【助け】悪の組織の人質にならない方法【求む】   作:鷲野高山

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全僕が泣いた

『――近頃、全国各地にて悪の組織によって人質をとられるという事案が多発しております』

 

 ショッピングモールを歩いていると、ふとそんな音声が耳に届いた。

 

『一部ではヒーローをも人質とする動きもあり、ヒーロー組織本部は一般人及び所属するヒーロー達に向けて警戒を呼び掛けています』

 

 他人事とは思えない、その内容。

 思わず足を止めて壁から吊るされた大型スクリーンを仰ぎ見れば。そこではニュース番組が放映されており、男性のニュースキャスターが原稿を読み上げている。

 

『なお、人質が負傷したという報告はなく、最終的には全員無事に救出または解放されている模様です。各地の悪の組織の今後の動向に注意が必要です』

 

 その報道に、全僕が泣いた。

 もう何回と人質となり、ついこの間状況をなんとかできないかと掲示板に書き込んだ身としてはタイムリーすぎる話題。

 

 ……そうか、自分だけじゃないんだ。

 

 ホロリと内心涙を流しつつ、今この瞬間にも人質となっているかもしれない誰かの存在を知って少し安堵してしまう。

 褒められたものではないが、自分以外にも同じ悩みを抱えている人がいるかもしれないと思えば、多少気が軽くなった。

 

 願わくば、その調子で僕以外の誰かが人質となりますように!

 

 この世界はバカゲーの世界である。

 正義と悪という対立する組織間の抗争はあり、何気にヤバいレベルの戦いも繰り広げられている世界観だが、そのくせ大量に人が死んだり怪我をしたりっていう展開はほとんどなかったりする。

 馬鹿馬鹿しくも、ギャグ調、コメディ寄り。故にこそバカゲーと呼ばれていたわけだ。

 

 しかし、こんな展開(人質事件)あったっけ?

 既に何度か首を傾げつつあるが、それはそれ。大きく物語に波及しているわけでもないので、単純にゲームでは語られなかった話なだけなのかもしれないと考えれば一応納得できなくはない。

 実際、人質となっているのが僕だけでないのなら、十分あり得そうだ。

 

 というかぶっちゃけ僕の場合は、ただ一人にばかり人質にされているわけで。

 そして、その元凶はといえば。

 

「シュウちゃん、どうしたの? いきなり立ち止まって?」

 

 今まさに、隣にいるわけだが。

 色々考え事をして立ち止まったままでいると。それを不審に思ったのか、一緒にショッピングモールへ来ていたミリナが顔を覗き込んできた。

 全く、誰のせいなんでしょうねー。

 

「いや、あのニュース」

「え? ……あ、全国で悪の組織が人質をとってるって事件? 怖いよねー、私も気をつけなくっちゃ!」

 

 白々しくも、そう宣ってくる。

 知ってるからな?

 僕をよく人質にとってるアンフェアが目の前のお前だってことを知ってるからな?

 下手に口を滑らせたら変なことになりそうだから黙ってるけど。

 

「……ミリナは、どうすれば人質にとられないと思う?」

 

 かまをかける、とは違うが思い切って尋ねてみる。

 もしかしたら、何か回避のヒントが得られるかもしれない。そうでなくてもどう答えるかには興味がある。

 

「うーんと、そうだなあ……やっぱり、刺激しないように抵抗しないで素直に言うこと聞いて。あ、あと従順な態度をしてくれたらいいと思うなあ。抱き着いてきてくれたら、もう最高!」

「……僕が聞いてるのは、人質になってからどうするじゃなくて、そうならないためにどうするって話なんだけど」

「何でそんなこと言うの!? シュウちゃんには、人質になってもらわないと――ごほんごほん、えっと、そうじゃなくって!」

 

 隠す気があるのか甚だ疑問である。

 僕を執拗に狙って人質にするのは相変わらず謎だが。彼女の正体が悪の組織の女幹部というのは、単純に僕がゲームの知識として知っていただけだ。

 直接言われたわけではないし、普段の振る舞いからして正体を明かすつもりがないのは間違いないと考えている。

 

