収束×集束×終息する世界   作:混沌の魔法使い

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5週目の世界 偽りの千年王国 その28

5週目の世界 偽りの千年王国 その28

 

 

割り込む前にラスタキャンデイを噛み砕いていたから即死は間逃れたが、もう少しで左腕は切り落とされていたし、ダレスの貫手で貫かれた腹は奇跡的に臓器を傷つけていなかったが、瀕死の重傷なのに変わりはない。リーナもダレスもこの世の終わりというかついさっきまでエンドレスでごめんなさいと呟いて精神的に死に掛けていたがミズキに文字通り尻を蹴っ飛ばされてなんとか再起動をしてくれたようだ。

 

「……悪いが俺は暫く動ける状態じゃない。だがここでジッとしている訳には行かないのは皆も分ってるよな」

 

ダレスとリーナを戦わせ真のメシアを極めるという名目でコロシアムを開いたのにセンターはそこを強襲した。真のメシア云々よりも、センターは価値のある物を見つけたのだろう。

 

(あのクソちょび髭め……)

 

ジャックが俺の事を話し、センターはそれによって方針を変えたと考えるのが最も最有力だ。

 

「そこでだ。リーナとミズキ、ベスそれと……ダレス」

 

俺が呼ぶとダレスは大きく身体を震わせてからビクビクとした様子で顔を上げた。

 

「リーナ達に力を貸して欲しい。頼めるか?」

 

「……あいつに?」

 

「頼む。俺はこの通り動けないし、この手紙も無視出来ない」

 

いつのまにか岡本ジムの扉に挟まれていた短い手紙を見たから俺はリーナ達に別行動に出てもらう事にしたのだ。

 

『スラム街1階にあるガイア神殿の裏まで来てほしい 目加田』

 

「アオイ。目加田は信用出来るんだな?」

 

「それに関しては大丈夫です。それにこの状況で確実に味方と言える人間を疑っている余裕はありません」

 

確かにその通りだ。岡本さん達が呼んでくれた仲間にも間違いなくスパイは紛れている。いやもっと言えばジャックの息、あるいはルイさん達が戦っているという存在への協力者もいるかもしれない。そう考えればアオイがここまで味方と断言する目加田は信じても良い筈だ。

 

「分った……だがずっという訳には行かない」

 

「それでもかまわない。俺が動けるまでで良い」

 

ダレスは勿論、リーナ達も不服そうだったが、ここまで天使が動いていて、俺が動けないとなると味方は1人でも多い方が良い。

 

「リーナ。これを持って行け、俺と連絡が取れる」

 

紙に血文字を描き、息を吹きかけると紙は1人でに折りたたまれ、鳥の形になりリーナの肩へ止まった。

 

「……これは?」

 

「式神だ。遠隔操作が出来る人工の悪魔と思ってくれて良い、目加田の事は頼むぞ」

 

「……ん、了解。行って来る」

 

リーナ、ダレス、ミズキ、ベスの4人なら最悪は恐らく回避出来る。

 

「それで長久。ヴァルハラエリアとファクトリーに結界を張るっていうのはどうすれば良いんだ?」

 

「それについては今から説明しますよ。コロシアムのあの暴挙を見ればもう俺達に時間は余りないですからね」

 

なんとか防ぐ事が出来たが、マハムドダインとマハンマダインの波状攻撃は下手をすればヴァルハラエリアの住民が全滅していたかもしれない状況だ。センターがここまでしてきたのはもうヴァルハラエリアに価値を見出していない事を意味しており、センターに反発したファクトリーも間違いなく廃除される。

 

「ここからは時間との戦いだ。少しでも人類が生き残れる場所を作らないといけない、出なければ人類は生きていても人は存在しなくなる。それはなんとしても防がなければならない」

 

センターに従がう人間を人類とするのか? 自分の意志も何も無く、センターに死ねと言われれば死ぬような、自分達の生に疑問を抱かず、ただ命じられたことをするだけの存在を俺は人と認めない。天使達の思惑を打ち砕き、人間の尊厳を守る為の世界を救うために戦う事を決意する。

 

(ああ、聞こえて来たな。懐かしい足音だ)

 

そしてその決意と共に俺の耳には懐かしい死神の足音が響き始めていた……。

 

 

 

 

 

 

リーナ達を見送るまでは平然としていた長久だが、その姿が見えなくなると激しく咳き込み、咳き込む度にどす黒い血が長久が横たわるベッドを紅く染め上げた。

 

「大丈夫ですか!? 今回復魔法を「げほ……ごほ……い、いや……大丈夫だ。まだ、「まだ」俺は死なない、魔力は残しておけ」

 

自分よりも年上であろうマダムに強い口調で告げた長久は口元を押さえながらベッドに再び背中を預けた。

 

