸君の青春の剥奪! 自由な青春時代があるからこそ、格差が生まれ、それは大人になっても尾を引くのであーる! 誰もが暗い青春を送れば、皆平等なのであーるっ!!」
パチパチ、と戦闘員達からの拍手喝采が起こった。中には涙を拭うような仕草をしている者もいる。
だが、それ以外の空気は割と白けている。いや、まあ言ってることは分からなくはないが、暴論というかなんというか。
……あれ、よく見れば生徒と教員の一部にも共感するように、猛烈に頷いてる人がいるぞ?
「そういうわけで、以後、この学校内での恋愛禁止令を発動するのであーる! 勿論、異性と二人きりになること、身体的接触をすること、遊びに行くことも禁止なのであーる!!」
アイドルかな?
しかし、恋愛か。別に今の僕には困らないというか。
何故なら、好きな人がいるかって言われると、まあいない。いい雰囲気の女の子がいるわけでもない。
なにせ年の近いの女子にとっては、完全に僕は子供扱いだ。
図書室に行けば「本取ってあげようかー?」と声をかけられては最終的に何故かその場にいるミリナに取ってもらい。
掃除の時間になれば「代わりに机運んであげようかー?」と声をかけられては最終的にミリナが運ぶ。
……いや待て、僕はよくてもマズイかもしれないぞ?
言わずもがな、本来の
ただでさえ進展らしき進展がないというのに、恋愛禁止になんてされようものなら、それ以上に望めない。BADENDルートは正直後味が悪かった記憶があるので、是非とも二人にはくっついてもらってGOODENDルートに入ってもらいたいのだが。
「反論は無駄なのであーる! ぐふふ、しかし不公平だと思うことはないぞ? なにせ、吾輩達は、この学校を契機として、近隣は当然、果ては全国の学校を――をっ!?」
今まで考えたことがなかったというか、ゲームの流れ的になるようになるだろうと思っていた。
だが、僕という本来世界に存在しないはずの異物がいてしまうことでそうならない可能性があるのでは?
これは、僕が何とかして二人をくっつけなくちゃいけないパターンか?
しかしどうすればいいのかさっぱり思いつかない。
取り敢えず、どうすれば上手く恋愛ができるか誰かに聞いてみることから始めようか。知り合いに会ったら片っ端から聞いてみよう。うん。
そう心に決めた僕であったが。
気付けば、意気揚々と流れていた演説が止まっていた。
あれ、終わったのかな? そう思った、瞬間。
「――い、言った側から、身体的接触をしているのであーる! そこの男女、許さないのであーるっ!」
怒りからか声を震わせ、男が壇上からビシッと指を突き付ける。
その指は僕のいる方向に向いている。けど、前方にはそれらしき生徒はいない。
となると、後ろか。
おいおい、こんな時にイチャイチャしてるのは誰だよ、とやれやれという思いで振り返れば。
後ろにいる全員が、僕のことを凝視していた。
正確に言えば、僕と僕の腕に引っ付いているミリナを。
……あ。
「見せしめであーるっ! 戦闘員達、直ちにそやつらを離れさせるのであーる!」
号令により、近くにいた数人の戦闘員達が僕達に向かってくる。
「ねえ、ミリナ、離して……ねえってば!」
「ノー! ワタシ怖いヨー!」
慌てて離れるように言うが、しかしイヤイヤと彼女は首を振る。
いや、本当に恐がっているなら一考の余地はあったんだろうが、そうではないことを僕は分かっているから容赦なく身体を押す。
「もうそういうのいいから! 早く!」
「オーゥ、シュウチャン、強引ネ! 普段もそれくらいワイルドでOKヨ!」
「うがぁぁああ!!」
だが、体格差でも力の差でも負けている身。
この状況でも余裕すら浮かべて馬鹿言ってくる馬鹿を、僕は破れないでいた。
……僕は非力だ。
そう思ったのも束の間、援軍はやってきた。
「坊主、手伝ってやる」
「あ、ありがとうございます!」
戦闘員さん達だ。
その頼もしい声に光明が見えた僕は、思わずお礼を言った。
だが、戦闘員さん達は何故かその全員が僕の身体に手をかける。
「いや、何で全員僕の方に来るんですかっ!?