「そ、そういえばシュウちゃんて、何度か悪の組織のアンフェアって人の人質になってるよね? その人のこと、どう思ってるの?」

 

 下手な誤魔化しでわざとらしく咳払いをしたかと思えば。

 わくわく、と瞳を輝かせながらそんなことを聞いてくる始末。

 その質問に、僕は恐れ慄いた。

 

 なんというマッチポンプ……なのかは微妙だが。

 人質にしてくる人間をどう思っているか、などまず普通の人ならしてこないであろう質問だ。そのくせ、実は質問をしているのがその本人であるというのもたちが悪い。

 そしてそんなことを聞かれても、はっきり言って困る。

 

「別になんとも」

「ええー!? もっとこう、ないの!? 綺麗なお姉さんとか、胸が大きいお姉さんとか、抱き着きたいお姉さんとか、お姉さんと結婚したいとか!!」

「…………」

 

 仮にも自分を人質にとって拘束してくる人物に、そんなことを思うとしたらそれは余程奇特な人間ではなかろうか。

 むしろ被害を受けていることからマイナスの感情になるのが普通だと思うが、そうではないと答えるだけ感謝してほしいものである。

 が、絶対に納得しないであろうことは目に見えており。

 案の定、彼女は不満から口を尖らせる。

 

「ねーねー、シュウちゃんたらーっ!」

 

 そして無視しているにも関わらず、喧しく纏わりついてきた。

 あまりにも鬱陶しいし、ショッピングモールということで人の目もある。

 実際、道行く何人かからの視線を感じるので、仕方なく答えることにする。

 

「まあ、凶暴な人(・・・・)とか男の人(・・・)に比べればまだマシなんじゃない」

「もう一声! 美人でスタイル抜群とか!」

 

 酔っ払いのコールか?

 

「……はいはい、もういいよそれで。アンフェアは美人、美人」

 

 適当ではあるが、一応嘘ではない。世間一般的に整った容姿というのは認める。不本意ではあるが。

 それに、期待する答えでなければ、五月蠅いのは変わらないのだろう、きっと。

 

 しかして、反応は劇的であった。

 

「ち、ちょっと、お手洗い行ってくるから待っててね!」

 

 ミリナは、顔を真っ赤にさせて小走りに駆け去っていく。

 自分から煽ったくせに、全く理解不能だ。

 

 やれやれと僕はこれみよがしに溜息を吐きつつ、手持無沙汰となったので大型スクリーンへと視線を戻す。

 気付けば、ヒーロー組織の関係者やら専門家やらが画面に映り、意見を求められるコーナーへと移っていた。

 議論されているのは、その(人質)目的について。

 やれ何かの陽動だとか、何かをしでかす前触れだとか議論されているが、どうしてだろうか。そんな複雑な話じゃないような気がするのは。

 

「まあ、今日は一緒にいるから、人質にされるってことはないだろうけど」

 

 今更ではあるが、僕が何故ミリナと一緒にいるか。

 それは僕なりに考えた予防策である。いや、一応幼馴染の仲である以上、今まで一緒にいたことがないわけじゃないんだけども。 

 

 僕を人質に狙う犯人は確定している。

 なので、その犯人たるアンフェアとミリナが同一人物だと分かっているのであれば、一緒にいれば戦闘員を引き連れて僕を人質にとってくることはないんじゃないか、ということだ。

 

 掲示板では活用できそうな案は出なかったが、正直これはかなりいい線いっていると思ってる。

 というか、あの時は真剣に受け止めてくれる人が少なかったので、もし次があれば再トライしたい。

 とはいえその次が無いことを祈っているものの、四六時中一緒にいるのは無理だから、完全には阻止できないだろう。となれば、いずれあっちが飽きるのを待つしかない。いわば耐久戦だ。

 

 よって、今日は僕を人質にしようとする悪の組織はおらず、この身は安泰に――。

 

「キャーーーッ!!」

「大変だっ!! 何処かの悪の組織がこのショッピングモールを……」

 

 どこからか不穏な叫び声が響いた。

 騒然となり、慌ただしくなる周囲。

 

「……逃げろ!!」

 

 誰かのそれが引き金となった。

 ショッピングモールにいた人達は、我先にと出口へ向けて殺到していく。

 

 ……あれ、おかしいな?

