収束×集束×終息する世界   作:混沌の魔法使い

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第105話

5週目の世界 偽りの千年王国 その29

 

目の前に立つ目加田という男は研究者だけあって身体能力は低く見えた。だがそれとは別に戦えば勝ちきれず、殺しきれず、逃げ切られるという嫌な予感があった。

 

(流石はテンプルナイトから逃げ切っているだけはある)

 

身体能力に頼らない何らかの切札を持っているのは明らかだ。そんな男が堂々と前に立ち対話を求めているのは正直に言えば好都合だった。センター……いや、司祭と元老院が何故目加田を追っているのか、そして何を考えているのかそれを知ることはこれからの戦いに必要不可欠だからだ。

 

「さて私の戦力……いや、護衛を紹介しよう。ゴトウ陸佐だ」

 

その言葉と共に暗がりから現れたのは筋骨隆々の褌男……というか、何度も見ているゴトウだった。

 

【長久君。君もいるのだろう? 会話に参加しないかね?】

 

『……なんであんたはいつも褌なんだ……』

 

どこか締まらないが式神から響く長久の声と上機嫌に笑うゴトウの声が目加田との対話の始まりだった。

 

「まずは……そうメシア計画からだ。TOKYOミレニアムが完成し、元老院はメシアの到来を待った。だがメシアはいつまで待っても現れない、だから元老院はメシアを作り出そうとした。バイオ技術を用いて作り出した人造人間達は確かに強かった。だが元老院の求める水準には程遠かった。その理由が分かるかね?」

 

『求めた能力が高すぎたんだろ? そこの褌マンの所為で』

 

【はっはっは!! 当たらずとも遠からず! 私はメシア計画を妨害する為に暴れまくったからな!】

 

褌で変態だがゴトウの能力は本物だ。だからこそゴトウに負けているようでは駄目だとメシア計画は難航を極めたと納得しかけたが、目加田は違うときっぱりと告げた。

 

「それもあるが、元老院が恐れたのはこの時空を旅立ったヒーロー達の帰還だった。だからこそあの3人の救世主を倒せる、あるいは味方に引きこめる人材を求めた。希望の導き手の存在を疎ましく思うと同時に、元老院は希望の導き手を求めた。センターは君を希望の導き手と考えているようだが……どうかな?」

 

希望の導き手。それは救世主に道を示し殉教した人間の通り名、顔のない銅像は私も見たことがあるが言葉に出来ない不思議な雰囲気があったのを覚えている。

 

『俺が希望ねぇ……負傷して動けない希望なんて俺は嫌だけどな』

 

「……ごめんなさい」

 

『あの場合はしょうがなかった。リーナは悪くない』

 

長久の言葉にリーナが謝り、それを励ます長久によって希望の導き手云々はうやむやになったが、私には意図的に長久が話を誤魔化しに来たように思えた。

 

「君がそういうのならそうなのだろう。だがセンターは君は希望の導き手と考え、そして君の血を引いた子供を作りその子供をメシアと教育する事を考えていた。その候補として上げられたのがミズキ、ベス、そしてリーナとダレスの4人だった」

 

「悪趣味ですわね」

 

「……そうだな」

 

長久の事は嫌いでは無いが、そういう関係になりたいとは思わない。ただ……長久と出会ったばかりで元老院にそう命じられていたら疑問すら抱かずにその命令に従っていたかもしれない。

 

「……じゃあホーリータウンの女の人達は」

 

「素質があると判断され拉致されたが、能力が低いという事で慰み者にされたのだろう。元老院は高い素質同士を掛け合わせれば優れた素質を持つ子供が生まれると考えている」

 

『反吐が出るな。人間の命をなんだと思っている』

 

「耳が痛いな。私もかつてはそれが当然だと思っていたからな。だが……私はこのメシア計画にはどうしても我慢ならなかった。私の愛しい娘……ヒロコは記憶を消され、偽りの両親を与えられメシア計画に利用された挙句に収容所に送られてしまった。頼む! この通りだ! 私の娘……ヒロコを助けてくれッ!」

 

土下座し自分の娘ヒロコを助けてくれと叫ぶ目加田。だが私達はその言葉にすぐに返事を返すことは出来なかった。

 

(今まで元老院に従がい、女達を利用してきた。それなのに自分の娘は助けてくれというのか……そんな事が許されて良いのか)

 

ヒロコには私もベスも恩がない訳ではない。だがそれとは別に納得出来ない部分がある。だから何も言えずにいると目加田の頼みについては予想外の方向から返事が出された。

 

「……ん、分った。ヒロコを助ける」

 

「リーナさん!? 良いんですかッ!?」

 

「……うん、ヒロコには助けられたから助ける。借りは作りっぱなしは好きじゃない。それに……」

 

リーナはそう言うとゴトウに視線を向けた。

 

