収束×集束×終息する世界   作:混沌の魔法使い

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5週目の世界 偽りの千年王国 その30

5週目の世界 偽りの千年王国 その30

 

アオイに肩を借りてヴァルハラエリアの中を歩き出した俺が真っ先に行なったのはリーナ達と連絡を取る事だった。サポートの為につけた式神は俺が操作しているが、今からはスタンドアローンで稼働することを伝えておかなければならないと思ったのだ。

 

「悪いがしばらくは俺はヴァルハラエリアの防衛に専念する。式神のサポートは行なわれるが、かなり制限がかかる。頼りきりにしないようにしてくれ」

 

『……了解。私達はヒロコの救出に向かうから長久も無理をしないで』

 

「分ってる。リーナ達も無理はするなよ。パスカル、リーナ達を頼むぞ」

 

『わん!』

 

式神とパスカルがついているし、変態だが能力が高いゴトウさんもいるので最悪は回避出来る筈だ。むしろ状況が悪いのは俺達のほうだなと苦笑する。

 

「リーナさんとは連絡がついたようですね」

 

「ああ。ミズキにベスもいるし、パスカルとゴトウさんもいる戦力的には俺達よりもよほど充実してる」

 

こっちはスパイだらけという問題もあり状況はリーナ達よりも遥かに悪いが、騙しあいと腹のさぐりあいなら巻けるつもりはない。

 

「それで長久さん。どこに移動すれば良いですか?」

 

「出来るだけヴァルハラエリアの中心部に向かってくれ、人通りが多いほうが良い」

 

「MAGの通りが良いからですね?」

 

「その通り。とにかく急ごう、時間的な猶予はないぞ」

 

岡本さん達に渡した塗料は確かに結界を造るのに必要な物ではあるが、絶対的に必要な物ではない。あれば楽になる……例えはおかしいが自転車の補助輪のようなものだ。

 

(タカヤ達とアマネ。どちらを疑っていますか?)

 

(両方。多分あいつらは別々の思惑で動いていると思う)

 

アマネは多分センター……いや、天使の思惑で動いていると思う。タカヤと幾月は悪魔の思惑だと俺は思っている。だが分からないのは神取だ……危険だと感じているのにどこか信用してる自分がいる。

 

(まるで親族に近い感覚だな……俺の見た夢と関係があるのか?)

 

俺ではない俺の夢……それと神取は何か関係があるのか、ルイさん達が戦っている何者かとの繋がりがあるのか……。

 

「大丈夫ですか? 長久さん」

 

「悪い、大丈夫だ。まずは目の前から1つずつ確実にこなして行こう」

 

「ええ、それが良いと思いますよ」

 

ジャックにタカヤ達とアマネに神取。センター以外にも確実に敵がいて、思惑が非常に複雑に絡み合っている今は出来る事を1つずつ、確実にこなしていくしかないのだ。

 

「まずはヴァルハラエリアに結界を張る。それさえ出来ればファクトリーも問題はない」

 

堂島さん達は信用出来るので結界を張る為の本当のメモを渡してある。それに対してヴァルハラエリアはどこに敵がいるのか分からないので囮とダミーを混ぜてある。

 

「無茶と無理はしてませんよね?」

 

「無茶と無理をしないですむならそれが良いんだがな」

 

俺達の考えすぎでタカヤ達は本当に味方なら無理も無茶もする必要はないんだが……。

 

「やっぱり無茶も無理もする必要があるみたいだ」

 

「……そう見たいですね」

 

タカヤ達とアマネに任したエリアから感じられるMAGの流れは歪で、俺が本来計画していた結界から大きくずれていた。

 

「回復の準備とチャクラドロップを頼むぞ」

 

多分体力もMAGも限界まで消費する事になるのでアオイに手当てを頼んでから、俺は小さく息を吐いて足元に並べた紙の上で手首を切り、滴り落ちた血で紅く染め上げられた式神達が飛び立つのと同時に膝をついて倒れる。

 

「本当に長久さんは無茶をしすぎです!」

 

「……だな、俺もそう思うよ。悪いが後は頼む……」

 

まだ死にはしないと言っても負傷している状態で更に血を出すのは自殺行為にほかならず、アオイに後は頼むと搾り出すように口にして俺の意識は闇の中へ沈んでいくのだった……。

 

 

 

 