 

 そんな中で僕は馬鹿みたいに呆然と立ち尽くしている。

 不発。結構考えた、自信のある策だったんだけどなー。

 だって、普通に考えて一緒にいれば、それこそ目の前で変身されない限りアンフェアが現れることはありえない。

 そして正体を露見させる気がないのであれば、絶対にそうしない。そのはずだったのだが。

 

 ……まさか、トイレに向かったのはこのためか?

 

 思惑が外れ、邪推する。

 なんてこった、一緒にいれば動かないと思っていたのだが完全に読みが外れた。

 そうまでして何で人質にとってくるのだろうかはやはり謎だが。

 

 それなりの人はいたはずだが、気付けばあっという間に場が閑散とし、静寂が訪れている。

 つまり完全に出遅れてしまっていた。

 

 逃げるか、隠れるか。

 誰もいない以上、不用意に動けば目立つし、嫌な予感しかしない。

 ならば隠れるのが無難。そう判断し、周囲を見回す。

 

 まず目に入ったのは、左手にあるフードコート。

 数百席は余裕であるであろう広大なスペースだが、しかし身を隠すのは不向きだろう。

 テーブルの下に隠れても見方によってはもろバレだし、流石に店のバックヤードに隠れるのはマズイ。

 誘惑に負けて勝手に何か食べているところを見つかれば言い逃れできない。

 

 ――いや、待てよ。

 

 隠れようとするから駄目なのだ。いっそ、開き直って堂々と座っているのはどうだろうか。

 誰かが来ても、「よう」とか「おっつー」とか手を上げてそれっぽく挨拶すればワンチャンごまかせるかもしれない。

 念には念を入れてどこかから呼び出しベルを拝借したのなら、あら不思議。どこからどう見ても注文を待つ客に早変わり。完璧だ。中々鳴らないベルにやきもきする演技をしていれば、もはやそうとしか見えない。

 ということで、一旦保留。

 

 さて、そんなフードコートから僕のいる大通りを挟んで反対側にあるのは洋服店。

 男性女性どちらの商品も取り扱っており、面積では流石にフードコートより劣るが豊富な品揃えのそこそこ大きい店舗だ。

 だが、洋服店という店の種類的、構造的に隠れ場所は限られる。

 

 試着室に隠れるなんて安直がすぎるし、それ以外となると陳列棚ばかりで些か難しいだろう。

 店内から服やら下着やらを掻き集めてその山に埋もれれば完璧だが、生憎、僕はそんな変態じゃない。それに後々商品を駄目にしたとかで損害請求されても困る。

 

 ――いや、待てよ。

 

 その時、視界に救世主が映った。マネキンだ。マネキンに擬態すればいいのではないか。

 店内に数体いるマネキンは、幸いにもよくある白一色のそれではない。リアル寄りの――ともすれば、今にも動き出しそうなほどに人間味あるマネキン。

 

 ハゲた小太りのおっさん型のマネキンが二対、いい笑顔で僕に向かってサムズアップしている。

 いい、実に素晴らしい。店長のセンスが光り輝きまくっている。その神々しい頭頂部の如く。

 服を着ていないで男物の下着だけというのも、最高だ。

 遠くから見たら、パッとは半裸の人間にしか見えない。

 

 え、クレームが来ないかって? 全く、ただのマネキンに何を言ってるんだか。

 未だかつて、こんなに頼もしいおっさんのマネキンがあっただろうか。

 

 ……いや、実際には女性客からは大顰蹙らしいんだけどね。

 けれども、それを上回る熱烈な男性客の固定ファンがたくさんいるらしい。その土壌にこの店は成り立っているのだ。

 

 ともかく、僕もあの真ん中に入ってサムズアップすれば、たちまち彼らの仲間入りできるだろう。例え誰が来ようと、見抜けないに違いない。

 だからここも一旦保留だ。

 

 最後。

 そのおっさん型のマネキンが客を出迎える洋服店に隣接するのが、雑貨屋。

 規模としては前者二つに大きく劣るものの、所狭しと商品が並び充実はしている。

 うーん、流石にここは難しいんじゃなかろうか。隠れられるところはなさそうだ。

 刹那、思考をすぐに打ち切ろうとした僕の脳裏に電撃が走る。

 

