収束×集束×終息する世界   作:混沌の魔法使い

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5週目の世界 偽りの千年王国 その27

 

5週目の世界 偽りの千年王国 その27

 

センターへの移住が決まる時よりもコロシアムから響く歓声は凄まじい物だった。見目麗しい双子にしか見えない少女同士の戦い、そして……。

 

「お前を殺す」

 

「……黙れ、長久の隣は私の物だ」

 

「盗人猛々しいとはこのことだな」

 

「……ひんにゅー」

 

「……死なす」

 

「……かかって来いまな板」

 

「……大きければ良いと思うなよぉッ!!!」

 

勝負の前の舌戦で完全に負けたダレスが声を荒げ、それを見て勝ち誇っているリーナに頭が痛くなった。

 

「何をしてるんだ……」

 

「お前の嫁候補が争って……ぐふっ!?」

 

「殴りますよ、岡本さん」

 

「もう殴ってんじゃねぇか……」

 

岡本さんを殴ってから溜息を吐き背もたれに背中を預ける。

 

「モテモテですね~長久さん」

 

「止めろ。その蔑んだ目で俺を見るな」

 

「いえいえ~? そんな事はないですよ?」

 

アオイの目が物理的な威力を持っているように思えるし、黙り込んで何かを考えているミズキも、アオイと同様の冷めた目をしているのがとても痛い。

 

「で、どっちが勝つと思ってるの? いざと言う時に割り込める位置に陣取ったことを考えるとダレスかしら?」

 

羽田さんの言葉にまさかという顔をするアオイ達を見ながら俺は買って来ていたペットボトルの封を開けた。

 

「6-4でダレスだと思ってる、ダレスが悪魔召喚出来なければ8-2だが……2人の能力はほぼ互角だ」

 

デモノイドオラクルスを同時に召喚し、補助魔法を掛けさせると同時に突撃した2人の振るった刃がぶつかり合い凄まじい火花を散らす。

 

「悪魔召喚プログラム……いえ、でもあれは適合者が極めて少ないはず」

 

「ダレスの後にいる奴は簡易版の悪魔召喚プログラムを持ってるんだよ。俺が警戒するのも分るだろ?」

 

悪魔召喚は今まで使えたのはリーナだけだった。だがテンプルナイトも使い出し、ダレスも使える。恐らくだがデモニカスーツの悪魔召喚プログラムに細工してこの時代の人間でも使えるようにしているのだろう。

 

「悪魔召喚プログラムのアドバンテージを失ったとなるとリーナは少し不利か」

 

「……認めたくはないですけどね。苦しいと思います」

 

リーナは戦闘技術は高いが小柄で体力と膂力に劣る。それに対してダレスは大柄だ。間違いなくリーナよりも体力も力もある。悪魔召喚という切札が切札たりえない以上リーナの切札は俺が教えた葛葉の術になるが……ダレスも間違い無く分かっているから使わせないだろう。

 

(……やってくれるぜ、ジャック)

 

同じ能力を持っていて、戦闘力が互角であってもそれを超えるのは気持ちだ。そしてダレスには奪われた場所を奪い返すという強い気持ちがある。ジャックは間違いなく精神誘導をしている歪められ俺に対して異常な執着心をもつダレスはリーナにとっては苦しい相手となるだろう。

 

「どこへ行くんだ?」

 

「ちょっと野暮用だ。すぐに戻る」

 

そう言い残してコロシアムの通路へと足を向け、銅像が飾られている通路へと歩き出す。

 

「いるんだろ? 出て来いよジャック」

 

誰の気配もない、だが俺にはいるという確信が合った。コロシアムに足を踏み入れた時からその視線を感じていた、粘っこいその視線を俺は覚えていた。

 

(覚えていたい事は忘れているのに忘れたいことは覚えてるんだよな)

 

「君がそう望むなら君の前に立つとも! 久しぶりだね、私は君に会いたかったよ我が王」

 

「俺はお前になんざ会いたく無かったよ」

 