長久さんが無理と無茶をするのは今に始まった事では無いが、無理矢理魔法で傷を塞いでいる状態で血を流せば間違いなく瀕死になるのは目に見えていた。それでもそれを躊躇い無く実行に移せる……それが長久さんの危険性だった。

 

「自分を傷つけることに対する忌避感が麻痺してるのかもしれませんね」

 

私も何度か転生しているが、長久さんは私の倍以上転生をしている。そしてその中で死神の足音を聞けるようになってしまった。まだ死なない、この程度では命に関わらないと分かっているから長久さんは限界以上に己を酷使する。とにかく今は長久さんを休ませなければと意識を失った長久さんを運んでいるとまさかの人物が私の目の前に現れた。

 

「マダム!? 長久さんはどうしたんですか!?」

 

テンプルナイトのザインさんがボロボロの格好で命からがら逃げ出してきたという姿で私の目の前にいたのだ。

 

「ザインさん? どうしてヴァルハラエリアに……いえ、今は長久さんを運ぶのを手伝ってください」

 

「分りました。失礼します!」

 

ザインさんが長久さんを背中に背負ってくれたので私は長久さんの背中を守る位置に立って、ザインさんと共に岡本ジムへと引き返す。

 

「ザインさん。何があったのですか?」

 

「……元老院のたくらみを知って、それを阻止する為に長久さんの協力を得ようと思ったんです。このままではヴァルハラエリアとファクトリーエリアが滅んでしまう!」

 

分っていた事だ。センター……いや、元老院は天使だ。人間をどうとも思っていないのだから目的と手段を掛け違えた手段に出る事は分かっていた。

 

「大丈夫です、それを阻止する為に長久さんは動いていて、無茶をしてダウンをしているんです。とにかく今は休ませて、そこから長久さんにも話を……「おやおやおやぁ? まさかテンプルナイトに裏切り者が出るとは……やれやれ元老院ももっとしっかりして欲しいですねぇ」……タカヤさん、やっぱりですか」

 

「やっぱり……最初から疑っておいででしょう? 私と幾月をね」

 

にやにやと笑うタカヤの目は爛々と輝いていて、その背後には黒い衣装に身を包んだ一団がいた。

 

「ガイア教団……ッ!?」

 

「ええ、ええ。私これでもガイア教団の幹部ですので」

 

穏やかな口調と雰囲気の中に隠されている狂気。メシア教と思っていましたがまさかガイア教とは想定外だった。

 

「取引いたしませんか? 長久さんを渡してくだされば、我々ガイア教でヴァルハラエリアとファクトリーエリアを守る事を約束しましょう」

 

「ガイア教を信用するほど私は馬鹿ではありませんよ。その後ろの方々……皆自我を奪っていますね?」

 

ぴくりとタカヤの眉が動き、少し考える素振りを見せる。

 

「その根拠は?」

 

「MAGの波長が弱い。自我がない証拠ですよ」

 

MAGは生命エネルギーでもある、自ら生きるという意志が無ければそのMAGの波長は当然弱い物になる。

 

「ふうむ……流石マダムと言った所ですね、ですが貴女とテンプルナイトで意識のない長久さんをお守りできると?」

 

「そうですね……確かに少しばかり厳しいですね」

 

自我がない命じられて動くだけの人間を倒すのは少しばかり骨だ。勝てないにしろ負傷して意識を失っている長久さんを庇っている状態で戦いたい相手ではない。

 

「そもそも裏切り者がいると分かっていました。ですから私と長久さんが単独で動けば引っかかってくれると思いましたよ。ではまたいずれ殺し合いの場でお会いしましょう」

 

長久さんから渡されていた札を破き、起動したトラエストによってタカヤ達がヴァルハラエリアから追放される。

 

「どうも他にもスパイはいたようで、さてザインさん。急ぎましょうか? 今の戦力でテンプルナイトと戦う余力はないので結界を仕上げます」

 

「分りました! 急ぎます!」

 

ザインさんが走り出し、私もその後を追って走り出す。お守りとして渡していたヴァルハラエリアから追い出す為の札の起動札は全部私の手元で焼け焦げた。今ヴァルハラエリアには信用出来る相手しかいないが、それは同時に戦力のガタ落ちを意味しており、タカヤ達がヴァルハラエリアに戻ってくる前に結界を展開出来るかどうかの1分1秒を争う勝負になっており、私もザインさんも間に合えと祈りながら岡本ジムへ向かって走り続けるのだった……。

