【助け】悪の組織の人質にならない方法【求む】   作:鷲野高山

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ちょっと修正した箇所のお知らせです。
『自称常識人を見守る IN 掲示板/ぷらすあるふぁっ!』
の掲示板形式後の一人目の視点の口調を変更しました。
今回はその一人目が登場。
本当は二人目も出す予定だったんですが、視点変更が繰り返されるので話を分けることにしました。
よろしくお願いします。


悪と正義がお隣さんの家があるらしい

「それじゃあ高校生のお兄ちゃん、今日はありがとう! また明日ね~♡」

「気を付けて帰るんだよー」

 

 いかにも怪しげなおじさん二人組に追われていた幼女を助けた僕は、彼女に別れを告げて帰途につく。

 少し歩いた後に何となく振り返ってみれば。彼女はまだこちらを見ていて、振り返った僕に向かってブンブンと大きく手を振ってきた。なのでこちらもバイバイ、と手を振って応えて、そうして今度こそ踵を返して家に向かう。

 

「いやあ、本当にいい子だったなぁ……」

 

 同じ町に住んでるみたいだし、その内また会うかもしれない。

 また明日と言っていたのも、あの子の年代にとってはある意味決まり文句みたいなものだろう。それこそ、公園で初めて遊んだ見知らぬ子にすらでも言うような。

 

 珍しいピンク色の髪だったし、出会い方にしても助けを求めながら僕に駆け寄ってきたというものだから、すわ何事か、と思わず最初は身構えてしまったが。

 性格は元気であり、また純真無垢と言ってよいだろう。危険が去ったことを理解し、満面の笑みでお礼を言われた時は、癒されたものだ。

 それに、その後軽く話したのだが、上目遣いも実に可愛いかった。そう、上目遣いである。僕より小さくないとできないそれに、思わず頭を撫でてしまったが幸いにも喜んでくれた。

 僕は子供扱いされるのは嫌だが、別に子供が嫌いなわけではないのである。

 

 何より、一目見て僕が高校生であると分かって呼んでくれたことが素晴らしい。

 自慢になりゃしないが、初見で僕を高校生だと見抜いた人は皆無だ。中学生ならまだマシ、大抵は小学生呼ばわりされるという屈辱である。

 

 ――誰かに高校生と呼ばれることが、こんなにも心地よかったとは!

 

 全く、同じピンク髪にして身長も同じくらいの、どこぞの悪の組織のメスガキとは大違いである。

 とはいえあのメスガキは、罵倒した上に泣かせまでしたのだ。それも彼女の部下の前であったのだから、面目丸潰れであったことだろう。

 だから、きっと今後接触は無いと思いたい。とはいえ、復讐される可能性は無きにしも非ずだが――まあ、その時はその時だ。

 いずれにせよ、すぐにどうこうはされないはず。

 

 ちなみに、その子を追ってきていたおじさん達は、僕を見て睨むように、同時に物言いたげではあったものの、結局何も言わずにどこかに行った。

 子供同士ならまだしも、追いかけていた対象が高校生の僕と接触したのだ。ならば諦めるという選択肢をとったのも納得である。

 

「あれ、引っ越しのトラックだ。……もしかして隣のおじいさん、引っ越すのかな?」

 

 などと幼女との邂逅のことを思い返しながら家のすぐ側まで来てみれば、隣家の路上にキャッチコピーが有名な引越し業者のトラックが停車しているのに気付いた。

 よくよく見れば、そこから少し離れたところで、近所のマダム達が屯している。

 所謂、井戸端会議という奴だ。何回か、僕も交じったことがある。

 誰々の引っ越しの話題など、噂好きの主婦にとっては見逃せない内容。何か知ってるかもしれない。

 

「ここのおじいさん、昨日までは普通に生活してたのにねぇ。何でも、今朝にはもぬけの殻で、空き家になっていたらしいわよぉ」

「まあ、本当? 夜逃げでもしたのかしら?」

「私、見たわよ! ここ数日、妙な人達がこの家の近くをうろついてるの!」

 

 ……中々にアレな内容だった。

 

 近づいてみればそんな会話が聞こえて、何とも言えない気持ちになる。

 おじいさん、そんなことになっていたのか。隣なのに全く気付かなかった。

 すると、そんな僕の姿を認めてか、マダム達の一人がこちらに向かって手招きをしてきた。

 

「こんにちは、皆さんお揃いでどうしたんですか?」

 