闇の中から盛り上がるように現れた壮年の男。ジャックの白目と黒目が反転したその異常な双眸を見据えながら俺はホルスターからコルトパイソンを抜き放ちジャックにへと向けた。

 

「やめたまえよ。つまらない脅しはね、それとも今の「弱体化」している状態で私に勝てるとも?」

 

「……」

 

「死神が今はいないんだろ? 死神がいなければ君は本来の強さを発揮出来ない」

 

どこまで知ってると思いながらコルトパイソンをホルスターへ戻す。ジャックの言う通り俺には今死神の足音が聞こえない、それは俺の死がまだ遠い事を意味し、それと同時に本来の強さを失っている事を意味していた。

 

「今日は君が望んだから顔を出した。それにこんな暗い場所は王を向かえる場所には相応しくないじゃないか」

 

「俺はお前らの王じゃない」

 

「何れはなるとも、今度は相応しい場所で会おう。そう古き神が眠る地の底で私は待っている。ああ、そうそうどうか眩い光には気をつけると良い、天使を名乗る俗物はくだらないシナリオしか描きませんので」

 

そう告げるとジャックの姿は溶けるように消え、MAGの痕跡だけがその場に残っていた。

 

「……厄介な事になった」

 

天使とセンターだけでも厄介なのに、キチガイまで加わって来た。正直この状況なら何時死神の足音が聞こえて来てもおかしくないのにまだ聞こえない。

 

「悪趣味だな、神様とやらは」

 

俺に何をさせたいのか、因果の鎖とやらで俺の魂を雁字搦めにしてくれた神様ってやつは本当の悪趣味だと呟き、薄暗い通路に背を向けて岡本さん達が待っている観客席へと引き返し、暗い通路を出た時に遠くに見える光を見た。

 

「……くそがっ!」

 

それは天使の大軍、それが何をするか分かりきっていた俺は今正にトドメを繰り出そうとしていたリーナとダレスを見て舌打ちした。マハンマオンとマハムドオンは魔反鏡かテトラジャで防げるが、そちらを防げばリーナかダレスは致命傷を負う事になる。ダレスには聞かなければならないことがあるからダレスとリーナの両方の生存が必要だった。

 

「ちいっ! これしかないかッ!?」

 

天使の目的はリーナとダレスの回収だと俺は踏んだ。マハムドオン、マハンマオンで命を刈り取ればリカームなどで簡単に蘇生できる。リーナとダレスという天使が計画している人造メシア計画において最高の素体を確保する為に動き出したと判断した俺は2人の戦いを止める為に2人の間へと飛び込むのだった……。

 

 

 

袈裟、逆袈裟、突き、薙ぎ払い……その全てが鏡合せの様にぶつかる。同じ技、同じ威力を持つ攻撃だが少しずつ押し込まれていた。

 

「どうした? その程度か」

 

「……鬼札は隠す物」

 

鍔迫り合いから一気に脱力しダレスの剣を受け流しながら後にひっくり返り、ダレスを足の力だけで投げ飛ばす。

 

「ちっ!?」

 

投げ飛ばせた距離は決して遠い物では無いが、1度息をつくだけの距離は取れた。

 

(……強い、想定以上)

 

悪魔召喚をする隙はない、初手の補助魔法が無ければ詰んでいたと思うほどにダレスは強かった。

 

【もう出る?】

 

(もう少し待って、出方を見たい)

 

服の中に隠しているピクシーが私の今の切札だ。悪魔召喚が切札たりえなかった以上長久から教わった術を使うしか私にダレスを倒す手段は無かった。

 

(デビルバスターの基本戦術に何かが混じってる。その混じり物が厄介)

 

ダレスの戦闘は教科書通りの物だが、そこに何かが混じっている。それは悪辣で何でもありのテンプルナイトやセンターが使うとは思えないもの。初手の挑発で冷静さを欠いていなければ分析する間もなくイニシアチブを完全に取られていたと思いながらポーチの傷薬を飲み干し、片手で持っていたスライサーを構えなおす。

 

「シッ!」

 

「……ちっ!」

 

獲物は同じスライサーだが、ダレスはそれをフェンシングの様に使ってくる。何度も放たれる突きは厄介だった、突きから薙ぎと勢いに乗ったらダレスは止められない。

 