 ――いや、待てよ。

 

 いっそのこと、僕も陳列されてみたらどうだろうか。

 なにせ、雑貨屋だ。色々な物が売られている。

 お洒落な木製食器を初め、子供向け玩具に手帳にカレンダー。

 埴輪や禍々しいお札、ヒーローのパチモン人形、悪の組織成りきりセット(戦闘員ver)などなど、それはもう多種多様なラインナップが。

 

 だったらほら、僕が売られていてもおかしくないのではなかろうか?

 ……問題があるとすれば、購入されてしまったら後戻りできないことだが。

 

 さて、どの店にしよう。

 そうそれぞれを見回していると、候補の一つである雑貨屋の店先にある大きめのダンボールが目に入った。

 成人男性が入るには少し小さいが、僕なら入れそうだ。

 よし、そこにしよう。

 三つの隠れ場所よりはバレやすそうだが、まさかそれを捨てて一番バレる可能性が高いところに身を潜めているとは思うまい。

 

 ダンボールの箱を開けてみれば、幸いにも中身はない。

 好都合だ、と僕はダンボールを持ち上げると、ひっくり返して自分に被せて床に座り込む。

 案の定、それは僕を完全に覆った。この時ばかりは、身長の低いこの体に感謝である。

 

 僕の行為を咎める声はない。なにせ、ショップの店員も逃げ出しているのだ。当然といえば当然だが。

 もっとも、防犯カメラで記録されているかもしれないが……なにせ悪の組織が出たという緊急事態。その時はその時。責任者の良心に賭けるしかない。

 みっともなく泣き喚いてジタバタと床でも転がれば、許してくれないだろうか。

 

 とはいえ、まずは今を切り抜けることに専念しなければならない。

 すっぽりと身を隠したことで、視界が真っ暗になる。それは仕方ない。

 だが、悪くない隠れ方だ。これで、仮にアンフェア(ミリナ)が僕を探そうとしても絶対にバレることはないだろう。

 天才か、僕は。

 

 そうダンボールの中で体育座りをしながら、内心自信満々であった時。

 

「――あれれ~、見失っちゃった? 何処行っちゃったのかな~、お兄ちゃん」

 

 声が聞こえた。

 幼さ特有の甲高さを残した、女の子の声だ。

 もはや聞き慣れてしまった、アンフェアのものではない。それよりも確実に齢が一回り以上は下であろう、それ。

 

 ……あれ、僕以外にも逃げ遅れた子がいたのかな?

 

 ふと、そんな疑問が浮かぶ。

 だとすれば、助けなければ。少なくとも、迷子を放っておくほど、僕は人間捨てていない。だって、僕は常識人なのだから。

 そうとなれば早速、とダンボールを持ち上げようとして。

 

 ふと、違和感に気付いた。

 言葉の内容からして、彼女は兄とはぐれてしまったのだろう。きっと兄妹か、或いは両親含め家族でこのショッピングモールに来たのかもしれない。

 だけど、そうだとしたらもっと不安そうな声になるのではないか?

 妙に落ち着いているというか、達観しているというか。

 

「……クスクス、なぁ~んて」

 

 コツ、コツと。

 足音がよく響き、近づいてくるのが分かる。

 ごくり、と僕は喉を鳴らした。

 

 少なくとも、僕のことをお兄ちゃんと呼ぶ人物に心当たりはない。

 じゃあ、一体誰が。

 

 ……ロリ化か!? まさかのロリ化なのか!?

 

 謎技術で、大人の姿になれるのだ。その逆の、幼児の姿になれてもおかしくはない。

 まさか奇をてらって、ミリナがロリになって襲ってきたんじゃないだろうな、と身構えていると。

 

 足音が、すぐ近くで止まる。

 そうして、僕の隠れているダンボールが無情にも持ち上がり――。

 

「は~い、見つけた~。突然だけど、お兄ちゃんには今から椅子(・・)になってもらいまぁ~す」

 

 ――えっと、どちら様ですか? ……ん? 椅子?




次回は安価スレです。
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