「……この筋肉ゴリラがなにも言わないって事は収容所には私達にも必要な何かがある」

 

【はっはっは! 鋭いな! その通り、収容所の近くには私達が隠している道具がある。我々の目的地である地下へ向かう為にはそれが必要だ。その道具をとりに行くついでにヒロコ君を助ければ良いと思っているんだがどうかな? 長久君。君が動けないのなら私が君の変わりに彼女達に同行しても構わんよ】

 

『……それは嬉しいが、まずあんたは服を着ろ』

 

長久の言葉にゴトウは苦笑いを浮かべたが、長久の言葉は紛れも無く私達の総意でもあるのだった……。

 

 

 

式神を通じて目加田との話を聞いていた訳だが、目加田の話には少し違和感があった。俺の直感だが、まだ目加田は何かを隠しているような気がする。

 

「アオイ。人造人間については何か聞いてるか?」

 

「……いえ、私は聞いていませんね」

 

デモノイドはセンターの科学技術の結晶の人造悪魔ではあるが、恐らく目加田の言っている人造人間とは別物だろう。その人造人間を作り出すのにどれ程のコストが掛かるのかは判らないが、作り出した人造人間が求めているスペックではないとしても廃棄するとは思えない。

 

(……もしかするとギメルか? いやギメルだけとは限らないが……)

 

ギメルに感じたどす黒い善意、それが植えつけられたあるいは元老院の教育の結果だと考えるとギメルは目加田も参加していたメシア計画の試作品の1人なのかもしれない。

 

「考えることは山ほどあるが、まずは結界だ。センターはもう完全に暴走している。時間的な猶予はない」

 

少しでも早くヴァルハラエリアに結界を張らないと危ない。全てはそこから、結界を作り安全な拠点を作り出してからが始まりだ。

 

「長久さん。傷は大丈夫ですか?」

 

「塞がってはいるよ。ただ動くのは厳しいな、出来れば完全に傷が治ってから動きたいところだが……」

 

恐らく完全に傷が塞がるのを待ってる間にセンターは動き出す。俺がいるから完全にヴァルハラエリアを切り捨てる選択はしないだろうが、満足に動けない俺を連れ去るのに動く可能性は十分にある。

 

「それでアオイ。さっきの話で出ていた地下世界に行くのに必要な物っていうのはなんなんだ?」

 

「ピラーです。花田に研究させていた魔界の入り口を開く実験はピラーの代用として始めさせたのです」

 

「魔界……か。どうしてそこに行こうとしていたんだ?」

 

「元老院がセラフィムなのか、それともセラフィムに操られているのかは定かではありませんが、四大天使と戦う為の力を求めてです」

 

四大天使……癪だが今の俺では逆立ちしても勝てる相手ではない、時間稼ぎくらいは出来ると思うが……倒すのも、そして俺が生き延びるのも不可能だ。

 

「だが魔界にも地下世界にも行けない可能性が今はある」

 

「ジャック部隊ですね」

 

「そうだ。あいつらは自分達の利益だけを貪欲に優先する。今は元老院が利用出来るから大人しくしているが、価値がないと判断すれば自分達で動き出すのは間違いない。

 

「懸念材料は山ほどある。俺も完全に覚えているわけじゃないが、あいつらは葛葉の術を調べていた。俺が知らない禁術や秘術を知っている可能性がある。魔界への門の開き方も知っているかもしれない。リーナ達よりも地下世界、魔界に到達されるとやばい」

 

ジャック部隊には人間と悪魔を合体させる術がある。魔界の悪魔と合体されたらリーナ達では手に負えない可能生がある。

 

「アオイ。花田に研究させていた魔界の門の開き方だが……何か間違えていたんじゃないか?」

 

「え? それはどういう事ですか?」

 

「召喚した悪魔に花田は殺された。正規と異なる方法で魔界の門を開いたから悪魔は暴走して花田は殺されたんじゃないか? 花田は何を間違えたのか、それを知って俺達は俺達の方法で魔界の門を開く」

 

ジャック達が万能艦をこの世界に持ち込んでいるかは定かでは無いが、持っているという前提で考えて動いたほうが良いと俺は考えていた。

 

「異空間を移動する万能艦の動力に使われる可能性もありますね」

 

「俺はそれで済めば良いと思ってるよ」

 

レッドスプライト号も莫大なエネルギーを必要としていた。だから花田が魔界の門を開くのに使ったという4つの人形を動力の変わりとして求めているのならば良い、確かジャック達の船はライトニング号だったと思うが、それを稼働させるとしてもこの世界で得れる物質やエネルギーではかなり難しいと俺は考えている。だから動力の変わりにピラーや人形を求めるというのは十分に考えられる……のだが最悪は人形やピラーがエキゾチック物質の変わりになることだと思ってる。やらなければならない事は山ほどあり、そして時間は殆ど残されていない。しかも信用出来る仲間は少ないと本当に地獄のような状況だ。