 そんな彼女達とは、実はちょっとばかりの顔見知りではある。

 とはいえ、多少立ち話をしたことがある程度で名前を知っているとかそこまで深い仲ではないのだが。

 ともかく近づいて挨拶をしてみれば、彼女達は早速情報をくれた。

 

「いえねぇ、この家に新しい人が引っ越してきたみたいなのよぉ」

「へー、引っ越しですか」

「そうそう、随分急よねぇ。今度の方は、まともな人だといいのだけどぉ」

「ですねー」

 

 不満、というか期待に便乗しつつ、僕はトラックに視線を向ける。

 その家に住んでいたのは、近所でも有名な頑固なおじいさんだった。とんでもなくヤバイ人でもないが、その頑固さと偏屈さで付近の住民から多少煙たがられてはいた。

 

 僕としても、時折怒鳴り声とかが聞こえる程度でそこまで大きく害はなかったのだが、一つだけ大層迷惑した点がある。

 それは、大量に入手した値引き品を、処理の一環として近所にお裾分けした時のこと。

 それ以降、早朝や真昼間、深夜とあたり構わず僕の家に突撃してきては、値引き品はまだかと要求されていたのだ。

 その度に僕は、「おじいさん一昨日あげたでしょ」と追い返したものである。それがなくなるのであれば、とても有難い。

 

 特に大した近所付き合いをしていないので、寂しくはない。むしろ、本音を言えば迷惑していたので助かった面すらある。

 

「……あれ、そういえば今日はあのおばさんはいないんですね。こういう話題には、真っ先に飛びついてきそうなのに」

 

 近所でも有名と言えば、この家から僕の家を挟んだ向こう。

 僕にとってのもう一つの隣人である、噂好きのおばさん。喜々として現れそうな人物が、マダム達の輪にいない。

 そのことを、僕が意外そうに指摘すれば。

 

「ああ、実はねぇ。あの人も、どうやら引っ越したらしいのよねぇ」

「そうそう、私もびっくりしちゃった。ほら、向こうにも引っ越しのトラックが見えるでしょう? あちらの家にも新しい人が来たみたいなの」

 

 何とも予想外な返答。そんなことがあるだろうか。

 しかしマダムの指差す方向を見れば、確かにロゴマークが有名な引越し業者のトラックが停車しているのを確認できた。

 

「へー、昨日までは元気に噂話してるの見ましたけどね」

「そうなのよ! でも私、見たわよ! あっちの家の近くで、スーツ姿の人たちがうろついてたのを!」

 

 こことは反対の隣家には、近所でも有名な噂好きのおばさんが住んでいた。その人はともかく噂話が大好きで、マダム達の路上の集まりには必ずといっていいほどその姿があったものだ。

 言うなれば、井戸端会議のリーダー的存在だったと言っても過言ではない。

 

 その人は、どこから仕入れたのか知らないが色んな噂を知っていた。

 真実味のあるものから、明らかに嘘だと疑うようなものまで。

 

 ――悪の組織の幹部が住む家と正義のヒーローが住む家に挟まれた家があるらしい。

 

 例えば、こんな噂もそう。それを聞いた時、内心鼻で笑ったのを覚えている。

 全く、馬鹿馬鹿しい。バカゲーの世界といえど、流石にそんなのはないだろう。全国各地に悪の組織や正義の組織があるといっても、それでも一般人の方が全然多い。一体どんな確率だ。もしもあったとしたら、バカゲーここに極まれりである。

 そんな家があるなら、是非ともそこに住んでいるの人の顔を拝んでみたいものだ、と当時の僕は思ったほどである。

 とまあ、そんな馬鹿みたいな噂を発信する程度には信憑性は保証されなかったわけで。

 

 ちなみに、何度か井戸端会議に参加したことある僕にとっては、まだおじいさんよりもおばさんの方が親交があった。

 明らかに嘘みたいな噂でも、面白いものもあったから少し寂しくも感じられる。

 

「そういえばあの人、君のことを『高校生というのは実は嘘で本当は小学生』って噂してたわねぇ」

「あ、それ私も聞いた聞いた!」

「そうそう、あちこちで言ってた気がするわ」

「……何ですと?」

 

 前言撤回。なんてとんでもない嘘を流布してやがるんだ。

 

「違いますからっ! 僕は正真正銘、高校生ですから!!」

 