「「「い、いや、女子高生の身体に触れるのはちょっと……」」」
「……すみません」
その声色からは迫真の緊張が感じられ、僕は迷わず謝ってしまう。
「オゥ、力比べデスカー? 何人来ようと負けないネー!」
「……な、何だコイツ? あれか、帰国子女ってやつか!?」
いいえ、ただの馬鹿です。もう本当に黙っててほしい。
「行きますよ、せーのっ!」
僕のかけ声で、一斉に戦闘員達が僕を引っ張り上に持ち上げる。
だが、それで手を離すミリナではなかった。
戦闘員に持ち上げられる僕、それを離すまいとぶら下がるミリナ。
ふと周囲を見れば、クラスメートのみならずその場にいる全生徒が僕達をガン見していた。
「ミリナ、後で好きなだけくっついていいから! だから、離して」
「リアリー!?」
こうなったら、最終手段。
ミリナの耳元にそっと囁けば、彼女は顔を輝かせて僕を見た後、あっさりと手を離した。
「て、手間かけさせやがって。……だ、だが見ただろう、坊主? 我ら『非モテ最強軍』にかかれば、男女を引き離すのも朝飯前ってことが!」
戦闘員さん達も大分お疲れである。
ここで真実を伝えるのは酷だと思い、僕は黙って目礼した。
だが、これでようやく落ち着いた。
いや、まぁ先程からやらかしてるからもう遅いってのは無しで。
「戦闘員達、よくやったのであーる! 諸君、見たであろう? 我らに背いた者はこうなるのであーる! ……ぐふふ、しかしこれで終わりではないのであーる!」
その光景に満足したのか、壇上から戦闘員達に向けて労いの言葉がかけられる。
「禁止令を破った見せしめであーる! 罪人をここまで連れてくるのであーるっ! 人質であーるっ!」
男の命令で、再度戦闘員達が近づいてくる。
だが、指定されているのは確実にミリナだろう。
だって、僕はくっつかれた側――いわば被害者だ。先程の茶番も男からは見えていただろうから、どっちが引っ付いていたのかは一目瞭然。
「許さないのであーる! 後悔しても遅いのであーる!」
どうやら、あちらさんは中々お怒りのようだ。
しかし、人質か。
正体を知らないとはいえ、悪の組織の人質に、別の悪の組織の人間がなるってどうなんだろうね?
この感じだと、危険はないとは思うけども。そもそもミリナ強いし。
散々人の事を人質にしてくれた分、人質になることを思い知ってほしいものだ。
取り敢えず、精々これで少しでも懲りてくれると助かるんだが。
「――男の方、覚悟するのであーるっ!」
「……なんでだっ!?」
だが、僕のそんな淡い期待はすぐに吹っ飛んだ。
納得いかず、突っ込む。
「じぇ、JKと……しかも帰国子女の上にそんな可愛い女の子が近くに来るのは、吾輩耐えられないのであーる!」
だから違うって。
「オーゥ、シュウチャン、聞きましたカー? キュートですッテー! ほら、シュウチャンも、
君は本気でもう黙ってて。
同情してくれるかのように、ポンポンと肩を叩いてくれる戦闘員さん達。
それでも彼らは擁護してくれるわけでもなく、壇上へと僕を連行する。
ミリナはどうやら、先程の僕の言葉を聞いてから夢現のようで、だらしない顔をしている。美少女が台無しだ。
理不尽に肩を落としつつ、数多の生徒から好奇の視線を受けながら、僕はさながら囚人のように歩く。
だが、この時僕は気付いていなかったのだ。
整列する生徒達――その極々一部が、監視する戦闘員達の目を搔い潜り、携帯端末をいじっていたことを。まさに僕が人質となったこの瞬間に、とある一つのスレが立ったことを。
それが、後の惨劇(笑)を引き起こすことになることを。
あんなことになると分かっていたら、敵であるはずの戦闘員達に大声で知らせてまで止めていたというのに。
間抜けなことに、この時の僕は知らなかったのである。
次回! 「クラスメートが悪の組織の人質にされてるんだがwww(仮)」
モブの同級生による掲示板回です。