 

「アオイ。行くぞ」

 

「……止めても無駄ですよね、行きましょうか。長久さん」

 

傷は痛むが止まっている間に全てが終わりかねない、ならば俺に休んでいる時間などあるわけも無い。俺はアオイに肩を借りながら岡本ジムを後にし、ヴァルハラエリア……いや、リーナ達が帰ってくる場所を守る為に動き出すのだった……。

 

 

 

 

宮仕えでもあった私ですが、元老院は今まで仕えてきた相手の中で1番最悪だった。感情的で、無知で、自分の欲求を優先する。今まで色んな人間を見て来たが、最も愚かしい相手だった。

 

(まぁ、相手は人間ではないですがね)

 

「ジャック。どうなっている、ダレスがリーナと行動を共にしているではないか」

 

「お前の話ではダレスはリーナに勝利し、長久の種を手に入れてくるはずでは無かったのか?」

 

ぐちぐちねちねちと嫌味ですね。私は制裁こそ加えますが失敗だって許しますし、素晴しい活躍をした部下には褒章を与えてきました。だからこそ元老院の愚かさにはほとほと呆れますね。

 

「結果と成果を求めるのが早すぎますよ。まだまだ私の作戦は始まったばかり……ご安心ください。すぐに吉報をお伝えしますよ」

 

くだらないおべっかをしなければ生きていられないとは……私も落ちたものですねと溜息を吐きながら元老院の間を後にする。

 

「大佐。どうしますか?」

 

「待機ですよ、待機。元老院とテンプルナイトの動きは監視を続けてください。あの鶏は馬鹿です、感情的になられては全てが終わります」

 

「「「了解しました」」」

 

影と一体化する能力を悪魔合体したことで入手した部下達を見送り、慣れ親しんだライトニング号の艦長席に背中を預ける。

 

「エネルギーはまだまだですか……エネルギーさえ確保出来ればさっさと離れれる物を……」

 

司祭はまだ話が分かりますが、元老院……あの馬鹿な3人の天使にはほとほと呆れました。

 

「お疲れ様ですね。ジャック」

 

「……これはこれは……ガブリエル様。私のような男に何の御用でしょうか?」

 

4人の元老院の1人でありながら、他の3人とは距離を取っている大天使ガブリエルは穏やかに微笑んだ。

 

「私は貴方に期待していますよ、どうかあの3人の目を欺き、彼らの助けになってくださいね。では私はこれで……」

 

態々やってきて激励にだけ来たとは思えない、それにこの司令部は特別な結界で覆われているので悪魔は侵入出来ない筈なのだが……。

 

「……持っていかれましたか、面倒ですね。やれやれ、これでは王をお迎えする王座の建築が遅れてしまう」

 

この時代にライトニング号のシステムはオーバーテクノロジーだ。それを天使達が完全に理解出来るとは思えないが……そのシステムの構造さえ模倣すれば天使達が理解できなくとも天使達の配下がそれを再現してしまう。そうなれば長久君も危ない、だが表立って手伝えばあの短気な天使達が暴挙に出かねない。自分達に従がう人間以外はどうでも良いと思っている天使達はTOKYOミレニアム以外を消し飛ばしても不思議ではない……。

 

「さてさてどうしたものか……」

 

私を生き返らせ、再び王に使える機会を与えてくれた恩人からのオーダーもあリ、元老院、そしてガブリエルの事もある。そのすべてを利用し、何時寝首をかかれるかの綱渡り……スリルに満ちた生死の掛かったゲームに身震いする。

 

「何時もの事ですよ、慣れ親しんだ。いつもの事、難しい事なんて何もないです」

 

信用を勝ち取り、裏切り、自分が求める結果を手にする。確かに相手は超常の存在であり私よりも遥かに強い相手ですが、その代りおつむが弱い。人間同士の騙しあいと比べれば歯応えのないゲームだ。油断をすれば命を失うが、それでも力任せの相手など恐れるまでもない。

 

「今度こそ成し遂げますよ。我らの王を迎え入れるのです。皆さんの活躍に期待していますよ」

 

「「「「サーッ! イエッサーッ!!」」」」

 

前の世界では失敗してしまったが、今回は必ず王を我らの元へ迎え入れるという強い決意の元の結束と共に我々の母艦であるライトニング号を稼働させるのに必要なエネルギーであるオーパーツを求めて動き出すのだった……。

 

 

 

5週目の世界 偽りの千年王国 その30へ続く

 

 




様々な思惑が交じり合いながら話を動かしております。次回は収容所の話をメインに書いて行こうと思います。浮気草の話は多分丸まるカットすると思いますが、その代りにオリジナルのシナリオを入れたいと思いますので、どんな展開になるのか楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
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