「しかし……」

 

「無意味なことをしなくて良い。俺はまだ死なない、それだけで十分だ。岡本さんには悪いが今俺が動けない以上信用出来る戦力はレッドベアーとアオイだけだからな」

 

「ストレートに言ってくれるな。長久よぉ」

 

「じゃあ、岡本さんは信用してます? タカヤとかを」

 

そう言われると俺も羽田も言葉に詰まった。確かにかつての仲間を集めたのは事実だ。

 

「いえ、正直言って昔の幾月とかじゃなかったわね」

 

「堂島は信用出来るけどな」

 

かつての目の輝きは無く、何かどす黒いものを抱えているかつての仲間を信用するのは正直に言って危険だと感じていた。だから今はヴァルハラエリアの周辺の防衛を頼み、俺達だけで対策会議をしていた。

 

「暗示か、憑依か、それとも自分の意志かは分からないですが完全に信用する訳には行かないでしょう」

 

「何かをトリガーにして仕込まれてる何かが発動する可能性もありますしね」

 

「そういう事だな。げほ……ッ! ごほ……ッ! 流石に……キツイな。それで一応聞いておきますけど、俺とアオイの素性知りたいですか?」

 

軽く咳き込み額に大粒の汗を流す長久だが、その目は爛々と輝いていた。強い意志の光、眩しいまでに輝くその光を見れば味方なのは明らかだ。

 

「別に聞こうとは思わねえよ。俺も羽田もある程度の予想はついてる」

 

「そういうこと、それに私達には無駄話をしてる時間はない。そうでしょ?」

 

長久が導き手なのは俺も羽田も理解している。だからこそ態々詳しく聞く必要はない、主役じゃないとしても、脇役だったとしても世界を救う戦いに参加できるだけで俺も羽田も満足だった。

 

「魔石をありったけ買ってきた! 次はどうすれば良い!?」

 

「ご苦労さん。じゃあそれをそのまま全部すり潰してくれ」

 

「分った!」

 

「俺も手伝うぜ」

 

「あたしもねえ」

 

羽田とレッドベアーと共に魔石をすり鉢で細かく砕く、魔石は結晶化したMAGとも言えるので砕くのにコツがいるがコツさえ掴んでしまえば簡単に粉末状に出来る。

 

「それでこの後は?」

 

「聖水に溶かし込んで、アギ、ジオ、ブフ、ザン、ハマ、ムドストーンの粉末と混ぜて塗料を作ります」

 

「そりゃまた骨だな。まぁやるけどよ」

 

魔石に対して魔法が閉じ込められているアギストーンなどの加工は難しいが、それでも俺みたいな年代の奴はその加工の作業に従事していたので混ぜ方は良く分かっている。

 

「レッドベアー、貴方は聖水を大量に買ってきなさい」

 

「分りました! 行って来ます!」

 

センターの暴走を見ていたヴァルハラエリアの住民は非常に協力的だ。自分達の街を守るため、そして自分達の命を守る為に出来る事を皆がしている。

 

「それでこの塗料を使って何を書くんだ?」

 

「結界ですよ。特別でかい結界を描きます。もしも、もしも俺の最悪の予想が当たっていたことに備えてね」

 

長久の言う最悪の予想に俺も羽田も長久の手当てをしていたマダムものその手を止めた。

 

「長久さん。貴方のいう最悪とは?」

 

「概念的な悪魔の召喚だな。真っ向から打ち破れない特殊な力持ちの悪魔がいるでしょう?」

 

「ランダとかギリメカラだな」

 

伝承や伝説由来の能力は魔法や体術では打ち破れない悪魔の強さの秘密でもある。その中でも物理反射の能力を持つランダやギリメカラはかなり厄介な悪魔だ。

 

「あたしはドッペルゲンガーとか苦手ね」

 

「ああ、俺もだな。俺と同じ能力に悪魔の能力が乗るから厄介にも程がある」

 

姿を真似て、自分の能力を上乗せするドッペルゲンガーとかも駆け出しのデビルバスターが殉職する理由の高い悪魔だ。

 

「概念能力によるヴァルハラエリアとファクトリーエリアの壊滅。それだけの規模を可能にするには相当なMAGが必要だ、多分……いや、ファクトリーの件は間違いなくその実験だった。だからそれを阻止する為の結界を描いて街ごと滅ぼされる事を回避します。そして安全な拠点を作ってから仲間を集めます」

 

とんでもなくでかい話になって来たが、年甲斐も無く俺も羽田も興奮していた。

 

「良いじゃねぇか、やってやるよ」

 

「ええ、やりましょうッ!」

 

