秋葉原のPC専門店から鼻歌交じりで出てきた中肉中背で黒髪の青年「道睦長久(みちむつながひさ)」は手に提げた紙袋を見てその顔を緩ませっぱなしだった。
「思ったより値が張ったけど頑張った甲斐があったなぁ」
バイトとお年玉で温かかった筈の懐は家に帰る頃には寒々とした物になっていたが、俺は満足していた。PCと言えばやっぱり秋葉原の電気街だ。自作PCを作る為のパーツに最新機種であるPC-9801Nを買い揃えた事で財布の中には帰りの電車代しか残ってないが俺はルンルン気分で家に帰る為に駅に向かって歩いていた。
「ん?」
駅に向かう途中で車椅子の男性が横切る姿を見つけ俺は足を止めた。
(……こんな所を車椅子で、大丈夫なのか?)
秋葉原は決して人が多い街では無いが、車椅子で移動するには些か厳しい街だ。腕に下げていた紙袋と車椅子の男性を交互に見た後に俺は車椅子の男性の下へ歩き出した。
「大丈夫ですか?」
俺は正義感があると言うわけでは無いが、決して冷酷と言う訳ではないと思う。車椅子で思うように動けないでいる男性を見れば、誰だって助けたいと思うのは当然だと思う。それは偽善と言われるかもしれないが……それでも俺は目の前の男性をほっておけなかった。でもこの時の選択が俺の運命を大きく狂わせる事になる。良く考えれば回りに沢山に人がいるのに誰1人その男性に声を掛けなかった事を俺は少しも疑問を抱かなかった。むしろ人がその男性を避けていると気付くべきだったのかもしれない。
「ああ、すまないね。少し押してくれないか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
紅いスーツを着た男性が座っていた車椅子を押しながら歩き出す。
「どこまで行きますか?」
「そこまで遠くないんだ。少しだけ押してくれれば良いんだ」
どこに行くかとではなく、少しだけ押してくれと言う男性に不思議に思いながらゆっくりと車椅子を押す。
「君はパソコンに興味があるのかな?」
「え、あ。はい」
突然の問いかけに驚きながら返事を返すと車椅子の男性はそうかと呟き、また黙り込んだ。何とも不思議な雰囲気の男性だと思う……目の前にいる筈なのに、どうも存在感が薄いと言うか……本当に目の前にいるのかと不思議に感じる。
「ありがとう。もう良いよ」
「え? ここで良いんですか? 別に良いんですよ? 気にしなくても」
「いや、本当に良いんだ。この雑居ビルで人と会う約束があってね」
人の気配のない雑居ビルの前で人に会う約束があると笑う男性。人の気配はないが真新しい雑居ビルの姿にもしかしてこの男性はこのビルで店か何かやるのだろうかと推測していると男性が懐からフロッピーディスクを取り出して差し出して来た。
「お礼だよ、これには私の作ったプログラムが入っているんだ。君がパソコンに興味があるのなら、頑張って解析してみるといい。きっと君の力になってくれるはずだよ」
やっぱりこの人はこの雑居ビルの新しい入居者なのだろう。自作でプログラムを作る程ならこの人の店はパソコンの店かなと思いながらフロッピーディスクを受け取る。
「ありがとうございます!」
「いやいや、私こそ助かったよ。ありがとう」
にこにこと笑う男性に頭を下げ、俺は再び帰路に就く為に歩き出すのだった。
「あれが君が選んだ人間かい? STEVEN」
「やぁ、思ったよりも早かったね、ルイ。そうだよ、私が選んだのは彼だよ、きっと彼らの味方になってくれる筈だ」
車椅子の男性をSTEVENと親しげに呼ぶ金髪の男にSTEVENもまたルイと親しげに返事を返す。そして一陣の風が吹いた時STEVENとルイの姿はいずこへと消え去っているのだった……。
1周目の世界 孤独の女神 第1話へ続く
と言う訳で今回は短いですがここまです。流れ的に判ると思いますが一応真女神転生基準の1990年代ごろをスタート地点としたいと思います。余り書いた事がないテーマですが、ループ物になるのかな? と言う所ですね。まだまだ書き始めでどんな展開にするのか明確に決まってはいませんが、あらすじに書いたとおり色んなメガテン作品に絡めた話を書いて見たいと思います。次話も続けて投稿するので、次の話もよろしくお願いします