 半信半疑、といったようにこちらを見つめるマダム達に必死に弁解する。

 全く、何ておばさんだ。もっと早く知っていれば、雪辱を晴らしてくれようと考えたと思うが、しかしその機会は失われたということになる。

 でも、今度は自分が噂される立場になったわけだ。そう思えば少し溜飲が下がった。

 

 どんな人が新しく住むのか微塵も興味がないわけではなかったが、詮索も野次馬もするつもりはない。取り敢えず変な人じゃなければいいな、と思いつつマダム達に会釈して、僕はその場を離れる。

 いずれにせよ、二軒同時にお隣さんが入れ替わるのである。

 偶然もあるものだなと思いつつ、僕は家の鍵を開けるのだった。

 

 

 

 ――ピン、ポーン。

 

 夕方、家でくつろいでいると、インターホンが来客を知らせた。

 

「はーい」

 

 誰だろうか、と玄関を開けるとそこには。

 とても背の高い、金髪の外国人の女性がいた。

 見上げれば、サファイアブルーの瞳と目が合う。

 

「……ワオッ! やっぱり、ベリーベリーキュートネ」

「あの、どちら様ですか?」

 

 見覚えはなく、知らない人だ。

 仮にこんな知り合いがいたとしたら、間違いなく忘れはしないだろう。

 

「ハーイ、コンニチワー! ワタシ、今日からお隣に引っ越してきた、エレナと言いマース!」

 

 どうやら、例のお隣さんらしい。かなり快活な人のようだ。

 うん、パッと見た感じはまともな人そうでよかった。律儀に挨拶に来てくれたというのは好印象である。

 

「どうも、隣に住んでる者です。……なんでも、今日お引越しされたとかで。わざわざ、ありがとうございます」

「ノープロブレムデスネー! ウフーフ、ワタシもこの時を楽しみにしていましたデース!」

 

 その言葉は嘘ではないようで、傍目からも分かるほどに彼女――エレナさんはわくわく、きらきらと顔を輝かせて僕を見下ろしている。心なしか頬が紅く、それは夕陽のせいなのか、はたまたそれほど高揚しているということなのか。

 確かに、新しい環境での生活というのは心躍るものだろう。経験したことはないけど。

 と、そんな風に僕が彼女の事情に思いを馳せていると。

 

「オー、ソウデシター! コチラ、引っ越しのご挨拶のプレゼンツデース! お近づきの印に受け取ってクダサーイ!」

 

 エレナさんがその手に持っていたものを、ずいと僕に向かって差し出してきた。

 ……いや、ずっと何だろうとは思ってたんだ。もしかすると荷物の整理中で、ついそのまま挨拶に持ってきちゃったお茶目な人の可能性を考えていたけど。

 

 なにせ、彼女が引越しの挨拶として渡そうとしているのは――壺である。

 それも僕の身長の半分ほどありそうな、大きな壺だ。警戒を抱くには充分だった。

 

「……あの、これは何ですか?」

「とろろデース!」

 

 もしかしなくても怪しい商売筋の人間なのではないか。

 そう訝しんだ僕であったが、しかし返ってきたのは思いもよらない返答だった。

 

「……とろろ?」

「そうデース! 白くて粘り気のある、最高のどろどろジャパニーズフードデース!」

 

 引っ越しの挨拶であれば、引っ越し蕎麦というのが定説だが。

 まさかの、トッピングの方。

 壺の中を覗いてみれば、成る程。確かに白くて粘り気のある物体というか流動体というか――ともかくとろろらしきものが壺いっぱいに揺らいでいた。

 

 考えてみれば、とろろというのは意外と実用性が高い。

 蕎麦やご飯にかけるのは勿論、肉や魚、汁物にだって使える。

 面倒な一手間要らずで、ただかけるだけであら不思議。違った一品の完成だ。

 

 ――なんて、素晴らしい人なんだ。

 

 感心する。なんなら怪しく思っていた少し前の自分をぶん殴りたいくらいだ。

 引っ越し当日に挨拶に来てくれたことに加え、実用性のある贈り物。

 改めてエレナさんを見上げれば、日本人とはまた違った美貌が、一切の悪意なくニコニコと僕を見つめている。

 それに何といっても、身体の大きさ。男性でも高い部類に入るであろうほどの身長に、肉付きのよい恵体、街中を歩いていれば嫌でも周囲の視線を引き寄せてしまうであろうボンキュッボンな胸部と臀部。

 まさに、アメリカンなダイナマイトボディ。

 

