5週目の世界 偽りの千年王国 その25
それは突然の襲撃だった。大量の堕天使と魔獣系の悪魔の軍勢によるヴァルハラエリアへの襲撃に俺達は完全に浮き足立ってしまった。
「くそがっ! どうなってやがるんだッ!」
「本当よ! こんな事あり得ないのにッ!!」
ヴァルハラエリアの警備は厳重だ。MAGレーダーに、簡易の結界とダウンタウンには容易には侵入出来ないように様々な対策をしていた。街の付近に来ればすぐに警報が鳴るようになっていたのに、この悪魔の軍勢は3つある警戒網の全てをすり抜け、最終防衛線の前に現れた。
「お下がりください」
【マハンマオン】
「やれやれ、戦いは覚悟していましたが……初戦としてはかなり厳しいですね」
【刹那五月雨撃ち】
アマネの昇天魔法とタカヤの銃弾の嵐が悪魔達を消し飛ばすが、すぐにガギソンやグール達が倒された悪魔の隙間を埋める。
「おかしいですね、倒しても倒してもすぐに補充される……間違いなくこれは誰かが召喚していますよ」
「だろうな。ただこれだけの悪魔使いがいるとは思えんが……」
「駄弁ってねぇで手を動かせッ! ストーン系のアイテムでも投げまくれッ!」
この状況でくっちゃべっている幾月を怒鳴りつけながらラスタキャンデイを頬張りそのまま噛み砕き、身体に力が漲ってくる。
「効果が切れた後しんどいわよ」
「わぁってるッ! だがここを突破される訳にはいかねえだろうがッ!」
ここを突破されれば一気にヴァルハラエリアに侵入される。ここだけはなんとしても死守しなければならないからこそ、後で地獄を見ると分かっていてもラスタキャンデイを噛み砕いたのだ。
「ぜぇ……ぜぇ……くそったれッ!」
「少し休みなさいレッドベアー。岡本! 少し下げるわよッ!」
「おう! そうしろッ!! おらおらッ! 俺を抜けると思うなよ!」
現役時代ほどの身体の切れはないし、動きも軽やかでは無いがそれでもそう簡単に突破されるほど耄碌したつもりはねぇ。
「長久に連絡を取ってる! 後少し踏ん張れッ!」
「了解ですッ!」
「やるしかないですね」
「無冠のチャンピオンの力に期待するとしましょうかね」
全員が装備も準備も禄に整っていない状態で戦っている。それでも皆が自分に出来る全力で防衛線を維持しようとしているが出現する悪魔はどれも強力なものばかりだ。
【ケケケケーッ!】
【マハジオンガ】
【キッシャアアッ!!】
【ガアアアアアッ!】
【丸かじり】
空を飛び、マハジオンガを連発してくるガギソンによって感電させられ、動けなくなったところを屍鬼や魔獣系の悪魔が襲ってくる。動ければ防具で防ぐ事も出来る攻撃だが感電している事で上手く防げず負傷者がどんどん増えている。
「踏ん張れよっ! 後少しで「岡本さん! フォルネウスやサンダーバードがでました!」んだと!? 寄越せッ!」
双眼鏡で確認すると確かにエイに見える堕天使フォルネウスと機械鳥に見える霊鳥サンダーバードの姿が遠目に見える。
「ちょっ!? 玄武とかハヌマーンまでいるんだけど!?」
「くそがあッ! どうなってやがるんだちくしょうッ!!」
アイスブレスを使うフォルネウスとサンダーブレスを使うサンダーバードは勿論だが、マハブフーラやブフダインを使う玄武に強力な物理を使いこなすハヌマーンまで加われば今の戦力では抑えきれない、だが諦める訳にはいかない。
(ここが俺の死ぬ場所か? はっ! ならやれるだけやってやらあッ!)