若い時にセンターのやり方に疑問を感じ、そして追われながらも旅をしていた事、世界はどうしてこうなったのか、そしてヒーロー達はどこへ消えたのか、知りたいこと、解明したい事は山ほどあった。だがその根底にあったのはこんな不平等な世界をどうにかしたいと言う願いだった。世を正すとか、世界を救うとかも確かに俺達の願いではあったが俺達の願いの根底はもっとシンプルなものだったという事に長久の話を聞いて気付けた。

 

「人間の世界は人間が作るもんだろ。それに割り込んであーだーこーだって言うのはおかしいもんだ」

 

「そうよね、仮にも上位存在を名乗るなら見守ってるくらいしなさいよ」

 

人間の世界は人間によって作られるべきだ。この世界を生きる者としての当たり前の願い……それこそが俺達が歩き出した理由なのだと初めて気がついたのだった……。

 

 

 

 

スラム街の奥でリーナ達を待っていた初老の老紳士は目の前に現れた2人組に額から大粒の汗を流していた。

 

「目加田。君には色々と話を聞きたいと思っていたんだ」

 

「なに、それほど時間は取らせないよ」

 

車椅子に乗った赤いスーツ姿のSTEVENと黒いスーツ姿のルイ。その2人が人間ではなく、最高位の悪魔に等しい、あるいはそれよりも上位の存在だと一目で理解したからだ。

 

「君の計画したメシアプロジェクトはどこで変った。どこからメシアを作るのではなく、メシアを産む為の母体へと変った」

 

メシア計画は本来メシア……つまり男を作り出す計画だった。だがそれは何時の頃からはメシアの番を作る為の計画へと変っていた。そしてその中で私の愛する娘が私の知らない所でメシアの番を産む為の母体として使われたことを知ったのだ。

 

「……長久。彼がテンプルナイトを叩き潰した5年前からです」

 

ヴァルハラエリア最強の無冠の帝王、センターへ反逆しセンターへの居住権を失った最強のデビルバスター。その因縁は5年前まで遡る、数多くの犯罪行為を犯していたテンプルナイトを再起不能にした反逆者、だが彼を元老院は捕えようとしなかった。そのテンプルナイト達の素性が悪かったのもあるが、何故か元老院は彼に手を出すことを恐れているような気がした。

 

「なるほど……他に何かおかしいと思ったことはないかね? どんな些細な事でも良い」

 

「……そう言えば、ジャックという男が我が物顔で司令部にいましたね」

 

テンプルナイトでも研究者にも見えないジャックという男が司祭と話をしていたことを話すと2人の姿は何時の間にか消えていた。

 

「……肝を冷やしたな……」

 

その事に安堵し、その場にへたり込んだ私の額からは滝の様な汗が流れ落ちていた。

 

「……やはり彼が重要な存在なのは間違いない。だからこそ、今がチャンスだ」

 

彼には悪いが彼が負傷した事でセンターは間違いなく一時的に動きを止める。センター……いや元老院は彼の血を引いたテンプルナイトを作り出す事に御執心だ。彼が動けなくなった事で今動かせる手駒で出来る事に作戦を切り替えるはず……。

 

(他のエリアには悪いが囮になってもらう)

 

ヴァルハラエリアは安全だが、それ以外のエリア……ファクトリーやホーリータウンなどは切り捨てる対象として罠を仕掛けられるであろう。もしかしたら先日のコロシアムのように大量虐殺が発生するかもしれないが、それでも私はその可能性を無視して自分の願いを優先した。収容所に収容されている愛娘のヒロコの救出……1人の命の為に何千人の命を切り捨てる選択を私はしたのだ。

「……来た。お前が目加田?」

 

「久しぶりだね、リーナ。そうだ、私が目加田だ。それに……ライドウにベス……君達もか」

 

葛葉の血を引く最後の1人のライドウと魔法使いとして優秀な成績を収めていたテンプルナイトのベス……この部屋には入って来ていないが、外に人の気配を感じることからもう1人仲間がいるようだ。

 

「君の噂は色々聞いているよ。君の力は私が思っていた以上だった。もしや記憶は戻っているかね?」

 

「……長久に会う前の事は何も覚えていない」

 

「そう……か、ならば君について本当の事を話す時が来たようだ」

 

こんな形で出会いたくは無かった孫娘との再会に胸に込み上げるものを感じながらも、私はそれを押し隠し平然を装いながら娘を救う為に孫娘を利用する悪逆に歯を食いしばって耐えながら話を始めるのだった……。

 

 

 

5週目の世界 偽りの千年王国 その29へ続く

 

 

 




一時的にダレスのメンバーINと目加田には少し早いですがアバドンにヴァルハラエリアが飲み込まれる前にメシア計画について語ってもらおうと思います。次の話は大分長くなりそうなので今回は短いですが、ここで切ろうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
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