 翻って、己の矮小さときたら。

 嫌でも痛感させられる、この小学生と間違われる身体。

 そう考えると、意識せずとも目の奥が熱くなるのを感じた。

 

「ど、ど、どうしまーしタカ? もしかして、とろろ嫌いでしタカ?」

 

 そんな僕の様子を不審に思ったのか、彼女は少し屈むようにして近づいてくる。

 

「い、いえ……すみません。大丈夫です、何でも」

「そんなワケありまセーン! 遠慮することなく言ってくだサーイ!」

「……でも、こんなこと急に言ったら、きっと困らせてしまう」

 

 そうだ、こんなことは言えない。

 ああ、神よ。何故、どうしてこんな不条理が罷り通るのですか。

 

「ノープロブレムデース! 何を言われてもワタシは構いまセーン!」

 

 エレナさんの顔が、僕に近寄る。

 心なしかその鼻息は荒い。それほど心配してくれているということだろう。

 そこまで言うのならば、仕方がない。僕だって、この思いを胸に秘めたいわけじゃないのだ。伝えられるなら、この不条理を誰かに伝えたいのだから。

 

 だから僕は訴える。涙が零れ落ちそうになるのを堪えながら。

 

「――僕、貴方の子供になりたかった」

 

 だってそうすれば、高身長が約束されていたといっても過言ではないのだから。ついでにイケメンになるであろうことも。

 

 

 ――――

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、女――エレナはガツンと頭を殴られたかのような衝撃を受けていた。

 

 少しばかり俯いた顔。

 キュッと口元は何かを我慢するかのように固く結ばれ。その瞳は堪えるように涙を湛えて潤んでおり、今にも流れ出しそう。

 

『貴方の子供になりたかった』

 

 そのような言葉を、これまでエレナがかけられたことは当然ない。

 故に、その事実を脳が理解するまでに数秒を要し、その意味を考えるところから彼女は始めなければならなかった。

 

 普通に考えれば、叶わぬ願いである。

 既にこの世に生を受けている以上、産まれなおすというのは不可能で。だからこそ、当人もなりたかったと形容しているのだろう。

 

 ……では、どのような意図を以てその言葉を紡いだのだろう?

 

 貴方の子供。つまり、それほど私を好きであるということ。

 子供になりたい。けれど、それはどうあっても実現できることではない。

 貴方の子供になりたい。それは、つまり。

 

「……っ!」

 

 せめて――貴方の子供を産みたい。

 

 エレナの身体を、スパークが走り抜けた。

 リーン、リーン、と教会のベルの音が壮大に脳裏に鳴り響く。

 

 彼女は理解した。理解してしまった。

 その言外に込められた、少年の願いを。

 そう、それこそは。

 

 ――プロポーズですネーー!

 

 つうっと、鼻の奥から熱い何かが伝ってくるような気がした。

 それを認識した彼女は、すぐさま右手で鼻と、ついでにニヤけた口元を覆い隠すようにして慌てて上を向く。

 そして気合で、流れ出てこようとするそれを抑え込んだ。

 

 今はプライベート、変身していないとはいえ、ヒーローたる己が無様を晒すわけにはいかない。

 その一心である。

 そしてそれが功を奏し、溢れ出ようとしていた彼女の一部は止まった。

 

 そうか、だから彼は口籠ったのだ。

 

 遅まきながら理解する。

 お互い何も知らない初対面――少なくとも少年にとっては――であるにも関わらずの求婚。

 言い淀みもするだろう。勇気がいることだろう。

 可愛い見た目ながら、なんと情熱的。だが――実に彼女好みだ。

 

 その間、数秒とも無い僅か一瞬の出来事。

 すぐさま彼女は、何事もなかったように返事――つまりはYESを告げようと少年に向き直り。

 

「……眼福デース」

 

 ――ブパッ!! と。

 

 抑え込めたはずのそれが、今度こそ噴水のように勢いよく飛び出した。

 何故なら少年の全身には、真っ白で粘り気があってどろどろとしたものが付着していたのだから。

 その正体は、なんのことはない。エレナの持ってきたとろろが、彼女の大きな動きの反動で壺から飛び出して降りかかってしまっただけである。




次は、二人目の隣人編です。
その次は、正義視点と悪視点の掲示板形式の話を予定してます。

とはいえ、本作は割と適当なノリで書いてまして。
メインで書いてるのは別作品の投稿なので、こちらは不定期更新になりますがよろしくお願いします。
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