どう足掻いても勝てる相手ではない、だが時間稼ぎくらいはと死を覚悟したその時だった俺の視界に影が落ちたのは……。
「皆下がってくれ! 行くぜパスカルッ!」
「アオーンッ!!」
下がれと叫ぶ長久の声と共に魔獣の咆哮が聞こえ、反射的に俺達は走り出した。デビルバスターとしての勘がこのままでは死ぬと叫び、危険だと分っていたが悪魔に背を向けて俺達は走り出していた。
【極・紅蓮忠義斬】
空中から降り注いだ炎の斬撃によって切り裂かれ、燃やされた悪魔達の絶叫と溢れ出すMAGの光の中、俺達の前に長久とリーナが降り立った。
「すいません、遅れました」
「……ここからは私と長久で先陣を切る」
「遅いんだよ馬鹿野郎ッ!」
炎とMAGに照らされる長久とリーナの姿に助かったという安堵はあったが、それを素直に口には出来ず、照れ隠しで俺は馬鹿野郎と怒鳴ったのを最後に限界を向かえ、その場に尻餅をついて倒れ込み、羽田達が長久に声を掛けているのを聞きながら数年ぶりのMAGの枯渇による倦怠感で、意識を保つのが限界を向かえ、長久の戦いを見届ける事が出来ずに意識を失うのだった……。
ヴァルハラエリアに向かっている悪魔の群れは堕天使や妖魔、魔獣の中でもかなり上位の存在ばかりだった。
「パスカル! 岡本さん達を守れるか?」
「グルウ!」
ハスキー犬の姿ではなく、ライオンほどの大きさに巨大化したパスカルが勇ましく吼えるので、任せるぞと口にして赤口葛葉を手に地面を蹴って走り出す。
【キキーッ!!】
【怪力乱神】
俺に気付いたハヌマーンが地面を蹴って俺に向かって飛び掛りながら手にしている剣を振り下ろしてくる。角度、スピード……どれをとっても1級品であり、並みのデビルバスターなら避けることも防ぐ事も出来ずに両断されかねない一撃だった。
「遅いぜ」
だが変態褌マンとビシャモンテンと比べればハヌマーンの一撃は余りにも遅かった。ギリギリで横に動いて怪力乱神を回避し、赤口葛葉を振るう。
【ギギッ!!】
完全にクリーンヒットした筈だがハヌマーンはピンピンしていてダメージが通っているように見えなかった。それに手応えも妙だ、まるで羽毛を切ろうとしたかのように手応えがまるで無かった。
「耐性……いや、無効か? おかしいな」
ハヌマーンは物理に強いが、完全に無効化するほどの耐性では無かったはずだ。
「……長久、フォルネウスにジオが通らない」
リーナがフォルネウスにジオが通らないと不満そうに呟き、バスターブレードでフォルネウスの鰭を斬り飛ばす。
「サンダーバードにもザンが通りませんねぇ」
「この悪魔達は弱点が上手く通らないようです。何か策はありますか?」
タカヤとアマネも思うように攻撃が通らないようで何か策はあるかと問いかけてくる。だが確かにこれは異常なことだ、自然発生の悪魔が弱点を克服しているということはまずあり得ない、悪魔合体などで耐性を付与すれば弱点が消えることはあるが、自然の悪魔でこれはありえない。だがこれだけの悪魔を使役出来るだけのMAGを持つ者も、コントロールする術を持つ悪魔使いもセンターにいるとは思えない。
「弱点をつかず、全力でぶっ潰すそれだけだッ!!」
【キキーッ!!】
飛びかかって来たハヌマンの一撃を回避し、大口を開けて威嚇するハヌマーンの口の中にコルトパイソンを捻じ込む。
「身体は丈夫でも中はどうだ?」
【ギギャアアッ!?】
身体が丈夫でも、中はそうではない。中に銃弾を撃ち込まれたハヌマーンが絶叫してのた打ち回る隙を付き、赤口葛葉の刀身を指でなぞると刀身が赤く染まり、紅く燃え盛る赤口葛葉を振るいハヌマーンの首を跳ねると、ハヌマーンはMAGの光となって消滅する。
「……なるほど、簡単で良いね」
「それ蛮族思考が過ぎませんかね? いやまぁ、それしかないって分ってはいるんですけどね」
「死ぬわけには行きませんからね、とにかく数を減らしましょうか」
弱点を克服している悪魔ともなれば力づくで倒すしかない。ヘタに弱点をつこうとして魔法を多用すればいつか息切れを起す、それに反射してくる可能性もあれば1番の解決策は補助魔法で自分を強化して力づくで倒すことしかない。だが悪魔が何時までも召喚されればこっちが先に力尽きるのは目に見えている。
「魔よ! 光の中に消えなさいッ!」
【マハンマオン】
「やれやれ、これを使うのは余り好きではないのですがね」
【マハムドオン】