 

 

 

 

褌の変態ゴトウと私を殺しに来たダレスの2人と共にヒロコの救出に来ていた私は目の前の車椅子の赤スーツを見て迷う事無く銃を引き抜いた。

 

「……死ね」

 

「待て待て待て! どうしたリーナ!? いつも以上に喧嘩っぱやいぞッ!?」

 

「相手は車椅子ですよ!?」

 

ミズキとベスに阻止されたが、もしもそれが無ければ私は目の前のSTEVENに鉛玉をプレゼントしていただろう。

 

「私は君に恨まれるようなことはしていないと思うのだが……? 悪魔召喚プログラムだってプレゼントしただろう?」

 

「……それには感謝してる。でも長久が寝言で言っていた。死ね車椅子の似非紳士と……」

 

長久が寝言で恨み言を言うくらいなのだから禄でもない相手に違いないというとミズキとベスもSTEVENになんともいえない表情で見つめる。

 

「何か申し開きはあるか?」

 

「……ダレスも協力してくれる?」

 

「勿論だ」

 

長久に恨まれる相手となればダレスも協力的だ。とにかく2人でSTEVENを処すということで意志は完全に合致していた。

 

「ノーコメントだ。ただそうだね……うん、心当たりはある」

 

やっぱり殺そうこいつと銃ではなく、剣の柄に手を伸ばすと私とSTEVENの間にゴトウが割り込んできた。

 

【落ち着きたまえ、確かに怪しいし、ろくでもないが、それでもこうして我々の前に来たという事は意味がある筈だ】

 

「フォローしてくれているのか判らないが、プレゼントは持ってきたよ。悪魔召喚プログラムの最新バージョンだ。仲魔を多くストックできるようになった。これを上手く活用して長久君の助けをしてくれたまえ」

 

「……待て……消えた」

 

悪魔召喚プログラムだけを渡して消えた車椅子の似非紳士。長久が恨むだけ何かがあるのは間違いない。

 

「……それでどうする?」

 

「どうするとは何のことだ?」

 

「……私は新しい悪魔召喚プログラムをインストールするから、前の悪魔召喚プログラムはアンインストールする」

 

私の言葉の意味を理解したミズキとベスはハッとした表情を浮かべた。

 

「私かベスのどちらが悪魔召喚プログラムを使うかということか」

 

「……そう。6体までしか仲魔をストック出来ないけど、契約とかは出来る」

 

「これからの事を考えれば悪魔召喚プログラムは重要ですね」

 

契約する悪魔によってはもっと少ししかストック出来ないかもしれないけれど、それでも悪魔を戦力として使えるのは非常にありがたい。

 

【生体MAGの保有量で考えればミズキ君がベストだが……】

 

「直接戦闘能力でいえばベスが使えるのが最適か、私は一応封魔管があるからそちらで使役するという手もある」

 

「それに戦力強化はしておかないとあそこを突破するのは難しそうですしね」

 

ヒロコを救出する為に動いていた私達だが、収容所に向かう門を守っていた2つ頭の悪魔を見て引き返した所で私達はSTEVENと出会ったのだ。ここから前に進むためにはあの悪魔の討伐が必要不可欠だが遠目で見ただけでもあの悪魔のMAGは凄まじく、ゴトウとダレスが加わってもかなり厳しい戦いになるのは分かりきっており、誰が悪魔召喚プログラムを使えれば大きく戦況は変る。だからミズキたちに悪魔召喚プログラムの適正があるのか試したのだが……。

 

「駄目みたいですね」

 

「私もだ」

 

「どうも適正があるのは私だけのようだな」

 

ミズキとベスも悪魔召喚プログラムに適性が無く、悪魔召喚プログラムを起動出来たのは敵になると分かりきっていたダレスだけで、この戦いが終われば離反すると分かっているダレスに悪魔召喚プログラムを渡すか否かで私達は頭を悩ませる事になるのだった……。

 

 

 

5週目の世界 偽りの千年王国 その31へ続く

 

 




裏切り者もしくはスパイはヴァルハラエリアから追放、長久に会っていたザインは収容所で戦わずにヴァルハラエリアへとシナリオを大きく変えながら収容所編開始です。悪魔召喚プログラムに適正があったのはダレスだけというのも結構今後に関わるフラグですね。あとナジャがどうなるのかとかを楽しみにしていていただければ幸いです。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
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