「……だからその勢いは止めれば良い」

 

「物反……ぐっ!?」

 

ポーチから取り出した物反鏡にダレスのスライサーが当たり、その衝撃をそのままダレスに弾き返す。

 

「……フッ!」

 

「あぐっ!?」

 

ダレスが体勢を立て直す前にダレスに飛びつき、右手首を圧し折る。反撃にダレスの左手の貫手に額を切られたが、このていどで住めば御の字だ。

 

「やってくれる」

 

「……お褒めに預かり光栄……じゃないか」

 

右手を奪ったが、そのかわりに額を切られて視界が半分塞がった。剣術よりも素手の白兵戦に秀でているダレスを相手に視界を失うのはかなりの痛手だった。

 

「視界を失って私を止めれると?」

 

「……出来るからしてる」

 

私の言葉にダレスは小さく怒りを見せ、スライサーを投げ捨て左手を握り締めた。

 

「ならばやってみろ!」

 

ダレスが地面を蹴って突進してくる。正直視界が半分潰れている私には見切れない超スピード。

 

「……見えないなら見なければ良い」

 

ポーチから取り出した袋はアギダインストーンを削って作った粉末。粉末と言えどアギダインの力を込められた石を削って作ったこれは最高レベルの爆薬と同意義だ。

 

「貴様!?」

 

私の目的に気付いたダレスが減速しようとするが、自爆に巻き込むつもりなのだから逃がすつもりはない。

 

「……どかーん」

 

そして私とダレスのMAGに呼応し、アギダインストーンの粉末は赤熱化し、私とダレスの丁度中間で大爆発を引き起こした。

 

「げほっ! ごほっ! いったあ……でもこれで……」

 

【行けるねッ!】

 

【スクカジャ】

 

【スクンダ】

 

【偽・雷電忠義斬】

 

ピクシーのジオを受け、放電を繰り返すスライサーを持ってダレスへと駆け出す。

 

「私は、私は……こんな所でええッ!」

 

残された左手を握り締め雷電忠義斬を迎え撃とうとしたダレス。だが素手で防げるほどこれは甘い……。

 

「「え?」」

 

私とダレスの間抜けな声が重なった。ダレスを切り裂く筈の刃は長久の肩を捉え、ダレスの貫手は長久の腹を貫いていた。

 

「……2人とも終わりだ……ッ! それよりもこの場にいる全員早くこの場を出ろぉッ!!!」

 

魔反鏡を上空に投げた長久の怒号と共に上空から光が幾重にも振り注ぐ、長久を傷つけたことに呆然としている私達の視界に何かの影が落ちてきた。

 

【ハマブースタ】【ハマハイブースタ】【マハンマダイン】

 

【ムドブースタ】【ムドハイブースタ】【マハムドダイン】

 

上空から降り注いだ昇天と呪殺の光の雨にコロシアムに来ていたヴァルハラエリアの住民は半狂乱になって我先にとコロシアムの出口に殺到する。

 

「ち、ちが私は……ち、ちが」

 

「呆然としている暇があったら長久を運ぶのを手伝えッ!」

 

半ばパニックになっているダレスに向かってそう叫び、パニックになりながらも長久の肩に手を回したダレスと共に昇天と呪殺の光が降り注ぐ中を意識のない長久を連れて必死に逃げ出すのだった……。

 

「始まってしまった……いや、一部の天使の暴走か? いや、ともかく時間がない、急がなければ……」

 

コロシアムから響く悲鳴と降り注ぐ白と紫の光の雨をダウンタウンから見ていた1人の男性はこの混乱に紛れて動き出していた。その男の名は目加田。アオイの願いに賛同し、センターを離反し、センターに追われている科学者だった。

 

 

 

 

 

5週目の世界 偽りの千年王国 その28へ続く

 

 

 




ベスの死亡イベントを長久の負傷に変更しました。ここでベスに死なれると考えているシナリオに大きな影響があるので、ここからはセンターを明確に敵として動き出す感じで書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
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