アマネとタカヤがマハンマオンとマハムドオンを使ってくれたことで一度目の前が完全に開けた。再び悪魔による壁が作られる前にこの状況を打破するために俺は即座に動いた。
「オンッ!」
指を噛み切り、空中に印を結び、言霊を告げる。それによって周囲のMAGの流れを読み取る。
(どこだ、どこにいる)
ファクトリーエリアにもあった召喚陣か、あるいは召喚しているサマナー、もしくは召喚する機械……そのいずれかがこの近くにある筈だと意識を研ぎ澄ます。そして不の念が噴出している場所を見つけた。
「見つけた! 少しだけ時間稼ぎを頼む! パスカルッ! 跳んでくれッ!!」
「バウッ!!」
岡本さん達を守ってくれたいたパスカルを呼び、パスカルの背中に飛び乗るとパスカルが地面を力強く蹴り上空へと跳びあがる。
「いっけえッ!!」
赤口葛葉にMAGを通し、その形状を槍へと変化させ不の念が集束している場所に向かって投げ付け、MAGの刃が不の念の中心を貫くと同時に澄んだ音が鳴り響いた。
「……ッ! ジオが通るッ!」
「ザンもですね、このまま一気に殲滅するとしましょうかッ!」
弱点を無効、あるいは耐性を得ていた悪魔の守りが消え、無尽蔵に出現していた悪魔も追加で現れる様子もない。
「パスカル! 行くぞッ!」
「バウッ!!」
【極紅蓮忠義弾】
パスカルの魔力が手にしているコルトパイソンに宿り、放たれた劫火が視界を埋め尽くしていた悪魔達の中心で炸裂し、悪魔の群れを纏めて消し飛ばし、この一撃によって劣勢に追い込まれていた俺達は少しずつ戦線を押し返していった。
「……おわった」
「疲れたな……」
「ふーなんとか街を守れて良かったです」
強力な悪魔との戦いに疲れ、倒れこむリーナ達を横目に俺は自分が破壊した不の念の中心へ埋められていたものを調べ、その目を見開いた。
「なん……だと、何故これが……」
不の念の中心点に埋められていたのはCOMPだった、だがそれに刻まれていたマークはジャック部隊の印だった。
「馬鹿な……いや、まさか……俺以外にもいるのか……」
前の世界の記憶を持った誰かがいるかもしれない、その可能性に俺は言葉を失ったが、それ以上に絶句したのはその後だった。
「お前が! お前が私の場所を奪った! 許さない、私はお前を許さない!」
「……酷い言いがかりッ」
「うるさいッ! 私が、私があの人の隣に立つ筈だったんだッ! それをお前が、お前がッ!!」
「……違う、長久の隣は私の物」
「黙れッ!」
「……そっちこそ黙れッ」
リーナと瓜二つの少女が互いに口論をしながら剣を振るい、どういうことと言わんばかりに見つめてくる羽田さん達の視線に俺自身がどういうことなのかと知りたかった……。
「長久によって召喚陣と魔法陣が破壊されたようです」
「そうですか……まぁこれは想定内、長久が戻る前に決着をつける事が出来なかった段階で失敗するのは分かりきっていますしね。すいません、ミスター」
「いやいやいや、全く問題ありませんとも、それに私としても我が王が健在であるのを見れたのです。機械が壊れたことなどどうでも良いですとも!」
「そう言って貰えると助かります。ミスタージャック」
センターの司令室で司祭と話している男……それは紛れも無く、シュバツルバース調査隊に幾度と無く攻撃を仕掛け、峰津院長久の死因となった男ジャック大佐だった。だがその影は人間とは程遠い異形と化しいた。
「いえいえ、貴方達が私の要望を聞き入れている限りいくらでも技術提供をしますとも! デモニカに悪魔召喚プログラムに悪魔……いえ、天使人間を作るノウハウもその全てを提供しますとも!」
「それはありがたい、これからも良い関係を築きたいですね」
司祭とジャックの間に良い関係などありはしない、互いを利用するから利用する。そこに信頼関係などある筈も無い。
(さてさて、我が王は我らが用意した番を気に入っていただけるでしょうかね)
リーナと彼女にそっくりな少女に挟まれている長久を見てジャックは楽しそうに笑みを浮かべるのだった……。
5週目の世界 偽りの千年王国 その26へ続く
ここでテコ入れ、前回のDSJのジャック大佐がINしました。正し、人間ではないようですので、人間の振りをした悪魔などの可能性もあると思っていただけると嬉しいです。次回はダレスを出して意向と思いますが、リーナの対なので彼も彼女になってもらおうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。